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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第41話 心の強さ


~アイスの町・ランスの家前~


 一行はラークとノアを病院に連れて行った後、今日はもう時間的にも遅い為各人休む事にした。

 ランスは勿論、自宅へと向かう。

「よし! シィル、一発ヤるぞ! がはは、泣いて喜べ、家無き忍者。オレ様の家に泊めてやろう! 勿論代価は身体だ」
「イ・ヤ!! 絶対にいやッ!!」

 かなみはブンブンと首を振って拒否をした。
 ランスの家に上がると言う意味。それが一体何を意味するのか、そんなの明らかであり、決まっている。魔獣蠢く荒野に 生肉ぶら下げて歩くとどうなるのか? それが決まっているかの様に。
 いや、後少ししたら もう日も暮れる。太陽の光が差さなくなる。それが当たり前の様に判る。それと同じくらいに……。

「なら、どうするというのだ? この辺りは、夜はかなり冷え込むぞ? そ~んな薄着のままで、野宿でもするのか?」

 ランスはイヤらしい表情を崩さない。泊めて襲う気満々の様だった。

「うぅ……」

 斯く言うかなみも、流石にこの辺りの夜の冷え込みについては知っている。
 極度の疲労があった事を省いたとしても……かなりしんどかったのだから。夜は、風と共に、肌を刺す様な寒さに襲われるのだから。
 
 それを見た、ユーリは、素早くシィルに耳打ちをする。

「ら、ランス様! あそこにラレラレ石がっ!!」
「む? 何処だ??」

 シィルが指を指したその先には……シィルが言うとおりラレラレ石が転がっていた。これは勿論、ユーリが素早く投げたラレラレ石だ。実は、洞窟で見つけたのはランスだけではなかったのだった。投げた表しに壊れたかもしれないが、一先ずそれは置いておく。ランスの目を引きつける為に放った撒き餌だから。

「かなみ。あのな……」

 そして、ランスの気を逸らしている内に、今度はかなみに耳打ちをするユーリ。

 ユーリが何やら かなみに耳打ちした後……、かなみは、驚いていた。そして、かなみは顔を火炎ブレスか何かが直撃したように赤く燃え上がるように熱くなってしまった。

 そうこうしている内に、ランスが戻ってくる。

「ぐふふふ、何処の馬鹿だ? こんな良い物を落とすなど……「淫乱人妻天国!」歳は28でギリギリだが、中々良さそうなタイトルだ」

 ランスは意気揚々と戻ってきて、そしてかなみの顔を見た。何やら顔を赤くさせている事に気づいたランスは、したり顔をして。

「お? かなみもオレ様に抱かれるイメージをして、そんな赤くしていたんだな? がはは、良し! 優しく抱いてやろうではないか!」
「違いますッッ!! 怒って顔を赤くさせてるんですっ!! それに、忍者を舐めないで下さい! この位の寒さなんて普通なんですから!」

 かなみは、そう言うと 素早く移動、家の屋根の上にまで跳躍をしていた。と言うか、まだまだ混乱しているようだ。ランスと話しているのに、敬語に戻ってしまってる程に。

「むおっ!? ……へっぽこの癖に 中々素早いではないか」
「へっぽこへっぽこ言わないでくだっ……いうなっ! それより、明日朝一にここに居るから、寝坊しないでよね!!」
「がはは、朝から夜這いならぬ、朝這いをしにくるのだな? バッチコーイだぞ?」
「うるさいっ!!」

 かなみはそう言うと、一目散に駆け出して言って見えなくなっていた。……かなみは、走りながらさっき、ユーリと話をした事を思い出していた。



 ユーリの提案は、ランスの家が嫌なら自分の家はどうかと言う提案だ。何より……憧れの、好きな人の家に……と考えた瞬間、再び顔を赤くさせる。


 ユーリだって、当然判っている。ランスの家に、女の子が泊まってしまえばどうなるかと言う事。どうなるかは、火を見る明らかだろう。かなみが考えていた様な事をユーリも想像をしていた。
『……猛獣の檻に兎を放り込む様なモノ』と。

 勿論、かなみが 泊まる事を、望んでいるようなら別に、口出しをするつもりは無かったが、本気で嫌がっているのは見て明らかだったから。

『ええっ!? い、良いんでしょうか?』
『まあ、家にはヒトミだっているし、賑やかなのは喜ぶと思うからな。ただ……事、女に関してはランスは ねばいからな……誤魔化しで頼む。あ、でも かなみが嫌だったら無理にとは言わない』
『そ、そんな事ありませんっ!! ご迷惑じゃと思いはしても、い、嫌なんて思う事などっ!』

 かなみは、顔を赤くさせながらそう力説をした。ランスが聞いていなかったのが幸いだろう。

『はは……とまぁ、後は、てきとうに、ランスは躱わしてくれ。オレが言うと勘付かれる可能性が高い』
『はい! ユーリさん、ありがとうございます』

 かなみは、ユーリに頭を深く下げた。

 その後、ランスが来る事になる。



「え、えっと……ユーリさんのお家は……」

 かなみは、町を眺めてユーリの家を探した。

 何より、遮二無二に走ってきたから正確な位置を把握してなかったからだ。

 そして、見つける。

 そして、これからあの家で……泊まる事になる。……ユーリと一緒に。

 かなみは、その事を繰り返し頭の中で再生をしていた。

 どんどん、顔が赤く熱くなっていくのが良く判る。生唾を飲む音が普段より大きく大きく聞こえてくる。

「(た、確かに今は大変な状況……だけど……、ほんとに、私 ユーリさんのお家で……)」

 確かに以前も看病と言う意味では一緒に泊まったんだ。だけど、それはノーカウントとしてかなみは思っている。

「(意識……殆ど無かったんだから……)」

 だからこれが、初お泊りと言う事だ。

「っ~~~///」

 かなみは悶えてしまっていた。しかし、彼女は忘れてしまっている事に気づいていない。

 ユーリの家には、《ヒトミ》と言う 女の子がいると言う事を、もうすっかり忘却の彼方だと言う事を。……かなみは、2人きりと、ピンクな妄想を膨らませてしまっているのだった。







