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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica39-B堕ちた騎士~Reiter Paladin~

 
前書き
引退まで残り2年。なんとか完結に間に合いそうですね。

ガリフット戦イメージBGM
CATHERINE「ショパン: 革命」
https://youtu.be/weJTEdrPgVY 

 
†††Sideクラリス†††

面倒くさいことに最後の大隊が仕掛けてきた。しかも今回はガチで私たちを殺しに来てる。私たちオランジェ・ロドデンドロンのメンバーを、大隊の一員とサシで闘い合えるように結界で閉じ込めた。

(私に宛がわれた相手は・・・)

空を見上げれば、純白の鱗を頂く全長2km近い龍がグルグルと回っている。最早その正体を隠す気もないみたい。

「騎乗騎士の頂点・・・レイターパラディン、ガリフット・ラッヘンマン・・・!」

VS・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
其は誇りを捨て堕ちた騎乗騎士ガリフット
・―・―・―・―・―・―・―・―・―・VS

私が目指し、打倒を夢見ていたパラディン、ラッヘンマン卿だ。教会と騎士団が大隊と繋がっているのはもう判ってたし、ラッヘンマン卿のような幹部級の騎士が敵に回ってるかもしれないということも判ってた。

(だからショックじゃない。それどころか、ここで打ち倒すことが出来るっていうチャンスが巡ってきたことに感謝だ)

龍の額に仁王立ちしているラッヘンマン卿を見上げる。獅子の仮面や目出し帽を脱ぎ捨て、黒服じゃなくて本来の漆黒のフルプレートアーマーに身を包み、両刃ナイフ型デバイス・“シュレッケン”を掲げて、オーケストラの指揮者のように振るってる。

「砲撃が来る・・・! ワイバーン!」

『僕に任せておけ! 何が公爵だ! 今度こそ一泡吹かせてやる!』

脳内に響くワイバーンの声。やんちゃ坊主みたいな性格で、声も本当に男の子のよう。もう800歳くらいなのに。

「クラリス! 君とこうして闘うのも今日この限りだと思うと、僕も少し寂しいよ!」

還暦をとうに越えてるのに声色と声量の若さは30代後半。肉体だって普通に若いし、一体どんな手を使って若返ってんのか判らない。騎士団内じゃ吸血鬼なんじゃない?って噂が飛び交ってる。

「でも安心するといい! 君との思い出はすべて、僕の心の中で芸術品となって永遠に生き続ける!」

「ラッヘンマン卿! 私、あなたのそんな芸術家気取りが・・・昔から大っ嫌いだった!」

『年寄りが無理に若作りして馬っっっ鹿みたいだよ!』

「そうかい! 芸術の何たるかを知らない小娘に教え込ませてあげよう! ブネよ!」

ラッヘンマン卿の数いる召喚獣(ドラゴン)の中でも最高位、公爵級龍ブネの口から純白の魔力砲が放たれた。私が跨ってる「ワイバーン!」に呼び掛けて、砲撃を躱しながら接近するように言外に指示を出す。連発されてくる砲撃の合間を翔け抜けて、ブネとラッヘンマン卿よりさらに上に行く。

「ワイバーン! プロミネンスカノーネ!」

『おーっし!』

火炎を細く圧縮させた熱線をワイバーンに吐かせる。胴回りが100m以上ある巨体を誇るブネは、回避を選択せずに直撃を受け入れた。ワイバーンのブレスは強固な鱗に弾かれるけど、その衝撃はラッヘンマン卿にも届いて・・・はいる。

「やっぱり鎧の重さもあって吹っ飛ばせないか・・・!」

『何が公爵級だよ! 爵位なんか・・・爵位なんか・・・飾りだってことを、僕が教えてやるんだからな!』

「そうだね。じゃあ、少しだけ独りで頑張って」

『ほえ?』

ワイバーンの頭をポンポン優しく叩いた後、私はラッヘンマン卿と同じ舞台――ブネの背中へと飛び降りる。頭上のワイバーンから『どえええ!? 主!? 主ー!』驚きの声が届く。

