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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第71話 光明見えるジオ戦






~ホッホ峡~



 それは、丁度 カスタムのメンバー達が休息をしていた時の事だ。
 清十郎は 周囲の情報。地形的情報もそうだし、万が一 ヘルマン側の連中がこちら側に来ていないかどうか、その警戒をしていた時。

「ったく……兄さんは一体どこに……っ」

 とある少女が、ジオの町からホッホ峡まで来ていたのだ。それも単独、更にはヘルマン軍の特徴的な黒の鎧。少女故に その大きさは男達に比べたら圧倒的に小さく そして 機動性に重視しているのか、軽装備だ。

 彼女は セピア・ランドスターである。

 この場へと来ている理由は、その独り言の中にある様に、兄を探して、である。
 色々な意味で迷惑な兄ロバート・ランドスターを捜す為である。

 いつも悩みの種である兄は、中隊長の地位だと言うのに、お荷物にして爆弾。それに由来する原因でもある軍規違反、そして何より独断専行の常習だ。ホッホ峡を迅速に超える為 そして 万が一にでもリーザス側と遭遇したとしても、抑えるべきポイント。山に挟まれたこの場所で何処に配置をすればよいか、地形情報を実際に現場にいき、確認する。と言う事でロバートは 出て行ったのだ。
 更に言えば、先の戦い。レッドの町での戦いの傷が全くと言っていいほど癒えていないのにも関わらずの行動。……異常なまでに打たれ強い男だったりもする。散々他の中隊長達に詰られたセピアだった。汚名返上、とまではいかないが、これ以上な奇天烈な行動を止める為に動いているのだ。

 そして勿論、ロバートは側近に兵士等をつけていない、完全な単独であり、小脇にポリタンクを抱えて、更にはいつもどおりのブリーフ1枚、……非常に目立つ格好で、だ。

「もう少し行けば、レッドよりになるわね……。周囲に注意しつつ、兄さんを探さないと……」

 セピアとて、この場所の重要性はよくわかっている。この場所を超えなければ、ジオの町にまでは行けない。……厳密には行けない訳ではないが、開拓のされていない獣道の様な道しかなく、時間がかかりすぎるのだ。通常のルートを使用する場合を比べたら、3~4倍はかかるだろう。……開拓されていない道、と言うものは 必然的にモンスターも多く、その強さも、街道のモンスターよりも遥かに増すのだ。それが時間がかかる理由の1つでもある。


――そして、セピアの不運はここから始まった。


 それは、この場所に来ているのがセピアだけではない、と言う事である。
 そして そちら側も単独行動であり、気配を察知するのが著しく困難だという事。……更に言えば 隠密を主としていないのにも関わらず、様々な歩法をマスターしており、様々な応用力の効く手練である事だ。

「っっ!!??」

 突然、だった。冷徹な気配が背中を貫いた。
 実際に刺されたのか? と思える程のモノ。気配と言うよりは、殺気だ。

「……何者だ? と訊くまでもないな。……ヘルマン軍の者か」
「………っ(そ、そんな け、気配が全く……、こんな荒地だっていうのに、足音とかも……全く)」

 セピアは、ゆっくりと手を上げた。逆らえば、即座に死ぬ。と思ったからだ。

 これは暗歩と呼ばれる歩法。

 いや、ヘルマンの兵士として、死を畏れている訳ではない。……と思っていたのだが、ここまでの殺気を自らのみに集中させられた事など、これまでに一度たりとも無いのだ。……本能的に萎縮してしまったとしても、誰も彼女を責めたりは出来ないだろう。 出来るとすれば、警戒を強めていたとは言え、安易に1人で出てきたと言う事。これ以上、他の者達に迷惑をかけられない、と思った彼女の責任感も、今回ばかりは裏目に出てしまった様だ。
 セピアは、ぐっ、と拳に僅かにだが力を込めた。まだ、隙らしい隙は出来ないだろう。それでもチャンスは必ずくる、と信じて。だが……。

「妙な真似は考えない事だ」
「ぁっ……!!」

 僅かに、本当に僅かに力を込めた拳。その気の流れとも呼べる僅かな気配をも、この男は察知した。


――……レベルが、違いすぎる。


 一矢報いたい、と思ったが それが不可能である事も 悟った。この瞬間に。

 背後を取られていた筈なのに、いつの間に正面に回られており、鋭い眼光を向けられた。それは、完全に捕食される側だと言う事を、弱者だと言う事を認識するのには十分過ぎる一撃だった。身体が震え、そして動けない。ヘルマン軍兵士としての誇りも、根刮ぎ奪われてしまい、セピアは 降伏するしかなかったのだった。










~レッドの町~



 其々が、適した方法で休息を取っていた。
 ユーリは、小一時間程、睡眠を取った後に まだ明るい空の下。この町で一番高い建物である町長の屋敷の屋上にて、周囲を見渡していた。

「……とりあえず、異常はなさそうだ」

 レッドの町には 平穏が訪れている。
 戦争での爪痕は勿論、まだ残っているものの、リーザス奪還へ向けての作戦行動は勿論、復興支援も滞りなく行っているのだ。非常時こそ、その町や国の器量が試されるとはよく言うが、これを見れば大丈夫だと思えていた。リーザスの軍人は勿論、カスタムの面子のおかげ、と言うもの勿論あるだろうが、レッドの住民も決して負けている訳ではない。皆が支えあっている。

 今回の1件が解決すれば、交流は勿論あるのだが、殆ど独立しているとも言える各町の繋がりが強くなり、良き間柄になれるだろう、とも思えていた。

「……ユーリ。少しいいか?」

 そんな時だ。後ろから声を掛けられた。

「ん? ああ、清か。お疲れ すまなかったな。色々と気を使わせて」
「いや。構わない。オレは ヤリたい様にやっているだけだ」

 軽く会釈をし合うユーリと清十郎。
 清十郎が町を出てから、大体2時間は経っている。何か進展があったのか? と思い訊こうとしたら、察した様に先に清十郎は言った。

「収穫は得た。恐らくは ヘルマン側の仕官であろう者を捕らえたからな」
「……本当か? まさか……ジオにまで行ってきたのか?」
「いや、違う。ホッホ峡の地理的条件を色々と確認、再確認をしていた所に、鉢合わせたんだ」
「……単独で?」
「ああ」

