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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第82話 義勇兵を求めて


 ユーリの腕の中で啜り泣くミリー。

 それは、まるで離れ離れになっていた父親と再会した娘の様……、漸く見つける事が出来た故郷に帰れた時に涙する様……。と、傍から見ればそう言う感想が得られるだろう。
 
 ミリーの表情はユーリの胸の中に埋めている為、見えないが ユーリの表情は見える。

 その穏やかな表情は、まるで親が子を想う様な……、そんな慈愛に満ちた表情だったから。……正直な所 ミリーにとってはそれが良かったのか悪かったのかは……言うまでもない事だ。

 ただ、この時だけはずっと涙を流し、何も考えられなかったから別に良かった。

 そして、落ち着きを取り戻したミリーは、ゆっくりとユーリから身体を離した。まだまだ名残惜しかったけれど、いつまでも邪魔をする訳にはいかない、と何処かで思ったからだ。……解放軍がこのジオの町に来た事は知っている。この戦争で ユーリが戦っている事は ミリーも何処かで理解していた様だから。

 その後は、これまでの事を説明していた。


「成る程。武器屋間での寄り合いがあって、それで 離れていたのか。リーザスから」
「はい。……丁度、ジオに来た後に戦争が起きて……」
「ん。それで 動かず ジオに留まった、か」
「……はい」

 リーザスには、顔なじみの人も多く、世話になった人も多い。

 戦争中故に、そんな状態でリーザスに戻れる筈もなかった。それは十分理解出来た。……だけど、それでも帰りたいと言う想いもミリーは強く持ち合わせていた。リーザスの皆の事もそうだし、……もう会えなくなるかもしれなかったから。

「それで、このお店でお手伝いをしてました……」
「ミリー」
「は、はい……」

 ユーリは、ミリーの様々な葛藤を感じたのだろうか、声をかけた。

「……大丈夫だ。オレたちに任せておけ」
「っ……」

 ユーリはそう言うと、頷いた。
 ミリーの表情は、次第に明るくなっていく。戦争が起きて今日まで 見せる事が出来なかった素顔。ミリー自身も実感している様子だった。

「……やっぱり、ユーリさんも、解放軍に……?」
「ああ。オレだけじゃないがな」
「……はい。ランスさんも、ここにいらっしゃいましたし。虚言癖がランスさんにはありそうなのですが、シィルさんも説明をしてくれましたし……」

 ミリーは思い出しながら そう答えていた。
 ユーリが来る前に、どうやらランスが来ていた様だ。ユーリはそれを考えていた時……、やや 表情が引きつってくる。

 何せ、昨日はホッホ峽でヘルマン軍との一戦。何よりも魔人との接触、戦闘。普段よりも疲労や負傷があったのは事実だった。

 勿論、それはユーリだけに限った話ではない。

 元カスタム解放軍サイドは勿論、バレス達リーザス軍側も同様だ。
 
 まるで問題なさそうにしているのが、最前線ではあったものの、『物足りない』とまで言っていた清十郎。決して口には出してなかったが、極めて冷静に物事を判断しているリック。同じグループでも、レイラは正直別だったようだ。

 物足りない、とは言わないものの、元気が有り余っているのは、勿論 解放軍のガキ大将? ランスである。

 そして、ランスに昨夜は 幻覚魔法をかけられていない。よくよく考えたら、かけてない時も少々あった。だから、ユーリは心配になった。

「……はぁ。ランスに色々と面倒な事をされなかったか?」

 はぁ、とため息を吐きながら そう言うユーリ。
 大体ランスの事を知っているミリーはと言うと、軽く頷いた。

「ランスさん、ですから、仕様がないかと……」
「って事はされたんだな……。何だか悪かったな。うちのバカが……」
「いえ。私に被害は無いです。ただ……戦いがまだ終わってないのに、ランスさんに 怪我をさせてしまったのが、申し訳ないです」

 ユーリが謝ったのに、ミリーが逆に謝っていたのだ。

 そう、ミリーに備わっている絶対幸運スキル。己に降りかかる不幸は、(厳密には不幸だと思う事、ミリー本人が心から嫌がる事) 回避される。自分の幸運だけではなく、防御スキル、とも思える。相手が異常なまでに、不幸になって結果として 回避出来るのだから。

「ははは。大丈夫だ。アイツは殺しても死なないから大丈夫だ。オレは、ミリーの様な幸運系スキル所持者|《ホルダー》だと思ってるよ。……ま、ミリーには敵わないみたいだがな。……でも、ミリーが無事で、本当に良かったよ」
「ぁ……、はい。ありがとう、ございます。……でも」

 ミリーは表情を暗くさせた。

「パティちゃんや、優希ちゃん。奈美さん……パルプテンクスちゃん。街の皆が、とても……」

 そう、ミリーの絶対幸運は自分だけのもの。
 他の皆を助ける様な事が出来ないから、安否が判らない友達たちが心配だったのだ。……心から。

「……心配するな。必ず 皆助ける」
「……はぃ」

 ミリーはユーリの事を疑ってる訳ではない。寧ろ、誰よりも信頼している、と自分では思っている。だけど、普段は会えるのに、会えない、と言う状況になった事が無かったから怖かった。いつもの何でもない状況、普通、それがどれだけ幸せな事だったか、と今なら強く想った。

 ……これが、沼に行っていた頃だったら、直ぐに生きている事を実感して、行かなくなった事だろう、と思うから。
 
「それにな。ミリー」
「……?」

 ユーリの表情が 明るくなっていくのが判る。

「優希は無事だ」
「……えっ!」

 ユーリの一言で、ミリーは眼を見開いた。

「ミリーの様に、リーザスから離れてレッドにいた様でな。……囲まれていたが、無事に助ける事が出来たよ。 だから、安心しろ。……また連れてくるよ」
「あ……、は、はいっ!」

