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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos31-B砕け得ぬ闇の使徒~MATERIAL~

 
前書き
オリマテ娘2人の専用BGMをGOD編での再登場までに考えておかないとなぁ~。BGMを聞かずに戦闘シーンの執筆をすると、どうも筆が乗らない。 

 
†††Sideアリサ†††

「フレイムアイズ!」

≪イジェクティブ・ファイア!≫

“フレイムアイズ”の銃口から発射するのは火炎砲撃。狙うのは “律”のマテリアルって名乗ったすずかの偽者。髪もバリアジャケットも全て白色に統一した、雪のように真っ白な子。偽者はフワリと空へとジャンプして回避した。

「エレシュキガル。行きますわよ」

≪ムンムを発動≫

偽者が手に付けているグローブ型ブーストデバイス――“エレシュキガル”が淡々と返すと、あたしの周辺に氷の鏡アイスミラーが半球状に展開された。偽者の魔法ムンムって、すずかの魔法で言うリフレクティブミラーなわけか。

「避けて御覧なさいな!」

≪イガリマを発動≫

そう言って放れて来たのはフローズンバレット6発。やっぱり術式名も本物と偽者とじゃ違うのね。とにかく「あたしを包囲しようっていうのは諦めなさい」そう言い放ちつつ、フレイムバレットを同数発射して相殺する。アイスミラーの包囲はそう恐いものじゃない。もしこのアイスミラーが魔法陣だったなら別だけど。

(魔法陣っていう魔法発射体だったら、足元以外の方位から攻撃を受けることになるし)

アイスミラーの半球包囲から走って抜けたあたしは「これ、決着つくのかしら」と今後の展開を嘆く。炎と氷。空と陸。この違いがお互いの決定打を潰してくる。偽者の攻撃や防御なら突破できそうだけど、空に上がられるとちょっと厄介。空は逃げ場が多いから、あたしの射砲撃能力での撃墜は難しい。

「同じ舞台に立つっきゃないわよね。となれば・・・あたしが上るか、アイツを引き摺り下ろすか、どっちか・・・!」

「フフ。虫は虫らしく地べたを這いずり回っているのがお似合いですわね!」

≪シュルシャガナを発動≫

空から降り注いで来る冷気の砲撃バスターラッシュ――じゃなくて、シュルシャガナ。ジグザグに走って砲撃を回避しながら、“フレイムアイズ”のカートリッジをロード。

「すずかの顔で・・・」

≪ブレイズロード!≫

脚に噴き上がらせていた炎を爆破、その爆発力で一気に十数mの高さまで跳ぶ。偽者は「あらあら。虫が跳ねましたわ~。気持ち悪っ、ですわね~。うふふ」って驚きと見下しの感情を乗せた視線を向けてきた。ていうか、虫って言うな。

「そんな下卑た笑みを浮かべてんじゃないわよ!!」

――スピニングコロナ――

刀身に炎を纏わせた“フレイムアイズ”の柄を両手で持ち体を丸めて高速前転。急速に流れる視界の中で見えた偽者がスッと横移動したのが見えた。スピニングコロナの弱点とも言えるのがこれ、避けやすいってこと。この魔法っていうか技は、連撃の中に組み込むべき近接攻撃だもん。単発、しかも離れたところからの接近じゃ回避されるのは目に見えてる。

(でも今はそれで良いわ。偽者はあたしの狙い通りに僅かに横にずれるってだけの回避を取ったんだもの)

炎を纏った刃が高速回転してる正面からの迎撃や防御より、側面に回って無防備を晒してる体を狙った方が少ない魔力で撃墜できる、ってね。案の定、偽者はあたしの右側面を陣取って、魔法の発射体勢に入った。偽者がすでに発射体勢に入っていることでの移動制限を受けている今。

「これで高低差のハンデは消えたわ!」

攻撃魔法を発動していることで回避することは出来ず、防御魔法も使えない。これならあたしの攻撃も当たる、はず。

「っ!・・・これを狙って――シュルシャガナ!!」

「イジェクティブ・ファイア!」

スピニングコロナからイジェクティブ・ファイアへと瞬時に切り替えて、冷気の砲撃を発射したばかりの偽者へと火炎の砲撃を発射。先手を取られていたけど、やっぱり属性的な相性もあって後手のあたしの火炎砲撃が冷気の砲撃を蒸発させながら突き進む。