 清十郎の言葉に、やや 顔をしかめるユーリ。仕官。それなりの地位の持ち主が単独でその様な行動をするだろうか? と思えたのだ。

「恐らく、間違いないぞ。ユーリ。疑問を感じている様だがな。以前、レッドの戦いの時に、逃げられた女騎士だ。チューリップに、爆弾で自爆覚悟の奇襲を仕掛けてきたカミカゼ特攻男と共にいたのを覚えている」
「ああ。……アイツ、か」

 ユーリは何処となく、理解出来る気がした。

 レッドの町での一戦が終了した後、当然だが死亡した兵士達を葬った。骸をそのままにしておくのも有り得ないし、晒し続けるのも同様だ。リーザスにとって、突然の奇襲、それも魔人の力を使っての奇襲を受け、遺恨の強いヘルマン軍だが、死すれば 皆同じだから。
 幸いな事に、見送る事を職としている教会のシスターも複数いる為 滞る事は無かった。……真面目にしていたのはセルだけだったが。クルックーももう少し早くに合流してくれれば、セルの負担が、と思えたのは とりあえずご愛嬌だ。

 そして、その戦死者達の中に、例の男はいなかった。

 あの爆発の中、あの黒焦げ状態ででも生きていた様なのだ。

「成る程、大体その関係と言うか、成り立ちと言うか、想像がついた。……あの男の発想は、色々と奇抜と言っていい。そして 戦場だと言うのに、装備もはっきり言っておかしい。……アレを常日頃しているとしたら、……随分と、振り回されているんじゃないか? その女騎士とやらは」
「的確な分析だな。御明察だユーリ。あの男は、女騎士の兄らしい。……ホッホ峡には その兄の先駆けを止めようとしたらしい。先の戦での負傷した傷がまだ癒えていないらしいからな」
「当然だろ……。火爆破と思われる魔法と爆発茸のコンビだ。チューリップも揺らせる程の威力もあって、更に丸焼きにされたんだ。………生き残れるのもそれなりに難易度が高いだろう。オレも肝を冷やした」

 ユーリはため息を吐いていた。アレはランスがいつもの様に受けている志津香の魔法のようではなく、所謂ギャグ要素の一切無い殲滅を狙った攻撃魔法だ。身体は燃やされれば 焼き尽くされれば死ぬし、爆発の衝撃をモロに浴びても当たり所が悪ければ、死に至る可能性が高い。
 その身体で出てくるとは天晴と言えなくもないが、無謀と勇敢は違う。仲間まで、妹まで危険に晒されたのだから。

「それに、妹、か……」
「ん? どうした」
「いや、その女性は今はどこにいるんだ? 尋問で聞きだすのは問題無いのか?」
「あの女騎士であれば、問題ない。エクスの情報魔法、とやらで 心の内を覗かれた。その情報阻害の魔法もかかっていた様だが、真知子の情報魔法とも併用し、相乗効果も出たらしく、時間はあまりかからなかったそうだ」
「……そうか」

 ユーリは少しだけ、安心をしていた。エクスと真知子であれば、手荒な事はしないだろう。リーザス軍の将達は皆等しく信頼出来る。その実力、人格、全てを。
 だが問題なのは、どちらかといえば身内な気がするのだ。軽く嫌な予感がしていた所に、期待を裏切らない言葉が聞こえてきた。

「……ああ、そう言えば ついさっきの事だ。ランスが連れて行ったんだった。直々に尋問、訊きたい事があるらしい。エクス達の情報魔法もある、と言ったんだが念入りに取り調べたい。との事だ」
「……はぁ」

 ユーリは盛大にため息を吐いていた。
 まーーったくを持って想像の通りだから、逆に感心しかねないからだ。……無論、したくはないが。

「まぁ。何をしているのかは、想像がつく。……捕まった以上 それなりに覚悟はしている様だったが」
「……はぁ。まぁ ランスだし。その辺はオレが適当にしておくよ。直接ききたい事もあったからな」
「………」

 清十郎は、軽く笑った。
 先ほどのユーリの呟き、勿論聞こえている。《妹》と言う単語だ。ユーリが何よりも大切にしているのが、仲間であり、妹であり、家族なのだから。それは 自分自身だけにあらず、他者にまでもだったから。

「ふ……。レッドの宿屋、《不誠実》の中に入っていくのを見たらしいぞ」
「ああ。すまないな。清」
「……なに。オレもいるからな。妹が。判らんでもない」

 清十郎はそう言うと手を上げながら 屋上から姿を消した。





~レッドの町・宿屋~


 喜々としながら、少女セピアを運ぶのはランスだ。何やら麻袋の様なもので彼女の頭にすっぽりと被せて、何処に連れて行ったか判らなくしている。

「むーー。ぐ、むぐっ……!!」

 尋問の際に手荒な事はされていなかったセピアだが明らかに変わったのを感じて、必死に抵抗を続けていた。
 魔法を使われた尋問に関しては 自身にかけている精神ガードの魔法を上回られてしまえば、もう成す術はない。せめてもの意地として 自分自身の口からは、何も言わない様にしていたのだが、それが仇になったのかもしれない。

 ランスは、そのまま小柄なセピアの股間部分をまるだしにして、頑丈な鎖で縛り上げた。

「ぐふふふ。ほうほう、金髪が捕まえた、と言っていたから、どんなごついヤツか、と思ったがいいじゃないか。ヘルマンにも可愛い子はいるんだな? がははは! ちょっと希望が湧いたぞ。何れは、コンプリートするつもりだからな。がははは!」
「ぐっ!!」

 縛り上げるのを終えたら、ランスは乱暴に麻袋を取り払った。セピアは、咳払いを2度、3度とすると
ランスを睨みつけた。

「き、貴様っ、 な、何をするっ! この、離せ、下衆が!」

 がしゃ、がしゃ、と鎖が鳴るのだが、ぬなしく響くだけであり、拘束が解ける事はなかった。まるで微動だにしない。ランスの縄術もかなりの腕前の様だ。

「いいぞいいぞ。無論、こっちの用がすんだらな」
「用……っっ!」

 セピアは、ランスの下半身、変化した部分を見て、何をされるのか、そしてその羞恥から顔を赤くさせた。

「こ、こんな……こんな真似をして、許されると思っているのか! 捕虜の扱いは、国際条約で……ひっ!!」

 セピアの言葉など、馬耳東風……まるで聞く耳を持たない。ただただ、只管に秘部を弄ぶランス。

「ぐふふふ。まぁ 当然濡れてはいないようだが、……これはこれで良いぞ。さぞ、気持ちよさそうだ」
「く……ぅっ……」

 平静を保とうとしているのだが、どうしても 女の部分が出てしまう。強大な力を前にして、萎縮をしてしまう。最も尊敬するトーマに日々合っているのにも関わらず、だった。そんな自分を許せず、涙さえ浮かべてしまうセピア。

