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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第42話 利用する者とされる者


~リスの洞窟 地下3F~


 一行は、リスの洞窟に潜り そして 以前ラーク達が魔人に襲われていたポイントまで再びたどり着く。この洞窟の怪物の強さ的にはまるで問題なかったが、あの時同様あの魔人がいないとも限らないから、皆は慎重に辺りを警戒しながら先へと進んでいた。

「がはは、次会ったらひんひん言わせてやるからな。いつでも出てこいと言うものだ」

 ……否、少し訂正をしよう。
 慎重に警戒をしつつ、行動をとっているのはランス以外のメンバーだった。

 ランスはいつもどおりに振舞っている。それは、ある意味当然とも言えるだろう。あの魔人サテラと言うものは美少女?なのだから。ランスから見れば 仕方が無いのである。

「やれやれ、警戒していたのが馬鹿らしくなってくるな。こうも堂々と真ん中の道を闊歩されたらな」
「で、でも……また アイツが戻ってきているかもしれませんから。ランスが前にいたら囮になりますし、私たちだけでも、慎重に警戒をするのも良いかと思われます」
「……な、何げにエグい事考えるな? かなみ。まぁ ランスは言っても聞かないし、泳がせておくのは良い手だとは思うが……」

 ユーリはそう言うと、シィルの方を見る。
 シィルは、ランスに付き添って歩いているが、やっぱり前回 魔人と出くわした為、どこか怖がっている様だ。

「私もシィルちゃんは可愛そうだって思いますが……、ランスが連れて行きますので……」
「う~む……、あの2人を引き離すことは、正直無理だし、あまりしたくない。ランスは勿論、シィルちゃんも了承しないだろう。オレ達がしっかりと警戒をしておくか」
「はい。頑張ります!」

 かなみは、ぐっと力を入れた。
 ユーリもそれを見届けると、ランスを追い、更に先へと入っていく。その先では、洞窟には似つかわしくない部屋があった。木作りのテーブルにイス、そして本棚だ。

「ランス様、本棚がありますよ?」
「ふむふむ……ほうほう……」
「何か手がかりが……? ちゃんと探してくれてるんですね」
「ん、あの感じじゃ それを探してる訳じゃなさそうだぞ?」

 ランスがまじまじと、本棚を見ている所を見たかなみは、そう思ったようだが、ユーリは大体把握をしていた。

「シィル、エロ本は無いか?」

 ランスの次のセリフがそれだったから。探している様には見えないのである。
 
「はぁ……なんで、リア様は あんなのに……」
「はは、オレはちゃんと探してるから、安心してくれ」
「あ、いえっ私も探しますよっ!」

 かなみは、ため息を吐いていた所で、ユーリがローラの手がかりや、リスについての事、何か無いかを探し出したため、慌てて後に続いていた。……が、特にコレといった情報を得る事は出来なかった。

「ランス様、無いようですよ」
「ち、くだらん部屋だ。エロ本の1つもないなど、本棚の意味が無いではないか」
「んな、無茶な理屈言ってないでさっさと行くぞ」
「ほほぅ、やはりユーリの奴はホモなのだな。エロ本にも反応しないとはな。確定だ! がはは!」
「……だから、なんでそうなるんだよ。……お?」

 ユーリは、ムカっと来たようで、四っ角を頭に出していたが……、そのすぐ後、何やら思いついたようで、ニヤリと笑っていた。

「ふーん、ま、別にホモって思ってれば良いさ。オレは、さっさとリーザスの問題を片付けるから。ランスは 物色を続けてろ。後はヤっとくから」
「むかぁっ!!」

 ランスは簡単な挑発も乗るという事は確認済みだ。だからこそ、ユーリは ヤの部分を強調気味に言っていたのだから。

「そーだな、リーザス大国だ。沢山の娘達はいるだろう。……そんでもって、あーんな事やこーんな事を……」
「誰が貴様なんかにやるか!!」
「ん? オレの事ホモって思ってるんだろう? なら 安心じゃないか? ほら、お前の言う、男の事かもしれないぞ?」
「1%でも可能性があるのなら、0%になるまで叩き潰すのが、一流なのだ!」
「ま、どうでも良いか、……先に行っていいか?」
「だぁぁ! 貴様はオレ様の後ろについてくればいいのだ!」
「なら、早く行ってくれ。ここにはもう何も無いだろう?」

 言葉巧みにランスを誘導するユーリ……と言うかもうワンパターンだろう。

 そのパターンに延々とはまってしまうのがランスと言う男なのだ。ランスは大股で、どんどんと奥へと進んでいった。

 まさに 計画通り。である。

 策士とも取れるそのユーリの表情 だけどやっぱり お顔がアレだから、様になってない様な気がするが、それは御愛嬌だ。あまり 書きすぎると ユーリが不機嫌になるので、ここで割愛する。

 そして、話は変わるがユーリには、懸念があった。
 それは、前に言ったときよりも今回は狭まっている事だ。

「やれやれ……、やる気を直ぐに出すのは良いんだが、直ぐに忘れる。間隔が狭まってきてないか? このパターン。……そろそろ、学習されそうだな。うーむ、だとしたら次は……」
「っっ!?」

 かなみは、ユーリのその言葉に反応をしてしまった。
 これまでのやり取りは何度か聞いているし、ユーリがランスを上手く乗せるためにと流石のかなみも判っていた。だけど……、ユーリの今の発言だけは、聞き流すことができなかったのだった。

「(だとしたら?? 次?? だとしたら、次って何?? ひょ、ひょっとして……ランスを焚きつける為に、ユーリさん……本当に……???)」

 かなみの頭の中で妄想がどんどん湯水の如く湧いて出てきていた。







~どこかの街~



 そこはヘルマンの兵に占拠されたリーザス領土の街。
 その進撃はリーザスに留まらず周辺の街にも及んでいた。嘗ては平和で賑わっていたその街も今は見る影もなく、男は労働力として、女は慰安婦として扱われてしまっていた。

 その中には若い娘も多く、皆が絶望している。

 そんな中で現れたのは、ひとりの男。
 瞬く間にリーザス城下町を占領しているヘルマンの兵士をなぎ倒し、切り捨て、街の皆を救ったのだ。 

 そして、当然ながら 救ってくれた英雄を囲って 盛大に祝勝パーティが開かれる。その宴の中心人物は、皆を救ってくれた英雄。……即ちユーリだ。 ランスもいるのだが……、何かいつもと違う。2人の様子が。

『ぐぞぉ……オレ様より早いだとぉぉ!?』
『ふふふ、これがレベルの差だよ。ランス君。悔しかったら いつもいつもレベルを下げてないで向上させたまえ、いや、せめてキープくらいはした方が良いな、HAHAHAHA!』

 実に対照的な2人がそこにはいた。

 片方は、大きな口を開けながら吠えている男、まさに 負けわんわんだと言えるだろう。そして、片方は、勝利のビクトリーサインを高々と掲げていた。

 その容姿は確かに幼さが残る青年だけれど、その戦っている姿は凄く格好よく、颯爽と敵を倒していく姿はまるで白馬の王子様っ!