~アイスの町・ユーリの家~


 かなみが、走っていった後 ユーリはランスと別れた。
 当然だろう、この町を拠点にしているのは互いに周知だ。ランスは、興味がなさそうにしていたが、とりあえず 何も言わなかった。かなみが、ユーリの家に行くかもしれないとランスは思ったようだから。

『抜け駆けするなよ!アイツはオレ様のだ!』とだけ言われたが……。

 ユーリには、そんな気はサラサラ無く、ただ苦笑いをしていた。それを見たランスは、何やら安心したのか シィルを連れ家の中へと入って行った。

「ったく、いつも盛んな事で……、まぁ ある意味では、マジで凄い事か」
「ん~? 何のこと? お兄ちゃん」
「いや、ヒトミは、知らなくて良い事だ」
「ぶ~~! 教えてよーっ!」

 ユーリは家でゆっくりとしていた。
 結構早くに帰ってきたからヒトミには大層喜ばれた反面、『連れて行ってくれても、良かったんじゃないっ?』と、軽くせがまれる事にもなってしまっていた。

 だから、ユーリは一から説明をするハメになってしまったのだ。

 ……可愛い子には旅をさせろと言うが、今回ばかりは相手が悪すぎる。魔人がいるのは、直接会った以上は間違いないのだから。

「むぅ……、見逃した事は判るんだが、前後の細かな記憶、所々が欠落しているからな……。狙われる危険性も考えておかないと」

 ユーリは今後について画策をしていた。
 魔人がいる以上は、幾ら考えても考え過ぎと言う事にはならないだろう。

「お兄ちゃん……、ほんと 気をつけてね? 死んじゃうなんて……ヤだからね?」
「コラ。物騒で不吉な事を言うなって。大丈夫だ」

 ユーリは、心配そうに見つめるヒトミの頭を撫でてあげた。帽子をつけてるから、それをのけて。

「って、家でまでつけてる事無いだろう?」
「え? あ、うんっ。ハイニお姉ちゃんも 私の事 知っても何も酷い事しなかったし、大丈夫だったけど……」

 ヒトミは、帽子の端を両手で持って、それを眺めていた。愛おしそうに。

「だって、お兄ちゃんのプレゼントだもんっ! 暫くはずっとかぶってるもん!」
「……はは、ハゲても知らないぞ? キースみたいに」
「ぶ~~! そんな風にならないもんっ!」

 ヒトミは頬を膨らませつつも、帽子をしきりに触っていた。
 プレゼントをした事が、それほどまでに嬉しかったのだろう。ユーリはそう思うと、微笑んでいた。

 そして、更に暫くしての事。ユーリは立ち上がった。

「ん? どうしたのお兄ちゃん?」
「ああ、言うの忘れてたな。今日オレの家にお客がくるんだ」
「……ええっ!? ひょっとしてだけど、お兄ちゃん……朝の女の子?」
「ん? ああ、良く判ったな。そうだ、かなみって言うんだ。ちゃんと挨拶はしろよ?」
「うん! ……ふぅ~~ん、やっぱりお兄ちゃんってば……」
「? 何か言ったか?」
「んーん、なんでもな~い!」

 ヒトミは笑っていた。ユーリはそのまま外へとかなみを出迎えに行く。
 変な話、ランスがいないとも限らないから、とりあえず出迎えはヒトミではなくユーリが行く事にした。ヒトミはその後姿を見て。

「う~ん……、でも、お兄ちゃんには、まだまだ他にも沢山いそうな気が……」

 っと思ってしまった。 それは、大・大・正解なのである。


 ユーリは、家の外へと出てきた。が、そこには人影はなかった。……だが勿論ユーリは気づいた。彼女の気配を。

「さて、いるんだろう?」
「あ、……はぃ……」

 かなみは何やらもじもじとさせながら ユーリの家の前に降り立っていた。外はもう暗いからその表情が赤い事もユーリは、判らない。

「ほら、外は寒い。入ろう。簡易的ではあるが、夜食も用意している」
「あ、ありがとうございます………」

 かなみは、ユーリに一礼し 緊張しながら、家の中へと入っていった。
 そこで、出迎えてくれたのはユーリだけでなく。

「いらっしゃいませ~~、かなみお姉ちゃんっ!」
「わっ……!!」

 ヒトミがかなみに思いっきり抱きつきながら、笑顔で出迎えてくれたのだ。その身体の抱擁を感じながら、かなみは、思い出す。

「(あ……、そうだった。ヒトミちゃんがいたんだ……、わ、私ってば勝手に変な想像して……っっ!!)」

 かなみは 顔を、カーーっと赤くさせてしまっていた。勿論、その顔、ヒトミは完全に見ている。

「えへへ……、お姉ちゃんも お兄ちゃんの事……」
「っっ!!? な、なにをっ??」

 突然、抱きつかれた上に耳元で何やら言われてかなみの声は裏返ってしまっていた。

「あはっ 隠しても無駄だよ~? だって、お姉ちゃん。とってもお顔赤いもんっ!」

 ニコリと笑顔を向けながらヒトミはかなみの顔を覗き込んだ。かなみは、それを見てぎこちないが、微笑みを返し頷いた。

「う……うん。私の憧れの人で、恩人で……は、はじめてす、す……」

 ぼっ! っと爆発しそうになるかなみ。

「(うっひゃあ……お顔、あっか~いっ♪)」

 ヒトミもここまであからさまだったら、驚くしかなかった。その後少し遅れて戻ってきたユーリ。更に声が裏返ってしまったかなみは、必至に表情を元に戻す努力をしたのであった。



