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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第109話 魔人アイゼルの願い

 VSランス。

 その戦闘はあっさりと終わった。


「まぁ、こうなるわな」
「普段のランス殿であれば、こうも早くは終わらないでしょうが」
「当然だ。コイツとも もう長く付き合っているのだからな。この男の強さもよく知っている」
「うむ。我々の中に負傷者が出ず終えた事は良しとしよう」

 もう、ユーリは勿論、リックや清十郎、トーマも戦闘に加わる事は無かった。
 ランスの実力は認めているし、間近で見ているからこその評価だ。

 だが、今のランスは普段のランスとは程遠い。最初から、寧ろ女性陣のみで問題なかったと言える。


 トパーズの言った通り、洗脳により確かにランスの能力は飛躍的に向上したと言って良い。
 最初からそれなりに強かったランスの腕力や敏捷性、回避能力、そう身体能力の全てが更に向上したと言えるだろう。
 
 だが、戦いにおいてレベルは確かに重要な要素だと言えるが、それは明らかな格下相手に通用する事だ。レベルが高くともそのレベルの身体能力を使いこなせてこその話で、未熟者であれば通じるかもしれないが、本物の熟練者には安易には通用しない。ただ身体能力だけが上がれば勝てる、と言うのは難しいと言うのが現状。
 ただのモンスター相手であれば別だが、知性の高いモンスター達にもきつい。

 ランスが持つ数々の強い武器。それは 強運(悪運?)に加えて、頭の回転も速く状況把握能力も優れていると言う事。つまり 脳の強さと纏められる。
 更には持って生まれた天賦の才驚異的な成長速度もあるが今は置いておこう。


 勝負事に勝つ鉄則は至って単純(シンプル)。敵が最も嫌がることをやり続ける事。


 ランスは、それらを瞬時に頭に浮かべ、持ち前の行動力で実行に移す。傍から見れば卑怯、ととられるだろう。(事実、大抵言われ続けているし)だが、戦争において卑怯と言う言葉は存在しない。卑怯な相手が反則負けになるのであれば 良いがそう言うのはあり得ない。戦争はスポーツなどではないのだから。

 つまり―― ただ力の上がっただけのランスでは、相手にならないと言う事だ。意識を失っているも同然の今のランスは、平常時の半分以下かもしれない。

 

「あんぎゃーーーー!!」



 だからこうなる。

 最初の無数の剣や槌の攻撃(勿論峰打ち)そして、妙に魔力を込めた魔法の嵐。
 個の戦闘の中で、最も目を向けられたのは、フェリスと志津香の合体魔法だ。

 光と闇の魔法を合わせた凶悪極まりない魔法を放った……。私怨が非常に込められた一撃で、ランス死ぬんじゃないか? と思ってしまったのだが、殆ど誰も止める者はいなかったので、まさに日頃の行いの~ と言うヤツである。

「らら、ランス様ぁ。ごめんなさい、ごめんなさい……」
「ダーリン! ダーリーーン!」
「泣かないでください。シィルさん、リア王女。早くヒーリングをしますので。セルさんも宜しくお願いします」
「勿論です。解りました」
「あ、ありがとうございます。クルック―さん、セルさん」
「うぅぅ……」

 勿論ランスがやばいのでは? と一瞬は思ったが それ位で死ぬとは誰も思っていないのだ。何だかんだで、戦争中は活躍し 力も付けてきた男だから。

「ちょ、ちょっとぉ、なんでこーなるの!?」
「あぁ……っ やっぱり……」
「生半可な力じゃアイツにはやっぱり……、ってか、それ以外のも人外なのばっかじゃんっ!!!」

 使徒、宝石3姉妹は今更ながら気付いた様だ。
 この人類最強パーティーの凶悪さを。……間近でジルと接した為か 色んな意味で麻痺していた様なので、一概に彼女達を責められないが。


「(……やばい。めちゃめちゃすっきりした……)」
「(本当に大変だったんだし。……ちょっとくらいボーナスあっても良いよね? ま、まぁ ユーリだって苦笑いしてるだけだし)」
「……もうちょっと魔力込めた方が良かったかしら?」
「や、やりすぎだってば、志津香ぁ……」
「冗談よ」
「(じょーだんに見えないってば!)」