『さて……、もう、傷は大丈夫かな? お嬢さん』
『あっ……ありがとうございますっ! こ、怖かったですぅぅ……』
『ふふ、もう安心してくれて構わないさ。君のその苦しみや恐怖ごと、やさしく抱きしめてあげるよ。安心できるようにね……』
『あっ……』

 どこか、かなみ似?の女性は赤らめるとその男に身体を預けた。

 暖かい鼓動が触覚を通して伝わってくる。温もりが伝わってくる。ヘルマンの連中に何度も何度も抱かれた。確かに《熱》という意味では初めてではないのだけど、それとは質が何段階も違っていた。

 祝いの席だと言うのに、周囲の目も気にせず、抱きしめられ……そして、その唇を……

『ふっ……これで、ランスも もっともっとやる気が出るだろう。オレに取られまいと』
『も、もっとぉ……///』
『ああ、すまなかったな。さぁ 続きだ。乙女の柔肌だ。丁重に扱おう』

 そのまま 続けあっという間に絶頂を迎える少女。シィルも目を丸くさせていた。その絶倫さに……。

『オレ様のハイパー兵器に比べたらまだまだぬるいわ!』
『ひんひん……ランス様、痛いです……』
『激しく動き、相手を痛くするだけなら、まだまだ二流も良い所だな? ランス君?』
『むかぁぁ!! 次こそは絶対に貴様にはやらん!!』
『HAHAHA! 精々頑張りたまえ、ランス君! ……おっと、手をお留守にしていたね。すまない。さぁ 感じてくれ』
『はぁぁん……/// も、もっとぉ……』

 こうして、ランスもやる気を更にだし……、リーザス解放に向けて風向きが以前よりも遥かに良好になっていったのだった。


 ミリをも超える性豪が現れた瞬間でもあったのだった。




~fin~






「………い」

 かなみは、更に更に、どんどん、妄想が膨らんでいってしまっていた。
 もう、周りなど目に入らない。頭の中の妄想に全てを集中させていた。

「(ゆ、ユーリさんが……)」

 ランスが他の娘やシィルとヤっている姿は何度も見てしまっているかなみ。

 とても痛そうで、ランスが自分とするとなったら、絶対に首を横に振るだろう。ただ……シィルが見せるあの喘ぎ声とあの表情を見たら……一概には言えない自分がいる事にも気づくんだ。好きな人と体を重ねているのだから、と言うのもあるだろう。 多幸感を得られるのだろうか。
 ……好きな人を抱きとめ、そして 包んであげる。文字通りそうする事が出来れば、満足してくれれば きっと、幸せなのだろうか。

「かな……? ……だい……か?」

 ただ、絶対にそれは相手によるだろうと、かなみは思っている。

「(だ、だって……初めては、好きな人と……それが絶対に女の子の願いだって思うし…… でも、ユーリさんがランスを焚きつける為にあんな事するなんて……。でも、でもでも、ユーリさんとなら私……、私の初めてを……)」

 もはや、どこからが現実なのか分からなくなってきたのである。先ほどまでのかなみは、何処かの街をイメージしていたのだが、今はどこへ行っている?

 判らなくなりそうな為、強制的にかなみには現実に戻っていただこう。

「おい! 大丈夫か?? どうしたんだ?」

 突如、身体に衝撃が走っていた。どうやら、両肩を強く叩かれ、掴まれたようだった。

「ひゃっ!! ひゃいっ!?!? ど、どうしましたっ!?」

 かなみは甲高い声を上げながら飛び上がってしまった。

 完全に油断をしていたからだ……。
 油断どこか、完全に意識が無かっただろう。立ったまま白昼夢をみていたようなものだろうか。

「それは こっちのセリフだ……、突然 ぼーっとしたかと思ったら声をかけても反応しないんだからな。大丈夫か? かなみ。何かあったのか?」
「あ……ああっ!!」

 かなみは、今まで妄想の世界にいた事を改めて認識した。その瞬間、顔が再び暑くなる。赤くなってしまっているのは間違いないだろう。

「な、何でもありませんよっ!」
「何でもない風に見えないぞ……流石に。大丈夫か? ん……」

 ユーリは右手で自身の額を、左手でかなみの額を触った。

 熱を確認する為の所作だ。この洞窟内は思いのほか、気温が低い。体調を崩したのではないか?と思ったようだ。

「っ~~///」

 かなみは、ぼひゅんっ!と更に熱く赤くさせてしまう結果となってしまっていた。勿論、その体温はユーリの手に伝わる。……かなり、高温だと言う事が判る。

「って、熱があるじゃないか! なんで言わなかったんだ?」
「うひゃいっ!? だ、大丈夫ですぅぅ!! 本当に大丈夫ですっ!! あ、ほらっ! 元気の薬も飲みますので!!」

 かなみは、素早く道具袋から元気の薬を取り出すと、腰に手を当てて、一気に飲み干した。まるで、風呂上りに飲むうし乳のよーに……。

「う~む……、とりあえず、かなみを信じておくが、辛かったら早く言ってくれよ? 出来る限りのことはするつもりだ」
「あ……」

 かなみは、その言葉を聞いて嬉しかった。

 こっちはただ、馬鹿みたいに勝手に変なことを想像して、あまつさえは、ユーリを勝手にその中に出演させて、ただ悶えていただけなのに、それを調子が悪いんじゃないか、と心配されて……。

「その……ありがとうございます。……ユーリさん、ごめんなさい……」
「ん? なんで謝るんだ??」

 ユーリは首をひねっていた。
 かなみは、この時謝りたい気持ちがいっぱいだったんだ。そのおかげか、かなみの熱?はすっかりと冷めて、元通りの彼女に戻っていた。…ユーリは流石に驚きを隠せられないようだが。