「わ、わたしは、……屈しない……くっし、ない……」

 何度も呟くのだが、もう自分の中で説得力は失われてしまっていた。清十郎に完全に敗北。一矢報いる様な事もせずに、敗北し、更には軍の機密まで抜かれてしまったのだから。全て……自分のせいで。
 そう 思った時 セピアは目を瞑ってしまっていた。

「ぐふふ……さぁて、楽しい楽しい尋問のじか……ん……」
「ぐぅ……っ……。 ……っ??」

 突然だった。男の声が小さくなっていき、先ほどまでがっちりと腰の部分を掴まれていたのに、その感触も遠ざかった。
 恐る恐る目を開いてみると、そこには有り得ない光景が広がる。

「ったく……。想像通りの展開をしてくれているな、やっぱランスは……」

 ため息を吐きつつ そう言う男。そして、大の字で地面に倒れている先ほどの男。
 
 盛大にいびきをかいているから、眠っているのだろう。……この一瞬で。
 そして、セピアは 突然現れた男の顔を改めて見て、また驚く。

「なっ……お、お前は……っっ」
「ん? オレの事知ってるのか」

  そう、目の前の男は レッドの町での戦いで会っている。いや、正確には観ているのだ。圧倒的なあの兵器(チューリップ3号)のインパクトのせいもあり、薄れてしまうかもしれないが、あの戦場で、あれだけの数の兵士達を屠った姿は 忘れたくても忘れられる筈もない。……自分自身の兄の奇襲攻撃を未然に防いだ男でもあるのだから。
 そう、この場に現れたのはユーリだった。そして、その後ろにはもう1人控えている。

「ああ、少し待ってくれ……ん」

 眠っているランスに手をかざすユーリ。勿論 幻覚魔法を掛ける為にだ。邪魔された、と思われても厄介だし、別段助ける義理は特にないのが実情だが、ランスが行為を始めたら どれだけ時間がかかるか判らないのだ。

「終わったよ。シィルちゃん。ランスを頼めるか?」
「あ、はい。判りました」

 傍にいるのはシィルだった。
 何時もの事であり、ランスが行為をする時は部屋の外で待機させられている。流石に一緒にされてしまうのは、恥ずかしいからシィルは外へ出る方を選ぶのだ。……当然、複雑な想いは拭えないから、ユーリにとっても感謝をしている。

「っとと、ランスを運ぶの手伝おうか?」
「あ、いえ。大丈夫です。ありがとうございました。ユーリさんっ」

 にこりと笑いつつシィルはランスをしっかりと支えながら背負う。
 いつもいつも、多くの荷物を運ばされている事もあり、彼女もそれなりに力持ちである。魔法の力で身体能力をあげていると言う面を考慮したとしても、だ。

 シィルは、そのまま 笑顔で眠っている。いや、いやらしい顔で眠っているランスを背負ったまま、この部屋から立ち去ったのだった。

「……さて、これで話が聞けるな。……っと。悪かったな。うちの馬鹿が」

 ユーリは、あられもない姿になっているセピアに自身のローブを着せつつ、鎖を解いた。
 自由になったセピアは、ずらされた下着等を素早く戻すと、身構える。

「お、お前は私をどうするつもりだ……!?」

 その顔は明らかに恐怖が現れていた。清十郎に捕まったからだろう、とユーリは推察。その上でランスに襲われかけたのだから、それに如何に軍人であっても、少女なのだから。

「なに。少し話を、な。……ああ、その前に 1つ、言わせてもらうがな。セピア」
「なに。……っっ!?」

 ユーリの表情は険しく、そして 怒りの表情へと変化していく。その威圧感を受けたセピアは、おもわず仰け反りそうになっていた。

「お前は、捕虜の扱いが、国際条約等を謳っていたが、ヘルマン側はどうだと言うんだ? ……天地神明に誓って、何もしていない、と言えるのか?」
「も、勿論だ。我々は誇り高きヘルマンの……っっ!」

 即答をした所で、今度はセピアに直接殺気を飛ばした。目も釣り上がり、射殺すと言わんばかりの眼光をつきつけられる。

「……レッドの町で オレの仲間が蹂躙、強姦されかけたんだ。それも戦闘兵士じゃない。一般市民だと言っていい。……そして、どちらにも属せず、戦争そのものを嘆いているシスターも襲おうとしたんだぞ」
「なっ……」

 言葉に詰まってしまうのは セピアだ。セピアの所属している第3軍は精鋭中の精鋭部隊。騎士道を重んじる者達ばかりであり(兄は例外だが)、その様な事をするとは思えなかった。

「……マリアも、そちら側の大隊長。ヘンダーソン、だったか。そいつに襲われかけた。護身用のアイテムを持たせていたから、助かったが……。それでも捕虜に対する尊厳など、ヘルマン側が語れると思うのか?」
「……そ、それが、お前のでまかせじゃない、とどう証明を……っ」
「まぁ……確かに 証拠は? と言われたら出せないな。……全て斬って捨てたから(・・・・・・・・)

 ユーリは、軽く首を振る。
 その《斬って捨てた》と言う部分にも明確な殺気が混じっており、更に威圧を受けてしまうセピア。この男が言っている言葉は全て本当なのだろう事は、薄々感じていたのだが、それでも 認めたく無かったのだ。

「あー、それ ほんとよ。なんなら、証拠みる?」

 そんな時だ。突然、もう1つの声が聞えて来た。
 セピアは驚き、ユーリの後ろにいる人物を見た。ユーリ自身は軽くため息をしつつ、振り返った。

「ロゼ……。いつの間に来てたんだ? ってか、さっき『負傷者の手当でがっぽがっぽよ~♪』とか言って離れてかなかったか?」
「いや~、こっちの方が面白いって思っただけよ? ユーリが幼気な少女を苛めてないか、をみる為にもねん。後で志津香をからかういいネタ探しってのもあるわ」
「……程々にしてくれ。志津香の足技は理不尽なんだから」

 ため息を吐きながら会話を続けるユーリ。完全に置いてきぼりを食らってしまったセピアだったが、直ぐに気を引き締め直した。

「しょ、証拠があるというのか!?」
「ええ。ほら、ここに」

 セピアに向かって放り投げたのは1枚の紙だ。どうやら、手紙の様だ。

「そっちの隊長さんの字とサインだし~、それくらいは判るわよね? 仕官さんであればさ? 筆跡鑑定しちゃってよねー」
「っ……こ、これ……」
「……なんでロゼが持ってるんだよ」

