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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第108話 ランス絶体絶命?



 それは、丁度ランスが目を覚ました時間帯。



~ リーザス領 とある森の中~


 姿を隠すのにはもってこいの場所にパットンを抱えたハンティはいた。
 異次元から元に戻り、パットンの方に向き直す。
 
「パットン……、しっかりしな、パットン!」
「……う…………っ…… あ、ああ、ぅ ぐあ……」

 朦朧とした意識を、体の痛みが無理矢理に覚醒させた。
 パットンがはっきりしているのは、肩を支えて、容赦なく叱咤の声を浴びせ、そうして歩かせ続けている温もりだけだ。
 だが、温もりは体温だけであり、随分と檄が飛んでいて感じてる暇も無かった。

「何情けない声上げてんだい! ユーリの…… アイツがくれた回復アイテム使ってんだ。随分と治った筈だよ!」
「ふぐあぁっ!?」

 ゴスっ! と頭に痛みが走る。どうやら殴られた様だ。
 そう――丁度 ハンティが異空間に飛ぶ前に、ユーリがトーマに託し、そしてハンティとパットンに使った回復アイテム《月の加護》は、瀕死状態だったパットンを、負傷していたハンティを癒し、助けていた。あの傷で、ヘルマン人の巨体、パットンを運ぶ事が出来ているのも、月の加護のおかげ……そう、ユーリのおかげだ。
 とは言っても、完全回復と言う訳ではないから、まだ怪我人である事は変わりない。でも、ハンティはそのくらいなら大丈夫、精神である。

「痛いのだって気のせいだ!」
「う、うぐぐぐ……」
「しっかりしろってんだよ。お前は皇帝になるんだろ! こんなもんで痛い痛い泣いてんじゃない」
「う、くっ………」

 意識を失う前の強烈な痛みと死への恐怖。それらが脳髄にまでしみこまれていたのだろう。病は気から……、精神を蝕まれたパットンは幻肢痛に似たものを感じ取っていた。
 だが、そんなのは甘えだ、と一瞬するハンティがパットンを更に叱咤。

「ショック療法だ。雷撃!」
「あばばばばばば!!!」

 普段のお仕置きの魔法を今放つのも大概鬼畜だ。だが、それでもハンティはやる理由がある。パットンを強引にでも起こす必要性があったのだ。

「う、さ、流石に今のは、酷い……」
「あんだって?」
「い、いや、何でもない……。こ、ここは……?」
「あぁ、漸く周囲に目が行ったのかい。ここはまだリーザス領土。その森の中だ」

 生い茂る木々に目をやるハンティ。太陽の光も疎らに遮る木々は姿を隠すのには丁度良いと言えるのだが、あまり悠長な事はしてられない。

「とっとと安全な所にまで行くよ。何が追っかけてくるかわからないからね。今だけはあんたはスターさ。魔人クラスのね」
「わらえん、話だ」
「………よし(時間は殆ど経過してない)」

 パットンを起こす事にやや夢中になっていた為忘れていたのか、ハンティは改めてパットンを見て、安心していた。
 
 ハンティの使用する魔法 瞬間移動は 欠点があり、異次元へと入り込み、そして出た時、肉体が負荷に耐えかねて老いるのだ。時間さえ捻じ曲げる異次元に生身が入り込むだけでも相当な負荷であり、その全容はハンティも把握はしていない。人体実験でもしない限り 立証が出来ない為である。
 寿命の無いハンティはともかくとして、パットンはこれでも人間。危険な賭けとも言えるが、今一番危険な賭けを、危険な勝負をしているのは ユーリとトーマ、解放軍の者達だ。
 彼らに比べたら、この程度は我慢してもらおう、とハンティは力を入れる。

「(パリエナ。ちょっと厳しめにいくよ。こういう事態に陥っちゃったのも、監督不行き届き、ってヤツだからね。保護者失格だ……)」
「………ぬ、ん。もう、だいじょうぶ、だ」
「おっ?」

 ハンティは目を見開く。
 パットンは手を開き、そして握りを数度繰り返す。足もしっかりと地を踏みしめており、おぼつかない様子はない。歩くのはまるで問題ない。

「歩ける」
「……よしっ」

 ハンティの肩を借りていたパットンは自分の足だけで立ち上がる。
 一瞬、くらり とその巨体が揺れるが、どうにか持ち直した。

「なら急ぐよ。ヘルマンに、って言いたいトコだけど、今は本当に安全って言い難いから、ちょっと寄り道するよ。……さっさと行って、そこで本格的な治療をする」
「わか、った。………」