 このあと、さっさとランスの後を追うことになった。

 かなみは、両頬を両手でばしんっ!と音が響くくらい叩き、気合を入れ直したのだった。







 そして、更に奥に入った所で、人影が見えだした。

「……誰かいるな?」
「はい。……声色から察するに片方は女性です」

 かなみも、調子を早く戻し、耳を澄ませながらそういう。

「がはは、ローラさんで間違いないだろう! 75点だが、さっさと助けてお持ち帰りだ!」
「あぅ~……」

 ランスの言葉を聞いてシィルは思わず涙を……
 また、別の女の人とランスがシてしまう事を考えてしまったんだろう。いつもどおりだと、諦めてもらうしかないが。

「さっきの妙な看板も気になっていた所だし……、ひょっとしたら 別人かもしれないな」
「あ、確かにその可能性はありますね。……愛の巣、とか セールス、押し売り~とかありましたし」
 
 ユーリは、先ほど見かけた看板を思い出しながら、そう言い かなみも同意していた。かなみが言う様に、奇妙な看板である。ここに駆け落ちをしにきたカップルでもいるのだろうか? 少なからず憧れがあるかなみだったが、今は邪念、シャットアウト。何故ならさっき、色々と妄想を繰り返していたから、ちょっと自重した様だ。



 そして、更に奥へと向かうと 声が鮮明に聞こえてきた。

 ……助けに行けるような雰囲気ではない会話が辺りに響いていた。

「ローラ、君のためなら、僕はどんな事でもするよ」
「うれしい、ウー君が、いつも傍にいてくれたら、私はそれだけでも、満足、だから……」
「ローラ……君はなんて可愛いんだ。いつか、きっと 人とモンスターの仲が認めてもらえる時代がきっとくる。……それまでの辛抱だよ」
「うん。それに、ウー君はとっても素敵だから、皆 皆 直ぐにわかってくれるわ! だって、こんなに、こんなに素敵だもん。私、ウー君の事 愛してる」
「僕もだよ。ローラ……」

 それは、互いの想いを、愛を囁き合っている2人の姿だった。

 確かに形体は人間と異形の者。
 だけど、真剣に愛し合っていると言う事は女性の方の言葉でよくわかると言うものだ。だが、これは想定はまるでしていなかった。

「助けに……行ける空気じゃないな。捕らわれた、攫われたと聞いていたが……。それに さっきの看板は、多分、ローラが建てたんだろうな……。愛の巣~は兎も角、セールス、押し売りとか、リスが判るとは思えない」
「で、でしたね。ユーリさん。……どう見ても愛し合っています。 ……あの2人」
「はい……。(私もランス様にああ言ってもらえればどれだけ……)」
「……ん? あ……(シィルちゃん、自分に置き換えてるみたい。ああ、でもああ言うのってすっごく憧れるかも……愛さえあれば関係ないって)」

 シィルとかなみは、最終的には どこかうっとりとした表情で2人を見ていたが……。

「リスの分際で人間の女と愛し合うなど2億年早いわ! 全ての美女、美少女はオレ様のものだと決まっておるのだ!!」

 ランスはお構いなく、そう叫んでいた。勿論、あの2人にも充分聞こえる声量だ。

「……ん? どうやら、僕達の愛を引き裂こうとする邪魔者が来たみたいだ」
「えっ?」

 ローラも気がついた様で、外の方を向いていた。そこで目にするのは大口開けて哂っているランス。

「がははは! モンスターが、恋だの愛だの、片腹痛いわ! さぁ、ローラ! オレ様と真実の愛を語り合おうではないか、その身体で!」

 ぐっと、ポーズを決めるランス。それを見たローラは……。

「はぁぁぁぁぁ!!?」

 大絶叫。『何言ってんだコイツ?』と『フザけた事抜かすんじゃねぇ!』が混ざった様な感じだった。

「がははは。そんなに怖かったのだな。よしよし、オレ様が慰めてやろう!」

 ランスの耳には、そう聞こえたらしい。……いつも通り ポジティブシンキングだと言う事だ。或いは、脳内変換をしているのかもしれないが。

「あっっっっ―――――っっっっかん、べーーーーッ!!」

 物凄く伸ばしに伸ばした『あっかんべー』だ。あまりに伸ばしているから、本当にそう言っているのか、判らなく成る程の。

「……あっかんべー?」
「みたい、ですね」

 かろうじて聞き取れたユーリとかなみ。ランスは、なぜ言われるのか判らないらしく。割と本気で困惑していた。

「私達は、れっきとした恋人よ!!」
「ローラ。危ないよ。君は家に戻っていて。こいつらは僕がどうにかするから」
「ウー君………大丈夫……?」
「大丈夫だよ。ローラは何も心配しないで」
「う、うん……。怪我、怪我だけはしないでね」
「平気さ。さぁ、早く!」

 ローラは、奥の扉の中へと逃げるように去っていった。
 そして、扉の前にはリスがどっしりと構えている。『彼女を攫うつもりなら自分が許さない』と言わんばかりだ。これじゃ、どっちが悪役なのかわからない。

「ランス様。私達が悪役になってしまいますy“ぽかっ!!”ひんっ!」
「だから、それが片腹痛いと言うのだ! さっさと、経験値にして ローラを連れ帰れば万事解決だ! おい、リス、ウー! 経験値にされたくないのなら、さっさとローラを引き渡せ!」
「断る! 僕たちは、僕たちの愛は、神の祝福を受けたんだ。それで一緒になったのに、それを邪魔するなっ!!」
「……神の祝福?」

 ユーリは、頭を傾げた。

――……モンスターと人間の婚儀をしたとして、神官が結婚宣言なんてするのだろうか? と疑問に思ったのだ。

 ……そもそも、ユーリは長く冒険者をしているが、こんなケースはこれまでに無かったと言っていいだろう。比較的人間に近い女の子モンスターとならまだしも、その逆は本当に希も希だと思える。心情的に。 女の子モンスターは、それなりに人気も高いのだ。……中では 強いモンスターもいるから、妄りに一般人が手を出していい様な相手ではないが。

「ああ、そうだ! 神官様が僕たちの事を祝福してくれたんだ! そんな僕たちの仲を引き裂こうとするなんて、悪魔がする事だっ!!」
「がーっはっはっは! モンスターが何を言うかと思えば、それは面白いジョークだな? そのジョークに免じて、即刻経験値にするのは止めてやろう。笑わさせてくれた礼だ! さぁ、とっととローラを渡せ!」