 互いになんか艶々とした顔を見せるかなみとフェリス。物足りなそうな顔をしている志津香。全くをもって冗談言っている様に見えない志津香。また、魔法を使おうとしかけた志津香。

 どれだけ日頃の鬱憤がランスに溜まっているか判る瞬間だった。

「あっひゃっひゃっひゃ!」
「笑い過ぎだろー? ロゼ。まー たまには良い薬だとは思うけどな? あの薬だけはウチでも作れねぇし」

 大笑いするロゼとそれなりにすっきりした様子のミリ。

 まさに士気向上。

 そして、指揮が駄々下がりなのが使徒側。

「くぅ、人間が何でここまで……。ええい、立ちなさい! ヒーリングされてるし、丁度良かったでしょ!」
「どりゃああああああ!!」
「って、きゃああっ!? せ、洗脳解けてる……!?」

 倒れたランスだったが、クルック―とセル、シィルの魔法で復活。そのまま使徒に向かって大ジャンプ。

「おっほーう、元に戻ったか、心の友! いやぁ、嬢ちゃんたちの殺気が凄くて、儂も委縮しちゃってたよー。あーこわいこわい」

 カオスもほっとした様子だった。
 あのまま、ランスと共に塵も残さず消され―――と頭に過っていただろうから。

「っっーー! も、もう此処は退くよ! この人数……最初っから無理だったんだよ!」
「くぅ、ノスのヤツめ、絶対判っててこうやって……!」
「先ずはエスケープです! ハリーアップ!」


 使徒達は一目散に逃げていくが。

「うおおおおおおお!!」

 止まらないのはランスだ。
 獣の如き勢いのまま、追いかけていったから。

「おーおー、あいつめちゃ怒ってるなぁ。よっしゃ、さっさと追おうぜ」
「だな。あいつらを放置するのはあまり宜しくないし」

 其々に色々と言いたい事はある様だが、今はランスを追いかけて、先へと進む事を優先したのだった。








 

「くっ、ノスはアイゼル様のご想像通り……、ホーネット様の派閥の魔人。その関係者たちを……」
「だからこんな無茶な命令をしたって訳だろ、絶対! そもそも、ノスと戦える様なヤツらを、指落としちゃう様なヤツを僕達が相手なんかできる訳ないんだ!」
「……もう何言ってもノーリッスンでしょうが、2人ともエスケープにコンセントレート! ……バット、今 リターンしても、恐らく待っているのはデッドエンド。……ノスは私達を。アイゼル様をキルするとしか……」
 
 暗雲漂う使徒達。
 向かっても死。退いても死。殆ど八方塞がりになってしまったから。運良く逃げ出せたとしても、魔王が復活した今――もう、逃げ場など最初から無いのだから。

 そして、結末はもう直ぐにやってきた。


「うおおおおおおー――!!」


 ランスの叫び声と共に。
















 そして、数十分後。

「……………………むっ? ここは何処だ?」

 実はランスは洗脳にかかりっぱなしで、本能のみで動いていただけだった。
 色々やって、すっきりした様で目を覚ましたみたいだ。

「あの性欲の悪魔……」
「絶対に手加減する必要なんてなかったのよ。今からでも燃やしてやろうかしら?」
「悪魔の私も同情するわ……。可哀想な使徒達」

 横たわって身体中にドロリとした白濁液を付けられ、ぴくぴくと痙攣してる3人の使徒。
 リミッター解除をしたのは使徒のトパーズだ。その力は精力にも影響したらしく、10回ほどランスが達して……漸く終わる事が出来た。
 もう殆ど意識はないと思うが。

「ランス様っ! 元に戻られたんですか!」
「おう、シィル。なにを言っている? オレ様は気分爽快で完璧な状態だぞ」
「ら、ランスさん! は、早くズボンを穿いてください!」
「あー、ダーリンっ、リアがしてあげるねー。まだ ダーリンの滴り落ちてるぅ~」
「ん? おお。がははは。すっきりー」

 粘液にまみれたランスのハイパー兵器。……いや、何がとは言わないが ある程度発射したので、さっきまで そそり立ってた、それは首を下ろしていた。リアが掃除を~ とランスに抱き着いて、喜々としている。

