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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos31-A砕け得ぬ闇の使徒~Fragment eines Dunkelheit~

 
前書き
Fragment eines Dunkelheit/フラグメント・アイネス・ドゥンケルハイト/闇の破片 

 
†††Sideはやて†††

シャルちゃんの家にお呼ばれしたあの日から数日と経った今日。わたしら八神家は今、本局へ赴いてる。ホンマは日本で今年最後の31日をみんなで過ごす予定やったけど、それより優先するべき用事が出来たからや。

◦―◦―◦回想や◦―◦―◦

シャルちゃんの家に来たその日のうちにわたしの目的を果たすことが出来た。融合騎に詳しいってゆう技術者、ミミルさん。技術者ってゆうからもっとこう・・・体の弱くて気難しそうな男の人を想像してたけど、シャルちゃんに紹介された人は女性やった。ブラウスにタイトスカート、そして白衣って格好は医者っぽいし。
しかも「はじめましてぇ~。私がミミルよ~」リインフォースやシグナム以上におっぱいが大きくて背も高い。妖艶って言葉がよく似合う人やった。そんなミミルさんと一緒に双子のメイド、ルーツィアさんとルーツィエさんに連れられて元の応接室に戻った後、わたしらも自己紹介を終えた。

「イリスちゃんから話は聴いているわ~。融合騎を生み出したいってことだったわね~」

「はい。出来れば早い内に・・・」

ミミルさんは長い脚を組んで、「そうね~。早くても3ヵ月はかかるわね~」って言うた。リインフォースの寿命は半年。その内の半分。リインフォースと新しいわたしのパートナーが一緒に居れる時間がある。それは願ってもないことや。

「はやてちゃん、だったかしら~。あなたがロード、マイスターになるのよね~。どういった風な融合騎にしたいの~?」

「どういった風、ですか・・・?」

「そう~。男の子、女の子、男性、女性。人型に限らずに~、猫や犬とか~。いろいろとね~」

わたしの両側に座る家族みんなに一度視線をやる。まず動物型か人型かで言うたら、絶対に人型。これは相談するまでもなく決まってる。ヴィータが「はやて! あたしより小さい、妹みたいにして!」そうリクエスト。ヴィータより小さい子かぁ。

「古代ベルカ、その中期以前は成人サイズが普通だったけど~、それ以降は手の平サイズの融合騎が主流だったらしいわ~。コストも少なく済むしね~」

ミミルさんが両手でこのくらいって風に大きさを示した。手の間の幅から言って30cmちょい。リインフォースが「アギトやアイリくらいの身長だな」って納得した。オーディンさんを主としてた当時、みんなの家族やった融合騎、アギトとアイリ。絵でしか見たことないけど、描かれてた笑顔を見ればええ子やってことは判る。

「みんなはどうや? わたしはみんなの希望を聴いときたい。みんなで一緒に生みたいからな、新しい家族を♪」

そうゆうわけで、みんなの意見を取り入れながら八神家の末娘のイメージを作り上げてく。まずわたしの意見は、リインフォースの外見と名前の引き継ぎ。ヴィータは、自分より身長の低い子。シャマルは、ヴィータくらいの身長への変身機能(アギトとアイリも持ってたらしい)。リインフォースは、自分の身を守ることが出来て、なおかつわたしの役に立てるだけの魔法を扱える。シグナムやザフィーラは意見無し。

「ごめん、はやて。少し席を外すよ。途中で退席する事お許しを、ミミルさん」

そう話し合うてると、ルシル君がソファから立ち上がった。事情を聴けば、シャルちゃんが来年、わたしらと同じ聖祥小学校へ通えるかどうかの試練真っ只中ってことで、許可を貰うにはアルテルミナスさん勝たなアカンってことみたいで。そこでなんでルシル君が絡んでくるんかって話やけど、2対1の条件を取り付けたってことで、シャルちゃんはルシル君をパートナーに選んだ。

