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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Eipic11-B運命の子供たち~Puferutona Forseti~

 
前書き
FFシリーズを購入するのってⅩ-2以来ですかね~。今月に発売される東方深秘録やら龍が如く6までの繋ぎ感覚で買ったのに、結構ハマってやばいです。というか、引退まで5年切ってるのにゲームなんてやっていて良いんでしょうか・・・?
だと言うのに来年は、クラッシュバンディクーシリーズのリマスターやエースコンバット7(予定ですが)、ニーア・オートマタなどなど。明らかに私の執筆速度を遅らせるラインナップ。一体どうすれば・・・orz 

 
†††Sideルシリオン†††

本当に頭にくる。調査官として俺は、はやて達に対してよそよそしい態度を取りながらも職務を全うしてきた。まぁフォワード4人やアイリとは、念話を使って素の俺で話すという反則技を使ってはいるが。それも1週間に数回という少なさだから許してほしい。そんな適度な息抜きをしながら、ストレスが溜まる日々を送ってきた。そこに・・・

――ルシリオン。地上本部から、お前が今請け負っている機動六課に対して査察がしたいとの申し出があったんだが――

先の次元世界でもレジアス・ゲイズが機動六課にちょっかいを出して来たのを思い出した。自らが犯罪者であるにも関わらず、はやて達八神家を犯罪者扱いした大馬鹿者。そして今回も、あの男はプライソンと繋がっている。ステガノグラフィアやサーチャーであるイシュリエルでレジアスの周囲を徹底的に調べてやった。

(俺の仕事場を突っついたお返しに、俺もお前の闇を突っついてやるよ、レジアス・ゲイズ・・・!)

それをネタに思い知らせてやる。というわけで、「こちら内務調査部、ルシリオン・セインテストです」俺はこれから地上本部に乗り込んで、あの男にケンカを売りに行く。ケンカを始めるためにはレジアスと会わなければいけないということで、まずはあの男との面会のアポを取る。

『これはこれは。お久しぶりです、セインテスト調査官』

「ええ。お久しぶりです、オーリス・ゲイズ三佐」

レジアスの実子であり副官でもあるオーリスが通信に出た。あの男の秘書官でもあるから当然な話だがな。彼女は『それで、本日はどのようなご用件で?』不満と僅かな焦りの色を含んだ声で、俺が通信をした理由を訊ねてきた。甘い、甘いぞ、オーリス。感情を隠しきれていない。俺からの通信を恐れていたな。

「まさか、用件が判らないとでも言うのですか?」

『っ・・・機動六課への査察の件ですね』

「ええ。全く以ってその通りです。解りますか、この怒りが。真面目に職務に励んでいれば、いきなり横槍を入れられて。しかもその理由が、私と八神部隊長以下部隊員が親しい間柄から、情に流されて私が不正をしているかもしれない。その為に第三者の査察を行うべき、だと」

ああ、情に流されている件は認めるさ。だが、それで職務に手を抜いているわけがない。公正公平に機動六課の運営を監査して、その一線だけは絶対に越えないようにしている。それなのに、不正をしているかもしれない、なんてあらぬ疑惑を掛けられた。もう本気で怒っているさ。

「仮にも調査官となった私が、いくら部隊員と親しい関係だからと言って不正をするとでも? 冗談じゃない。ただちに査察申し入れを撤回して頂きたい。私の報告は内務調査部や六課後見人からは問題なしと判断が下されている。親しい間柄だからこそ、私は彼女たちを信じているし、不正もしない」

『であれば、こちらからの査察を受け入れても問題が無いのでは? やましい事があるからこそ、こうして私にそのような事を仰るのでは?』

「・・・チッ。そちらの勝手な査察で、機動六課の運営に僅かでも支障を出したくないんですよ。ただでさえ昨日は広域指名手配犯プライソンが、六課の隊員への殺人未遂や、廃棄都市区画での危険魔法使用などという、ふざけたケンカを売ってきた。おそらく今後も六課に対して手出しをする可能性が高い。そんな大変な時期に、地上本部の事情で彼女たちの邪魔をしないでくれ、という話なんだよ、オーリス・ゲイズ三佐」

