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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第81話 ジオの町の再会

~自由都市 ジオの町~


 それは、翌日の事。
 本当の意味で、一難去った、と言えるだろうか? 昨日は色々と大変だった。無数の質問やら何やら、気が休まらない、と言っても良い。……皆が無事で、こうやって はしゃげる、と言う意味では本当によかったと思う。

 それでも、激戦区ではやはり死傷者は出ているのが現状だった。その事は悔やまれるが、国の為 胸を張って散っていた者達へ黙祷を、バレスを始め、殆ど全員がしていた。

 その時は流石に、質問とか、色々黙っていた。



 そして、場所はジオの町の宿。


「えへへ~~ おにぃちゃんっ、撫でて~!」
「ははは。はいはい」

 ユーリとヒトミ、である。
 ヒトミは、ユーリの膝を枕にして寝転がっている。ユーリは、ヒトミの前髪が目に入りそうだった事と『撫でて』とお願いをされた為、ゆっくりと髪を梳いてあげていた。


 長らくヒトミは懸命に、献身的に働いてくれた。兵士達をねぎらう事もそうだし、外見を考えたら、10そこらの年齢に見えるのだが、大人顔負けの仕事量をこなし、更にはどんなにきつくても、辛くても、皆の傍では決して顔には出さない。

 いつも笑顔でいる。

 その笑顔に皆が救われた、と言っていい程だ。
 だから、彼女にも休息を……と、マリアが思って そう提案した。
 勿論、ヒトミは『私が無理を言ってついてきたから』と、頭を縦に降らなかったけれど、事情を諸々知っているユーリが最終的には窘めた。

 そして、結果的に言えば 最愛のユーリの言葉もあり、どちらかといえば、自分が心配をする立場なのに 兄に心配をかけてしまうのは複雑、と言う事で ヒトミは了承した。ユーリが『頑張ってくれたご褒美』と言ったら、ヒトミは迷わず、《ユーリと2人っきりの時間を欲しい》と言ったのである。


 兄妹仲睦まじ、とマリアは 本当に良い笑顔で笑っていた。勿論他の皆も同じだ。


 ああ、因みに小屋での1件が 終わって………、いや 終わってない。ジオの町に来ても非常に視線を感じている。――現在も 多少なりとも感じたりしている。気配を探る事に関しては、戦いにおいても、冒険の過程でも 重要な感覚だ。

 ユーリは、それを 長年かけて育んできた。だからこそ……これ(・・)も感じられる。

「はぁ……、あれから1日たった、っていうのに。まだ説明が足りないのか……?」

 そう、あれから、ジオの町まで戻って1日が経った。
 直ぐにでも動くべきかどうか、それを検討していたのだが、諜報を第一優先として、オクの町の偵察を出したのだ。

 因みに ユーリは ホッホ峽から撤退した敵側(ヘルマン)は、ジオの町で篭城をしている……と思えていたのだが、それは違った。どうやら、リーザス領土のオクの町にまで、撤退をしたとの事だ。



 オクの町へと撤退した、と言う事実は ジオの町の市長 パパデマス の説明ではっきりとした。



 自由都市一、豊かと評判高いジオ。
 それを支える敏腕政治家、と言えばそうだが、その肝に関しては決して好むべくものではない事は 一見してよく判った。


――……眼を見れば、人間性が大体判る。


 それが遺憾無く発揮。
 
 それとなく 探ると どうやら 徹底したジオ第一主義、故に それ以外の事は全く拘らない。卑屈なまでの謙り歓待対処、そして鞍替えを全く厭わないコウモリ外交にある。その政治対応の良し悪しはともかく、これによりリーザス戦役においてジオが全く戦禍を被ることが無かった。

 ジオの町に住む住人達を結果として守り抜いたのだから、その辺に関しては 言うべきではないだろう。だが、『己の身が潤えば良い』、とまでぼやいていた事も判明している事もあった。……更に、かなみにも調べてもらった結果。

「……ありすを道具の様に扱っていたのだけは、素直に頂けんがな。ま、それも今日までだと思うが」
「んー? どうしたの?? おにいちゃん」
「いいや、何でもないよ。……ただ、大分目聡くなったな、と思ってな」
「あ、あはははっ。だって、おにいちゃんだもんっ 優しいから、だもんっ」

 ふにゃりと笑みを見せるヒトミ。ユーリも軽く笑った。どうやら、ヒトミもだいたい察した様だ。


 因みに、パパデマスに関して行った事はというと。


 アイドルのありすの事実関係をうちのガキ大将(ランス)にそれとなく密告した。
 彼女は、アイドルである為に、ランス自身も勿論知っているらしく、と言うよりポスターを持ってる、と言っていた為、それなりのファンだった様だ。更に ありす本人から既に慰安を受けているらしく……、兎も角、ランスは怒り狂って 大股で 市長の下へと向かっていったのだった。

