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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica6-Bその日、王は少女になる~My Family~

†††Sideイリス†††

ルシルのおかげで、いつ目覚めるとも知れない休眠に入ることなく済んだイクスヴェリア。ルシルをまた先輩のスキルで八神邸に送り届けた後、イクスヴェリアの今後について相談し合うことになった。

「さて。イクスヴェリアも1人の女の子になったということで、どの家が引き取るかの話し合いを始めようと思います!」

「え?」

母様の話に目を丸くするイクスヴェリアに、「衣食住はしっかり確保しないと、ね♪」ってわたしがウィンクすると、「あー、なるほどです」って手を合わせて納得してくれた。孤児院なんてありえないし、ここはわたし達が引き取るのがベストなのだ。

「一応、候補者を募ろうと思うのだけど・・・――」

「まずフライハイト家が立候補します! 妹が欲しいです!」

母様に次いでわたしが挙手すると、イクスヴェリアが「一応わたしの方が年上なのですが・・・」って苦笑い。

「他は? トリシュのシュテルンベルク家、ティファのヴァルトブルク家、アンジェのアルファリオ家、セレスのカローラ家、ルミナのマルスヴァローグ家・・・。あー、それとカリムのグラシア家とプラダマンテのトラバント家にも連絡した方が良いかな~」

「ヴァルトブルク家は辞退。陛・・・イクスヴェリアも、あんまり絡んでない私の家に来ても苦労するだろうし」

ティファのそんな意見にトリシュとアンジェとセレスとルミナも同意して、イクスヴェリア引き取りを辞退。母様が「じゃあカリムちゃんとプラダマンテに連絡しましょうか」って通信を繋げた。

『『はい』』

「急にごめんなさいね、カリムちゃん、プラマンテ」

展開されたモニターにカリムとプラダマンテが映って、母さんがイクスヴェリアの引き取り立候補を募っていて、今のところフライハイト家が名乗りを上げていることを伝えた。

「――で、こちらがそのイクスヴェリアです♪」

母様がイクスヴェリアを体の前にまで抱き寄せて、カリムとプラダマンテに見えるようにした。すると『まあ! 可愛らしい!』ってカリムの頬が綻んだ。可愛いって言われた事が少ないのか、イクスヴェリアは少し目を丸くして、それから「ありがとうございます」って微笑んだ。

『はじめまして、イクスヴェリア陛下。私は、グラシア家当主カリム・グラシアです。モニター越しで恐縮でありますが、お会い出来て光栄ですわ』

『右に同じくお初にお目に掛かります、イクスヴェリア陛下。トラバント家のプラダマンテ・トラバントです。聖王教会騎士団、銀薔薇騎士隊ズィルバーン・ローゼの隊長を務めております』

「あ、はい。カリムにプラダマンテですね。はじめまして」

自己紹介が終わり、イクスヴェリアと会ったこれまでの話を伝えた。すでにマリアージュの生成能力も失い、指揮権もとうの昔に失い、そして機能不全でいつ目覚めるとも知れない休眠に入るかもしれなかった、ということを。

「それをルシリオンに癒してもらい、休眠に入らなくて済むようになったのです。けど今度はどこでどうやって生きていこうか、という問題に直面しまして・・・。今のところはマリアンネ聖下とシャルが願い出てくれています」

『そうでしたか。・・・私も陛下を迎え入れても良いのですが、やはりここはグラシアよりフライハイトで良ろしいかと。フライハイト家は、ルシルさんのいらっしゃる八神家や特騎隊ともつながりが深いですし、フォルセティやヴィヴィオとも会い易くなると思いますから』

カリムも辞退して残るはプラダマンテ。イクスヴェリアはどこか不安そうな表情を浮かべてプラダマンテを見てる。どうしたんだろう。プラダマンテが結構ガチで恐い人だって見抜いたのかも。

『イクスヴェリア陛下は本当にマリアージュの生成・管制機能を失ったのですか?』

「え?・・・あ、はい。おそらく間違いないかと・・・」

『もう二度と戻りませんか?』

「・・・はい、それは間違いなく。私を生み出した技術者はもう居りませんし、もし万が一にも取り戻せることになったとしても、もう受け入れるつもりはありません」

胸の前で両手の拳をグッと握り締めた。さっきまでの不安そうな表情じゃなくて、外見に似合わないキリッとした表情で答えた。というか、「プラダマンテ。その質問、ちょっとどうなの?」って思ったから口にする。冥王としてのイクスヴェリアしか見てないって感じでさ。