思わず舌打ちが出て、口調も苛立ちに塗れてしまった。すると『随分と苛立っているのですね』オーリスが若干責めるような声色で返してきた。さすがに今のは酷いと思い直して「失礼しました」謝っておく。

『査察の件については、撤回するつもりはありませんし出来ません』

「レジアス・ゲイズ中将からの指示だから、ですか?」

『・・・ええ、そうです』

「では直接ゲイズ中将に話を付けるので、アポイントをお願いします」

ようやく俺が伝えたかった本題に入れた。しかし予想通り『出来ません』オーリスはキッパリと断ってきた。だったら切り札その1を使おうか。

「・・・ではゲイズ中将にこう伝えてください。よりによってあの重犯罪者を調査官に据えただと。八神はやてについてもそうだ。過去に犯した罪は消えん。今も変わらず犯罪者だ、と」

『っ!? それは・・・!』

オーリスが息を呑んで反応した。秘書ならここで反応せずにシラを切り通せ。まぁシラを切ったところで別の切り札を切るんだがな。俺は「どうです? アポ、取って頂けますか?」もう一度そう伝えた。オーリスは少し黙り、『折り返し連絡を入れさせて頂きます』通信を切った。

(さぁ、どう出る、レジアス・ゲイズ?)

とりあえず地上本部へと愛車のリバーストライク・“マクティーラ”を走らせ、首都クラナガンへと入ったところでPiPiPi♪とコール音が入った。コールを受けると『オーリスです。あなたに会われるそうなので、14時に防衛長官執務室へお越しください』そういう旨が伝えられた。

「承知しました。では、14時にお伺いします」

『・・・お待ちしております』

通信を切り、俺は速度超過に当たらないほどに速度を上げる。そして地上本部の駐車場の一角にある駐輪場に“マクティーラ”を停め、レジアスの執務室のある中央タワーに入る。エントランスロビーに居た局員が一斉に俺の方を見た。小声で、調査官の制服だ、みたいな話し声が聞こえてきた。本当に珍種なんだよな、調査官って。

「本日14時に、レジアス・ゲイズ防衛長官と面会するルシリオン・セインテストです」

受付カウンターの女性局員にそう伝えると、「はい。承っております」上層階へと昇るためのエレベーター乗り場を手振りで示してくれた。俺は「どうも」小さくお辞儀してからエレベーター乗り場へ向かう。良いタイミングで1階に降りて来ていたエレベーターに乗って、80階にあるレジアスの執務室へ。

「お待ちしておりました。セインテスト調査官」

そしてエレベーターから降りるとそこにオーリスが佇んでいた。彼女の案内でレジアスの執務室に向かい、「こうして直接顔を合わせるのは初めてですね、ゲイズ中将」険しい表情をしているレジアスと顔合わせ。いつもは権威の円卓専用の会議室で、ホログラム相手に話しているからな。

「貴様の目的は何だ。ワシを脅して、一体何を企んでおる・・・!」

「いきなり本題に入りますか。まぁいいでしょう」

レジアスの座る執務デスクの前にまで歩き、「機動六課から手を引いて下さい」簡潔に答えた。レジアスは「やはりか・・・!」歯噛みして、ドンっと執務デスクを殴った。

「やはり貴様は犯罪者だな、ルシリオン・セインテスト! 盗聴した挙句に恐喝とは!」

「フン。それをあなたが言いますか。広域指名手配をされているプライソンと繋がっておきながら局の上層部に知らせず、さらには兵器開発の依頼をしている」

「地上の平和のためだ! 貴様ら海の連中が優秀な魔導師を全て持って行くからこのような事態になっておるのだ!」

「だからと言ってプライソンのようなド外道と協力関係になるとは如何なものか。奴の所為で、あなたの友人であるゼスト・グランガイツ一尉は今もなお昏睡状態。彼の副官であるナカジマ准陸尉とアルピーノ准陸尉、そしてその2人の娘は、奴に洗脳されて駒扱い・・・!」