 ここから先は、どうなるのかは――火を見るよりも明らかだろう。

 あの手の人間は 力あるものに決して逆らう事はしないだろうから。


 そんな時だ。

「ユーリさーん、ヒトミちゃーん」

 宿の扉にノックと共に声が聞こえてきた。

「あ、かなみおねえちゃん。はぁーい!」

 ヒトミが元気よく返事をしながら、飛び起きると扉を開けた。
 そこには、声の主であるかなみがいて、両手に持ったトレーの上には料理、飲み物が置かれていた。

「お腹がすいたかな? って思って」
「わぁ、ありがとうっ おねえちゃんっ」
「うん。ヒトミちゃんには、私も沢山お世話になってるからね? これくらいさせてよ」

 ニコニコと、ヒトミの笑顔につられて、かなみも笑顔になる。

「ありがとな、かなみ。疲れてる所に態々」
「そんな事、ありませんっ。だって、それをいうなら、ユーリさんだって。……いえ、ユーリさんが一番疲れてる筈なんですからっ。これくらいさせてください」

 かなみは、トレーをヒトミに渡した後に、ぎゅっと両手を握り締めながらそう言っていた。かなみの眼には大分力が篭っている。

「そうか。……これからが、大一番、だな? 互いに英気を養っておこう」

 自由都市圏内を解放し、リーザス領土が見えてきたから、と言う理由があるだろう。
 かなみは、それを訊いてまた、力強く頷いた。

「はいっ」

 その返事を訊いて、ユーリはいろいろと安心をした。

 かなみは、見ていても 自分自身を責めていた。……自責の念がかなり見て取れていたから。何度かユーリも言っていたのだが、それでも 仕方がないだろう。それ程まで かなみは、悔いていたと言う事だから。
 だけど、リーザスに近づく程 自責よりも 使命感を強く、より強く持ちだし 覆い尽くした様だった。出会いが戦争、と言うのは 正直好むものではないが、多くの友達と呼べる者達が出来た事、そして 親友であるメナドを救えた辺りから 特に変化が顕著に見られた。

「かなみおねえちゃんも、一緒に食べよー」
「あはは。うんっ」
「ほらっ おにいちゃんもっ!」
「ああ。判った判った」

 ヒトミに手を引かれ かなみは 椅子に腰を掛ける。ヒトミも同じで ユーリを笑顔で呼ぶと 一緒に朝食を取るのだった。





 笑顔の朝食も済ませて、ユーリは席を外した。と、言ってもお手洗いだ。

 そのタイミングを見計らったかの様に かなみは ヒトミの方へと視線を向けた。
 唇を小さく、そして素早く動かしているのが判る。どうやら、小声でヒトミに何かを訊いてる様だ。ヒトミは それを訊いて にこっと笑った。最初から判ってた、と言わんばかりだ。

「あははっ、おねえちゃんってば……」
「あ、あぅ……」

 ニコニコと笑うヒトミを見て 思わず項垂れてしまうかなみ。

「んーとね。おにいちゃんにいろいろと訊いたけど……、志津香おねえちゃんと進展あったとか、そんな感じはしなかったかなぁ……」
「そ、そーなのっ?」
「うんっ」

 勿論、かなみが訊いたのは、志津香の事、である。
 リーザス解放軍が、ジオからオク、リーザス領土への情報戦に臨んでいる傍ら、現在乙女達は ユーリと志津香に関する情報合戦の真っ只中なのである。

 ユーリ、志津香問わずに、トマトは ド・ストレートに訊いたり、ランやメナド、優希は 頬を紅潮させつつも、聞き耳をたてる。上級者のミリは そのやり取りを酒瓶を片手に楽しみ、その隣でミルが格好エロい姉を見て 誤った教育を受けている。真知子は リーザス解放軍の情報戦に参加しつつも、合間合間にちゃっかりと仕入れようとしたりして、 マリアは親友と言う事もあり? 主に志津香の方を尋問。勿論、あまり激しくしちゃうと、頬が違う意味で赤くなり、更に伸びきってしまうので 然りげ無く……である。

 大規模な戦闘が終わった後だと言うのに……、異常なまでに元気なのだ。

 勿論、何時間も続けて……と言う訳ではない。ユーリに関しても志津香に関しても 所々負傷もしているから。

 ジオの町周辺の警戒は リーザスの赤の軍(清十郎も含む)が交代制で行って警戒をしている為、少し休む余裕は出来ていたとは言え、流石にはっちゃけすぎるのもどうかと思うのだろう。

 兎も角、志津香は かなみにとって本当に良い友人である、と認識をしているし、一緒に戦った仲と言う事もあって、出会った時間は短くとも、信頼度は非常に高い。友人以上、親友以内。と言った所だろうか。

 だけど……、事 想い人(・・・)関連に関しては…… やっぱり 負けたくない、と思ってしまうのだ。 言うまでもなく、それは かなみだけではないが。

「あっ……、でも アニスちゃんの1件もあるし……、おねえちゃんは 魔法使いだから、おにいちゃんに内緒で、って可能性もあるのかなぁ……?」
「ぁぅ……」

 確かに、それは有り得ない事はないだろう。
 現に、過去に一度事例があるのだから。相手は むちゃくちゃな存在、と訊いているが 事実である以上、看破しきれないのだ。

 ヒトミは、少し項垂れているかなみに笑顔を見せた。 

「でもね……、志津香おねえちゃんだよ? おにいちゃんの意思関係なく、って あまり しないと思うんだー。よっぽどの事が無いと、さ? おにいちゃん、おねえちゃんの事、大切に想ってるし。その辺はおねえちゃんも知ってると思うし……」
「………ん」

