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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica39-C堕ちた騎士~Bogen Paladin~

 
前書き
暑い・・・筆が進まない・・・辛いよぉ。

ガラガース戦イメージBGM
CATHERINE「ロッシーニ: ウィリアム・テル序曲, 『嵐』 - 2., 『静寂』 - 3.」
https://youtu.be/rODT25ULYkw 

 
†††Sideトリシュタン†††

私たちオランジェ・ロドデンドロンを殺害するべく投入された大隊の主力の中に、私が乗り越えたいと10年以上願っていた相手が居た。弓騎士の頂点たるボーゲンパラディン、ガラガース・バイエルン卿・・・。潜伏や狙撃移動変更が大事な弓騎士であるにも拘らず、その騎士甲冑は迷彩色のフルプレートアーマー。さらにひし形状の盾、カイトシールド4つが側に浮いている。

VS・―・―・―・―・―・―・―・―・
其は誇りを捨て堕ちた弓騎士ガラガース
・―・―・―・―・―・―・―・―・VS

「はっはっは! まさか、このような形で嬢ちゃんと顔を合わせることになるとはな!」

盛大に笑い声を上げて白髪交じりのボサボサ髪を掻いた。でも私は一切笑えない。現騎士団の最古参=幹部であるガラガース卿が敵として目の前に居る。事前に幹部クラスの騎士が大隊と繋がっているであろうことは、トラバント団長の件で考えうる話だったし、みんなで話し合って覚悟もしていた。

(でも・・・あなただけは、大隊側であってほしくなかった・・・)

尊敬する人であり、師匠であり、越えるべき壁であり、一言では表せない大切な人だった。私が睨んでいることに気付いたガラガース卿は真剣な表情になって、「すまぬな~。このような事になってしまってな~」申し訳なさそうに謝った。

「しゃ、謝罪ということはつ、つまり・・・自ら進んで大隊に下ってはいないということですよね・・・!?」

そうだと思った。ガラガース卿が進んで犯罪者になどになるわけない。きっと私たちのように大隊を探るために、大隊の味方のフリしていたに違いない。なんて、安堵していたところで・・・。

「いいや、そうではない。嬢ちゃんと殺し合いという形で決着を付けねばならないということだ!」

ガラガース卿は足元に赤錆色に光り輝くベルカ魔法陣を展開。右手に持つ弩型デバイス・“エクスターゼ”を私に向けた。弓床で1m、弓で80cmもある大きさで、本来は魔力矢(というか杭)を装填して撃ち出すものだけど・・・。

「対人では決して使用しないスタウロスまで持ち出して・・・!」

対物破壊杭(スタウロス)での攻撃に非殺傷設定なんて優しいものはない。私の防御魔法で防ぐのもまず無理。だからこそ「本気で、本気で殺し合いをするつもりですか・・・?」と問う。

「無論。わしも、ラヴェインも、ガリフットも、ここには居らんが大隊に組することを良しとせずに引退したライオネルやマドールといった、俗に言う最古参――幹部と呼ばれるわしらは、管理局という組織がまだ絶対の法の管理者ではなかった頃、教会に弓引く者たちと命を懸けた死闘を経験してきた」

ガラガース卿が小さく上げた左足で魔法陣をズンッ!と力強く踏み付けた。魔法陣から強烈な閃光が発せられ、「ぅく!」私は右腕で目を覆いつつ顔を逸らした。光が治まって、なおもチカチカとする目で彼の姿を探すけど、もうどこにも見当たらない。

「我々はその高揚感を忘れられなかった!」

「っ!」

――スタウロス――

敵意を超えた殺意を感じた私はその場から急いで離れた。その直後に風切り音と共に飛来して、先ほどまで私が立っていた車道に突き立ったのは1本の白銀に輝く杭、スタウロス。完全に私の頭を狙う軌道だったことにゾワっと悪寒が走った。

「しかし組織として安定した管理局が混沌を平定し、秩序が保たれるようになると、それまでの命懸けの戦が・・・今ではまるでお遊戯会だ」

「お遊戯会・・・?」

その言葉に私の全身が拒否反応を示す。新暦になってからも起き続けてる犯罪で、局員や騎士にも犠牲者が出ている。現代でも命懸けで犯罪に立ち向かっている人たちの頑張りをお遊戯会と言ったガラガース卿。

