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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第72話 ホッホ峡の決戦Ⅰ

  

 そして、その日の夕刻。まだ 空には赤みがかかっており、黄昏時だ。

      
 ついに決戦の時が来た。……決戦の地は《ホッホ峡》そして 奪還すべきは 《ジオの町》だ。


 皆がその決意を強く持ち、眼には自然と力が込められている。……戦いに参加しない部類の部隊もそれは同様だった。……戦闘部隊が敗れれば、自分達もただでは済まないからこそ、一蓮托生なのだ。

 その中心にランスが大きく腕を組んで頷いていた。

「さぁて! ようやく戦争だ、戦争! 準備はいいな? お前ら」

 こういう事をさせたら、本当に右に出る者はいないだろう。……ランスの性質や性格を知っている面子からすれば、『お前が言うな!!』と口を揃えていうだろう。
 だが、ランスが戦いの場で活躍をしているも言うまでもない事実であり、使徒の1人を撃退した、と言う面では大金星もあげている。……腕っぷしもこの中でも上位に位置している故に、リーザス軍達は殆どが信頼している。だから、皆が頷いていたのだ。
 それは、リックも同様だ。

「はっ、いつでも」
             
 リックが頷く故に、その部下達も更に気が引き締まる。……リーザス最強が従っているのだから、当然だといえるだろう。そして、戦闘時、得に強者と相対する時に醸し出す、リックの笑み。……味方でさえ 恐怖にすら思える笑みを浮かべていた。

「……血が滾る。と言うものだ」

 リック同様に、笑みを見せるのは清十郎。……目は見開き、口元は歪む。向けられている、と言う訳でもないと言うのに殺気らしい気の圧力を感じ取れるのだ。
 リーザス最強と同等の気を有する男が味方にいる。それだけで心強い事はない。

「本当に頼りになるな。……ふっ」

 ユーリも、強者である2人、いや ランスもいるから3人を見て笑った。このパーティメンバーが揃えば、大丈夫だ。と心から思える。共に戦線をくぐり抜けてきたのだから。

 
 そんな 面々を一歩離れてい見ているカスタム組の面子達は呆れた表情を浮かべていた。

                
「まぁ……清十郎さんも、リックさんも そうだそうだとは判ってたけど……」
「いやー、心強いですかねー! でもまぁ、トマトはユーリさんと一緒の方がもっと心強いですかねー! 配置には、すこ~し、異議が残っていますですよー」
「こらこら、トマトは配置が違うだろ? オレの場所の反対側だ。間違ったふりして勝手に移動すんなよ?」

 比較的、互いに近い位置に配置されたラン、トマト、ミリ達は、2人を見て笑っていた。

「でも、ユーリさんって……清十郎さんに勝ってるし、洗脳状態のリックさんにも……。それを考えたら、本当に……」
「おっ、それ オレも思ってたさ。死神の力量だって半端ねェし。清十郎だってそうさ。レッドで間近で見たしな。……ユーリとは、なまじ長い間一緒にいるから、当たり前の様に思えるけど、ほんと、アイツの実力って頼りになりすぎるよな」

 ランの次の視線はユーリに向けられた。改めて凄い事を再認識していた様だ。ミリもその気持ちはよく判るのだろう。

「だ~から、人気があるんだろうよ。普段通りだったら難しいから、ちゃーんと助け舟だしてやるよ。 全部終わったらセッティングしてやっからな? ラン」
「ふえっっ!?」
「んー? なんの話ですかねー」
「いやいや。この戦争、ちゃっちゃと勝とうな、って話」

 トマトがやってきた所で、ランの肩に腕を回すミリ。
 トマトはよく聞いてなかったのだが、納得した様に腕を突き出していた。……ランは 仄かに赤くさせていて、ミリに感謝をした。……後は不運に見舞われないのを願うだけだ。
 

 そして、其々の部隊には ヒーラーであるクルックー、ロゼ、セルの3人も控えている。

「やーれやれ、ちゃっちゃと終わらせて、酒呷って ダ・ゲイルとずっこん、ばっこん楽しみますかねー」

 ロゼは、背筋を ん~~っと伸ばしつつ、陽気にそう言っていた。勿論そんな言葉を許容できないのがセルだ。

「ままま、また! ロゼさんっっ!! あなたは本当に神に使える神官なのですかっ!! そ、それに、悪魔っっ!! 早く祓ってくださいっ!!」
「ん? 人間なんかより ず~~っとイイわよ? アソコの大きさだって桁違いだし~。イボイボがピンポイントだし~。なんなら、試してみる?? 実体のないカミサマに捧げるよりは実物ある悪魔のほーがいいと思うわよ~?」
「んなっっ!! そ、そこに直りなさい!! ロゼさんっっ!! シスターとして、いえ、人としての道筋! その心構えを一から百まで説き伏せます!!」
「あ~、はいはい。あ、違う。今から ちょっと難聴気味かしら?? 聞こえない聞こえな~~い」
「聞こえてる筈ですっっ!!」

 ロゼは、ひらひらと手を振りながら 回避する方向へ。セルは追撃をかける様に言うのだが、まさに暖簾に腕押し、いや馬耳東風と言った所だろう。

 その姿を眺めているのはクルックーだ。

「ロゼさん。は自分の欲に正直すぎます」
「ん? そーかしら? でも 気持ちいいからねー」
「……AL教でも快楽に溺れる事は禁止されていますよ」

 セルに比べたら随分と小さな声だと言うのに、ロゼの耳には届いていた様だった。

「何言ってんのよ~。ルールっていうのは時と共に変化していくものなのよ~? もっと柔軟な頭を持ってないと、これから対応出来なくなるわよ~? ……世の中には色々とあるんだから」