「っ、調子に乗らないでほしいですわ・・・!」

偽者が魔法を破棄して回避に入った。逃がさないっつうの。撃ち終えたことで落下が始まる前に魔法陣の足場フローターフィールドを展開して降り立つ。そしてもう一度ブレイズロードを発動して両脚に炎を噴き上がらせる。

「(次! シャルの法陣結界を・・・!)フレイムアイズ!」

≪フィールドサークル!≫

術者にとっては足場、敵対者にとっては檻となる魔法陣32枚を球体状に展開するアレ。今のあたしの魔法スキルじゃそこまでの数・堅牢さを持った結界は発動・維持は出来ない。だけど、4枚までなら同時発動できるよう、特訓したんだもの。カートリッジを2発ロードして、偽者を囲うようにフローターフィールドを4枚展開。

「もうヒラヒラと逃げ回らせないわよ、羽虫!」

いま立ってる魔法陣から飛び立って、偽者の右前方に展開した着地。すぐさま“フレイムアイズ”を振るって直接斬撃をお見舞いする。偽者は「っく」って呻き声を上げて後退。間一髪で避けられちゃった。めっちゃ惜しい。

「空も飛べない虫は大人しく地べたに這いずり回っていればいいのですわ!」

前髪パッツンになったことに気付かない偽者が怒声を上げて、あたしから距離を取ろうと高度を上げようとした。いま立ってる魔法陣以外の3枚を解除。遅れてその3枚を偽者が向かった上空で再展開、偽者の直上に展開した魔法陣へ飛び立つ。そして偽者の脇を通り過ぎる際に空になったマガジンを機関部から抜いて、ソレを放り投げる。

「っ!?」

魔法じゃないから油断したわね、アイツ。いきなり目の前に飛び出して来たマガジンに驚いて、両腕で顔を庇った。視界を完全に潰すその行為、後悔するわよ。新しいマガジンを装弾して魔法陣に着地。

「イジェクティブ・ファイア!」

それと同時に下方に居る偽者へ向けて火炎砲撃をぶっ放す。偽者はアイスミラーを展開して防御、爆炎と黒煙があたし達の間に発生して視界を潰す。咄嗟にしては完璧に防いでくれるじゃん、偽者め。魔法陣をさらに上に展開して跳び移る。まずは視界確保を最優先。
ボフッと黒煙の中から何かが飛び出す音がした。偽者が黒煙を突っ切った音で間違いない。上から見る限りじゃ見えない。・・・ってことは、「地上に向かって直滑降・・・!」になるわね。今度はあたしが上を支配させてもらうわよ。

「フレイムアイズ!」

≪おっしゃあ! フレイムバレットの雨あられ!≫

下方に向かってフレイムバレットを連射。火炎弾が黒煙を突き抜けて晴らしていく。偽者をすぐに発見。回り込むようにしてあたしの上を取ろうとしているのがバレバレな軌道。でもそうはせないわよ。弾幕をばら撒いてそれを妨害。この高低差を埋めさせないわ。二度とね。

「この私の、砕け得ぬ王となる私の頭より上に立ち、そのうえ撃ち落そうとするなんて・・・、許せない、許せないことですわね・・・!」

憎悪と憤怒で歪む偽者の顔。それに対してあたしは「すずかの顔をして存在してるあんたの方が許せないわ!」そう怒鳴り返して、火炎砲撃イジェクティブ・ファイアを発射。そしてまたフレイムバレットの弾幕。その後にまた砲撃。

「やっぱ敵が空を飛べるっていうのは厄介よね。360度が逃げ道だしさ・・・!」

≪少しずつだが高度を上げて来ているな≫

偽者は飛行速度の加減速を利用してあたしの爆撃をヒラヒラと避けながら徐々にあたしの居る高さにまで昇って来てた。なら、ちょこっとパターンを変えようかしらね。カートリッジをロード。

「フリンジングボム!」

バスケットボール大の火炎砲弾を1発撃つ。偽者はソレに手を出す事なく警戒しつつ回り込んで上昇を続行。良い判断。迎撃や防御をしたら確実に撃墜よ。それだけの火力を持ってるんだもん。でも残念。そんな数m離れた程度じゃ「呑み込まれるわよ?」偽者に向けてウィンクして、魔法陣から飛び降りる。“フレイムアイズ”をニュートラルのファルシオンフォームに変形させたところで砲弾が大爆発。

