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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第2章 反逆の少女たち
  第30話 カスタムは平和なり


 無事、ラギシスも倒し一行はカスタムの町へと戻って来た。

 町の入口で待っていたのは、住民の殆どだった。誰も町から逃げ出すものはおらず、皆、帰りを信じて待ってくれていたのだ。歓声を上げる者、一体どこから持ってきたのかわからない旗を振る者、シャンパンを思いっきり吹きかける者、と様々な反応を見せていた。

「ほんとうに……ほんとうにありがとうございます!」

 皆の先頭で頭を下げるのは町長の娘のチサ。
 ラギシスにのっとられて、暫く意識が無かったのだが、目を覚まし事の顛末を聞いた。元凶はラギシスとは言え、彼女もランと同じように心を痛めていたんだ。

「いや、良いさ。町の皆が無事で良かったよ」

 丁度一向の一番前にいたユーリはニコリと笑ってそう応えた。そんなユーリを見たランスは、すぐさま乱暴に割り込んできて。

「おいコラ馬鹿者! 超英雄のオレ様より前に出るとは何事だ!」
「……さっきまで、マリア達に悪戯してたからだろうが。それで先頭がオレ達になったんだよ。もう忘れたのか?」

 ユーリはため息を吐きながらそう言っていた。
 そう、道中にランスは 40人とのプレイ? をしたと言うのに、底無しの性欲の持ち主故か、マリアやラン達に悪戯と称して、胸や尻を触っていたのだ。抵抗を軽くしていたが、正直くたくただったから、そこまで出来るものじゃない。

「もうっ……!!」
「ぁぅ……」

 マリアは怒って頬を膨らませ、ランは顔を赤く染め上げていた。

「がははは! 良い感触だったぞ!」

 勿論、怒った所でランスは止まる訳も無い。されるがままになるのは半ば必然だった様だ。

「ほんっと、アイツって元気よね。あれだけの戦いがあったって言うのに」
「まぁ……それは違いないな。あの数とヤって、これとは、最早人間の域を超えてるんじゃないか?」
「……そんなので超えなくていいわよ」

 志津香もため息をしながらそう言っていた。
 マリア達に悪戯されるのは正直嫌だったが、疲れているのもあり、且つマリアに至っては何処かまんざらでも無い様子だったから止めては無かった。複雑だったけれど。
 でも、流石に度が過ぎる事をするなら、止めようとは思っていたようだ。

「ユーリさんっ! ほんとーにお疲れ様ですかねー! 私もお礼を言いますです!」

 トマトがユーリの前にぴょんと現れて手を握った。
 突然の事だったから、ユーリは少し驚いていたが、直ぐに落ち着き。

「いや、さっきも言ったが問題ないさ。アフター・サービスだ」
「ああ~~!! やっぱり、トマトにとって一番です!! 私も剣の修行、がんばりますです!!」
「はいはい。先は長いと思うが気長にな?」

 気合が入ったようで、腕をブンブンと振らせて喜ぶトマト。そんな時だった。

「あ、あの~」
「ん? ああ、キミ達は確か……」

 前に来たのは女の子達。前に志津香に捕らえられていた子達だ。

「わたしはエルムと言います。志津香さんの隣にいらしたので判ったのですが、あの時は助けていただいてありがとうございます」
「いいや、構わないさ。厳密に言えば君達を解放したのは志津香だし、それに報酬も貰っている。オレは、仕事をしただけだから」
「はい。……あの~多分、町の皆もすっごく気になってるんですが、聞いても良いでしょうか?」
「ん? 構わないよ」

 ユーリは軽い気持ちでそういったのだが……、この後 後悔する事になる。よくよく見てみれば、町の人も何処か表情がおかしい。最初は喜んでいた筈なんだけれど。

 何よりも、こんな事(・・・・)を訊いてくるとは想像すらしていなかったのだ。

「ユーリさんって、おいくつですか?」
「………」

 ユーリの表情が、いや その全てが固まったのは言うまでもないだろう。
 そんなユーリに全く気づかないのは、彼女達だ。

「でも凄いよねっ! その歳でここまで強いなんて、四魔女の皆を解放してくれたのもランスさんやユーリさんなのよね!?」
「…………」
「いくら感謝してもしたりませんよ。ありがとうございます」
「……………」

 後半は、歳の話しじゃないんだけれど、固まった表情を、……引き攣った表情を、戻せないユーリ。
 まだ、実年齢言っても無いのに、エルムの次に話して来た女の子は、自分自身の歳は決まってると言わんばかりに言っていた。

 よくよく考えたら今フードをつけてないし、町の皆の前で素顔を曝したの、初めてかもしれない。町長のガイゼルもやや驚いているし、チサに至っては驚いてはいないが、今は苦笑いをしている。

「ユーリ……どんまい」

 志津香は肩を軽く叩いて励ましてくれた。
 彼女は勿論ユーリの実年齢を知っているし、再開のインパクトが大きかったからそこまで気にしてなかったのだ。そして、空気を読めない男と女がここにいる。