「ま、シャルだけ仲間外れにするのも可哀想だし。それに、アルテルミナスには苦汁を呑まされたからな。その借りを返そうと思う」

ルシル君は個人的な目的もあってシャルちゃんに付き合うことにした。わたしもシャルちゃんとは一緒に通いたいって思うから、「わたしも応援するよ」ルシル君について行くことにした。とその前に、「ごめんなさい、ミミルさん」に謝る。

「いいわよ~。イリスちゃん達の戦いが気になってこっちの話に集中できなかったら困るもの~」

そうゆうわけでルシル君と一緒にシャルちゃんのところへ向かって、そうしてルシル君&シャルちゃんVSアルテルミナスさんを観戦。結果的にシャルちゃんの一撃がアルテルミナスさんを捉えて、降参させた。

「約束です、イリス()を・・・・、わたしの、管理外世界の学校への転入を――」

「判っている。・・・見事だったよ、イリス。少し見ない間にここまで強くなっていたとは・・・。転入続きをハラオウンさんにお願いしよう」

シャルちゃんのお父さんが寂しげにシャルちゃんを見て、シャルちゃんの転入を認めた。それからわたしらはシャルちゃんのお父さんやアルテルミナスさん、ミミルさんを交えての食事会。その後はみんなでお風呂タイムや。ルシル君とザフィーラを除く女の子全員が入ってもまだ余裕のある大浴場。

「――それで~、さっきの続きなんだけど~。いいかしら~?」

湯船に浸かって両脚をリインフォースにマッサージされてると、歩く度に揺れる胸を強調するように腕を組んだミミルさんがとろ~んとした目を向けて来た。わたしは「はい、お願いします」ってマッサージを中断、ビシッと居住まいを正す。

「あなたの魔導スタイルなんだけど~。あなたって~、変身時はどういった魔導スタイルなのかしら~?」

わたしの魔導スタイル。そこんところはまだよう判らへんからリインフォースをチラッと見ると、「では、私から話しましょう」って引き継いでくれた。

「主はやてのスタイルは遠距離・遠隔発生、そして私の広域攻撃が合わさった後方支援タイプです。融合騎としての機能を失った私が以前主はやてとの融合時には、魔力の管制・補助を徹底しました」

リインフォースがそこまで言うたところで、「実際はこんな感じだよ」ってシャルちゃんがモニターを展開。表示されてるのはリインフォースとユニゾンしてるわたしや。それを見たミミルさんがいろいろと質問してきたから、リインフォースで答える。わたしの持ってる本は何か、杖は何のためか、とか。答えられへん本の名前とかは、「特秘事項なので。ごめんなさい」ってシャルちゃんが代わりに謝ってくれた。

「――ふんふん。本は蒐集した魔法を貯蔵しておくストレージ型のデバイスで~、杖は単なる魔法発動媒体というのね~。はやてちゃん、君~、面白いわね~。遠距離・遠隔発生・広域攻撃・・・。後ろからのトンデモ魔法での前線援護というわけね~。それじゃあ新しい融合騎の魔導スタイルは~・・・、近接戦タイプにする~?」

「あ、出来ればリインフォースと同じでお願いします。わたしや他のみんなともユニゾンして補助が出来るように」

わたしだけやなくてルシル君やシグナム、ヴィータ――前線で戦うみんなともユニゾン出来たらええなぁ、って前々から思うてた。

「マイスターがあなたで~、ロードはあなたを含めた八神家ということでいいのね~」

「それでお願いします」

ミミルさんが手元に展開したモニターとキーボードに何かしら打ち込み始めた。その間、「融合騎については私が責任を以って生み出すわ~」ってそう言うてくれた。わたしとリインフォース、近くで話を聴いてたシグナム達も「ありがとうございます!」ミミルさんにお礼を言う。

「ええ~、任せてね~。それじゃあ~私への依頼は~、融合騎1騎だけでいいのね~?」

「あ、いえ。出来れば、魔導書と杖・シュベルトクロイツの開発もお願いしたい」

「リインフォース・・・?」

「主はやて。今はまだ私が居ることで魔導書もシュベルトクロイツも扱えます。ですが私はいずれ消え逝く身。そうなれば魔導書もシュベルトクロイツも消失します。そうなってからでは遅いので、早い内に造って頂いた方が良いかと」