 前半は、おちゃらけ気味だったのだが、後半は 何処となく真摯だった。その表情を見て、それが判ったのか、判ってないのか。クルックーは 少しだけ 目を見開いた。

「全部、ALICE様が正しい、って訳じゃないでしょ~? 人も魔人もモンスターも神も悪魔も、ぜ~~んぶひっくるめて、十色って事なのよ」
「……ですが、ALICE様のお言葉の真意を考えるのは恐れ多いこと、ですし。疑うなど以ての外だと」

 クルックーの言葉を訊いて、ロゼは完全に立ち止まる。セルが色々と言っているが、殆どシャットし、クルックーに集中していた。何処となく穏やかささえ感じる。

「バカね。自分で考えないから、自分が本当に何をしたいかも判らないのよ? それに、自分の意思がちゃ~んとないと、AL教の教えだって守れないかもしれないわよ? ……アンタの親父見て、何か思わないのかしら? 意思がしっかり定まってなかったから、ああ なっちゃったんでしょ?」
「………っ」

 ロゼの言葉に、クルックーの表情も更に変化した。
 この事実(・・・・)を知っているのは、世間一般は知らない。一部の者、そして内縁者だけだ。自分自身とその父親の関係も。

「ほれ、身内のケースを見てみなさい」
「……え?」
「まず、ランス」

 ロゼは、ランスの方を指さした。セルはまだ怒って色々と言っているが、完全にスルーされている。クルックーも、1度集中したら、他の雑言? はカット出来るので、ロゼの言葉に集中できていた。

「え~~、っと AL教では、あ~~~……確か、『人を幸せにすることで、人は幸せに~、で 自分1人の幸せはいずれ、身を~』だったかしら? あのコ、私に負けないくらい、ずっこんばっこんだけど、本当に楽しそうに笑ってるでしょ? ま、全力で防いでるコもいるけど、あのコとヤってる女のコ達、ほんと悦んでるし」
「……つまり、どう言う事でしょうか?」
「だーから、まずは 自分が楽しく喜ばないと、他人を喜ばす事なんて、無理って事よ。欲に正直にアイツは、エッチしまくってる。ま、体力だけは有り余って、テクがいまいちだけど、それなりに、皆? 気持ちよくなってるから、み~んな、ハッピー! って、感じよ。アイツもそう思ってるんじゃない?」
「………そうでしょうか」
「そ、幸せの形は色々あるけど、それも1つの連鎖、って事ねー」

 ロゼは、後半部分は、説いている、と言うよりは 完全に笑いながらそう言っているから、ふざけてる様な感じがするが、クルックーはそうは思ってない様だ。

「そして、アンタが大好きなユーリ」
「………???」

 突然 ユーリの名前を呼ばれ、首を傾げてしまうクルックー。……でも、心なしか、ランスの話をする時よりは、表情が穏やかになっている。

「無自覚、って事かしら。ま、良いわ。いずれ……ね」

 ロゼは、クルックーの顔を見てそう呟いていた。

 そして、気を取り直し。

「アイツだって、自分に正直に生きてるわよ? やりたい事に正直。それも欲よねー」
「ユーリが、ですか……?」
「そーでしょ。殆ど関係ないリーザス/ヘルマンの間に好き好んで入ってくるんだから。それに、アイツクラスの冒険者なら、こ~んな、危ない橋渡らなくても、もう一生食いっぱぐれに困らない生活出来るでしょ? 実力が半端ないんだから」

 ロゼの言葉を訊いて、クルックーは、それは納得出来た。
 マルグリッド迷宮で出会った時もそうだ。観光名所、となっているがそれは入口や外観のみであり、中へ行くなどは以ての外。かなりの危険地帯なのだから。そんな迷宮にたった1人で、それも全く問題なく踏破していくのだから、あの時から実力の高さは判っていた。 そして、力があれば 活用できる道も自ずと広がってくる。
 
 冒険者業は様々な種類があるが、要人の護衛や未踏破のダンジョンの探索など。
 リーザスで言えば、コロシアムで勝ち続けると金銭などは 勝つ数によっては 桁違いに手に入れれるだろう。そして栄誉も得られる場所だ。

 だが、ユーリはどうだろうか。

 確かにロゼの言うとおり 魔人が絡む戦争に加わる事で どれだけの危険が身に付きまとう? どうして、参加している?

「ま、助けたい。って気持ちが強いって事ね。……アイツの根幹部分は私も知らないけど。 それも、突き詰めれば、それも欲よ? 保身に走る様なヤツだったら、ぜ~ったい参加しないと思うし、……アイツがいるから 回りが笑顔で 皆が力を貸す。全力で答える。これも幸せの形じゃないかしら? こんな大変な時なのに、志津香やかなみ、トマト、ラン、真知子、ミリ…… 上げ出すときり無いけど、どれだけの数のコ達が笑顔になったかしら? リーザス軍側の女のコも同じだし」
「……………」

 クルックーは、黙って考え込んだ。

 ロゼの事は、AL教内部でも有名だ。……そして 良い意味が少ない。本当に色んな意味で。 だが、クルックーは そんな先入観などは一切持たない。自分の眼で見て、訊いて、全てを判断する。
 一部では鬼才とさえ 言われている実力者。根も葉もない、とも言われている実力だが、それを全身で感じた。
                             