 ロゼが放り投げたのは、ヘンダーソンが何通も何通も……マリア宛に大量に送りつけてきた物。あのラブレターだ。

「合計で1099通だったんだけど~、面白そうなネタになるかな? って思って1枚拝借してたの。ま、私宛じゃないし~。持ってる分は問題ないけどね~」

 ロゼはあっけらかんとそう言う。まるで怪文書の様に びっしりと敷き詰められた文字は、読んでみると吐き気を催してしまう程だ。万が一にでも この宛先が自分であったら、と仮定しただけで寒気がする。

「まちがい……なく……」
「そりゃそうでしょ。マリアん家のポストから取ったんだから」
「はぁ、それはどうかと思うが、一応それが証拠ってヤツだな。後はラジールの町長の屋敷を占領していた時、亡き町長の娘に慰み者もさせている。……ヘルマン側に言う資格がないと思うのはオレだけか?」
「っ………ぅ……」

 セピアはついに言い返せなくなった。 
 確かに知っていたから。ヘンダーソンの性質や、フレッチャーの現状、そして 自軍にも膿の様な男達はいるという事を。そして、意を決した様に口を開いた。

「なにされても……、文句は、ない。わ……」
 
 目をぎゅっと閉じるセピア。それを見て、とりあえずはよしとしたユーリ。

「……まぁ、オレは何もしないがな。少し意地悪だったな。お前がした訳じゃないのに、あたかもそう匂わせる様に言ったんだから」

 ここで、ユーリは殺気を解いた。

「あら? 襲っちゃわないの~? ゆーってば、本性はSなんでしょ?? 抑えきれないユーリ獣欲! をこの幼気な少女に解き放って、処女奪うんじゃないの~」
「……オレとランスを一緒にするな! それに、絶対楽しんでるだろ! アホッ!」
「いてっ」

 ユーリのチョップがロゼに炸裂する。
 いつもいつもこの感じだ。この2人は。妙に息があっており、人が見れば夫婦漫才とも呼べる。……そんな言葉を乙女達の前で言った日には盛大に蹴られてしまうだろう。……勿論、ユーリが。

「な、なら 私をどうするつもり……? もう、これ以上はなにも言わない………吐かないわ」
「もう、大体の情報は読まれたんだろ? 大体の話は訊いてる、……今更意味のない虚勢じゃないか」
「う……」

 セピアは 意気消沈する。
 これはユーリの言う通りであり、機密情報を完全に漏らしてしまったのだから。

「あ~ら、やっぱ Sじゃない。志津香やかなみにもそ~やって責めるのかしらん?」
「……今は、真面目な話してるの! も、ちょっと黙っててくれロゼ! ペースが狂う!」
「あ~ん、つれないわね~」

 そこまで言った所で、ロゼは手をひらひらとさせながら、一歩下がった。セピアも珍妙なやり取りをしていたから、程よく緊張も抜けた様だ。

「オレが訊きたいのは、お前達の将。……トーマ・リプトンについて、だ」
「!!」

 ユーリの言葉に、明らかに表情が変わるセピア。
 それは、少し離れた場所で見ていたロゼも、僅かだが眉を動かしていた。其々が訊くとは思ってなかった事、だった様だ。














~レッドの町 解放軍司令本部~



 セピアを捕獲できた事で、ヘルマン軍がどう攻めてくるのか判った。……が、問題はまだあるのだ。セピアの単独行動は殆ど独断らしく、兄であるロバートを探し出して、連れ帰る事を目的としていたから、単独行動の理由も 軍のトップには伝えてないらしい。
 つまり、突如中隊長の補佐、そしてロバートが帰ってきていなかったら、中隊長も 行方不明と言う事になる。一般的な雑兵であるのなら、ものの数にしない可能性があるが、中隊長クラスとなれば、話は別だろう。

「作戦を変えてくる。……と言う可能性も高いですな。作戦が漏れているかも知れぬと」
「そうですね」

 バレスを中心に今後の策を練る。
 ランスは、それを訊いて大笑いだ。

「がははは! これだから、頭の固い老人は困る」
「む? 何か策があるのでしょうか?」

 ランスのいつも通りの暴言だがさして気にする事もなくバレスは視線を移した。自然と全員の視線がランスへと集まる。

「簡単だ。セピアちゃんを解き放って、相手に嘘の情報を流せばいい。ま、まだ本番が出来てないから、逃がした後に、もう一度捕えて美味しく頂いてやるがな。がははは!」
「……はぁ。相変わらず卑怯な……」

 隣で訊いていた かなみもため息を吐いていた。

「ふむ……」

 エクスは、腕を組んだ。そして、その隣に控えているハウレーンも口を開く。

「騎士道的には同意しかねますが、物量の差もあります。……エクス将軍」
「はい。ですね」

 エクスは頷く。それと殆ど同時だった。ユーリも答えた。

「確か、情報魔法で 記憶操作の魔法があったよな? ……難易度は高そうだが 頼めないか? この際だ。使える物は何でも使おう。……相手側に魔人がいる以上、フェアなんて言葉は存在しないだろう」

 ユーリの言葉に、エクスは頷いた。

「僕も、同じ意見ですね」
「私も、お手伝いします。確かに難易度が高い情報魔法ですが、2人以上いる事で、補佐する事でその難易度は下がりますから」

 真知子もゆっくりと手を上げてそういった。
 正直、気が引けると言えばそうだ。セピアは さして自分と変わらない歳の女の子だから。その彼女の記憶を弄るのだから。でもこれは戦争だ。情けを掛ける訳にはいかない。敵側も殺す気で来ているのだから。
 ……カスタムでも、仲間達が沢山傷ついたのだから。

「……必要最低限だけで良いから、宜しく頼めないか。真知子さん。……オレ達に捕まった、と言う記憶。そして リーザス側の作戦。その2つを集中的に。……良い気分はしないと思うが」

 それを訊いて、真知子はやや驚いた。
 真知子自身も思っている。つまり、自他共に認めている事なのだが、真知子は、あまり感情が表情に出なさないポーカーフェイスだけど、ユーリにはバレてしまっていた様だ。

