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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica39-A堕ちた騎士~Schlagen Paladin~

 
前書き
ラヴェイン戦イメージBGM
CATHERINE「バッハ: 小フーガ ト短調」
https://youtu.be/9bKrlGbgbME 

 
†††Sideアンジェリエ†††

聖王教会と教会騎士団はやはり・・・最後の大隊と繋がっていた。その結論は前々より出されていたにも拘らず、心はズキズキとショックで痛む。そして今、私は・・・私たちオランジェ・ロドデンドロンは、私たちを殺害するべく投入された大隊の主力級との交戦に入っています。

「ほっほっほ! どうしたのだ、アンジェリエよ! 普段のお主なら余裕で捌けよう!」

「ぅく・・・!」

フレイル型アームドデバイス・“アグリガット”は、両刃や片刃の短剣、ドリル、斧刃、槍の穂先、杭、金槌等といった、斬撃と打撃と刺突が一度に行える武器が、直径60cmの鉄球に幾つも付いている。太いワイヤーと繋がるそんな鉄球を振り回しつつ、親しげに私の名前を呼ぶ仮面持ちを睨み付ける。

「どうして・・・何故あなたまで大隊に組しているのですか・・・!?」

高層ビルの屋上で対峙する獅子の仮面を被った男性を問い質す。彼は「ほっほっほ!」と聞き慣れた笑い声を上げるだけです。デバイスが“アグリガット”であり、魔力光も黄緑色で、何より口調も声も変えていません。もう正体を隠す気もないようです。

「なんで、だと?」

――城砦穿ち――

黄緑色の魔力を纏った鉄球がこちらへ向かって飛んで来きました。シールド、バリア、フィールド、結界等、防御系魔法を問答無用で穿つ必殺の一撃です。あれを防いではいけない。私は“ジークファーネ”の石突を床に勢いよく突きつつ、床を蹴って宙へと上がる。直後に鉄球は私の居た場所を通過していき、そして私は今だ伸び続けるワイヤーに降り立つ。

「おおおおおおおおおッ!」

ワイヤーの上を駆けながら、「シュラーゲンファーネ!」“ジークファーネ”の魔力幕を竿に巻き付けて、上段に振り上げる。

「シュテルケン・・・シュラァァァァァクッ!!」

ただ全力で、私の打撃攻撃の1つを繰り出した。振り下ろす“ジークファーネ”を、この方は上半身を反らしてからの「ふんっ!」魔力付加頭突きで迎撃しました。“ジークファーネ”を持つ両手が上に弾かれて、私自身もその場から跳び立って距離を取る中、すごい勢いで戻ってくる鉄球に注意しながら着地する。

「おーおー。仮面を付けていたのを忘れていた」

バキバキと仮面が砕けていき、目出し帽が顕になる。彼は「ええい、もうやめだ」と目出し帽を脱ぎ捨て、その素顔を晒しました。白髪交じりの黒髪はボサボサに乱れておりましたが、彼は“アグリガット”を床に突き立て、両手でかき上げてオールバックにしました。

「シュラーゲンパラディン、ラヴェイン・ビッケンバーグ卿・・・!」

VS・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
其は誇りを捨て堕ちた打撃騎士ラヴェイン
・―・―・―・―・―・―・―・―・―・VS

私を含めた打撃騎士の頂点に立っているラヴェイン卿が、敵として私の前に立っている。卿は床に突き立てていた“アグリガット”を手に取り、「先の返答をしようか、アンジェリエ嬢ちゃん」と肩に担ぎました。

「俺が騎士だからだ!」

予想だにしない返答だったので「騎士・・・?」とオウム返しをしてしまった。目を丸くしている私を見て卿は「ほっほっほ! 騎士とは闘うものだ!」いつもどおりの笑い声を上げました。さらに意味が解からなくなってしまう。

「私たち教会騎士は、日々犯罪者との闘いです! それではいけなかったのですか!」

「応とも! 騎士とは主君に仕え、主君の覇道を切り開く剣! 犯罪者などつまらん小物共の逮捕などつまらん!」

卿が蒼銀に輝く騎士甲冑(フルプレートアーマー)姿へと変身しました。あの姿の前に私は一体どれだけ膝を折ったことか。

「俺たちはそのようなオママゴトに嫌気が差したのだ!」

「な!? 何が嫌気ですか! それが役目ではないですか!」

「歳若く、本当の決死戦を知らぬからそう言える。知らんだろう? 平定前の次元世界の混沌を。あの時代は良かった。非殺傷設定などという、つまらんモノもなかったからな。俺ももう歳だ。最期くらいは騎士らしく、命を懸けた戦いをし、そして死にたいのだ」