「きゃぁぁぁあああああ!!?」

爆炎と爆風に煽られて体勢を崩した偽物に向かって、「これで終わりよ・・・!」カートリッジ3発を連続ロードして刀身に炎を纏わせる魔力付加斬撃「タイラント・・・フレア!!」をお見舞いする。手応えあり。そのまま落下しないためにフローターフィールドを展開して降り立って、偽者の方へと視線を向ける。“律”のマテリアルは今までの偽者と同じように全身にノイズが走って、輪郭が少しずつ霧散して崩れていく。

「・・・嘘ですわよ・・・、このような・・・無様を、晒すなんて・・・」

右肩から左脇腹にかけてあたしに斬られた傷を両手で押さえながらも「許さない・・・、あなた・・・!」まだ敵意を向けてくる。しかも「エレシュキガル・・・!」両腕をあたしの方へと翳して魔法を放とうとしてきた。けど、両手を傷口から話した所為か霧散のスピードが上がった。

「っ!・・・ふ、ふふ、ふふふ。・・・王への道行、ここまで・・ということですのね・・・。最悪、最低、ですわ・・・」

魔法発動を中断した偽者はついに諦めたようで力なく笑い声を上げ始めた。

「他のマテリアルが・・・王になるのを黙って見過ごす、なんて・・・。でもまぁ、闇の書の復活が叶えば、私もいずれ再生されますわ・・・。ふふ。今はそれで良しとしましょう。ですが、その時こそ、・・・あなたをこの手で・・・」

「他のマテリアル!? あんたのようにただの偽者じゃなくて特別な残滓が居るっていうわけ!?」

「うふふ・・・。さぁどうでしょうね・・・。ふふ、うふふ、あはは、あはははははははは!!」

高笑いを上げながらすずかの偽者――“律”のマテリアルは崩れ消えていった。完全に消滅したのを確認してから近くのビルの屋上へと降り立つ。とにかく「報告しとかなきゃ」独自の人格を持ってる特別な残滓、マテリアルが存在しているって。

†††Sideアリサ⇒ヴィータ†††

シャルからの連絡を貰って本局から海鳴市に戻って来たあたし達は、リインフォースから海鳴市で起きてる異変の説明を受けた。簡潔に言えばナハトヴァールが復活しようとしてる。
あたし達が粉々に砕いた“闇の書”の闇――ナハトヴァールの残滓が蒐集した魔導師たちの記憶を基にして復活しようとしているんじゃねぇか、って。それを阻止するために、あたしたち八神家も散開して海鳴の街を、はやての生まれ育った街のあちこちを飛び回ってる。

「――なぁ。ホントに、お前の言う通り・・あたしらは・・・救われたのか・・・?」

「ああ。救われたよ。闇の書は夜天の魔導書っつう名前を取り戻して、あたしら書を護る騎士は、すっげぇ優しい主を、その生涯をかけて守る騎士になるっていう最後の役目を見つけたんだ」

「そう、か・・・うん、未来のあたしがそう言うんだから、そうなんだよな・・・、良かった・・・」

“アイゼン”を肩に担いで、たった今ブチのめしたばかりのあたしの偽者の消滅を見送る。おんなじデバイスに魔法、思考。あたしとの違いは、オーディンと出会う前、ものすげぇ荒れてる頃のあたしだったってことだ。何もかもが気に食わず、仲間たちに噛み付いてばかりだった、精神的にクソ生意気なガキだった頃の・・・。

「チッ。嫌なことを思い出しちまったな」

胸の奥に渦巻く昏い感情に嫌気を感じていたところに『ヴィータ。そっちは大丈夫か?』はやてからの通信が入った。はやての声を聴くだけで、「うん、大丈夫だ」晴れていく。あたしはあの頃とは違う。心は満たされてる。温かな居場所、何をしても果たしたい使命を得た。