「ふふ。ユーリさんの前では隠し事は出来ないですね。任せてください」

 この時は、真知子は微笑んだ。自分の事を判ってくれている様で嬉しかったのだ。

「わ、私も 手伝いますっ。頑張りますっ」

 そこへ、優希も入り ユーリの前でぐっ と両方の拳を握り締めた。
 一歩、出遅れてしまったが たじろぐ事はない。力になりたいと思っているのは 同じなのだから。

「……頼むよ。優希も」

 ユーリは、軽く頭を撫でた。

 その抱擁を受けて、優希は顔を赤らめ、そして これまたいつも通り 志津香がユーリの足を踏み抜くのだった。




 そして、戦闘準備にも取り掛かる。
 各色のメンバーを集めて、進める。その中には レイラの姿も勿論ある。彼女は洗脳をされていてた後遺症もあり、間髪入れずに サテラとの戦闘。万全とは程遠い動きしか出来なかったのだが、今は大丈夫の様だ。

「おっ、レイラさん、もう出て大丈夫なのか?」
「ええ。大丈夫よ。ランスくん。どうもありがとね」

 レイラはにこりと笑ってそう言う。

「魔人が攻めてきた時は不甲斐なかったし、これ以上休む訳にもいかないからね。下の者に示しが付かないわ」

 レイラは、金の軍のメンバーの前に立ち、細かな指示と合わせて鼓舞もしている。メンバー全員が、信頼に満ちている目をし、そして強い決意のある表情もしていた。

「がははは! よーし、 さっさと勝ってジオを取り戻すぞ! そして、祝勝記念セッ○スだ。レイラさん!」
「………」

 きょとんとしているレイラ。
 ランスの性質は 十分訊いていたし 助けてもらったのも事実だ。……魔人に嬲られたも同然だった自分自身。汚れてしまったとも思えているから、ここで断って士気に影響があっても困る、と言う理由から。

「ふふ。楽しみにしているわ」
「がはははは! よーし、俄然やる気が出てきたぞ! オレ様に 任せておけ、本当にあっさりと 蹴散らしてやろう!」

 同意を得られた事で、ランスのテンションが上がる上がる。確かに、この手のモノを掲げれば、ランスのやる気は上がり、良いパフォーマンスを発揮するるのだ。

 意気揚々と帰っていくランスを見送るレイラ。助けてもらった事は事実であり、ランスの事も悪い風には見ていない。……想い人がいるが、これまでの事を考えたら、大した事ではないのだ。

「はぁ。あんな約束して大丈夫なのか? レイラさん」
「あ、ユーリくん」

 全体の確認をしていたユーリもその会話は訊いていた。無理にヤろうものなら、それとなくフォローするつもりだったのだが、レイラが断らず、殆ど即決をしていたから、意外だったのだ。

「ふふ。私は気にしないわよ。ありがとね」
「ん。なら良いが、無理はしないでくれよ。色んな意味で」
「ほんと、優しいのね……。ユーリくんは。皆が慕う理由が本当によく判るわ。呪いに犯されていた私を助けてくれて、ありがとう」
「皆にも、言っている事、だ」

 ユーリは、レイラのほうを見て、軽く微笑んだ。

「共に、同じ志の元、戦っているんだ。……オレ達は仲間。だから 礼は 構わないよ。……仲間を助けるのは当たりだからな」
「ふふふ。うん。……私も全力で戦う。全力で、皆を助ける」
「ああ。期待しているよ」

 ユーリはそう言うと 別部隊の方へと向かっていった。

「……強い、わね。本当に。……全てにおいて」

 レイラは その後ろ姿を見て微笑む。
 強い男だったら、誰でも良い。昔はそう考えていた。今はやや違うのだが。
 多分、もっと早くに彼に出会っていたら、絶対に惹かれていただろう。心も体も強いのだから。

「彼がいるから、こんなにも士気が上がるんだね。さっきだって、そうだったし、ね」

 ユーリの言葉で 出さない様にしていたが、戦力の差から 気が削がれそうになっていたメンバーを再び奮い立たせたのだ。彼を信頼しているから。その為、命を賭ける事も惜しくない程に。

「さてと! 私も負けてられないわね。戦士としても、将軍としても」
 
 レイラは そう呟くと同時に頬を軽く叩いて、戻っていった。







 そして、主要メンバーが集まり 作戦を立てる。
 
「夜、ですか。……あのホッホ峡を……」
「うむ。あの地は狭い。数の理は活かせぬし、迎え撃つには有利となるだろう。……ヘルマン軍とて、長居しとうなかろうとも考えられる。故に洗脳の操作内容も考えた方が良いだろう。行軍を夜にして、一気に抜けるとは徹底しておるからな。ここは出口にて、迎え撃つのが良いかと思うが」
「ぬるい! 却下だ!」

 ちゃっかり横で訊いていた、ランスがバレスの案を一蹴した。

「年寄りは腰が重いから困る。いつ来るかは、セピアちゃんの情報、そして こちら側の情報も撒いてくれるから、更に動きやすくなるんだ。罠に嵌めて、攻め込んでたたきつぶす。オレ様にふさわしいのは、これだ!」

 大口を開けて、大笑いと共にそう言うランス。

「って、言ってもランスよ。普通に戦ったんじゃきついと思うぜ? 確かに、カスタムの時に比べたら 数は少ないんだが、多い事実は変わんないんだし、持久力が違うと思うがな」
「待ち伏せして、囲んで叩けばいいだろ。何も出来ないうちに、皆殺しだ」

 ミリの心配をよそに、自信満々にそう言うランスだ。ランスは口だけではない事は分ってるのだが、説得力がやはり欠けてしまうのも無理はない。

「……確かに、地形を活かせばランスの策が嵌るだろう」
 
 後ろで腕を組み考えながらそういったのはユーリだ。
 ホッホ峡の地形については、清十郎が事前に偵察に向かっていた情報と合わせてよく判っているからだ。

「ああ。あそこは枝道が無数にある。待ち伏せも有効だと思えるが、敵の気を折るのに有効なのは奇襲、が良いな」
「確かに、そうですね。枝道も潜伏させるのに丁度良いだけの数があります」

 清十郎とリックも頷いた。
 バレスも ランスだけなら 多少は考えたのだが 心強い三強(周囲が思っている)の言葉だからこそ 頷いていた。勿論、ランスの力も認めているのだが、如何せん具体性が無いから、不安が尽きなかったのだ。

「よーし、それだな! がははは。左右から滅多打ちのボコボコだ。喜べ、ユーリ! 存分に戦わせてやろうではないか!」
「はいはい。お前も働けよ。オレに負けたくないんならな」
「ふん! オレ様は常に全体を把握し、見ているのだ。個人の勝利じゃなく、チームの勝利を掴み取ると言うのだ! 負ける筈が無いだろうが」