 ヒトミの感覚が一番正しい、とかなみは改めて思った。ちょっとばかり、パニックになってしまっているから、考えが纏まりにくい。でも、志津香の事はよく知っているつもりだ。互いに同意を得る。……両想い、じゃなく 情事をするとは思えなかった。

 考えられるのは、推測でしかないが、ヒトミが言う《よっぽどの事》が、あの時に起きて、志津香の表情に現れていた、と言う線が濃厚だった。ただ、2人であの小屋に一先ず身を隠して……と言うだけであれば、志津香だったら、『はぁ……何にもないわよ』と、少しは 顔を赤くさせながらも、そう言うだろう。からかわれて 怒ったりする事もあるだろうけど、昨日に関してはそれが長すぎだと感じた。……ユーリや皆とは昨日今日の付き合いじゃないのだから。

「あはっ でも 志津香おねえちゃんにリードされちゃったかもしれないよ?? かなみおねえちゃん!」
「ぅぅ……ひ、ヒトミちゃぁん……」
「あははっ でもね、私思うんだー」

 ヒトミは 一頻り笑うと 割と真剣な表情をした。

「私、今まで沢山の男の人、見てきたけど…… なんって言えばいいのかな? その、おにいちゃんの器? その器量がとても、とてーも 大きいって思うんだ。リーザスの皆と比べても……。う~~ん、比べるのって、あまり良いとは思えないけど、それでもさ?」
「う、うん。それは私も同じだよ。ずっと、ずっと思ってきたし、ユーリさんが目標って。永遠の目標だって、想ってるから……」

 かなみも同意していた。

 リーザス解放軍として、共に戦っている、と言う事もあって、ヒトミは 沢山の人達を見てきた。
 
 リーザス軍は、世界的に見てもバランスのとれた軍隊だ。中でも其々の色の部隊を束ねている将軍の力量は 世界的に見ても優秀の部類、一流だと言えるだろう。

 指揮面、戦闘面(物理・魔法)、諜報面、それぞれの分野で秀でた者達がバランスよく 揃っているのも十分相手側からすれば脅威だ。

 そんな人達に囲まれている、と言うのに 更にひときわ輝いて見えるのが……ユーリだった。

 それは、兄だから、と贔屓目している訳でもなく、本当に頭を空っぽにして ヒトミは見てみたら、やっぱり 凄い。――正直 凄い(・・)と言う言葉だけでは収まりきれない。
 一介の冒険者であるのにも関わらず、国の軍隊の人達をも 霞ませる程のモノを持っている。

「うんっ。だから、いつか……いや 違うかなー。近い将来。今も十分凄いけど、国と国の垣根を越えて……、本当の英雄。世界にとって、ものすごーい人に おにいちゃんはなる、って思うんだ。ほら、人間の歴史に出てくる英雄さん達みたいにさ?」
「ん。……(ヒトミちゃんって、ほんと 物知り…… もう 女の子モンスター(幸福きゃんきゃん)として見れないよ……)」

 ヒトミの過去に関しては、ユーリ以外は誰も知らないから、人の歴史を詳しく知っている様に話すヒトミを見て、かなみは 改めて驚いていた。

「それで……、ヒトミちゃん、結局どういう事? ユーリさんが凄い、っていうのは もう周知の事実だし……、あ。ヘルマンを追い返したら、当然 ヘルマン側にも名前が伝わる……かもしれないって事?」
「んーん。違うよ。いや、違う……事はないけど。つまりね。これからも沢山、沢山 おにいちゃんを想う人がどんどん増えるって想う」
「う……」
「おにいちゃんは とっても大きな人。いろんな意味で大きな大きな。それこそ、1人位じゃ、埋まりきらない程」
「…………」
「だからねー」

 ずばり、未来を言い当てる! とでも言うかのように、ヒトミは指を差した。

「みんな、み~んな、おにいちゃんと一緒になって、大きな、とっても大きな、《大家族》になる、それも良いかな、 実は、それが一番かなって思うんだー! おにいちゃんなら、受け止めてくれるよ♪」
「っっっ~~~~/////」

 それを訊いて、何故か、かなみが顔を真っ赤にさせていた。

 所謂、一夫多妻(ハーレム√)。と言うモノだ。

 勿論、かなみは それを考えなかった訳ではない。
 真知子からもいろいろと意見をもらったりしていたし、何より歴史上の偉業をなした人物。英雄と称される人物が、生涯に娶った妻、伴侶は 決して1人じゃないのだから。

 優秀で強い男に女は惹かれる……と言えば、生物上本能の様なモノ、だと思うけれど 正直 時代が違う……とも屡々。
 王族であれば、側室、妾がいるのは 一般的に普通だろう。リーザス王家でも過去にあった筈だ。――……現在の国王は、色々と難がある(口には決して出さないが)から、無かった様子だが。

「でででで、でも……そ、そんなのは い、い、けない事、じゃないかなっっ??」
「ん~~……、私もこう見えても 年頃の女の子だしー。かなみおねえちゃんがいう事もよく判るよー」

 少し艶っぽくしてみるヒトミ。
 正直、可愛らしい、以外に感想がまだまだ無い。ヒトミやミルに関しては、大器晩成、まだまだこれから。
 でも、今のかなみにとっては、関係なかった様子。