「はやて! うん。大した損害もなく終わったよ! はやての方は大丈夫?っていうか、ホントはリインフォースと一緒に家で待ってて欲しいんだけど」

はやてはお世辞にもこんなガチンコバトルが出来るだけの魔導スキルはない、なんつうか言っちゃ悪ぃけど素人だ。リインフォースも自分の維持で精いっぱいで、ユニゾンも出来ぇし、以前までのような第一級の単独戦力としての面影もねぇ。

『そうは言うても今回の騒動はわたしら八神家の問題でもある。それやのに主であるわたしがのんびり家で留守番なんてカッコつかへん』

『私も、その機能を失ったとはいえ管制融合騎としての責務がある』

はやてもそうだけどリインフォースも聴かん坊だからな~。まぁ端から説得できるなんて思ってねぇ。

「・・・はやて。危なくなったら誰かを呼んでくれな。逃げたっていい。残滓は本物に比べりゃお粗末な戦闘力だけど、それでも今のはやてよりはたぶん・・・。リインフォース。テメェもだ。無理せずに助けを呼べ。いいな、絶対だぞ!」

『うん。了解や。突っ走らんって約束する』

『私も約束しよう。無茶も無理もしない』

「よし。そんじゃ、次の結界に向かうから」

『うん。ヴィータも気を付けてな』

はやて、リインフォースとの通信を切って、あたしは次の結界へと移動を開始。場所は海鳴臨海公園。上空から結界内に侵入する。そんで街灯の上に降り立って、残滓の気配を探る。居るっちゃ居るが・・・これまでの相手とは違って妙な気配がしやがる。カートリッジの残弾数を確認する。

「12発もありゃどうにかなんだろ」

装弾済みを入れりゃ15発。十分だ。石畳の上に降り立って歩き出した途端、ゾワッと悪寒が奔ったから“アイゼン”を構える。近い、居る。警戒しながら歩を進めていると、ガサガサって茂みの中からなんか這い出てきた。

「ぺっぺっ。うぅ、口の中に草が、なのでありますよぉ・・・」

「アリサ・・・、じゃねぇな」

声も外見も、バリアジャケットもアリサと同じだ。けど、色が違う。綺麗な金髪は薄い紫色、目は獰猛な獣のように金に輝いてて、バリアジャケットは赤と黒・紫を基調としてる。それに何より「う、ぅ、私はダメなマテリアルなのでありますよぉ・・・」精神的に弱っちそう。

「(マテリアル・・・構築体、か。特別な残滓っぽいな)おい、お前!」

「ひぅ!?・・・大きな声であります!?・・・あ、守護騎士の1騎を発見・・・なのであります・・・!」

アリサの偽者があたしに気付いて、勢いよく立ち上がって向かって来ようとした・・・んだけど「うきゃん!?」足元の煉瓦に躓いて盛大に顔面ダイブ。どうすりゃいいのか判んねぇから困るわ~、こういう手前は。

「イタタ、痛いのであります・・・。う、うぅぅ」

「あー、なんつうかさ、その、大丈夫か? 鼻血、出てんぞ」

顔を上げた偽者の鼻から一筋の赤い液体、血がつぅーっと流れ落ちてた。偽者はハッとして袖口で鼻血を拭って「く、紅の鉄騎! 勝負なのでありますよ!」って立ち上った。

「あ゛あ゛!?」

「ひゃあ、ごめんなさいなのでありますぅ!」

威嚇してやると、偽者は両手で頭を抱えて蹲った。ビビり過ぎだよ、お前。“アイゼン”を肩に担いで「お前さ、一体何がしたいわけ?」って目的が何かを問い質す。これまでの残滓と違ってコイツは独自の人格を持ってる。だから今回の一件について詳しい情報を持ってるはずだ。

「う、裏切り者なんかに話すことなんて何もないのであります! 私たちと同じ、闇の書の一部でありながら、闇――ナハトヴァールと防衛プログラムを勝手に切り捨てて砕いた! 許せないのであります・・・!」

「アホか。あんなもん、もう必要ねぇんだよ。主を殺すようなシステムなんざ百害あって一利なしだ。だからナハトヴァールや防衛プログラムを復活させようってんなら・・・ぜってぇ阻止する」

「う、うるさいのであります! そ、それに、もう遅いのであります。すでにあちこちで私たちの欠片が生まれているのであります。く、砕かれた闇を再構築するために、であります。闇の欠片がこの街に溢れ、私たちマテリアルが裏切り者の守護騎士と管制システムを取り込めば、闇の書の闇は完全に復活するのであります! ゆえに、に、逃がさないのでありますよ、紅の鉄騎!」