 その夜。



 ユーリが容易した夜食を皆で食べ、寝床につく。勿論、ユーリは別部屋でかなみとヒトミが同じ部屋だ。

「でもね、お兄ちゃんって、天然の女誑しさんだから、お姉ちゃんも気をつけてね?」
「うぇぇ!? あ……でも、やっぱり ユーリさんって……」
「うん。お兄ちゃんはお顔をとても気にしてるから、自分では気づいてないっぽいんだけど……、私、普通に格好良いって思うんだ? でも、お兄ちゃんのお顔、可愛いの割合が高いから、からかわれちゃうのかなぁ?」
「うう~ん……」

 ヒトミのその認識は、リーザスの優希の感覚に非常に似ているのだった。

 そして、ガールズトークを楽しんでいるようにも見える会話が続く。そんな中で、ユーリとヒトミの出会い話になって、かなみはある重大な事実を聞くことに……。

「私は、ヘルマンでお兄ちゃんに出会ったんだ。そこでね? お兄ちゃんの恋人(笑)さんに出会ってね~」
「ここ、こいびとぉぉ!?」

 その事だった。
 その後……根掘り葉掘りヒトミにその時の話を聞いた。恋人と言うのは、また違ったものらしいが、それでも……行為はしたとの事。

「あ、あぅ……、ユーリさんが、……ユーリさんが……」

 魔法のせいで、ユーリには自我が無い状態と説明をされたけれど……やはり、かなみはショックがあったようだった。その人も物凄くユーリにアタックをしていると言う事も聞いたから。

 その後も、ヒトミとのトークは続いていた。

 かなみも、ユーリ同様にヒトミが女の子モンスターとはもうどうしても思えない様になったようだ。


 そして、ガールズトークも終了した深夜。

 
 かなみは、眠る事が出来なかった。
 それは、ユーリの家だから 緊張して眠れないと言った類ではない。……本当に居心地が良い今の感じに罪悪感が生まれているのは間違いない。現を抜かしている自分自身にも、嫌悪してしまうのだ。

 リーザスでは、今 皆大変だというのに。

「……リア様、マリス様、……メナド、みんな……っ」

 天井を見上げながら……リーザスを思う。そんな時だった。


 突然、外から物音が聞こえてきたのだ。物音、と表すには乏しい微かなもの。


 かなみは、元々忍者である故に、五感は鋭い。更に今は特に感覚神経が過敏になっているようで、その音を、微かな音を 聞き取ることができ、 反射的に身体を起こした。

「何……かしら?」

 かなみは、気配を消しながら完全に起き上がったヒトミは気づいていないようでぐっすりと眠っている。彼女を起こさないように足音を殺して 寝室の外へ居間の方へと向かった。

 そこでは、天窓から月明かりが差込み 幻想的な空間になっていた。その月明かりの下に誰かがいた。

「……眠れないのか?」
「あ……いえ……」

 その人は……、ユーリは、かなみが来た事に直ぐ判ったようだ。特に驚く様子もみせず、そう訊いていた。

「ユーリさんは、いつも、この時間に晩酌を?」
「いや……いつも、と言うわけではない。今日は オレも色々とあったからな」

 ユーリはそう言うと、グラスを口に運ぶ。
 からんっ……と、グラスの中の氷が当たる小さな音ですら、部屋に響く程の静寂な世界。そんな中でユーリと2人でいる状況。顔が赤くなりそう……だったけれど、やっぱりもう流石に駄目だとかなみは思ってしまったようだ。……国を取り戻すまでは、これ以上現を抜かす訳にはいかない。

「心配……か?」
「っ……」

 かなみの表情から、ユーリはそう感じ取ったようだった。

「オレだって同じさ。リーザスには 親しい人だっている。冒険者をしていて、世話になった人達だっている。……だけど 信じよう。皆……無事だって。今はそう強くな」

 ユーリが、そう言うとグラスを置いた。
 ユーリ自身にも、リーザスには知り合いも多い。だから、自分も心配か? と言われれば 必ず首を縦に振るだろう。

「それに……気を張り詰めすぎるのも良くないぞ?」
「あっ……」

 ユーリはゆっくりとかなみに近づき 俯いている彼女の頭に軽く手を置いた。

「適度に息抜きだって必要だ。ヒトミの話し相手になってくれた事にも感謝をしているよ。アイツは 友達が増えたって喜んでいたから」
「い、いえ…… 私の方が……でも……」
「『リーザスが、皆が大変な今……こんな事をしてても良いのか?』って考えてるな」
「ッ……」

 かなみは まるで見透かすように言われたユーリの言葉に身体を震わせた。その反応を見るだけで十分だった。

「気持ちは判る。だが、さっき言ったとおりだ。気を張りすぎると 出来るものも出来なくなる。適度な休憩だと思えば良いさ。その代わりに その時が来たら……絶対に助ける。命を懸けて。そう強く誓うんだ」

 ユーリは、自身の胸の部分を右拳でとんっ と叩きながら、かなみにそう伝えた。それを見て、かなみは、張り詰めていた表情を少し柔らかくする事が出来た。

「はい。……ユーリさん。ありがとうございます」
「いや、構わないさ。明日からもっと大変だぞ? ゆっくり出来るのは、今日が最後だってくらいに思ったほうが良い」
「はいっ」

 かなみは、少しだけ気が楽になったようだ。

 不思議だった。どうして、彼の言葉はこんなに心に響いてくるんだろうか? と。彼の歳は19歳。と言っていた。別に見た目がどうこうなどと、言うつもりは毛頭無い。
その年齢は、自分とあまり変らないし、年齢的にはまだまだ若輩と言えるだろう。なのに、その言葉には凄く重さがあると感じるんだ。

