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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica6-Cその日、王は少女になる~Sisters of Freiheit~

†††Sideイリス†††

お風呂から上がって、脱衣所の壁に設けられてる化粧台の背もたれが無い筒状の椅子にイクスを座らせて、ドライヤーでイクスの髪の毛を乾かしていると、「あれ~?」って声と一緒に脱衣場のドアが開いて、教皇の祭服からロングワンピースっていう部屋着に着替えてる母様が入って来た。

「うそ~、もうお風呂から上がったの? 私もイクスと一緒に入ろうって考えてたのに~。出るの早過ぎるわ~」

子供のように目に見えて肩を落とす母様に、「早いと言われても、もう30分近く入ってたんだけど」って返す。イクスがホントにお風呂を気に入っちゃって、わたしものんびり入って、世間話をかなりしてた。

「母様がゆっくりし過ぎてる所為もあると思うよ」

「はぁ~・・・。ルーツィエとルーツィアの2人と入りましょうか・・・」

割と本気で落ち込んでる母様が踵を返して、化粧台の反対側の壁に設けられてる脱衣ロッカーの前に移動。そして「はぁ~」って溜息を繰り返し吐きながら服を脱ぎ始めるのを鏡越しで見る。というかさ、自分の母親ながらどんなアンチエイジングしてんのかね。普通に30代前半でも通じる若さなんだけど・・・。

「あ、そうだ。イリス。イクスに学校の話をしてくれた?」

ドライヤーを切って櫛でイクスの髪を梳きつつ、「したよ~」って空いてる左手を降るとイクスも「はい。伺いました」って続いた。

「それでどうかしら? 平日は私たち、基本的に仕事に向かうから家を空けることが多いのよ。その間は暇するだろうから、学校で友達を多く作った方が有意義だと思うのね」

「シャルの話では、ヴィヴィオやフォルセティ達の通うザンクト・ヒルデ魔法学院だとか」

「ええ、そうよ。マリアージュの生成能力は失っても、あなたにはまだ魔力がある。それを埋もれさせるのは勿体ないと思うの。

期待に目を爛々と光らせるイクス。お風呂の時に、イクスは自分には学が足りないって嘆いてた。それに学校っていうところに憧れがあって、もし通えるのなら通ってみたいって。

「ザンクト・ヒルデ魔法学院なら、戦闘の出来るシスターや騎士も教員を務めているし、安全面でも最高位。魔法の授業もあるから、魔力を無駄にしない。ただ、問題が1つ・・・」

「何か問題があるのですか、母様?」

「ベルカの歴史も一応学ぶのだけど、冥府の炎王イクスヴェリアの項目がちょこっと脚色というか、誇張というか、あんまり良い事が書いてないのよ」

イクスの問いにそう答えた母様。わたしはこっちでは家庭教師というかプリアムスに勉強を教えてもらってたけど、歴史については深くは教わらなかったし、初めての学校は管理外世界の普通校だったから、正直言ってイクスが教科書でなんて言われてるのかは知らない。

「あ、それについては大丈夫です。冥王としての私はきっと、自分から見ても客観的に見ても、非道とも思える事を数多くしてきたのは事実ですから。その責めはちゃんと受け入れます」

「強いのね。イクスが問題ないと言うのなら、新学期の始まりと一緒に編入できるようにしておくわね~♪」

「ありがとうございます、母様♪」

イクスからのお礼に頬を綻ばせた母様は「これで最後」って体にバスタオルを巻きながら前置きして、「学年はどうしようかしら?」って訊ねた。

「シャルともお話しましたが、やはりヴィヴィオ達の居る学年で学びたいです」

「やっぱりそうよね~♪ 第3学年の・・・学級はヴィヴィオ達と同じB組でいいわね」

「あの、いくら教皇とは言え、そう好き勝手が許されるのでしょうか?」

「母様と学院長って幼馴染なんだよ。まぁ職権乱用になっちゃうけど、そこは学院長たちが調整してくれるよ~」

母様に代わって答えたわたしや、「だから気にしないでいいのよ~」って微笑む母様に、「ご迷惑ではないでしょうか?」って不安がるイクス。だからわたしと母様は「大丈夫!」って、安心させられるように笑顔で力強く答えた。正直それだけで不安を消し去ってあげられたかどうか判らないけど、「判りました。お願いします」とお辞儀してイクスを見て、これで良しとした。