 ヒトミは 艶っぽくするのをやめたかと思えば、次には真剣な表情。何処か哀愁漂う表情へと変わっていた。

「みんな……本当は 自分にとって一番になって欲しい、って想ってると思う。それが当然だよねー。好きな人には、自分だけを見ててもらいたい、っていうのは。……だけど、私は…、結果的に、おにいちゃんが誰か(・・)と結ばれたとして、……もしも、それが 自分以外の人だったら……、とても とても 悲しくなっちゃう。それは フラれちゃったからだけ じゃなくって。こうやって 皆で遊んだり。……時には助けあったり。こんな関係が崩れちゃうのは、とても悲しい」
「………」

 そう、それも考えなかった訳ではない。
 恋敵、と言えばそうだが、それ以上にかけがえの無い友達になっているのだから。折角出来た友達。つい、この間までは考えられなかった友達と、……そうなってしまったら、心が締め付けられそうになってしまうのだ。

「だからね? そうなっちゃう位なら…… って、私は思っちゃうんだ。おねえちゃん達の気持ちも 凄く大切だと思うけど、ね」
「……」

 この答えは一朝一夕で出てくる様な事ではない。

 そして、長く 長く付き合えば付き合う程……、信頼度、親密度、絆が深まってしまうから。

 そんな時だ。風を2人は、感じた。この部屋は今締め切っている為、風など 感じられる筈が無い。……入口の方から感じる風は 誰かが扉を開いた事を物語っていた。

「……何バカな事、言ってんのよ」
「っっ!」
「わっ!?」
 
 驚いて、振り返った先にいたのは……、軽く帽子の鍔部分を握り、表情を隠しているが、その服装、そして 帽子では隠しきれていない明るい緑色の長い髪が、この人物が誰なのかを語っている。

「――先の事なんて、誰にも判らないわよ。判らないからこそ、面白んじゃない。過去は決して変えられないけど、未来は白紙、なんだから」

 表情をみせないまま、そう言う。

 ヒトミは驚いていたが、すぐに笑顔になった。

「志津香おねえちゃん。怪我は……大丈夫??」
「ええ。大丈夫よ。ありがとね。ヒトミちゃん」

 俯かせていた志津香だったが、笑顔でヒトミにそう言われたら、返さない訳にはいかないだろう。

「志津香……、どこから訊いて?」
「『みんな、おにいちゃんと一緒になって~』辺から、かしらね」

 かなみもそうだが、志津香も表情を赤くさせていた。

「……どうなるかなんて、判んないわ。だからこそ、今を全力で生きていく。終わった後で、後悔だけはしない様に。それが、私の心情」
「うん……。そう、だよね」
「それにね……」

 志津香は、ヒトミの前にまで来ると、おでこを軽く指先で弾いた。

「あぅっ」
「……先は決まってないけ、どこれだけは断言するわ。皆、大切な仲間なの。……皆の()が暗いモノになんかならない。有り得ない事を心配するんじゃないの。……わかった?」
「あ……う、うんっ!」

 ヒトミはそれを訊いて、ぱぁ、っと明るくなった

 かなみも……ゆっくりと頷く。志津香の方がしっかりとしたおねえさんをしていて、少なからず、意気消沈をしたけれど、これから もっともっと頑張る、とかなみは決めたのだ。眩しくて、直視する事が出来ない位、眩い未来に向かって 歩いていく為に。


「あ、少し訂正するわ」
「え?」
「んん??」

 いい感じで終わりそうだったんだけど、志津香は咳払いを1つすると、やや 真剣な顔つきになった。先程よりも、真剣度? は低めだけど。

「皆、大切な仲間って、いったけど……例外はいるからね。絶対」
「………ぁー」
「へ? ……あ」

 志津香の言葉を直ぐに理解したのは、かなみ。
 ヒトミは やや遅れてだが理解出来た。

 だからこそ、笑っていた。

「あはっ ランスおにいちゃんも、とっても おっきくなると思うんだー。それも、おにいちゃんに負けない位、ってね? なんだか、同じ感じがするからっ。シィルおねえちゃんもすっごく惹かれてるし。あ、マリアおねえちゃんやミルちゃんもかな? あった事、無いけど リアおねえちゃん。……こほんっ リア王女さま、もでしょ? わたしは、ユーリおにいちゃんが一番っ」
「――……前半部分は同意出来ないけど、後半は確かに。でも、ヒトミちゃん。情操教育に一番悪い。非常によろしくないから、ランスをそれ以上見るのは止めなさい」
「私も、それは 志津香と同感。悪影響しかないよ……」

 志津香は、額を抑えながらそう言っていた。
 マリアに関しても 同意したくないけど……恐らく間違いない。ヒトミがいう以上、はっきりとしている。感情の機微を見破るのは 彼女の十八番だから。

 ミルにしているように、強引にでも、強く言い聞かせて、みせない様にするのは……流石にヒトミが可哀想だからしないけど。
 

 ユーリの傍にいるから、大丈夫だとは思うけれど……、ミルの様になったりすれば 困る。そんなヒトミはみたく無いから。

 と、以心伝心したのだろうか、かなみと志津香は言葉を交わさずとも、2人とも頷きあっていた。




 そして、暗いムードは完全に吹き飛ぶ。

「あはははっ」

 ヒトミの陽気な笑い声が聞こえるから。

「ほんとに、あいつ(・・・)は……」
「あぅ……」

 誰の話題か? と思うが……、そこは 想像におまかせをします。
 因みに 志津香とユーリが小屋で何かをしたのか? と言う疑問に関しては(ヒトミがストレートに訊いた)、明確な答えは帰ってこなかったのだった。