「好きなように闘って! こっちはこっちで、あなたとブネの闘いに合わせて動くから!」

『ああもう! リっちゃんの馬鹿ぁぁー! いいよ、じゃあ僕の雄姿をしっかりと見ていてよ!』

ワイバーンはフンッて鼻を鳴らしながらブネから距離を取って、その機動力を活かして周囲を翔け回りながら・・・

『でぇぇぇーーーーい!!』

――ブラオ・インフェルノ――

青い炎の拡散砲を吐いて、ブネの胴体に攻撃を加えてく。けどほとんど鱗で弾かれてる。ブネは何度も炎を吐かれながらもその偉容を崩さず、結界内上空をただ円を描くように翔け続ける。

「クラリス。君の下僕に、僕の芸術品(ブネ)に攻撃するのを止めるよう言ってくれないか? あの程度の火力ではブネには傷1つ付かないだろうが、鱗に万一焦げついてしまっては笑えない」

「わざわざ私たちをここに来るように仕向けて、こうして襲撃してきたお前の、そんな甘い言葉に私が頷くと思う?」

「言ってみただけさ」

方天戟型アームドデバイス・“シュトルムシュタール”の柄を両手で握って、ラッヘンマン卿と向かい合う。そしたら彼・・・ううん、アイツは“シュレッケン”を突き出してきた。決闘前の挨拶のようなもので、私は“シュトルムシュタール”の2つある三日月形の刃――月牙の片方を“シュレッケン”にカツンと当てる。

「今さら騎士面? 騎士として振舞うなら自首してどうぞ」

「受けておきながらその言い草。僕は自分に正直なだけだよ・・・!」

名乗り合いをすっ飛ばしてのいきなりの刺突攻撃。魔力付加も無く魔法でもない単純な物理攻撃だけど、懐に入られてるのがまずい。首を右に逸らしながら“シュトルムシュタール”を左へ向かって払う。そうすることでラッヘンマンの“シュレッケン”を持つ右腕が外側に向かって弾くことが出来る。

「っつ・・・!」

油断はしてなかったつもりだけど、反応に一拍遅れたことで“シュレッケン”の刃先が私の頬を浅く斬り裂くのを許した。本当にもう、騎士としての誇りを捨てたなら、これまでの特訓の成果を全部吐き出してぶっ倒す。

「おおおおおおお!」

“シュトルムシュタール”は方天戟の前部と、金砕棒の後部を連結させたアームドデバイスだ。柄の中心を持って振り回すだけで、斬撃と打撃の両方を交互に繰り出される。ラッヘンマンの“シュレッケン”なんてへし折ってやる。

「騎乗騎士としては雅に欠けるが、僕としても君が勝つ可能性を提示しなければならないね・・・! いいだろう。互いに下僕の力を借りずに、己の力だけで勝敗を決しようじゃないか!」

小さなナイフ型の“シュレッケン”で、私の連撃を捌き続けるアイツがそんなことを言った。騎乗騎士の昇格試験は、乗れる使い魔を使役している場合は乗ったまま闘うことがルール。

「斬り断て!」

――フェアシュテルケン・クリンゲ――

方天戟の2つの月牙と先端の穂に魔力付加しての斬撃魔法を繰り出す。鈍重なフルプレートアーマーを着込んでるにも拘らず、華麗なステップと“シュレッケン”で完璧に防いでくる。

「それなら・・・!」

「むっ・・・!」

“シュトルムシュタール”の一撃を防がれたその瞬間に、私はラッヘンマンの腹に突き蹴りを繰り出した。そして肩と頭を駆け上がって上空へ跳ぶ。頭上に魔法陣を展開して、宙でくるっと反転して魔法陣に着地。

「フェアシュテルケン・シュラーゲン!!」

今度は金砕棒に方に魔力を付加しての一撃を、突進からのフルスイングでお見舞いしてやる。ラッヘンマンは“シュレッケン”での防御を行わずに、「はっは!」笑い声を上げながら後退することで躱した。それで終わりだと思わないで。私は空振った勢いのまま体を旋回させつつ、“シュトルムシュタール”の柄を分離させる。