「なんだかわからんが、一件落着だな! マリアの後始末もオレ様にかかれば大した事なし、だ」
「うー……、否定したいけど出来ない。すっごいショックー」

 マリアはある意味意気消沈。
 ランス以外のメンバーが頑張ってくれたおかげと言うのが大きいのに、ランスに言われてしまって……だ。でもそれはいつも通りなのである。

「さぁさぁ、十分に楽しんだだろ? とどめを刺して次行こうぜぃ!」

 喜々としてるのは、ランスが持ってる剣、カオスも同じだった様だ。
 魔人を斬ることを喜びとしている為、その使徒ともなれば 魔人程ではないがやはり興奮する様である。でも当然ながらランスからの許可が下りる訳がない。

「オレ様は可愛い子は殺さんと、何度言えばわかるのだ。この駄剣」
「ちっ、いけずじゃのう。こいつらも使徒なのに……。おーい、ユーリ兄ちゃん。儂使って、斬らない?」
「ちょっと飯でも食いに行かね? ってノリで変な要求するな。……オレも却下だ。もう脅威ではない」

 ユーリは一瞥するだけで、ランス同様に カオスの要求を却下。そして不貞腐れるカオス。

「だぁ、やかましいぞ駄剣。オレ様が殺さんと言えば殺さんのだ! ユーリのヤツを使っても殺させんぞ!」
「えーん、いけずな奴ら~」
「……何か、オレがカオスに使われる、って感じだな。今の言い方」

 はぁ、とため息を吐くユーリ。

「それは兎も角、もう一度戻りましょ。元々マリアを助けに来るのが目的だったんだし」
「ああ。そうだな。ランス、帰り木を使ってくれ」
「こら! ユーリ! 貴様が命令するんじゃない!」

 と、文句を言いつつもランスは帰り木を使用し、この場から脱出したのだった。




















―――そして、場面は残された使徒達。



 ランスに手加減抜きのお仕置きフルコースを受けて、まだ足腰が覚束ない様子だったが 懸命に立ち上がっていた。

「あ、あぅぅ…… うぐぅ……」
「っ……… く、ぅ…… にど、もさんど、も……」
「い、いやぁ…… アイツ、アイツも嫌い……」

 まさに死屍累々。生き地獄を体験した……と言わんばかりの表情だった。

 だが、彼女達にとっての本当の地獄はここからだ。


「お? こいつらって確か―――。あ、そうだ! こいつら魔人の使徒ってヤツじゃねぇか!」


 それは洗脳が切れたリーザスの兵士1人ザラック。
 運よくランス達の襲撃の際には、ヘルマン兵達の後ろの方にいて助かっていた様だ。

 そして、目の前には美味しそうな上に、弱っている美少女が3人いる。

「ケケケ。ストレスたまりまくってたんだよなぁ、丁度良いや! 捌け口見つけれたぜぇ!」
「きゃあああ!」
「な、なにっ、ああ、集中が、切れて…… や、やめ、やめ…… ストップ……」
「なに、なにすんだよっ……! さ、さわるなぁ……!」

 3人対1人ではあるが、弱っている3人に抗う術はなかった。1人は倒され、もう1人は脚を蹴られ、更にもう1人は押し倒した。

「ひひひ。まずはっと」
「あぐっ……! が、がぁあああ」

 ゴキリ……。と鈍い音が響く。それがガーネット自身の骨が折れる音だと気付いたのに時間は掛からなかった。

「あ、ああ、や、やめ……」
「逃げられたら勿体ねぇしなぁ。動けなくなっててもらう……ぜっ!!」
「っ、あ、あ゛、ああああァァァァ!」

 今度は手に持った槍を、トパーズの脚に突き刺した。槍は大腿部を貫通し、地面に突き刺さる。標本の様に固定されてしまった。

「さぁて……。へへ、良かったなぁ? 青い髪のお嬢ちゃん? あいつらと違ってそこまで痛い目みずにさぁ。オレ、巨乳好きだし」
「ど、どんとたっち……! ユー、なんて、ことを……!」
「なーに言ってんだ? テメェ。お前らだってオレらに酷ぇ事してたじゃねぇか。何人殺した? それに比べりゃ可愛いもんじゃねぇか。オレはよ。リーザス兵達全員の代弁をしてるだけなんだぜ?」