 返事をしたパットンは後ろを振り返った。
 後ろには、いつも見ていてくれた人が……、自身が師事していた偉大な男がいる気がした。見守り、背を押してくれている気がした。
 そして、血を呼び起こせと、叱咤もしてくれている気が。

 大体の心情を悟ったハンティは。

「トーマからの最後の修行ってヤツだろ! こんくらい笑って乗り越えてみろ。んでもって最後の、ってヤツを否定してやれ。あいつは絶対大丈夫だから。……絶対、生きてるから」

 ぐっ、とハンティは力強く握りしめる。
 あそこで相対したノスと言う巨大な力を目の当たりにして、普通であれば生存率は限りなく低いと見積もるのが当然だ。
 それ程までに、魔人との実力差は果てしないから。

 でも、大丈夫だと強く思った。同時に自分の情けなさに苛立っていた。

「(年長者の私が逃げ帰るなんて……っ。情けないなんてもんじゃないよ。何のために、ここまで生きてきたってんのさ)」

 冷静に戦えばやりようはあったかもしれない。まだまだ、手助けできたかもしれない。……もっともっと戦えたかもしれない。それらを考えると悔しさがにじみ出てくる。

「………」

 パットンはそんなハンティを、その表情を見た。だが、直ぐに前を向く。
 自分の足で しっかりとまずは一歩、進み始めたのだった。












~ リーザス城 東の塔 4F ~




 そして場面は元に戻る。
 ランス達は、魔人アイゼルの使途がいるであろうフロアへと向かっていた。

「だがしかし、武器だらけだな。なんに使ってるのだ?」

 ゴロゴロと散乱している剣や槍、ぷちハニーの破片など物騒な物が辺りにあるのに目がいった。

「東の塔は、主に武器庫です。それゆえにヘルマン軍も未だ放棄していないのでしょう」
「ふぅん……」

 ランスはあまり興味がないのか、それ以上は何も聞かなかった。
 隣でユーリは軽くため息を吐く。此処には ところどころに潜んでいたヘルマン軍の兵士が何人か倒れており、ちらりと視線を向けると呆れる様に言った。

「どちらかと言えば、武器が豊富なこの場所に、立て籠ってたと言う可能性も捨て難いな。……現状をもっと把握していれば、何をすべきか見えてくるだろうに……。おまけに洗脳される。こうも違うのか? トーマ。お前の部隊とは」
「……恥と言う他ない。魔人の力を 自分達の力と勘違いし、慢心していた故に、だろう。それ以上に返す言葉もない」

 トーマも頭こそは抱えていないが、内心抱えたい気分なのだろう。第3軍はトーマを頂点とした部隊。世界最強とも呼び声の高いヘルマン軍の主戦力。それがここまで情けなく見えてしまうのはある意味ではショックだろう。全兵に目を向けると言うのは不可能だと言う事は判ってはいても。

「トーマの下についていたヘルマン兵士達は皆が一騎当千の強者だった。……こいつは欲に溺れ、鍛錬を怠った結果なのだろう。軍の将として恥じる気持ちは判るが、俺個人としては トーマまで恥とは思えんがな」

 飛び出してきた魔物を一蹴し戻ってきた清十郎が剣を仕舞いながらそう言う。

「自分も同じ気持ちです。……軍を纏める難しさ。各個人の戦力アップ、士気向上の難しさは判っているつもりです。……あの場所でトーマ殿の軍隊と戦った時から、僕は貴方を尊敬しています。勿論、サレ殿も、ガイアス殿も」
「……かたじけない」

 リックと清十郎の言葉に救われたのだろう。トーマは頭を下げた。

「直すべき所が見えてきた、とプラスに考えれば良いだけの事だ。つまり、まだまだ死んではいられない、と言う事だぞ。トーマ」
「……無論。まだ儂にはしなければならぬ事がある故にな」