 ミリーの目に溜まった涙が弾けでた。
 そして、思わずユーリの胸に また飛び込んだ。

「よ、よかった。よかったです……。ゆうき、ちゃんが……」
「ああ。……他の皆もきっと無事だ。必ず助けるから」
「っ、は、はい」

 ユーリの抱擁、それを再び受けて ミリーは体温がどんどん上昇していく。
 どくん、どくん、と鼓動が高鳴るのも判る。ユーリの顔を 間近で見てみたい、と言う衝動に少し刈りたてられたミリー。目と目が合わされば……ひょっとしたら 色々と幸運が訪れるかもしれない。

 幸運スキルで、そう言う類は、これまでに無かった事だから……。

 様々な葛藤があったその時だ。

『ここは 武器屋兼道具屋ですからね。ジオの街は資材が豊富ですから、消耗品アイテムに関しても色々と揃ってると思います』
『はい。そうですね。私の神魔法も無限には使えませんので。万が一の時の為にも、備蓄しておきましょう』
『クルックーさんは、お金は大丈夫ですか?』
『問題ないです。先生からですが色々と預かってます』

 話し声が店外から聞こえてきた。
 
 色々と考えていた事が一気にすっ飛んで行き、急いで離れよう、離れよう としたのだが……正直な所 完全に固まっていたから、咄嗟には動く事が出来なかったから。

 そして、店内へと入ってきた。

「ごめんくださーい! …………ぁ」
「失礼します」

 丁度、入ってきたのは 今心配をしていたリーザスの情報屋の優希。そして AL教司教見習いのクルックー。

 完全に固まってしまったのは優希。 

 様々な思いが脳裏に交錯しあう。無事かどうかが判らなかったミリーがこの場所にいた事、……そしてユーリとミリーが……。




 その後に色々と騒ぎになってしまったのは、言うまでもない。




 大半は優希である。
 だが、半分~7割程は ミリーと再会出来た事が嬉しくて。残りが……言うまでもないから、割愛。

 クルックーに関しては、いつも通りのポーカーフェイス。
 だけど、ユーリとミリーが抱き合ってる(事情を聞くまで、そう見えた)姿を見て、視線を左に思いっきり向けて 見ない様に、みなかった様にしていた。
 やっぱり、ユーリの前では 色々と心が動き、様々な無感情とまで思っていた自分自身に変化があった。……何故、そうさせるのか、どうしてなのか。自分の心が正直判らなかったから、暫く困惑するのだった。

 






















~リーザス解放軍 司令本部~



 ジオの街を解放し、次はオク、ノース、サウス。そして リーザスとなってくる。
 情報収集をした結果であるが、解放軍の中で唯一揃っていないリーザスの第2軍。《青の軍》が、ノースの街の北部、バラオ山脈に簡易駐屯地を設けて警戒をしている、と言う情報が入っていた。

「今は、青の軍に伝令をする事は難しい状況です。オク、ノース、その更に北部になりますから。間には、ヘルマン軍がまだ占拠している状況ですし」

 エクスは、そう説明するが、表情が優れいているのは、間違いなく 仲間たちが無事だった事を喜んでいるのだろう。

「コルドバ様が無事でよかったです」
「おっきい、カベおじちゃん、よかったおーっ!!」

 メルフェイスとアスカは、エクスが思っていた事を口に出していた。
 それは、ここに揃っている皆が喜んでいる事だ。

「む。『カベおじちゃん』って事は 男か? ……名前からしてむさくるしそうだし」

 話を訊いていたランスが、かなみに訊いた。

「なによ。むさくるしいって。リーザス青の軍の将軍よ。鉄壁の守備力を誇るっていて、《リーザスの青い壁》って称される程の猛将よ」
「じゃあ、いらん。見る気もない」

 ランスは一蹴してしまうが、別にそれに関しては問題ない。

「はぁ、見ようにも会おうにも、まだ 街を幾つか挟んでるから無理だろ? そのコルドバ将軍が北の国境を警戒してくれてるから、わらわらとヘルマン側の援軍がこれない、と言う事を覚えとけよ、ランス。お前も これ以上ヘルマン軍が増えるのは嫌だろ?」

 基本的に巨漢の多いヘルマン軍。

 この戦争で何度ランスが愚痴を飛ばしたかは数え切れていないのだ。
 でかいから、視界に収まりきらず、どっち見ても黒鎧の大男ばかり。だからむせていた程だ。

「ふん。オレ様にかかれば余裕だがな! その程度。だが、ヘルマン軍以上にむさ苦しい男などはこの世界には存在せんだろ。と言う訳だから、むさい男にはむさい男をブツけるのが一番だ! がははは!」

 ランスはと言うと、いつも通り好き勝手言ってくれている。
 正直無礼極まりない事なのだが、もう皆解ってくれているし、妙な指示を出されるよりは良いだろうから。

「ふぅ……」

 やっぱり、ハウレーン辺りは何度も来るものがある様だ。
 何度もランスに迫られていたりした事も、拍車をかける切欠になっているのだが……ランスの采配や 戦果を考えたら、仕様がない。
 根っからの軍人、騎士道精神の持ち主だから仕方がない。

「柔軟な思考も時には必要じゃぞ? ハウレーン」
「……はっ、はい。 父う……バレス殿」

 このやり取りも何度目か判らないのである。

「ハウねぇちゃんも、あいかわらずおー」
「あ、アスカ……」

 最年少将軍のアスカにまでいわれてしまえばしっかりとしなければならないだろう。今の所、ユーリの次に効くのが アスカの言葉なのである。

 








 そして、その後。

「それより、さっさと話を先に進めろ」
「……なんでランスがそんな事言ってんのよ。将軍に難クセつけていたから遅れたって言うのに」
「はぁ、本当にいつも通りの光景だな」

