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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos30銀薔薇騎士隊ズィルバーン・ローゼ~PALADIN~

†††Sideルシリオン†††

シャルの実家へとやって来た俺たちはそこで騎士カリムとヴェロッサ査察官と出会った。そんな2人を交えてのお茶会としゃれ込むことになった俺たち。
四方5mのアンティーク調の正四角形テーブル、それを四方から囲う高価そうなコーナーソファが4脚。時計回りにカリム、ヴェロッサ、シャル、なのは、アリサ、すずか、フェイト、はやて、ヴィータ、リインフォース、シャマル、シグナム、ザフィーラ、そして俺。
ここに来るまでに街の商人から食べ物――甘いスイーツやフルーツを頂きまくったが、「美味しいぃ~❤」満面の笑みを浮かべるはやて達と同じ、俺も別腹感覚で出されたケーキを平らげる。

「プリアムス。また腕を上げたんじゃない? すごく美味しいよ♪」

「お褒め頂きありがとうございます、イリスお嬢様」

俺たちも「本当に美味しいです」とそう同意し、なのはが「お母さんが作ったのと同じくらい美味しい・・・」と僅かにショックを受けつつもその美味さを称えた。プリアムスの自作ケーキに舌鼓を打つ中、「ルシリオン君。先程の話の続きをお聞かせ貰ってもよろしいですか?」と騎士カリムに促された。

「俺が、オーディンの関係者か、でしたね」

最初にそう前置きした後、「まずお聞きしたいのですが、俺たちのこと、管理局から何か言われていますか?」騎士カリムとヴェロッサ査察官に尋ねてみる。騎士カリムは「ええ」と頷き、ヴェロッサは「あはは」と苦笑して頷いた。シャルが俺たちの空気を察して「プリアムス」と名を呼ぶと、プリアムスは「はい。失礼します」と断ってから退室した。

「・・・私はレティ提督やリンディ提督とも懇意にしていますし、敷かれた箝口令は二佐以下に適用されますので、一佐である私もみなさんの真実を知っています。が・・・ロッサ?」

「あー、僕は偶然・・・知っちゃったわけなんだ。大丈夫。絶対に誰にも話さないから」

騎士カリムとヴェロッサ査察官も俺たちの事情を知っている。事情を知らないなのは達が小首を傾げているため、俺たち八神家が”闇の書”事件の関係者であり、その主と守護騎士だということに箝口令が敷かれ、当人である俺たちも他言無用とすること、それが二佐以下に適用されることを伝えた。するとなのは達は「うん、判った」と納得してくれた。ある程度踏み込んだところまで話をしても良いな。

「では、俺のことを話す前にもう1つ、お尋ねします。オーディンと当時のシュテルンベルク領主・エリーゼ卿との間に子供が出来、今も存続しているというシュテルンベルク家の先祖だと聞いたのですが・・・」

昨夜のパーティでその話を聴いた俺は無様にもジュースをアリシアに吹き掛けてしまった。しかもその所為でアリシアに強制女装させられてしまったし。

「はい。間違いありません。エリーゼ卿の手記にも記されていますから」

「(嘘だろ。俺とエリーゼの間に子供が出来た? 確かにそういう行為には至ったが・・・)そうですか・・・」

シャルだけでなく騎士カリムからもそう言われては確定情報だ。チラッとシャルを横目で見る。とある契約でシャルと結婚したこともあったが、その際に子を成すことはなかった。肉体も得ていたし、成そうと思えば出来たが、お互いにその一線を超えようとは思わなかったからな。それを思えば“界律の守護神テスタメント”となってからの2万年近くで初めてになるよな・・・、自分の子孫が存在している事実があるなんて。

「写真データか何かあれば見せて頂いても・・・?」

「えっと・・・」

「あ、わたしが持ってるから見せてあげるよ」

持っていないのかカリムが言い淀むと、シャルがそう言ってテーブル上にモニターを展開した。映し出されたのは10代後半から20代前半ほどの青年。茶色い髪に青い瞳は、エリーゼの身体的特徴と同じだ。髪型はインテークのショート、俺が後ろ髪を切った状態だ。

「パーシヴァル・フォン・シュテルンベルク。歳は20。聖王教会の最高戦力・銀薔薇騎士隊(ズィルバーン・ローゼ)に所属する騎士で、教会騎士の中で槍術最強ということもあって、シュペーアパラディンの称号を持ってるの」