そうやったな。今のわたしが魔法を使えるのはリインフォースが居ってくれるからや。リインフォースが居らんくなれば、“夜天の書”もシュベルトクロイツも失くなってしまうんや。

「申し訳ないんだけど~、魔導書と杖に関しては他を当たってくれないかしら~。融合騎ってほら~、繊細だから~、そっちに掛かりっきりになっちゃうのよね~。ストレージデバイスはミッド式の方が良いだろうし~。杖はまぁ~、こっちの技術部でも開発できるけど~、でもどうせなら魔導書と同じ技術者に造ってもらった方が良いと思うのよね~。管理局本局、その技術部に知り合いが居るから~、彼に紹介状を出しておくわね~」

◦―◦―◦終わりや◦―◦―◦

とまぁそうゆうわけで、ミミルさんの知り合いの技術者――ジェイル・スカリエッティさんの居る場所、本局の第零技術部へとわたしらは向かってる。それにしても、「ルシル君、なんでそんなソワソワしてるん?」ルシル君の様子がおかしいのが気になる。それもこれもジェイルさんの名前を聴いたときからや。

「いや、なんでも・・・」

「何でもってことはねぇだろうがよ。お前、ジェイル・スカリエッティの名前を聴いたとき、茶ぁ吹いたじゃねぇかよ。つうか、オーディンとおんなじツラであんな間抜けを晒すなよマジで」

ヴィータが御立腹。シャルちゃん家で泊まったあの日、お風呂から上がった後でルシル君にミミルさんとの話を伝えた時、ルシル君がぶはっとお茶を吹いた。ルシル君・・・最近そんなんばっかやなぁ。ちょう格好悪いかも・・・。

「お前はジェイル・スカリエッティという男を警戒しているようだが・・・、知己なのか?」

「そういうわけじゃないんだが・・・」

「すずかちゃん達のデバイスを改良した人らしいし、そこまで警戒することはないんじゃないかしら? 彼女たちも良い人だって言っていたもの」

シャマルにそう言われたルシル君は「判っているんだが、スカリエッティという名前にはどうも苦手意識が生まれる」って言うた後、「ま、なのは達が良い人って言うのなら、そうなんだろう」って警戒心を解いた。

「お待ちしていました、八神はやて様、騎士シグナム、騎士ヴィータ、騎士シャマル、騎士ザフィーラ、騎士リインフォース、ルシリオン・セインテスト様。第零技術部部長、ドクター・ジェイル・スカリエッティの秘書、ウーノ・スカリエッティです。これよりは私がご案内いたします」

ジェイルさんの秘書ってゆうウーノさんと合流。ウーノさんに自己紹介を返した後、わたしはウーノさんを先頭に改めて第零技術部へと向かうことになった。

†††Sideはやて⇒ルシリオン†††

ジェイル・スカリエッティ。先の次元世界ではプロジェクトFの基礎を作り、ヴィヴィオや最高評議会、レジアス・ゲイズを利用してミッドチルダ首都や本局を震撼させ、最期はメサイア・エルシオンに殺害された、究極の変態にして天才科学者。
そんなアイツが、ヴィヴィオを泣かせ、苦しませたあのクズ野郎が・・・犯罪者でなく、管理局に属し、技術部の1つを受け持ち、なのは達のデバイスを強化し、これから先はやての魔導書を造ると言う。なんの冗談だ、これは。

(調べてみればプロジェクトFの基礎を組んだのはスカリエッティではなく、プライソンとかいう科学者らしい。だからと言って、そのプライソンの正体がスカリエッティかもしれないという可能性は捨てきれないが・・・)