 リーザス軍内での話以外でも 色々とあったのだが、ランスが飽きた様であり、先の話をしろ、との事だった。それを訊いた志津香は、ランスの言葉が切欠だった事をツッコンでいた。いつも通りの光景、と言っていたのはユーリである。

 先の戦いを考えたら、こう言う風に戻る事が出来た事に、少なからず 皆に感謝をするのだった。

 


 そして、ランスの言う通り話が先に進んだ。

 色々な確認事項があった中で最も衝撃の大きかったのが オクの街の件だった。

「っつー、事は何か? 今 オクの街は蛻の殻、って事なのか?」

 ミリは眼を丸くさせながらそう訊いた。
 そう、次解放しよう、と作戦を立てている街の内の1つ。オクの街には もうヘルマン軍はいない、と言う情報だった。
 偽の情報では? 掴まされた罠なのでは? と言う声も上がったが それはどうやらなさそうだった。
 一流情報屋である真知子や優希、情報戦を主体とした白の軍、そして エクス、ハウレーンも頷いた。これだけの豪華な顔ぶれのメンツが 間違いない、と言う以上は 問題はないのだろう。 

「はい。大勢を整える、と言う意味では 我々にも多少なりと時間が出来ました」
「馬鹿者。これを気に、一気に潰せば良いではないか」

 ランスがエクスにそう言うが エクスは首を振った。

「それも一理あるのですが、ヘルマン軍は思いの他 オクを捨てたのが早く、今はノースとサウスのどちらかで整えている最中でしょう。街を1つ挟んでいる、と言う事もあり 情報を得た時、そして 今からでは奇襲は難しい。なので こちら側もより体勢を整えて突撃する方が懸命かと」
「ふん。オレ様は常に最強だから、整える必要なぞ。無い」
「おー、成る程。じゃあ ランス。頑張れ。色々と訊いたけど、前回は 指揮を存分に振るったから、力が有り余ってるんだろ? ランスが突っ込めば、ヘルマンだって、蹴散らせるだろうな。1人突撃宜しく。ガンバレーー(棒)」
「だぁぁぁ! コラァ! サボろうとするんじゃないぞ! ユーリ。きさまは、志津香を襲おうとした、罪があるのだ! まだまだ、うし車の様に働かせるぞ!!」

 ユーリの煽りを、どうやら サボる方向にとろうとしたランスを焚きつけた様子だ。見事的中であり、効果は抜群である。面倒くさいが……。

「はぁ。オクの街ならまだしも、リーザス領土であるサウスやノースに逃げたんだ。リーザス側に本体もいるだろうし、支援もしやすいだろう。猪突猛進に攻めるのは今回は分が悪いだろ。オレはしんどいから、しっかりと準備していきたいだけだ。それに、いろんな意味で負けたくないんなら、丁度良いじゃないか」
「む……、戦闘狂の癖に。珍しいではないか。……ただでさえむさ苦しい相手だと言うのに、それでは仕様がないではないではないか!!」
「……オレに怒るな」
「(……やっぱり、ユーリさんの言葉なら、しっかりと訊いてます……、ランス様。本当に信頼してるのが、よく分かります……)」

 2人のやり取りを見ていたシィルは、微笑ましそうに見守っていた。
 自分勝手なガキ大将ランスが、強引なのはあまり変わらないが、この中で唯一意見をしっかりと聞いているのは、ユーリだけだ。
 戦闘面に関しては、リックや清十郎の話も訊くが、ユーリはそれ以上だと思える。そんな2人を見ていて シィルは更に笑う。

 そんな笑顔が何処となくムカつくから、という理由でランスはシィルを殴る。

「ひんひん……」
「女の子に暴力振るってんじゃないわよ」
「まぁー酷いわなぁ~?(テレ隠しだろうけど……)」
「炎の矢」
「うぎゃちゃぁぁぁぁぁ!!!」

 シィルを守る為に、立ち上がる女性陣だった。

 それでも、ランスが照れてしまって、それを隠す為の暴力。 皆判っている。それでも 炎を飛ばすのをやめないのは……ランスだから、と言う事だった。
 




 
 そして、解放軍は 一先ず、ノースやサウスは別として、情報を元にオクの街まで侵攻を果たした。

 そこには、情報の通り 蛻の殻であり駐留した形跡はあるものの、兵士の姿はどこにもなかったのだった。













――それは、数日前の出来事。







~オクの街~



 ヘルマン軍は、ジオの市長 ジルサブンの言う通り オクの街にまで撤退をしたのだが、ここで予想外のできごとに見舞われていたのだ。

「だめです……、それらしいものは豆粒一つありません……」
「くっ……!! どういうことだ! シルサブンめ! 物資を置いたなどと……ッ!!」

 そう、この場所にまで撤退をした理由の一つに、シルサブンの物資をオクの街へと送った、と言う進言を訊いたからだった。それを信じて、撤退して オクの街に来てみたらこの有様。物資のぶの字も存在しなかったのだ。

 だからこそ、常の冷静さを打ち捨てて、ガイヤスが市壁を殴打していた。

 強行軍の続くヘルマン軍は、単独で打ち捨てられる形となってしまったのだ。

「やってくれる……! ここで手の平を返してきたか……!」

 侵略者の自覚は勿論あった。欺かれる可能性事態は、常に想定していた。だが、ヘルマン軍が再来した場合を考えれば、あの時点では、そこまで思い立ったことはしない、と読んでいたのだが、読み違えてしまったのだ。

「(シルサブンにとっても、賭けだっただろうが……、くそっ! 必ず後悔させてやる……!)」
「ジオに置いた兵士が、大量のうし車が移動するのを見ていたと言っていたのですが……」