「現在のシュテルンベルク家は、魔神オーディンとエリーゼ卿の間に生まれた男女の双子、姉ルル、弟ベディヴィアの、それぞれの子孫から成り立っています」

騎士カリムは続けた。俺とエリーゼの子――ルルとベディヴィアは聖王戦争よりずっと後、シュトゥラ付の騎士として活躍し、ルルは魔導に優れた騎士・聖女、ベディヴィアは槍術に優れた騎士・聖槍と謳われたのだ、と。

「オーディンさんとエリーゼちゃんの子供の子孫かぁ。一度会ってみたいわね」

「そうだな。どこかエリーゼ卿の雰囲気に似ているから、話しやすそうだ」

「ふむ。槍使いとしての腕も確かなようだしな。オーディンと直に刃を交えた経験がある者として、パーシヴァルとも一度刃を交えたいものだ」

「これだよ。どんだけバトルマニアなんだよ、シグナム」

シャマルとリインフォースは当時のことを懐かしんでいるようで、シグナムは相も変わらずに最強の槍騎士(パーシヴァル)の戦力に興味を示し、ヴィータはそんなシグナムに呆れる。そんな彼女たちの会話を聞いていた騎士カリムが「シグナムさんは魔神オーディンと戦ったことがあるのですか・・・!?」と驚いた。

「ええ。オーディンが製作したばかりのエヴェストルムの試運転時を始めとして、それから幾度か試合という名目で刃を交えたことがあります。結局、一度も勝つことは出来ませんでしたが・・・」

当時の(オーディン)は今より魔力も体力にも恵まれていたからな。それにシグナムのクセや強さも、先の次元世界で十分理解していたから、それらがアドバンテージとなってシグナムを余裕でいなすことが出来たんだ。

「エヴェストルム。魔神オーディンらグラオベン・オルデンと共に行方知れずとなった伝説級の武装なんですが・・・、その、当時から姿の変わらないシグナムさん達や魔神オーディンと瓜二つのルシリオン君がいらっしゃるとなれば・・・」

騎士カリムが俺を見る。俺は小さく頷いた後、左手をそっとテーブル上に持っていき、中指にはめてある指環「エヴェストルム」をニュートラルで起動させる。30cmほどの柄の上下に1mほどの穂のある大槍――“剣槍エヴェストルム”が俺たちの目の前に現れた。

「エヴェストルムはオーディンやシグナム達のある戦闘によって全滅した後、セインテスト家の協力者によってベルカより回収されました。その後、歴代のセインテスト家の長男に受け継がれてきました。俺も長男ですから、こうして俺も扱えます」

「やはり魔神オーディンは戦死を・・・?」

俺の話を聴き終えた騎士カリムが確認するかのようにそう聞いてきたため、「やはり、とは?」と聞き返す。騎士カリムは話してくれた、古代ベルカ史において魔神オーディンとグラオベン・オルデンの晩年がどうであったのか、歴史学者の間で議論になっているそうだ。

「――病死・事故死・戦死・暗殺などなど。ですが、セインテスト家という魔神オーディンの血族、その本流の末裔らしいあなたが言うのであれば、戦死、が正しい魔神オーディンの結末だったのでしょう」

騎士カリムは「不謹慎ですがよいお話を聴けました」と満足そうだった。エリーゼの日記というものがいつから書かれ、どういった内容なのかは判らないが、オーディンの頃に彼女に語った天涯孤独という情報は現代にまで残されていないようだ。だからオーディンが死んでもセインテスト家が存続していると公言もしても問題ないわけだ。

(ま、すでに俺一人だけとなっているから今さら気にすることもないが)

それから俺たちは騎士カリムやヴェロッサ査察官から本局の話を聴いた。どこの料理店が美味しい、どの上司が厳しい、休憩するならどのカフェテリアがいい、などなど。俺たちからはどういう風に出会ったのか、これからどの部署で働くのか、ここミッドへ来た目的などを話す。そして最後にシャルが執務官補佐を辞めて嘱託魔導師へ異動したいと話した時・・・

「イリス、それってまずくないかい? イリスの御父上――リヒャルト司祭の反対を押し切って入局したのに、それをさらに我が儘で変更するとなると・・・雷が落ちるんじゃないかな?」

「お友達と一緒に同じ学校に通いたいという気持ちは判るけど・・・」

騎士カリムとヴェロッサ査察官が悩んだ。シャルの父親は色々と厳しい人らしい。シャルも「判ってるけど、でもみんなと一緒に通いたいんだよ~」父親の厳しさを思い返してか若干震えているが、それでも決意を通すようだ。

