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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第102話 最強のパーティー


 かなみは 死角から死角へ素早く動き、且つ一切の音を 足音を空気を切る音さえも全て殺して移動を続けていた。
 喧騒がまだ聞こえてくる城内故に容易に出来る忍者の移動術 暗歩である。勿論容易とは今のかなみだからこその所業であり、日々の鍛錬。更にこの戦争を経て培ってきた技量による結果だ。……そして、今から向かう先に待つ者との合流を果たす為、と強く想っているからでもあるだろう。
 そう、ユーリとの合流だ。

「(謁見の間…… ユーリさんっ……!)」

 かなみは、謁見の間付近にまで辿りつくと、天井へと跳躍し、一部分を外して天井裏へと入った。いつも自分が待機している場所でもあり、複雑に入り組んだ隠し通路でもある。幸いな事に この場所は ヘルマン軍も誰も気付いていないらしく、問題なく通る事が出来た。

 そして 暫く移動をしていくと、一切の光が存在しない暗闇だと言うのに、光の筋がいくつも見えてきた。……間違いなく、戦いの傷跡である、と言う事は直ぐに判った。ユーリと魔人の戦いはそれ程までに周囲に影響を及ぼす事くらい判りきっている事だ。
 離れた場所だったのに、その振動が伝わってきた程だから。崩落していないだけ不思議だとも思える。

「ユーリさ……っっ! きゃあっっ!!」

 急いで移動を、と焦り過ぎた事がかなみにとっての失敗だ。
 技量は着実に上がっていき、才能限界値さえも覆す程のものを持っているのだが、慌てる、焦る、と精神的なものにはまだまだ弱い。
 だから、脆くなった天井板を踏み抜いてしまう……と言う愚行を犯してしまったのだ。

 ばきっっ! と致命的とも言える物音を立てながら下へと落下した。
 そのまま、地面に衝突しそうだったのだが……、それは無かった。

「っ……と」
「きゃあっ!

 落ちた先、衝撃が一切なく、抱きかかえられた感触だったから。

「かなみか。驚いたぞ」
「っっ!! ゆ、ゆーりさんっっ!?」

 そう、直ぐ下にユーリがいたのだ。
 かなみにとっての幸運。直ぐにでも外へと出ようとしたその瞬間に 見事なタイミングで下へと落ちたがために、ユーリに受け止めてもらえると言う女の子にとってサービスサービスな展開が待っていた。

 勿論、普段であれば 本当にうれしく、昇天しかねない状況なんだが…… 今は状況が悪すぎる。それはかなみだけではなく、ユーリにとっても。

「立てるか? ヤバい事になった」
「す、すみませんっ! 大丈夫です! っ……ユーリさん。その、やばい、事とは?」

 そう、ユーリはノスの企みに気付いた。 その最終目的に気付いた。

 自分達がしようとしている事が、自分達の最終目的が、最大の悪手であると言う 最悪の事態である事も。
 

 

 









 そして―― 着実に破滅へと近づいていっているランス達。



「ねぇねぇ ダーリンっ! ここにリアの宝物があるの~~!」
「ほう。世界でも有数の金持ち国家のリーザス国、その王女の宝か。相当な値打ちものじゃないのか?」
「じゃじゃーーんっ!!」

 破滅に…… とは思えない状況だが それはランス達だから、と言う訳でスルーしよう。
 兎も角、リアがガサゴソ、と取り出したのは一枚の写真。

「え……、っとランスサマとリア王女が…… そ、その 裸で、か、重なり合って……」
「……って、これもしかしてオレ様が以前、リアにお仕置きセックスをした時のものだろ。何でこんなもんがあるのだ?」
「えへへへ~ ダーリンと結ばれた時のものだもんっ! マリスがばっちりと撮ってくれてたのよー」
「はい。リア様の為に」
「……自分の主がレイプされているときになにしてんだ。と言うか、ユーリのヤツと一緒にいたのに撮ったのか? あのガキだったら止めそうな気がするぞ。ガキだから セックスの良さなど判らんからな」

 それは懐かしい話。
 ランスとユーリの初めての出会いと仕事。リーザスと言う大きな敵と相対した大仕事のクライマックスでの出来事。 ランスがリアにきっちりお仕置きをし、かなみとマリスをユーリが改心させた時の事だ。