「がーーーっはっはっはっは! よかったではないか! ユーリ! 随分と若く見られたみたいだぞ?」
「きゃーうらやましー(棒)」
「全然嬉しくないわ!! それにロゼ! 棒読みヤメロ!!」
「何を言う、オッサンに見られるに比べたら良いではないか」
「そんなん 知るかっ!!」

 突然口喧嘩をしだした3人を見て目を丸くする女の子達だ。そんな彼女達にそっと一言、言うのがマリア。

「あ、あの~……ユーリさんは19歳なのよ」
「えっ……?」
「えええっ!?」
「うそっ!! もっと下だと思ってた!? 私と、2,3歳しか違わないの!? そんなのずるい!」

 驚愕している女の子達。
 それは町の皆も驚きを隠せない様だった。と言うか、ずるいとはなんだ!?とも思える。

「……スゲェな」
「世の中色々あるんだろう」
「あの顔で……19か。正直羨ましいかも……」

「………」

 一気に違う意味でざわつかせているカスタムの町。未知との遭遇? とでも想っているのだろうか。

 それを見るとユーリはくるりと、カスタムの町に背を向けた。そのまま、アイスへと歩いて帰ろうとするが。

「待ちなさいって。まだ 最後に宴するって言ってたでしょ? 皆、ほんとに感謝してるんだから、受け取りなさいよ」

 志津香が嫌にニコニコしながら服をつかんだ。こんなキャラだったか? と思える笑顔で。
 だけど、今は素直に感謝を受け取れる状況じゃないユーリは。首を思い切り左右に振る。

「離してくれ、志津香。俺、帰る」

 ユーリは、歩いて帰ろうとするが、志津香の力は何気に強く、動けない。それを見たランスはここぞとばかりに大笑い。

「がーーっはっはっは! そうだそうだ、ユーリ。好意を受け取らんなど男が廃ると言うものだ! 無碍にするこそ、大の大人のする事では無いではないかっ!!」
「お前が言うと悪意に満ちてるんだよ!!」

 勿論、ランスだけじゃない。ユーリの歳ネタで笑うのは他にもいるのだ。……元凶? とも言える女がここに1人。ロゼである。

「あははは! まぁまぁ、ゆっくりしてきなって! あー 楽しい酒になりそうだわ」
「それは、お前だけだ!! オレにとっては全然楽しくない!!」

 断固反対、そして 帰還を熱望しているユーリ。その姿を傍で見ている者達は苦笑いをしていた。 

「マジだな。相当気にしてんだ……改めて判るってもんだよ」
「ああ言われ続けたら、その……、鈍感になるの、仕方ないって思えます……、格好良いじゃなく可愛いって見られてたら男の方だったら……」

 ミリとランはユーリの行動を見てそう呟いていた。

 以前にロゼも言っていたが、鈍感に 成るべくして成ったと言えるだろう。技能の鈍感? は童顔から派生したとも取れる。

 結局帰る事が出来ないユーリ。彼も本来のキャラから相当ブレている。

「わーー、帰らせてくれぇぇ!! なんで、今日に限ってフードがぁぁ!」

 まるで、駄々っ子の様に喚いていたのだ。ラギシス戦前に、フードを脱ぎ捨ててしまった事を、今後悔する事になるとは、当時は夢にも思っていなかっただろう。
 志津香は、子供をあやす様に笑いながら。

「はいはい、観念しなさい」

 そう言っていた。……本当に心地よいと思っていたのは言うまでもない。そこに、もう1人。

「それに、ユーリさん? 私の前では3ヵ月間のフード禁止がまだ残ってますよ?」
「嘘だっ!!あの事件からとっくに3ヶ月は過ぎてるよ!」
「私と会う時間の話ですよ~♪ ユーリさんは冒険者なんですから、普通の3ヶ月じゃあっという間じゃないですか」
「うう……」

 いつの間にか情報屋の真知子まで入って来て言われてしまい。ユーリはがっくりと項垂れていた。

 普段言われることは沢山……あるが、こんな大勢の前で見られた事なんかないし言われた事もない。直ぐにでも立ち去りたいと思っても仕方が無いだろう。

「ま、まぁまぁ、ユーリさん。皆さんの無礼は私の方から謝ります。どうか、怒りを納めていただけませんか? 精一杯のおもてなしをしたいので。……町の恩人であるユーリさんにも」

 チサが真っ直ぐ腰を折り頭を下げている所を見せられてしまったら、もうこれ以上何も言えない。流石に癇癪を起こす訳にもいかないだろう。

「ほーら? 女の子にこんなに謝られてるのに、それでも拒否する? それこそ大人の男がするよーな事じゃないって思うけどね~♪」
「ロゼ! お前は絶対に楽しんでるだろ!!」