「ま、アンタは無表情すぎるのよ。素材はいいんだし、表情豊かになると、もっともっと可愛くなって、アンタの回りでも笑顔が増えるってもんよ? ユーリの傍にいると、柔らかくなるから、色々と施術してもらいなさい」
「……よく分かりませんが、そうなんですか」
「そうなんです」
「……判りました。頑張ってみます」
「あい。がんばんなさい」

 ニヤリ、と笑うロゼ。

 因みに、またまた ユーリに………な女のコを増やしてやったぜ~~! 楽しみが増えたぜ~~! ……と、考えていない、と言えば完全に嘘になるだろう。
 それでも、ちゃんと考えている所は考えている。彼女も大概お節介なのだ。

「(……アイツ(・・・)のが感染っちゃったかもしれないけどね)」

 ロゼは、ぺこり と頭を下げつつ 戻っていくクルックーを見ながらそう思う。
 
「ロゼさんっ! 判りましたか!!」
「あーはいはい。清く、正しく、惑わずに。ね。後は スカートの長さはひざ下10cmまで~だっけ?」
「って、それ、何処の学園の校則ですかっ!!」

 ロゼもセルも、何処となく楽しそうだ。
 戦争前だと言うのに。……ほどよく身体の緊張も解れている。

 最終的には、ミリが仲裁に入り 一応場を収める形になるのだった。
 (ミリにも思う所があるセルだが、彼女の部隊に入ってるから、整列を乱す訳にはいかないから……)



 とりあえず、場も良い具合に解れバレスら リーザス組が最終確認を其々の部隊にしていた時、マリアが不安要素を上げていた。

「……作戦は大丈夫かなぁ。一応 女仕官の人に色々としてくれたみたいだけど……、もし……」

 そう、セピアの事だ。
 最終的に言えば ユーリが話をした後、セピアには悪いがエクス、真知子らの協力を得て、彼女には別の記憶を植え付け、こちらの情報をホッホ峡にて、入手した。と言う事になっている。……こちら側で起きた事実は全て忘却させた上でだ。
 だが、それも100%なのか? と言われれば 正直な所 肯けない。それだけ、記憶と言うのは、脳と言うのは難解であり 操作ともなれば、非常に精密であり、高い知識や魔力が必要なのだ。……それでも、記憶の何処かに綻びがあれば、破綻しかねないのだ。

「がははは! 大丈夫だ。このオレ様が しーっかり 仕込んでやったからな! 相当参っていたぞ? 野菜のイケメン達をプレゼントしたのでな。がははは!」

 ランスは大口を開けて笑っていた。
 ……ランスは何もしていないのだけど、 とマリアは思ったが、ユーリの件もあるから合わせる事にする。

「はぁ、やれやれ。毎度毎度単純と言うか、何というか……」
「志津香」
「……判ってるわ。でも、アイツは馬鹿だから、大丈夫でしょ」

 志津香が思わず 呟きそうになった所をさりげなくユーリが口を出した。

 毎度の事、と言うのは 勿論、幻覚の魔法の事だ。セピアに色々としようとしていた時に、ユーリが幻覚の魔法をセピアにかけていたのだ。もう、いったい何度目か? と志津香が思うのは無理もなく、攻撃魔法でも同じ属性の魔法を何度も喰らい続けたら、それなりに魔抵値が上がり、耐性がつく……のだが、単純極まりないランスには 何度使っても効果覿面の様なのだ。

 因みに、志津香は最初にいなかったのだが、ユーリがセピアの元にいる、と言う事を何処からか 知って 気になって見に行ったのだ。……セピアの状態を考えたら、ユーリが後一歩、彼女の乱れた服を直してなかったら、足が酷い目にあっていたのは言うまでもない。

「む? 何だ志津香。がははは。成る程、志津香にも実践してほしいのだな? よーしよし。だが、志津香の処女を頂くのはオレ様だからな。野菜くん達には任せられん! オレ様のハイパー兵器でじっくりと やってやろうではないか! とーーっ!!」

 何だか長い口上だったのだが、当然この後の展開も同じだ。
 ユーリはため息を吐き、志津香は。

「……火爆破」

 右手から迸る火柱。それが、正確にランスを捉え、紅蓮の業火で包まれる。

「あんぎゃぁーーっっ!!! あじゃあああっっ!!」

 火達磨になってしまったランスは、慌てて水源へと走っていった。いつも思うのだが、燃えるのはランスだけであり、建物に被害は皆無だ。……いつも通り。

「……火の加減に、磨きがかかってるな?」
「当然でしょ。火事にするわけには行かないんだし。焼けるのはランスだけでいいでしょ」

 平然とそう言ってのける志津香。ユーリに対しては体術の向上、ランスに対しては魔法の向上。良い環境なのだろう。

「はぁ。皆 本当に頼もしすぎるわ。悩んでいた私が馬鹿に思えてきた……」

 はしゃいでいるメンバーを見て、苦笑いをするのはマリアだった。

「あははは……。でも、大丈夫ですよ。マリアさん。……皆、皆とっても頼りになりますから」
「ふふ。そうよね。かなみさん。 あ、私も呼び捨てで良いわよ。志津香の事もそう言ってるんだし。友達の友達は、友達だからね」
「あ……。うんっ ありがとう」