「もういっちょーーーー!」

――フェアシュテルケン・クリンゲ――

後退したラッヘンマンに届くよう、方天戟を持つ右腕を伸ばす。ギリギリだけど側頭部に月牙を叩き込むことが出来た。甲高い音が響く中、宙に寝そべってるような体勢の私の腹に「ぐふっ!?」アッパーが打ち込まれた。私は吹っ飛ばされて、アイツはよろける程度。

『リっちゃん!』

ブネから落ちた私を助けるためにワイバーンが急降下してきてくれて、「ありがと!」鞍の上に着地すると、『ごめん、リっちゃん。僕の攻撃、全然効かない』って泣き言を言ってきた。

『もう魔術師化して、一気に決めちゃおうよ! リっちゃんが傷つくのあんまり見たくないし!』

「・・・それは・・・」

・―・―・回想だったりする・―・―・

大隊の投入してきた新兵器に苦戦を強いられたトリシュは、魔術師化できない自分と私とアンジェが足手纏いになるかも、なんて危惧した。私は使い魔がいるから、私に足りない分はあの子たちで補おうと思ってたけど・・・。

――君ら3人とも、実は魔術師化できる才があるんだよ――

その言葉を聞いて私はバナナを頬張りながら、ゴメンみんな、って使い魔たちに謝った。だって魔術師化なんて魅力的な話、受けないわけにはいかないよ。

(ここは・・・)

私はどっかの戦場のど真ん中に居る。ルシルが私の前世の記憶を見せるために、何かしらの魔術を使ったのは間違いないけど・・・。

「(まぁいいや。魔術師化するために必要なら、私の前世とやらを見てみよう)えっと、あそこに居るのはイリスと瓜二つの女性・・・、それに・・・」

20代始めくらいのイリスのそっくりさんと、10代半ばか後半くらいの私のそっくりさんが、何十人っていう、いろんな武器や甲冑を身に纏った騎士部隊を率いてた。たぶん、あの人がイリスの前世のシャルロッテ・フライハイト。で、その側に控えてるのが私の前世だっていう・・・。

「騎士シャルロッテの右腕、初代グレーテル・ヴィルシュテッター・・・」

今の私と違って初代グレーテルは両刃の大剣を主武装にしてる。そんなご先祖たちの移動方法は歩きみたい。他の騎士隊は馬とか狼、見たこともない珍獣なんかに跨ってる。だから他の隊に置いていかれる・・・と思えば、「速・・・!?」ビックリするくらいに走るスピードが速かった。

「え、あれ? 私どうすれば・・・!?」

置いてけぼりを食らった私は辺りをキョロキョロしてると、勝手に私の体がふわりと浮いて、ご先祖に付いて行くように動き出す。そしてご先祖たちの部隊が、敵部隊と交戦を開始。

「お、おおう・・・」

そこからは魔法・・・じゃない、魔術の応酬。炎やら氷やら雷やら、イリスやルシルが使う光や闇といった攻撃が戦場を駆け巡る。ご先祖の隊も敵陣に高速で突っ込んで、懐に侵入して武器で切り払っていく。

「すごい・・・」

騎士シャルロッテの繰り出す斬撃の軌道がほとんど見えない。まさに一撃必殺。長刀(アレが本物のキルシュブリューテ・・・)が閃くと、一度に複数人が地に伏せてく。で、肝心の私のご先祖は、白い雷を纏った大剣をブンブン振り回して敵をふっ飛ばしてた。まるでサイクロンのようだけど、敵の中にその一撃を食い止める奴がいた。

「子供・・・?」

130cm程度の小さな女の子が、ご先祖の大剣の一撃をカードのような物で受け止めて、さらに弾き飛ばした。数mと飛ばされたご先祖が着地したところで、別の敵が斧を振り下ろす。着地したばかりのご先祖は大剣を盾にして受け止めたけど、さらに別の敵が槍を突き出そうとしてた。

「危ない・・・!」

他の味方はそれぞれ敵との交戦中だし、騎士シャルロッテも十数人に囲まれてる。助けは望めない。これが過去の事だって判ってるけど、ご先祖の元へ駆け出そうとしたその時、大剣が縦に真っ二つに分離した。片方を斧の防御のままに、分離したもう片方で槍を弾き返した。