私の憧れで、いつか追い付きたいと思っていた卿の、どうしようもなくくだらない動機。犯罪者に落ちぶれても尚、卿に抱いていた尊敬の念も今ので完全に消え失せてしまった。卿はもう騎士ではなく犯罪者と割り切ってしまおう。

「ランツェファーネ・・・!」

“ジークファーネ”を槍のように構え、円錐状に巻いた幕を竿頭に固定して槍の穂と成す。

「カートリッジロード!」

石突と竿の連結部分が上下にスライドして、3連装回転シリンダーシステムが起動。カートリッジを1発だけロード。

「ほっほっほ! 打撃騎士にして槍騎士、そして鎌騎士。器用なものだが、それら一切合財が俺に通じないことは承知だろう!」

「(このような小細工を使わなければ、ラヴェイン卿に届かない・・・)そう思いますか? あなたを打ち倒しパラディンになるべく、日々鍛錬をして――」

――ゼクンデアングリフ――

高速移動魔法発動の手順となる強い踏み込みを行い、一足飛びで卿へと突進。狙うは卿の脇下。そこだけが装甲に覆われていない唯一の弱点。周囲の景色がスローになるほどの高速移動からの、「います!!」刺突を繰り出す。

「ほっほっほ! その手はこれまでに何十、何百と見せつけられているぞ!」

卿が脇下を庇うように体をずらしたことで、穂先がちょうど心臓直撃コースになるけれど、分厚い胸部装甲の前に“ジークファーネ”が弾かれてしまう。でもそれで終わらない。“ジークファーネ”を反転させ、石突の両刃を切り上げますがそれも躱される。

「っと、危ない危ない! それ、お返しだ!」

横薙ぎに振るわれる“アグリガット”による打撃を、「っ・・・!」深く伸脚することで躱す。頭上を通り過ぎた“アグリガット”の風圧に髪が乱れる中、“ジークファーネ”を卿の股下に通し、肩に竿を乗せる。

「せぇぇぇーーーーい!!」

「むお!?」

てこの原理を利用して卿を後ろ向きに転倒させる。ものすごい重さだったけれど、そこはベルカ式自慢の自己強化による膂力を限界まで引き上げるという技術で、卿をひっくり返すことに成功した。卿が置き上がるより先に立ち上がった私は「卑怯と言わないでくださいね!」と、ズンッと両前腕を両足で踏み付けた。

(ルシルさんからは、合図が来るまでは、私たちがどのような状況に陥っていようと偽者のルシルさんを守りながら時間を稼いでほしいと言われていますが・・・!)

卿との闘いとなってしまった現状、私は打撃騎士の1人として卿との闘いを望んでしまった。この戦いが終わったら、素直にお叱りを受けよう。穂先を卿の左脇へと向け、いざ突き刺そうとするも卿は「ふんぬ!」全身より魔力を放出した上で両腕を振って力ずくで私を振り落としてとしてきました。

「む・・・!」

足を乗せていたのが腕ということもあって私が体勢を崩してよろけたところに、卿は私の右足首を掴んで、「それ!」放り投げてきました。屋上の外にまで投げ飛ばされた私の身は宙に投げ出される。飛行魔法を使えない私は、足元に魔法陣の足場を展開して着地。

「まだです!」

――ゼクンデアングリフ――

魔法陣を蹴って、再度卿への突進を敢行。卿は鈍重なフルプレートを騎士甲冑としているため、一度倒れると起き上がるまでに時間が掛かります。今だに上半身のみが起き上がっている状態。立ち上がる前になんとしてもダメージを与えておかないと、こちらが圧倒的に不利になる。

「でぇぇーーーい!」

「無駄だ!」

迎撃のために振るわれた“アグリガット”の鉄球と穂先が激突し、激しい火花を散らす。互いのデバイスが大きく弾かれますけど、卿が自由に出来るのは空いている左手のみ。対する私は体が宙にありながらも全身を使える。