 サファイアの豊満な胸を鷲掴みにした。握りつぶす勢いで握り上げ、その先端部分。最も敏感な部分を同じく潰す様に摘み上げる。

「あ、あ、ああ、や、やめ……い、痛い、痛いぃぃ……!」

 あまりの痛みに ぽろぽろと涙を流すサファイア。

「泣いたって許してやるかっての。はぁ、それによぉ、聞いてくれよ。オレはほんとは本命はメナド副将だったんだぜ? 前々から狙っててさぁ。ああいうチョロい女って、ちょいと褒めてやればイチコロだって思ってたんだけどよー、それが全然でな?」
「あぐっ、や、や、ああ、ああああ……」

 ぐっ、ぐっ、と乱暴にサファイアの秘部を己の身体の一部で貫いていく。それはランスよりも遥かに乱暴。女を何とも思わない暴力そのものだった。サファイアも話を訊く余裕など一切ない。ただただ、早く終わってくれ、と願うしかなかった。

「なんであーなっちまったのかーって。嘆いてよぉ……。いつか犯してやっちまおうか、って思ったりもしたんだが、腕は赤軍の中でも一級品。敵わなくてなぁ。オレ貧乏くじばかりだったんだよ……。うっ、っと そろそろまず一発目」
「ぁ、ぁ、ぁぁぁ……」

 自身の身体の内に流される不快なモノ。……何度か経験したが、これまでで一番不快なモノだった。
 
「ふぃぃ……。戦争に乗じて襲ってやろうか、とか。洗脳されてるふりして~とか考えてたんだが、ぜーんぶ当てが外れたんだっと。ほれ、もう一発」
「……………」
「あ? 反応が薄いな? オラっ!!」
「ぐぇっ……!」

 どぼっ、と腹部に一撃を入れる。白濁液が逆流し、体外へと流れ出るのを薄ら笑うと。ザナックは続けた。

「終わると思ってんの? オレ、精力剤持っててよぉ。ほれ これメッチャ強力なヤツ。飲めば後10回以上はいけるかもだぜ? ……それに、最後はきっちり殺すつもりだから。お楽しみが終わる時は人生終わるって事だぜ」
「っ……っっ……」
「備えあれば憂いなし。ってなぁ。お前らの首もっていきゃあ 出世できるかもしれねぇ。うひひひ、貧乏くじばっかりだったが、人生バラ色になりそうだ!」


「い、いや……い、いたい……。さ、さふぁい、あ………」
「や、やめ、やめろ……やめろ……!?」

 甚振られ続ける仲間を見ている事しかできない。折れた足は、貫かれた足ではどうしようもなかった。回復を図ろうにも、先ほどの一戦から魔力も殆ど回復していない為、出来なかった。

 仲間がゆっくりと壊されて行き、最後には本当に命を奪われる。その瞬間をただ見ているだけしかできないのだろうか。

「……ぅ、ぅぅ」

 確かに人間を沢山殺した。報い――と言われればそうなのかもしれない。それでも、ここまでの下衆な男に殺されるのには抵抗があった。
 
 まだ、あの解放軍の連中の方が数段マシだと。

「ぎゃははははは!! さぁさぁ、人生最後のセックスだ。お前ら派手にイケよ!?」

 狂瀾の笑みを浮かべ、笑い続けるザナック。







 
 だが、その笑みは長くは続かない。





「―――これはリーザスの癌だ。別に処理しても良いよな? メナド」
「うん。……ボクが」
「いや、俺が殺る。確かに上司であるメナドがするのが筋……とは思うが、こんなヤツで手を汚す必要などない。まぁオレのエゴだと思ってくれ。オレが斬る」

 後ろから、声が聞こえてきたから。


「あん? いったい――だ、……れ………?」


 振り返ろうとした次の瞬間には、その首は胴体と別れを告げていたから。首が宙に浮き……自分の身体を見るザナック。あるべきところに頭がない。噴き出している血が見えるだけだ。意識がなくなる最後まで、何が起きているのか全く分からなかったのだった。


 その後、ユーリとメナドはサファイアを介抱。ガーネットとトパーズの方も介抱をした。

 その最中にメナドは口を開く。

「本当はレイラさんを待ってから、ここに来る予定だったんだけど、城の中程じゃなくても外も大変だからさ。まだモンスター達が暴れて。赤軍の何人かを残して、ボクが先に来たんだ。……良かった。ユーリが此処にいてくれてて。東の塔に何人か洗脳されてた兵達もいるって聞いてたし、心配してたら案の定、皆倒れてたし。……それに、こんな時だけど ザナックの本性も知れてある意味良かったよ」
「……メナドのせいじゃないからな。下衆は何処にでもいる。どうしようもない様な悪党がいるのと同じ様に。尽きる事など無いんだ」
「う、うん。……判ってる。ありがとうユーリ」