『でも、ほんとーに良かったよー! おねえちゃんもおにいちゃんも無事でさっ??』
『私も……』
『ふふ。ごめんね? ヒトミちゃん。かなみも』
『私から言ったら、かなみおねえちゃんも、だよ? みんな、みんな 無事で、本当に嬉しいんだっ』
『きゃっ! ひ、ヒトミちゃんっ』
『ほらほら、落ち着いて。大丈夫だから』

 楽しそうな 話が部屋の外にまで響いてくる。
 丁度、その部屋の外で訊いていた。立ち聞き、盗み聞きをする様なつもりじゃなかった。つもりじゃなかったのだが。

「……ははは」
 
 ユーリは、壁に背を当てて 微笑むと。

「もう一度、言ってくるか」

 ユーリは、ゆっくりと壁から背を離すと、来た廊下を戻っていったのだった。


 そして、宿屋の外へと到着する数秒前の事。

「自由都市~リーザス歴史探訪の旅! そろそろ大詰めとなってまいりました~! すっぱぱぱぱーんっ! っというわけで、ジオに到着でーーーっすっ! そしてっ、アテンちゃん! 解説お願いしまーーすっ!」
「このジオの歴史は数100年前から、と言われているわ。かなり歴史のある古い国よ。都市自体も遺跡の上に広がり、リーザスに近いながらも、都市自体も遺跡の上に広がり、一風変わった文化が発展してるわ」

 ちょっとした名物の2人である。
 戦争中の町をまるで恐れず、更には陽気に闊歩しているのだ。ゆくゆく先では、もうほとんど戦闘が終わっているから、なのかもしれないが。だとしたら、運が良いと言う事なのだろう。

「自由都市地帯の都市には、よくあるけど、ここもご多分に漏れず 謎が多いわ。あそこに見える斜めのなんかもそうね。――…一説には太古の生物の頭、一説には古代人の長距離用通信機、一説には大昔の王様の墓。 とも言われてるわ」
「へーっ、アテンちゃん、勉強家~!」

 盛大に関心をしている様子なのだが、本来は立場が逆だった筈だ。アテンはゼスから観光ツアーに来たのだから。ジュリアは、全く気にした素振りはみせないが。

「……あんた、もうツアーガイドやるつもり、欠片もないわね……」
「そんな事ないよーっ! てやっ、はっ、とーっ!!」

 ジュリアは、手に持ったツアーの旗をパタパタ、と元気いっぱいにふりふり、と振り回した。つまり、御一行様~~と 案内人のつもり、その振りだけは 精一杯務める! と言う事だろう。
 アテンもだいたい察した様で、ため息をつきつつ、それ以上ツッコミをいれない。

「………なお、このジオは 自由都市でもトップクラスを誇る巨大図書館があるのも特徴ね」
「うえーーっ、ジュリア、図書館苦手ー」
「そう? ふふ、私は好きよ?」
「あ、アテンちゃんが笑ったっっ!!」
「……私だって、笑うわよ」

 陽気な声は場に響く。偶然なのか、必然なのか、彼女達の回りには 誰もいなく、注目をしたりはしない様だ。

「知識はロマンの宝庫よ? もちろん、後で図書館に行くからね」
「うー……難しい本は苦手……、ジュリア、漫画の方が好きだな」
「ふふ、漫画も立派な文化だし、私だって好きよ。特に車椅子先生の漫画は、子供の頃からずっと好き」
「えー。私 あの人苦手ー」
「……とことん話の合わない人ね。ま、ともかく 漫画もいいけど、知識欲を満たすことは、ありとあらゆる娯楽の中でも、王様よ。たまにのことと、観念して 今日くらい難しい本でも読みなさい」
「ぶーぶー」
「ふ、ふふふh、と言う訳で、早速その巨大図書館とやらに……」

 アテンは、意気揚々と図書館の場所を確認した。
 これだけ大きな図書館だから、自分にも知らない。魔法大国であるゼスにも知らない情報がひょっとしたら、あるかもしれない、とやはる気持ち抑えられない様だった。

 だが、問題児? の同行者の事を忘れてはいけない。

「あ……」
「今度は何?」
「ジュリア……、おちっこ行きたい……」
「…………」

 今日何度目のため息なのか……、もう数えられない程だなぁ、とアテンは 内心で呟くと。

「……ここから20分のトイレ休憩に入るわ。今の内に、朝食を取るのもいいでしょう」
「わーい! アテンちゃん大好きー! おトイレ行ってきまーーすっ♪」
「いちいち言わなくていい! はしたないっ!!」

 アテンはジュリアに盛大に注意をしながら……今後のプランを模索する。

「はぁ……、予定変更、だわ。図書館の後に行こうと思っていた、ブブビビ遺跡は今回はお預けね。まぁ、どうせあの子、遺跡なんか興味ないから問題ないでしょ。ん~……、これだと逆に時間が余るわね…… なら、いっそ近くの牧場へいく、とか? 地図によると確か向こうの……ちょっと下見。あの子、長いし……」