「認めない・・・認められない・・・取り消してください!!」

“イゾルデ”を大弓形態シュッツェフォルムで起動。私とガラガース卿の戦闘フィールドはコンクリートジャングル。狙撃ポイントや身を隠す場所には事欠かない廃棄された建造物ばかりの場所。先に隠れられたのが痛い。

(ガラガース卿の騎士甲冑、フェアシュテック・シュピールは、自在にその色を周囲の景色と同化させることが出来るカモフラージュ機能に優れている。だから周囲に潜んでいても判りづらい・・・)

片側3車線の計6車線というこの大通りを挟むように並ぶビル群の各階層、各窓枠を速読するように見る中、ガシャン、ガシャン、と甲冑の足音が聞こえてきた。けれど反響の魔法を使われている所為で音の出所がまったく判らない。

「とりあえず私も身を隠さないと・・・!」

ガラガース卿の足音が途絶えた。今まさに狙撃ポイントに着いて私を狙っているに違いない。ほとんど意味はないけど、全身を魔力で覆う防御魔法の「パンツァーガイスト・・・!」を発動した。直後、バキン!と、スタウロスが足元に突き刺さった。

(今の軌跡、それに突き刺さってる射角と射線からして・・・向こう!)

飛び散る破片の中、私の目はなんとか狙撃先を割り出すことが出来た。そちらに目を向ければ、2階建ての建物、その2階の窓の前に居るガラガース卿の姿を視認。彼は側に浮いているカイトシールドの1枚の裏からスタウロス1本を引き抜き、“エクスターゼ”に番えていた。

(スタウロスは魔力矢とは違い、装填時間がある! 今の内に・・・!)

その場から駆け出しながら“イゾルデ”の魔力弦を張る。そして非殺傷設定から物理破壊設定に切り替えた魔力矢を番える。

「いっっけぇぇぇーーーーッ!」

――翔け抜けし勇猛なる光条――

「ん? はっはっは! どこを狙ってい――」

砲撃と化した魔力矢が一直線にガラガース卿・・・ではなく、その階下の窓の中へと突入。階下の天井に着弾したことによる魔力爆発が起きて、撃ち込まれた階の全ての窓枠から噴煙が上がる。それだけでなくガラガース卿の居る階の床がその爆発の衝撃で崩れるのを確認。

「はっはぁ! 良い所を突いたな、嬢ちゃん! さすがに崩落に巻き込まれるのは勘弁だ!」

崩落する建物からガラガース卿が飛び出してきた。弧を描くように宙を舞う彼に向けて、新たに生成した魔力矢を番えた“イゾルデ”を向ける。もちろん誤って殺害してしまわないように非殺傷設定に再変更したうえでだ。

「嬢ちゃん! 非殺傷設定なんぞに変更していないだろうな!」

「いいえ、しました! 現代の騎士は殺しはしません!」

――滅び運ぶは群れ成す狩り鳥――

放った矢は30本の矢に分裂して、4本は4枚のカイトシールドを、残り26本はガラガース卿を全方位から襲撃。ガラガース卿のカイトシールドは基本的に自動で防御する機能を持っていて、今まさに多弾攻撃に釣られて、本体である彼はがら空き状態。だから面白いように全弾が着弾していき、そのまま道路へと派手な音を立てながら墜落した。

(この程度でダメージが入らないのは百も承知。だから今は・・・!)

普段生成している40cm級の魔力矢ではなく1m級の魔力杭を生成して、魔力弦に番える。

――とぐろ巻く連環の拘束蛇――

未だに濛々と立ち上っている砂煙へ向けて魔力杭を撃ち込み、カキィーン!と着弾音が響くと同時に砂煙が一瞬で吹き飛び、杭から変化したチェーンバインドに絡みつかれているガラガース卿と4枚のカイトシールドを確認できた。

「デバイスとシールドを破壊させていただきます!」

カートリッジを4発ロードして右手の指の間に2本ずつ、計8本を挟むように物理破壊設定の魔力矢を生成。魔力矢を魔力弦に番えた“イゾルデ”を、「ふんぬ!」ただの膂力のみでバインドを引き千切り始めたガラガース卿に向ける。