 魔王と戦う場が死地である……と言う事は誰もが判るかもしれない。あれ程の圧力を受けたのだから。
 それでも、死ぬつもりは無かった。

 そう――死ぬとすれば、目の前の男ユーリ・ローランドが本当の意味で諦めた時ダ。口には出さずとも、命を盾に玉砕をするとした時。真っ先にこの命を散らすと考えていた。


「ふん。むっさいな。男ばっかりが固まってたら」
「ふんふんふーん、そりゃ、儂もどーかん。あー、後 この辺にある剣ぜーんぶなまくらじゃなー」

 当然 ユーリ、清十郎、リック、トーマの会話など興味の欠片もないランスはずんずんと先へと進む。その傍らには相棒となったカオスが握られている。カオスも同調するようだったが、それ以上にここにある剣を見ていた。自分自身が剣だからだろう。比べたくなるのは。

「まぁ、儂 世界最強の魔剣だしのぉー。比べてやるの可哀想かのー?」
「捨てていくぞ、この駄剣が」
「あぁん、いやぁん」
「気持ち悪いわ!」

 それは剣と漫才してる様にも見える。

「はぁ……。ほんと助けてくれたのは嬉しいんだけどぉ、あの剣がやっぱり……ね?」
「馬鹿が2人に増えた。ただそれだけの事よ」
「あはは…… 志津香ってばホント辛辣……」
「大変だったんだから。ランスみたいな性格してるし。セルさんを狙ったりして」
「あー…… 清楚なシスターとか言ってたからねー。ユーリさんがいなかったら、セルさん大変だったかも……」

 マリアと志津香、そしてかなみがぼやいていた。
 自分達と一緒の後衛に控えているセルを見て、何だかホッとする気持ちだ。もしも――あの剣がノスに折られていたとすれば? カオス曰く、エロパワーなる力で復活できるらしいが、それには生贄が必要だから、目も当てられない。剣に嬲られるなんて一生の恥だと思ってしまうから。

「っ……。何か、寒気が……。ああ、神よ」
「大丈夫でしょうか? セルさん」
「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございますクルック―さん」

 あったかもしれない未来を、セルは無意識に感じ取ってしまったらしく、身震いをし それを見たクルック―が支える。

 それを見た女性陣は、改めて本当に良かった――と安堵していた。

「オレは別にいいけどなぁ。剣とするなんて 無いだろ? 普通。どーんなプレイが……」
「悪魔と初めてシた時なんか、めっちゃ燃えちゃったけどね~ん。そう考えてみれば……ふふーん?」
 
 唯一の例外達。ミリとロゼ。
 まるで捕食動物の様な目でカオスを見ていた。


「うひゃいっ!? なんじゃい、今の寒気はっ」


 それはカオスが身震いする程の視線だったらしい。


 

 そして 最奥に続く通路に出た。急な傾斜になっており、少々行くのに面倒な通路……なだけではなかった。


「どわーーーっっ!! なんじゃこりゃーー! チーズ? チーズが無茶苦茶転がってくるぞ!!」
「あー……。なんか、妃円の館を思い出すな」
「うぐ、そう言えば、あの時は樽かなんかが、ってだーー! この、とーーーーっ!!」

 ランスは人間の胴体程ある大型チーズの上に咄嗟にジャンプして飛び乗る。

「く、がはははは、この程度、だーーー! とーーー!!」

 そのまま、どんどん更に更に登っていく。不安定なチーズの上を足場にして跳躍し、登っていくランス。

「わ、すごいです。ランス様」
「確か、あんな感じだったか。磨きがかかってるな。動きに」
「がはははは! 前の経験が活きただけの事なのだ! これしきでオレ様を止められるかーー!」

 ひょいひょいと登っていくランスの姿は、人間の動きではない。

「うーん…… たまにモンスター染みてるよなぁ、ランスって」
「ま、体力と精力だけは抜群にあるからねー。それをぜーんぶ敏捷性に持っていけば、行けるんじゃない?」
「わかるわかる。あーでも それにしても、やっぱランスよか、あっちの方に惹かれるってのも判るよな? ありゃ やば過ぎだって」
「ま、そりゃそーでしょ。あっちは化け物だし」