 ランスは、そう言うが決して頷くことは無く、どっしりと構えているリス。

「まぁ、悪魔は魂を持っていこうとするからな……リスにとっての魂と言うか、大切な人を捕ろうとしてるのはオレ達か。……だがまぁ、依頼は依頼だ」
「そうですよ。ユーリさん。……でも、モンスターとの結婚式をしてくれる神官がいるなんて思ってもいませんでした」
「……ん、ひとり浮かんだが、てきとーに、『面白そうだからやろう!』 って勢いで。だけど、その為に、ここに来るような面倒くさい事は、しないと思うけど」

 ユーリが浮かんだのま勿論ロゼだ。

 AL 教きっての不良であり、淫乱であり、信仰心とはかけ離れたある意味規格外シスターだ。……大体破門にならないのが 不思議。周りからは、破戒僧とも呼ばれる事もあった様な無かった様な。……もう、大体の人達が、ロゼと言う人物を認識をしているから、もうそれが当たり前になってしまったのかもしれない。……迷惑な気がするが。

「……まぁ、ロゼも頼りになる所はなるし……、色んな意味で複雑だとも言えるけど」

 以前のラギシス戦。

 この世界でも、希少価値のあるアイテムを持っていた事もそうだ。使いこなす事も凄いが、持っていたことはその数倍は凄い。……貰ってきたと言っていたが疑わしいものだけど。

「がははは、モンスターの分際で人間様に恋をするなどバカモノだ。渡さんというのなら、もう経験値だ! リス、ウーを退治してやろう!」
「……ローラは、渡さない。僕には神官様がついてくれているんだ。彼女は、僕たちの護衛もしてくれて、凄く強い上に、神魔法のエキスパート。僕たちには勝てないぞ! たとえ僕が死んだって治してくれるんだ!」
「がはは、ゾンビにでもなると言うのか? なら 望み通りにしてやろう!」

 ユーリが色々と考えていたときに、さっさと戦闘体勢に入ってしまったようだ。

「……はぁ、また勝手に先に進めて。……だが、あの口ぶりだと信頼できる自身で戦う事も出来る治癒術士(ヒーラー)がいるようだな」

 ユーリはそう言うと警戒を強めた。
 戦いも出来て回復役にも回れる戦闘員は厄介だということをよく分かっているからだ。それは、シィルを見ても判るというものだ。モンスターの護衛をもする以上は相応の腕の持ち主だと言う事だろう。

「かなみ。油断をするな……? 奥から誰かが来るぞ」
「……はい」

 かなみもくないを構えて姿勢を低くした。その気配はかなみも感じていたからだ。おそらくは、ローラが呼んだのだろうと思える。

 そして、奥から人影が出てきた。数は1つ。だが ユーリは 気配は2つ感じる。

「なんでこんな事になったんだ? クルックー!」
「はい。迷える人々を救う為にですね」
「人って、片方はモンスターだぞ!?」
「ですが、信じ合っていると思えました。同意もありますし。婚儀となれば、見習いとは言え司教ですので、私にも出来ますから。もう 婚姻の儀も簡易的ではありますが 済ませましたし」

 ……どこかで聞いたことのある声が奥から聞こえてきた。
 その影の1つが、奥から完全に現れた。 帽子をかぶっており、顔の半分は前髪で隠している小柄な少女だった。そして、その傍らにはあの白い何かがいる。

「おや?」
「んん……? クルックー、か?」

 出てきたところで、ユーリとクルックーは殆ど同時に気がついていた。

 2人の目があったようだ。

「きゅっ!! きゅーきゅー! ぷーぴー!」

 トローチ先生は、相変わらずであり、クルックーと2人の時は饒舌で毒舌なのに、誰かとあえばあっという間に、変な生物だと印象させようと何も話さなくなる。

「ユーリ。どうも、奇遇ですね」
「そうだな。マルグリッドであった以来か。なんでまたこんな所に?」
「いえ、カイズの街に帰る最中の時に、彼らと出会いまして。色々と相談を受けました」
「なるほど……、それが、AL教の神官の正しい姿なのかもしれないな……」

 ユーリは、ロゼの事が最初に頭に浮かび……神官がそんな事、する訳無いとか、勝手に決めつけていたが、例外中に例外だけを頭に浮かべて決め付けるのは愚の骨頂であろうと改めていた。クルックーに関しては、色々と欠如しているような感じ(迷宮で襲われていた、危険だったのにも関わらずに平常心だったり)がしていたが、それを省けば真面目な性格だとも思えていたのだ。

「(……クルックーがたった一回会っただけの男を覚えているのは珍しいな……、)」

 トローチは、ユーリとクルックーの2人を交互に見てそう感じていた。クルックーは、割とどうでもいい相手は、直ぐに記憶を消去する傾向にあるのだから。

「あの……知り合いですか?」

 かなみは、くないをまだ構えたままユーリにそう聞いていた。
 警戒は一応していたのだが、ユーリが警戒を解いているのを確認すると、僅かだが緩めたのだ。…武器だけはまだ収めていないが。

「ああ、すまない、混乱をさせてしまったな。彼女は《クルックー》。以前マルグリッド迷宮で一緒に戦った事があるAL教の神官だ。武器を下ろしても大丈夫だ」
「はい。クルックー・モフスといいます」

 ユーリの説明で頭を下げたクルックー。かなみは、訝しんでいたが、とりあえずくないを仕舞うと、ユーリを見る。

「(また……女の子だ………)」

 ユーリを見たのは一瞬。

 直ぐに顔を反らせた。ヒトミちゃんが言ってたことは確かに間違いなさそうだと改めてかなみは思っていた。

「それで? あのリス。ウー? だったか。それと彼女の件だけど」
「はい。見習いですが、私も出来ますので司祭として挙式を行いましたが」
「親御さんが、攫われたから助け出して欲しいと言う依頼でここに来たんだが、それは知ってたのか?」
「? いいえ。本人達から聞いていたモノとは違いますね、死に別れたと聞いていましたが」

 ……親をも死んだ事にするのかと、この時皆が思ってしまったのは言うまでもないだろう。裏を返せばそれだけ真剣なのだという事。それに、正直に言ったら 拒否されるだろうけど。