 確かに、司令官のポジションはどちらかといえばそっちだ。ここに来て、ランスは判ってきたみたいだ。
 ……恐らくは、市街戦じゃないから、というのが大きいだろう。街中での戦いだったら、襲われている女の子(可愛い子)を……と考えるのだが、ホッホ峡ではそんな事は有り得ないだろうから。
 勿論、ユーリもいい加減長い付き合いだから、その程度の事は 勿論 判っている様だった。

「さて、とりあえず話はまとまったな。次は部隊を分ける事だが どうする?」
「ふむふむ。オレ様が厳正に考え、指定してやろう」

 ランスは 現状のメンバーを考える。

「ランス。この地形なら、正面を抑え込む部隊だって、必要よね? だったら、狭い道も多いから、一番大きい正面はチューリップ3号が良いと思うわ」
「ふむふむ。そうだな。アレなら 正面衝突しても 無事だろう。壊れてもいいから、食い止めるのだぞ」
「もうっ! 壊れても良い、ってなによっ!」

 ランスの言葉に抗議するマリア。

「だが、マリア。……連戦も連戦だし、爆発茸だって 何度も受けている。耐久度は大丈夫なのか?」
「あ、うん。大丈夫よ。確かに連発されて 色々な所がガタが来ちゃったりしてるけど、予備装備も追加して、補強しつつ メンテナンスをしてるから。欲を言えば、もうちょっと時間が欲しかったけど」
「……機械弄りが一番の休息って言って、ずっとぶっ通しだったのに、ほんと、よくやるよな」

 マリアの返答に呆れそうになってしまうのはユーリだ。
 ミリの話によれば、『一番の休息はチューリップに触れている事!』 とまで、豪語されてしまった。予想通りとは言え、やっぱ面を食らったとの事だ。

「正面、か。敵側も集まり易い場所だ。万が一にも接近されたら、チューリップ3号は小回りが効かない。あの男の様に特攻をしかけてくる可能性もある」

 ユーリは腕を組み、考える。
 レッドの町でも 潜まれていた、とは言え 懐に侵入を許し 恐らくは一番のダメージを与えられたのだ。だからこそ、白兵戦が出来る面子もいた方が良いだろう。

「ランス。オレも正面、良いか」
「む? お前の事だから、敵奥深くが良い、とか言いそうだったんだが」
「アホ。マリアのチューリップは強固だが、接近でもされたら、きついだろ。夜戦だと敵を見逃す可能性だって出てくる。チューリップ以外にもそれなりの戦線を敷いておいた方が良いだろ」
「ま、そうだな」

 ランスは、ぜ~~ったい 深くは考えていない。ユーリは戦闘狂だと言う事はよく分かっており、口では 色々と言っている(勿論、女関係) のだが、実際に戦場ではそんな事はしていない(当たり前だ)から、大丈夫だと思った様だ。

「まぁ、マリアは ボケミスをする可能性が大いにありえるからな。しっかりと、子守をしておけ。だが! 手を出したら許さんぞ!!」
「……戦場で一体ナニを言ってるんだ。戦いが 終わってからにしろ、んな トーク」

 呆れるユーリだった。そして、自分の事を言われたマリアは当然だが、怒る。

「むきー!! どう言う意味よ! 馬鹿っ!」
「……ま、私も判る気がするわ。なんか、ポカしそうだし。心配だから私もそこで」
「ちょっとーー! 志津香までっ! ひどいわよっ!」
「……冗談、よ。私も狭い所よりは広い所のほうがいいの。接近戦はゆぅ……ユーリに任せてOKだけど、中間距離だったら、魔法が上手く使えるから。……いいでしょ?」
「む、むむむ………」

 志津香の言葉を訊いて、ランスは唸る。
 誰がどう見ても、志津香の意中の相手は判る。今回も戦略上を見てはいるものの、完全に理由は同じだろう。

「(……だが、ユーリを抑える役、という意味では志津香は最適だな。アイツは束縛がやばい。ふむふむ。何れは 志津香も頂く予定だが、今回は見張り役としておくか)」

 ランスにもそう思わせる程のモノをお持ちの志津香。多分、口に出して言っていれば、もれなく炎系の魔法、全てがランスに向かってくるだろう。
 ある意味、命拾いをしたのをランスは知らない。 

「激情家にうっかり屋の2人だからな。そいつら纏めて子守をしてやれ、ユーリ。勿論! 手を出すのは許さんからな!!」
「はぁ、お前の頭ん中はそれだけか? 戦場のど真ん中で、ンな事するのは、世界中探しても、お前だけだ。安心しろ」

 再びため息を吐くユーリ。
 勿論志津香は、大抗議だ。周囲が笑いながら止めていたけど。

「はいはーーい! トマトも立候補ですかねーー!」
「あぅ、それなら私も……」
「あ、私も……」
「はっはは! お前らほんと、面白いな! こんな場面だってのによ」
「ほ~んっと、罪な男よね~。誰かさんは」

 トマトやラン、かなみも立候補をしていた。それを見て笑うのがロゼやミリだ。

「だぁぁ! やかましいぞ。お前ら! 正面に戦力が傾き過ぎだ! 馬鹿者!!」
「……お、ランスがまともな事言ってるよ。確かに集まり過ぎだな」

 最終的には、ユーリの説得が一番威力があった様だ。戦いも出来て、指揮も出来る面子がそんなに固まってしまえば戦略的にも宜しくない。満遍なく其々の部隊と共に配置すべきだからだ。
 多少、項垂れていた乙女達だったが、最終的に納得した様だ。

「ランス殿、一手は是非とも、自分に」
「オレもだ。……存分に戦える場所を期待する」

 リックと清十郎も、別の意味で立候補を上げた。それを聞いたランスは やや引きつった表情を見せてはいたが、直ぐに決める。

「む、まぁ お前達の配置は決まっている。一番の激戦区と思われる最奥の枝道だ。戦い放題、手柄上げ放題の場所だ」

 指定するランス。勿論、考えているのは別の事。

「(ま、男は死んでも別にかまわん。それに、こいつらは殺しても死なん戦闘狂だ。一番危ない場所でも、喜々と働くだろう。……最強なのはオレ様だが、人種が違う)」

 と、いうわけなのだ。ランスから見れば、多少。全体的に見れば、かなり助かっている清十郎とリックの2人。無碍に扱ったりはしていない様だ。事、戦闘においては。

「……ありがとうございます。必ずや、戦果を」
「く………くくくく。良い配置だ。血が滾る」

 リックは、メットの奥で ニタリと笑い、清十郎は そのまんま、笑っていた。不気味だと感じるのは、正面から見ていたランスだ。
 
「なら、私もそちらで、御一緒しても良いかしら? リック将軍。清十郎さん」
「自分は構いませんが……」
「多い事に越した事はない。が、大丈夫か?」
「こらこらこら、レイラさんは まだまだ病み上がりだろ? あの魔人の娘にもやられてるのだ。いかんいかん」