 ランスの動きに驚きを見せるミリと的確な分析をするロゼ。
 因みに2人が…… 後衛の全員が大丈夫なのは前衛に位置する男達のおかげだ。

「チーズならば切れると思いましたが、柔いですね」
「あぁ。問題ない。流れ弾だけには注意しろよ。後衛たち」

 リックと清十郎が切り開く。
 そして勿論、ユーリも例外ではなく。

「ああ、仕損じたヤツはオレがやるから大丈夫だ」

 四散させたチーズの破片が降り注ぐが、それは全てユーリの瞬速の剣で粉微塵に分解。

「この程度、ヌルイ! ぬええぃ!」

 トーマはそのままその巨体と怪力を活かして、チーズを正面から受け止めた。

「神よ……。どうか、皆さんをお守りください……。私に癒しの力を……」
「怪我しても私達が治します」

 セルとクルック―がいつ穢しても良い様にとスタンバイ。

「これは…… 出番、無いかなぁ? チューリップ撃ったら逆に危ないしね」
「私の魔法もよ。爆散させるのは出来るけど…… あっちの方が確実だわ」

 志津香とマリアの2人は見守る。信頼しきった目で。

「……マリス。定期的にアプローチの件だけど、ユーリに引き続き、あの異国の剣士、清十郎って人にも声かけ続ける様に。……トーマ、に関しては処遇が難しいでしょうけど、貢献してくれるのであれば、恩赦も辞さない方向で」
「はい。勿論でございますリア様。……かなみ。ユーリさんは勿論のこと、清十郎殿にも声をかける様に」
「あ、判りました」

 リーザス組。リアはリーザスの強化を狙い、マリスも従う。かなみもする事は一緒だ。……いつまでもユーリの傍にいたいから、やっぱり好都合な命令である。

「出番は必要なし――だけど、警戒はしておこうか」

 フェリスは鎌を担いで、頭上で見守っていた。勿論サボってる訳じゃない。……ランスだけだったら120%サボるけど、と言うのは秘密だ。










 そんなこんなで、障害物をものともせず、先へと進み…… ランスが真っ先に到着。

「こらーーー! 誰だ、チーズ転がし祭りをやってるヤツは!」
「はい、私~~」

 ひょい、と飛び出してきたのは、見覚えのある女。

「おほほ。使途だ。魔人ほどじゃないが、ざっくりいきたい気配を感じるぞ」
「あ、カオス。……ノスの命令だけど。まぁアイゼル様の為、って事で私も頑張らないと、だしー」

 あまりやる気が無さそうな感じがする使途トパーズ。
 今回のコレはノスの命令だった。秘密裏に人間と、そしてカオスを消す事、と。ノスは何処となくアイゼルを疑っているらしく、念には念を入れてその使途に命令を下したのだ。

 勿論、主はアイゼルだから、絶対権の様なものはない、が 力の差を考えたら従わない訳にはいかないだろう。ノスの実力の高さは知っている。アイゼルよりも遥かに上だと言う事が。……つまり、逆らえば殺されると言う事も判るのだ。

「と言う訳で―――、あっ! 向こうに裸の美女が!?」
「えっ!? どこだどこ!」

 トパーズがありきたりなワナ? 張った。ランスがどういう人物か判っているからこその作戦であり、効果は絶大だ。 
 ランスが視線を外している間に急接近し。

「えいっ!」
「あ」

 ランスに洗脳魔法を発動させた。

「えっ……、あ、ぐわっ……!!」

 元々魔抵値が高いとは言えないランス。ユーリに何度もスリープを掛けられ、更に幻覚魔法もかけられているのに、慣れる気配がないのがその証拠だ。(慣れられたらそれはそれで大変だが)
 そして更に急接近してでの魔法。一瞬でかかってしまった。

「(あ……や、やば……えーと、……俺、何を―――――)うが、うがああああ」
「ふぅ、と言う訳で、カオスと一緒にあいつらやっちゃおう、作戦開始。 もういいわよ? ガーネットにサファイア」
「こ、こうもあっさり ブレインウォッシュが……」
「そうだよね……。見てたけど、こんな簡単だったっけ……?」

 目を白黒させつつも しっかりと受け入れる宝石3姉妹の使途たち。

「さ、さっさとやるわよ。……ノスの命令だし。逆らったら、アイゼル様にも危害が及ぶかもだし」
「う、うん……。でも アイゼル様はあの人間に――」
「シャラップ。ガーネット。……私も、それは判ります。バット…… それでも、アイゼル様がファーストです」