 そして、何よりも……。

「やっぱり、……ユーリさんは素敵な人です」
「え?」
「……っっ!!!??」

 かなみは、つい思った事を口に出してしまい、思わず口を抑えた。だが、もう口から離れてしまった言葉であり 今さら 抑えても遅い。だから、かなみは慌てて言葉を繋いだ。

「い、いえ、そのっ、いつも助けてくれますし、わ、私も頑張らないとって思って……」
「そうか……」

 ユーリは、そう言うとかなみに向かって微笑む。

「明日から、頑張ろうな。……オレも全力で手伝う」
「……は、はいっ!」

 かなみは、慌てて頭を下げるとそのまま素早く、寝室へと戻っていった。

 そして、残ったユーリは、グラスに残っている酒を全て飲み干す。

「オレが素敵な人……か。聞き慣れないな」

 ユーリはそう呟いていた。
 ユーリは、色々と経験をして来ているからこそ、言葉も伝わりやすいんだろう。そう……色々と。

「………」

 ユーリは、飲み干したグラスを片付け 酒瓶も仕舞う。

「リーザス、ヘルマン……そして魔人とカオスか」

 考えるのは、今後の戦争。

 魔人がカオスと言う武器を狙っていると言うのは間違いないだろう。だが、それだけではない気もするのだ。あれ程の力を持つ魔人だ、人間の国の力を借りる必要などあるのだろうか? と思えるのだ。

「今、魔人界を二分する戦争が起きている。……人間界では、魔人の1、2人が現れた時点で大ニュースだ。大っぴらに進行するわけにはいかなかったから人間の国を利用した……、とりあえず 筋は通るか」

 デカイ動きがあれば、必ず片方側の勢力に目をつけられるだろう。

 だが、解せないのは、あの魔人達だ。

「ホーネットは、基本的に人間界に不可侵を貫いている。あの(・・)彼女がこんな事をする筈は無い。片方なら兎も角な」


《ホーネット》

 前魔王の娘にして今の魔人筆頭。彼女の事はユーリは知っている。

 嘗て、≪出会った≫ことがあるのだから。


「……」

 ユーリも寝床へと戻っていった。
 今回の仕事……いや、仕事ではないが 進めていけば真実にたどり着くだろう。

 それは険しい道だが。だが……それでもまだぬるい。


「慣れてるってな。オレの、《オレ達》の最終目的に比べたら……小さいもんだ」








~アイスの町・キースギルド~




 日も昇り、朝日が町を照らす。

 4人はキースギルドへと顔を出していた。ことの経緯を説明する為にだ。……まさか、あの2人がやられてしまっている事など夢にも思って無かったキースはまだ驚愕の表情をしていた。ランスが言うのなら兎も角、ユーリが言う以上は間違いない。それに、傷ついた2人を見ているから。

「まさか、ラークとノアがやられるとは、な……」
「所詮、ラークなど2流の戦士だ。オレ様と張り合おうなんて2億年早い! って事だ!」
「アイツ等の相手は魔人だった。……いくらあの2人でも 無理だ」
「だろうな。事の顛末はラークから聞いたよ。それでも、オレぁ あの2人には長く仕事をしてもらってたからな。まだ受け止め切れてねえ部分があるみたいなんだよ」

 キースはそう答えていた。どうやら、ラークとは話をしているようだ。

「まぁ これで今回の仕事はお前らの物だ。絶対に成功させてくれよ」
「がはは! 軽いもんだ」
「あの、キースさん。お2人の事は聞いているのですか?」
「病院の話は勿論耳に入ってる。2人は無事だ。ただラークがな」
「どうかしたのか?」

 ユーリは、キースの言葉に気になってそう聞く。
 今日病院へと顔を出すつもりだったが、この言い方だとラークに何かがあったと思えるのだ。

「なんでも修行の旅に出ると言っていたんだ。ノアの方は病院で養生している」
「そうか」
「ああ、ユーリに伝言を預かってるぜ?」
「何?」

 キースはそう言うと、普段からはあまり見られない真剣な表情になっていた。

「『助けてくれた事には感謝する。だが、オレはオレを許せそうに無いんだ。だからこそ 修行の旅に出る。黙って行く事を許して欲しい』だそうだ」
「……ノアは、アイツは どうするんだよ。ラーク」
「随分と責任を感じてたようだ。彼女の事も言っていたよ。そうだ、ユーリ。オレ達は病院に行くのにまだ時間がかかりそうだから、彼女への伝言を預かってくれないか?」
「……ああ」

 ユーリは静かに頷いた。
 キースは軽く葉巻をふかせた後……煙と出すと共に話を始めた。

「『今回の件、全てオレが弱いせいだ。オレが弱いから守れず、……傷つけてすまない。君は平穏に暮らしてくれ。オレが望むのはそれだけだ』だとよ」
「……随分と勝手な判断だな。あの時、ノアは命を掛けてラークを庇ったんだぞ。自分の命よりも、ラークを選んだんだ。……そんな 彼女の気持ちを無碍にするつもりか」
「いや、ノアが戦えない事を察したんだろうさ」
「………」

 ユーリは何も言わずに黙った。

 そう、彼女の事も深刻だといえばそうだ。
 彼女がもう戦えないというのは、ユーリも察しがついていたのだ。戦いに身を置く者は大小問わずに必ず覚悟をするものだ。冒険の過程で命を落とすかもしれない覚悟を。……だが、実際に死を間際にした者は、その覚悟を折られる事も多い。
 ましてや、相手は絶対的な力の差がある魔人であり、ある意味では死よりも恐ろしい体験をしたんだ。冒険者としての覚悟を、心の全てを折られたとしても不思議ではなく、彼女を情けないと責める者など誰もいやしないだろう。

「それと、お前らにラークから1000GOLD預かっている。迷惑金だそうだ」
「ふん、端金だな、全てが中途半端だからそんな目にあうのだ」
「ちょっと、ランス……いい加減にしなさいよ」

 最初は黙って聞いていたかなみだが、幾らなんでもランスの馬鹿にするような口調と言葉、態度に我慢の限界が来たようだ。だからこそ、ランスを睨みつける。そして、更に言おうとしたかなみだが、それよりも早くにランスが言っていた。

「あの武具を買い戻す金にもならん中途半端な金だから、それはノアさんの入院費にでも充ててやれ。オレ様には不要だ」
「……はは。右に同じだ」
「真似をするんじゃない、後出しは格好悪いぞ」
「そんなつもりは無い。……が、お前ならそう言うと思ってただけだ」