「はい。……流石の私もユーリさんの目を盗んで…… とは出来るハズもない事でしたが、あの光景を見たユーリさんは少し呆れてましたので、何とか隙をつく事が出来ました。私も少々演技を施した、と言う事もありますが」

 リアのあられもない姿を目の当たりにして、身体の力が抜けたー と言う感じだったマリスだが…… 驚く事なかれ、あれは演技であり ユーリやかなみの目を欺く為の所作だったのだ! (非常にどうでも良いが とりあえず今だけは、と言う事で)

「何処に力をいれとんのだマリス。……がはっは! まー ユーリのガキがセックスの良さなど判ってたまるか、と言う訳だな!」
「ダーリンっ! またえっちしようよー!」
「がははは!!」
「ら、ランス様…… す、直ぐに行かないとユーリさん達が大変で……」

 今は戦争の真っ最中。
 そして 滅茶苦茶危険地帯である。いつ魔人が来てもおかしくない場所だ。そんな場所で悠長に会話していられる精神力は大したものだが あまりよろしいとは言えないだろう。

「奴隷がオレ様に意見するなど、100000万年早いわ!」
「ひんひん……」
「む……だが、直ぐオレ様がカオスとやらをゲットして 格好良く女達を助けねば、また あのガキに勘違いされかねんからな」

 色々とあったが とりあえずランスは 元も目的に戻る事が出来た。
 この場にいるのは リア、マリス、シィル、そしてランス。つまりランスが絶対。絶対王政状態だ。ランスが止まればリアも止まる。シィルは ランスの命令には 魔法が掛かっている事もあって逆らえない(フォローは最低限はするのだが、押しは弱い)。マリスだけが頼みの綱だと言えるのだが…… やはり 『リア・ファースト』だから 正直難しい。

 つまりランスさえ戻れば、全員がついて行ける事になるのである。

「ぶーぶー、ダーリン! えっちしよーよー!」
「馬鹿者! この緊急事態にセックスなんぞしてる暇があるか! 自重しろ!!」
「うわぁーん、マリスーーっ」
「チャンスはいくらでもありますよ。リア様。この件が解決すれば そう、無限にあります。そのためにも早く終わらせないと」

 と言う訳で、ランス達は封印の間へと向かった。
 因みに 向かう寸前の所で見つけた本棚を見て…… 細かく説明すれば かなみのコーナーを見て大笑い。『伊賀忍法・??』『上級忍法』『サムライ魂』『東方見聞録』と色々と際物が揃っている。
 ただただ笑っていたランスだったのだが次のコーナーにある本を見て変わった。

『魅力的な女性になる法』『男の子の墜とし方』『媚薬作成法』

 それを見てランスは笑うのを止めて先へと急いだ。かなみが向いている方向が何処なのか、そこまで鈍くないランスは判るから、何となく面白くなくなった、と言うのが真相である。
 
「そろそろ向かうぞ」
「うん、行きましょう! マリス」
「はい、こちらの道が封印の間へと通じています」
「む、この通路、以前にも使ったものだな」

 以前とは、先ほどにもあった通り、始まりの事件の時の話だ。この道を使ってリアとマリスは逃げ、そして捕まった。

「えへへ。ダーリンがリアを追いかけて、とっても情熱的に追ってきてくれた時の事よね!」
「ものは言いようだな。それにしても私室に隠し通路とは、何となく王族っぽいな」
「えへへ、ダーリン、リアのこともっと好きになった?」
「別に」
「ぶーぶー!」

 色々と話が多く、中々進まなかったけど、何とか通路へと足をすすめた。

 そして、通路では無数の死体が転がっていた。それはリーザス兵のものではない。

「鉄クズが転がってるな。ヘルマンの連中のものか」
「みたい……ですね。巧妙に仕掛けていたとは言え、探せば見つかる通路です。侵入していても別段おかしくないのですがこれは……」

 マリスの訝しみながら その死体を見ていた。なぜ、この場所で死んでいるのだろうか? と言う事だ。ここは 待ち伏せをする場所としては 絶好の場所だ。潜んでいて襲い掛かる為に侵入していた……のであればよくわかるのだが、何故死んでいるのだろうか。
 リーザス解放軍がこの場所へ来られる筈はなく、一番最初に到達したのは自分達だ。
 つまり、仲間内での争いがあった、と考えるのが妥当だろう。……その理由が判らないのだ。