「おお! なんか異様に剣の幅が広いと思ったら、片刃剣2本を連結してたのか・・・!」

二刀流となったご先祖は、「電気変換!」の魔法・・・じゃないか、雷撃系魔術で敵を薙ぎ払い始めた。ご先祖は片刃二刀流で連撃したり、大剣で薙ぎ払ったり、雷撃を放ったり、いろんな戦術で敵を打ち倒していった。

「・・・あれ? ご先祖の魔術の構築式が、理解できる・・・?」

ご先祖の使う魔術がどうすれば発動できるかが頭の中でパズルみたいに組み上がってく。ご先祖の動きを注視しつつ、使われる魔術を1つも見逃さないように努める。そうして戦闘は終了して、騎士シャルロッテと一緒にご先祖が隊と合流。戦闘前は60人くらいいたのに、今は30ちょっと。約半分、帰って来られていなかった・・・。

「泣いてる・・・」

ご先祖が悔し泣きしていて、騎士シャルロッテが優しく背中を撫でて慰めた。そんな光景が蜃気楼みたいに揺れ始めたから、夢から覚めるんだと判った。

・―・―・終わり・―・―・

「魔術師化はまだ早い」

結界内の至る所に展開されてるモニターの内、ルシルが映ってるものを見る。ヴィヴィオの代わりに自分を拉致させて、大隊の本拠地に潜入するっていうルシルの作戦。無事に潜入したら、偽者のルシルが消滅する手筈。それまでは下手に大隊を刺激しないように言われてるからね。

「もうしばらく、私たちの時間稼ぎに付き合ってもらおう」

『向こうは僕たちが追い詰められてる風に思ってるだろうけど、その実は向こうが追い詰められてるんだよね。そう考えると、ザマァ見ろ、って感じ!』

「そうだね・・・!」

ワイバーンをもう一度ブネの上空へと向かわせる。時間稼ぎなら闘わずにどこかに隠れていれば良い気もするけど、その所為でラッヘンマンが他の結界にちょっかい出す可能性もあるし、何より私自身がぶっ倒したい。

「それじゃあワイバーン。もうしばらくブネと遊んでて」

『うん! リっちゃんも、頑張って!』

分離させたままの方天戟と金砕棒を振り上げて魔力付加。狙うのはこちらを仁王立ちで見上げてるラッヘンマン。ワイバーンから飛び降りて一直線にアイツの頭上へと落下。

「シュベーア・・・ボンバルディーレン!」

付加させていた魔力を大きく爆ぜさせながらの打撃をラッヘンマンへと打ち込もうとしたけど、アイツは回避を選んだ。私の攻撃はブネの首の付け根に直撃して、パキィーン!と鱗を何枚か砕いた。

「オオオオッ!」

「むっ・・・!」

「おわっと!?」

ブネが唸り声を上げながら大きく体をうねらせた。ブネにダメージを与えられたのって何気に初めてかも・・・。あー、でも砕いた鱗がまた新しく生えてきた。

「何をした、クラリス! 君の魔力量で、ブネの鱗を砕くことなど不可能なはずだよ!」

「え? いや・・・んん~?」

心の内に意識を傾けて、「あ・・・」魔術師化に半歩分踏み込んでたことに気付いた。魔術師化の練習は、昨夜から2時間ほどしかやってない。アンジェやトリシュは上手く切り替えが出来てたけど、私はどうも下手で・・・。今みたく勝手に魔術師化してしまう。

「わっとと」

リンカーコアを抑えて、魔力から神秘を取り除いて魔術から魔法へと切り替える。ラッヘンマンは「なんだ、君の雰囲気が変わった・・・?」割と鋭いことを言った。

「別になんでもない。さぁ、第2ラウンド。始めよう・・・!」

ダンッ!とブネの背中を蹴ってラッヘンマンへ突っ込むと、アイツは「まあいい! 無謀なことだと教えてあげるよ!」連続刺突を繰り出してきた。確かに速いけど、イリスの雷牙閃衝刃連発やルシルの光槍連射に比べれば、この程度どうってことはない。