 笑顔になるかなみとマリア。
 そう、この皆と一緒なら、何だって出来る。……ついでにランスも加えて一応プラスになるだろう。

「ら、ランス様。いたいのいたいの、とんでけー」
「ぐぬぬぬ、おのれ、志津香め……。おー、あちちち」

 なかなかの炎を受けていると言うのに、ちゃっかり大丈夫なランス。……耐久度は間違いなく最強クラスだ、とかなみは想い、苦笑いをしていた。

「ふふ。これから戦いなのに。変なの」
「だね。……でも、大丈夫。この人たちは、皆……」
「うん。ユーリの仲間たち、だもん。それだけで 僕は信用出来るよ。……ま、ランスはちょっと軽率すぎるけどね」
「あ……、ま、まぁ それは仕方ないわ。アレは、治らないって思うから」

 信頼に満ちたメナドの視線は 苦笑いをしているユーリに向けられていた。
 そして、その隣にいるのは志津香であり、楽しそうに話をしている。

「(……ユーリだもんね。うん。……でも) ……負け、ないよ」
「う、うん? メナド?」
「え? や、やー 何でもないよ、かなみちゃん。さ これからの戦い、頑張るよー!」
「……うん」

 やっぱり、想い人が同じと言うのは 複雑だ、と思ってしまうかなみ。志津香との関係は良好なのだが……、長く親友であるメナドであれば、やっぱり 複雑なのが上だったのだった。
















                   






~自由都市 ジオの町 ヘルマン軍事司令部~


 ジオの町は ヘルマン軍が占拠しているが、レッドの町の様な凄惨な光景は広がっていない。これは 早々に市長が白旗を揚げ、更には甲斐甲斐しく世話をやいている、と言うのが理由だ。

 比較的、平和であるジオの町だが、今は殺気立っている。

「第一から第五小隊、準備完了しました。中隊長、いつでも出撃できます!」
「急げ急げ急げーーッ!! じじいのFUCKの様にモタモタしてるんじゃあないッ!!」

 そう、リーザス解放軍の下へ進撃する為に、全体が殺気立っているのだ。
 
 先駆け部隊として、指揮を任され、準備をさせているのが中隊長ロバート・ランドスター。先の戦いでの傷は、驚異的な回復力、そして 後々に合流したセピアのフォローもあり、戦闘に問題ないまでに回復をしていた。丸焦げだったあの身体が嘘の様に元どおりに戻っているから、驚きだ。……やはり、何処となくランスに似ている。

 ランスに似てる件は、置いといて、ロバートの激は続けて飛んでいる。

「はっ、中隊長。荷物も出来るだけ軽くしてあります。ですが、行軍中は矢弾が不足するやもしれませんが……」
「バカ野郎! そんなもんは、輸送隊のケツにお前のFuckin精○で、貼り付けておけ! オレたちは今から、あのくそったれのレッドへ。ホッホ峡を抜けて、あの糞馬鹿野郎どもをレイプしにいくんだからな!」

 そのいろんな意味での危機感と、迫力ある言葉に 部下がたじろいでしまうのは仕方がないだろう。

「は……ははっ。では、輸送隊にあずけておきます」
「ふふふ。そぅーだ、それでいい。グッドだ。キビキビやれば、オレもお前の汚いケツに、狙いを定めなくて済む」
「ううっ……!!」

 本格的な危機感を、主に尻に感じた部下。ロバートが自らの厚い舌をべろりと舐めた瞬間に、それは最高潮に達し、風の如き速度で逃げ……じゃなく、持ち場へと去っていった。
 その間に、もう1人の部下が不安を口にした。

「……万が一の交戦時に、備えがないのは、少し心配ですね……」

 その言葉を訊いたロバートは、勿論、強く反応する。その理由は、この作戦の肝の部分にあった。

「あぁん? お前。そう、そこのお前だ。今なのを垂れ流した? お前のくだらない寝言か? それとも、ケツからヒリでたクソか?」
「あ、あの、その……ええと……?」

 敵本拠地に行く以上、戦闘が100%ない、とは到底言い切れないのは周知の事実だ。特にリーザス側には あの戦車の存在が大きい。……世界でも、巨体として知られているヘルマン軍の兵士たちをまるで紙くずの様に吹き飛ばしたのだから、不安なのも仕方がないのだ。

 だが、ロバートは意にも返していない。……爆発茸は通じず、更には燃やされたと言うのにだ。理由はただ1つだけ。……信じているからだ。

「戦闘なんざない! ないんだ! いいか? このオレの妹が偵察をして、そう結論してきたんだ! そいつを疑うのか!?」
「え、ええ、ええ。勿論セピア副隊長は信頼しています。……ある意味では、隊長よりも……」
「Fucker!! なんだと貴様!! まさか、セピアを狙ってるんじゃあるまいな! 狙うのなら、あの糞馬鹿野郎どもの女達を狙え! このホモ野郎!!」
「……兄さん。ホモはどちらかといえば、兄さんの方なんじゃないの」

 色々と言いたい放題をしていた所に、部下達が待っていました! と小さく歓声を上げていた。……噂をすれば影。セピアがやってきたのだ。

「おお、セピアか。そっちはどうだ?」
「……一先ず、先遣隊の準備は整ったわ。……でも、嫌な予感が拭えないの。進言した情報に誤りはない筈なんだけど……」
「何を言う! お前の言うことに間違いなどあるか。お前を疑う様なヤツがいるなら、オレが殺してやる! お前自身がお前を疑うんなら、お前をFUCKしてやるぞ! といつも言ってるだろ!? ……オレはな、お前をいつも想ってるんだ。いつだってな。 そう、思い起こせば、いつだって オレのチ○ポがガチガチに成る程、なんだぞ!」
「っ……!? そ、そう言うのはいいわ……」