 ユーリはそう言うと笑った。その言葉を聞いたシィルは笑顔でランスに駆け寄る。かなみは、ランスの言葉に驚いていたようだ。

「……少しだけ、見直しました。ランスの事を。……アイツもあんな風にいえるんですね」
「まぁ、ランスの場合条件付だがな」
「条件?」

 かなみがユーリにそれを聞いた時、ランスとシィルの会話が聞こえてくる。

「ランス様っ、お優しいですね!」
「当然だ! オレ様は正義の味方だからな。……ぐふふ、これでノアさんに……ぐふふ」

 その会話を聞いたかなみは呆れてしまっていた。さっきまで見直したと言っていたのだが……。

「こんな感じだ。慣れてきたか?」
「……やっぱり、慣れたくないです」

 かなみは改めてそう言っていた。
 それを聞くと、ユーリは苦笑いをしてランス達に続いていく。

「伝言は確かに受け取った。彼女には伝えておくよ」
「ああ、頼んだ。後ユーリ」
「ん?」

 キースは、ニヤリと笑って言う。

「ラークは帰ってくるとさ。最後にアイツの独り言をハイニが聞いたみたいでな? 必ず強くなって、戻ってくる。そう言っていたよ」
「そうか。戻ってきたら、とりあえず、チョップはしておくよ。遅ければ遅い程、威力が増すチョップを」

 ユーリはそう言って笑っていた。

 ノアにメッセージを残すくらいなら自分の口で言えというものだ。長く共に冒険をしてきたパートナーなのだから。気持ちは判らなくもないが、とりあえずは。

「はは、お前らしいやり方で迎えてやってくれ。オレとしても戻ってきてくれるのは大歓迎だからな」

 キースはそう言いながら机を叩く。

 ラークはエースなのだから、抜けた穴は大きい。……キースの言い方は悪いかもしれないが。この男だって気にはしている筈だ。多分だが。


 そして、ランス達が出て行った後。


「ふふ、私達。今日の仕事はもう殆ど終わったんですが?」
「俺等の言葉より、同じ冒険者であるアイツの言葉の方が良いだろう? それに、オレはオブラートに包むのが苦手でな」

 キースはそう言って笑っていた。

「ユーリさんの言葉は、心に響いてきますからね。まるで、随分と歳上の人みたいに」
「はは、顔と説得力が一致してないんだよアイツは」

 ハイニの言葉に同意しつつ、キースは、葉巻の火を消した。

「ぜってー、アイツの結婚式ではスピーチしてやる。情報はこまめに揃えておけよ? ハイニ」
「ふふふ、誰と結ばれるか……私としても楽しみですからね。言われるまでも無く勿論ですよっ!」

 2人はそう言って笑いあっていた。








~アイスの町・病院~


「がはは、ノアさんの病室へと行くぞ」
「はい。お見舞いですね? 何か買っていきましょうか?」
「ぐふふ、目的は口説きだ口説き! ノアさんも情けないラークに愛想付かしているだろうから落とすのなら今がチャンスだ」

 ランスはいやらしい表情を浮かべながらそう言っていた。らしいといえばらしいが……

「………」

 シィルは、対照的に悲しそうな表情をしていた。

「まぁ、300%無いとだけ言っておくよ。どっちも」

 ユーリは、苦笑いをしつつそうランスに言った。勿論、何がかと言うと……

「がははは、ラークに愛想を尽かしている事がか? それは当然だろう! あ~んなに情けなかったんだからな!」
「違うわ、馬鹿。ラークとノアの関係だ。あの2人がどっちかでも愛想尽かすわけが無いって言ってるんだ。ランスにノアが落ちる事、愛想尽かしてること、その両方300%無い」
「コラァ! 何が300だ!! アホな数字を出すんじゃない!」
「お前にアホって言われる筋合いも無いわ!」
「「ぐぬぬぬ……」」

 最後には互いににらみ合っている2人。
 その姿を横で見ていたシィルは思わず 悲しそうな表情を崩してしまう。

「本当に、仲良しさんに見えます」
「……まぁ、否定はしないわ。認めたくないって気持ちもどこかにあるけどね?」

 かなみも同感だったようだ。
 ランスの事もユーリの事もを知っているからこそ……そう認めたくないとも思っているのだろう。


 兎にも角にも、4人はノアがいる病室へと向かった。


 ノックをすると、中から「どうぞ」と女性の声が聞こえてくる。それと殆ど同時にランスはずかずかと病室へと入っていった。

「がははは! 君の命の恩人のランス様だ。見舞いに来てやったぞ! 具合は大丈夫か?」
「……どの口が言ってるんだか。助けたのはランスじゃなくて、実質はユーリさんでしょ!!」
「かなみ、抑えて抑えて……病室だぞ? ここ」
「あ……はぃ……」

 傍若無人に話すランスはいつも通りだから 軽く流せば良いだろう。かなみは、まだまだ難しいようで、突っ掛かってしまっていた。……ユーリも、突っ掛かる時はいってしまうから、一概には言えないと思うが。

「あっ……、はい」
「ちょっと、あんた!」

 ノアが軽く会釈をしたその時だ。割って入るように看護婦がノアの前に立った。

「オレ様はあんたでは無い。ランス様だ。……ん? よく見ると君も可愛いではないか、ここの看護婦か?」
「もう、ここは病室なのよ? もっと丁寧な言葉を使ってください。そこの人たちももっと注意して下さい」
「あう……すみません」
「そうだな。無駄だとは思うが一応いっときます」
「なんでランスのせいで……」

 とりあえず、侘びの言葉を入れて、ランスに注意を促す。勿論、不機嫌になってしまっているランスだった。言われた事もそうだし、簡単に頭を下げたシィルに対してもそうだ。

「看護婦さん、良いんです。この人たちは私達の命の恩人ですから。……あそこから 連れ出してくれなかったら、私は兎も角……ラークが」
「……判りました」
「ふふ、オレ様の勝ちのようだな」
「ら、ランス様、そう言う問題じゃないと思うんですが……」