「でぇぇぇーーーい!」

月牙の接着部分の合間に“シュレッケン”を刺し込ませて方天戟を下に降ろしてやれば、ラッヘンマンの右腕も下へ降ろせる。その隙に金砕棒をアイツの頭目掛けて振り下ろしたけど、アイツは左足を引くことで半身になって回避した。そして金砕棒はブネの鱗を叩いたけど、「あぅ・・・!」手が痺れるほどの衝撃と一緒に弾かれた。

「今ので運は使い果たしたかぁ!?」

その言葉と一緒に私のお腹に突き刺さる蹴り。蹴っ飛ばされた私はブネの背中でゴロゴロ連続後転。ブネの背中が広いおかげで落ちることはなかったけど、立ち上がり途中の私へとラッヘンマンが突っ込んで来て、「ぐふっ!?」まともにタックルを食らった。

「敗死の覚悟は出来ているだろう!?」

今度は落ちた。だけど「ワイバーン!」を呼んで、ブネの尻尾の先端に噛み付いていたあの子が『リっちゃん!』急いで戻って来てくれた。あの子の背に降り立って、「カートリッジロード」をする。そしてもう一度ラッヘンマンの元へと上昇させる。

「あなたこそ、敗北の覚悟は出来てるでしょう? 汝は天衝く巨いなる者。その歩みで地を蹂躙し、振る尾は空を薙ぎ払う。行く手は苛烈なる戦火、過ぎ去るは打ち斃せし亡者の群れ。汝が主の命に応じ、いざ参れ!」

このままじゃ先に体力が尽きるって思った私は一か八かの賭けに出ることにした。私の胸の前に1mくらいの召喚魔法陣を展開して、そこからニュッと顔を出したのは「狐・・・?」首を傾げるラッヘンマンの言うように、金色の毛並みをした小さな狐だ。

「次はどんな下僕を召喚するかと思えば、そのような仔狐とはね!」

大笑いするラッヘンマンだけど、この姿が本来のものじゃないって気付けていない時点でダメだ。抱きしめてるこの子の背中を撫でていると、「む? なんじゃクラリス。お主、少し見ぬ間にわし好みの魔力になっておるではないか!」フサフサな尻尾を揺らした。

「人語? 狐・・・、まさか!」

「そう。この子はブネと同じ、第1観測指定世界ギガースィリアの支配者の一角」

あの子の尻尾が揺れるたびに1房、2房と増えていって、最終的に9房になった。その様子にラッヘンマンは「そんな馬鹿な!」って大混乱。

「久しいの、ガリフット。わしを召喚獣にしようと会いに来たのが彼此40年前かの? 顔は兜で見えぬが、やはり老けたの~」

「ナデシコ・・・! 何故、君が・・・! どうしてこんな小娘の下僕なんぞに・・・! 君を下僕にするべくやって来た幾人もの騎兵との契約を断ってきた君が!」

ギガスィーリアは、ナデシコを始めとした私の召喚獣や、ラッヘンマンのドラゴン軍、その他の騎兵たちの召喚獣――魔法獣たちが棲み処としている世界だ。騎兵を目指す騎士はギガスィーリアを訪れて、気に入った魔法獣と契約を結べるよう努力し、そして互いに納得できたなら主従関係や盟友関係の契約を結ぶ。

「君に会いに来た僕や他の騎士たちに言ったな、お前たちは違う、と!」

「うむ、確かにそう言うたな。言葉通り、お前たちは違うのじゃ」

「それならクラリスはそうだと言うのか!」

「んん? 唯一、此奴だけには可能性があると思っただけじゃ。わしと契約する為の条件はただ1つ、わしを惚れさせるような魔力を提供する、じゃ。お前たちは生まれや血統からして既に失格しておった、クラリスとは違っての。そんなクラリスも、今日までわしの期待になかなか応えなかったのじゃが・・・。今日晴れてわしの条件を満たした」

その条件というのはついさっきまで本当に判らなかった。惚れさせる魔力なんて意味不明だったし。それでもこの闘いに勝ちたいために、たとえナデシコが私の言うことを聞かなくても、ラッヘンマンやブネを惑わせられたらって理由で召喚した。