 何か、身体に…… いや、心に引っかかるモノがあったのだろうか? 
 セピアは僅かながらに後退りをしつつ、ロバートから距離を取った。

「ま、それはジョークだ、セピア。今回はお前自身の手柄。流儀に合わせるとも、愛する妹よ」
「……兄さん。 やっぱり、警戒は怠らないで。……レッド側の実力は分ってると想う。……単独行動をしても、一騎当千の力を持ってる、って印象だったでしょ。それに、最も注意しないといけないのは あの戦車、っていう兵器。……だから」
「おうおう、判った。愛する妹よ。最低限度の警戒、そして 連中にはハッパをかけておく。オレの○ンポをぶち込められたくなけりゃ、死ぬ気で気を付けろ、ってな!」

 セピアの言葉であれば、頷くロバート。
 何処からが、本気で、どこまでが本気なのか判らないロバートは、そのまま、陽気な表情で天を仰いだ。

「それはそうと、だ。お前がいなくなった時は驚いたんだぞ?」
「……私は、いなくなった兄さんを探したんだけど。……怪我も完治してないのに、直ぐに行動をするから」
「それも、ジョークだったんだがな。流石のオレも 足を燃やされた状態じゃ 無茶はせん。FUCKする時に重要な腰も使えんからな」
「………はぁ」
「だが、レッドの情報を掴んだのは、流石だ。流石オレの妹だ。優等生から、一歩卒業だな。お前はいい女になるぞ」

 満面の笑みを浮かべて、セピアの頭を乱雑に撫でる。
 
 その時、セピアの頭の奥がずきり、と鳴った。

「い、痛っ……」
「ああ悪い。強くしすぎたか?」
「っ……、いえ、大丈夫。……(なに、このモヤモヤとしたのは……)」

 頭を乱雑に触られたから、だろうか。……頭の何処かが霞が掛かっている様な感じがするのだ。 別に思い出せない事がある訳でもない。……この感覚は、何かを忘れてしまった時になるのだが、種類が違う。忘れているのではない。……何か、歪な感じがするのだ。……その根源が判らないから、セピアがいうのは1つだった。

「兄さん……、警戒を緩めないで」


――……セピアがこの奇妙な感覚になったのは、ホッホ峡に言ってからだ。……レッドの情報を訊いた(・・・)時からだから。


「ああ。任せろ。片っ端から敵将をFUCKしまくって、殺して、もう一度、FUCKしてから食ってやる。レイプ祭りだ!」

 ぐはははは、とロバートは 野営地全体に響くような大声を上げた。
 もしも、笑い声が《ぐ》ではなく、《が》だったら……と言うのはこちらの話。

「今度こそ、一山当てるぞ。親父やお袋を、ようやく見返してやれる! ああ、後ばあさんもな」
「……おばあちゃん」
「帰ったら、ひさしぶりに会いにいくか! あのクソ不味いローストビーフを食いに行こうではないか。妹よ」
「うん……。無事に、無事にね……」

 何処か落ち着かないセピアと対照的に、終始陽気なのはロバートだった。

 そして、その数分後。

「失礼します。ランドスター中隊長、リプトン将軍がお呼びです」

 伝令兵がやってきた。それを訊いたロバートは振り返る。

「ひゅう♪ ま、流石に今日サボったら、オレがトーマ将軍のデカチンにヤられちまうな。あの爺さんにカマ掘られるのだけは無理だぜ」

 ロバートはそう言うと、セピアにこの場を預け、手を振って歩いていく。通達通り、トーマの元へ行くために。

  
 この場を預かったセピアだが、トーマの名を訊いた瞬間に フラッシュバックが起こっていた。

「……とーま。……とーま、しょうぐん」
 
 最も尊敬すべき将軍。……ヘルマンの英雄。現行人類最強の男。

 彼を語りだしたら、恐らくは止まらない。……言うべき言葉が山のようにあるのだ。……兄とは対極だといっていい程に。彼がいたからこそ、自分は色々大変な目にあっても、兄のロバートを支え続けてきたのだから。

 脳裏には、顔が見えない者。……男なのか、女なのかさえ判らない。

『とー……に、つい……だ。……どう……男……、それ……だ? お前に……は、……まは……』

 更に続く。虫食い状態の会話が。

『魔人……そん……を、その……は、……お前の………する、とー……は、正……と思っ……か?』

 判らない。
 判らないのは、身に覚えのない声、だと言う事だ。……この会話がいったい いつ、されたのかさえ判らないのだ。

「いったい、何が……っ」

 セピアは、暫くフラッシュバックが続いていたのだが、漸く収まった様だ。

「副隊長どの?」
「あ、はい。大丈夫です」

 セピアは声をかけられ、直ぐに気を引き締めなおすと、居並ぶ部下達の目を見ながら話す。

「今作戦は、奇襲。……有利な戦闘になる、と思われます。……ですが、警戒だけは緩めないでください。情報も確かに聞きましたが、それは一部だけである可能性も捨てきれません。ホッホ峡の地形を確認し、早朝に進撃を、と言う作戦です。……なので、夜こちら側から攻めれば、後手の対応をとってしまうでしょう。……ですが、二段構え、三段構え、と言うのも捨てきれません。……あの戦車とやらに目を奪われがちですが、あちら側には、レリューコフ様の好敵手(ライバル)と言っていい、知将 バレスがいるのですから」