フォワードのデバイスが記録していた戦闘映像を展開したモニターに映し出して怒鳴る。先の次元世界のジェイル・スカリエッティなどが小物に思えるほどに、プライソンは正真正銘のクズだった。

「それでも奴に頼るしかないのだ! それとも貴様が救うと言うのか、この地上を! 出来まい!」

驚いたな。先の次元世界ではレジアスとほとんど接点が無かったからか、ここまで感情をぶつけてくるなんて思いもしなかった。そして彼は「あと僅かで、地上に安寧を齎すことが出来る」大きく息を吐いた後、そう漏らした。

「列車砲に装甲列車、戦闘機などなど。そんな物をミッドに置いて何の問題は無いとでも? 過剰戦力所有で本局どころか聖王教会、最悪な話・・・世論からも叩かれますよ」

「ふんっ! 海ばかりにしか目を向けん本局になど文句など言わせん。我々が地上を護っているからこそ本局が大きな顔をしていられるのだ。それが解らん馬鹿どもに、邪魔されて堪るものか。二番煎じの聖王教会にも文句は言わせん。世論は問題あるまい。何せ自らが住む世界での安全が懸かっておるのだ。始めは多少なり混乱が起きるだろうが、直に慣れる」

頭は固いままだな。さらにレジアスは「この件については最高評議会からも承認されている」と、俺と彼の共通の上司である最高評議会の名を出してきた。

「だと言うのになぜ機動六課の設立が許され、最高評議会の命で貴様が特務調査官となり、こうしてワシの邪魔をしてくるのだ!」

「何故って。そちらにも届いているはずですが? 騎士カリム・グラシアの預言が」

「くだらん。あんなものに目を通す暇など無いわ」

本局と聖王教会、そのうえレアスキルまでもが嫌いだというレジアス。その変な拘りの所為で先の次元世界ではあんな大混乱が起きた。そしておそらく今回も、プライソンは何かを仕出かす。そう思うと「本当に愚かだな、お前は」素になってしまった。

「なに!? なんだ、上司に向かってその言い草は!」

「地上の平和を守るため? だったら少しは情報を大切にしたらどうだ? 特に未来の情報など、喉から手が出そうなほどに貴重だ。そんな騎士カリムの未来予知を、お前の個人的な意見で切り捨てる。コレを愚かと呼ばずに何と呼べばいい。教えてくれよ」

「~~~っ! 犯罪者は礼儀も知らんようだな!」

顔を真っ赤にして怒鳴りつけてくるレジアスだが、その程度の怒声で怯えるほど俺は若くない。それ以上に「礼儀を説く前にまずは凝りに凝ったそのスキル嫌いを直したらどうだ?」先とは違ってクイントさんやメガーヌさん、ルーテシアとリヴィアの命が懸かっていることもあって、怒りのボルテージは上がりっぱなしで下がる気配なし。あの4人は必ず守り抜く。その為ならどんな上司だろうと牙を剥く。

「貴様・・・!」

「よく聴け。・・・旧い結晶と無窮の強欲が集い交わる地。死せる王と騎士の下、聖地より彼の翼が蘇り、使者たちは開宴を謳い踊る。地を這う鋼の龍の咆哮は破壊を、彼の翼を護りし親鳥は地上に畏怖を、共に翔けし子鳥たちは戦火を齎す。その果てに中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ちる。それを先駆けとし、遥か空の彼方より来たる恐怖の大王により、星の命はその輝きを失う」

俺が機動六課の特務調査官として任命された翌日、聖王教会のカリムの元に報告しに行った際に聞かされた、六課の設立理由となる預言の内容だ。先では“霊長の審判者ユースティティア”の番外位たる大罪と、指示を出していた終極が好き勝手した事もあってメチャクチャな内容だったが、今回も負けず劣らずのトンデモ具合。