 ロゼのわざとらしい言葉も続き……、ランスの笑い声もまだまだ続いていたが。どうにか、ユーリを町に留まらせる事に成功できた。

 普通なら、仕事が終わってここまでひきとめようとする者なんて滅多に無いものだと思えるが……、これまでの行いの良さからくる人徳だと言えるだろう。逆にランスだけだったら……どうなるのかは 火を見るより明らかなのである。

「てい!」
「いたっ……ひんひん、ランス様……痛いです」
「うるさい。なんだかムカつく事を言われた気がするのだ」
「ひんひん……」

 ランスは何故かシィルを虐めていた。彼の耳にも少しは聞こえるようなのだった。




 その後、今度は外で火を囲みながらバーベキュー大会へと移行していった。

 どうやら、準備は万端にしていたようで、物の数分であっという間に木が詰みあがり、火をおこして、様々な料理が運ばれる。ここまでされたらもう帰るに帰れない。

 ロゼやらミリやらに色々とこの場でも言われ、真知子にはフード禁止と言われ……、つまりは一通りは弄られて今はユーリは1人飲みをしていた。

「ブスッ……」
「ぁ~機嫌直してください。ユーリさん。お注ぎしますですから」

 トマトは、ユーリの横にちょこんと座って酒をジョッキに注いだ。その事自体は嫌がる様子もないが、中々話してくれないようだ。

「いーよいーよ。も、どーせ……。それにいつもの事だし」

 そのまま一気にジョッキを飲み干すユーリ。
 潰れるのではないか?と思えたが、全然泥酔する気配もない。何杯目かも判らなかった。

「……すげえな。飲みなれてるって感じ? やっぱ色々と経験してるんだろうな」
「それであの顔か。……ちょっとだけだが気苦労が判ったよ。同情する」

 男達はついていけないピッチで飲んでいくユーリを見てそう呟いていた。周りには心配した女達がいるようだが、全く心配は要らないとも思える。飲んでる姿には何処か貫禄もあって……、さっきまでとは別人にも見えなくもない。

「……よっしゃあ!! 明日からの復興オレ達も頑張ろうぜ!! 歳上(実年齢・素顔も)の意地を見せてやろうじゃないか」
「おおともよ!!」

 何かに触発されたようで男達も盛大に盛り上がっていた。


「………ああもう!」

 ユーリは頬を両手で叩くと気を取り直す。ウジウジするのをもうやめたようだ。いや、……開き直ったとも言えるだろうか。

「ふふふ、なんだか御免ね? 皆が好き勝手言ってて」
「御免って言う割には顔、笑ってるし」

 ユーリはため息を付きながらそう言う。横に来たのはマリアだった。

「大丈夫です! トマトにはユーリさんの魅力が判ってますから」
「最初に思いっきり勘違いしてくれたのもトマトだがな」
「うぅ……あれは、歴史の一ページとして幕引きさせてくださいですかね……あートマト、食べ物とってくるですよー!」

 トマトはがっくりと項垂れつつ足早に食糧確保へと向かった。確かに、最初に歳を勘違いして可愛い可愛いを連呼し怒られた事があるから、ちょこっと気まずくなってしまったんだろう。

「あははは!」
「笑ってるのは良いが、……ここにいて大丈夫か? ランス辺りが文句言ってまた飛んでくるぞ」
「大丈夫大丈夫。ランス、今潰れてるから」

 マリアはそう言って指をさした。その先にはランスがいる。

「がーーっはっはっはっは!!」
「ら、ランス様ぁ……お水です!」
「が~~~っはっはっはっは!!!」

 ランス、そしてシィルが必至にランスを介抱しているのが見えた。どうやら、また飲みすぎたようだ。

「流石に宴会状態になったら、シィルちゃんでも世話しきれないわな」
「へ? 何かしてるの? シィルちゃん」
「ああ、ランスは酒、強くないんだ。だが、雰囲気だったり 負けじとだったりで飲む時はあってな。……そこで、潰れず且つ良い思いをさせる為に、シィルちゃんは薄めてあげてるんだよ」
「へぇ……本当に良いコよね。間違いなくランスには勿体無い」
「同意だ。が、シィルちゃんはランスに間違いなく惹かれてるからな。彼女が良いなら良いんじゃないか?」
「ま、そーよね? それに好いた惚れたは本人達の自由だし! そ・れ・よ・り」
「ん?」

 マリアは、その、所謂 《100万ドルの笑顔》を見せながら、ユーリに少し近づく。……誰が見ても一目瞭然。何か良からぬ事を考えているだろうと思える笑顔だ。その笑顔のまま、ユーリに訊く。

「志津香との関係、私とっても知りたいな~って思って」
「志津香との?」
「そーそー、あのコってばさ、ほんっとに良い笑顔になってるんだからね。私も滅多に見ない笑顔にね? その事は、ちょ~っと妬けちゃうところはあるけど、それ以上に好奇心が……」