「大丈夫だよ、シャルちゃん。私たちも出来るだけ力になるから」

「うん。私もシャルと一緒に学校に通ってみたいし」

「絶対に面白くなりそうじゃない、あんたも一緒だと?」

「確かに♪ 私もシャルちゃんと一緒に学校に通ってみたいな~♪」

なのは達が味方になることを決めた。するとはやても「わたしもシャルちゃんと一緒やとええな♪」とシャルの通学賛成派に回った。シャルは「わたしもいいの?」とはやてに確認した。その確認には俺の存在が関係しているんだろうな。あぁ、来年の俺・・・胃潰瘍とか患っていないだろうな・・・。

「もちろんや。同じ舞台でも負けへんからな♪」

「うぅ、わたしも負けないよ!・・・でも、ありがとう♪」

そうして時間は流れて行き、騎士カリムとヴェロッサ査察官は帰り、俺たちはプリアムスを筆頭としたメイド達お手製の料理が出来るまでシャルの部屋に行こうかという話になったいたところで、「イリスお嬢様。旦那様がお帰りになられ、アルテルミナス様とミミル様がいらっしゃいました」と、プリアムスとは別のメイドが報せに来た。

「ルミナだけじゃなくてミミルさんまで・・・?」

シャルが本当に驚きを見せている。アルテルミナス。俺の魔法や“エヴェストルム”を粉砕した騎士で、教会騎士の中で最強の拳闘騎士、そしてこれからは俺たち八神家の同僚。だが「ミミルさんというのは?」その名は聞き覚えがないため、シャルに聞いてみた。

「ミミル・テオフラストゥス・アグリッパ。はやて達に紹介したかった、融合騎にも詳しい古代ベルカ式の技術者だよ」

「なら、今からでも話すが出来たりしないか?」

明日に回すより出来るだけ早く話を通して、リインフォースⅡの誕生を早くしたい、と思ったからそう提案してみた。先の次元世界では聖王教会とのコネを手に入れるまで2年も掛かったからな。今回はそれよりもっと早く。リインフォースが消えるまでに、2人を会わせてやりたい。

「わたしからもお願いや、シャルちゃん」

はやても、そしてリインフォース達もシャルに頼み込んだ。シャルは「もちろんっ♪」と笑顔で請け負った後、応接室を飛び出して行った。

†††Sideルシリオン⇒イリス†††

父様が帰って来た。それだけじゃなくてはやて達の目的、ミミルさんがやって来た。はやて達に今からでも話が出来ないかってお願いされたわたしは、友達として叶えたいために応接室を飛び出して、エントランスホールを目指してダッシュ。
着いたエントランスホールにはプリアムスと双子メイド――ルーツィアとルーツィエ、そして父様、ルミナとミミルさんが居た。わたしは「お帰りなさい、父様。いらっしゃい、ルミナ、ミミルさん」そう挨拶しながら父様たちの元へ急ぐ。

「イリスか。ああ、ただいま。・・・ん? 彼女たちはどちら様かな?」

父様がわたしの後ろを見てそう言うから振り返ってみると、わたしを追いかけて来てくれたなのは達が居たから、「わたしの大切な友達です!」と紹介する。なのは達がわたしの元まで来てくれて父様に自己紹介してく。

「イリスの父、リヒャルトだ。娘がいつも世話になっている」

父様と、「こちらこそお世話になっています」なのは達がそう挨拶を返してる中、『ミミルさん。良ければ今からでも・・・』チラッとはやて達に視線を移す。するとミミルは肩に掛かる程度の白髪をサッと払って、『そのために来たんですもの~。部屋を借りるわね~』特徴的な間延びした口調でそう言った後、ウィンク。

「はやて達はさっきの応接室でミミルさんから融合騎について話をしてもらって。はやて達とミミルさんを応接室へ」

ルーツィアとルーツィエに指示を出すと2人は「ヤヴォールです、お嬢様」と敬礼して、はやて達とミミルさんを応接室へと案内しに行った。さてと。あとは「父様。お話があります」本日のラスボス、父様に視線を移す。

「お前が真剣な顔をして話があるとなると、どうも嫌な予感しかしないな」

ジッと見詰めてくる父様。側になのは達が居るっていうのが支えだけど、出来れば母様が居てくれれば、と強く思う。でも切り出した以上はもう後には引けない。

「い、今のわたしの管理局での雇用形態の変更をお願いしたいと思って・・・」

そこまで言っても父様は無言。続きを話せ、ってことだろうからお願いしたいことを全て伝える。執務官補佐から特別技能捜査課への異動、雇用形態を正式から嘱託への変更、そして第97管理外世界・地球は日本、なのはたち友達と同じ学校へ通いたい、と。父様はしばらく無言を貫いて、そして・・・。