「それじゃあ私もお風呂を堪能して来るわね~♪」

ひとり浴場へと入って行った母様を見送り、わたしとイクスは私室のある3階へと向かって、「とうちゃ~く!」とイクスの部屋のドア前にやって来た。

「んじゃ、今日はこれにておやすみなさい、ってことで」

「はい。おやすみなさい、シャル」

「ん。おやすみね、イクス。よい夢を」

イクスと手を振り合い、部屋に入ったあの子がドアを閉めるまで見届ける。あの子の姿が完全に見えなくなったところで隣のわたしの私室へ。ドアを閉めて「ふぅ」と一息つく。たった1日でまぁいろいろな事が起きたものだよ。天蓋付きのベッドに仰向けでダイブして、「お姉ちゃん、頑張んないとな~♪」って両手を握り拳にする。

「明日はイクスを連れて教会本部にでも行ってみようかな~・・・ふわぁ~」

睡魔が一気に襲いかかって来て、わたしは抵抗することなく受け入れた。でも眠りが浅かったのか、コンコンとドアをノックする音と、「・・シャ・・・ル」誰かに呼ばれた気がして、「誰・・・?」と尋ねながら上半身を起こす。

「あの、イクスです。夜分遅くに申し訳ありません・・・」

「ほいほいっと・・・」

寝ぼけ眼を擦りながらベッドから降りて、「ちょっと待ってね~」と部屋の出入り口へ。ドアを開けると、薄暗い廊下の中にイクスがポツンと佇んでいた。ネグリジェのスカート部分を両手でキュッと握ってるあの子は浅く俯いていて、「その・・・」って口ごもった。

「一緒に・・・寝る?」

こちらからそう提案すると、イクスは顔を上げて「よろしいですか?」って上目遣いで聞き返してきたから、抱きしめたくなる欲求を堪えて「もちろん♪」って答えながらイクスを部屋に招き入れる。わたしのはダブルベッドだから、イクスひとりが増えてもスペースは余裕なのだ。2人でベッドに入って、向かい合って横になる。

「イクスって結構甘えん坊?」

「あ、いえ。ごめんなさい」

恥ずかしそうに目を伏せるイクスをわたしは「良いんだよぉ♪ もっと甘えて~❤」って抱きしめる。わたしの胸に埋もれたイクスが「気持ち良いですけど、ちょっと苦しいです・・・」って身じろぎ。

「おっとっとい。ごめんね」

「ぷはっ。いえ、そんな!」

お互いに謝って、「ふふ♪」って笑い合う。そしてイクスは「ちょっと恐かったんです」そう言って、わたしの手を握ってきた。

「寝台で横になっていると、マリンガーデンという施設で皆さんと出会ったことが、目が覚めるとすべて夢・・・という恐怖が生まれたんです。そうしたら急に独りが寂しくて恐ろしくなったんです」

「そっか。でも大丈夫だよ。イクスはちゃんとここに居る」

指を絡めるようにイクスの震える両手を握り返す。それでイクスは安心したように「はい」と頷いて、そっと目を閉じた。イクスが寝息を立てるその時までずっと手を握って、「おやすみ」わたしも目を閉じた。

†††Sideイリス⇒イクスヴェリア†††

「・・・はっ!」

急に目が覚めた。周囲を見回して、昨晩と同じ天蓋付きの寝台に横になっているのを確認した。ただ、一緒に寝て頂いた「シャル・・・?」の姿はなかった。寝台から降りて廊下へと出る扉を僅かに開けたところ・・・

「あ、イクス、おはよう!」

「あ、はい、おはようございます、イリス!」

こちらに向かって廊下を歩いて来ていたシャルが私に手を振ってくれました。私も扉を完全に開いて挨拶をし返した。シャルはすでに普段着に着替え終えていて、「今日は総髪なのですね。似合っています!」と髪型を変えていたので感想を伝える。

「総髪?・・・あぁ、ポニーテールのことね。ありがとう♪ トレーニングをする時はポニーテールなの」

そう言って左手の中指にはめられている指輪を見せてくれました。確かアレがデバイスの待機形態でしたっけ。その綺麗な指輪を眺めていると、シャルから「イクス。お腹空かない?」と聞かれた瞬間、きゅ~、とお腹から音が。