 セピアの話を訊いて、兵達は心底思った。

『兄の代わりに、この部隊を率いてくれないかなぁ………』

 と。


















~ホッホ峡~


 決戦の場へとやってきた解放軍。
 襲撃の予想時刻よりも数段早くやってきたのだが、それでも気配をなるべく殺しきり、移動を続ける。……勿論、そんな事考えてない男が、大股で闊歩しているのはご愛嬌だ。

「ふん……、ここがホッホ峡か。殺風景な場所だな。岩と砂と土しかないではないか」
「そう言う場所だ。大体、情報は全部事前に言ってあるだろ?」
「知らん」
「だろうな。……ま、それも流石ってヤツなのかね」

 大股で歩いているのはランス。そして、ランスに色々と言っているのが、腰に差した剣を時折触っているユーリだ。手入れば万全であり、折れる様な事は恐らくはない。ちゃんと対策も入念にしているからだ。

「シィルちゃん。これ、もっててくれ」
「あ……、えと、元気の薬、竜角慘……こんなに。で、でもユーリさんは……?」
「オレは大丈夫だ。さっきもいっただろう? ランスは時折抜けている。……しっかりとカバーを頼むよ。オレは配置が違うから、フォローは流石に無理だからな」

 軽くウインクをしてそう言うユーリ。
 それを訊いて、シィルは申し訳ない、と思いつつも笑顔で答える。

「は、はい。頑張ります!」

 そんな会話を見て、我慢ならないのは、いつもの面子だ。

「こら! オレ様の奴隷に何を色目を使っておるのだ!!」
「………」

 御存知の2人。共通点は、緑である事と、やや短気であること。

「だから、なんでそうなる。多めにアイテム渡しただけだろ? つーか、お前のもんにどーせなるだろ。このアイテム。……それに、志津香。無言で踏むな。驚く」

 決戦の舞台にまで来て、いつも通りなのはやっぱり大した心臓だが、そろそろ自重、ワンパターンを改善して欲しい、とも想うユーリだった。



~……改善などはない、と言う事を宣言しておきます。はい。~



「えと、ヘルマンの人たちが攻めてくるのは、夜でしたよね」
「ああ。間違いない。……エクスと真知子さん、優希を信じよう。しっかりとしてくれている筈だ。……多少卑怯だが、大目に見てもらおう」
「がははは! オレ様が取る作戦に卑怯もくそもない。勝てばいいのだ! がははは!!」
「ってな訳だ」

 ぐんぐん、進んでいくにつれて、ランスはある1点を見た。
 それは、丁度高台。戦場を広く見渡せれるだろう、ひときわ大きな高所だ。

「おう、そろそろ準備しておこうか。オレ様の見物席はアソコに決定だ! よーし、タクシーを呼ぶぞ。カモーン、ふぇr「来てくれ。フェリス」んが!!」

 ランスが呼ぶよりも早く、フェリスを呼び出したユーリ。

「呼んだ? ユーリ」
「ああ。まだ、日が沈みかけの時間帯だが、もう直ぐ沈む。……フェリスの活動範囲も大分広がってるよな?」
「まぁ、日光が直接当たらなければ大分ね。一応言えば、境目は逢魔時からだから」
「ん。なら問題ないな」

 フェリスとのやり取りを見たランスは、当然。

「こらぁぁぁぁ!! 毎度毎度、オレ様の奴隷をとるんじゃない!!」
「毎度毎度、筋違いな八つ当たりすんな。って言いたいが、今回は狙った」
「ほれみろ!! さっさと戻せ!」
「……戦場で色々されて、危なくなるのも面倒なんでな。シィルちゃんにも危険があるかもしれなし。大丈夫だ。ランスが考えている様な事にはならんから。ただ、フェリスが拒否(・・)出来るようにするだけだ」
「何だそれは!!」
「……? どう言う事だ? ユーリ」

 怒ってるランスと、言っている意味がよく判ってないフェリス。
 ユーリは、軽く嘲笑すると。

「フェリス。命令だ。……ランス達の事を任せる。戦闘に関係ある範囲で(・・・・・・・)、助けてやってくれ。明らかに関係ないのは拒否してくれていい」
「!!」

 それを訊いて、フェリスの表情には笑みが見えた。

「こらぁぁ!! 何を余計な事を!!」
「だーかーらー! 戦争の時くらい我慢しろ、って事だ。フェリスは頼りになる《仲間》だ。変なところで消耗させるな、って事だ」

 ランスとユーリは楽しそう? に言い合いをしている。ほんとにいつも通り。シィルも頼りになる2人を見て良い笑顔だ。

 そして、それを見ているのはフェリスも同じだった。

「……………」



――……考えまい、考えまいとしているんだ。線を自分の中で明確に引ききっている筈なんだ。だけど……、それでも、考えてしまうんだ。引いた線が薄れてしまうんだ。



 フェリスの中で、芽生えつつある感情。……それは、極端すぎる主人を持ってしまったがゆえの葛藤なのかもしれない。


「ぐむむむ……、おい、奴隷! オレ様を運べ! あの高所だ! 安全にな!」
「……まぁ良いか。それは戦争に関係あるし」
「だぁぁ! さっさとしろ! この場で裸踊りさせるぞ!」
「それ、関係ないから、パス」
「むっかーーー!!!」
「判った判ったから。……おい、シィル。私の尻尾に掴まれ」

 フェリスは、羽を広げて、ランスの襟元をつまみ上げると、長い尻尾をシィルの方へと向けた。

「え、で、でも……」
「今は力もある程度戻ってるからな。……一緒に運んでやる。どーせ、ランスはシィルを別の場所に配置なんてしてないんだろ?」
「ええい! シィルもオレ様の奴隷なのだから、当然だろうが!」
「あ、ありがとうございます。その、失礼します……」