 何かをブツブツと呟きながら、路地へと入っていった。
 そして、そのタイミングは丁度ユーリが宿の外へと出てきたタイミング。

「ん? 少々騒がしい、と思ったんだが……」

 きょろきょろと、周囲を見渡したが、誰かがいる様な気配はなかった。
 
 その時だ。

「あ、ユーリ君。もう 大丈夫なの?」

 後ろから、声をかけられた為、ユーリは辺りを見渡すのをやめると、振り向いた。

「ああ、レイラさん。大丈夫だ。多少の疲労感は感じてるが、全く問題ない」
「そうなの? ……ユーリ君の事、心配する人沢山いるんだから。あまり無茶はしないでね。たまには私達にも格好をつけさせてよ」

 にこり、と笑うレイラ。
 それを訊いて、ユーリも笑った。

「もちろん。大分頼りにさせてもらうよ。オクの件もそうだし。……トーマの軍勢の件。リーザスの状況。頼る部分は山ほど残ってるぞ?」
「ま、まー、その辺は エクスしょうぐ、……っとと、エクス君達に任せるわ。どうしたって、彼らの方がエキスパートだからね。私達 金の軍は 基本リア様の親衛隊だし……」
「まぁ、言っておいて、だが。得手不得手、と言うモノはあるから仕方ないだろうな。エクス達もそうだが、優希や真知子さん達も頑張ってくれてる。――……十分すぎる程にな。だから、オレ、オレ達が気兼ねなく最前線で暴れる事が出来るんだ。感謝してるよ。レイラ達だって、そうだろう?」

 微笑みを絶やさないユーリを見て、レイラは 暫しその顔を魅入ってしまっていた。
 

――これじゃ、老若男女……誰が惹かれても不思議じゃない、わね……。


 少しだけ、レイラはため息を吐く。

「ん? どうした?」
「いーえ、なんでも。ああ、そう。司令本部に また顔を出して欲しい、ってバレス殿も言ってたから、伝えておくわね?」
「ああ。ヒトミ達に断ってからいくよ」
「あー。ヒトミちゃん、今ユーリ君が独り占めしてるんだったっけ? 良いなぁ」

 にこにこ、と笑うレイラ。それを見て、ユーリは苦笑い。

「レイラもヒトミと遊んであげてくれ。……それが一番喜ぶ」
「ふふ。解ってるよ。でも、1つ間違い発見」
「ん?」

 間違い、と言われてユーリは首をかしげた。
 それを見て、レイラは今度はしてやったり、ニヤリと笑うと指をユーリの胸部分に当てて、言った。

「ヒトミちゃんが一番喜ぶのは、ユーリ君と一緒にいる時。これ、絶対。……ね? じゃあ、また バレス殿との事も忘れないでよ?」

 レイラはそうとだけ言い残すと、颯爽と歩き去っていった。

「はは……。判ってる」

 ユーリは、ただただ笑って見送るだけだった。
 
 そして、ユーリは 宿屋内へと戻っていった。



 戻った時も 室内ではまだまだ、楽しそうな話が続いているが、とりあえず中に。

「随分と賑やかになったみたいだな」 
「あ、おにいちゃん、遅いよー! もー、どこいってたの」

 ヒトミは ややご立腹だった。でも、直ぐに笑顔になるのだった。
 かなみや志津香も同じだった。

 そう、笑顔に包まれている。例え、ここから先何があっても……きっと。この輪は崩れない。





――そう、信じていた。























~ホッホ峽 周辺の荒野~





 荒れ果てた大地。
 それは、戦争の爪痕と言っていい。ヘルマンとリーザスの戦争が、この景色を生み出していた。

 だが、そんな荒れ果てた大地に、1つの影が佇んでいた。

「………私は」

 佇むのは黒いマントを羽織った金髪の男。
 その黒衣のマントは 妖しく風に靡き、何処か美男子だと言うのに不気味さを際立てていた。
 だが、その表情だけは 雰囲気のそれとは全く違った。

 その正体は 金髪の魔人。……アイゼルである。

「動けなかった。……全く、動けなかった」

 アイゼルが考えるのは あの時の事。あの男(・・・)と対峙した時の事だ。

「まるで、あの時の事を……思い出す想いだ」

 彼が考える事。
 それは、はるか昔の話だ。人間にしてみれば 気の遠くなる程はるか昔の話。

「……人間全てが弱い。私は ずっと……ずっと、そう考えていた。いや、考えたかったんだ」
 
 脳裏に再び過ぎるあの言葉。


――人間を舐めるなよ。


 魔人となる前は、自身も人間だった。魔王に血を分け与えられ、魔人となり、強大な力を得た。その得た強大な力で 人間を蹂躙し続けた。立ち上がる意志を抗う意志を、人間の全てを奪い、操り続けた。

「自分だけじゃない。人間全てが、弱い……」

 その金色の柳髪が微かに揺れ、波打った。

「だが、あの男は……どうだった? あんなのは 人間じゃない。そう、人間では有り得ない。……だが、あの男は それまでに、あの存在(・・・・)になる前にもずっと、あの娘を……守る為、決して折れなかった。逃げなかった。私が出来なかった事を……」