――スタウロス――

「づっ!?・・・ぅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・!!」

右太ももに走る激痛に私は悲鳴を上げてその場で蹲った。自然と溢れてくる涙で歪む視界の中に、右太ももを貫いているスタウロスが入った。そんな馬鹿なとガラガース卿を見る。右手には確かに“エクスターゼ”のグリップを握られている。

「なんだ、知らなかったか?」

私のバインドを引き千切って自由の身になったガラガース卿がくいっと動かした顎で、「ほれ」とある場所を指した。そこには「え・・・?」目を疑うものがあった・・・というか居た。

「わしは元々騎乗騎士だ。今もなお召喚獣との契約を続けている。其奴はその召喚獣の子供でな。
本気で戦う際には助けてもらっておるのだ」

ザフィーラさんほどの大きな狼が1頭、そこ居た。ルビーのような瞳は4つあり、先端が目の無い蛇の頭になっている尻尾が5本、ただの狼ではないことは明らか。その狼は、ザフィーラさんのように両脚に装甲を着けていて、背中には旋回台付きの装甲が装着されていて、台にはもう1挺の“エクスターゼ”が備え付けられていた。

(ああいう魔法獣に詳しいクラリスなら種族名を知っていそうだけれど・・・)

尻尾の先端にある蛇頭が銜えているスタウロスに目が行っていたところに、内1つの蛇頭が“エクスターゼ”にスタウロスを番え始めた。さらに「さぁ、次は避けれるか?」ガラガース卿も、スタウロスを番え終えている“エクスターゼ”を私に向けた。

「ぐっ・・・くぅ・・・!」

右太ももにスタウロスを貫かれたまま私は行動を開始。2本のスタウロスに狙われていて、ソレは防御魔法を難無く撃ち抜ける威力。なら身を隠すことを優先しないと。痛みを気合で押し殺し、右手に魔力付加。

「でぇぇぇーーーーい!」

足元を殴って道路を大きく抉り、瓦礫やら砂煙やらを巻き上げて隠れ蓑にする。ガラガース卿は「いいだろう、仕切り直しと行こうじゃないか!」と、私が一時離脱することを笑って許可した。何とか立ち上がって、血の跡が残らないように注意しつつ右足を引き摺って道路を横断し、10階建てのビルのエントランスへと入る。

「抜いたら・・・さすがにダメですよね・・・?」

そもそも触れることすら出来そうにない。今でさえ痛みで泣きそうなのを堪えているのに、自力で抜くことになったらどんな醜態を晒すかも判らない。滲み出る涙を袖で拭いつつ階段を上がって、たどり着いたのは最上階。屋上の方が見晴らしはいいけれど、その分隠れ場所が少ないから却下だ。

(ガラガース卿はどこに移動したか・・・)

上着として着ているショートジャケットの右袖を千切って、ソレで右太ももをキツく縛り上げながら窓枠から頭上半分だけを出して、先ほどまで私たちの居た道路をチラッと見下ろす。ガラガース卿はその場から1歩も動かずに、暢気に狼の頭を撫でていた。

「カイトシールドを解除した・・・?」

スタウロスも左手の指に挟んでいる4本と、“エクスターゼ”に装填済み1本の計5本、そして狼の5本のみ。計10本のスタウロスの猛攻を凌いだうえで確保なり撃破しなければ、私は・・・死ぬ。

(悔しい気持ちはあるけれど、今は生き残りつつ勝つ。それだけを考える!)

カイトシールド1枚につき40本のスタウロスが内蔵されている。それが今は10本だけなら、まだなんとかなるはず。床に落ちている鉄パイプを手にとって“イゾルデ”の魔力弦に番える。狙うのは向かいの3階建ての建物。音で相手の注意を逸らす術の1つだ。鉄パイプから指を離し、直進ではなく弧を描いて落下するように射る。狙い通り鉄パイプは弧を描きつつ向かいの建物の屋根へと吸い込まれ、カラーン!と甲高い音を立てた。