「まぁ……、彼女達の気持ちは解る。だが、通すべき筋を通してないからな」
「ですね……、私としても申し訳ないですが、リーザスの為なので」

 かなみ自身も憧れると思う程の種を超えた純愛だ。
 成就させてあげたいとも思えるが、自分には成さなければならない使命もあるんだ。


 そして、そうしている間に。


「がははは! モンスター如きがオレ様に勝てるわけがないだろう! 頼みの相棒もま~~ったくお前に興味がなかったみたいだしな!」
「ランス様、大丈夫ですか? いたいのいたいのとんでけー!」
「うぅ……、な、なんで……神官様……」

 戦闘には加わらず、ユーリ達と話をするクルックー。寧ろ、戦闘には目も呉れずに、ユーリの方へと素通りしていたのだ。その間にランスがあっという間に終わらせてしまったようだ。

「あらら、まぁ 純粋な神官様を騙した罰が当たったと思え」
「はい。そうですね」

 クルックーも頷いた。騙されていたと判ったようだ。ユーリの言う事だから、とクルックーは直ぐに信じたのだ。……信頼している、と言う事がよく判る。 
 勿論クルックーは、表情には非常に出にくい。出たとしても、少し見たくらいでは判らない。彼女と長く付き合ってきた者しか判らないのだ。

「(………やっぱ、クルックーの奴。でも そこまで あからさまじゃないし……、まだ、わからん)」

 トローチも、クルックーの表情から察した様だ。が、付き合いの長いこの白いのでも、判らない事がある為、相当なのである。


「……ぅぅ、ちくしょう。なんでなんだ。僕たちが一体何をしたと言うんだ」
「ランス様……」
「ふん。命だけは助けてやろう。これに懲りて人を愛することは止める事だな。怪物は怪物らしく、怪物と恋をしろ」

 シィル自身もかなみと同じで憧れを持っていたからだろう。仕事で、リーザスの為とは言え複雑だったようだ。

「何をしたか? と言えば、騙された方に全く非が無いわけではないが、クルックーを騙して強引に式を挙げたこともそうだ、それに ローラの親御さんに大変心配をかけている事もそうだろ?」
「うう……、で、でも、ぼ、僕は所詮はモンスターなのに……ならどうしたら良いんだよっ」
「誠心誠意、自分の心を伝える事だ。お前たちの実力行使は必ず不幸を呼ぶ。君とローラは幸せかもしれないが、彼女をここまで育ててきた両親の身にもなってみろよ」
「………うぅ」

 ウーは、がっくりと項垂れてしまった。
 
 このリス、ウーは 純粋な心を持っていると、ユーリは思ってしまっていた。
 少なくとも、下衆の様な人間は山ほど見てきたことがあるから、彼らに比べたら、いや、比べる事すら烏滸がましい。だけど、こればかりは最善の解決策が見当たらないのも事実なのだ。

「ふん、うじうじと情けない奴だな。そんなにローラってコと一緒になりたかったら人間になって来い」
「え……?」
「んな、無茶を言うなよランス」
「いえ、不可能ではないですよ」
「へ?」

 いつもどおりの根拠のないランスの言葉に反応するリスと、突っ込むユーリ。そして、何よりクルックーの言葉に皆が一同に注目した。

「ええ、確か何処だったでしょうか……、いえ、正確な位置は分かっていませんが、《転生の壺》の中にある水に自身の血を混ぜ 転生するモノ。即ちリスさんなら人間ですね。人間を思い浮かべながら飲めば 人間に転生出来ます。ただ、バランスブレイカーなので、回収対象に入ってますから、私が先に見つけたらAL教で回収させていただきますが」
「……そんなアイテムがあったのか。結構長く冒険者をしているが、それは初耳だな。性転換の神殿がJAPANのどこかにあるとは聞いた事があるが……、種族までは知らなかった」

 ユーリが目を丸めていたその時。

「がーーっはっはっは! そんな事も知らなかったのか? ユーリ。これだからガキは無知で困る。きょうびスライムですら人間になれる時代なんだぞ? 愛と根性があれば、問題ないのだ。そもそも、本気で愛していると言うのならそれくらいの事はしろ」
「誰がガキだ! お前はてきとーに言っただけだろ!?」
「……わかった」
「って、貴方、あれだけの情報で本気で探すつもりなの??」

 かなみは、ウーの即決を聞いて思わず声を上げた。だが、ウーの決意は固いようだ。

「僕だって男だ。愛したローラのためだったらそれくらい、なんでもないさ! 絶対に見つけてみせる!」
「……素敵です。ウーさん。頑張ってくださいね」
「ありがとう。人間は嫌な奴が多いって思ってた。ローラに出会ってもやっぱりどこかでそう強く思ってた。でも、それは間違いだったんだ。皆さんのおかげで、何が正しいのか、そして、どうすれば良いのかがよくわかりました」
「がははは。感謝されてもこれっぽっちも嬉しくないが、オレ様は超英雄だからな! 人間だろうが怪物だろうが、救ってしまうのだ。こればかりは仕様がない事だ」

 ランスは相変わらずの態度だが、リスの目はランスを尊敬すらしている目になっている。あの一言で、見る目が変わったらしい。

「きっと、人間になって戻ってくる!」

 そう言うと、リスはあっという間にこの場からいなくなってしまった。

「……これで、良かった、のか?」
「とりあえずは、良かったんじゃないでしょうか? このままだと、愛が成就されるのはやはり難しいですし」
「それもそうだな。ローラも彼のことを信じていつまでも待つ。うん。互いに愛しているのが嘘偽りが無ければ、乗り越えられるだろ」
「はい……そうです、ね」
「そうです……ね」

 この人とそんな関係になればどんなに良い事だろうか……、かなみはユーリを、そしてシィルはランスを見て頬を赤く染めていた。

 そしてその後、かなみは、ランスの方を向いた。

「でも驚いたわ。ランスにも優しいところがあったのね?」

 そう言っていた。だが、ランスはいやらしい顔を崩さない。

「ふふ、当然だ……。ぐふふ……」
「あ……」
「ランス様ぁ……」

 この先の展開が大体判ってきたようだった。ランスは、シィルを入口で待たせ、颯爽と中へと入っていった。

「さて……」
「ちょっとまった」

 クルックーが、ここから 出ていこうとした時、ユーリは呼び止めた。

「何でしょう?」
「……さっき言っていたアイテムが見つかれば回収すると言っていたよな?」
「はい、勿論です。あのアイテムは バランスブレイカーとして、AL教で登録されてますので」

 クルックーは淀み無くそう答えた。少し抜けている所があるものの、基本的に真面目な彼女だ。規則を捻じ曲げたりはしないだろう事はユーリにも判った。だから、ダメ元ではあるが、頼んでみる事にした。