 唖然とする伝令兵。
 だが、その手配からして全てが擬態だった、と言う事はもう間違いないだろう。用意周到なやり口、だと言う事だ。

「……みずみず、ジオを捨てたか。これならば、ジオで籠城をしていた方が……」

 晴れ渡る天を仰ぐガイヤス。ヘルマンの空とは大分違うこの空を見上げながら、悔しさを募らせた。……憎い程の青空、と言えるだろう。

 だが。

「………いや」

 その青空に影が差した。トーマ将軍だ。

「あのままでは、押し込まれていただろう。こちら側と向こう側とは、士気が違った故に」
「トーマ様」
「そして、おそらくは洗脳が解けたバレス・プロヴァンス将軍が指揮を執っている、と考えていたが、どうやらやり口からして違う。……あれだけの軍をここまで動かすとは、な。世界は広い。傑物がまだおったわ。指揮系統もそうだが、個々の戦闘力においても」
「その様な事を……。まともに戦えば、負ける事など……」
「そこまでを整えるのも戦よ。……物資と兵の状況は?」
「正直、あまり良くはありません。ここで補給と休息を、と考えてましたので……」
「……………」

 しばしの間、トーマは黙考する。
 その視線は、遠く パットンのいるリーザス城へと注がれていた。

「……よし、ならば。一晩休む。明朝、すぐに移動だ」
「っ……! オクを捨てるのですか? しかし、リーザス領土内に踏み込まれる事に……」
「儂らには大した意味はない。……何より、この街は対して大きくはない。体勢の立て直しにも捗るまい」
「それは、そうですが……」

 ガイヤスは、トーマの真意を測り兼ねていたのだが、それよりも信頼が勝った様だ。

「では、ノースに行かれますか? それともミネバ隊の駐屯するサウスに……」
「いや、その両方だ」
「!!」

 そして、ヘルマン軍は 迅速な早さで移動を開始した。
 
 リーザス側に動きを、その情報を掴まれる前に撤退を。退却する時に、狙われでもすれば、勢いのままに 更に押しきられてしまう可能性が捨てきれない。

 この部隊は、現行人類最強と称される男が率いている。

 そして、何よりも、洗脳があったとは言え、一度 リーザス場内でリーザス最強を退けている場面をも見ているのだ。指揮をとらなければならない為に、全面的に前に出る事はないが、正面衝突となれば話は別だろう。

 その絶対的な強さ、そして 人柄も相余り、最大限に信頼している部下たちがいるのだ。



 だが、トーマは己が最強などとは現在では思ってもない。



「………」







 思い返すのは、ヘルマンの首都 ラング・バウでの事だった。





 それは、いつもの様に 軍務を終えた後に、コレクションにしていた武具を手入れを施していた時の事だ。

『トーマ』
『……ハンティか』
『あいかわらず、壮観だねぇ。この部屋は』

 いつの間にか部屋の中へと入ってきた者がいた。
 その者の事は よく知っている。パットン皇子の乳母にして守役、色々と世話係も考えたら、一体幾つの役職があるか判らない現評議員であるハンティ・カラーだ。
 
 トーマと彼女は良き友であり、パットンを鍛えていたトーマから考えれば、母親がハンティであり、父親がトーマ。そんな信頼関係もあったのだ。

『ヒューは、《不知火》は使いこなせてるかい?』
『いや、まだまだ、と言った所だろうな。あの刀を扱えるだけで、それだけでも素養は十分。……筋が良い。だが、それでもまだまだ未熟だ。精進が足らん』
『手厳しいねぇ。あれ(・・)持ってるだけでも、武人としては完成されている、って言ってもおかしくないのに』
『今のままで満足して貰うのは困る。……あれには、これからのヘルマンを。皇子の片腕となってもらわねばならんのでな』
『アリトレス、ヒュー。それに まぁ 今はさんざんバカにしてるけど、ロレックス、とかか。なかなかに豪華な顔ぶれなんだけど、肝心のあんのバカがしっかりしないとなぁ……』

 ハンティはため息を吐いてしまっていた。
 現在、ヘルマンが抱えている問題は山祇なのだ。……それは内部によるものも大きい。

 これに関しては後々に明かされていく事だろう。

『ハンティ。それよりも、主の同士たちが 攫われた、と言う情報を耳にしたが、大丈夫だったのか?』
『おっ!? そうだったそうだった』

 ハンティは思い出したかの様に頷くと、笑みを見せていた。それだけでわかる。無事だった、と言う事が。だが、それ以上に何かを感じた。

『面白い男にあったんだ。……あんたの耳にも入れておきたくてね』
『……ほう』



 その日、若い世代、次の世代がが育ってきている事を実感した。

 ……時代のうねりも同時に。




 トーマは、再び熟考する。


 ハンティの言葉が何故か、今になって頭の中によぎるのが気になった様だ。

「…………ふ」

 次世代の強者と相見えるこの戦。
 現在、兵を率いている大将である故に、戦闘を楽しむ様な事は出来ないし、なかなかみせられるものではない、が それでも、心躍る何かを感じ取り、トーマは笑っていたのだった。








~オクの街 解放軍司令本部~



 オクでの戦闘が無かった為、一行は 簡易的な休息をとった後、すぐに軍議、作戦会議を行った。

「がはははは! ようやくリーザスに入ったな。前はあっという間についた、と言うのに、やたら苦労させられたわ」
「……ああ。あの仕事ん時は、大分苦労させられたな。ランスは無茶ばっか言ってたし」
「下僕が主人の言う事を訊くのは当然だ」

 以前の仕事。ここ最近の仕事の中では間違いなくトップレベル、と言えるだろう仕事だった為、忘れる筈もない。ランスが相変わらずなことを言っている為 否定をしようとするのだが、その必要も無かった。