「馬鹿を言うな。管理局にはお前の我が儘で入ったのだぞ? それをまた我が儘で異動など・・・。お前は栄えあるフライハイト家の長女だ。本来ならば聖王教会の司祭、果てには教皇になるための教養に務めるのがお前の人生だ」

頭ごなしにわたしの願いを却下してきた。父様は続けて、学校ならミッドの学校で十分だとか言ってきた。そこにはなのは達は居ないって話なのに、父様はそれを解ろうともしない。

「一度決めたことなら最低3年は正式雇用・執務官補佐を続けなさい。もちろん、管理外世界の学校へ通うのは諦めなさい。いいな、イリス?」

わたしにそう強めに言った後、「騎士アルテルミナス。ここまでの護衛、感謝する」父様がルミナに小さく頭を下げる。ルミナほどの騎士を護衛に就けるなんて何考えてるの?ってツッコみそうだったけど耐える。そしてこの場から去ろうとしたから「待ってください!」呼び止める。ここで引くわけにはいかない。なんとしても許可を取ってやる。

「わたしは聖王教会を蔑ろにしてるつもりはありません! でも、わたしだってまだ子供です! 友達と一緒に居たいって思って何が悪いんですか!」

「そうは言っていない。友人は大切だ、その関係は大事になさい。しかし、それとは話が別だ。我が儘を通して入った管理局。世界を見て回りたいからと執務官補佐となり、ハラオウンさんに無理を言って艦船アースラに乗せてもらったこと、忘れたのか?」

そこを突かれるのはやっぱり痛い。わたしが言い淀んだところで、「私たちからもお願いします!」なのは達が頭を下げて父様に願い出た。それでも父様は「申し訳ないが、承諾できない。イリス。これからもしっかりと執務官補佐として頑張りなさい」なのは達が一緒にお願いしても頑なに拒否ってくる。

「本当は父様にもちゃんと認めてほしかったけど、もういいです。母様に――」

「イリス!」

フライハイト家は男性より女性の方が偉い。母様なら私のお願いを聴いてくれる。そうしたら父様も聴かざるを得なくなる。本当はこんな形で叶えたくないけど、わたしはどうしてもなのは達と一緒に学んで、成長して行きたいんだ。

「・・・騎士アルテルミナス。お時間はまだよろしいか?」

「え、はい・・・、本日はもう終業していますし、明日はお休みですから」

父様がルミナにそんなことを訊いた。一体何をするつもりなのかと思えば、「騎士アルテルミナスに勝てば、お前の願いを受けよう。負ければ、諦めなさい」なんて馬鹿馬鹿しいにも程がある提案をしてきた。

「か、勝てるわけがないじゃないですか! ルミナはパラディンですよ!」

「父である私が聴かないからと言ってすぐに母親(マリアンネ)に頼ろうとする、その根性を叩き直す。騎士アルテルミナス。一切の手加減無用で願いたい」

「・・・了解しました。ごめんね、イリス。そういうわけだからさ」

「ルミナ・・・!」

友達ならわたしの味方になるのが人情ってものじゃないの!? そう叫びたいのを耐えて(本心が言えないの辛すぎ)、「せ、せめて誰か手伝いを、二対一なら、たぶん・・!」パートナーを付けさせてほしいと父様に頼み込む。さすがにルミナを相手に一対一なんて無謀が過ぎる。でも、ルシルと一緒ならきっと・・・。

「騎士アルテルミナス」

「私はそれで構いませんけど。『その方がイリスを勝たせ易くなるかもだしね♪』」

思念通話で八百長してくれるらしいことを伝えてきてくれたルミナはやっぱり、『ありがとう、ルミナ』わたしの味方だった。

「シャルちゃん。私たち、いつでも戦えるよ・・・?」

なのはが待機形態の“レイジングハート”を取り出してそう言うと、アリサ達もそれぞれ相棒(デバイス)を手に取ってわたしのパートナーになるって願い出てくれた。そんななのは達にわたしは「ありがとう、嬉しいよ。でも、ごめん」って感謝と謝罪を言いつつ、はやて達の居る応接室へと振り向いた。なのは達はそれだけで察してくれた。

「ルシル君、か。うん、そうだね」

「私たちの誰よりも強いし」

「わたしの為に戦うって言ってくれて、ホント嬉しかった♪」

改めてなのは達にお礼を言った後、『ルシル、今いい?』ってミミルさんと話し合ってるはずのルシルに思念通話を通す。ルシルは『どうした?』すぐに応じてくれて、今まで経緯を話す。