 アイゼルがあの場から逃げた理由。それは、魔人になり、消えた筈の物が。捨て去った筈の物が自分の中に蘇ってきたからだった。

 その想いがあの場からの離脱を促したのだ。

「私が……私が求めていた美しさ、とは……私自身が捨てたものを、追い求めているだけ、だったと言うのか……」
 
 天を仰ぎ、アイゼルは目を瞑った。

 だからと言って、アイゼルは いまさら全てを変える事は出来ない。全てを捨てる事など、出来る筈もない。

「……ホーネット様……ッ!?」

 仕えるべき主も存在するのだから。


 だが、何故だろうか……?
 主君を思い浮かべると、その表情に陰りが見えてた気がした。
 いや、影ではない。……主君の背後に何か……邪悪な何かを見た気がした。
 そして、ホーネットの傍に佇む魔人の姿があった。

 派閥の中でも重鎮とさえされる程の魔人。その表情の見えないローブの中の口元が確かに歪んで見えた。そして その男が仕えているのは……ホーネットではなく……。

「あ、アイゼルさまぁ……」
「ぅぅぅ……」
「も、もう いやぁ…… あいつら~……こんど、こんどあったら……」

 アイゼルの傍にまで いつの間にかやって来ていたのは 使徒達。

 散々な目にあったのだろう。哀愁漂わせながら 半べそをかいていた。アイゼルを追いかけている間に見つけたため池で、必死に身体を洗い、火の魔法が得意であるガーネットが衣服を乾かし……、見事なまでの身嗜みを整える早さ。40秒もかかってないであろう。

「……気のせい、なのかもしれません。ですが……、確認をしなければ」

 ただの気のせい。精神が不安定だった故に、白昼夢でも見たのではないか? とも思える程の揺らぎだった。

 だが、心の何処かに引っかかるのも事実だった。

 ホーネットは、不可侵派。

 今回の1件。人間側から持ちかけた話であるとは言え、ホーネットの為であるとは言え、……この件は有り得ないだろう。ホーネットの為になるとは思えない。

 あの声の言葉ではないが……、冷静に考えたら 紛れもない事実だった。


 先代(・・)魔王の意志を継いでいるのだから。

「ガーネット。トパーズ。サファイア」
「「「は、はい!」」」

 項垂れていた彼女達だったが、アイゼルに呼ばれた為 はっとしつつ、返事を返した。

「私は 一度……戻ります。リーザス城に。……色々と確認をしなければなりません。少し、手伝って頂けませんか?」
「わ、判りました」
「ノープロブレムです」
「アイゼル様の御心のままに……」

 この戦いで最悪な目にあった3人だが、アイゼルの為に、と 気を引き締め直し、彼の後ろについていくのだった。







  











~ジオの町~



 場面は変わり、ジオの町。

 ヒトミ達に司令本部へと向かう旨を伝えて、ユーリはそちら側へと向かっていた。ヒトミは、沢山一緒にいられたから、もう大丈夫、と言って笑っていた。この戦争をしっかりと終えたら、もっと我侭を訊こう、とユーリは考えるのだった。

「さて……、と場所は……ん?」

 ユーリは司令本部の場所を確認していた時だ。街中で、突然男の悲鳴の様な、そんな叫び声が聞こえてきた。野太い声だった為か、そこまで響く事はなかったが、何かあったのは直ぐに判る。

「ヘルマン……ではないか。一応確認にいくか」

 ユーリは、頭を軽く振ると、足早に声がした方へと向かっていき……、そして ランスにばったりと出会った。

「お、ランスか」
「む? がははは! よしよし、褒めてやるぞ。ユーリ。貴様の密告のおかげで、ありすちゃんに引っ付いていた小悪党を成敗できた」
「……なる程、あの悲鳴は 市長のものか。殺しまではしてないだろうな?」
「馬鹿者。ちょいと悪者にクンロク入れただけだ。殺しまでしてない」
「だといいがな」
「ユーリさん。おはようございます」
「ああ、シィルちゃんも一緒か」

 ランスの影に隠れた位置にいたシィルが出てきて朝の挨拶を交わした。シィルもあの悲鳴については訊いていた様で……。

「そ、その……大丈夫なのでしょうか?」
「馬鹿者、シィル。オレ様がしっかりと解決したのだから、まるで問題ないのだ! がははは」
「ん。天罰が下っただけだよ。シィルちゃん。今回ばかりは、ランスが正しい。強引な気はするが……、あの手のは ある程度思い知らせとかないと、付け上がる」
「あ……ユーリさんがいうなら……」

 と、言わなくていい事をシィルが口走ってしまった為、ランスのゲンコツが飛ぶ。

「ひんひん……い、痛いです。ランス様……」
「ご主人様に向かって何事だ! シィル!」
「た、ただ、ユーリさんとランス様だったら、って思っただけですぅ……」
「はぁ、朝っぱらから 仲良いな。2人は……。ん?」

 やれやれ、と首を振っていた時、どこからか視線を感じた。
 周りを見渡してみると……、2階の窓からこちら側を見下ろしている者がいた。

「おい、ランス」
「なんだ?」
「ほら。アレ」

 ユーリがランスを呼び、指をさす。その先にいる人物を見て、ランスは大声で笑った。

「がははははは! 楽勝だ! ありすちゃん!」

 笑顔でぐっと、サンズアップ。そのありすも見る見る内にこわばっていた顔が柔らかい物へと変わっていっていた。

「うんうん。良い事をした後は気分が良いな。よし。シィル! 一発ヤルぞ!」
「え、ふぇっ!? あ、朝ですよ? ランス様ぁ」
「ご主人様がヤリたいと言えば、御奉仕するのが、奴隷の仕事だ! それに、久しぶりに昨晩は何もしなかったからな。ありすちゃんとだけだったら、まだまだ出したりんのだ。がははは!」
「は、はぅ……わ、判りましたぁ……」