「それってまるでイクスヴェリアの能力が重要って言っているようなもんでしょ」

『早とちりよ、イリス。その可能性があるなら、また仮面持ちに狙われるかもしれない、と危惧したの。陛下の生活に護衛を付けるなど、いろいろと考えなければならない事があるでしょう』

「あ、そっか」

仮面持ちはイクスヴェリアを完全に諦めたとは考えにくい。そしてマリアージュ関連の能力を取り戻せるなら、拉致されてそう言った施術をされちゃうかもしれないし。そこまで頭が回らなかったから、「ごめん」って謝る。

『気にしなくていい。本題の陛下の身元引き取りの件ですが、トラバント家も辞退させて頂きます。陛下をお護り出来る確信はありますが、何せトラバント家には若い子が居ないので。私ももう40代後半ですし、使用人も30代が多く、実年齢が数千歳であろう陛下でもおそらく退屈されるのでは、と判断します』

「もう。だからさっさと結婚して子供を作りなさ~いって、昔から言っているのに」

母様が呆れた風に首を横に振って溜息を吐くと、『余計なお世話です先輩』とプラダマンテも溜息を吐いた。でもこれで立候補者はわたし達フライハイト家だけになったわけだけど・・・。母様がイクスヴェリアを後ろから抱きしめる。

「イクスヴェリア。私たちと家族になりましょう?」

「・・・はい。よろしくお願いします」

「やった~~~~っ! よろしくぅ~~~~♪」

わたしはイクスヴェリアの前から抱きしめた。みんなが祝福の拍手してくれて、本日はこれにて解散ということに。それぞれが帰路に着いて、わたしと母様、そして今日から新しくフライハイト家の一員となるイクスヴェリアを連れて教会本部の外へ出る。

「お疲れ様でした、奥様、イリスお嬢様♪」

敷地外に停まってる白塗りのリムジンの前にはフライハイト家の現女中長で、わたしの義理の姉にもあたる双子姉妹の姉、ルーツィアが控えていて、わたし達を出迎えた。先代の女中長だったプリアムスは、8年前になんとシュテルンベルク家の当主、パーシヴァル君と結婚。もう子供が2人もいて幸せな家庭を築けてる。

―イリス、聞いてください。兄様と義姉様の赤ちゃんがとっても可愛いんです!―

パーシヴァル君とプリアムスの子供の写真データを見せ付けてくるトリシュには苦笑する日々だった。先々代も寿退職だし。今代のルーツィア達もいい歳(30代前半)だし、そろそろ身を固めても良いと思うんだけどね~。妹としても不安だよ。

「・・・ん?」

「そちらのお嬢さんはどちら様ですか?」

わたしと母様の間に立つイクスヴェリアを見て、ルーツィアが「お客様ですか?」って小首を傾げた。母様がイクスヴェリアの後ろに回って、その両肩に手を置いて「今日から私の娘よ♪」って返した。

「・・・はい?」

「だから、今日からフライハイト家の末っ子として引き取る、元ガレアの冥府の炎王イクスヴェリア。彼女を養子としてフライハイト家に迎え入れます」

「・・・・えええええええええええ!!??」

そりゃ驚くよね~。というか、「なんだとぉぉーーーーー!?」って車の中からも驚きの声が聞こえた。ドアを開けて出て来たのは「あ、父様」だった。母様と違って、歳相応に老けちゃってる父様が「また相談も無く・・・」って頭を抱えた。

「あの、やはりご迷惑なのでは・・・?」

父様の様子にイクスヴェリアが不安そうにしたから、「そんな事ないわよ~?」って母様が後ろからイクスヴェリアを抱きしめた後、「あなた。何か問題でも?」ってジト目で父様を見た。

「いや、そうではない! 私もかのイクスヴェリア陛下を家族に出来るなど、とても光栄なことで、ぜひともお世話をさせて頂きたい! しかし出来れば妻と娘から事前に話を聞かせてほしかった、というだけでして・・・」

「とのことで。イクスヴェリア。夫もそう言ってくれたことだし、これで心置きなく家族になれるわよね?」

「あ、はい!」

そしてわたし達は車に乗って、一路フライハイト邸へと向かう。その車中で、「ところで」とイクスヴェリアがそう前置きしてわたし達を見た。

「これから何とお呼びすれば? 一応わたしが末の娘になることは判りましたが・・・。私、家族というものを知らないので、どうすれば良いのかが判らないのです」

なんて寂しいことを言うイクスヴェリアに、まずわたしから「シャルって呼んで♪」って伝えると、「姉と呼ばなくていいのですか?」って聞いてきた。

「一応はあなたが妹ってことになるけど、そんな関係に拘らなくても良いかな~って。わたしもイクスって呼ぶし、だからイクスも姉以上の家族としてシャルって呼んで欲しいな~♪」