「「「だから、誰がランスの下僕よ!!」」」
「………ははは」

 何時もながら、自分の台詞をとってくれている女性陣がいたからだ。だから、それを見て苦笑いをしていた。

「いやぁ ほ~んと、罪な男よねぇ? こ~んだけ、誑かしちゃって」
「何かいったか? ロゼ」
「いんや~。べ~つに~~! っとと、そうだった、回復アイテムは十分かしら? いつも、ご利用ありがとうございます。代金は盛大にツケておきますので、今後共、ご利用、奮ってどーぞ」
「いや、まだ足りてる。月の加護だってまだ使ってないしな」
「あらそー」

 事、戦闘に関しては ユーリ以上は正直いないのではないか? とも思っているロゼ。
 それは、ユーリ以上の存在をまだお目にかかってないからであり事はロゼ自身も認めているから。 だが、それをとっても 以前に渡した回復アイテムをまだ温存出来ている所が凄い、と改めて思ったのだ。

「必要無かったかしら?」
「いや、その場面に まだきてないだけだ。…感謝してるよ。これはお守りがわり、だな」
「ほっほ~、私の愛情は高いのよー? ダ・ゲイル以上のモノ(・・)で私をセメてくれるんなら、いつでもバーゲンセール」
「……参加しないから、安心しろ」

 バカな話をし合っている所で、トマト達も参戦。

「あー、ロゼさんずるいですかねーー! ちゃっかり、狙ってたんですかー!」
「うぅ……、ロゼさんの毒牙が迫るのは……」
「おいおい、飲み仲間として、オレも混ぜてくれよ」

 色々と集まってきた為、自然とユーリはフェードアウトした。まだ オクの街に来たばかりであり、今後のこともあるから しっかりと把握しておかなければならない事も多いから。

「おーっほっほ! ……ってな感じで、まるで お嬢様ふうに笑っちゃえるわねー、あんた達見てると。……あんた達はほんと。ってか、ラン? 毒牙ってひどいじゃなーい。こーんな、清楚なシスターを捕まえて」
「清楚なシスターは今の所、セルさんですよ……。あ、クルックーさんもです」

 真面目な2人は、今も負傷兵達の傷の手当てをしてくれている。その2人を思い浮かべて、そう呟くのはラン。彼女も部隊を率いているから、それを助けてくれれう2人には非常に感謝しているのだ。そして、勿論。

「ロゼさんにも、感謝はしてますよ。……あの戦いの時、皆を助けてくれたんですから」

 感謝の気持ちも忘れていない。
 ロゼは、ユーリに言われた事を、ちゃんと守ったのだ。死なせない事、危なければ逃げる事を第一に考えて、戦え。と言う事を。

「なぁに? ラン。ホントのこと言っても何も出ないわよ~」

 そこは、『煽てても』と使わないロゼ。
 確かに、本当のこと、といえばそうだが、はっきりと言い切るのはロゼだからだろう。

「まっ、色々と言ってくれてたら、私も色々としてあげれるかもね~? あいつ(・・・)、と??」

 今度は意味深に笑うロゼ。
 件の彼は、このやりとりを訊いておらず、バレスらと今後の事を話していた。

「ぁ、あぅ……///」

 ランはいっそう赤くなってしまう。

「ほんと、可愛いコが揃ったもんよ」
「だなぁ。見てて全然飽きねーわ」

 ロゼとミリは、ただただ笑っているのだった。

 そんなやりとりを、少し離れた場所、どちらかといえば、ユーリ達側にいて訊いていた志津香とかなみ。……因みに、ランスは もう飽きたのだろうか、一歩離れてシィルにセクハラをしまくっていた。明らかに満更でもなさそうな為、特にツッコまなかった。つまり、ツッコミ相手がいなかった為か、離れてはいてもちゃんと 要注意人物であるロゼやミリの事を気にしていた様だ。

「……っとに、あの厄介な2人は……」
「は、はぅ…… 離れてて、よ、よかったかも……」
 
 ランが良いように遊ばれているのを見て、自分達に振られてない事にちゃっかりと安心する志津香とかなみだった。


 色々と一部が遊んでる?時にも話はどんどん先へと進む。
 レイラが、リーザス周辺の詳細を記した地図を広げて説明をした。

「ここから王都リーザスに向かうには、2つのルート。つまり南から攻めるか、西側から攻めるか。1つの南のサウスは 鉱山の中に作られた山岳都市。ヘルマンの一大隊が駐留中との情報を、エクス君、真知子さん、優希さんから得ました」

 その言葉に、エクスも真知子と優希も頷く。
 完全に仕事モードに入っている2人は、かなりの集中を見せていた。(だから、ランやロゼ、ミリ達の会話が入ってきてなかった)
 
「そして、もう1つは西側に位置するノース。ジオから、撤退した部隊が、こっちにも少数で向かったらしいわ」

 レイラがそこまで説明をした所で、バレスが話し始めた。

「うむ。地形的にもサウスは攻めるに難く、守るに易い立地条件。ここは、ノースを突破し、リーザスを目指すが定石、と言うものですな」

 そう結論をつける。確かにそれも定石だろう。だが、定石、と言う事は向こう側もそれを容易に考えられている、と言う事になる。だからこそ、安易な方法を選ぶのは危険が付きまとうだろう。

 レッドの街の様に、プチハニーや爆発茸、己らの被害を被る事を恐れなければ、やりようは無数にあると言える。ましてや、軍隊としては、間違いなく世界一の身体を持つ 黒き鎧に包まれた巨漢戦士。爆発に巻き込まれても、生き残りそうだから 更に分が悪い。現に レッドで戦った男、爆発に巻き込まれ、盛大に燃えた筈なのに、ホッホ峽の戦いに参戦してきていたらしいから。