 作戦はいたって単純。

 仲間同士で争わせている間に、仕留めると言うものだ。 
 ランスより、ユーリを洗脳した方が極めて高い確率で全滅させられるだろう、と思うのだが、洗脳魔法が効くかどうかが分からず、更に魔法を斬ってのける男だから 成功する訳ない、と判断したのだ。

「アイツは化け物だけど、カオスに加えて、コイツも人間達のトップなんでしょ? 最悪人質にとって色々要求すれば良いじゃん。殺す、若しくはリーザスからいなくなればとりあえずはOKって事で」
「そんな簡単に行くかなぁ……? あのガキ……ごほんっ、アイツの強さは身に染みてるし。こんなバカっぽいヤツと比べ物にならないと思うけど」

 ガーネットの意見も最もだ。直接ユーリと戦った事があるからこその意見。そして、他の2人もそれに関しては同意だった。


 最強の魔法――黒色破壊光線を斬った時の戦慄は忘れようとしても忘れられないものだから。



「ランス様っ!!」
「……あの馬鹿。洗脳されてるのか」

 シィルとユーリがまず到着した。続いて他のメンバー達も合流。

「って、なんであっさりやられてんだよ。洗脳って、結構精神力で何とかなるもんじゃないのか?」
「そーよねー。志津香ってば、愛の力で魔人の洗脳を跳ね返したって言うのにさー」
「な、何を言ってんのよ!」
「どーどー、志津香落ち着いて……」

 心配、と言うよりランスのやられように呆れかえる者達が殆どだった。

「あぁんっ、ダーリンっ!」
「ランス様っっ」

 心配してるのは、リアとシィルのみだ。

「さぁ、ここで終わりにするわよ。私の洗脳でこいつの潜在的な力はより引き出してあるし。……結構な力があってビックリって感じよね。さぁ、どうする? 命が惜しかったらこの城から」

 トパーズは、殺す――とは言っても やはり ユーリの事、その恐怖は覚えている為、ここは撤退を促そうとした。……が。

「ふむ。一度死合ってみたいとは思っていた。……あのコロシアムの時からな」
「僕も同感です。……こんな形とは思わなかったですが。多勢に……とも思いますが、魔人の使途がいる事、更にランス殿の潜在能力を引き出された事、それらを総合させると、最早数の有利は、あまり言えないかと。……相手にとって不足はありません」
「次代を行く若者。……解放軍の将が相手か。ヘルマンの血沸くと言うものだ」

 やる気が出てくる前衛の3人、リック、清十郎、トーマ。

「よーーっしゃ、手加減いらねぇよな? うんうん。ちょっと面白そうだ」
「がんばってねーん」

 楽しそうに剣を構えるミリと、これまた楽しそうに観戦するロゼ。

 そして、此処からがランスにとって残酷なもの。


「……ふ、ふふふ。日頃の鬱憤の全てを魔法に変換するわ」
「これは不可抗力よね。……何も命令されてないし、うん。もう1人の御主人様の為、ってヤツだし」
「えーっと、フェリスは今はユーリさんが―――なんて、野暮な事は言わないわよ? だって、仕方ないんだから。うんうん。仕方ない仕方ない。大義の前の僅かな犠牲よ。リーザスの為、リア様の為、ユーリさんの為」
「み、みんなーー、そこまで喜々としなくても……」

 やる気、と言うより、殺る気を充満させてる志津香、フェリス、かなみ。マリアだけは躊躇っていた。止めようとしたが、止まるものではないので、と言う事だ。

「まぁ、大丈夫でしょう。ちゃんと治します」
「あ、あははは……。か、神よ…… 申し訳ありません……(さ、流石に庇いきれません……)」

 救護班もばっちり控えている為、もう思い残す事はない。



「―――はぁ、ランス。ご愁傷様ってヤツか」


 あまりにもやる気のある者達が多いので、逆に一歩退くのはユーリ。このまま殺してしまうのでは……? と言う危機感もそれなりに有ったため、離れて全体の様子を窺う、と言う理由もあった。
 

 絶体絶命のランス。……それは、日頃の行いと言うのがどれ程大事なのか……改めて知った瞬間だった。 
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