『――だから、ルミナとの戦いを手伝ってほしい。一応ルミナはわたしを勝たせてくれるそうだけど、でも簡単に勝つと父様に怪しまれる・・・』

『なるほど。あくまで全力で戦ったと思わせなければならない、か。判った、手伝おう。すぐに向かう』

『ありがとう、ルシル』

思念通話が切れてからちょっとすると、ルシルがはやて達とミミルさんを連れてやって来た。父様にはやて達のことを紹介した後、「父様、ルミナ。わたしのパートナーが、彼です」改めてルシルを紹介。

「ルシリオン、だっけ? どこかで会ったことない?」

ルミナがルシルにこれでもかって顔を近付けてそう聞く。それに対してルシルは「いいえ。ただ、この姿では会ったことがありますが」って大人形態に変身、しかも頭部はあのデフォルメチーターの被り物にしている。

「パラディース・ヴェヒターのランサー!? え、じゃあ・・・八神家のみんなって・・・!」

ルミナがビックリしながらはやて達を見るから、はやて達もそれぞれパラディース・ヴェヒターとしてのコードネームを言っていった。ルミナは少しの間呆けた後、『ごめん、イリス。私、八百長できそうにない』青緑色の魔力光を全身から放出させた。

「これまで闘ってきた魔導師や騎士とは絶対に勝敗を決めてきた。唯一、ランサーだけは有耶無耶になっちゃって。だからね・・・キッチリ決めたいんだよ。どっちが強いのかさ!」

終わった。ルミナが本気モードになっちゃった。エントランスホールに満ちる圧倒的な威圧感と戦意に、なのは達が1歩2歩と後ずさる。わたしだってこの場から逃げ出したくなったけど、「それでもわたしが、わたし達が勝つもん!」ルシルの手を握ってそう言い放つ。

「面白い。リヒャルト司祭。場所をお借りします。どこがよろしいですか?」

「こっちだよ、ルミナ。プリアムス、みんなを連れて来て」

ルシルとルミナを連れて先行するわたしはプリアムスにそう指示。プリアムスがなのは達を連れて来るのを確認。目指すはフライハイト城の裏庭に設けられている訓練施設――闘技場だ。

『シャル。アルテルミナスと戦う前に1つ、確認したい。彼女も何かしらのレアスキル保有者、なんだろ?』

『そうだよ。終極の支配者(エクスィステンツ・ツェアレーゲン)。受けたことがあるから判るでしょ?・・・この世に存在しているもの――触れさえ出来れば全てを思いのままに分解できるんだ』

『馬鹿な!・・・それはあまりにも――』

『反則、でしょ? 対魔導師戦じゃ間違いなく最強だよ。半端な魔法は直撃する前に分解される。近接戦が苦手とされる魔導師じゃ何も出来ずに・・って感じ。騎士が相手でも同じ。格闘センスが並じゃないから、下手に攻めればデバイスどころか防護服、最悪、人体破壊までいっちゃう』

闘技場に着くまでの間、ルミナの能力について話す。ルミナに限らずレアスキルというのは基本、魔力に依存しないからどんな環境下でも使える。そんなルミナの能力に対する唯一の相殺手段は、わたしの能力・絶対切断アプゾルーテ・フェヒター。ルミナが破壊するならこちらは切断する、だ。

(とは言っても、ルミナほど制御できないから対人戦じゃ使いたくないんだけど・・、というか許可が下りないし)

そうとなれば、最後はルシル頼みだ。ルシルの圧倒的物量魔法によるカウンター潰し。隙を突いてわたしがルミナに一撃を与えればなんとかなる、はず。

「――着いたよ。この扉の先が、闘技場だよ」

城から伸びる渡り廊下を50mと抜けて辿り着いた決戦の場――闘技場。四方100mの正四角形状のエリアで、全面石畳。四方には階段状の観客席。その観客席の四角には直径2mの燭台があって、そこから炎が噴き上がってるから夜でも明るい。
闘技場の舞台にはわたしとルシル、そしてルミナだけが残って、父様やなのは達はみんな観客席に上がった。次いで闘技場と舞台を囲うようにして展開された二重結界。これで闘技場の外にも、観客席に居るなのは達にも迷惑は掛からない。

「さーて、それじゃあ始めようか? ルシリオン、イリス」

ルミナがキャミソールにカーディガン、キュロットパンツっていう私服から、ビスチェワンピースにショートパンツ、ボレロ、ブーツっていう騎士甲冑へと変身。デバイスである2つの腕輪、“ツァラトゥストラ”は起動しないまま。
わたしも騎士甲冑へと変身して、相棒の“キルシュブリューテ”を起動させる。ルシルはもう変身を終えているから、“エヴェストルム”を起動させるだけ。闘技場の中央にまで移動、そして騎士としての礼を行う。