 ユーリが腕を組み、考えていたその時だ。

「馬鹿者。却下だ」

 飽きてなかったのだろうか、ランスが話に割って入ってきた。
 その言葉に、場の殆どの戦士達がランスに注目する。

「では、敢えてサウスを攻められるのですか?」

 バレスがそう聞くが、ランスは鼻で笑った。

「ふん。その程度の頭しか無いのか。それでよく リーザスの総大将とやらが、これまで務まったものだな?」

 ランスの強い口調、そして 絶対的な自信の表れ(いつも通り)を見て、押し黙ってしまうバレス。

「――……ふん。成る程。つまりはこう言う事か」

 同じく、ユーリ同様に腕を組み 軍議に口を挟まなかった清十郎が、一歩前に出て、地図上に判りやすく置かれていた駒を鞘に収めた剣先で動かす。
 リーザス側の駒を2つ。つまり自軍の駒2つを器用に動かし、ある箇所で止めた。

「なんと! 双方同時に??」
「……成る程。意表を突く、と言う意味では妙案ですね。兵士の数の問題などが残りますが、リーザスの攻城戦を考えたら、討てるだけ討つ方が懸命です」

 清十郎の配置を見て、バレスは驚愕。そして、リックは冷静に判断を下した。

「……攻城戦で、長期戦になれば成る程、こちら側も疲弊するだろう。向こう側にはまだまだ不確定要素が多い上に、トーマ、そして……魔人も控えている。魔人達を本戦と例えるなら、前座で 消耗する訳にはいかないしな」

 ユーリも腕を構えたまま、頷いた。

「そうですね。確かにリック殿の言う通り、最大の問題は兵士の数。……ですが、そちら側は何とかなる案もあります」

 エクスも、ランスのプランに乗ったのか、忙しなく 書類の束を開いて、確認をした。
 他のメンバーもランスの発言には、それなりに驚いている様だ。まっ先に、このプラン、戦術を口に? したのだから。……厳密にはしていないのだが、そう錯覚してしまっても無理はない。

「(ふむ。手っ取り早い方向に収まったな) がはは。そう言う事なのだ。やっと判ったか?」
「ふむぅ……、ここまでお考えとは。巧遅より拙速を取るべき戦局。恐れ入りました」
「がははは。元とは言え、総大将の名前を冠しておったのなら、早くオレ様の頭の回転速度についてこい!」

 明らかに行き当たりばったりな気もしない事もない。……が、気分よく戦闘をするのであれば、文句はないだろう。

「絶対、適当でしょ、あんた。目が正直泳いでたし」

 と、その場でランスの性質を知る者達は少なからず思っていて、それでも口に出さなかったのだが、躊躇なくくい込んだのは、志津香だ。

「馬鹿者。両方を纏めて叩いた方が手っ取り早いのは当然だろうが」
「……はぁ、やっぱりその程度だったみたいね……」

 やれやれ、とため息を吐いているのは、かなみだった。

「オレ様のスーパーな作戦なのだ。成功・殲滅は1000%! 敵側も大分始末したから、残り少ないだろ。このまま一気に掃除し切るのに限る。おい、白髪。ちゃんと兵士は補充も出来るんだろ?」

 ランスはエクスにそう聞いた。

「ええ。こちら側の現在兵数は、凡そ2500。サウスには大隊がひとつ駐留し、更にノースにも少数でもヘルマン第3軍の精鋭揃い。現在の状況のみであれば、こちら側が圧倒的に不利、ですが。その点に関しては、一応、策を練っています」

 エクスの言葉に、ミリが声をかけた。ちゃんと部隊長として、話は訊いていた様だ。……さっきまで遊んでいた様に見えたけど。

「その策ってのがききたいね。ジオじゃ義勇兵がいなかったしな。……他の都市だったら、多かれ少なかれ、ヘルマンに蹂躙されてたから、義勇兵が志願してきたんだけどねぇ」
「なんだと? ジオではゼロだった、って事か?」
「ああ。ゼロだ」
「そうだったわね。色々と歓待はしてくれたんだけど……、戦闘支援は皆無よ。……英気を養った、と言う意味じゃ有りなんだけど」

 あの市長がやりそうな事だな、とユーリは思ったが口には出さなかった。

「あっ、エクスさん。ひょっとして 策って言うのは、この地図には抜けてる街の……?」
「ふふ。流石、ですね。マリアさん」

 地図を眺めていたマリアが声を上げると、エクスは微笑んだ。

「おいこら。オレ様の女に色目使うな!」
「もうっ、誰がランスの女よっ。今はそれどころじゃないでしょっ!」

 マリアはぷんぷん、と怒っていたが すぐに話を進める。

「デンって街が抜けてるのよ。この地図。デンは、自由都市、なんだけど、リーザスとの境……、この街からじゃ西かな。L・C・M山脈の麓辺りにあるの」
「ふむ。パッキャマラード・デンですな。……エクス。そこに眼を付けておったか」
「ええ。……手段のひとつとして、候補に入れていました」

 エクスとバレスが納得していたのだが、ランスは判ってないから、苛立ちを募らせた。

「コラ。ホモかキサマらは。互いに通じ合うのは後回しにして、さっさと説明しろ。と言うか、マリアがしろ」
「もうっ! 勝手なんだからっ 大きな声で言えないのには訳があるのよ。……だって、その街は、自由都市とは名ばかりの犯罪者の巣窟、だから。表立って出来ない事。つまり、殺人とかの傭兵業を生業にする連中が多いんだって」

 そこまで説明をすると、思い出したかの様に、ミリとロゼが言う。何故か、ロゼのその後ろではセルが息を荒くさせていた。

「あ――……、そういやぁ聞いた事、あるぜ。食い詰めたり、やらかした傭兵が最後に落ち着く所だって」
「私にゃ無縁の場所候補、にはしてたわね。カミサマ信じてないは、金持ってないは、な感じがするから」
「ろ、ロゼさん! そこに直りなさい!!」