 マリアが訊きたい事は、それだった。志津香ネタ。元々、魔法ばかりで 男っ気など皆無だったから。

「幼い頃に家族ぐるみの付き合いをした。……ん、それ以上となると特に話す事は無いんだが」

 ユーリは、少し考えながらそう応えた。
 あの時の事。以前までは記憶が殆ど無かったが、志津香に出会って思い出すことが出来ていた。恐らく母に封印されていただろうとは思う。悲しい記憶だが、彼女との思い出を思いだしたことはよかったと言えるんだ。

 マリアは一先ず頷いていたが、更に乗り出してくる。

「それでそれで、こっからが本番!」
「はぁ? 本番?」
「そう! 本番よ! えっへへ~ ユーリさんは、志津香の事どう おもっt「ふんっ!!」いたぁいっ!」

 それは、突然だった。
 マリアの背後に誰かが来たか? と思った瞬間、マリアの頭にゲンコツが落ちてきた。本当に力いっぱい殴ったようで、ごつんっ! と言う鈍い音がはっきりと聞こえた程だ。

「何 変な事言ってんのよ!」
「いつつ……ええー、良ーじゃない。ちょっとくらいさ! 志津香だって、ユーリさんに聞いてみt「ふんっ!!」っっ!! い、いふぁい、いふぁいっっ!」

 今度は、ゲンコツではなく、志津香はマリアの頬を抓り上げていた。

「……そうね。悪いのはこの口のようね。縫い付けてあげようかしら? 粘着地面、じゃなく粘着口で」
「ご、ごふぇんっ(ごめんっ)! ごふぇんなふぁいっ(ごめんなさいっ)!」

 かなりの痛さだったから、マリアは涙目になりながら謝っていた。ユーリは、その光景を見て笑っていた。……マリアの意図など、全く気づいた様子もなく。

「ったくもう……」
「……元気だな? 本当に」
「う、うるさいわね」

 志津香はマリアの監視、と言わんばかりに隣に座った。マリアはそれを見届けるとニコリと笑って、ユーリの隣へと志津香を押し寄せていた。身体と身体を触れ合わそうと。
 ……マリア、さっきはあんなに痛がっていたのに、酒は痛覚を鈍くさせるから あまり感じていないのだろうか、もしくは さっさと降参したのか。
 恐らくは前者だろう。その表情を見ればはっきりしている。

 そして、マリアはそれとなく、そこから立ち去った。……志津香に気を使ったのだろうか? 或いは、2人きりにさせたら、面白いモノが見れると判断したのだろうか? ……今回は後者である。

 最初こそ、かなりぎこちなかった志津香だが、次第に自然に話をしていた。
  
「今回の件は、本当にありがとう。私からも礼を言うわ。……皆の指輪からの解放もそうだし。……その、過去での事も。 最後の戦いは、ユーリがいなかったら危なかったのは事実だしね」
「ああ、でも、最後は志津香だってオレを助けてくれた。それに、オレの事を信じてもくれた。……オレの方こそ言おう。ありがとう、志津香」
「ふふ……」

 志津香は笑みを見せると、ユーリと乾杯をした。彼女が飲んでいるのはどうやらお茶のようだが。

 雰囲気が和やかになってきた所で、酒を片手に再びやって来たのはマリア。間違いなく狙っているだろう。

「あれ? 志津香~ 飲まないの?」
「………」
「あぅ~ 睨まないでよ~。でもさ。こう言う席だったらちょっとぐらい、いいじゃない?」
「い・や!」
「ははは……」

 マリアと志津香のやり取りを見ていて笑顔になるユーリ。

 ≪家族≫に再開できて本当に良かったと改めて思っていた。

 そうユーリが思っている事が、志津香にとって良い事なのか、悪い事なのか……それを知るものは誰もいなかった。

 
 そして、町を上げての祝いの宴は朝まで続いて……、こうして 1つの大きな事件は完全に幕を下ろしたのであった。

















~カスタムの町~



――後日


「おーい!そこの木材を頼む!」
「おっしゃあ!」

 カスタムの町はめまぐるしい復興を見せている。
 マリアの発明した土木機械も大活躍中だが、何よりも町の住人のやる気が凄いから成せる事なのだ。

「いやー、皆ほんとに頑張ってるわね! 私も頑張らないと……」
「何言ってんだよ。マリアちゃんの機械のおかげでこのスピードが出てるんだから、これ以上やられちゃうと、オレ達仕事なくなっちゃうって」
「だな。機械に頼りっぱなしってのも情けないから オレ達も負けないぜ?」
「えー、便利になる事はいいことじゃない」
「心構えの問題さ。ユーリに負けないように頑張らないとなって」
「あはは、それはハードルが高すぎるわよ?」

 町の男達の言葉に、マリアは笑いながらそう言っていた。目標とすると聞こえてきたからだ。ただ、この分野で負けないくらい頑張ると言う意味なのだが。

「一応言っとくが、冒険者になってやるぜー! とかは考えてないからな?」
「当たり前でしょ。冒険者になる前に町の復興から!」
「だから、冒険者には、ならねえって!」