「そう言えば・・・。おかしいですね。昨夜、教会本部で美味しいお料理を頂いたはずですが・・・」

「あはは。実はねイクス。今、13時半なの。もう朝も昼を過ぎてるんだよ」

苦笑交じりのその言葉に私は「えええ!?」と大声を上げてしまった。まさかの寝坊に、「起こして頂ければ良かったですのに!」と声を上げてしまう。

「いや~。こんな可愛らしい寝顔を見たら、起こすのなんて可愛いそうでしょ♪」

シャルが私の前に空間モニターを展開し、そこに安心した表情でグッスリと眠っている私の姿を映し出しました。さすがに寝顔をこうも残されていると、恥ずかしさのあまりに「ひゃあああ!」と悲鳴を上げてしまう。

「シャル!」

「えっへっへ~♪ 朝になって起きようとしても、イクスってば手を放してくれないの♪ なんとか外しても、むぅ~、って愚図っちゃうし♪」

「やああですぅ~~~!」

顔や耳どころか全身が熱くなる。寝相のことまで赤裸々に語られてしまうと、この場に人が居ないとはいえ恥ずかし過ぎます。モニターを手で払って消そうとしますが、シャルが操作をしているのか右に左にと避けられてしまう。

「シャルぅーーーー!」

「ごめんごめん♪ ほら、まずは着替えて身支度、そんでお昼ご飯。その後はお買い物だよ~」

今日の予定を教えてくれたシャルに「買い物ですか?」と尋ねながら、シャルの部屋ではなく用意して頂いた私の部屋へと手を引かれて入る。1人部屋としては広過ぎるような気もする部屋の中央にまで来たところで・・・

「そ♪ イクスの身の回りの物を買いに行かないとね♪ 可愛い服や下着、あと学院の制服もサイズ合わせとかしないとさ。んじゃイクス。ばんざーいして♪」

そう言われたものですから「はい?」と意味が判らずも両手を上げてみる。するとシャルが「ほいしょっと!」と私の着ているネグリジェを勢いよく引っ張り上げました。ネグリジェが容易く脱がされてしまい、下着姿にされてしまった。

「~~~~っ!! シャル!! まずは一言ください!」

両腕で自分の体を抱いて怒鳴る。今日1日で私はどれだけ辱めを受ければいいのでしょうか。問題のシャルは「一緒にお風呂に入った仲でしょうが」と椅子の背もたれに服を掛け、クローゼットと呼ばれる収納家具から「ペザントブラウスとショートパンツで良いかな~」と服を一式取り出しました。

「これもわたしの古着なんだけど、今日はコレで我慢してね~」

「・・・私の衣類であれば、シャルの古着だけで十分過ぎると思うのですが・・・」

昨晩着させてもらったネグリジェや、シャルが取り出した一式もそうですけど、古着というには保存状態がよく、新しく購入した物だと言わたら疑いもしません。ですからそう伝えたのですが、シャルは立てた人差し指を左右に振りつつ「ダーメ!」と却下してきました。

「デザインは古いし、やっぱりイクスが自分の意思で選んだ服を着る方が絶対に良いに決まってる。さぁ、ほらほら。いつまでも下着姿でいないで着て、着て♪」

「服を引ん剥いたのはシャルですけどね」

シャルが差し出してくれた服を手に取って袖に腕を通した。そしてシャルは鏡台の椅子に私を座らせて、引き出しから取り出した美術品のような櫛で私の髪を梳き始めました。その後に洗面所へと案内される中、「おはようございます!」とすれ違う使用人の方々と挨拶を交わしつつ、そこで洗顔や歯磨きなどを行い、そして1階の食堂へ。

「「おはよう、イクス~♪」」

「あ、おはようございます、ルーツィエ、ルーツィア」

昨夜の使用人服とは違い、お2人は飾りの少ないドレスを着用していました。お2人もフライハイト家のご令嬢なのだと実感です。そんなお2人と談笑しつつ、用意してくださった昼食を美味しく頂く。

「午後はイクスを連れて買い物だっけ?」

「車出そうか?」

「ん? いいよ、2人も今日くらいは休みたいでしょ? わたしも自分の車持ってるからさ」

「それが不安なんだけど」

「ねえ、イリス。ライセンスを取得して2年だけど運転歴は半年と無いペーパードライバーと、ライセンス取得13年、8m級リムジンを乗り回せるドライバー。どっちが安心できる?」