プライソンの詳細は一切不明。名前も年齢も性別も姿形も、その全てが、だ。個人名かも知れない、団体名かも知れない。その正体を明らかにするまではジェイル・スカリエッティは警戒すべき・・・敵だ。
途中で合流したウーノに案内されて辿り着いた第零技術部。ZEROと描かれた左右に開くタイプのスライドドア。ウーノがドア横の操作キーに触れて「ウーノです。お連れしました」と告げるとドアが開く。
ドアの奥に在ったのは応接室らしき部屋。2mほどの長テーブルが一卓、両側に黒い革張りのソファが置いてある。俺から見て右側のソファに奴――「ようこそ。私がジェイル・スカリエッティだ」が居た。あの爬虫類っぽい黄金の目が思い返させる。JS事件のことを。
スカリエッティにソファへ座るよう促された俺たちはソファへと座り、ウーノが持ってきたコーヒーを頂く。

「ミミル君から話は聴いているよ。それに、君たちは騎士イリスやなのは君たちとも友人だそうじゃないか。だから技術提供料はタダで構わないよ」

第零技術部の技術力は本局だけでなく次元世界の中でも屈指だそうだ。その技術を金で買うとなると数千万以上だと言う。それをタダで譲ってもらえるというのは正直助かる。“夜天の書”と“シュベルトクロイツ”のコピー。杖に関しては安くなるだろうが、魔導書についてはその機能から言ってとんでもない額になりそうだしな。

「お持ちしました、ドクター」

「ああ、ありがとうドゥーエ」

応接室の奥のスライドドアから出て来たのは本局の青制服を着ているドゥーエ。先の次元世界では最後まで見える事がなかったナンバーズの2番で、暗殺や潜入を得意としている機体だったと聞く。そんな彼女が手にしているのは「シュベルトクロイツ・・・!」はやての言う通り依頼していた品だった。

「古代ベルカ式の剣十字杖(アームドデバイス)・シュベルトクロイツ。なのは君たちのデバイスの強化・改良とは違って、魔法発動媒体としての機能を持たせるだけだからね。すぐに開発に着手、そう労することなく開発できたよ」

「どうぞ、はやて様」

「おおきにありがとうございます!」

ドゥーエから“シュベルトクロイツ”を受け取ったはやて。オリジナルと全く同じ、違うところを探すのが難しいと言えるほどの完璧なレプリカ。はやてが「おお、手が馴染む感じや~♪ ホンマすごい~!」と感心している。確かに犯罪者でなければ歴史に名を残す天才と言われたスカリエッティ。腕はこの世界でも健在だ。

「魔導書型ストレージデバイスについてはもう少し待ってくれ。夜天の魔導書のレプリカとなると数日では無理なようでね」

スカリエッティの口から出た“夜天の魔導書”という単語。ドゥーエに“シュベルトクロイツ”を返したはやてがビクッと肩を跳ねさせたのを見たスカリエッティが「あー、言い忘れていたね。私の役職は技術部長で、階級は少将だ。君たちのことは知っているよ」と頷いた。

「ちなみに私の娘たちシスターズも知っている。階級は二尉から准尉と箝口令の対象内だが、第零技術部は独立部署でもあるため問題はないだろう」

スカリエッティ少将だってさ。吹き出しそうになったがギリギリ耐える。

「で、だ。はやて君。すまないが夜天の魔導書のオリジナルを見せて・・・いや、解析させてほしいのだが・・・。そう時間は取らせない。今日一日で解析し、明日より開発に着手すると約束しよう」

「夜天の書を、ですか・・・?」

はやてがリインフォースを見る。“夜天の書”は言わばリインフォースの本体だ。夜天の主とは言えはやては自分の独断で決めていいのかどうか不安なんだろう。リインフォースは「ええ、構いませんよ。それで新たな魔導書が出来るのであれば」と微笑んだ。