――スタウロス――

狼の背部装甲にある“エクスターゼ”が鉄パイプの落ちた屋根に向けてスタウロスを即時発射。スタウロスは軒先を大きく抉り、空の彼方へと消えていったのが見えた。

「場所を移動しないと・・・」

同じ場所に留まってさらに狙撃するような間抜けな真似は出来ない。右手を壁について体を支え、左足だけでピョンピョンと移動して3つ横の部屋へ。窓枠から顔だけを出してガラガース卿の様子を窺えば、やはりその場から1歩とて動いていないけれど・・・。

「狼が居ない・・・? ハッ!」

――スタウロス――

空の方でチカッと光ったのが判った私は慌てて窓間壁に身を隠す。その直後に耳に届く金属音。そして衝撃と痛みが右肩に奔って「づっ!?」苦悶した。スタウロスは壁を貫通していて、よりによって太ももを縛るために千切った右袖の無い肩を撃ってきた。ただ、幸いなことに直撃ではなく掠った程度・・・とは言っても痛いものは痛い。

「迎撃しないと・・・!」

壁から離れて、痛みを堪えて生成した魔力杭4本を魔力弦に番えて襲撃に備えていると、「オオオン!」鳴き声と共に窓から突入して来た狼。各個撃破の機会を与えてくれたことに感謝しつつ・・・

「捕らえよ!」

――とぐろ巻く連環の拘束蛇・紡ぎ檻――

4本を一斉に射た。狼は瞬発力を以って直撃を避けたけれど、屋内戦でこの魔法から逃れられるのはそうはいない。4本の杭は床、壁、天井を突き刺さり、螺旋状に解けるようにチェーンバインドと化して、部屋を縦横無尽に蹂躙する。

「グォ!?」

「もう逃がさない!」

バインドに絡まった狼がもがく中、私は“イゾルデ”を双剣形態「フェヒターフォルム!」へと瞬時に切り替え、「グォォォ!」咆哮を上げる狼へと突っ込む。噛み付こうと大きな口を開けている狼の鼻っ面に柄を「でぇい!」振り下ろした。きゃいん、と苦悶の声を漏らす狼に僅かなりの罪悪感が生まれはしたけれど、今は押し殺す。

「紫電・・・一閃!」

――皆伝・紫電一閃:(ほむら)――

右手の“イゾルデ”の剣身に炎を纏わせての斬撃を繰り出して、背部装甲の旋回台に取り付けられている“エクスターゼ”を真っ二つに斬り断つ。

――皆伝・紫電一閃:(いなずま)――

左手の“イゾルデ”の剣身には電撃を纏わせ、「ごめんね!」狼の額に峰打ち。感電したことで狼は泡を吹いてぐったりと動かなくなった。非殺傷設定ということでお腹は動いているし、死んではいない。

「スタウロス・・・」

デバイス・“エクスターゼ”と違ってスタウロスには傷1つとして付いていない。ガラガース卿から以前聞いた話では、何かしらの動物の爪を加工した物らしい・・・。“イゾルデ”を再びシュッツェフォルムへと戻して「お借りしますね」スタウロス3本を回収してオーバースカートのベルトに挟み込んで、ガラガース卿との闘いに備える。

「もうしばらくそのままでいなさい」

狼をそのまま拘束しておいて、私はその部屋から移動を開始。狼が私を襲撃したにも拘らず帰還しないことにガラガース卿もすぐに気付くだろうから、どういった行動に移るかは判らない。でもこの場に留まることだけはやめた方が良いというのは判る。

「次はここ・・・」

この階の角部屋へと入ったところで・・・

――五乙――

「っ! 魔力はんの――きゃあああああああ!?」

この部屋にある窓間壁3枚が赤錆色の魔力爆発で粉砕された。その衝撃で私は部屋の奥へと吹き飛ばされて壁に叩き付けられ、床に落ちた瞬間に奔る右太ももから全身へ拡散する激痛に「~~~~~っ!!」声にならない悲鳴を上げた。

(スタウロスが・・・!)

傷口を抉ったことで出血量が多くなって、床に血溜まりを作っていた。このままでは出血によって意識を失ってしまう。それどころか失血死の可能性も。だけどそんなことを考えている余裕がない状況に。ゴゴゴと地響きが起こって、上の階が道路側へ向かって傾き始めた。今の攻撃でこの階の道路側の支柱を全て撃ち抜いたんだ。このままだと崩落に巻き込まれる。そう判ってはいても「足が・・・!」動かせない。

(死ぬ?・・・こんなところで、こんな形で・・・?)