 軽口を言い合えるくらいに打ち解けているマリア。その事自体もマリアは、ユーリとランスには感謝をしなければならないと思っていた。

「そーいやぁ、マリアちゃんは、もう1人の方に、ランスの方に惹かれたんだろ?」
「ふぇっ!?」

 突然話しが変わり動揺してしまうマリア。もう1人と言えばランスしかいないだろう。

「なな、なんで私があんなスケベなんかと!」
「はっはっはっは! 顔、赤くなってるぞ?」
「怒って赤くなってるのよ!!」

 マリアは必至にそう言っているが、傍から見てたら良く判るのである。彼女がランスに惹かれていると言うのが。マリアは必至に否定をしていたが……全く効果はなかった。

 ……完全に、ユーリのことを否定する志津香の言動そのままになってしまっているのだから。








~カスタムの町 情報屋~



 真知子は情報屋の中で調べ物をしていた。
 マリアに依頼されており、鉱物関係がより効率的に得られる鉱山や売買をしている箇所をピックアップする為だ。

「ふぅ……これくらいかしらね?」

 1枚の紙を机に出し、そして一息つく。
 だが、それはほんの数分で直ぐに仕事の再開をしていた。まだまだ、復興の為にはしなきゃいけない事は山ほどあるのだから。

「ユーリさんは、今何をしてるかしらね……、また着ていただけたら嬉しいですけど」

 ユーリの顔を思い浮かべながらそう呟く。でも、あの時は傑作だった。

「ふふ、お顔の事気にしているのに、素顔、オープンでカスタムに戻られた時は本当に驚きましたね……次は、常時解除条件を出しましょうか……」

 色々と画策をしようとするが、あまり過激?なのは没の方向にする。ユーリに本気で嫌われでもすれば本末転倒だからだ。
 ユーリに限って嫌う事は無いだろうけれど。警戒する事に越したことはない。

「さて、と。何か新しい情報は……」

 そのまま 真知子は コンピューターのキーを打ち、仕事へと戻っていった。

 また、彼の役に立てる様に 情報を扱う。その思いを胸に。






~カスタムの町 薬屋~




「お姉ちゃん! お客さん来たよ~!」
「おっ そうか。判った判った いらっしゃー……ん? トマトじゃないか」
「はい! トマトですかねー?」

 薬屋に顔を出しているのはトマトだった。それを接客するのがミルとミリの姉妹。

「どうしたんだ? 何処か具合でも悪いのか?」
「ええ~そうなんですよ。昨日必至に剣を振ったら腕が痛くなっちゃったです」
「筋肉痛か……、ん。いい薬あるぜ」

 ミリは戸棚の上を覗きながら薬をひっぱり出した。肉体労働の男達も多い町の為、この手の医療品もそれなりには扱っているのだ。

「やー、昨日だけでも10回は剣をふったですよ! それに、アイテム屋の周りも必至に歩いて体力作り! ペットのミミちゃんを抱かかえての筋力トレーニングっ! これで、ユーリさんに一歩近づけたです! 次はお風呂に入って肺活量アップ訓練ですよ~!」
「後ろの方はいつもやってない? トマトお姉ちゃん」
「こりゃあ、先は長そうだな。ほい!トマト」
「ありがとうございますです~♪」

 トマトはGOLDを払って、意気揚々と外へと飛び出していった。その後姿を見送る姉妹。冒険者を目指している少女が向かう先は一体何処なのか……
 いや、何処であろうともあの性格なら楽しいだろう。そう思えていた。






~カスタムの町 役場~


 カスタムの町では、住民達のおかげで復興は順調に進んでいた。だが、問題なのはやはり金銭面なのだ。 どうしても、必要最低限の資金が無ければ、生きられない。復興も滞ってしまう。
 裕福な人間がボランティアでしているわけではないんだから当然だ。だからこそ……支援は絶対必要なんだ。

「………」

 ランは、手を組み考えていた。
 大国リーザスへ援助を依頼し、その返答はまだだ。以前、かの国の王と側近の3人がここへと来られたらしい。
 その時の3人はこの町をどう思っただろうか? 援助するに相応しい。メリットがあると、思ってくれただろうか? それは、素直に頷くことは出来ない。

「(……私達が滅茶苦茶にしてしまったから)」

 町を沈めたから、ラギシスとの戦いで多くの家屋を壊してしまったから。まだ、爪あとの多く残るこの町。救い出すためのメリットがあるのだろうか? と思われてしまったら? それに、自由都市であるこのカスタムがリーザス領になってしまう可能性も大いに有りえるのだ。