「私はそうね~・・・、お母さん、母さん、ママ、母様、そのどれでも良いから呼んで欲しいな~」

「わ、私も出来れば父として見て頂ければ・・・。呼称は好きに呼んでもらいたい」

楽しげに笑う母様と照れ臭そうに笑う父様。イクスは少し考えた後、「コホン。では・・・」と居住まいを直した。

「改めてご挨拶させてもらいますね。フライハイト家にお世話になります、イクスヴェリアです。よろしくお願いします、父様、母様、イリス♪」

こうしてイクスがフライハイト家の一員となった。

†††Sideイリス⇒????†††

イクスヴェリアという自我を抱いたその瞬間から、私は冥府の炎王として生きることが定められていた。母も父も居らず、マリアージュという死体兵器を造り出すために開発された。最初の頃は、何も疑問を抱かず命じられるままに本陣に立ち、戦場で斃れた敵味方を問わずにマリアージュへと変化させ続けた。

「・・・もしもーし。お母さんだけど・・・うん、ありがとう。急で悪いんだけど、2階のイリスの部屋の隣、確か空き部屋だったわよね? そこを手の空いてるみんなで片付けて、今すぐに使えるようにしてもらえる?・・・うん、そう。詳しくは後でみんなに話すけど、今日から新しい家族が1人増えるのよ。・・・うん、女の子。すっごい可愛いの♪」

まさか生と死を冒涜し続けた私に、家族が出来るなんて思いもしなかった。私の部屋を用意してほしい、と家の人に伝えているのは今日から母になるマリアンネ。すでに50代半ばらしいですけど、とてもそうは見えない若々しい女性です。

「あの、家にも他に御兄弟が・・・?」

母様が端末越しの通信相手に対して、お母さん、と自称していたことからそう考えて、父様とイリスの2人に尋ねてみた。

「あ、うん。いるよ。この車を運転してるルーツィアと、いま母様が通信してるルーツィエは、わたしの義理の姉なの♪」

「2人はまだイリスが生まれていない頃に養子として引き取ったのですよ。私も妻も、もちろんイリスも、2人を娘として姉として見ています。使用人のようにしているのは2人の希望なのですよ」

「そそ♪ 外に働きに行くより、家で家事手伝いしてる方が楽なんだよ~。妹も一緒だし、お給料というかお小遣いも一応出るし、のんびりも出来るし、職場環境がココほど最高な場所はないよ~♪」

運転席に座ってハンドルを握るルーツィアが、信号で停まったところでこちらに振り向いて笑顔でそう言いました。父様が「本音を言えば外に出て、見識を広めてほしいのだがな」と呆れた風に嘆息なさった。

「あと下にセイン、オットー、ディードっていう義理だけど妹3人がまだ居るね。この3人もイクスのお姉ちゃんになるから、今日は外に出てるから会えないけど、後日顔を合わせたら挨拶をしてあげてね」

「あ、はい。・・・フライハイト家は孤児の引き取りを率先してしているんですか?」

血の繋がりのある娘はシャルだけで、他5人・・・私を含めたら6人は養子ということになりますし。

「いや~、そういうわけじゃないけど。もちろん、ペット感覚で養子にしてるわけじゃないから、そこだけは信じてほしい」

「あ、いえ! そういうことを疑ったわけではないので! すいません」

「ううん、気にしないで」

「・・・じゃあよろしく、・・・っと。イクスの部屋も用意できたし、帰ったらまずお風呂、その後は今日はもう遅いから休みましょうか」

「はーい!」「はい!」

それから家に着くまでの間、戦争とは全く無縁な他愛無いお話をたくさんしました。その時間がどれほど私を楽しませてくれたか。今朝までは想像だにしない平和な一時に、私は本当に幸せを、これが家族なのだと感じた。

「おっ、着いた着いた~♪」

家というよりは、もはや城であるフライハイト邸に到着して、車は門を潜ってエントランスの前で停車。

「足元に注意してね、イクスお嬢様♪」

「ありがとうございます、ルーツィア」

ドアを開けてくれましたルーツィアの手を取って車から降りる。そこで私が手を取っているルーツィアとまったく同じ顔、赤い髪、青い瞳、服装を着た女性が、「お疲れ様でした」と彼女の隣に佇んでいることに気付いた。最初は「え?」って混乱しましたけど、すぐに私の手を取ってくれているのは車中での話に出て来たルーツィアの双子の妹である「ルーツィエ・・・?」なのだと判った。