「聖王教会騎士団・銀薔薇騎士隊(ズィルバーン・ローゼ)所属・ファオストパラディン、アルテルミナス・マルスヴァローグ」

「聖王教会騎士団・朱朝顔騎士隊(ロート・ヴィンデ)所属、イリス・ド・シャルロッテ・フライハイト」

「八神家・パラディース・ヴェヒター、八神ルシリオン・セインテスト」

わたし達は名乗りを上げて、「いざ参る!」同時に発する。

――舞い降るは(コード)汝の無矛(パディエル)――

わたしとルシルは同時に一足飛びで10mほど後退。と同時に蒼く輝く魔力で出来た槍がわたし達の頭上から100本以上と降り注いできた。わたし達に当たる軌道は1本もなく、だけどルミナには惜しげもなく降り注いでいく。

「すごい、すごい、すごいっ♪」

ルミナは嬉しそうに槍の雨の中をジグザグに駆けて来て、「邪魔!」当たる槍はペシッと払い除けて粉砕する。ルミナには接近戦を挑んじゃダメ。それを大前提として、騎士にあるまじき「中遠距離で攻めまくる!」でルミナを撃破する。

「キルシュブリューテ!」

≪ヤっヴォ~~ル♪ カートリッジをロード♪≫

「光牙・・・!」

針縫刃(しんぶじん)!!≫

“キルシュブリューテ”を石畳に突き刺すと同時、わたしの魔力光・真紅に光り輝く魔力の剣山が波のようにルミナに向かって突き上がっていく。空からは槍の雨、足元からは剣山の波。ルミナの足を少しでも止める為の魔法だったけど、「無・駄❤」ショルダータックルで剣山と槍の雨を強引に突破してきた。

「本当に途轍もないな、アルテルミナス・・・!」

――我を運べ(コード)汝の蒼翼(アンピエル)――

「本当に、ね!」

ルシルの右手に掴まって一緒に空へと上がる。ルミナはわたし達の足元で急停止した後、ジャンプ体勢に入った。ルミナがジャンプする前に「よっと!」ルシルに引っ張り上げられて、そのまま空高く投げ飛ばされる。空のわたし、宙のルシル、地のルミナが縦一列に並んだ状態になった時、「手を抜いていると、すぐに終わるよ!」ルミナがジャンプした。

屈服させよ(コード)汝の恐怖(イロウエル)!」

ルシルの足元とルミナの後方に展開された2つの円陣から銀の巨腕イロウエルが出現。真正面と真後ろからルミナに殴りにかかった。

拳打強化(フェアシュテルケン)・・・、ファルコンメン・ツェアシュティーレン!」

イロウエルの陰からルミナが能力だけじゃなくて魔法を同時に使う際の掛け声、拳打強化、が聞こえた。その直後、2つのイロウエルがバラバラに粉砕された。イロウエルを構成していた岩石っぽい瓦礫が宙に舞う。

『ルシル!』

『ああ!』

思念通話で合図して、魔力として霧散することなく宙に留まる(どうやってるんだろ?)瓦礫を足場として降り立つ。瓦礫からちょこっと顔を出してルミナの姿を捜す。ルミナも瓦礫を足場として立っていて、キョロキョロとわたしとルシルを捜してた。
そんなルミナの背後に浮かぶ瓦礫の後ろにルシルが気配も音も無く現れて、目の前の瓦礫を“エヴェストルム”で砕くと、さらに細かくなった瓦礫がルミナを急襲。
だけどルミナは焦ることなく両拳を目にも留まらぬ速さで打ち込んでいって全て粉砕・・・している中で、「せい!」わたしも“キルシュブリューテ”で瓦礫を粉砕して、ルミナの斜め上から襲わせる。

「何を企んでいるのか知らないけど・・・!」

ルシルの飛ばした瓦礫を素早く片手で粉砕しつつ、わたしの飛ばした瓦礫も片手で粉砕するルミナ。わたし達の居所を探そうとして周りを見回しているけど、わたしとルシルで交互に粉砕して小さくした瓦礫をルミナに向かわせ続けているから、「ちょっと、邪魔! 面倒くさい!」上手く行かずにイライラ。