(無窮の強欲プライソンと無限の欲望ジェイル・・・)

――開発コード? 随分と懐かしい話だね。・・・私は無限の欲望アンリミテッド・デザイア。プライソンは無窮の強欲エターナリー・グリード。とは言え、どうやら私は失敗作のようだがね。何せそれほどの欲など持ち合わせていないのだから――

この預言内容を知ったその後、俺はその足で本局へと赴いてドクターとプライソンの開発コードを訊いてみた。そして返ってきたのが、無限の欲望と無窮の強欲。これでプライソンが首謀者であることが確定した。レジアスもプライソンの開発コードを知っているのか、「っ・・・!」目を見張った。

「無窮の強欲・・・、つまりプライソンが引き起こす事件が、いま起きているものだ。解説して差し上げようか、ゲイズ中将?」

「・・・無用だ」

預言内容を反芻しているのかレジアスは目をキュッと強く瞑った。先の預言内容とは大きく違うが、地上本部が落ちるのは変わりないようだ。旧い結晶は“レリック”、無窮の強欲はプライソン、集い交わる地はミッドチルダ。

(死せる王はヴィヴィオ。だが、騎士とは誰だ?)

それだけが判らない。他は何となくだが判るんだがな。そんな預言の内容の中でも特にまずいのが、星の命はその輝きを失う、だ。先では管理システムの崩壊だった。それでも十分な混乱を招ける。しかし今回は明らかにミッドチルダという世界が丸ごと1つ滅ぶという解釈が出来る。その方法はまだ判らないが、プライソンの造り出した兵器によるものだのだろう。

「とにかく・・・このままプライソンを放っておくと地上本部どころかミッドチルダという世界が滅ぶ。ゲイズ中将、ミッドに平和を齎したいのであれば、こちら側・・・機動六課に付いてください」

「なに・・・?」

「プライソンとこのまま繋がっていれば、あなたは確実に共犯者として今の地位を失うでしょう。ですが、ここでプライソンと手を切って、逮捕に協力すれば英雄の地位のままでいられるでしょう」

「何を馬鹿な・・・。ここで手を切れば、それこそ奴は好き勝手にワシが依頼した戦力を揮うだろう。そうなっては元も子も・・・」

「それを阻止するために設立されたのが機動六課だ、と私は思います。おそらく最高評議会もこの預言を見たことで、プライソン逮捕に動いたのではないかと。何せ飼い犬に手を噛まれる状態ですしね、預言が成就すると。だから捕まえたいんですよ、プライソンを。そして奴の技術力を、ジェイル・スカリエッティに引き継がせば・・・。ほら、何も問題は無いでしょう?」

あくまで推測だが、そう考えると合点がいく。プライソンとドクターを生み出し、その頭脳を利用し平和を築き上げ、コントロールが効かなくなり始めたところを逮捕して封じ込める。そして遺された技術力を、ドクターを利用して使い続ける。最高評議会のシナリオは大体こんなところだろう。

「確かにそれならば辻褄が合うだろうが・・・」

(しかし、じゃあどうして俺を戦力として使わないのか、それが理解できない・・・)

俺を戦力として揃えた方が、対兵器戦で役に立つはずだ。それを封じる目的はなんだ。リアンシェルトからの提案というのが重要だとは思うが。直接問い質そうにも絶対に答えないだろうしな。本当に面倒な娘だよ、まったく。

「どうです、悪い話ではないでしょう? ここがターニングポイントですよ。ただでさえ犯罪行為を行っているのに、プライソンを利用していると思わされての、逆に利用されたままズルズルと共犯者へと堕ちるか、最高評議会の意を汲んで奴の逮捕に動いて今の地位を守るか。お好きな方をどうぞ」

レジアスは深く考え込み始めた。次に口を開いたのは2分ほどが経過してからだった。彼は「良かろう。貴様の話に乗ってやろう」そう言って鼻を鳴らした。俺は「どうも」と右手を差し出したが・・・