「(……これも魔人の仕業、と考えるのが自然。封印の間には その名の通り封印が施されていて 如何に魔人であってもそれを解除する事は不可能。……その腹いせにでもしたのでしょうか……? 安易な考えではありますが、答えが見つからないのも事実)」

 マリスは少し考えた後に、直ぐに歩を進める。

「リア様。ランス様。先へと向かいましょう。……カオスはこの先に封印されています」
「うむ。おい シィル。死体から財布をちゃんと盗っただろうな」
「あ、はい……。なむなむ…… 成仏ください……」

 ランスの命令とは言え 怖い気持ちが全面に出てるシィル。でもしっかりと仕事を果たす所はある意味流石の一言だ。

 その後も 死体は続いていた。

 ランスはゲシゲシ、と蹴飛ばし シィルは なむなむ、と両手を合わせ リアとマリスは ランスが作った道を進んだ。 


 軈て到達したのは 一見 何の変哲もないただの客間。

「……ここが封印の間か?」

 ランスは何処となく親近感がある感じがする客間だったが、気のせいだ、と考えるのを止めた。

「ううん。正確には、その入り口なの。さ、ダーリン。服脱いで」
「いきなり何言ってんだお前。抱いてほしいのか?」
「あっ…… うん。それでもいいかな。一応、ここにもベッドもあるし」
「えっ! えっえっ!」
 
 突然の展開。困るのはシィルだけだが ここは流石にマリスが間に入った。

「……リア様。今はその時間は取れないかと……」
「えーー…… でも、折角ダーリンが……」
「リア様。大丈夫です。解決した後に 思う存分ご堪能できますよ。 さぁ、ランスサマ。脱ぐ必要があるのはその鎧です。そしてリーザス聖武具をお召しになってください」

 そう、ここでとうとうあの武具を使う時が来たのだ。
 最初から 手元にあったと言うのに、馬鹿な理由で手放し、そこからは 苦労に苦労を重ねて手に入れた武具。

「そういうことか。おいシィル、よこせ」
「あ、はい。ランス様」

 シィルは背中に担いでいた袋から鎧を取り出すと、ランスに差し出した。

 全体的に白い武具。 ランスはちゃっちゃとその鎧を身に付けた。
 つける前に シィルとリアが ランスの着替えを手伝う~ と言う場面で一悶着あったが それも乗り越えてしっかりと身に纏う。


 ランスのイメージカラーは 緑だ。 因みにユーリは全体的に黒い。


 そんなランスがいきなり真っ白装備を身に纏えば……。

「きゃっ! ダーリン! 格好いい~~!!」

 ではなく。

「そうか……? なんか、真っ白くてダサい気がするが……」
「(ここは口に出さないほうが良いでしょう)」
「(あ、あうぅ…… さ、流石に私も……)」

 マリスとシィルの感想が大正解、である。

 それはとりあえず置いといて、リアが次の手順で 自分にキスをする、とランスに説明。
 濃厚なキスを交わした後に、ボタンを押して解除成功。

 ……キスをする必要なかったのでは? と言うツッコミがあったが そこはあえてスルーしよう。

 ごごごごごご、と振動と共に部屋全体が地下へと下がって行っている。
 やがて、振動は止まり 入ってきた入り口がひとりでに開くと―――。


「―――――光だ。って……! おわっちゃちゃちゃ!! 熱ッッ!」

 
 途端に、扉の向こう側から 眼をやられるくらいの光が流れ込んできた。開ける事は叶わず、光が強すぎて肌が焼け付きそうな程の強烈な光だ。

「ここからカオスまでは、不浄を許さない光の結界です。全員、着るものを全て脱ぐ必要があります」
「なんだ。着たり脱いだり忙しいな。まぁ 良いか。ぐふふふ…… 眼福な光景と言えばそうだからな。もっと女どもを呼べば良かった」
「は、はぅ……」
「さっさと脱げ。シィル。マリスとリアはもう脱いでるぞ」
「えへへへー ダーリンっ」

 男1人、女3人。確かにハーレム状態だから ランスにとっては至福の時だと言えるだろう。それも、ランスに好意を持つ女のコ限定っぽい所があるから(マリスは別と言えばそうだが)