「……無理を承知で頼みたい。もし アイツより先に、そのアイテムを見つけたら、1回だけ使用を許可して上げてくれないか? あのリスが、ウーが世界のバランスを崩すような真似はしないし、できないとも思える」
「……」

 クルックーは考える仕草(多分)をした。
 即効で返事をすると思っていたユーリだが、少し意外だったようだ。

「……そうですね。ユーリには、恩がありますし。 良いですよ。ただし」
「ああ、勿論その後は回収してくれて構わない。と言うか、バランスブレイカーになってるのに、するなと言うつもりは毛頭ないしな。それに、アイツがそのアイテムで妙な事をしようとするのなら、しようと考えていると判断したら、同上だ。全部クルックーの判断に任せるよ」
「はい、わかりました」

 クルックーは、そう言うとユーリに向かって一礼をする。

 ユーリはそれを手を振って答えていた。

「やっぱり優しいですね? ユーリさんは」
「あれだけ、純粋に想ってる姿を見てしまったからな。一応応援はしているつもりだ」

 ユーリは、出て行った2人の方を見てそう言っていた。

 かなみは、そんな彼を見て想う。

『……ここにも純粋に貴方を想ってる人がいます』と。

 勿論、口に出して言える訳はないが、つまりはあれだ。他人の事は判っても自分のことは判らないと言う事。……どういう訳か、ユーリの場合はよりいっそう鈍い。自分に対する好意は、右から左へ。だ。

「あ、そう言えば……」
「ん?」
「なんでランスは、あの娘に何も興味を示さなかったんだろう……って思いまして」
「ああ……ん?? そう言えばそうだな。アイツにしては珍しいことも……「ばかぁぁぁ!!! こ、こぉぉぉ!! 出しなさいよぉぉぉ!! この馬鹿! へんたい! スケベ!! グリーンゴブリン!! 口でかミドリムシーーーーっっっ!!」うおっ!??」

 突然だ。
 ランスがクルックーに興味を示さなかった事に疑問を感じた2人だったが、考察し合う間もなく、疾風の如き速度で涙を流しながら走ってきた女の子がいた。……先ほど、リスが奥へ行くように指示したローラの声だった。が、彼女の姿は見えない

「……あの馬鹿」
「むぐーーーっ!! だせーーーっ!! よ、よくもウー君を!!! リス殺しーーーっっ!!」「え?」

 かなみは、ローラのその言葉を聞いて疑問をあげる。彼は、今し方人間になる為に 外へと走っていったばかりなのだ。死んでいる筈がないが。

「おいおい。誤解するなアイツは生きt「うわぁぁぁん! 出せーー!!! ス殺しぃぃぃ!!! アンタ達もぜったい許さないんだからぁぁぁ!!」ぐっ……!」

 強烈な絶叫は、ユーリの耳にも かなみの耳にもシィルの耳にも多大なるダメージを与えた。ローラは、大きな袋の中に詰め込まれている。その中にいるであろうローラに何度、弁解をしてもまるで訊かない。何もしてないのに、恨まれるこのパターンは、ランスといれば続くのだろうか、とため息を吐いてしまっていた。

「前にもこんなんあったな……。」
「うぅぅ……、私たち、何もして無いのに……」
「ご、ごめんなさい、お二人共……」

 出てきたシィルがランスの代わりに頭を下げていた。彼女は一切何もしてないのだが、これも恒例になりつつあるのであった。
そんな時、ランスはというと……。

「がははは、良い事した後は気持ちがいいぜ! すっきりした気分だ。が、コイツの口の悪さだけは治らんな。せっかく助け出してやったと言うのに」

 そう言いながら、乱暴に袋を担ぐ。その中では、まだまだローラは暴れているらしく、暴言も飛んでいる。口の悪さでは ランスを御するかもしれない。

「……確かにすっきりするだろうよ! 出すもんだしたんだからな! もうちょっと考えて行動しろ馬鹿」
「がはは、考えたさ、人間の愛をしっかりと教えてやったのだ! 怪物を愛するより、超格好いいオレ様とメイクラブをした方が何億倍も良いとな、がはは!」
「誰がよ!! このロリコン!! 誘拐犯!! 変態魔ーーーっっ!!」

 ローラが殆ど反論をしてくれているが、ユーリもため息をつかずにはいられない。

「それを何も考えてないって言うんだよ……、なんか懐かしく感じたわ! この流れっ!」
「はぁ……、このばか……」

 大声で笑うランスと呆れるかなみとユーリだった。
 シィルは、ただただ2人に頭を下げているのだった。









~リーザス城・ヘルマン軍司令部~




 そこはリーザス城内。
 今でこそ、ヘルマン軍事司令部と銘打っているが、元はリーザス城の謁見の間であり、その鮮やかな装飾を施された玉座に座しているのはリーザスの女王であるリアではなく、青い髪の巨躯の男。

 《パットン・ヘルマン》である。

「ふふふ……リーザス全土はもうほぼ我が第3軍が制圧に成功した。これもお前たち魔人の協力があったからこそだ。なぁ、ノスよ」
「……はっ」

 ヘルマン人と言うのは、体格に恵まれており 特に男性は死ぬまで骨格から成長を続ける。
 故に、パットン自身も巨躯だ。だが、それをも遥かに上回る巨大な姿をした男がひとり、パットンの背後に直立不動で立っている。

 それこそが、ヘルマンに手を貸している魔人のうちの一角、《魔人ノス》である。

「お前たちの希望は、リア女王だけでいいのか? 褒美が欲しければ言うがいい。いくらでも出してやろう。ほれ、こいつもリーザス貴族の娘だが、なかなか悪くない」

 無造作にその頭をつかみあげるパットン。少女は、ただただ苦痛に顔を歪める事しか出来なかった。

「それともこっちがいいか? 親を助命して欲しいらしくてな。足の指だろうと、尻の穴だろうと、どこでも舐めるぞ」

 次に掴み上げられたのは、玉座の直ぐ隣に、裸で座して待っている少女。まだ、自分の順番じゃないから、と言う理由だけであり、運命は同じなのだ。……パットンが言う様に、親を救う為なのだから。
 だが、ノスは表情を一切変えず、ただ一言だけ言う。