「勘違いするな。ワシは貴様らの味方になるつもりはない、敵にならんだけだ」

握手には応じてくれなかった。俺は差し出していた右手を戻し、「ですが本当に良かった」そう前置きをしてから・・・

「機動六課の後見人、非公式ながらあと3人いましてね。法務顧問相談役のレオーネ・フィルス、武装隊栄誉元帥のラルゴ・キール、本局統幕議長のミゼット・クローベルの御三方です」

「「っ!?」」

そう伝えるとレジアスと、これまで黙って俺たちのやり取りを見守っていたオーリスが目を見張って息を呑んだ。伝説の三提督と謳われる、時空管理局黎明期の功労者。さすがのレジアスもこの3人の名前を聴いては最早黙るしか、本局や機動六課に協力するしかないだろう。

「むぅ・・・」

「彼の三提督までもが機動六課に協力しているなんて・・・」

「あの方たちを敵に回してこれまで通りに局員でいられるわけがないですからね。それでは、地上本部はこれより本局、機動六課、聖王教会に協力してもらえる、と考えてもよろしいですね?」

「・・・好きにしろ」

「感謝します、ゲイズ中将。これにて失礼したします」

敵視している本局と聖王教会とも協力する、そう約束を取り付けた以上はもうここに居る理由は砂粒ほどもないためレジアス達を放ってササッと執務室を出て、そのままエレベーターに乗り込んで1階へ降りる。そして受付カウンターの女性局員に軽く会釈だけして駐車場に行き、“マクティーラ”に乗るための準備をしている最中・・・

(さて、レジアスの件は片付いたが・・・最高評議会はどうしてくれようか・・・)

先はドクターの命令でドゥーエが処分した。しかし今回はそうはいかない。本局内にプライソンの手下は居ない・・・はずだ。となれば、権威の円卓は消滅しないし、俺が自由になることもない。レジアスとは同じ犯罪者だという共通項があるおかげで、俺の秘密は明かさないだろう。

(特捜課のガアプ一佐や暗殺部隊のサブナック一佐、捜査部長官のアーリー中将、情報部長官のコスンツァーナ少将の4人は、俺を道具ではなく同志として見てくれているから敵にはならないと思う)

他の男将校や最高評議会は俺を道具として利用する気満々だから、下手に抗えば俺の秘密をネタに脅してくるだろう。一番消えてほしい連中だ。そしてリアンシェルトと、民間協力者というトリックスターとエーアスト。リアンシェルトは何だかんだ言って黙っていてくれそうな気がする。まぁ俺がレーゼフェアとフィヨルツェンを救ったら完全に敵対してくるだろうが。それまでは放置で良いだろう。

(エーアストの素性はすでに調べがついている。エーアスト・ルター。フリーランス魔導師派遣会社、エモーションサービスカンパニーの社長だ)

そしてトリックスター。コイツだけはサッパリ判らない。どれだけ調べようとも尻尾すら掴めていない。勘だがコイツとはそう遠くない未来でぶつかりそうだ。

「ひとり考えていても仕方ない、か・・・」

ヘルメットを被って“マクティーラ”に跨り、「さ、はやて達の元へ帰ろう」アクセルを回して“マクティーラ”を走らせる。

「っと、せっかく首都にまで来たんだ。部隊員のみんなに茶菓子でも買って行くか」

最寄りの有名な名菓店ゴルデンクローネでカステラを購入。雑誌で掲載されるほどの美味しさで、少し前に女子隊員たちが買いに行きたいと話していたのを聞いていたからな。お土産にするにはちょうど良いだろう。特に値段の張る特級というカステラ、1箱10本入りを2箱と購入。シート下の収納スペースに入れ、改めて隊舎へ向かう。
それからの隊舎までの道程は何事も問題が無く、無事に帰って来られた。ヘリを格納しておくハンガーに隣接しているガレージに“マクティーラ”を停車させ、そのまま隊舎へ。