――チェーンバインド――

その中でルシルが宙に浮いてる瓦礫すべてをチェーンバインドで繋ぎ合わせて、

――殲滅せよ(コード)汝の軍勢(カマエル)――

さ、ら、に、魔力槍数百本がルミナの全方位に展開された。これからの攻撃に巻き込まれないためにわたしは魔法陣の足場――シュヴァーベン・マギークライスを展開して、瓦礫からそっちへ跳び移る。

「これでどうだ!」

ルシルがチェーンバインドに手を掛けて思いっきり引っ張った。すると全ての瓦礫がルミナに向かって殺到。続けて「ジャッジメント!」待機してた魔力槍群も一斉発射。瓦礫の対処だけじゃなくて魔力槍もどうにかしないといけないんだけど・・・。
いくらなんでも能力発動の要な両手足だけじゃ対処しきれない。となれば、回避に徹するしかない。離れた場所に居るルシルと頷き合って迎撃準備に入ろうとした時、ルミナは「すぅぅーーー」とこれでもかってくらいに息を吸い始めた。

「だぁぁぁあああああああああああああッッ!!」

――シュライエンパンツァー――

力足を踏んだ後、大声で咆えた。それと同時にルミナを中心に全方位へ空間の歪みが広がっていって、迫って来ていた瓦礫を押し返した。そして魔力槍群は全て消滅させた。わたしは慌てて瓦礫の回避に力を注ぐ。魔法陣から飛び降りて、迫り来る瓦礫を足場として徐々に降下。その中で、「ごめん。ルシリオンとの戦いを邪魔されたくないんだ」耳元に届く、ルミナの悲しげな声。

「どこ・・・!?」

「シュトゥースヴェレ・・・!」

避けきれなくて仕方なく斬り裂いた瓦礫の裏側から飛び出して来たルミナが、振りかぶっていた右拳を突き出してきた。無駄だって解っていても物理障壁、ハルトリーゲル・シルトを展開して、刀身をさらに盾にする。そして・・・ガンッとルミナの拳が障壁に衝突。

「うぐふっ・・・!?」

障壁は壊されず、“キルシュブリューテ”も無事だったけど、そんなもの始めからないって感じでわたしのお腹を途轍もない衝撃が貫通して行った。弾け飛ぶわたしの騎士甲冑の腹部部分。背中に受ける空気の感じから言って、背中の方も弾け飛んでそう。

「「「シャル!」」」「「「シャルちゃん!」」」

ルシルやなのは達の声が、今にも途切れそうなわたしの意識を繋ぎ止めてくれる。だけど・・・ごめん、もうダメ。やっぱり無理。今の一撃が余程よかったのか全身から力が抜けて、意識もまた朦朧としてくるんだ。

(・・・行きたかったなぁ、聖祥小学校・・・)

諦めそうになった時、『まったくさぁ。私の転生体ならもうちょっと足掻きなさいよ』って脳内に響く『シャルロッテ様・・・』のお声。フライハイト家の初代当主の妹君で、ベルカ以前レーベンヴェルトを御救いになった神話級の騎士、そして最近知ったけど前世のわたしでもある御方だ。

『お助け下さい、シャルロッテ様・・・』

『・・・・しゃあなし、か。大サービスだからね、もう1人のシャルロッテ(わたし)♪』

――真紅の両翼(ルビーン・フリューゲル)――

体の支配権がわたしからシャルロッテ様に移ったのが判った。魔力が引き出されて、背中からバサッと魔力で出来た翼が生まれた。翼を羽ばたかせて体勢を立て直して、ルミナから距離を取る。さらに「醒めよ、ゼーゲン」わたしの口から何かしらの名前が発せられたら、胸のうちが熱くなって、意識や痛みが回復した。

「ルシル! サポートお願い! 勝つよ、絶対!」

「君は・・・! ああ、いいだろう!」

――弓神の狩猟(コード・ウル)――

ルシルが弓矢を魔力で創りだして、「往けッ!」槍のように長い矢を発射。向かうのは宙に佇むルミナ。矢は途中で無数の光線となってルミナを全方位から襲うけど、「ゲシュヴィント・フォーアシュトゥース」超高速移動魔法によって瞬時に包囲から離脱して、ルシルの元へとそのまま突進・・・「させるかっつうの!」の前にシャルロッテ様が立ちはだかる。

「『イリス。よく見て、感じて、習得しなさい。絶対切断能力(キルシュブリューテ)の使い方!』せい!」

――光牙月閃刃(シャイン・モーントズィッヒェル)――

「なんで空を飛べているのか、気にはなるけど今は・・・!」

――ファルコンメン・ツェアシュティーレン――

真紅の魔力を纏う“キルシュブリューテ”と、ルミナの素手が真っ向から衝突。普通ならデバイスの方が砕かれるけど、今回は砕かれることなくそれどころか「痛っ・・!?」ルミナにダメージを与えた。