 空気なんか読むわけも無く、言わなくて良い言葉を言ってしまうのはランスだ。看護婦さんは、目をすっと細めるとランスを見定める。

「兎も角、ノアさんをあまり刺激するような事は言わないでくださいね。彼女はまだ安静なんですから」
「ぐふふ、刺激になる事をいわなければいいんだな? それじゃ、心地良い刺激を指で与えるのは構わないと?」
「いい加減にして下さい!」
「安心してくれ、一応監視はしておくよ。怪我人に無茶するようなら止めるから。ただ、言葉だけは我慢してくれると有難い」
「……むぅ、まあ 貴方は信頼できそうですね。そこの人と違って気品もあります」

 刺激的な言葉を言っているのは、どっちなのか?とも思えてしまうようなセリフを言う看護婦だったけれど……、とりあえずは信頼(ランス以外は)してくれたようだ。ノアの前から すっと横に逸れた。

「こら!! 何を失礼な事を言うやつだ! 今からそんな事じゃ嫁の貰い手が無いぞ」
「大きなお世話。結婚するつもりなんて無いから」

 ランスの物言いにも軽く回避する看護婦。
 どうやら、仕事に生きる女と言う事だろう。誇りを持って仕事をしているからこそ、彼女は患者に対して真剣なんだろう。

「ノアさん、お身体の具合はどうですか?」
「ええ、大丈夫です。私はそこまで深手は負ってませんでしたので。皆さん本当にありがとうございます」
「がはは、そうだろ、そうだろ、もっとオレ様に感謝をしろ。命の恩人なんだからな」
「殆どユーリさんだけどね。ランスじゃなく」
「やかましい!」

 ランスは、そう言うと拳骨をしようとするが、かなみは軽く回避をしていた。

「ふふ。ああ、そうだわ。これ、役に立つかどうか判りませんが、リスの洞窟で見つけた鍵です。……もう、私達が使うことも無いと思いますのでお2人に」

 ノアはそう言うと、荷物の中から小さな鍵を取り出した。それはあの洞窟の入口の扉に刻まれていた文字と同じ文字が刻まれた鍵。

「がはは、もらえるものは何でも遠慮なく貰うのがオレの主義だ。いただいておこう」
「あの洞窟の奥に鍵を必要とする扉があるみたいだな……」
「どうもありがとうございます。ノアさん」
「私達が出来なかった分、がんばってローラさんを救出してあげて下さい」

 ノアはそう笑顔で言っていたが……その瞳の奥には悲しみが宿っている事をユーリは見逃さなかった

「……ラークは」
「判ってますよ」

 ユーリが話そうとした時、ノアから話した。

「私達は長くコンビを組んでましたから。……だから、ラークの事は判るんです。それに、私とラークが弱かったから。それなのに無敵のヒーローとみんなに言われて少しいい気になっていたからこうなってしまったの。私は折れてしまったけど、ラークは違う。自分を許せなかったから修行の旅に。きっと……また、戻ってきます。だからユーリさん。彼の事これからも宜しくお願いしますね」

 ノアは、ユーリの手をぎゅっと握ってそう言っていた。
 幸いにもランスは、鍵をシィルに渡している最中だったから、茶々を入れられずに済んだようだ。

「余計なお世話かもしれないですが、あの サテラと言う女には気をつけてくださいね。……初めて冒険で死を感じて、本当の死を感じて……、心を折られてしまったので。決して無敵のヒーローなんかじゃない。ただの臆病者だったと思い知らされたから」
「ノアさん……」

 ノアの目からは一筋の涙が流れ落ちていた。
 恐怖、そして悔しさもきっとあるだろう。ランスですら、今の彼女に掛ける言葉が見つからない様だ。部屋の中を静寂が包み込む。

 だが、その数秒後にユーリは軽く笑い言っていた。

「ノア、忘れたのか?」
「……え?」
「魔獣カースAを一緒に倒した時の事さ」

 ユーリは、あの戦いの時の事を思い出しながら、ノアに話した。大仕事であった事もあり、今でもユーリははっきりと覚えている。

「何人も何人も、数え切れない程の人たちが感謝をしていただろう? ヒーローの条件ってなんだと思う?」
「……それは」
「理不尽に曝された者を救う事、力が及ばず苦しんでいる者達を笑顔にすること、そうだとオレは思っているよ。……そう考えたら、お前達はヒーローさ。あの時苦しめられていた人達の。……間違いない」

 ユーリの言葉を聞いて、ノアの頭の中であの時の記憶が鮮明に浮かび上がった。
 初めこそは誰も信頼してくれなかった。うわべでは言っていたがそれでも、真の意味では信頼をしてくれなかった。

 でも、魔獣を討伐したあの時、笑顔で包まれた。心から感謝をされた。それは一度だけじゃない。何人もの人が自分達に笑顔を見せてくれたんだ。

 笑顔の数だけが……彼と彼女の勲章なのだ。

 それを訊いて ノアは俯き、目を瞑った。そして。

「私は、冒険を止めて田舎へ帰ろうって……思ってました」
「え?……ました?」

 シィルはその言葉を聞いて驚きの表情を見せた。ノアも、もうはっきりと目を開いている。まっすぐで澄んでいる目には、迷いや怯えはまるで無かった。

「……直ぐには無理だと思います。でも、必ず……私も戻ってきます。ラークが頑張ってるんですから。私達は2人でラーク&ノア。……欠けちゃ格好がつかないですよね?」
「がははは、ラークのヤツは要らんが、ノアさんは良いぞ! もっともっと美人になってオレ様に会いに来ると良い」
「ノアさん……」
「頑張ってくださいね。初対面の私ですが、応援をしてます」
「待ってるさ。また、一緒に冒険をしよう。必ずな」