まだ何も成していないのに。たった独りで死ぬなんて嫌だ。だから最後まで諦めずに足掻こう。ルシルさんからは、大隊の本拠地へ潜入するまでは大隊を刺激しないでほしい、と言われていたけれど・・・。

「命が懸かっていれば問題ないはず! ルシルさんと結ばれぬまま死ぬなど真っ平です!」

――昇華――

魔術師化。それが私やアンジェ、クラリスに新たな境地を開かせた切り札。2人は魔術師化するための儀式の際、前世の記憶を見たと言っていたのに、私はそんなことなくアッサリと魔力に神秘を付加させることが出来た。

――トリシュは別にオーディンやその子孫の転生者というわけではないしな。とはいえ魔術師の血を受け継いでいるのも確か。それでいいんだよ。前世の記憶を覗いてもきっと、良い事なんてないはずだ――

ルシルさんはそう言ってました。でもアンジェとクラリスはその前世の記憶のおかげで、前世の魔術を扱えるようになった。対する私はサッパリで。魔術師化を扱いこなせるようになるための修行をイリスとセレスから受けたアンジェとクラリスとは別に、私は苦手とするサポート系の魔法をルシルさんから2人きりで教わった。

(魔法でも魔術として発動すれば、どういうわけか効果がグッと上昇する)

だからルシルさんから教わった魔法はきっと、私を勝利に導いてくれる。

――パンツァーガイスト――

「おおおおおおおおおおッ!!」

魔術として発動した全身魔力防御に加え、無事な左足に魔力を付加して、崩れる側の逆――上下にパックリと割れていく壁へと向かって跳んで、崩壊するビルから脱出。地上へと向かって落下する中、魔法陣の足場を階段状に創り出して降りていく。

――四甲――

崩壊中のビルを撃ち抜いて迫り来るのは1発の砲撃。本来なら全力シールドでようやく防げるような威力。

(大丈夫! 今の私は・・・魔術師だ!)

パンツァーガイストの効果は持続している。それを信じて迫る砲撃に右手の平を翳した直後、砲撃が右手の平に着弾した。でも私に一切のダメージを与えることなく拡散したことで「勝てる・・・!」と確信。魔力攻撃は無力化できることが判り、私は1枚の足場に座り込んで、右太ももを貫いたままのスタウロスを両手で握る。

「イゾルデ、コード・ラファエルを!」

≪Ja !≫

“イゾルデ”のAIにルシルさんから教わった魔法プログラムをすべて積み込んである。それを魔術として発動すればいい。

――六丙――

完全に崩壊したビルから立ち上り続ける砂煙を穿って来るのは魔力矢の連射。射角や射線からして、やはり場所は変えているよう。向こうからは見えていないはずなのに矢は的確に私に着弾していく。だけど、パンツァーガイストの前では効果を発揮できずに消滅し続ける。

「すぅぅ・・・はぁぁぁ・・・。よしっ。ぐっ・・・くぅぅぅぁぁぁぁあああああああああああ!!」

そんな中で私は太ももに巻いていた袖をキツく縛り直して、スタウロスを抜き始めた。そして“イゾルデ”に「コード・ラファエル!」を発動させてからスタウロスを完全に引き抜く。血が噴水のように噴き出すけれど、ラファエルの効果は絶大で、右太ももと右肩の傷口がみるみるうちに塞がっていく。

(失血した分、体に力が入り辛い・・・。でもこれで死ぬことはなくなった)

側に置いておいた“イゾルデ”を手に取って、私の血で真っ赤に染まっているスタウロスを魔力弦へと番える。ガラガース卿の魔力矢は今も尚こちらに向かって射られ続けている。場所はそのままだ。

「空から狙い撃ちしてくれる・・・!」

足場を今度は空に向かって階段状に展開。それをまだ痛む右足も使った駆け上がり、「居た!」ガラガース卿の頭上を取った。彼もこちらに気付き、スタウロスを番えた“エクスターゼ”をこちらに向けた。

――スタウロス――

ほぼ同時に射たスタウロスは、私とガラガース卿の間――約6mの狭間で激突して互いに砕け散った。ベルトに挟んでいたスタウロスを引き抜いて“イゾルデ”に番え、彼もまた番え直した。限界まで引き絞り・・・