「今の・・・絶対切断(アブゾルーテ・フェヒター)・・・!?」

――燃え焼け(コード)汝の火拳(セラティエル)――

驚きのまま後退したルミナの頭上から降って来たのはルシルの火炎砲撃。隙だらけだったにも関わらずルミナは拳を振り上げて、砲撃を真っ向から殴って粉砕。

――ゲシュウィンディヒカイト・アオフシュティーク――

グンッと目の前の景色が一瞬にして後方に流れる。一気にルミナとの距離を詰めたシャルロッテ様はすぐさま攻勢に移った。“キルシュブリューテ”を連続で、わたしじゃ出来ないような軌道と速度で振るい続ける。でも、ルミナも負けてない。シャルロッテ様の斬撃を同じ速度で殴って迎撃し続ける。

「あ、あれ、あれ?・・・イリスってこんなに強かったっけ・・・!?」

『さすがテルミナス、か。強いのは相変わらずってわけね・・・!』

驚愕するルミナと驚嘆するシャルロッテ様。互いの間で激しく飛び散る火花。なかなか決定打を与えることが出来なかったからか、2人は同時に後退して距離を取った。

「シグナム、あなたの技、借りるね」

シャルロッテ様は具現した鞘へ“キルシュブリューテ”を納めて居合の構えを取って、カートリッジを3発ロード。対するルミナは魔法陣の足場を創って降り立ち、「そこまで強かったなんて、驚きだよ」満足そうに笑って、クラウチングスタートの体勢に入った。

(それでもまだ・・・デバイスは使わないんだね、ルミナ・・・)

「紫電・・・!」

「拳撃必壊・・・!」

時間が止まったかのような錯覚に陥る。張り詰める空気に、観客となってるわたしも息が詰まって息苦しさを感じる。それがいつまで続くのか、ちょっと不安になっていた時、パチンと指を鳴らす音がした。

「清霜!」「オクスタン・・・!」

互いに一足飛びで最接近して間合いに進入。シャルロッテ様が鞘内で魔力を爆発させる事で抜刀速度を上げた居合抜き・紫電清霜を繰り出す。ルミナは真っ向から左拳を繰り出した。衝突する刃と拳。さっきみたいに拮抗するのかと思えば、シャルロッテ様は左に持っていた鞘に魔力を纏わせて、「飛天御剣流・双龍閃!」その鞘で刀身を打って威力増加を狙った。けど、それはルミナも同じだった。

「ズィーガァァァーーーーッッ!」

ルミナも右拳を繰り出して“キルシュブリューテ”の刀身を殴った。一瞬の拮抗の後、終わりを迎えた。

「「っ・・・!?」」

シャルロッテ様の両手から“キルシュブリューテ”と鞘が弾け飛び、ルミナは大きく両腕を左右に弾かれて無防備な体を晒した。この瞬間、シャルロッテ様の敗北が決まった。ルミナは徒手空拳の騎士で、シャルロッテ様は剣士だ。ルミナは弾かれた両腕を構え直すことなく、シャルロッテ様の頭部を左右から殴りつけようと振るった。終わりだ。諦めそうになった時、

――集い纏え(コード)汝の雷撃槍(フルグルゼルエル)――

蒼い雷光を纏う二剣一対形態の“エヴェストルム”の柄がシャルロッテ様の両手にスポッと収まった。

「んな・・・!?」

「雷牙双月刃!」

「ぅぐ・・・!」

ルミナの一撃が入るより早く、シャルロッテ様の雷光纏う斬撃がルミナを捉えた。それで決着。ルミナは足元に魔法陣の足場を創って「負けました」ってそこにへたり込んだ。

「シャル。お疲れさまだ」

ルシルが飛んで来て、「うん、お疲れさま~、ナイスタイミングだったよ♪」って満足そうに言うシャルロッテ様から“エヴェストルム”を受け取った。
こうしてわたしはシャルロッテ様のおかげで、来年からなのは達と同じ聖祥小学校へ通うことが決まった。
 
 

 
後書き
ジェン・ドーブリィ。
はーい、ただいまより文句を受け付けまーす。シャルの聖祥小学校への転入騒動にまるまる1話を使い、PSPストーリーに入れませんでした。本当に予告が当てにならない作者で、申し訳ないです。
あ、最後にパラディンの名誉として、ルミナは本気ではありましたが全力ではありませんでした。まぁ、シャルも本気ではなかったですから、どっちが本当に強いかどうかは・・・。
 
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