「あ、セインテスト調査官。おかえりなさい」

「おかえりなさい」

良いタイミングで給湯室から出て来たアルトとルキノに声を掛けられた。2人に「ただいま」と挨拶を返し、「コレ、土産なんだが。みんなで食べてくれ」買ってきたカステラ2箱の入った包みを差し出す。

「お土産ですか? ありがとうございま――」

「ああああああああ! ゴルデンクローネの箱じゃないですか! え、どの商品を買って来て下さったんですか!?」

「え、ゴルデンクローネ!? 本当だ!」

「有名だって言うカステラを」

「「カステラ!」」

目を爛々と輝かせて食いついてくるアルトとルキノ。1箱は交代部隊の隊員たちの分だと告げ、アルトに包みを手渡した。2人は「ありがとうございます! 頂きます!」ものすごい笑顔で一礼して給湯室へと戻って行った。喜んでくれてたようで俺としても満足だ。そして部隊長室へ向かい始めた中、「特級ぅぅぅ~~~~~!!」給湯室からアルトとルキノの歓声が響き渡って来た。苦笑しながら廊下を歩き、そして・・・

「ただいま戻りました、八神部隊長」

はやてとリイン、ついでに俺の執務室である部隊長室に入る。部隊長室の一角に設けられた休憩スペースにははやてを筆頭とした隊長陣であるなのは、フェイト、シグナム、ヴィータの5人と、それプラスリインが勢揃いしていた。それに、なのはに寄り添うように幼い少女、ヴィヴィオが満足げな顔で座っていた。

(ん・・・?)

しかし何故か俺を見た瞬間、大きく目を見開き、口をあんぐりと開けた。なのは達の目は俺に向いているため、ヴィヴィオの表情に気付いていない。

「お疲れ様でした、セインテスト調査官。それでその・・・どうでした?」

「ええ。地上本部による査察の件についてですがゲイズ中将との会談の結果、査察は行われないことになりました。このまま私が特務調査官として、機動六課の監査を行います」

そう報告するとはやて達は目に見えてホッとした。さらに本事件の期間中限定だが本局や聖王教会との協力体制を敷いてくれるようになったことを伝えようとした時・・・


「ル~シルぅぅぅ~~~~~~~!!」


俺の名前がこれでもかってくらいに叫ばれた。込められているのは明らかに怒り。そして声の主はどう考えても「シャルちゃん・・・!?」はやて達の言うようにシャルで間違いない。ドアの向こう、廊下がドタドタと騒がしい。みんなの視線がドアへと注がれる。俺に用があるのは間違いないからソファから立ち、俺の専用執務デスクの元へ向かう。その直後、プシュッとドアがスライドして開いた。そこに佇んでいたのはやはりシャルだった。

「えっと、シャルちゃん・・・?」

「なんだろう、シャルの纏ってる雰囲気がかなりまずい気がする・・・」

「シャルちゃん、少し振りやね。えっと、どないしたんかな?」

なのはとフェイトとはやてがソファから立ち上がりつつ、俯いたまま佇むシャルに向かって声を掛ける。俯いている所為でシャルの表情が見えないが、フェイトの言うように纏っている雰囲気は結構まずい。というか、なんで俺の名前を、怒りを込めて呼ぶのかが理解できない。

「どういうこと?」

シャルがポツリと何か呟いたのが判ったが、きちんと聞き取れなかったから思わず「なんだって?」俺はそう訊き返してしまった。いや、もしかしたら黙っていてもこの後の結末は変わりなかったのかもしれない。

「ル~シ~ル~・・・・!」

シャルがゆっくりと顔を上げながら俺を睨みつけてきた。結構な怒りを溜めているな。俺、シャルに何かしたかな。アリサやギンガと協力しての“レリック”回収の件については確かに労いの言葉を掛けなかった、というよりクロノと通信していて顔を合わせられなかった。しかしそんな些細なことでここまで怒るのも変な話。シャルを怒らせた要因が他に何かないかと考え込んでいると、シャルがすぅ~~っと息を大きく吸った。そして・・・