「私は……私は……」

 
――……何も出来ないのではないか。

 ランはそう思ってしまった。悪い方向へと思ってしまった。折角あの人が頬を張って道を正してくれたのに。

 その時だった。

 まるで、光が降りてきたような錯覚がしたかと思えば、役所で共に働く女性がいつの間にか来ていた。

「ラン……さんっ!!」

 何処か呆気に取られてしまっている彼女を見て不振に思う。ひょっとしたら何か不味い事でもあったのでは無いかと。

「ど、どうしたんですか!? 何か……あったんですか??」
「何か、どころじゃないです。本当につい先ほど、リーザスから書状が届いたんです……その内容が……」

 恐る恐ると言った感じでランにその書状を渡した。ランは受け取ると慌てて目を通した。彼女の口ぶりではまだ内容が把握できていないから。

「っ………」

 ランは静かに涙を流していた。涙のせいで、最後まで読む事が出来ない。内容は資金の提供。それも無条件でだ。利子については、確かにあるが一般相場から比べたら微々たるものであり、この町でもなんら問題ないレベルなのだから。
 リア王女の署名も付いている為、冗談の類ではありえない。

 そして、彼女が流す涙のわけはこの先にあった。

『この度、リーザスから支援を行う事を決定した最大の理由が、キースギルド所属のユーリ・ローランド様より依頼があったからです』

 ユーリとリーザスの間に一体何があるのか、それは詳しくは判らない。でも判る事はある。

「私は……私達はまた、あの人に救われた……ありがとうございます。ユーリ、さん……」

 読み終わった後もランは暫くあふれ出る涙を止める事が出来なかった。







~リーザス城・女王の間~



「リア様、カスタムへの資金援助の件ですが、完了致しました」
「そ、お疲れ様」

 リアは、話しを聞きつつ他の書類にも目を通していた。近隣の大きな国の動きを把握する諜報活動の報告書だ。怪しい動きがあると、ここ最近で報告が合った為、危惧しているのだ。

「とりあえず、ユーリに一つ貸しが出来たんだから、それを考えたらあのくらいの事なら楽なものよ」
「ええ……」

 リアの言葉にマリスは頷いた。
 あの時、カスタムでユーリのレベルを計ったときから、彼については最大限にマークをする、惜しまないと自らの中で決めていた。それはリアも同じなのだ。
 歴史上に名を残す人物でもあの数値を記録したものは皆無だ。現人類最強と呼ばれているヘルマンのあの男でも3桁レベルの数値はありえないだろう。

「あの時は はぐらかされた感満々だったけど、……万が一、あの魔人クラスだと思える程の力量を持ってたとしたら、って考えたらね? でも、その気になったら、どんなものでも手に入れられる程の力を持った人物なのに、コレと言って判る欲がまーったくないんだから」
「そうですね」

 陽気にそう言っているが、その表情は冷静そのもの。見極めようと試行錯誤をしている。本当に信じていいのかどうかをも、考えている。

 その表情を見た、1人の忍者が天井裏より リアの傍へと降りたった。呼んでもいないのに、彼女が降りてくる事なんて、稀だと言えるだろう。

「お、畏れながら申し上げます。ユーリさんは……ユーリさんは、信じてもいいと思います。主に意見するなんて……差し出がましいかと思いますが……」

 降りたった忍者……かなみはぎゅっと拳を握りながらそう進言した。これまで、自分から呼ばれずにリアに意見する事など、ほとんど……いや、無かった筈だ。
 それを見たリアは にこりと笑った。

「そっ……、かなみがそう言うんなら、信じないといけないかしらね?」
「ええ、私もかなみの言葉は信じて良いかと思います」

 リアとマリスはそう返していた。
 かなみの働き振りは、以前よりも遥かに増し、且つレベルも上げてきていると言う実績も持ち合わせているのだから。

「あ、ありがとうございます、マリス様、リア様」

 かなみは慌てて頭を下げていた。
 意見を言う。それが主であろうと、自分の気持ちをぶつける。そこから、信頼だって生まれてくるんだから。

「さぁ、早速だけどかなみに仕事をしてもらうわよ?」
「は、はい! 判りました。何でもおっしゃって下さい」
「そ~何でも。ね?」
「へ……? え、えと…… は、はい」

 何処か妖艶な笑みを見せるリア。とても妖しい雰囲気が出てきているのが判る。そして、その顔のまま、リアは言う。

「じゃあ、ユーリを落として頂戴」
「っっ!! ままま、まだ、そんなの、むりです~~っっ///」
「へぇ~ ≪まだ≫なんだ」
「っ~~///」

 こんなに感情豊かな女の子だっただろうか?
 虐めるのが楽しい。Sの気持ちが再びリアの中に芽生えてしまったが……、相手がかなみである事、そしてランスとの約束があるから自分の中に押し殺していた。