「ぅぐ・・・! で、でも運転は出来るし。事故だって起こさないよ?」

「それは当り前な話。事故るならイリスが独りで乗ってる時でお願いね」

「ひどい!」

テーブルに突っ伏したシャルが、しくしく、と声に出して泣く演技を始めました。そんなシャルを余所目に、お2人が私を見て「私たちも買い物に付いてくよ」と言いましたが・・・。ここはシャルを立てるべきか、それともお2人のお気遣いをお受けするべきか。

「イクスぅ~・・・」

チラッと私を見て悲痛な声で名前を呼ぶシャル。そんな愛玩動物のような瞳で見ないでください。

「・・・。あの、ルーツィエ、ルーツィア。今日はシャルとお出掛けしたいと思います」

元はシャルとのお出掛けという約束でしたから、今日はシャルと2人で出掛けようと思いました。お2人にそう伝えると同時、シャルが勢いよく体を起こして「イクス、大好き~!」と私に抱き付いてきました。

「「どの道わたし達も暇だから、車2台で行こう!」」

「ええー。だったら2人もわたしの車に乗れば良いじゃん」

「「嫌♪」」

「ちくせうorz」

そういうわけで、生れてはじめての買い物へ出掛けることとなった。

†††Sideイクスヴェリア⇒イリス†††

イクスが食事を終えるのを待って、双子の準備も終えたところで、家族・使用人の各車両が駐車されている地下ガレージへ向かう。様々な車種が60台ほどずらりと並んでいて、まるでサブディーラー。

「あの、すいません。母様と父様は今どちらに・・・?」

「朝早くに教会本部へ行ったよ。教皇と司祭だからね。それがどうかした?」

「いえ・・・。朝のご挨拶を出来ませんでしたから。お仕事中では仕方ありませんね」

挨拶くらいで(なんて言ったら両親に怒られるけど)しょんぼりするイクス。その様子に、「じゃあ行ってみる?」って聞いてみた。

「いいのですか? お買い物の時間などは・・・」

「どの道、服の品揃えがすごい店は中央区内にあるしね。そのついでに本部に寄ってこう。双子もそれで良いよね?」

「双子じゃなくて、2人一緒に呼ぶ時はルーツィって呼んでって言ってるのに・・・」

「寄り道については問題無し。セインの巡礼やオットーとディードの出張も終わって、本部に帰って来る頃だろうし。良い機会だし、そこでイクスに紹介しよう」

「ありがとうございます!」

買い物前にまずは教会本部に寄ることになったけど、ルーツィアの言うようにわたしにとっては妹で、イクスにとっては姉となるセインとオットーとディードが今頃、本部に到着するかどうかってところだろうし。ついでにイクスを紹介しよう。

「じゃあイリスから先に出て。万が一に事故った時、前に居たんじゃすぐに助けに入れないし」

「うっせえ、こんちくしょー! 上等じゃい、黙って付いて来いやー!」

冗談だと判りつつもそのしつこさに若干ハラ立ちながらも、「イクスこっち!」と手を引いてわたしの車の前にまで移動する。外観は日本で見たことのあるMINI ONEのようなコンパクトカー。

「どっちので行く?」

「ジャンケンで決めよう!」

「「ジャンケ~ン・・・ポン!」」

ある2台の前でジャンケンをする双子。ルーツィエの車はMR2でルーツィアの車はR34系。ジャンケンの結果、「じゃあ私ので行こう!」ってことで、ルーツィアの車でお出掛けのみたいね。イクスと2人でわたしの車に乗車して、「出発~♪」と車を走らせる。地下ガレージから外に出て、教会本部へと向かう。その道中、イクスは窓から流れる景色を眺めて、「平和ですね」と漏らした。

「旧暦の戦乱時代や新暦初期に比べれば、だけどね。それでも次元世界には多くの戦乱が起きて続けてる。それでもミッドはうん、まぁ・・・今は平和だよ」

わたしやルシルなんて戦乱の鎮圧などを行う専門部隊だからね。そんなのを何度も見てるよ。イクスは「そうですね。人は争う生き物ですから」って悲しそうに言った後、「シャル!」っていきなり大声を出した。

「な、なに!? 何かあった!?」

車を車道脇に停車させつつ、『ルーツィ! ちょっと停車するから先に行ってて』って後続の双子に思念通話で知らせると、『何があったか知らないけど、前に停めるよ』ってわたしの車の前に停車した。イクスが開いてる窓から身を乗り出して、「彼女は・・・」後方を見ながらそう呟いた。