「いえ、せっかくですが……」
「ふ、欲のない奴だ。だがこれで私を馬鹿にした奴らを見返すことが出来るわ。これからは、このパットン様の時代よ」

 高らかにそう宣言をするパットン。

 元々は、子を為さぬまま正妃を失くしてしまったヘルマン王。妾との間に生まれたのがパットンだった。だが、彼の母はパットン生誕からわずか数ヶ月後に妾の地位のまま宮中の陰謀に葬られてしまったのだ。

 それでも、彼の周りには心強い者たちに、……信頼できる者たちに囲まれていた。
 皇子らしくはないが、人々に好かれる若者に成長をしていたパットンなのだが……、今は見る影もない。

 彼を取り巻く環境が激変し……そして今に至っているのだ。

「ノス、お前たちもこのオレに尽くすがいい。ヘルマンとリーザス、自由都市まで、併合すれば、後はゼスとJAPANをたたきつぶして終わりだ。私が天下を取った折には、番裏の砦を少し下げて、魔人領を広げてやっても構わんのだぞ?」
「…………」
「どうしたというのだ? ノス。お前も楽しめ。これは勝者の当然の権利だ。わははは、中々上手いではないか、赤毛の女」

 そのパットンの眼下には、パットンに跪き、奉仕をさせられているリーザスの侍女達が3名いた。ノスと話をしている最中にも、口で、手で、あるいは乳房で奉仕をさせており、上機嫌に笑っていた。それは、敗者を労わる心など微塵もない。
 リーザスに忠を尽くしてきた彼女達にとって、これ以上ない屈辱的な扱いだった。

 だが、それでもどうする事もできない。ここ、リーザスは陥落したのだから……。

「魅力的な申し出ですが、所用がございますので、これにて」

 ノスは、一方的にそう言うと、音もなくこの謁見の間を辞した。

「……ふ、愛想のない奴だ。まぁ、いい。……む?」

 パットンの目に止まるのは、まだまだ幼さが残る少女。歳は……10代の後半だろうか。

「ふふふ、まだ男を知らぬ身体と見えるな? よし、お前来るんだ」
「パットン様……、まだまだ私がここにいるのにあんまりではありませんか……? 私はこんなに貴方のを欲しているというのに……」

 呼ぼうとしたその時だった。
 金髪の侍女が、緩急を付け、パットンの一物をしごいた。唾液を滴らせ、滑りを良くし、更に強弱をつけていく。

「うっ……、なかなかに上手いな。今日1番ではないか」
「うふ……恐れ入ります」
「わははは、褒美に1000GOLDつかわそう」
「有難うございます。……処女など相手にするのは面白みに欠けるでしょう? 皇帝になられる御方にとっては」

 色っぽく笑みを浮かべながらそういう。

 これは、あの少女を守るための所作である。
 彼女は、まだこのリーザス城に勤めだしてまだ日も浅く……自身を目標だと慕ってくれていた。だから、守りたかったと言う想いが強いのだ。

「ふふふ、今日は気分が良い。献身的なお前に免じてやろう」
「……有難うございます」

 だが、それは所詮一時的な回避に過ぎない。どの道、リーザスが落とされた以上は 同じ運命なのだ。
この地獄から解放されない限り……。

「(ふふ、もう直ぐだ。もう直ぐリーザスだけでなく、全てがオレのモノになる。これで次の皇帝はこのオレだ)」

 パットンは強く手を握り締めた。

「私に誰も逆らえなくなるのだ! パメラの奴やステッセルの青二才にもな!!」
「っ……い、痛っ……」

 パットンが強く握り締めているのは、女の乳房。
 その強い握力で握りつぶさんが如き力で揉んでいたのだ。

「ふん。おい、貴様、手が止まっているぞ?」
「は、はい……」

 狂乱の宴はまだ続くのだった。





~リーザス城・地下への通路~




「ふん……、俗物が」
 
 重量感のあるあゆみが、最上質のカーペットを踏みしめる。王の間を辞し、地下へと続く通路を歩きながら、ノスは嘲りの形に唇を歪めた。

「む……。アイゼルか?」

 地下深くへと続く通路にいたのは2人。
 先ほどパットンの後ろで控えていたノス、そしてもう1人は長身の金髪の美男子。

「はい。……ノス。戻りましたよ」
「首尾は」
「リーザス軍の中核はおよそ掌握しました。赤、そして黒でしたか。北部も、使徒達に扇動させています。同胞同士で潰しあっていただきましょう。」
「ふむ」

 リーザス進行にわたり、ヘルマンに手を貸しているのは3人の魔人であり、この男こそ、サテラ、ノスに続く三人目の魔人アイゼルだ。

「ヘルマンと申す者どもは、そのまま南へ。自由都市やら言う国外へと進んでいるようですね」
「確かに、そんな事を言っていたな。リーザスには、まだちらちらと残党がいたのではなかったか?」
「主要都市は落とした、とのことで、そちらは抑えの軍に対処させるだとか」
「ふ……」

 最後には、呆れたような嘲弄する響きが場を支配した。リーザス陥落は完全な奇襲。それも、ヘルマンの力等ではなく、その殆どが魔人の力によってだ。言ってみれば王都を騙し取ったに過ぎない。
 国王夫妻は所在不明。
 リーザスの将兵を壊滅させた訳でもない。なのに、更に進行すると、あの皇帝(・・)は言っているのだ。

「欲望と、戦の狂熱、か……我らの目的を覆い隠すには 都合がいい」
「醜い事ですが……、事を成しやすいのは認めざるを得ませんね」

 呆れた表情を浮かべるのは、アイゼルも同じだった。彼は醜いものを何よりも嫌うからだ。それは、姿形ではなく、その有り方。姿勢、心。全てにおいてである。

「そろそろ動くか。我らが動き、努々気取られるな。仇敵ケイブリスめにも、主、ホーネット様にもだ」
「判ってますよ。人間を使っての諜り事。……本来ならば、ホーネット様はお許しにならないでしょう」

 ここにいない主に、心ならずも不義理を働く事、それが少なからず、愁眉を寄せる。

「……無論だ。だが、あれさえ我が手中に入れば、ケイブリス派など問題にならぬ。……我らの天下だ。……アイゼル、お前は引き続きサテラと共に情報を集めろ。……鍵の在処をな」
「お任せを……。ただ、一つだけ懸念があります」
「なんだ?」

 ノスは歩みを止める事無くアイゼルの言葉に耳を傾けた。

「……サテラの様子です。アイツには、鍵を探すようにいい、リア女王から断片的に取り出す事が出来た情報の元、捜索をさせていたのですが」
「……どうしたと言うのだ?」
「様子がおかしい、としか言えません。何処か上の空と言いますか」
「……アイツは表情に出易いからな。ふふ、想定外のイレギュラーも混ざっているのかもしれんな」