 どうやら、ロゼに対する説教モードに突入している様だ。
 ランスと同じで、更生の可能性は皆無で、茨の道だろうけど、それでもめげないのは流石の一言だ。

「セルさんも大変だな……」
「そうですね」
「クルックーは良いのか?」
「………ロゼさんにも学べるとこはありましたので。……セルさんにお任せしてます。セルさんも了承してくれましたし」

 珍しく言い淀みながらそう言うのはクルックーだった。何かロゼに思うところがあるのか……、と言うか、思わない事が無い、とユーリは判断して、ただ『気長にな……?』とだけ呟くのだった。

 ロゼに対して、なにを学べるのか……? と言うのは、クルックーは発言せず、心の内に留めるだけだった。

「まぁ、何にせよだ! そこの連中なら、戦いは出来そうだな」
「う~ん……」
「マリアさんの言いたい事は判ります。本来であれば、位置的に立ち入る事のない場所。そして、犯罪者と言う名。不安に思うのも無理はありません。僕も良策だとは言えませんが、現状では募るのはそこが最適だと判断しました。それに、こちら側には名将がおられる」

 エクスは、そこまで言うと、ランスの方を見た。
 『上手い。策士だな……』とユーリが呟いたのを聞こえた志津香やかなみは、苦笑い。

「がははは。そのとおりだ! 癖ある兵士達を使いこなしてこそ、名将。つまり、オレ様だ。よし! そこで兵士を募るぞ!」

 あっという間に、ランスがやる気になったから。

「では、私達がそこへ参りましょう」
「うん。色々と編成もかねた方が良いし、リーザス軍組が行った方が良いかもしれないよね」

 メナドやメルフェイスがそう言い、レイラも頷いたその時だ。

「ああ、むさ苦しい男共に襲われてもかなわんから。レイラさん達は、今いる兵士を動かせる様に、準備しておいてくれ。どかっと追加を連れてくる」
「(……ランスで大丈夫かなぁ)」
「(不安しかないわ。……デンとも戦争しそう……)」
「(やな予感が……)」

 つまり、色々と難アリな結果となったのだが、勿論 いつものランス節を忘れてはいない。

「さぁ、さっさと行って、兵士を募ってくるのだ! ユーリ!」

 ユーリの事を下僕、と言わなかったのは奇跡? 偶然?? それは判らないが、颯爽と、先程までの、発言をさらっとユーリに押し付けた。確かに、《自分が》追加を連れてくる、と言っていないから強ち間違いではないが。

「んー。確か話によれば、デンには娼館があるそうだな。それなりに人気な」
「む!?」

 ユーリは、思い出しながら そう言う。
 勿論、いつも通りの事をするのだが、当然ながら学習能力あるのだ。

 ……因みにそれはランスにではなく ユーリにである。

 さりげなく、目配せをかなみにして、更に志津香の方を見る。

 大体察したのか、かなみは志津香に耳打ち。……そして、顔を少なからず赤くさせるのは志津香だ。

 ユーリは、その後も色々とランスに聞こえる様に説明。勿論 入った事はないのだが、さも 知っているかの様に、美女が居るであろう事。そして まだ判っていない、と言いつつ、ヘルマン軍を臭わせた上での発言。

「あのゴロツキが集まる様な場所での1軒だ。間違いなく優良店。それも並大抵の能力じゃないだろうなぁ……うん。ヘルマン側が押し掛けてる可能性だってあるし。恩を売るのも一興だなーー。なんなら、色々とサービスをして貰えるかもなぁーー」
「コラァァァァァァ!!!!!」

 等々、ランスが怒ったのも言うまでもない。

「何をサボる気 満々なのだぁ!! お前に、女遊びなぞ、1000万年早いわ!!」
「ん、サボり? 何言ってんだ? もう痴呆症でも発症したのか? ランスが行け、って言っただろ?」
「やかましいわ!! さっさと行くぞ! 戦場以外ではユーリ! 貴様は危なっかしくてダメなのだ! 忘れていた!! しっかりとオレ様が監視しておかねば、女の子達が危ないのだ!!」

 何がどう危ないのかは判らない。……これまでで、そう言う事は一度もなかった? 筈なのだが……、と頭の中で苦笑いをしつつ、大股で歩いていくランスに続く。

「……ほんと、操縦上手いわね」
「た、確かに……」

 感心しているかなみと志津香。

「よぉー。よく我慢できたな? 志津香。今回も蹴るんじゃね? って思ってたんだけどよ?」
「っっ!! う、うっさいわねっ! あんたはどーすんのよ!」
「ん? とりあえず 今回はユーリ達に任せるわ。オレもカスタム側を中心に、部隊編成や支援物資の割り振りとかしないといけねぇし。ミルに任せっきりにしてたとこもあるから」

 ミリはそう言うと、ニヤニヤと笑う。

「そうですね。あまりあの街で目立つのは好ましい所ではありません。……少数精鋭で御願いしたいのですが……特に、お嬢様方には今回は控えていただきたいのですが。街の治安も良いとは言えません」
「……了解。とりあえず、私達もちゃんと決めるわよ。メンバーを。……あいつらから眼を離したら、面倒だし」

 志津香がそう言うと、大体のメンバーが集まった。

 完全に行きたい組である。残る組は ロゼとミリしかいなかった。

「ここは、公平にじゃんけんですかねー!」
「ぅぅ……、運頼りは自信が……」
「ランスさんには、しっかりと判ってもらわないと……」
「……危険はゼロじゃないです。私も出来れば同行したいかと」
「はぁ……」

 色々と集まってくる女性陣達。





 マリアは、その姿を見て、1人レイラ達の元へと向かう。

「あら? マリアさんは良いの? ランス君の事が気になったりしてるんじゃ?」
「っっ! な、何言ってるんですか!」
「(バレてないとでも思ってるのかしらね……)ははは。まぁ、良いじゃない。それより、どうしたの?」