――スタウロス――

先に射られたガラガース卿のスタウロスを体を捩ることで躱し、新たなスタウロスを番えようとしていた彼に「お返しです!」とスタウロスを射る。

「むおっと!」

私の射たスタウロスを後退することで躱したガラガース卿の声が聞こえるまで降下した私は、連射の利かないスタウロスではなく、自動で生成・装填できる魔力矢へと切り替えた彼へと「まだです!」2本目のスタウロスを射る。

「他人の武装を無断で使うとはな~!」

――参梅――

ガラガース卿はスタウロスを半歩分横に移動して躱すと同時、弾速重視の魔力矢1本を射た。彼の6種類ある射撃魔法+砲撃は、射られる前はどのような効果か判別できないから面倒。しかも矢を射った直後だったこともあって直撃。でも・・・。

「なに・・・!?」

「もう通用しませんよ!」

衝撃はあったけれど痛みは一切ない。驚愕しているガラガース卿は、「威力が足りなかったか!」見当違いなことを言って、“エクスターゼ”の銃床に設けられているカートリッジシステムを起動。カートリッジを何発かロードした模様。

「最後のスタウロスです!」

ガラガース卿から数mと離れた場所に着地すると同時に、「少しは痛い目に遭ってはどうです!」番えていたスタウロスを射た。

「よかろう! 痛みは死闘の証だからな!」

回避行動に移ってはいたけれど、ガラガース卿は完全に避けきれずにスタウロスを左肩に受けた。さすがスタウロス。圧倒的防御力を誇る彼の騎士甲冑を貫通して、腕の装甲の隙間から血を流させた。

「フェヒターフォルム!」

ガラガース卿へと突進すると同時、“イゾルデ”を双剣形態にする。スタウロスが左肩を貫通して痛いはずなのに、彼は流れるような動きで魔力矢を装填した“エクスターゼ”を私に向けた。

「次の一撃は強いぞ!」

――壱松――

「紫電・・・十字閃!」

魔力付加した左の“イゾルデ”で射られた魔力矢を斬り捨てて、右の“イゾルデ”で“エクスターゼ”の弓を真っ二つに斬り断ち、ガラガース卿の攻撃手段を完全に失わせた。

「せぇぇぇーーーい!!」

間髪入れずに両“イゾルデ”による峰打ちで甲冑を砕こうとしたけれど、ガラガース卿は左肩を貫くスタウロスを瞬時に引き抜いて、ソレで私の一撃を防御した。魔術としての一撃にも拘らずスタウロスを切断できなかった。

(でも、敗北を先延ばしにしただけ・・・!)

両“イゾルデ”で追撃しようとしたその時、「あぐっ!?」何かが私にぶつかってきた。完全な不意打ちに私はよろけてしまい、さらに「惜しかったな嬢ちゃん!」ガラガース卿は、私の左肩にスタウロスを突き立てた。

「あっっっぐっ、ぐぅぅ・・・あああああああああああああ!!」

ただ突き立てただけじゃなく、グリッと動かされて痛みは何倍にもなった。痛みに悶えている私はまた、何者かがぶつかって来た所為で地面に仰向けで倒れ込んでしまった。それで私に2度もぶつかって来た者の正体が判った。

「狼・・・!」

ビルの崩壊から姿を見せていなかった狼がそこに居て、ギラリと鈍く光る牙を私に見せ付けてきた。

「ぐぁ!?」

狼から離れるべく動こうとした私のお腹を、ガラガース卿はズンッと踏み付けてきた。そして私の左肩に突き刺さったスタウロスを引き抜いた。声にならない悲鳴を上げる私。肩は激しく痛み、お腹も踏まれて苦しいし重いし、痛い。

「あぁ、本当に惜しかった。久々に楽しい戦闘だったぞ、嬢ちゃん」

私の血を滴り落とすスタウロスが振り上げられた。

「ど、退いて・・・退け・・・退けぇぇ・・・!」

私のお腹を踏み付けているガラガース卿の脚甲を“イゾルデ”の峰で打って破壊し、素足を切り落とさない程度に浅く斬って退かそうとするも・・・

「さらばだ!」

無常にも私の心臓目掛けて振り下ろされた。
 
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