「(私たち、か)・・・まぁ、色々ベラベラ喋ってくれてあんがとな。すげぇ助かったぜ」

「はっ! ゆ、誘導尋問とはき、汚いのであります! う、裏切りに次いで卑怯を働いて、それでも騎士なのでありますか!?」

「ええー。あたし、いつ誘導尋問なんかしたよ。テメェが勝手に喋ったんだろうがよ」

どうしよう、コイツ、アホだ。目的は厄介だが、どうも嫌いになれねぇ奴だ。でもな、悪ぃけど「この街と、はやてと家族、友達のために、テメェを消す」“アイゼン”を突きつける。

「わ、私だって、闇の書の闇の復活の為に、お、お前を食らうのであります!」

バリアジャケットと同じ赤と黒・紫を基調とした“フレイムアイズ”を具現した偽者。

「八神の騎士パラディース・ヴェヒター、ヴィータ。そして鉄の伯爵グラーフアイゼン。名乗れ」

「義のマテリアルなのであります。そして火竜の爪タラスクスであります」

「デバイスの名前は立派なんだが、テメェ自身の名前は酷いもんだな」

「うるさいでありますよ。私たちマテリアルはあくまで闇の書の闇を構築する部品、個性(なまえ)など・・・要らないのであります!」

“義”のマテリアルと名乗ったアリサの偽者の目つきが変わった。“フレイムアイズ”のコピー、“タラスクス”の柄を握った瞬間に、だ。どうやら戦闘モードに意識が切り替わったみてぇだな。

≪Explosion≫≪Load cartridge≫

同時にカートリッジをロードする。特別なマテリアルって事は少しでも早く倒した方が良いはず。だから「ラケーテンフォルム!」強襲形態へと“アイゼン”を変形させる。対するアイツは“タラスクス”の刃に「アトロポンカ!」炎を纏わせた。ありゃあアリサの魔法で言うバーニングスラッシュじゃねぇか・・・?

「裏切り者には・・・義による報復(リヴェンジ)なのであります!」

一足飛びで突進して来た残滓が繰り出してきた薙ぎ払いをしゃがみ込んで避けた後、すぐに「おらぁぁぁッ!」しゃがんだまま反転、遠心力いっぱいの一撃をお見舞いしてやる。“アイゼン”のスパイクは確実に残滓の脇腹を打った。

「あぐ・・・っ!」

そのまま吹っ飛ばしてやろうかとした時、残滓はなお“タラスクス”を振るってあたしの首を刎ね飛ばそうと狙ってきたから、すぐさま「っらぁぁぁーーーーッ!」吹っ飛ばす。精神的な弱さを上回るヤバさがあの残滓にはある。下手に時間を掛けるとまずいかもしんねぇ。

「(だから・・・)アイゼン!」

≪Explosion. Raketen Hammer≫

3発目のカートリッジをロードしてブースターを点火。地面に叩き付けられることなく宙で体勢を整えて着地していた残滓へと「ラケーテン・・・!」突撃する。

「こんなの、痛くないのであります・・・!」

≪Load cartridge≫

“タラスクス”の刀身に炎を噴き上がらせた残滓は、炎の噴射力で高速回転を始めた。そして「ラケーテン・・・!」聞き捨てならねぇ言葉を発しやがった。

「ハンマァァァァァーーーーーーッッ!」

「ゼーベルッッ!!」

あたしの一撃が届くより先に残滓も突撃してきた。ガキィィンと甲高い音を立てて衝突。あたしと残滓の間で激しく飛び散る火の粉。マジか、拮抗を崩せねぇ。“タラスクス”の炎は消え始めてるってぇのに、「ま、負けないのでありますぅ・・・!」残滓は粘りやがる。

「(くそっ。カートリッジがありゃブースターの持続時間を延ばせんのに・・・!)だからって引けねぇけどな!!」

「っ!?・・・あぅ・・・!」

力だけで押し切ってやる。滑空するように後方に弾き飛ばされた残滓は、“タラスクス”を地面に突き刺すことで勢いを止めて着地した。その間にカートリッジを装弾しておく。

――ピツーラ――

体勢を立て直した残滓がフレイムウィップで薙ぎ払おうとしてきたから空へと回避。空を飛べねぇはずの偽者相手としちゃ汚ぇ真似だろうが、そんな甘っちょろいことは言ってられねぇ。“アイゼン”をハンマーフォルムへと戻して、「シュワルベフリーゲン!」実体弾に魔力を付加したフリーゲンを8発と発射。