 尻尾をそっと持つシィル。
 それを見たユーリは。

「安全に頼むな。フェリス。怪我させたら 後々の文句、が酷いんでな」
「ああ、それは私にもいえる事だ。……シィルもいるし。ちゃんと運ぶ」
「こらぁぁ! どう言う意味だ!! シィル! お前は自力で上がってこい!」
「ふえっ! そ、そんな……」
「時間かかるだろ。もう、運ぶ」

 フェリスは、シィルが降りられないように、尻尾で器用に身体に巻き付け、そのまま飛んでいった。



「(………ありが、とな……)」



 それは、誰の声、なのだろうか、……誰にも判らない。でも、確かに聞こえた気がしたから、笑っていた。

 3人を見送る男は、笑っていた。

「あ、あの……アレが、噂の使い魔、なのですか?」

 突然の悪魔が現れた事、そして突然のコント。驚きが重なってしまったのは無理もない事で、落ち着いたところで、ユーリにそれを訊いていた。

「ああ。使い魔……、とはもう云えそうにないな。頼りになる仲間だ」
「そう、ですか…… あ、悪魔が……」
「驚く事か? そこには、もっと悪魔と色々ヤってる、シスターがいるだろ?」
「あっら~、完全無欠、清楚なシスターをお呼びかしら? なになに? 今後の教会作った時の為の寄付? それともセ○クス?」

 結構遠目にいたロゼなのだが、……かなりの地獄耳の様だ。いつの間にか近づいていたのだから。

「ロゼはこっちじゃない。早く言ってやれ。トマトのフォローをな。……頼んだぞ」
「ま、それなりに、てきとーには働くわよ。ダ・ゲイルも仲のいいセ○クスフレンドだし、守らせるし~♪ それでも、無茶はしないけどねー」
「ああ。無理無茶だけはするな。……危なくなったら、逃げる事、そして、逃がす事だけ考えてくれ。……死ぬのだけは許さん」
「………」

 ぽかん、とするロゼだったが、直ぐに笑う。

「いつの間に、ユーリちゃんは、そ~んなプレイボーイになっちゃったのかしらん♪」
「……って、誰が、《ちゃん》だ! こんな時にふざけるんじゃない!! 嫌な記憶がよみがえってくるだろうが!」 
「今度は私を墜とそーってのかしらん?」
「今度、ってなんだ! 今度って! お前は色んな意味で無理だ!」

 ぎゃいぎゃい、と言い合っている2人。それを見た志津香はため息を吐き。

「ユーリ……。ランスみたいに、馬鹿騒ぎするんじゃないの。そろそろ配置につくわよ。ロゼも、トマトの方に行きなさいって」
「はいは~い。んじゃ、これ選別」

 ロゼがひょい、と渡したのは《良薬ヒロク》だ。簡単に言えば 世色癌の改良種。世色癌よりも遥かに小さく、持ち運びにも便利であり、数セットあれば、効率よくパーティ全体を回復させることが出来るアイテムであり……、間違いなくレア物。

「……はぁ、やっぱ、お前には敵わんわ」
「同感……」

 志津香も、ユーリも同意見である。
 ロゼはニヤニヤと、笑いながら去っていった。その手には《良薬アサクヒロク》更には《最良薬フカクヒロク》まで携帯している。ヒーラーである事を踏まえたら、あそこの守りは鉄壁だといえるだろう。……後々の請求には怖いものがあるのだが、今は心強い。ある意味リックや清十郎クラスだ。

 恐るべきシスターロゼ、ココにもあり。










 そして、時間が経ち、すっかりと日も落ちて暗闇がホッホ峡を包んでいた時だ。
 ヘルマン軍のの重厚な軍靴の多重奏が、ホッホ峡に鳴り響く。

「Hurry! Hurry! Hurry!! グズグズしてるんじゃないぞ!!」

 その中で一際でかい声を放つのが、ロバートだ。先遣隊の先頭で檄を飛ばす。

「ははっ! 前進を急がせます! 続け!!」

 足早に、早急に―――この部隊の戦意は非常に高い。……カスタム、ラジール、レッド……辛酸をなめ続け、漸く反撃の糸口を得られた、と言う事も多きだろう。
 この先のレッド攻囲戦に向けて、意欲を更に燃やしながら進み続ける。



 


 そして、後方。――ヘルマン軍本隊。

「…………」

 ヘルマン軍・第3軍 将軍トーマ・リプトン
  
 動かず、ただ 佇んでいるだけだというのに、その圧倒的な存在感は揺るぎないものであった。回りの部下達も直立不動で立ち続け、いついかなる戦闘が起きても、直ぐに動けるように配置されている。……何よりも、本隊は、これまでの兵達よりも目が一味も二味も違った。

「……どうかされましたか、将軍?」

 トーマの傍らに控えているのは《ガイヤス・ヤスト》。
 本隊の大隊長であり、トーマの腹心。思案げに周囲を見渡し続けるトーマに、声をかけた。

「いや……地図で見る以上に、ふせるのに利のある地形だと思ってな」
「それは……ええ、そうでしょう。ですが、その為の夜間進軍でしょう? 将軍の命が適切かと思いますが」
「うむ。……そうなのだがな。先遣のランドスター隊の様子はどうだ?」
「向こうは出来るだけ急いでいるようです。そろそろ、伝令同士の行き来にも時間が必要になってきますね」
「うむ。……そろそろ行こう。輸送隊のことを考えれば、あまり速度を上げることは出来んが、可能な限り 早く追うぞ」