「ちょっとぉぉぉーーー! 誰との子供よ、ルシルぅぅぅーーーー!」

そんな訳の解らないセリフをのたまった後、俺に向かって突進してきた。そして平手打ち。だが理由も解らず頬を叩かれる謂れはないから、平手打ちを繰り出した右手をパシッと受け止める。シャルの様子にはやて達が俺たちの元へと駆けて来る。

「そもそも子供って何の話だ!」

「この子のことよ! アリサ! Come here !」

シャルは部隊長室のドアに向かってそう声を上げた。再び開いたドアの向こう、廊下で待機していたらしい連中が俺たちの前に姿を見せた。まずは何とも言えない表情で俺を見ているフォワードの4人、次に俺たちの親友であるアリサ。・・・で、もう1人の姿に俺は、俺たちは絶句した。そこには俺が居た。いや正確には俺と瓜二つの少年が居た。銀色の髪に紅と蒼の虹彩異色。身長はヴィヴィオより同じくらいか。一卵性の双子だって言っても不思議じゃない程に同じだ。

「あっ、フォルセティ・・・!」

「ヴィヴィオ・・・!」

シャルのキレっぷりに怯えていたヴィヴィオだったが、俺と瓜二つの少年をフォルセティと呼んで表情に明るさを取り戻し、フォルセティのところにトテトテと駆け寄って行った。その様子を混乱する頭のままで見守っていると・・・

「ちょっとぉぉぉーーー! 誰との子供よ、ルシルぅぅぅーーーー!」

「待つんだ、まずは話を聴け、シャル――ぐはぁっ!?」

シャルが改めて激昂。ヴィヴィオとフォルセティに気を取られ過ぎて、シャルの左手による平手打ちをまともに受けてしまった。しかも軽く魔力を付加してくれやがったのか途轍もない衝撃が俺を襲い、ガタン!と執務デスクの反対側に吹っ飛ばされた。

「うわっ、ルシル君!?」

すぐに俺の側に駆け寄って来てくれたのははやて。差し出してくれた右手を握り返して上半身を起こしてもらう。そこから自力で立ち上がり、肩で息をしているシャルを、「落ち着いて!」そう必死に宥めるなのは達を視界に納める。

「この子! フォルセティ! もう判ってると思うけど地下にて発見、保護した子! 軽く事情聴取をしたんだけど! お父さんの名前がルシル、あなたって言うじゃない! どういうこと!? わたしとはやてとトリシュの想いに答えないまま、他の女のヤっちゃったってことでしょ!? 母親はどこの誰!? フォルセティは知らないって言うし、あなたなら知ってるんでしょお父さん!?」

シャルは全力で叫ぶように話すからもう耳が痛いのなんのって。見ろ、ヴィヴィオとフォルセティが耳を押さえて怯えているじゃないか、可哀想に。つうか、「馬鹿を言え。そんな事するわけないだろうが」溜息を吐きながらそう返す。ヤっちゃった、って単語にスバルとティアナが顔を真っ赤にし、エリオとキャロは小首を傾げている。これ、訴えたら勝てそうだな。

「大体、息子なら――っと・・・」

そこまで言いかけたところで口を噤む。いくら本当に俺が父親じゃないにしても、その話を俺を父と呼ぶらしいフォルセティの前でするわけにはいかない。俺は「とりあえずその話は後だ!」シャルの肩に手を置いて、フォルセティの視線と合うように片膝立ちをする。

「はじめまして、フォルセティ。それにヴィヴィオ。俺はルシリオン・セインテストと言う」

「「はじめまして」」

ヴィヴィオは右手でフォルセティのTシャツ(おそらくシャルかアリサに買ってもらった物)の袖を掴み、左手でなのはの手を取ったうえで挨拶を返してくれて、フォルセティは小さくお辞儀して挨拶を返してくれた。うん、俺に似て礼儀正しい良い子だ。