「レームング・ツーフューゲン!」

その空いている左手首を改めて踏み付けつつ、穂と化している幕の魔力を電気変換。弾かれたばかりで伸びきっている右腕によって隙だらけな脇目掛けて、二度目の刺突を繰り出す。確かな手応えに「入った・・・!」と確信できた。

「むぐぉ!? ・・・ほっほ、容赦ない一撃だな、アンジェリエ嬢ちゃん! 惜しむらくは非殺傷設定だということだ!」

今の一撃は、刺した対象の筋肉に微電流を流して強制的に麻痺を引き起こさせるもの。それゆえに卿の右腕がビクンビクンと跳ねています。さらに左脇にも今の一撃を、と欲張ってしまった。

――城砦砕き――

「っ!?」

いつの間に伸ばしていたのか、鉄球が私の真横から飛来するのを視界の端で捉えた。攻撃を中断することは出来ても、防御魔法を発動するにはすでに手遅れなほどの接近を許してしまった。“ジークファーネ”の竿を盾代わりにしつつ卿の上から退こうとした直後に、「うぐぅ・・・!」衝突。

「きゃあああああああ!」

踏ん張りきれなかった私は殴り飛ばされてしまった。屋上を飛び出し宙に放り出されるどころか今度は隣のビルの外壁を突き破り、1フロアの床を何度もバウンドしながらガラスの外された窓からまた外へ。目が回り、バウンドしたことで全身が痛み、地面へと墜落している中・・・。

――城砦砕き――

私が通って来させられたビルの外壁を鉄球が突き破ってきた。私は「解除(アウフヘーブング)!」というキーワードを口にして、円錐状の穂となっていた幕を本来のヒラヒラの幕へと戻す。

「レフレクスィオーンファーネ!」

幕を一回り大きく広げ、「ここ!」ベストなタイミングで鉄球を幕で包むけれど、たださえ破壊効果に特化した鉄球、3秒とせずに幕を砕いた。ですがその僅かな猶予内に軌道を逸らすことが出来、鉄球は明後日の方へと飛んでいった。

「ジークファーネ!」

改めて幕をバサッと展開しつつ、街灯のポールに幕を巻き付けて勢いを殺してから地面に着地。鉄球が卿の元へと戻っていくのを見送りつつ、私と卿を閉じ込めている結界内の至る所に展開されているモニターを見る。イリス達がそれぞれの大隊メンバーと決闘している様子が映し出されています。

(ルシルさん、アイリさん・・・)

お2人は、大隊を罠に掛けるべくルシルさんが仕掛けた使い魔(フェイク)、“エインヘリヤル”です。性格や魔力パターンなどを反映している為、撃破されない限りは本物との区別が付きません。その代わり実力は半分あるかどうか、らしいです。

(・・・イリス達の様子がおかしいですね)

今のルシルさんは除くとして、イリスとルミナとセレスは飛行魔法を使わずに空より飛来する弾道ミサイルを、スキルや魔術のみで迎撃しています。

「他の嬢ちゃん達が気になるか?」

ヒュー!と何かが落下してくる風切り音と共に降って来たのは「ラヴェイン卿!」です。麻痺が未だに残ってくれているようで、腕がビクビクッと痙攣しているのを確認できる。

「まったく。仮にもパラディンなのだから、AMFやミサイルなんぞに頼るとはな」

「AMF・・・!」

まさか、ルシルさんが仰っていた魔術にすら干渉できるという特別なものでしょうか。卿は特にルミナと闘っている翁の仮面持ちに苛立ちを覚えているようでした。卿がパラディンと言っていることから、現拳闘騎士最強のファオストパラディンのガリホディンだと思う。

「・・・つまり言いかえれば、私を相手にするのにAMFもミサイルも必要ないと言うことですか?」

「そうは言ってないぞ。あのようなズルをせずに闘いを楽しみたい、というのが俺の信条だ。AMFで相手を弱らせ、ミサイルで注意を逸らす、などという姑息な手段は嫌いだ。だから提案されても断った」

そうでした。卿は・・・いえ、卿だけでなく古参のパラディンはみな、騎士であることを誇りとしていました。愚直なまでに、竹を割ったような、一本槍な性格。だからこそ私たち下の騎士は、あなた達に憧れていた。黙っていた私を見て、卿が「信じられんか?」と聞いてきました。