「クラリス! 今日よりわし、九尾のナデシコが、お主の召喚獣として力を揮おうぞ!」

ナデシコがワイバーンの額から飛び出して宙へと身を投げた。落下していくナデシコを見守っていると、『リっちゃん! 上昇するよ!』ワイバーンがさらに10mほど急上昇。直後、眼下が蒼い炎でいっぱいになった。そんな蒼炎の塊から巨大な狐、ナデシコが姿を見せた。9房の尻尾を揺らして、僅かに開いた口からは蒼い火の粉が噴き出てる。

「ナデシコ! ブネをお願い!」

「よかろう! ブネよ、数百年ぶりに戯れようかの!」

「オオオオオオ!!」

ブネが咆哮を上げてナデシコに向かって行く。ブネが急転回したことでラッヘンマンが「なに!?」振り落とされた。空中に投げ出されたアイツを追うように「ワイバーン!」に指示を出して急降下。

「助けてほしいですか~?」

「~~~~っ! 無用だ! 僕の騎士甲冑(げいじゅつ)の防御力を舐めないでもらおう!」

高さ60m以上の空から地上へ向かっての墜落。いくら防御力が高くても無傷とはいかない高さ。さすがに殺してしまうのはダメだから、私は「舐める。だから助けるよ!」ワイバーンから飛び降りた。

「何をするつもりだ!?」

「こうするの!」

方天戟と金砕棒のカートリッジを全ロードして魔力付加。そして私の両足裏をワイバーンの翼で打ってもらって、「せやぁぁぁぁぁぁ!」高速で突進。一瞬でラッヘンマンの元へと追い付く。

「ツェアシュテールングス・・・!」

左手に持つ金砕棒を上段からの全力振り下ろし。ラッヘンマンはシールド+“シュレッケン”を盾にする防御姿勢を取ったけど、金砕棒の一撃でシールドを粉砕。さらに“シュレッケン”も弾き飛ばしてやった。振り下ろした勢いのまま前転して・・・

「ショック!!」

逆手に握っていた方天戟を、ラッヘンマンのお腹に向けて全力投擲。直撃を受けたアイツは落下軌道を変えて、近くのビルの屋上へと墜落した。土煙でその姿が見えなくなる中、私は金砕棒の柄尻を屋上へと向けて魔力ケーブルを伸ばす。ケーブルは土煙の中へと突っ込んで、方天戟の柄尻と繋がったのを報せるようにピンッと突っ張ったから縮めて、戻ってきたことで連結させる。

『リっちゃん、乗って!』

落下する私の足元にワイバーンが移動して、その背中に着地してから鞍に跨る。ラッヘンマンの動きがないから、ひょとしたら勝ったかも。ナデシコの方も、地面に墜落したブネの頭を前足で踏ん付けているし。

『そう言えばリっちゃん。ルシルって奴が消滅したの見たんだけど。あれってもう、時間稼ぎは要らないってことじゃないの?』

「え、本当!?」

モニターを確認しようとしたら、土煙が召喚魔法陣展開と同時に吹っ飛んで、ラッヘンマンがその健在な姿を見せ付けてきた。うん、あんまり堪えてないみたい。もう少し魔導の騎士として闘いたかったけど、ここからは魔術の騎士としてさっさと勝たないと。ワイバーンに屋上まで近付くように指示。

「ご先祖様。どうかそのお力を貸してください」

――昇華――

今度は自分の意思で魔術師化して、別の龍を召喚しようとしてるラッヘンマンの居る屋上へと降り立つ。

「楽しくなってきたじゃないか、クラリス! 僕は君を最高の作品だと賞賛するよ!」

「・・・あ、そうです・・・か!」

“シュトルムシュタール”をそっと床に置くと同時に一足飛びでラッヘンマンへと再接近して、神秘を有する微弱魔力を両手に付加。アイツは「どういうつもりだい! 無手で挑むなんて!」って言ってるけど、もうアンタに勝ち目はない。

「さようなら!」

フルスイングでのビンタをお見舞いしてやると、兜が難無く壊れた。ラッヘンマンは歯を何本か吹き飛ばし、鼻血を盛大に噴きながら吹っ飛んだ。

「殺っちゃった?」

『どうだろう・・・』

大の字で倒れたままのラッヘンマンを不安げに見る中、ナデシコの勝利の鳴き声が結界内に響き渡った。 
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