「ちっ! フェリスを呼べば 面白い展開があったのに、つまらん!!」

 光で満ちた部屋に悪魔であるフェリスを呼べばどうなるか…… やってみなくても判る気がするが、今はそれは叶わないのも判るだろう。フェリスはユーリに召喚されており、現在は戦闘中。1人につき悪魔は1体まで呼ぶ事が出来るから、ランスには今はフェリスを呼ぶ事は出来ないから。

「さあ! さっさとカオスとやらにご対面に行くぞ!」
「は、はい!」
「おーっ!」
「行きましょう」

















――そして場面はユーリ達の方に変わる。


「ほ、本当ですか? ユーリさん!」
「……ああ。今までの情報。ノスの言動と これまでの魔人側の行動。それらを照らし合わせて導き出した答えだ。……カオスの封印を解くと、厄災が蘇る」

 かなみに考えの全てを伝えた。ノスとの戦いの時に それとなく探りを入れて導き出された答えだ。信憑性は極めて間違いないと言えるだろう。

「そんな…… も、もうリア様たちは カオスの元へと向かっている筈です……!」
「ああ。だから急ぐ! トーマ、行けるか?」
「無論だ。まだ、屍を晒すのには早すぎる。……責を果たしておらんからな」

 ノスとの戦いで致命傷とまではいかなくとも、2人ともが相応に負傷をしている。
 かなみが持ってきた薬と自分達が持っていたアイテムを併用し、何とか回復はしたのだが、万全とは程遠い。
 積み重ねてきた傷跡も残っているのだから当然だ。

「……ここが最後なんだ。最後まで、付き合ってくれ」

 自分の身体を見て、ユーリは身体に力を入れる。 
 口に呟くのは『煉獄』の二文字。地獄から吹き荒れるかの様な身に宿る怒りを源泉とする己の闘気。それは体力だけでなく精神力ででも威力が左右される。万全の状態で無かったとしても 戦わなければ未来はないのだ。だから、今 自分が出来る事。出来うる力を集中させていた。渾身の力を。

 だが、やはり傷の痛みが集中力を奪っていってしまう。

「くっ……」

 皆に聴こえない様に、気を使わせない様に小さく呻くユーリ。
 泣き言を言っても始まらない、と再び集中させようとしたその時だ。

「「みんなのいたいのいたいの、とんでけーっ!」」
「ほれほれ、たーんと味わいなさい。光る御馳走よ~!」

 突如、部屋の中に雨が生まれた。優しく、温かく包み込む心地良い雨は、ユーリやトーマの傷を洗い流してくれて、更に降り注ぐ 光の粒が その傷に付着すると、みるみる内に 傷を治してゆく。

「ほらねー。ユーリの事だから ぜーーったい、自分には回復薬なんて使わない、って思ってたの、大当たりでしょ? ほんっと、厄介な性格してんだから」

 からから、と笑いながら入ってきたのはロゼ。そして祈りを捧げ、回復の雨を振らせてくれているのは クルック―とセル。

「ユーリ。間に合いました」
「ご無事で何よりです」

 ニコリと笑う2人。
 そして、更に続く。

「……ほんっと、いつもいつも…… 1人で走って。ちゃんと周りを見なさいよ! いつもいつも言ってるでしょ!! 言っとくけど、私は飽きたりしないからね! 何回でも言うから!! 何回でも、殴ってやるんだからね!!」

 バシッ! と背中に痛みが走った。
 だが、それは身体だけでなく心にまで届くような威力だ。 

「くくっ やるなぁ 志津香。ここまでこれただけでもヤバイのに。戦場突っ切ってここまで。あーあ、ランやトマト達はかわいそーだなー。ま、ちゃんと抑えてくれてる分、後でオレが『ユーリ分』を届けてやるつもり、って約束はしたけどな」

 新たに着実に入ってくるのは、心強い仲間達。

「間に合った様だな……。ユーリ。確か 逃げ帰ってくる、と言う話ではなかったのか?」
「ふふ。ユーリ殿が逃げるとは到底思えなかったので、それは 予想通りではないですか? 清十郎殿」
「まぁ、な。志津香ではないが あまり1人で行きすぎるな、と言うつもりで言ったまでだ。……オレを差し置いて、な」