「ふふ、ほんっと、かなみってば 可愛くなっちゃったわね? ま、半分は冗談だから」
「ほっ……、え? は、はんぶんですか?」
「……ユーリを落として、とかは言わないけど、ユーリとの関係は深く繋がるようにしておいて。貴女の事は、目にかけてくれてるみたいだから。 そう、ね。例えば貴女が危機に陥った時、絶対に助けてくれる。そんな関係に」
「ぁ……ぅ……(白馬の王子様……ってヤツじゃ)」
「そこは いやらしい関係とかじゃないわよ? ただ信頼関係を持つようにしておいてって事。他の打算的にとか考えなくても構わないから。それは私達の仕事だし、悪いようにはしないわ。その方がやりやすいでしょ?」
「は、はい! が、がんばります」

 かなみは慌てて頭を下げた。ユーリとそんな関係を結べたら、嬉しい。それが命令であったとしても。自分の気持ちを知っているからこそ、リアは打算的な考えは持たなくていいと言ってくれているから。
 つまりは、国公認の……仲を、と言う事だろう。かなみはそれを認識すると同時に。

「ッッッ~~~!!」
「あらあら、真っ赤になって、悶えちゃって……」

 かなみの様子を肴に、ワインでも飲みたい。とこの時リアは思ってしまっていた。でも、リアはワインを飲むのは、食後でと決めているから、それは無かった方向にしていた。

「ま、私もダーリンの事を考えたら一緒なんだけどね~♪ ダーリン、今頃何しているのかしらっ♪ うふふふ」

 リアはランスの事を、かなみはユーリの事を頭に浮かべて、暫く悶えてしまっていた。

「……」

 そして、3人目。マリスは、この時考えていたのは かなみ同様、ユーリの事だった。

 ただ かなみと 違うのは、あの異常数値のレベルのことを中心に考えていたのだ。

 レベル神は不明レベルだと言い、そして力量的に考えたら前者のレベル45の方が正しいと言っていた。レベル神が言う以上はそれで間違いないだろう。そして、考えられることは沢山ある。

・だが、それを意図して隠しているとしたら?
・……自分の意思で、いつでも変更出来るとしたら?
・隠しているとすれば、何故?
・なんで普通の人間にそんな芸当が出来る?

 ……考え出したらきりが無い。だが、あの時リーザスでのあの時の彼を見ているのも事実だ。そして、マリス自身も信じられると思っている事も事実。

「私も、今は貴方の事を信じていますよ。きっと、この先にで重要な人物になる。何故かそう思えます」

 それは直感に似た感覚。
 長年政治を司り、危機管理を行ってきたものだからこそ感じ取れるもの、とでも言えるだろう感覚。マリスのその感覚は間違えていなかった。


――ごく近いの未来。未曾有の事態がリーザスを襲う。その歴史に残る国家の危機を救ってくれる存在となるのだ。


 年号はLP0002年 3月

 ……もう直ぐ近くにまで、リーザスに魔の手が迫って来ているのだから。









~カスタムの町 教会~


 そこでは、真昼間だと言うのに、淫行絶賛開催中だった。

「ふぃ~~、今日もおつかれさん。良かったわよ?」
「ありがとうございますだ。ロゼ様」

 悪魔であるダ・ゲイルと一発ヤっているロゼがそこにいた。
 時折手伝いはしているものの、戦いの際に使った全治全納の神の大体の金額を伝えたら、皆が驚いて、多少のぐうたらでも、何も言わないのだ。……そもそも、ロゼに何か言いに来るものは皆無なのである。

「ロゼ様、何か良い事でもあっただか?」
「ん? どうして?」
「いや、普段よりも、何割増しで、良い笑顔だな、と思って」
「ふ~ん……やっぱそう思う」

 悪魔にも判ってしまうほど、自分の表情が明るいと言う事だろう。行為をしてる時は大体喘いでいるから、表情は殆ど一緒だと言うのに、それでも出ていたのだろう。

「まっ、町も助かったし 宴も面白かったからね? あんたとヤれなかったのは物足りなかったけど、それに補うほど楽しかったら」
「んだ。それなら納得だべ」

 ダ・ゲイルは、そう言うと頷いていた。
 
「そうそう、あんたに聞きたい事があったんだった」
「ん、なんだべ?」
「ん~っと、あの迷宮は別の空間に繋がってたって言ってたから何処だって言ってたかな……」

 ロゼは考え込む。ピラミッドの迷宮だといっていたが……と。

「そうそう、もう滅んじゃってる国、リンゲル王国の王家の墓、ピラミッドの中を縄張りとしてる悪魔に心当たりある?」
「りんげる、りんげる……」

 ダ・ゲイルは考える。
 聞いた事はある国だが、流石にそこにいる悪魔までは覚えが無いのだ。

「申し訳ねぇだが」
「あー構わないわ。ただ気になっただけだから。悪魔っ娘が大分不幸な目にあったらしくてね?」
「悪魔がだか……。それは珍しい事もあるだ」

 少し驚きを隠せない。話しぶりから察するに、人間とその悪魔が出会って悪魔が嫌な目に合ったと言うことだ。普通の悪魔でもそれなりの力を持っているから人間に遅れをとるとは思えないのだ。……自分の様に下僕にするなら兎も角。それに普通の人間は知らない筈だから。