 レイラがそう言うと、マリアは改めて、咳払いをひとつし、真剣な表情を作った。

「今回の件、上手くいって兵士補充ができた後の事なんですが……」
「うん」
「二手に別れるって事は、其々の戦力を考えた上での布陣、ですよね?」
「まぁ、そうなるわね。……まだ、情報不足だし諜報の方にも限度があるんだけど、恐らくノースには 少数かもしれないけど、あのトーマもいるでしょうし。サウスには大隊。正直、敵人数関係なく綺麗に2つに分ける方が良い、って思うわ」

 レイラは苦笑いをしつつ、そうぼやいた。

 トーマの実力に関しては、軍人である故に、よく知っていると言うものだ。一騎打ちに置いても、リーザス最強のリックを、本人談ではあるのだが、遥かに凌駕しているとの事。そして、そのトーマを慕う部隊も相応の戦線だろう。サウスにも豪傑が揃っているときく。

 ここまで戦い抜いてきたメンバー達を信じているのは間違いないのだが、……同時に攻めるのは、確実にホッホ峽の戦いよりも難しく、激戦は必死になるだろう。
 その上に、魔人も控えている可能性が濃厚となれば、更に不安要素だ。

「ランスの馬鹿は、絶対に文句を言いそうだから、今のうちに話をしておくけど……2つに分けるのは、戦力を考えたら、ユーリさんとランスは 同じ位置に配置しない方が良い、って思うの。確かに2人が揃ってれば、本当に強いのはわかる。……でも、今回に限っては。よくないと思う。……2つ同時に、っていう戦術なら」
「うん。それは判るわ」

 レイラは頷く。
 確かに、実力。明確な数字の出る実力であれば、恐らくランスはユーリに敵わないだろう。それは、かなみの話や 以前訊いたマリスの話でも明らかだ。
 リックや清十郎の2人もいるから、ランスの実質的な力量は、贔屓目で見ても4~5位だろう。(それでも、トップ5に入る事を考えたら、十分過ぎる気もする)

 だが、ランスにはそれだけではない、と言う事も レイラは何処となく感じている。
 
 本脳のままに動く。その常に虚を突くかの様な行動、奇抜とも言える発想。全てが常識外れ。……数値では測れない強さを持った男だと言う事は判るのだ。
 だからこそ、ユーリが認め、リックや清十郎が頷き、各将軍達も一目を置いている程だ。

「ユーリさんとランスを分けたら、うちの大半は、ランスの方から離れちゃうのも……確定なの」
「あー……違いないわね」
「それで、ランスが気合が入ってないと、ユーリさんも色々と気を使ってくれて、最終的にはランスが納得する範囲で、まとめてはくれそうだけど……、それは100%の力じゃないって思う」
「うん。そうね。……頼りになる()の背中を見て戦う。背中合わせて戦う時の強さって、普段よりも高く、強くなれるから」

 レイラにも、それは経験がある事だった。
 
 ホッホ峽での戦い。……間違いなく自分の力は更に出ていた。今よりもずっと出ていた、と思えるから。

「だから……レイラさん達、親衛隊の皆さんに纏めてほしい、って思って……。ずっと、ユーリさんに考えてもらってばかりで、心苦しかったし。……シィルちゃんと私だけじゃ、あのバカの行動を抑えるの、無理だから……。で、でも、心苦しいのは親衛隊の皆さんにも、なんだけど……」

 マリアがそこまで入った所で、レイラは軽く肩を叩いた。

「あははっ、気にしないで。マリアさんが考えている事、大体判ったし、名案だとも思ったわ。それにね? 妙な気使いは無用なのよ。……ね? 皆」

 レイラは、後ろ側に待機していたレイラの部隊。金の軍のメンバーに声をかけた。
 皆、笑っているようだ。

「……ここにいる皆は、魔人に洗脳されただけじゃなくて、ヘルマンの連中に、陵辱されたコもいる。……覚えているコだっているのよ。そのヘルマンを蹴散らしてくれたのはランス君だってそうなんだし、だから、ランス君に、気があるコだっているの。ま、リア様の大切な人だから、リア様の前では言わない様に、とは言ってあるけどね」 

 レイラがウインクをすると、皆も頷いた。

「…………それに、今更処女って訳でもないんだし。ランス君に色々とされたって平気でしょ?」

 決して軽口を言っている訳ではない。陵辱された記憶の事を思えば、トラウマを抉っているも同然なのだから。だが、それでも マリアの言う様にランスを最大限に乗せる方法はこれが一番だと言う事は判った。


――……ヘルマンの連中にされた事を考えたら、その何倍も良い。ヘルマンを倒して、追い払ってくれるなら。


「つまり、反対するコはきっといないわ。……その代わり、ランス君には精一杯働いてもらうんだからね?」
「あ……。はい。ありがとうございます」

 マリアとレイラは、協定を結ぶ。

 第して、《ランス操縦説明書(マニュアル)習得(マスター)

 ユーリが操縦している所を何度も見ているし、それなりに技能(スキル)は上がっているから、大丈夫だろう。

「まぁ、それもデンの方の作戦が成功したら、だけどね」
「……大丈夫です。2人が揃ってますから」

 2人が分かれて戦う事が最適とは言えないだろう。ラギシスを倒した時の2人を覚えているから。


 マリアにとっては、間違いなく人類世界最強のタッグなのだから。


























~街情報~



□ パッキャマラード・デン

 ならず者どもが流れ着く最後の街、とまで言われている名ばかりの自由都市。
 その元締は、ならず者達全員が敬意をしている程の者。……直ぐにその者の正体が判るだろう。……後々にランスにとっても、ある意味ではトラウマになってしまう街でもあった。

 

 
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