 頭を撫でるユーリ。それを嬉しそうに微笑みながら受けるメナド。

「ところで、ボクは良かった、って思ってるけど……、ユーリはなんで戻ってきてたの? 目的は達したーって聞いてたよ? それに 他の皆は帰り木で一度戻ったとも聞いてたんだけど」
「ああ。簡単な事だ。少しばかりあの使徒達に用があってな」

 気を失っている3人に目をやるユーリ。安心したのか、或いは痛みのせいでそのまま気を失ったのかはわからないが、生きているのは間違いない為、とりあえず安心だ。
 
「そっか。でも 思い出しても腹が立つよ。ボク、そんな軽い女なんかじゃないのに!」
「ははは。馬鹿みたいにデカい声だったからな。そのおかげで、こいつらを殺されずに済んだが」
「うん。例え敵だとしても、あんな風に殺されるのは見てて気分が良いものじゃないからね……っと、これで良し」

 メナドは一通りの処置を終えて立ち上がった。

「メナド。こいつらはあんな目に遭っていたし、まだ負傷しているとは言え使徒だ。ここから先はオレに任せてくれ」
「う、うん。お願いね。ボクは 負傷者や倒れてる人達を皆と一緒に運び出すよ」
「頼む」

 使徒の実力はメナドも良く知っている。そして その使徒相手に圧倒したユーリの事も。
 それでもユーリひとりに任せるのは――と思うが、それでも他にもやる事は沢山ある。
 この東の塔も洗脳がとけた兵士と救出に来た兵士で慌ただしくなってきた。……もう ユーリと離れなければいけない。不謹慎だが、メナドは名残惜しくも感じていた様だった。

「なにかあったら直ぐに呼んでね? 絶対だよ」
「ああ。勿論だ」

 メナドはそう告げると、足早に去っていった。

 そして この部屋はユーリとまだ目を覚ましていない使徒だけになった。

「さて……、ここに戻った言い訳、もうちょっと考えてないとな。説明してない志津香辺りが疑いそうだ。……だが、その前に客人か」


 ユーリは ゆっくりと立ち上がった。
 背後を振り返り、そこに足っていたのは。




「……まずは、礼を言わせて貰えますか。私の大切な使徒達の命を救ってくださり、感謝します」




 魔人アイゼルだった。

「礼には及ばない。……あの手の輩は嫌いだ。だから斬ったまでの事だ。それにたとえ遅れたとしても、アイゼルが殺っていただろ? 遅いか早いかだ」

 構える様子も見せず、ユーリは淡々としていた。魔人に背後をとられたと言うのにも関わらず。

「……落ち着いているんですね。魔人の私が後ろにいた、と言うのに」
「戦意があるか無いかくらいわかる。……その一欠けらも無い者に警戒する必要などない」
「ふっ……、そう、かもしれませんね」

 アイゼルは、使徒達の傍へと行き ひとりひとりの頬を撫でた。その後ユーリを見る。

「率直な、……正直な気持ちを、貴方に伝えましょう」
「……ああ」
「今の私は、貴方達と共闘をしたい、と考えてます。サテラも同意見だと思われます。口では認めないかもしれませんが」


 まさかのアイゼルからの申し出だった。魔人が味方に付けば 心強いどころではない。歴代において、魔人と人間の共闘はあり得なかった。歴史的瞬間とも言える光景だ。

 だが、それが無理だと言う事はユーリも判っていた。


「ノスのこの凶行。……私に断りもなく私の使徒を使い、そして あわよくば葬ろうとしたこと。私の使徒が死んでも良し。貴方達が死ねば尚良し。その構えだったんでしょう。……あの男は 先代魔王ガイに繋がる者を、少しでも繋がる者を心底憎んでいます。今までは、ジル様…… 魔王ジルを復活させるまでは 使える駒として見て、それが叶えば、1000年も恨みつらみを重ねた憎悪を、ぶつける。………私は見誤っていました。本質を」
「だろうな。……ジルへの狂信は あれだけだがオレも見ていてよく判った。並大抵じゃない」