「うん。・・・それじゃあ、ジェイルさんに夜天の書を預け――」

はやてがそこまで言ったところで通信が入ったことを報せるアラームが鳴る。スカリエッティが「ウーノ」と、彼の背後に控えている彼女に応じるよう指示を出す。

「はい。こちら、第零技術部・・・、あ、騎士イリス。こんにちは」

通信を入れてきたのはシャルだった。ウーノに『ウーノ、どうも~♪』挨拶を返したシャルは『そっちにはやて達いる~?』と俺たちに用があることを告げた。

「やぁ、騎士イリス。はやて君たちなら居るよ」

『ドクター、どうも~♪ あ、はやて、みんな。ごめんね、ドクターと大事な話をしていたんだよね、きっと。でも・・・ごめん、今すぐ海鳴市に帰って来られないかな~? こっちも少々厄介な事件が起きててさ』

ヴィータが「事件って?」そう訊き返すと、シャルは『ドッペルゲンガーが出たんだよ』って海鳴市海上の映像へと切り替えた。映っているのはフェイトと「これは・・・私か・・・!?」そう驚きの声を上げたシグナムだった。フェイトとシグナムが海上で空戦を繰り広げていた。

『それだけじゃないの』

フェイト対シグナムの映像から、なのは対なのはの砲撃戦、さらに共に補助を本領とするすずか対シャマルといった戦闘映像へと切り替わっていく。

『こうなった原因が判らないのが現状。もしかしたらはやて達なら何か知っているんじゃないかって思って、こうして連絡をしたんだけど・・・。というか、少しでも戦力が欲しいの。だから出来れば早く帰って来て。お願い!』

シャルの切羽詰まった表情でのお願いに、「うん、今すぐ戻るから待ってて!」はやてがそう応えた。シャルは『ありがとう、はやて、待ってる!』そう礼を言ってから通信を切った。

「あ、あの、ジェイルさん!」

「構わないよ。また来てくれると約束してくれるのならね。ウーノ、ドゥーエ。はやて君たちを奥のトランスポーターへ」

「「はい」」

俺たちはウーノとドゥーエの案内で応接室の奥へと入る。それなりの広さのある部屋で、俺たち八神家全員が入れるほどのトランスポーターが一基設置されていた。スカリエッティの技術が眠っているのは、どうやらこの部屋よりもっと奥の「あのドアの先、か」だろう。一目で見て判るほどに頑丈なスライドドアが奥に在る。

「それではみなさま。こちらへどうぞ」

「このトランスポーターは本局に有るものとは違って移動距離に制限は有りません。第97管理外世界・地球、その軌道上に停泊しているアースラへ直通転移させます」

中継点を跨がないのは助かる。急ぎである今、下手に時間は掛けられないからな。これもスカリエッティの技術力の恩恵か。

(にしても、先の次元世界では闇の書事件後にこのような事態は起きなかった。これは覚悟が必要そうだ)

前々から考えていたが、これ以降の歴史は俺の知る歴史とは異なる可能性が高い。役に立たない記録も知識も今後出て来るだろうな。上等だ。たとえそうであっても全ては俺の旅路の終焉の為。その見知らぬ未来すらこの手にしてやる。

†††Sideルシリオン⇒アリサ†††

「よっし! 終わり!」

≪オリジナルより弱いのが救いだな。本物の騎士(ヴィータ)だったらこうも簡単には倒せないからな≫

「ええ。ヴィータはもっと強いわ」

あたしの目の前で消えていくヴィータの偽者。そう、あたしがその偽者のヴィータを斬った。事の始まりは昼間。クロノからの連絡だ。
魔法と出会ったり、将来を決めたりとか、いろいろとあった今年、その最後の31日。のんびりしようと思っていたところでクロノからエマージェンシーコール。海鳴市の所々で不安定で不定形な魔力反応がいくつも発生したって。