「いいえ。それでこそ挑み甲斐があるというものです!」

“ジークファーネ”を振り回した後、地面に石突きを突き立てて「シュラーゲンファーネ」もう一度幕を竿全体に巻き付けての完全打撃仕様と成す。

橙石楠花騎士隊(オランジェ・ロドデンドロン)所属、アンジェリエ・グリート・アルファリオ」

「っ! ほっほっほ! 銀薔薇騎士隊(ズィルバーン・ローゼ)所属、打撃騎士(シュラーゲンパラディン)、 ラヴェイン・ビッケンバーグ」

「「いざ参る!」」

同時に地を蹴って突撃しつつ、デバイスを大きく振りかぶる。卿は左手だけで“アグリガット”を振るい、私は出来るだけ回避に注力しつつ「でぇい!」2m近い巨体のあらゆる箇所に打撃を加えていく。

「なるほど、確かに腕を上げたな! 俺の攻撃を完全に見切っている! 始めからこうして近接戦を仕掛ければ良かったろうに!」

その近接戦に持ち込めないほどにあなたの隙が無かっただけのこと。あぁ、もっと早く名乗りを上げての決闘に持ち込めていれば良かった。

「ええ! 日々、私より強い騎士(しんゆう)たちと鍛錬を積んでおりますゆえ!」

オランジェ・ロドデンドロン内での模擬戦は、私だけでなく隊のみんなを強くしました。ルシルさんには本当に感謝を。彼が卿の戦闘を完全に模倣してくれたおかげで、こうして卿の攻撃をギリギリとは言え回避できている。

「おおおおおお!」

何度目かの脇腹への直撃。分厚い装甲に加え、付加されている防御魔力の影響で決定打にならない。避けられているのに、当てられているのに、まさかここまでビクともしないなんて。

「しかし惜しい! アンジェリエ嬢ちゃんも理解しているだろう! お前の魔力では、攻撃力では、俺の甲冑に傷を付けられない!」

振るわれる“アグリガット”を躱すことにも限界がいずれ来る。それまでに、どうしても防御膜くらいは破っておかないと勝てない。

「(ラヴェイン卿は防御に魔力を全振りしていますから、一度でもその防御を破ってしまえば再展開は出来ない・・・!)だから!!」

――シュテルケンシュラーク――

顔面に向かって突き出された鉄球を「くぅ・・・!」上半身を右横に傾けることで躱して、傾いた勢いのままに両手持ちした“ジークファーネ”を卿の右脇腹に打ち込んだ。でもまた、バチッと私の攻撃魔力と卿の防御魔力が弾かれ合った。このままではこちらの魔力と体力が尽きてしまう。

(ルシルさんが・・・!)

ようやく私たちに課せられていた時間稼ぎを終えていいという合図である、“エインヘリヤル”のルシルさんが消失したのをモニター越しに確認できました。

「ここまで、ですね・・・」

「なに?」

一切の攻撃を中断して卿より数mと距離を取る。卿は怪訝そうな目を向けてきますが、私は無言で“ジークファーネ”の石突を地面に突き刺して、空いている左手を胸元に持って来る。

「我が遠きご先祖、チェルシー・グリート・アルファリオ様。そのお力を今お借りします」

――昇華――

魔力に神秘を載せての魔術師化を行う。

・―・―・回想です・―・―・

「しっかし、大隊に、ルシルクラスの魔術に干渉しうる装甲を造れる技術力があるなんて」

「それに加えて、これまで以上に強力なAMFもあるので・・・。ルシルさんが一緒でなければ私は確実に殺されていました・・・」

トリシュとルシルさんが異世界にて大隊の兵器に襲撃された内容を伺いました。イリスとトリシュが頭を抱えるのも解かります。現在、この次元世界で頂点に立てるのは魔術師でしょう。ですが、その魔術師や、一般的な魔導師を両方弱体化できる兵器が投入されるとなると・・・。

「ただでさえイリスやセレスのような魔術師化や、ルミナのようなスキルを持っていない私たちは・・・」

私とトリシュとクラリスは、スキルも無ければ魔術師化も出来ない。今後の戦いで私たちは足手纏いになるのでは?という不安が湧き上がってくる。私の言葉にトリシュも同じように不安そうな顔を浮かべ、クラリスはいつもどおり黙々とリンゴを齧るだけでした。