 そう言うトーマの眉間には皺が、少し深くなっていた。

「何か心配事でも? ランドスター副隊長から、偵察の報告も来ておりましたが……」
「……いや、確たるものはない。セピアも、十分に警戒を、と言っておった。……知将バレスのおる解放軍じゃ。警戒を強めるに越したことはない。……それに、単に儂が不吉な地形に臆病風に吹かれただけかもしれん。……だが」

 セピアの報告はしっかりと受け取った。
 優秀な兵士であり、兄のフォローも十分にやってくれている信頼出来る部下だ。
 だが、セピアはしきりに言っていた《警戒》と言う言葉。自信のない情報じゃなく、はっきりと 得た情報。……それが餌の可能性も捨てきれない、と言う事もあるが、時間をかければかける程、不利になる可能性も捨てきれないのだ。
 ならば、その情報を信じ、前に進む方が得策だともいえるのだ。

 そして、……トーマの戦場の勘。

 幾千の戦場を駆け巡ってきて磨かれたもの。それが警鐘を鳴らしているのだ。

「我らも警戒を強めよ。……ランドスター隊にも伝令だ。より警戒を、とな。……それと」

 トーマが命令を下しかけたその瞬間だった。


「―――――っっ!?」


 ガイアスの耳には確かに届いた。
 そして、トーマの耳にも。……眉間の皺の溝がかなり深くなる。

 ――聞こえたのは、遠くから聞こえる鬨の声。そして《砲》の爆裂音が重く低く、それを遮ったのだ。










 


 この場所は、本隊からも、先遣隊からも離れた位置にある高台。

「ふ、ふふふ……ここまで来ましたか。解放軍、ですね」

 遥か遠方から、距離と明度をものともせずに、妖術魔人アイゼルは、その状況を正確に見つめていた。

 そして、その傍らに立つのは3人の少女の姿をした使徒。宝石3姉妹の異名を持つ使徒の1人、《トパーズ》。

「……そうですね、アイゼル様。……人間同士がぶつかり始めました」
「偶然……、の筈ありませんね。どうにかして、ヘルマンの動きを掴み、そして地形を生かした待ち伏せをした。……美しい手並み。これもあの男(・・・)の力、というべきでしょうか」

 アイゼルは、視線を更に狭く、そして睨むように戦場を見つめた。

 口調、そしてトーンこそは変わってないものの、最大限に警戒している声だ。

 その声を訊いて、少しだけ驚いたのはトパーズだった。だが、直ぐに他の2人が我先に、と手を上げる故に、その驚きもかき消される。

「アイゼル様! 先行させてください! 今度こそ、やつらを……!!」

 地上灯台で敗北を喫した使徒、《サファイア》。

「あっ、アイゼル様、アイゼル様、僕も行っていいですか?」

 そして、新たに1人《ガーネット》。
 2人が手を上げ続けた。

「ガーネット! ここは私が……!」
「いいだろ。裏方ばっかで退屈してたんだ。それに、僕なら上手くやるよ」
「むっ……!」

 まるで、子供のようにケンカをしているが、彼女達の力を決して侮るでなかれ。

 先の戦い、サファイアに勝利した理由は、ランスの不意打ちだった事と悪魔フェリスの力があった事が大きい。あの時の使徒サファイアは、術に集中をし、力を注いでいたからこそ、戦闘力が下がってしまっていたのだ。

 故に、100%、戦闘に集中した彼女達とはまだ、相対をしていないのだ。

 


――魔人が再び、人間たちに牙をむくのだった。



   




































                                                         







~人物紹介~



□ ガイヤス・ヤスト

Lv30/30
技能 剣戦闘Lv1 統率Lv1

 ヘルマン軍 第3軍の大隊長の1人にして、トーマ・リプトンの腹心。
 常に冷静沈着を守り、トーマを師と崇め、研鑽を詰んでいるが、悩みの種であるロバートのいるランドスター隊には悪態をついてしまい、冷静さを失ってしまう悪い癖も持ち合わせている。
 トーマに対する忠誠心は非常に厚く、トーマが望んでいないのにも関わらず、彼の為に命すら惜しまない。騎士道精神を重んじる兵士でもある。




~アイテム紹介~



□ 良薬アサクヒロク

 良薬~シリーズの薬。
 非常に小さいカプセルであり、即効性も高く、多くを持ち運べる為、世色癌よりも大人数の体力を癒す事が出来る。……因みに何処が製造しているのか判らない、と言うアンタッチャブルなところがあるが、それでも効果は折り紙つき。
 店で売っている。


□ 良薬ヒロク

 良薬~シリーズの薬
 アサクヒロクよりも高濃度の薬剤が込められており、体力の回復量が増大している。其のくせにカプセルの大きさが変わらない為、こちらも大人数の治療に非常に役に立つ。
 店で売っているが、高価格。


□最良薬ヒロクフカク

 良薬~シリーズの最高峰。
 フカクよりも遥かに濃密度な薬剤が込められており、殆ど強制的に回復出来る(ドーピング??) そして、上記同様に、カプセルが小さいのが最大の利点であり、大人数があっという間に回復する。
 だが、勿論 《全治全能の神》や《月の加護》よりは劣る。





 これらのアイテムは、はっきり言って高価格。気軽にぽ~ん、と放り出すように渡すロゼ……。流石の一言である。


 
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