 人間であれば10回ほどは人生が終わる期間の間、ずっと押し殺してきた感情だ。どす黒い物がノスの中に渦巻いている事くらい想像がついていた。

「私の気持ちは それです。ですが……それもこの先 私にはもう命が無いのですから…… そう安易に手を伸ばしてしまったのかもしれませんね」

 自虐的に笑うアイゼル。

 人間に付く――などと、普通は考えない。考える訳がない。今は特別。

 そう言っている様だった。アイゼルは、今の現状。人側についても このまま魔人側にいても、どちらを選んでも死ぬのであれば、最後は抗いたい、と言う思いから人間側に付く結果になった。ただそれだけなのだ。ホーネットを否定するノスの傍にはいられない、と思ったのが一番だろう。 

 そして 人側に付こうがそのままでいようが結果は変わらないのはユーリにも判っていた。
 
「魔王に牙をむく事は出来ない。……だろ?」
「……………はい。その通りです。魔王との血の契約は、想像を絶する程に重い。ジルは魔王としての血を殆ど失っている筈なのに、私は歯向かう事が出来ません。ジルが『首を落とせ』と命令を下せば、それだけで私はそのまま命を絶つでしょう」
「……………」
「ふ……、私は醜いと思っていた人間達の中に見た光を。貴方達の傍でそれを感じ、死に向かいたい、と思っているのです。共闘をしたい……と言いましたが、実際には恐らく共に戦う事は出来ないでしょう。魔王がいる限り、私は無力です。……ですが、傍で死なせて貰いたい。今更言う様な事ではありませんが……、それを許していただきたい、と思っています」

 それを訊いて、ユーリはゆっくりと立ち上がる。

 そして、リ・ラーニングを駆使し、一度看破したアイゼルの無敵結界を抜いて アイゼルの顔面へと拳を振り切った。
 ドゴォッ! と常人であれば首が飛びかねない勢いの拳をアイゼルは受ける。そのまま地に叩きつけられる格好になった。
 頬が赤くなり……やがて、頬が少し切れたのだろう。一筋の血が流れていた。

「この馬鹿野郎が。魔王には逆らえないし、そのまま殺されるだけ。だからオレ達の傍で死ぬ? ふざけるな。ふざけるなよ! お前はホーネットに忠誠を誓ったんじゃないのか? ホーネットは魔人だ。それ以上でもそれ以下でもない。魔王の血の強制的なものではない。それでも彼女の下に付いたのは 自分で考え抜いた結果だろうが。ケイブリスではなく、ホーネットを信じたんじゃないのか!? なら、最後までその命はホーネットに預けろ! 彼女の傍にいろ! オレには、オレ達には無用だ!」

 ユーリは そう言って拳を戻す。

「……訊けば、ノスはホーネットの事を殺すだろ。元々、使徒たちに現状を聞くつもりだったが、手間が省けた。アイゼルの言葉とノスの狂信ぶりを見たら十分だ。……その怒りが彼女にまで届く」

 そして視線を上に向けた。


「――ノスを、……魔王を倒す理由がまた1つ出来たな」
 

 その強い決意が現れた表情。
 アイゼルは、頬を触りながら ユーリの顔を見た。


――殴られたのなど、一体いつ以来だろうか。


 と思うのと同時に、どうしても訊いてみたくなったことがあった。


「宜しければ…… 聞かせてもらえませんか? 貴方と――そしてホーネット様の関係を」





























~人物紹介~


□ ザラック

Lv21/22
技能 剣戦闘Lv0 盗人Lv1

 リーザスの赤軍の1人。メナドの事は彼女が門番時代から何かと目を向けており、その後一足飛びで副将まで昇格した彼女に嫉妬心を向けつつも、いつか絶対にモノにすると新たに持っていた。
 軍内でも公金を横領しようと画策したり、自分よりも格下と認定すると、陰湿なイジメをした後に金を巻き上げる等、人間の屑と言っていい男。因みにマリスには尻尾を掴まれており、ヘルマンの襲撃が無ければ処罰される対象だった、と言うのは別の話。あっさりとユーリに首を落とされ、何が起きたのか判らないまま生涯を閉じる。 
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