「魔術師状態で魔力を込めたカートリッジを渡せば良いと思うけど?」

「だけど明日にも襲われるかもしれない中で、トリシュ達分のカートリッジに割ける魔力ってある?」

「むぅ。それはそうだけど・・・」

私たちが不甲斐ないばかりにイリス達が悩んでいる。悔しさに項垂れている中、「最後の手段を取らざるを得ない、か」とルシルさんが漏らしました。私たちの視線が一斉にルシルさんへと向きます。

「ルシル、何か手段があるの?」

「魔術師オーディンの血を受け継ぐシュテルンベルク家の一員であるトリシュ、そしてセインテスト家やフライハイト家にカローラ家と同じ、魔術時代より続く血族であるアルファリオ家とヴィルシュテッター家の一員であるアンジェとクラリス。君ら3人とも、魔術師化できる才はあるんだよ」

ルシルさんのその言葉に私とトリシュは「本当ですか!?」と前のめりになり、クラリスはやはり落ち着いたまま、バナナを頬張っていました。

「ただ、先ほども言ったように最後の手段とも言える。魂に刻まれた魔術師だった頃の記憶を呼び起こすことになるため、それが魂に何かしらの影響を及ぼす可能性があるんだ。俺やセレスは幼少より扱っていることもあって問題ないし、シャルも前世の記憶と共生していたから負担は無いが・・・」

「「「前世の記憶・・・?」」」

何故、ルシルさんが私たちの前世を知っているのかが判りませんけど、今はそんな疑問など捨て置くだけ。私とトリシュは「それでもお願いします!」と頭を下げてお願いをし、遅れてクラリスが「じゃあ私も。これ代金」と食べ掛けのバナナを差し出すと、「間接キスなど許さーん!」イリスが代わりにバナナを一気食いしました。

「いや、やっぱりやめよう。魂に干渉するのはさすがに危険が過ぎる。シャル、セレス。今からカートリッジを作るぞ」

提案したルシルさんが却下を下しましたが、それはイリス達の負担になるもの。私たちだけ甘えるわけにはいかない。だから「ルシルさん!」と改めて頭を下げる。

「ルシル、やってあげたら? 自分が役立たず、足手纏いみたいなことになるのって、結構つらいものでさ」

「それはそうかも知れないが・・・」

イリスからもフォローが入り、ルシルさんはしばらく悩んだ後に「判った。3人の意思も変わらないようだし」と言い、まず私とクラリスを横並びに立たせました。そしてアイリとの「ユニゾン・イン」を果たし、魔術師化します。

「背中に触れるぞ」

トンッと私の背中に触れるルシルさんは「胸部の痛みは覚悟しておいてくれ」と告げた後、ズンッと魔力を私たちの体内に打ち込みました。物理的な衝撃は無かったのですが、全身が押し潰されそうな衝撃が体内を駆け巡った。

「リンカーコアに神秘付加された魔力を打ち込んだ。さらに、我が手に携えしは確かなる幻想」

複製したものを扱う際の呪文を唱えたルシルさん。直後、ふわっと浮遊感が襲ってきて、眠りにつくような感じです。フッと閉じていたまぶたの裏まで光が差し込んだのが判り、少しずつまぶたを開けてみる。

「っ!?」

そこはフライハイト邸ではなく戦場でした。血に濡れた大地には夥しいほどの死体が無残に転がっています。その光景に思わず吐き気を催すけれど、臭いもないため実際に吐くことはなかった。音も何もないですが、目だけはしっかり機能しているおかげで、私がここに連れて来られた理由が判った。

「エメラルドグリーンの髪に桃色の瞳。私にそっくり・・・というよりは、私がそっくりなのでしょうね」

私の学生時代と変わらない姿をした少女が、イリスやクラリスと瓜二つの女性と話をしていました。おそらくここは魔術師時代。そしてあの女性たちが私たちの先祖であり前世。私の前世と思しき少女は、様々な武器を手に襲い掛かってくる者たちへ向かって「種・・・?」らしき物をばら撒きました。