「彼女?」

上半身を捻ってリアウィンドウから外を見ると、歩道を走るトレーニングウェアを着た1人の女の子の後姿を視認できた。それでイクスが反応した理由も判ったけど、まずは『ルーツィ。出発するよ』って知らせておく。

「イクス。あの子の事は走りながら話すから、まずは車を走らせるよ」

「あ、はい! すいませんでした、急に声を荒げてしまい・・・」

「気にしないで良いよ。イクス、あの女の子のご先祖とイリュリア戦争に参加したんでしょ?」

後続車が無いことを確認して車を走らせ、双子の車も続いて発進したのを確認。

「ご存知なのですか?」

「そりゃまぁ仮にもここベルカ自治領ザンクト・オルフェンの管理を行うフライハイト家の人間だからね。古代ベルカ時代から続く血族がどこでどうしているかは監視しておかないといけないの」

フライハイト家と六家の仕事の1つに、子孫の監視というものがある。今さら世界統一なんて理由で馬鹿な戦乱を起こさないとは思うけど、気性の荒い当時の王族の性質を引き継いで、そんな馬鹿を起こす奴も現れるかもしれない。それを事前に察知して、説得なりして制止するのだ。

「そうなのですか」

「そっ。で、さっき走ってたのは知っての通りシュトゥラの覇王イングヴァルトの直系の子孫。名前はアインハルト・ストラトス。年齢は11歳。真正古流ベルカの格闘武術、覇王流カイザーアーツの継承者」

イクスの前にアインハルトの簡単なプロフィールが表示されたモニターを展開させる。住所や連絡先は伏せてあるけど、明かしてある「ザンクト・ヒルデ魔法学院の在校生・・・」という項目をイクスが読み上げた。

「イクスはヴィヴィオ達の在籍してる第3学年になるけど、アインハルトは最上級の第5学年ね。ただ、あの子にはちょっと問題があってね」

「問題ですか・・・?」

「わたしも資料でしか知らないんだけど、アインハルト・・・あの子、覇王イングヴァルトの記憶を受け継いでいるみたいなのよ」

わたしの話に「え・・・?」って信じられないって風に漏らしたイクス。わたしも一応は前世のシャルロッテ様とこの体を共有することも少なからずあったから、前世の記憶を持っていてもおかしくは無いって断言できる。

「だからかな。どうも友達も少ないみたいで、孤高の女子学生って感じらしいのね」

「・・・過去に縛られているのですね、彼女も・・・」

「だね。ヴィヴィオやフォルセティの側で時折姿を見かけるって報告が入って来るけど、直接的に関わろうとはしてないようなの。どう解決できるかも判らないし、今はとりあえず様子見だね」

何かしらの接点を、と考えると真っ先に格闘技が思い浮かぶ。ヴィヴィオもノーヴェを師事してストライクアーツを学んでるし。

「私にも何か出来れば、と思うのですけど・・・オリヴィエやクラウスとの関わりは無いに等しいですし。お力にはなれそうにないです」

「ヴィヴィオやフォルセティを、コロナみたく友達として支えてあげて。今はそれで良いよ」

「・・・はい」

そうしてわたし達は最初の目的地の聖王教会本部、その駐車場へと到着。とは言っても本部から500mほど離れてるけどね。車を降りたわたしとイクス、それに双子はテクテク歩いて本部へ向かい、聖王教の信者の方々から挨拶を受けながらもようやく到着。中庭に回ってみると、「お!」すぐに見憶えのある姿を発見できた。

「おっす~!」

「イリス!」

「「ただいま帰りました、シャル」」

「セインは?」

「今はお手洗いに行っています」

手を振りながら歩み寄ると、シャッハとオットーとディードはお辞儀した。一度にイクスを紹介したかったんだけど、また後でセインに紹介するかぁ。手間が1つ増えることにやれやれしながらも、「ん?」3人の中に見知らぬ小さい女の子が1人、不貞腐れたように佇んでた。その子が何なのか、シャッハに訊ねる前に・・・