 ここに集ったのは、最強のパーティメンバー。

「はっ…… ははは。そうだったな。オレには最高で、最強の仲間達がいたんだ。なんで立ち止まって振り向かなかったんだよ。オレは……」

 軽く笑うユーリ。
 そう、今までも背を支えてくれていた者達がいたからこそ、思う存分剣を振るう事が出来たのだ。

 カスタムの解放の時もそう。レッドの解放の時もそう。 魔人やトーマとの一騎打ち。……すべて、皆がいてくれたからここまでこられたのだから。

「今更よ!」
「そーだぜー! ユーリ。この辺できっちりボーナス出してくれねぇと割に合わねぇわ。……ちゃーんと請求するからよ? ユーリの身体にな」
「ミリさん。自重してください。こんな時は!」
「硬い事イイっこ無しってねー、セル。こんな時こそ、リラックスよー?」
「ロゼさんはリラックスし過ぎなんです!!」


「悪かったな皆。そうだ。……オレも 皆がもう訊き飽きたと言っても何度でも言うぞ。オレは 1人じゃない。皆といればもっと強くなる。……たとえ敵が何者であっても 勝てるんだ。……オレは。オレ達は負けない」

 
 ユーリの言葉を訊き、全員が頷いた。
 







 皆が来てくれた事で、ユーリに明らかに力が戻った。

 それは、魔法やアイテムで回復したから、などではない。

 魔法やアイテムでは 消耗した体力を戻したり、怪我を治したりするだけであり、持っている力を更に向上させるような効力はない。

 だが 今のユーリは明らかに強くなっているのが判った。


「(……良い仲間を持って居る……な。そうじゃ。本当に良い男には より良い仲間が集う。仲間達と自分自身。その全てが限界を超えて更に強くなる。互いを想う力。それは時として強大な力となる。絆の力、とでも言う代物。1人では辿りつけぬ境地。……なぜ、儂はそれをパットン皇子に伝えなんだ……。皇子にも、仲間と呼べる者達が傍におる筈なのに……)」


 トーマはあまりにも眩さに。目も眩む光を見たのだが、決して逸らさずに仲間達を見つめていた。

 そして軈て、トーマの視界はボヤけて、ある姿が映し出された。

 それは 今よりも遥かに強靭な肉体に仕上がったパットンの姿。そして、それを支える強靭な戦士達。……己の息子 ヒューバート。そして 旧友アリトレス。パットンの乳母にして 我が親友ハンティ・カラーの姿。 そして、その後方に、今の仲間達が集っている。
 前方に広がるのは無限の闇。……そこを斬り割く光の剣となっているのが見えた。



 それを見たトーマは再び眼を瞑り、そして 開いた。
 今は 夢想する時ではない、と自分に言い聞かせて、目を開いた。

 開いた先に映ったのは現実だ。


「儂も、この命燃え尽きるまで、主らと共に戦おう。ヘルマンの為などとは最早言わぬ。……ここからは我が信念、全て力に込め 我が国がこの国に招いた邪悪をこの手で払う。……だから 頼む。此処から先も儂を連れて行ってくれ」

 片膝をつき、跪くトーマ。剣を捧げた主君であるパットンにしか していない所作。
 ヘルマン、黒鉄の騎士の頂点のその姿勢に、皆が一瞬戸惑いを見せたのは仕方がない事だろう。
 トーマとしても、自分自身が招いた事である、と言う自覚もあり、ケジメでもある。仮にここで敵国の武将として 首を撥ねられたとしてもなんら不思議ではないのだから。

 だが…… いや 1つ訂正をしておこう。この場の皆。全員が戸惑いを見せた訳ではない。


「言うと思ったぜ。……と言うより何言ってんだ今更。……嫌だと言っても最後まで付き合ってもらうぞトーマ。 ちゃんと約束しただろ? あの馬鹿皇子を更生させるって。今はくたばりかけてるアイツに代わって お前が尻を拭えよ」



 真っ向から返したのはユーリ。
 敵国とか関係なく、全身全霊でぶつかった間柄だった故に もうそこには蟠りは最早ない。
 歳は離れているが、まるで長年共に戦い続け、互いの背を任せられる戦友とも思える様になっていた。
 

 
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