「(って、違う!)えっと、あー、その、俺がお父さん?」

自分を指差しながらフォルセティにそう確認してみる。なんだろう、これ。子供に向かって、自分が父親か?と訊くなんてまるで、知らずに余所で子供を作った間男――超絶○○野郎みたいじゃないか。はやて達から集まる視線の所為か変な汗が止まらなくなってきた。

「うん、パパ」

フォルセティの一言でこの場が凍りつく。俺を見下ろしているシャルから怒りが再燃したのが気配で感じ、はやても「ルシル君・・・?」元気の無い声で俺を呼んできた。先の次元世界ではヴィヴィオの父親役で、今回は俺と瓜二つのフォルセティの父親役。一体どうしてこうなった。

「ショックだよ、ルシル。ルシルは誠実な男の子だって思ってたのに。海鳴市から離れた途端にどこぞの女とよろしくヤっちゃ――むぐっ?」

これ以上シャルが馬鹿な事を言わないようにその口を右手で塞いでやる。そして『無実だ、信じてくれ!』フォワードも含めたみんなに念話で無実を説く。確かこの頃のヴィヴィオの年齢は6歳。俺は今18歳。12歳で子供を作った計算になる。

(そんなのねぇよッ、絶対に有り得ねぇッ! 12歳で、妊娠が出来る女性と子供を作るなんて、俺は絶対にそんな事はしない!)

口調が昔、“アンスール”の同性メンバーやステアにだけ使うものに戻ってしまうほどに、ありえない話だとツッコむ。と、この瞬間に、あれ?と不思議な感覚を得た。なんか前にも同じようにツッコみを入れた気がする。デジャヴというやつだ。なんだっただろう。だがそんな記憶は見当たらない。

(なんだ、このモヤモヤ・・・。何か大事な記憶を失っているような気がする・・・)

いやとにかく俺はヤってない。身の潔白を証明するためにどうすれば良いかを必死で考える。とりあえず今言えるのは、俺とフォルセティが似過ぎだということだ。しかしまずは・・・

「フォワード4名。申し訳ないがしばらくの間、ヴィヴィオとフォルセティを別室へ連れて行ってくれないか。これから俺・・・私は、いろいろと隊長たちと大事な話をしないといけない」

ヴィヴィオとフォルセティに聞かせられない内容になるだろう話になるため、2人をキャロ達フォワードに託そうとするが、「や・・・」ヴィヴィオがなのはの手にしがみ付いた。なのはが両膝立ちしてヴィヴィオと目線を合わし、「ごめんね、ヴィヴィオ。大事なお話なの」諭そうとし始める。

「や! なのはママと一緒に居る・・・!」

「「「「ママ・・・!?」」」」

事情を知らないフォワードは、ヴィヴィオのなのはママ発言に驚きを見せた。まぁ当然なリアクションだよな。その事情説明を含め、「なのはちゃんも一緒に別室に行ってもらって、念話で参加にしよか」はやての案に、俺たちは賛同する。口頭会話と違って限られた人にのみ伝えられる念話という便利なツールがあるんだ。それを使えば問題解決だ。

「あ、うん。じゃあそうしようかな。ヴィヴィオ、フォルセティ。フォワード(おねえちゃん)達と一緒にお話ししようか」

そういうわけで、怒りに燃えるシャルと呆れてるアリサを含めた隊長陣を相手に、俺は身の潔白を証明し、そしてヴィヴィオとフォルセティの正体の推察を伝えることになった。
 
 

 
後書き
ドーブロ・ユトロ。 ドバルダーン。 ドーブロ・ヴェーチェ。
ルシルとフォルセティの初顔合わせ回。闇の書の欠片事件の未来関係についての記憶はルシルにも無いので、若干のデジャヴを感じるくらい。そして、とうとう預言の内容を明かしました。これで今後どうなるかが予想できると思います。 
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