「フェルニゲシュ!」

全身に炎を纏わせた(ブレイズロードの全身版だな、アリサも使ってる)残滓がミサイルみたいに飛んで来て、真っ向からフリーゲンと衝突。で、フリーゲンなんて関係ねぇって風に破砕しながら、あたしの元まで飛んで来た。

「無駄なのでありますよ、紅の鉄騎!」

≪Load cartridge≫

――アトロポンカ――

残滓が振るってきた炎の斬撃を大きく後退して回避。そんですぐさま前進して、振り上げた“アイゼン”を「ハンマーシュラーク!」振り下ろす。残滓は掲げた左前腕にミッド魔法陣のシールドを展開して防御。そんで右手に持ってる“タラスクス”で、最速・最短攻撃の刺突を繰り出してきた。

「チッ」

あたしも“アイゼン”の柄から左手を離して、手の甲にパンツァーシルトを展開。“タラスクス”の刃を裏拳で弾く。そして互いに空いた腕でデバイスを弾き飛ばす。互いに無手で、デバイスもそれぞれ自分たちの後方へ吹っ飛んで行った。先にデバイスを取り戻した方が・・・この勝負に勝つ。
あたしと残滓、同時に距離を取ってデバイスを取りに向かう。宙を舞ってる“アイゼン”へと手を伸ばして・・・あとちょっとで手が届くってところで、「あん!?」飛んで来た煉瓦を受けて“アイゼン”がまた離れる。

(わたし)の勝利、なのであります!」

(嘘だろ! なんで空飛べねぇアイツがこんなにも早く・・・!?)

背後から聞こえてきた勝利宣言に振り返ってみれば、すでに“タラスクス”を手に持っていた残滓が両脚に炎を纏わせた状態で突進して来てた。残滓の奥、そこには1枚の魔法陣が見える。

(あー、くそ。飛ぶより速いってわけか。あの移動魔法・・・!)

――アトロポンカ――

残滓が薙ぎ払ってきた炎の斬撃を下降する事で回避。茂みの中に落っこちた“アイゼン”を追う。

「空を飛べなくとも、跳ぶことは出来るのでありますよ。紅の鉄騎!」

殺意を含んだそんな声と一緒に残滓が空から突進して来た。その突進を横移動して回避してやり過ごす。と、奴は横目であたしを見て「鉄の伯爵、破壊させてもらうのであります」そう言って、茂みへとそのまま落下していく。

「ふざけんな! テメェ!」

ただの落下速度と飛行速度じゃ違うってところを見せてやるよ。徐々に残滓との距離を詰めて、もうちょいってところで残滓が急に反転して「やっぱヤメであります!」炎を纏わせた“タラスクス”を薙いできた。

――パンツァーシルト――

すぐさま前面にシールドを展開して防御。デバイス(アイゼン)無しでの魔法発動なんざ久しぶり過ぎて上手くいくかどうかは判んなかったけど、上手くいって良かった。シールドを回り込むように移動して、「おらぁぁぁ!」素手で残滓の顔面を殴る。

「ぶはっ!?」

「悪ぃな」

「おぐっ!?」

よろけたところで腹に膝蹴りを入れる。徒手格闘なんて、オーディンから格闘戦、関節技とかを学んだ時以来だ。でもやっぱ慣れねぇな、素手で殴るってさ。顔と腹を押さえながら地面へと落下した残滓を見送って、あたしは茂みの中へと降り立つ。“アイゼン”はすぐに見つけることが出来た。

「ぐふっ、げほっ、ごほっ、く、紅の・・・鉄騎・・・!」

「義のマテリアル。終いだ」

「ま、だ・・・まだ、まだ・・・なのでありますよ・・・!」

残滓は“タラスクス”を正眼で構え直して、引き金を引いてカートリッジをロードする。鼻血を流し、口端からも血を流してる残滓。アリサの外見と同じだから胸が痛んでしゃあねぇよ。でも、お前は違う、アリサとは違うんだ。だから・・・。