「はいっ! ルーツィアの妹、ルーツィエです! 姉のルーツィア共々あなたのお姉さんになります! が、気軽にルーツィエと呼んでね♪」

「あ、はい! イクスヴェリアです! イクスと呼んでください!」

私の両手を取って勢いよく上下に振るうルーツィエに、「ちょっとちょっと。イクスの腕がもげちゃう! 馬鹿力なんだから!」とシャルが慌てて止めに入りました。

「うあ、ごめんね! 大丈夫!?」

「あ、大丈夫です」

私は見た目とは違ってかなり頑丈に造られていますし、この程度で肩が外れるようなこともありません・・・と、私が口にしてしまうと、シャル達が悲しそうにしてしまうと何となくですが判っているので、口にはしないようにした。

「ほらほら。いつまでも外に居ないで、早くお風呂にしちゃいましょ♪」

「「「は~い♪」」」「はいっ」

シャルと手を繋ぎ、ルーツィアとルーツィエが開けてくれた両開き扉を潜って邸内へと入りますと、「お帰りなさいませ!」と横一列に並んでいた使用人の方々が出迎えてくれました。

「ただいま~。お風呂の準備できてる? 今日はもう入浴してササッと休むよ」

「ええ、もちろん!」

「オケ。イクス、一緒に入ろう♪」

「え? あ、はい、よろしくお願いします」

「ん。じゃあこっちね~♪」

シャルに手を引かれて案内されたのは浴場で、とても大きな脱衣場がありました。シャルが壁に設けられた棚の1つの元へと向かい、ある棚板から「今日のところは私の古着で申し訳ないけど・・・」と、丈の長い真っ白なワンピースを手に取り、私に見せてきました。

「わたしが今のイクスの背丈だった頃に着てたネグリジェ♪ きっと似合うよ♪」

「そうでしょうか? 教会で着させていただいたこの服も、可愛過ぎてあまり私には似合っていないような・・・」

いま私の着ているドレスのような衣服を眺める。私のその言葉にシャルは「チッチッチ」と立てた人差し指を左右に振るい、「判っとらんなぁ~、イクス。あなた、とっても可愛いのよ❤」とウィンクしました。

「そうでしょうか・・・?」

「そうそう♪ ほら、早く入ろう♪」

服を脱ぎ出すシャルに倣って私も服を脱ぎ始める。ワンピース、キャミソール、パンツと脱いで裸になり、棚板に畳まれて置かれているタオルを手に取り体の前を隠す。対するシャルは恥じらいを一切見せず、タオルで体を隠すことなく佇んでいる。その様子に私は「綺麗です・・・」と、堂々としているシャルの、美術品のような綺麗な裸に見惚れた。

「え? あぁ、ありがとう♪ 騎士は体が資本だからね。それに、いつ男性(ルシル)の前で肌を晒すか判らないし、日々美を求めて頑張っているのです♪」

「っ!?」

いきなりの発言に驚き。私は「ルシリオンの事が好きなのですか?」と尋ねてみると、「大好きだよ。15年も前からね」とはにかみながら答えてくれました。私とシャルはとても大きな大浴場へと入る。シャルが大理石の浴槽に入る前に片膝立ちをして、桶を使って掬ったお湯を体に掛けました。

「・・・浴槽に入る前にまずは体にお湯を掛けて洗うんですね・・・」

「え? あ、うん、そうだけど・・・。ガリアって浴槽のお湯に浸かる文化って無かった?」

「いえ。あったようですが、私はずっと濡れた布で体を拭くだけでしから」

「は? どういう・・・?」

シャルに倣って桶で掬ったお湯を肩に掛けつつ、私は王を冠してはいても所詮は戦場でしか機能しない兵器。そんな私にお風呂に入るなどという贅沢が必要と思われていなかった。戦が起これば目覚め、終われば用無しと休眠されていたあの日々のことを話した。

「――・・・ですので、1000年以上生きているとはいえ、活動時間は合計で10年あるかどうかなんです」

でもだからこそ、これまでの人生の中での数少ない出会いは、どれだけ年月が経とうと色褪せることはない。ですから最も印象に残っているオーディン様との短いながらも新鮮な会話も、すぐにでも思い起こすことが出来る。初めて頭を撫でられた事、頑張ったねと褒めてくれた事、また逢いましょうと約束した事。そのどれもが私にとって宝石のような、とても大切な思い出。

(そんなオーディン様もイリュリア戦争の後すぐに死亡したと、次の戦の際に聞いて・・・どれほど悲しんだか・・・)