 そう言うと、ユーリは拳を突き出した。
 冒険が始まるたび、終わるたび、にラークと拳を当てている姿はよく見ている。勿論、自分とも。

「はい……。必ず、必ず戻ってきます」

 ノアも拳を作り、ユーリの拳に当てた。 誓いを立てて……。



 そして、その後病室を後にする。

 後にするとき、看護婦に呼び止められた。

「……ありがとうございました」
「ん?」

 ユーリは振り返る。
 礼を言われたようだが、何のことかわからなかったようだ。

「ノアさんは、本当に衰弱をしてました。それは、身体の傷ではありません。心の傷で、です。それをあなた達が癒してくれました。ノアさんは、心を強く持ってくれました。ありがとうございました」
「……礼には及ばない。 彼女達とは付き合いが長いからな。オレにとっては他人じゃない。 仲間だと思っているんだ。……仲間なら 当然だろう?」
「ユーリさん……」

 看護婦は笑顔になっていた。

 男には興味が無いと思っていた彼女。その最大の理由は 男なんて皆野蛮で そして 欲望のままに生きているのだと、決めつけていたからだ。……この病院で 何度も男に襲われた女の子の看病をした事があるからこそ、そう思ってしまっていた。だけど、……もう 認識を改める必要がありそうだ。

「私はレイカです。もし、ユーリさんが怪我したら、私、看病してあげますね?」
「はは……、怪我はしたくないが、頼りにしておくよ。ノアを頼んだ」
「任せて下さい」

 そう言うと、ユーリは離れていった。



 看護婦、改めレイカは その後姿を眺める。
 男の中にはあんな人もいるんだと思っていた。

「……良い人だったな。今までで一番ね。心も身体も強い人なんだ」

 聞く人が聞けば、また頭が痛くなりそうな内容を口吟む。レイカはそう呟くと、再び病室へと戻っていった。ノアの看病をする為に。

「それにしても随分と若い冒険者なんですね。ユーリさんって」
「……え?」

 病室に戻ったとき……歳の話題になる。

 当然といえば当然だろうか?

 ユーリはフードは軽めにしている為、表情は見えるのだから。そのレイカを見たノアは、少し笑いながらユーリの事を説明していた。真の心の強さを持っている人だけど……だけど、一つ誤解を生みやすい人だと言う事を。……驚愕の声が病室内で響き渡ったのも言うまでも無いだろう。

 そして、同日同刻。

「………」

 ユーリの背筋にも悪寒が走ってましたとさ。






~アイスの町・病院前~


「ランス」
「む? なんだ?」
「これからだが、アイテムを買いに行きたいが構わないか?」

 ランスに了承を得る必要があるか?とかなみは思っていたようだ。一応、共に行動をする以上は言った方が良いとユーリは思っている。

「がはは、オレ様の為にアイテムを大量に買っておけ、100個ほどな!」
「んなに、持てるか。兎に角、オレはアイスのアイテム屋へ行ってくる。ランスはどうするんだ?」
「む? オレ様は一度家に戻るぞ! ぐふふ……昨日偶然手に入れたラレラレ石をまだ見ていないのだ!」

 ユーリが囮にと投げたラレラレ石の事だろう。
 こんな時にと呆れるものもあるが、そこはランスだ。変にへそを曲げられるよりは、良い。それにユーリが戻ってきたら渋々と行く事になるだろう。……ランス曰く、抜け駆けを阻止する為に。

「がはは、おいシィル。ラレラレ石を見終わった後一発するぞ! かなみも来い! 3Pだ3P!」
「あ、はい……」
「ぜぇぇったいにイ・ヤ! 私は、武器屋にいきます! まだあの聖剣、聖鎧があるか見てきますっ!!」

 かなみはそう言うと、素早くこの場を後にした。

「ちっ、あのへっぽこめ。あんな馬鹿高い武具が、オレ様以外にそう簡単に売れるわけ無いだろう」
「やれやれ……」

 ランスは、ぷんぷんと怒りながらシィルを連れて戻っていった。


 そして、その数秒後。
 

 ユーリの後ろに気配がする。

「……随分と、アイツから逃げるのが 上手くなったものだな?」
「あっ……はい。でも、アイツの傍にいるのはやっぱり嫌ですし。シィルちゃんにとってもこの方が良いですからね。……リア様には悪いですが」
「まぁ、あの2人はランスにとことん惚れているから仕方ないだろうな。……今回は リアに分が悪い」
「リア様の側近としては、複雑ですが、今はリア様たちを助ける事に集中しますよ」
「ああ。そうだな。それで、一緒に行くか?アイテム屋に」
「はいっ! お供しますよユーリさん」
「……オレに仕えてるみたいに言わなくて良いぞ?」
「あっ……はは。つい言ってしまいました」

 かなみは、苦笑いをして、頭を掻きながらそう言っていた。

 そして、2人でアイテム屋へと向かっていった。





~アイスの町・アイテム屋~


 アイテム屋へと入ると、ハニーの人形で溢れかえっている事に目が付いた。かなみもその光景にはやや驚き気味だった。……初めて店に来た者の反応は大体100%同じ反応なのだ。

「いらっしゃいませー。愛と勇気のアイテム屋です」

 迎えてくれたのは、ハニーの人形を抱かかえた若い青い髪の少女だ。以前までは、老婆が経営していたのだが、歳を理由に引退。そして新しい店になったのがつい最近の事だ。
 ランスが大層喜んでいたのは言うまでも無い。

「あっユーリさんですね。こんにちは」
「ああ、これから冒険なんでな。補充をしにきたんだ」
「歓迎しますよ。宜しくお願いします!」
「……可愛い女の子だ」

 かなみは、やや心配気味に見ているが……、コレくらいで心配してたら、今後が大変だぞ?と同情したくなる。まだまだ、沢山いるのだから。

「あーん……」
「わっ? どうかしましたか?」
「い、いえっ……何でもないです」

 ユーリが、アイテムを選んでいる時だ。かなみが泣きそうにしてたから、コリンが驚いたようだった。

「なら……良かったです」
「ご、ゴメンなさい」
「別に謝らなくても……、あ、そうだ。新しい店なので品揃えも少ないでしょうが、がんばって良いお店にしたいと思ってますので、応援をお願いしますね?」
「あ、私で良ければ。利用をさせてもらいますね」
「ふふ、期待してますよ。私の名前はコリンです」
「私はかなみです」
「よろしくね? かなみさん」
「はい!」