「アイゼン」

≪Explosion. Gigant form≫

ハンマーヘッドを巨大化させるギガントフォルムへと変形させる。

「タラスクス! アラム、発動・・・でありますぅぅーーーーッッ!!」

ものすげぇ火炎を“タラスクス”の刃に噴き上がらせる残滓。タイラントフレア、か。この状況だ。あの魔法が今のアイツにとっての最強の一撃なんだろうな。

「ギガント・・・!」

「うぁぁぁぁあああああああああああッッ!」

一足飛びで突進して来た残滓の一撃に合わせて「ハンマァァァァーーーーッ!」“アイゼン”を振り降ろす。衝突。馬鹿でかい轟音が響き渡る。柄から伝わって来る衝撃、残滓から放たれて来る一生懸命な戦意。こんな形でなきゃ、友達になれたかもしんねぇのにな。ホント「残念でしゃあねぇよ、義のマテリアル」お前を斃すのが、さ・・・。

「うっっっらぁぁぁぁあああああああああッ!!」

「っ!?」

拮抗は崩れた。ガシャァァァンと金属が砕ける音と一緒にあたしの一撃が残滓を叩き潰した。“アイゼン”の一撃は残滓を打ち、地面を大きく穿った。周囲に飛び散るのは地面の破片と、タラスクス”の破片。

「・・・・あ、う、ぅぅ・・・わた、し、の・・・負け、でありますな・・・うっ、ぅぅ・・・」

ヘッドの下で潰れてる残滓がそう漏らしたから“アイゼン”を元のハンマーフォルムへと戻す。力なく横たわる残滓があたしに弱々しいながらも真っ直ぐな目を向けてきた。

「全、りょ・・くで・・・戦い・・・負けた、ので・・・あります、から・・・後悔は、ないの、で・・・あります・・・。ただ、私・・・のちか・・らで・・・闇の書・・・復活・・・出来なかったのが・・・無念、なので、あります・・・」

残滓が空に向かって両手を伸ばした。何かを手に掴もうとするかのように。

「あとは、任せるので・・・ありますよ。・・・義の、マテリアルは・・・先に・・・逝っている、ので・・・ありますよ・・・」

そこまで言ったところで残滓の全身にノイズが奔って、指先から崩壊・・・完全に消滅した。そいつを見送った後、結界が消失し始めたから“アイゼン”と騎士服を解除。とその時、通信が入った。モニターに映るのはエイミィだ。

『こちら捜査本部のエイミィ。各魔導師、騎士に連絡。海鳴市各地に出没している闇の書の闇、その残滓の中に、特別な残滓が居るみたい。アリサちゃんが相対したのは、律のマテリアルと名乗ったようなの。外見はすずかちゃんなんだけど、性格や魔法術式名、デバイス名など本物と色々と違う、特別な残滓みたい。で、その残滓マテリアルが消えたら残滓出没数が激減するところを見ると、本件の解決方法はきっと・・・』

すぐに「あのさ、ヴィータだけど」たった今繰り広げた戦闘について報告する。アリサのそっくりさんで、名前を“義”のマテリアル。他の残滓とは違って、いま聴いた“律”のマテリアルと同様、独自の人格を持ってて、本物とは違う術式名、デバイス名を有していた、って。

『――クロノだ。特別な残滓、マテリアルという存在が居るのは明らかだ。未だに街のあちこちで結界が発生しているところを見る限り、他にもまだマテリアルが居るのは確かだろう。各自、マテリアルと遭遇した際は注意、撃破するように』

こうしてあたしらは残滓の中でも特別な存在、マテリアルの捜索・退治へと乗り出すことになった。
 
 

 
後書き
ドブレー・ラーノ。ドブリー・ジェニ。
対マテリアル、その第二戦をお送りした今話。相手は“義”のマテリアル。アリサの姿を借りた、ちょっと頭の弱い子です。
さて。PSP第一作「BATTLE OF ACE」でのマテリアルは、独自の人格があり、デバイス・魔法の名前の違いがあるものの、魔法効果が同じという2Pカラーなので、“律”と“義”のマテリアルもさほど強くせずに登場、そして退場させました。彼女たちの本領はGODストーリーで。
 
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