「オットー、ディード、ちゅうも~く!」

「彼女が、昨日から我らがフライハイト家の末の妹となったイクスヴェリア・フライハイトだよ!」

「ご紹介に預かりましたイクスヴェリアです。どうぞよろしくお願いします」

双子がイクスをオットーとディードに紹介し始めて、まずはそっちだった、と自分自身に叱りの言葉を入れる。

「はじめまして、イクスヴェリアお嬢様。僕はオットーと言います」

「オットーの実妹のディードです。よろしくお願いします、イクスヴェリアお嬢様」

「あの、私はお2人の妹となりますので、敬称など不要ですから」

使用人のように恭しくお辞儀するオットーとディートに、イクスが困惑してる。最初の頃はわたしも、シャルお嬢様、って呼ばれたけどやめさせた。イクスからもそうお願いされたことで、変に拘ろうとせずに「はい、イクス」と微笑み返した。

「では僕の事もオットーと敬称無しで呼んでください」

「私もディードと呼んでください」

――ディープダイバー――

「へ~。君がイクスヴェリア? お母さんから写真付きのメールを貰ってたけど、本当に小さい女の子なんだね~」

どこからともなく聞こえてくるもう1人の妹セインの声。辺りを見回して姿が見えないことを確認して、ふとイクスと同じタイミングで地面を見た瞬間、「きゃっ!」イクスがスカートの前を押さえながら後退した。

「やっほー! あたしはセイン! オットー、ディードの姉、ルーツィとシャルの妹! あたしのこともセインって呼び捨てでい――」

顔だけを地面から出してるセインは、顔を赤くしてるイクスをスルーして自己紹介に入った。わたしはしゃがみ込んでセインの顔を結構な力を込めた両手で挟み込むと、「あいたた!? 潰れる、顔つぶれる!」って痛がった。

「ねえ、何やってるの? いきなりスカートを覗き込むとか、あなたってそんな変態さんだったっけ?」

「ち、ちが! サプラ~イズ! サプライズだよ、シャル! オットーとディード(ふたご)が真面目な自己紹介するから、あたしくらいは明るく元気にやろうって気遣いじゃん!」

セインの顔を挟み込んだままあの子を引っ張り上げて、「はい、ここに正座」させる。腕を組んで仁王立ちしてるシャッハが「あとでシゴいてあげますね」って、セインを見下ろしながら笑顔を浮かべた。

「うげ!? ごめん、シャル、シスター! 謝るから地獄のシゴキはどうかご勘弁を!」

「あの、私は平気ですから、セインに酷い事はしないでください」

スカートの中を覗かれたっていうのにイクスはセインを即行で許すと、セインは「ごめんね~、ありがと~!」本気で感謝した。わたしとシャッハはイクスの優しさに免じて、しょうがなくセインを不問に処した。

「自己紹介も終わったところで、さっきから気になってた事を聞こう。シャッハ、この女の子はどちら様?」

わたし達の会話を邪魔しないように努めたのか、ただ興味が無かったのか、ずっと黙ってた女の子のことを尋ねる。

「今日から修道士見習いとして、聖王教会本部で預かろうと思っています。さぁ、挨拶を。この方はここベルカ自治領ザンクト・オルフェンを後に収める次期フライハイト家当主です」

「へぇ、そうなんだ。じゃあわたしから自己紹介! イリス・ド・シャルロッテ・フライハイトよ。今は局員優先だけど、一応は騎士団にも属してるから、ここに居るみんなと同僚になるわけだ。よろしくね♪」

女の子に向かって手を差し出しながら自己紹介すると、「シャンテ・アピニオン」って名前だけポツリと教えてくれた。わたしが差し出してる手を引っ込めないのを見て、遅れて「よろしくお願いします」って握手に応じてくれた。

「ん♪ シャッハはまぁ特訓はキツイけど頑張ってね。一緒に騎士としての仕事に出られる日を楽しみにしてるよ」

「あ・・・うん」

「じゃあわたしとイクスは母様と父様に逢いに行ってくるから、双子は戻って来るまで好きにしてて~。イクス、こっち」

「あ、はい! 失礼します」

みんなに見送られながら、わたしとイクスは教会の中へ向かった。
 
 

 
後書き
これにて一先ずですが、テイルズオブイクスヴェリア編を終わりにします。買い物の話ですが、なんの捻りも無い、シャルがイクスにいくつかセクハラ紛いの事を仕出かすだけのものなのでスルーします。
んで、さらっと出て来たセインとオットーとディード。結局あの子たちは、カリムを保護責任者とすることなく、フライハイト家に養子として引き取らせることにしました。本エピソードで描く日常編が本作では最後となるので、あの子たちとの絡みも考えておかないといけませんね・・・。
 
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