 レイラを男2人の間に入れるのは釈然としない為、止めようとしたランスだが。レイラは首を振った。

「いえ、もう大丈夫。……レッドでは 不甲斐なかったし、魔人の呪いの時は、皆に迷惑を掛けてしまった。だから、挽回したいの。激戦区なんて、格好の場所でしょ。……これでも金の軍。親衛隊隊長だからね。ちょっとは格好をつけさせて貰えないかしら」

 レイラの意志は硬かった。

「むむむ……、なら、仕方ないか」

 リックと清十郎の間に と、気にかかったランスだったが、2人はユーリと同格かそれ以上の戦闘狂だから、間違いなど起きないだろうと最終的に判断をした様だ。

「さてさて、んじゃ オレも一手受け持つか。トマトの部隊とオレの部隊、丁度左右に伸びてる枝道の所に配置してくれ。ランはこっちでいいだろ?」
「う~…… 仕方ないですかねー。ちゃっちゃとやっちゃって、その後、ユーリさんと、マイムマイムですかねー」
「……頑張りますっ。うん。私も色々と挽回、しないと……」

 3人の配置も決まり、ミリも頷く。

「って事だ。俺らはカスタムの部隊中心だから、リーザス組とは比べんなよ? 一市民だからな」
「もう お前らが、一市民とは到底おもえんわ! ま、精々死なないようにしろよ」
「同感」

 ランスの言葉だが、同じ気持ち、以下同文である。

「さて、なら そちら側にヒーラー達を配置してほしいな。クルックー、セルさん。ロゼ。頼めるか?」

 今回の戦いでは、裏方に徹していた? ロゼも来ているのだ。楽しそうなモノを見れる、程度にしか思ってない様だが、その実力は侮るでなかれ……。

「こ~んな、可憐で華奢で、清楚なシスターを戦場に配置するなんて、ユーリもどSよね~~」
「……お前のどこが、だ。どこが。ダ・ゲイルの戦力、ロゼ自身の立ち回りを考えたら、十分すぎる程の力だぞ。……ひみつ道具とやらも大量に持ってるのを考えたら、絶対に1軍だ、1軍」

 そうなのだ。
 ……描写をしていないが(忘れてる訳ではないです。はい)、悪魔を従えているロゼは、視覚的にも 威圧の効果がある。戦場でもその奇抜な装備は健在であり、(一応最低限度の装備はしているが)悪魔が隣で控えており、となれば、敵側が萎縮してしまうのも仕方がない。

「1軍だなんて~。そ~んな訳ないじゃな~い」
「はいはい。今回ばかりは頼む。助けてやってくれ。皆を」
「……ま、しょーがないわね。あんた達がやられちゃったら、私の楽しみも少なくなっちゃうし?」

 軽口を言うロゼだが、承知はした様だ。手をひらひらと振って、ランの部隊へと入っていった。決意を決めて、真面目な事を言う時は、高確率で背中を向ける。ロゼの性質もよくわかってきたというものだ。

「私は、ミリさんと御一緒します。ユーリさん。任せてください。被害を和らげる事くらいはしてみせます」
「おおっ、いいぜいいぜ。大歓迎だ」

 セルのミリ部隊入りにはミリも大喜びだった。だが、直ぐに表情が曇る。

「……ミリさんも、ランスさんほどではないにしろ、お話をしなければならないようですし」
「うへ……、せめて、それはベッドの中で頼むぜ。セル」
「………(もう、ランスさんと同じ様な事を……)」

 セルは頭を抱えてしまっていた。ランスを厚生させる事の難しさはもう十分すぎる程、身にしみているから。そして、その同等かそれ以上のものを感じてしまうのだから。

「では、私はこちらですね」
「悪いな。クルックー。AL教であるクルックーは、厳密には関係がない筈なのに、巻き込んで」
「……いえ。私から言い出した事、ですし。問題ないです。戦場ですし 死者が悪霊になる可能性も高いですから。間接的に、仕事も行なえます」

 クルックーは、最初こそ 戸惑った表情を、微かにだがみせたが 直ぐに 微かだが穏やかな表情を作ってそう言った。

「仲間であれば、当然の様に、ですよね。ユーリ」
「はは。ああ、頼むよ。……戻ったら、ヒトミに色々訊かせてやってくれ。ヒトミがAL教に興味があるのは知らなかったけど」
「読書も好んでますし、色々なジャンルがあります。ヒトミさんが好んでいたのは ファンタジー小説の方ですね。ユーリの様だ、と笑いながら、話してました」
「ははは……成る程ね。クルックーは ALICE関連の表紙本を読んでいたのが多かったから。先入観、だな」

 しばしの談笑を楽しむ2人。
 ちょっと寂しそうにしているのはランだ。だが、偶然なのか、必然なのか。

「ランも、クルックーを頼んだ。あまり、無茶はさせないで上げてくれ。クルックーはこう見えて、かなりの行動力があるから」
「っ……! は、はいっ 判りました。任せてください」
「頼りにしてるよ」

 ユーリが微笑みながら、ランの肩に触れたのだ。暖かい感触が肩に広がり、そして ランは紅潮する。

「が、がんばりましょう! クルックーさんっっ!」
「? はい。頑張りましょう」

 ランの心内など、判らないクルックー。そのまま ラン達の部隊へと入っていった。

「さて、もう一部隊くらいだな」
「ん。そうだな。いい感じで 把握している枝道も埋まってきた。……遊撃に回れる部隊が欲しい所だ」

 ランスは考え込むと、かなみと目があった。

「よし、かなみ。お前行け」
「へっ?? で、でも 私は部隊を率いた事なんて……」

 突然の人選に驚くかなみ。ユーリと一緒の部隊じゃなかった事に意気消沈……とまではしてないが、残念だと思っていた時の人選だったから。その時、リーザス軍側から、1人名乗りを上げた。