 ノスは、何故だか笑みを浮かべていた。

「さて……あやつはそこまで考えておらんだろう。そうあっさりと手中入れられると思っているのか?」

 ノスが思い浮かべるのはある男の姿……。そして、まるで嘲笑うかのように笑みも浮かべていた。

「我らはカオスさえ手中に入れば良い。が、サテラの事は私も気にしておこう。そして、サテラにはくれぐれも早まった真似はさせるな」
「はい……」

 アイゼルは一礼をするとこの場から消え去った。
残っているのはノスのみ。


「カオス……」

 ノスは、再び歩き始める。足音が、静かに、だが 重く響き渡る。
 そして、その手が、廊下の華奢な柱にかかった。


「その、力……………!!」

 ぐしゃりと、異音がして、削り取られた柱の破片が、石畳に舞い散っていた。

 そして、邪悪な笑みとともに……地下深くへと消え去っていったのだった。







~リーザス城・地下牢~


 牢獄。
 本来はリーザスに仇なす者が入れられる筈の薄暗い牢獄である。……が、今は違っていた。響き渡るのは、何かが破裂したかのような激しい音。それは、一度ではなく、幾度となく、ビシィッ、バシィッ、と響き渡っていた。そして、その音が鳴るたびに……女のモノと思える悲鳴も絶え間なく聞こえてくる。

「うふふ……女王様? そろそろ話してくれてもいいんじゃないの?」

 女王様と呼ぶが、決して敬っている訳ではない。彼女はただ、その美しい柔肌に鞭を打ち付け、数多くの痣を作り、拷問を楽しんでいるのだ。その場で鞭打ちの拷問を受けているのは、リーザス女王のリアと筆頭侍女のマリス。拷問をしているのはその係であるサヤと言う女だ。

「さぁ、聖剣と聖鎧を渡した人物の名前を答えなさい」
「ふふ……何度聞いても無駄よ」
「くすくす……それじゃあこれでも言いたくないのかしら?」

 サヤはそう言うと、再び激しく鞭を打ち、そしてその音が鳴るたびにリアの白い身体が悲鳴を上げる。だが、決して心を折る事は無かった。

「ちっ……生意気にも知識のガードの魔法なんかかけて、《ラ》 何さんなのかしら? 貴女が頑なに黙ってるその男の名前は」

 そう、知識のガードを施しているマリスとリアだったが、その魔法の綻びから、名前の一字だけは、読み取る事が出来たのだ。……が、それ以上は魔人の力をもってしても読み取る事は出来なかった。

 当然だろう。魔人は圧倒的に人間よりも強いが、事技能に置いては、人間のほうが勝る事もある。マリスがかけた魔法を上回る解読の魔法を使える者がいないのだから。

「ふふふ……流石は一国の王女と言った所でしょうか。なかなかに美しき折れぬ心。どこかの、醜い男に見せてやりたいモノですね。……まぁ無意味だと思われますが」

 アイゼルは、身体に無数の傷を付け、苦痛も何度も味わっているハズなのに、心を折ることが叶わぬと見て、認識を改めていたのだ。この2人の女の覚悟の強さに尊敬の念すら覚える。遥かに自分たちよりも脆弱な生き物のハズなのだが。

「ですが、どこまで持つのか……。私も少し気になりましたよ……サヤ」
「はっ!」

 サヤは言われるまでもなく、鞭の両端をピンと張りながら答える。

「殺さぬ程度に。人間の尊厳を全て奪っても、それだけはダメですよ?」
「お任せ下さい、アイゼル様。……ふふふ、ここからが本番よ? 女王様、それに貴女も」

 リアよりも先に鞭打ちの責めを受けていたマリスは痛みのあまり気を失っていたのだが、サヤは無理やりに意識を覚醒させる。まだまだ、序の口と言わんばかりに。

 ……が、これが不可侵を貫いているホーネット派の魔人とは思えない。

 主君の意志を違えてでも、アイゼルが、そして ノスも 見据えるのはただ一点。



 ケイブリス派の打倒。そして……魔人界の統一の為に。


















〜人物紹介〜


□ クルックー・モフス(3)

Lv21/50
技能 神魔法Lv2

世界各地で悪霊退治やバランスブレイカーの収集をしているAL教徒の1人。
今回もバランスブレイカーを探して、リス達と出会い 挙式を挙げて欲しいと言われて実行した。

常に直ぐに答えを出す彼女だが、ユーリにリスの件を頼まれた時、普段の数倍も考え、答えを出した為 自分でも戸惑ったりもしている。


□ トローチ先生(3)

クルックーの世話役であり、古い付き合いであり、今回もちゃっかりと付いてきている。
2人の時は饒舌だが、やはり 第三者がいればあっという間に、ただの白いヤツ?から、白い動物??となってしまった。
ちなみに、ユーリの頼みに悩んだクルックーを見て驚いた1人でもある。


□ ローラ・インダス

 
 モンスターであるリスと恋に落ちた少女。最愛の彼が殺されたと勘違いした上、犯されてしまった為(描写はないけどw)ランスに復讐を誓うのだが、掴まれて袋積めにされてしまう。丁度運悪く、ユーリとかなみにもいた為、半ば腹いせに、2人の事も恨みを持った。
 後はキースギルドに届けるだけなのだが、前途多難である。
 




〜モンスター紹介〜



□ リス

 ウーと言う名を持つ男の子モンスター。
 それは、丸い者の最終進化形態の一つ。白い毛に青い瞳が特徴であり、明らかにイエ○ィがモデルになってるような姿。人間同様に知性も持っており、基本的には力は弱いのだが、リスの洞窟にいた個体は種族の中でも遥かに強い。
 ……愛の力だろうか……、とも思えるが、ユーリ達が会話をしている間にさっくりと負けてしまった。

今は、バランスブレーカーを捜索中である。



〜アイテム紹介〜


□ 転生の壺(オリジナル)

中に入ってる水に血を混ぜて飲むことで、イメージ先の存在へと転生する事ができるこの世界のバランスブレーカー。
当然想像力が豊かでないと、ランダム転生になったりする可能性もしばしば。
使用するなら、目を閉じて1秒後でも瞼の裏に絵を貼り付ける事ができるくらい、イメージトレーニングをする事がオススメである。










  
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