 昨晩は、流石にユーリも疲れていて、宿にいったからランスに幻覚魔法を掛ける事が出来なかった。故に、ランスにとっては久しぶりの『何もない』夜だったのだ。

「おう。ユーリ。あのむさい元市長だが」
「ん? 元?」
「あいつには、下働きを命じたのだ。ヘルマンとも通じていた書類の山を見つけたのでな! がははは。喜べ。お前専属のマネージャー兼奴隷兼、男メイドとして 配置してやろう!」
「……謹んで遠慮するわ。んなもん いらん」

 男のメイドなど、みたくないと思うのは、老若男女関係なく、共通だろう。全力で断って問題ない筈だ。

 その後、ランスは気分良くシィルと共に建物へと入っていった。

「やれやれ……。まぁ ありすに関しては、ヒトミも『ファンになる!』って言ってたし…… ナイスだと思うが、な」

 相変わらずなランスを見送ると、ユーリも進んだ。

 そして、目的地へと着く前に、ジオの町の武器屋に目が止まる。

「ん……、メンテをしておくべきか。まだ目立った刃こぼれは無いが……」

 ユーリは、鞘に収めたままの剣を見た。
 リーザスの件の時から、ずっと付き合い続けてくれている《妃円の剣》。
 確かに武器は道具だ。だが、共に戦うと言う意味では頼りになる相棒でもあるだろう。だからこそ、きっちりとケアはしなければならない。

「点検をして貰うか。……まだまだ この先頼りにしなければならないからな」

 僅かに、鞘から剣を引き抜く。
 銀の輝きが 太陽光を反射させ、キラリと光り輝いていた。

「……恐らく、相手はトーマだ。オクの町、いや 或いはノースかサウス、と言う可能性もある。立地条件的には、オクで潜むより そちら側にまで退いて、万全に迎え撃つ、と言う策もあり得るからな……。今まで以上に頼りそうだ。……頼むぞ」

 ユーリは、そうつぶやくと、ちんっ と言う音を奏でながら、再び鞘へと収めると、ジオの武器屋へと入っていった。

 


~ジオの町 武器屋~


 扉を開けると、やや 穏やかなメロディが流れる。特殊な金属同士を打ち鳴らし、音を奏でている様だ。

「ん……、このチャイム音は……」

 中へと入ったユーリだったが、その流れた音に覚えがあった。
 そう、リーザスの武器屋《あきらめ》でも、同じ物を使っていた筈だった。リーザスに近づいたからこそ、そう感じてしまったのだろうか?

「(……無事、だといいが)」

 ユーリが思い浮かべるのは、リーザス城下町に住む皆の事。リーザスには仕事の関係上、何度か足を運んだことがある為、顔見知りは多い。
 かなみ には何度も言った事だが……、心配ではない、と言えばユーリだって嘘になるから。

 そして、数秒後 店の奥から 足音が聞こえてきた。

「…………いらっしゃいま………せ……?」
「………!」

 奥からやってきたのは、見覚えのある姿、だった。
 そして、目の前の人物が間違いなく、本人であると言う事は直ぐにわかった。そっくりさんが、こんな傍にいる筈もないし、双子がいるとも訊いていない。

 何より、眼があって 固まっている所を見ると、間違いない。

「ゆ、……ゆー、り……、さん……?」
「……ミリーか? 間違いなく、ミリー、なのか?」

 間違いない、と頭では判っていても、念のためにユーリは二度訊いた。
 その言葉を訊いて、唖然としていたミリーだったが、素早く、そして短く頷く。

「は、はい……、み、ミリー、で、す……。ぁ……っ」

 最後まで言い終えると同時に、ユーリは、ミリーの頭を軽く抱きしめた。

「ゆ、ゆ……り……」
「良かった……、無事、だったんだな。本当に……」
 
 優希に会えた。そして、かなみ達も メナドやそして 操られていた軍の皆に会えた。皆、無事だった。そう、だったんだ。

「……よ、よかった。わたし、も……よかった、です…… ユーリさんが、ぶじ、で……」

 ミリーもユーリの腕の中で、すすり泣く様に声を漏らしたのだった。
 



































~人物紹介~



□ 天満橋ありす

 ジオの町で活躍中の正統派アイドル……なのだが、その実 この戦争が始まってからは、ジオの市長に体の良い贄の様に扱われていた。ジオへの無茶な要求を躱す為、枕営業を恒常化。アイドルは、歌だけではやっていけない事を重々判っている様子。

 だが、市長のそれはユーリにあっさりと見抜かれてしまい、ランスをけしかけた事で解放される事になった。その為 望まない者と行為をしなくても良くなり、歌い続けて出来た純粋なファン達と純粋にアイドルを楽しむ事が出来る様になった。

 もう枕営業をする事はなかったが、ランスは別である。


□ ミリー・リンクル(03)

 ジオの町の武器屋でばったりと再会。
 絶対幸運と言うスキルの持ち主。戦争のせいで、自身には何も起きていないのだが、周囲の友達は別だった為、不幸を深く感じていたのだが……、それが一気に吹き飛んでしまった。





 
 
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