「僕も、手伝うよ。かなみちゃん」
「あ、メナドもっ? なら、メナドが率いたほうが……」
「遊撃は忍者である かなみが、適任だからな。危機回避能力も問われる部隊だが、いけるか?」

 ユーリがそう訊くと。かなみは ちょっと 部隊を率いるという事で、怖気付いていたが、ゆっくりと頷いた。

「頑張ります。率いた事はちょっと無いんですが、その辺は……」
「うん。任せて。僕も頑張るから。メンバーも動きの早い人たちを厳選してるから、大丈夫だよ」

 メナドは笑顔でそう言う。 
 2人は親友だから、チームワーク、意思疎通もばっちりだろう。

「その、ユーリ。……僕、頑張るから」
「ああ。任せた」
「う、うんっ!」

 メナドは ぱぁっ と明るくなる。……戦場だと言うのに、恐怖心などない。一緒に戦っているから、それだけで心強いのだ。
  勿論、ランスはムカついた様子だ。そして、かなみも ものすごく複雑そうだ。




 そして、こちら側の部隊編成は完了した。後はまだ色々と話し合っているリーザス側だ。ユーリも踏まえてでの確認を実施する。

「さて、と。バレス、エクス、ハウレーン、アスカ、メルフェイス達のリーザス部隊は周囲の高台。全体を見渡して、弓兵、魔法兵を配置して、援護射撃を頼めないか。頭上という死角から頼む。……後は一番広い正面はチューリップが陣取る上での配置もな。枝道側に関しては 多く配置をすれば、奇襲を悟られる可能性が高いから、今の部隊だけで良い」
「承知しました」
「任せてください」
「ええ。弓兵の練度に関しては 我々も自負をしています」
「がんばるおーーっ!」

 リーザス側のメンバーが其々頷いた。戦力としては 申し分ないし 寧ろ主力だと言っていい。今回の立地条件を考えたら、これが最適だろう。奇襲を掛けて、慌てている所に 頭上から、更に追い込みを賭ける。言わば本隊だ。如何に数で劣ろうと、奇襲が成功し、その後の追撃であれば、戦力は 倍にも3倍にも感じる筈だから。

「そうだそうだ。遠くから、チクチクと攻めろ。仲間にあてるんじゃないぞ」

 ランスに関しては、もう少し具体性の欲しい所だが、十分すぎる程にユーリがフォローをしているから、不思議と噛み合っているのだ。




 そして、話はランスとユーリに。

「さて、と。んじゃあ、ランスだが お前はどうせ、後方の高台か?」
「がははは! 当然だ。司令官のオレ様が前になど、いられるか。優雅に一番高いところで 見物させてもらうぜ」
「だろうと思った」
「うん。……私も思った」
「はぁ、馬鹿と煙は、ってヤツね」

 ユーリと正面に立つマリアも同感だった様だ。そこですかさずランスは答える。

「がははは。安心しろ。やばくなったら、助けてやる」
「それだけは信用出来るぞ? マリア。この部隊の編成を考えたら」
「へ? どうして??」

 マリアは、ランスの言葉は胡散臭い。と思ったのは事実だ。が、ユーリは肯定をしているから、気になった様だ。

「……女の子達が満遍なく、全部隊にいるから、でしょ?」
「その通りだ。信頼出来るだろ?」

 ユーリは失笑をしながら、志津香にそう言う。呆れ果てる志津香、そして納得を出来てしまう自分も、何処か嫌だった。
 
「その代わりにお礼で~、と要求するんでしょ……」

 かなみも、同様だった。

「命の代価なんだから当たり前だろう。嫌なら、死に物狂いで戦え」
「安心しろよ。ランス。……ここにいるメンバーは強い。負けないさ」
「む? オレ様が格好よく救うシーンは必ず入れるのだ。それなりには 手を抜いてもかまわん」
「いや、訳わからん」
「そもそも、あんたに助けられるくらいなら、自害するわ」
「……同感」

 こうして、配置は終了した。

 いや、まだ1人いた。

「あ、あの、ランス様。私は……どうしたらいでしょうか。何も言われてなくて……」

 そう、シィルだ。
 ランスの傍にずっといたのだが、まだ人選をされていないから。ユーリもヒーラーとしての配置は、セル、クルックー、ロゼと3人に絞ったから、声がかからなかった。

「馬鹿か、お前は」
「ひんっ! ひんひん……い、痛いです。ランス様……」
「お前はオレと来るんだ。奴隷の分際で何を怠けようとしている」
「あっ……」

 シィルは、叩かれた頭を抑えつつ、ランスを見た。ランスはそうとだけ言うと、背中を見せる。

「……ランスなら、ああ言うって思ってシィルちゃんは配置しなかったんだ」

 ユーリが、小声でシィルにそう言う。シィルは、振り向いた。

「攫われた時、かな。多分何言っても、ランスは戦いの場では特に シィルちゃんとは別行動は取らないだろう。それだけは保証するよ」
「あっ…… は、はいっ! 私も、頑張りますからね。ユーリさんっ」
「ああ、ランスのお守り、頼んだ」
「こらぁ! シィル! 何を油を売っておるか!」

 追いついてこないシィルに檄を飛ばすランス。それを見たユーリはにやっと笑った。

「ランスはマリア同様、どこぞでポカするからな。シィルちゃんにしっかりと頼んでただけだ」
「あ、が、頑張りますっ」
「誰がだ、こらぁ!! シィルも何を頷いている! お仕置きだ!!」
「ひんひん……」

 シィルは、頭を叩かれながらも、喜びを感じていた。
 ユーリの言うとおり、だったから。

 ちなみに、自分の事をダシに使われたマリアが、また 怒ったのは言うまでもなかった。




 様々な不安要素があったジオ戦。
 如何にいい見繕っても、数の暴力というモノは絶対的に存在する。だが、風は間違いなくこちら側に吹いている。偶然が重なり、リーザス側に良い風が吹いているのだ。これも、ランスの天運、というかもしれない。それとも、全員の負けられないという強い決意が、呼び込んだのかもしれない。


 
 かくして、本日深夜。ジオでの決戦の火蓋が切って下ろされる事になるのだった。

 



                       

          


















技術(スキル)紹介~



□ 暗歩


 足音を殺して歩く技術。主に暗殺術として修めたモノであり、気配をも断ち接近する為 察知する事が著しく困難である。突然 後ろから声を掛けられただけでもびっくりだから、幽霊か? と間違われたりもする。
 





 
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