「指揮棒?のようなものが武器なのでしょうか・・・」

少女が指揮棒・・・というよりは(タクト)のようなものを振りますと、地面に落ちた種が血溜まりを勢いよく吸収し、ものすごい勢いで極太の赤黒い蔦や、巨大なハエトリソウ、蔦の付いたサボテンなど、見たこともない植物が生えてきました。そこから先は一方的な蹂躙です。蔦で薙ぎ払われ、ハエトリソウに丸呑みにされ、サボテンで全身に穴を開けられ、それはもう酷い光景でした。

「これがアルファリオの魔術・・・」

攻撃の魔術は殺すことを前提とした効果ばかりだと伺ってはいたけれど、こうして実際に目の当たりにすれば想像以上に凄惨なものでした。少女はイリス達の前世と分かれ、複数人を引き連れて戦場を駆け巡りました。私もそれに付いて回ったのですが、ある時ふと、「あれ?」と違和感に気付いた。

「解かる・・・。少女の魔術の術式が・・・!」

どうすれば発動できるかなどの知識が頭の中に入り込んできた。その日の戦闘は終わりを向かえたようで、少女はイリス達の前世と合流を果たして、共に無事だったことを確認できたのを喜び合うようにハグしました。

「こんな昔から、私たちは繋がりがあったのですね」

そんなことを思っていると、フワリと浮遊感が襲ってきました。そして視界がぼやけ始め、完全に閉ざされた。

「・・・ジェ、アン・・・、アンジェ、アンジェ!」

「っ!」

ハッとして目を開ければそこはフライハイト邸でした。私とトリシュとクラリスははロングソファの上に寝かされており、2人は未だに眠っているようです。私は名前を呼んでくれていたイリス達に応えるべく上半身を起こそうとしましたが「ぅあ・・・?」倦怠感で上手く起こせなかった。

「今しばらくはそのまま休んでいた方が良い。・・・アンジェ、アルファリオ家の魔術は理解できたか?」

ルシルさんの問いに「はい」と答えると、ルシルさんは私が魔術師化できるようになったことを教えてくれました。確かに先ほどまでとは体内で渦巻く魔力の質が変わったような気がする。あとは魔術師化のONとOFFの切り替えの練習をしようとのことです。

「アンジェ。念のためにコレを渡して置くよ」

ルシルさんが私に手渡してくれたのは1粒の種でした。

・―・―・終わりです・―・―・

今朝早くより練習していた切り替えを行い、魔力に神秘を付加することに成功。“ジークファーネ”の幕を一旦解除し、魔術効果の載った幕を再展開。

「ほ、ほっほっほ! ガラリと雰囲気が変わったな。一体、何をしたのだ?」

「・・・正直に言いますと、このような形であなたに勝つことは大いに不満で、自分の弱さに悔しさがあります。が、今はそんな甘いことは言っていられません。ラヴェイン卿、これで終わりです」

――シュラーゲンファーネ――

幕を竿全体に巻き付ける。卿は僅かに伸ばした鉄球をブンブン振り回しつつ、「勝利宣言か! いいぞ! 俺に勝って見せろ!」と鉄球に魔力を付加しました。

「そーれ! ゆくぞ!」

――城砦穿ち――

高速で鉄球が突っ込んで来ますが、私は“ジークファーネ”を軽く振るって迎撃。鉄球が竿に巻き付いている幕に衝突すると同時、鉄球だけが轟音と共に砕け散りました。卿は目を丸くして呆けています。現状の処理が追い付かないのでしょう。

「はああああああああ!」

「っむ・・・!」

両手持ちしている“ジークファーネ”を、卿の左肩目掛けて振り下ろした。先程までは弾かれてばかりでしたが・・・

「うごおおおおおおお!?」

卿の防御魔力膜や甲冑を容易く粉砕し、卿自身を地面に沈めました。クレーターの底で呻き声を上げている卿は掠れた声でいつもの笑い声を上げ、「合格だ、アンジェリエ嬢ちゃん」と言いました。

「念のためにあなたを拘束します」

コンクリートの地面へと種をポトッと落とし、“ジークファーネ”の石突きでツンと突く。そして魔力を種に通しながら「絡み蔦」と術式名を口にする。種がパカッと割れ、そこより勢いよく伸びる細い蔦6本が卿を拘束しました。
 
 

 
後書き
とりあえず今年中には事件編は終わりそうです。
日常編もある程度入れていきたいので、来年春までは本エピソードは続きそうです。 
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