『こちらエイミィ。アリサちゃん、ごめんなんだけど・・・』

「問題ないわ、エイミィ。どんどん相手を用意して」

『ありがとう、アリサちゃん! じゃあ――』

んで、なのは達と一緒に調査に出てみれば、姿を現したのは今朝早くから本局に向かったはずのシグナム。でも、そのシグナムは様子がおかしかった。あたし達のことは知らないわ、殺気丸出しだわ、はやてのことすら知らないって言うんだからもう大混乱。
空戦を仕掛けてきたことでフェイトが相手を引き受けた。さらにはなのは、シャマルまで出て来て、なのはの相手がなのはで、シャマルの相手はすずかってことになった。いよいよ訳が解らなくなったとき、本局に居るはやて達に連絡を取ったんだけど・・・。

――いま海鳴市に出現しているのは、砕け散った闇の書の闇――ナハトヴァールの残滓だ。その残滓が、今まさに最後の僅かな力を発揮しようとしているのだろう。ナハトヴァールとして活動を再開するために、海鳴市に散った欠片を集め、呼び起こして、な――

リインフォースから聴かされた話はとんでもない事態の前兆だった。あのふざけた機能の塊だったナハトヴァールが復活する、って。あんだけ苦労してようやく倒せたナハトヴァール、その復活。見過ごすわけにはいかないってわけで、あたし達は散開して闇の残滓の討伐を始めたわけ。

「了解。すぐに向かうわ。にしても、次から次へとよくもなぁ」

『あー、うん。みんなが頑張ってくれているけど、倒したら倒したですぐに新しい残滓が出て来ちゃうから』

討伐を始めて数時間。あたしはさっきのヴィータの他に、あたしとはやての偽者を討伐した。自分を斬って倒すなんて正直いい思いはしなかったけど、その思いを友達にさせるよりはまだ随分とマシだ。友達に偽者とは言え友達を倒させるなんて。ナハトヴァールの奴、消えてからも迷惑だけはキッチリ残して逝くんだから、堪ったもんじゃないわよ。

『リインフォースの話じゃ、発生源がどこかに在るってことらしいけど・・・?』

「その捜索を踏まえてみんなで残滓討伐ってわけよね。ま、とことんやってやるわよ」

『お願いね。あ、カートリッジが足りなくなったら一旦ハラオウン邸に戻って。新しいのを渡すから』

「了解!」

エイミィとの通信を切って次の戦場へと向かう。残滓の発生場所は常に結界が展開されてる。それは不幸中の幸いってやつね。無関係者には被害は出ないし、こっちの結界展開の魔力消費は無いし。

「あそこね・・・!」

解除していたバリアジャケットを再度着装して、市街地内に展開された結界に侵入・・・した途端、「っ!?」ヤバい場所に踏み込んだっていう一種の危機察知が働いた。これまでの結界じゃ感じなかったのに、今回はハッキリと感じた。この結界を展開した偽者は、本物と同等に強い奴だって。

「フレイムアイズ。気を付けて。今までの偽者とは違う奴が、居る・・・!」

≪お、おう≫

“フレイムアイズ”をバヨネットフォームへと変形させる。ライフルと剣を一緒にした形態で、中遠距離の射砲撃も出来て、銃身下の刃で近接戦も出来るっていう優れもの。

≪近いな。気を付けろよ、アリサ。ターゲットはすぐそこだ≫

「オーケー・・・!」

警戒しつつ片側三車線の公道のド真ん中を歩く。“フレイムアイズ”からの警告通りビリビリと肌で感じるほどの魔力が少しずつ接近して来ているのが判る。そして十数mと歩いた頃・・・。

――イガリマ――

「っ、来たわね・・・!」

空から降って来た魔力弾6発を後退することで回避。問題は「道路が凍った・・・!」ってことで、それはつまりあたしの相手は必然的に「すずか・・・!」ということになる。たとえそうでも偽者である以上、手加減はしないわよ。

「あーら、外してしまいましたのですね。上手いこと避けるではありませんか」

「??・・・すずかの、偽者・・・??」

あたしの目の前にフワリと降り立ったすずかの偽者。でもこれまでの本物と区別が付きぬくい偽者とは違って、目の前にいる偽者は誰がどう見ても偽者だって見て判るような奴だった。
髪や瞳、バリアジャケットのコートの色が違う。髪は雪のように白くて、目は炎のように赤い。コートは本物のすずかのなら青なのに、アイツのは白だ。全身が白。そもそも目つきが全然違う。相手を見下しているような視線。すずかはあんな目をしない。たとえそれが偽者でも。