――かなみは、コリンと仲良くなった。


 話を聞いたところによると、彼女は熱心なハニワ教の信徒だとの事。
 全ての悩みからハニワ様が救ってくれると熱弁をしてくれて、幸せだとまで。かなみは信者じゃなく、ハニーも敵としてしか見て無かったから やや引いてしまっていた。
 そして、この店の多くのハニワグッズの意味が判ったようだった。そして、ティティ湖には大神殿があり、その発展に信徒として尽くしているとの事だった。

 熱弁を言っている間に、話は ランスの話に。同じ街であり、アイテム屋の為 何度か会った事はあるのだ。そして、要求するのも 大体同じ。

「ランスさんは 随分と熱心に誘ってきますが、私は、交合の行は 一般の方とは出来ないんですよ」
「こう、……え?」

 かなみは、一体何のことか? と首をかしげる。ランスが迫る事と言えば……ヤらせろ、としか浮かばないのだ。

「男女の夜の営みの事です」
「ふぇっ!? ず、随分とはっきり言いますね……そ、その 営み、なんて……」
「ランスさんには、沢山迫られましたから。ユーリさんはそんな事なくて助かってます。はにわ様の正しき道から、踏み外す事にならないで済みましたので」
「ゆ、ユーリさんがそんな事迫るなんて無いですよっ!」
「ふふ、そうですね」

 かなみを見てコリンは笑っていた。かなみがユーリを想っているのは傍から見れば良く判るからだ。

「随分と仲が良くなったようだな。2人とも」
「ひゃいっ!?!?」
「何をそんなに驚くんだよ……。コリンさん。これを頼むよ」
「はい!」

 ユーリが持ってきた世色癌や元気の薬等の会計計算をするコリン。

「かなみも判っただろう?」
「えっ? な、何がですか??」
「彼女が随分と熱心なハニワ教の信徒だって事。結構面食らってたみたいだからさ? 今度、ティティ湖の大神殿に来てみないか? って誘われなかったか?」
「あ~……はい。それは……」

 かなみは頷いた。
 熱心な信徒だということは、会話の流れから。そしてこの店を見たらよく判るのだから。そして、大神殿に関しても何度か言われた。勿論、今は大切な事をしているから、と断っていたが。

「はーい、ユーリさん。お会計は150GOLDになります~!」
「ん。はい」

 ユーリは、釣り銭なくGOLDを渡した。

「はい、まいどです! 今後ともよろしくお願いしますね? かなみさん。ユーリさん」
「はい」
「また利用させてもらうよ」

 ユーリはそう言うと、店の外へと向かった。かなみも続こうとした時。

「かなみさん。がんばってくださいね? ハニワ様もきっと貴女の味方です」
「あっ……はい。ありがとうございます」

 かなみは笑顔でそう答えていた。
 ハニワが味方なのは……ちょっとどうかと思ったが、コリンに応援された事は嬉しかったようだ。頭を下げると、ユーリに続いていった。

 今度、この町に来た時もきっとここを利用しようと強く思ったかなみだった。




――そして、ユーリは準備を整え ランスもラレラレ石を堪能したようで準備が整った?様だ。


 一行はリスの洞窟へと向かう。
 あの魔人に邪魔をされたから今度こそ依頼人の頼みであるローラを救う為に。

 だが、直ぐに思い知る事になる。魔人がいないければ簡単に終わるだろうとタカを括っていたが……。


 そんな簡単な依頼じゃないと言う事を。


















〜人物紹介〜



□ キース・ゴールド(3)

アイスの町のギルドマスター。今回まさかのラークとノアの件で驚きを隠せずにいる。
ギルド自体の痛手もあるが、今回ほど心底ユーリが所属をしてくれてて良かったと事は無いとの事。
礼として必ずスピーチを……と考えてるとか。


□ ハイニ (3)

よくよく考えたら 紹介をして無かった様な……。
と言う事は置いといて、ランスとユーリが所属しているアイスの町のキースギルドの美人秘書。
どうやったら、キースにこんな美人が来るのか?とランスは常々思っており、金の力だとまで言っている。
ランスが「さん」付けで呼ぶ数少ない女性でもあり、ユーリも信頼している。
ヒトミとは大の仲良しでもあるとか。


□ レイカ・矢幡(ゲスト)


アイスの町の病院の看護婦。
仕事熱心であり、大学出のエリート街道まっしぐら。
美人であり、学園では高嶺の花の存在であった為、言い寄ってくる男はいたが、付き合った経験も無く、付き合いたいとも思わなくなってしまっている為、ランスからノアを守っていた。
ユーリの話を聞き、そして話をした事で認識を改める様になった。

名前はFLATソフト作品「シークレットゲーム」より(本名:矢幡麗香)


□ コリン

アイスの町 アイテム屋を営んでいる少女。
熱心なハニワ教の信徒であり、以前ランスはハニワ教の信徒と偽って、抱かれそうになった事がある。
 その時、ランスは 信徒ではないと看破した。……方法としては、ハニワ教の信徒であり、同じ位階でなければ、と以前から言っていた。ランスはそこをつけこんだのだが、ハニワ信徒である事、ハニワ教の法に定められた順序で行う事、それを違えてしまえば自殺するとまで警告をした所で白状して、頭まで下げた様だ。ランスの毒牙から逃げられた希少とも言える女の子である。

 因みに、普通の人より、胸が大きい事を気にしていると言う一部の女性から見れば贅沢な悩みを持っている。


〜アイテム紹介〜


□ ラレラレ石

映像を記録する事ができる石。
だが、MVRと言う映写機が無ければ再生することは出来ない。主にアダルト関連の商品が目玉になっているとか。






 
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