けれどルシリオンと出会い、言葉を交わし、頭を撫でられた瞬間、私の直感ですけどオーディン様と同一人物なのではないか、と思うように。オーディン様との思い出が鮮烈過ぎて、あのお方が纏っていた空気、雰囲気が正しくルシリオンと同じで・・・。もしかしたらオーディン様も、私のように純粋な人ではないのかもしれない・・・。

「はあ!? 仮にもガレアの王だったんでしょ!? なのに何、その扱い!」

「戦争ですので、仕方ないと言えば仕方ないかと。他の騎士たちも良くて水浴びだけでしたし」

「だからって・・・。むぅ。納得いかんわ~」

「気にしないで下さい。それはもうすでに遠い過去。大事なのはきっと現在(いま)です」

「・・・だね。よーし、気を取り直して! お風呂初体験ってことは髪を洗ったこととかないでしょ? わたしが洗ったげるよ♪」

「あ、お願いします」

シャルと共に洗い場へと向かい、木製の腰掛け椅子に座って、「はーい、シャワー行くよ~。目を瞑ってね~」とまずは髪を濡らしてもらう。そして次にシャンプーという髪や頭皮を洗う洗剤を使い、「わわっ?」私の髪を洗ってくれます。

「ふわぁ・・・とっても気持が良くて、眠ってしまいそうです・・・」

頭を洗ってもらうことと一緒にマッサージをして頂いているのか、とても心地が良くて思わずウトウト。それからコンディショナーと続き、「次いでに背中も洗ったげる~♪」とのことで、私はお願いをした。石鹸を泡立てたスポンジで背中を洗ってもらう中、いきなりシャルに抱きつかれてしまい、「ふわっ!」と驚きの声を上げてしまう。

「あのっ、一体どこを触って・・・!」

「おおっと! やっぱり体が若いだけあってスベスベでプニプニ~♪」

胸やお腹を両手で触れてくるシャル。変な声が出ないように努めながら体をよじり続ける。ですけど、お尻の方にまで手が伸びた瞬間、「いい加減にしないと、さすがに怒りますよ!」と語気を強めて振り返る。

「うん、いいよ。今の内にわたし、というか家族に怒ることに慣れておいた方が良いし」

「え・・・?」

「なんとなくだけどさ。イクスって怒りや不満とか、外に出さずに抱え込みそうって思って。だから嫌な事があれば、今みたく我慢せずに文句だって言って良いし怒っても良いんだよ。本気でぶつかってこその家族ってもんでしょ♪」

私の体から両手を離したシャルが、「んじゃ、さっきのセクハラごめんなさい」と深々と頭を下げました。手段はちょっと如何なものかと思いますけど、お気遣いには感謝しないといけませんね。

「はい、許します♪」

「ふふ♪」「えへへ♪」

シャルと微笑み合い、その後は泡立ったスポンジを受け取って手の届く体の部位を自分で洗う。シャルも自分の長い髪を洗い始め、お互いに頭や体を洗い流したところで、「今度は私が背中を洗いますね」と申し出る。

「お、いいの? それじゃあお願いね~♪」

とても綺麗な水色の長い髪を纏めて体の前に流し、シャルの細いながらもしっかりとした背中をよく見てみると、薄らですけど古傷がところどころに在ることが判った。いつまでも背中を洗わなかった私に、「どうかした?」とシャルに尋ねられてしまいました。

「あ、いえ・・・。傷が・・・」

「え? あー、うん、まぁ小さい頃の修行でね。傷1つと無い体には出来ないよ。もう古過ぎて痛みも無いし、遠慮せずに擦って良いからね~」

スポンジでシャルの背中を洗い始める私に、「でもま、ルシルと結婚して、子供が出来たら傷跡は全部消すけどね♪」とシャルがグッと握り拳を作りました。

「そうなのですか?」

「やっぱり古傷とはいえ、子供に見せるものでもないじゃない?」

「そういうものでしょうか・・・」

恋愛や結婚など、これまで関わり合いのなかった事ですからよく判らない。そしてシャルの背中を洗い終えた私は、先に浴槽に入っているように促されたことで、「ふぅ・・・」と肩までお湯に浸かる。

「あはっ☆ 人生はお風呂はどう?」

「大変素晴らしいですぅ~」

浴槽の縁に後頭部を乗せて、力を抜いてお湯に体を預ける。そうしているとシャルも「お邪魔~」と私の隣に入り、「お風呂は人類至高の文化~」そう言って一息吐きました。

「ねえ、イクス」

「はい」

「学校、通わない?」

シャルからの提案に私はすぐには理解できずに、「・・・はい?」と小首を傾げた。

†††SideイクスヴェリアEnd†††

 
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