「すずか? 誰のことかしら」

右手を頬に添えて、左手で右肘を支える腕の構えをして、くねくねと腰をくねらせながら歩いてくるすずかと同じ体格で声な偽者に、「なんか判んないけどムカつくわ」苛立ちを覚える。似ていないのに似ているっていう半端な姿をしたアイツは「それはお互い様ですわね」って笑った。

「どうしてか理解は出来ないけれど、あなたのことを見ていると腹立たしくなってしまうもの。だから・・・消えなさい」

――ネルガル――

偽者の前面に展開された魔法陣からフローズンバレットが12発と発射されてきた。だけどさっきの時より狙いが甘い。軌道を予測してみれば全弾あたしに当たらない場所に向かってる。案の定、一歩も動くことなく直撃は免れた。だけど、「え・・・!?」着弾した個所から氷の柱が突き上がってあたしを包囲してきた。

「(だからと言って慌てることなんてないけどね)フレイムアイズ!」

“フレイムアイズ”を氷の柱、そして偽者の居る前方へと向けたその時、あたしを包囲していた氷の柱が一斉に砕け散って、その破片があたしに襲い掛かって来た。

「ブレイズロード!」

本来は両脚にだけ噴き上がらせるんだけど、全身に炎を纏わせることで襲い掛かって来た破片を蒸発させる。相性的には炎熱変換資質のあるあたしの方が有利。でも、すずかの空戦能力が向こうにあるとなると、それがチャラになるかも知んない。

――シュルシャガナ――

放たれてきた冷気の砲撃バスターラッシュを横っ飛びして回避。お返しに「イジェクティブ・ファイア!」火炎砲撃を撃ち返す。偽者もまた横っ飛びで回避。仕切り直しになった。数mって距離を開けて対峙する。

「あたしはアリサ・バニングス。そして炎の聖剣フレイムアイズ・イグニカーンス。名乗りなさい、偽者!」

「偽者、偽者と先程からやかましいですわね。・・・・訊いたのであれば、来世でも忘れないようにその魂に焼き付けなさいな。私は、いずれ必ず砕けぬ王となる者、律のマテリアル。そしてこの美しい御手を飾るはエレシュキガルよ」

そう名乗った(つうか、それ名前じゃないじゃん)偽者に改めて銃口を向けて、「そんじゃ再開と行きましょうか? 偽者」そう挑発。すると偽者は「二度とその減らず口が叩けないようにしてさしあげますわ」ってこめかみに青筋を浮かべながら笑った。


 
 

 
後書き
ドヴロ・ウートロ。ドーバル・デン。
ようやくPSPのBOAストーリーに入ることが出来ました。
真っ先に登場したマテリアルは、なんとオリジナルのマテリアル。その名も『律』のマテリアル。すずかの姿を借りたマテリアルで、性格は威圧系お嬢様。淑女系お嬢様なすずかとは正反対です。カタカナの名前はGODストーリーで明かします。
そして、すずかのマテリアルがいるのですから、アリサのマテリアルも当然います。登場はおそらく次回。

なのは⇔『理』のマテリアルS/星光の殲滅者/シュテル・ザ・デストラクター。
フェイト⇔『力』のマテリアルL/雷刃の襲撃者/レヴィ・ザ・スラッシャー。
はやて⇔『王』のマテリアルD/闇統べる王/ロード・ディア―チェ。
すずか⇔『律』のマテリアルO/氷災の征服者/????
アリサ⇔『?』のマテリアルF/炎壊の報復者/????

今作におけるマテリアルは上記となります。ルシルのマテリアルはいません。いたら困るわ、あんなのが複数いたりしたら。ですよね? ちなみにシャルのマテリアルもいません。蒐集されていないので。残念だったな、シャル。

「恨むよ、作者」
 
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