「ま、話しに聞いただけだけど、またどっかで会いそうなのよね~。そんなコと」
「なぜだべ??」
「だって、私の面白センサーがびんびんに働いてるから。まだ先っぽいような気がするけどね?」

 恐るべしAL教シスターロゼ。

 彼女の予言?通り、数ヵ月後にあの悪魔《フェリス》と再開を果す事になるのだ。そして、更なる不幸に襲われてしまうのは、後の話である。










~カスタムの町 志津香の部屋~




「………」

 志津香はベッドで寝転び、天井をじっと見つめていた。ここ数日は本当に長く、でも短くも感じていた。矛盾しているように思えるが、自分でも判る。

 長く感じたのは、父親を助ける為に躍起になっていた期間。
 そして、短く感じたのはユーリと過ごした期間だ。

 楽しい時間はあっという間と言う言葉はよく聞くが……ここまでとは思ってなかったのだ。

「って、何考えてんだろう私……ふぅ」

 志津香はゆっくりと身体を起こすと部屋の窓を開けた。温かな日差しが差し込んで着ている。太陽の位置的にはもう正午だろう。

「お昼……何食べようかな。ああ、そうだ。マリアに手伝いを頼まれているんだったわね」

 志津香は手早く着替えをすませ様と、洋服入れを開いた。下着姿のまま、寝転ぶのは普段からであり、多少ズボラな所があるのだが 注意する者もいないし、一番それが落ち着ける格好なのだ。

 無論、見られない様に注意はする様にした。……誰に、とは言わないが。


 そして、着替えをする際に1枚の写真がポケットから抜け落ちた。それは、あの時の宴の写真。いつの間にか取られていた写真。

「……ペペのヤツ、ほんっといつの間に撮ったって言うのよ」

 落ちた写真をとりそう呟く志津香。写っているのは、自分とユーリが一緒にいると事。他のメンバーも、勿論写真には入っているけれど、中心を占めているのは2人だった。

 誰を狙って撮ったのか良く判る1枚だった。

「……あんたはいなくなるんじゃないわよ。絶対に」

 志津香はぎゅっと写真を握り締めていた。

 ……自分はいつの間にか1人になってしまった。もう、二度とそんな事が無いように……誰もいなくならない様に。

 そんな時だった、不意に扉を叩く音が聞こえてきたんだ。

 志津香は慌てて出ようとしたんだけど、時は既に遅い。

「入って良いですか~?」
「………」

 良いですか? と訊いている癖に、もう、既に入って来ていた。
 そう、扉を開けてしっかりと見ている。こちらの方をし~~っかり見てる。

 ニヤニヤ笑みを見せながら。

「何処から?」
「だって、志津香昼まで寝てるんだもん。10時に約束してたよね?」
「何処から?」
「こりゃ起こしてあげなきゃ~! って思ってさ」
「何処から?」
「あの……」
「何処から?」

 ……いつまでもリピートする志津香さん。
 次第に、来訪者マリアは、表情が引き攣ってしまっていた。そもそも、起こしにくる事はよくある事で……、今回は狙っていたわけではなく、今回のコレはまったくの偶然なのだから。
 それに、志津香に関しては、勝手知ったる他人の家、状態になっているから。

「あ、わざとじゃないのよ? 私はし、志津香を起こしにきて……」
「だから、何処から見てたのっ!?!?」

 ついに志津香の目が光った。
 赤く、ギラリっ!と擬音が聞こえてくるくらいの勢いで。

「え、えっと……写真? を握り締めてたあたりからかn「ふんっ!!」っっ! いひゃっ(いたっ)!! ひゃ()ひゃめふぇ(やめてっ)!! ふぃづふぁ(志津香っ)!」

 普段より二割り増しの志津香の抓り攻撃がマリアを襲っていたのだった。口外無用を約束させて。

「っとにもう!」
「いたたた……。もー そもそも、志津香が約束すっぽかすのが悪いのに」
「ゔ……それはそうだけど」
「ま、私もプライバシー侵害しちゃったし? お互い様って事で!」
「う~ん……でも、口外したりしたら……」
「言いません」

 マリアはきっぱりとそう言っていた。
 なんていったって、どうなるか身を持って知っているからだ。頬が伸びきって緩んでしまいそうだ。

「さて、今日も一日頑張りましょ? 志津香は遅れた分頑張ってもらうわよ?」
「はいはい。了解よ」

 2人はよく晴れた日ざしの下へと出かけていった。






――カスタムは本日も、快晴。そして 視界良好。復興に向けて、前へと進んでいくのであった。







~アイスの町 キースギルド~



「ふむ……」

 ユーリは戻って依頼料を受け取ると、また同じように依頼書を眺めていた。直ぐにでも仕事に行きそうな雰囲気だ。

「帰ってきたと思えば、もう早速行くのか? 近頃の仕事は規模も規模だ。しっかり身体は休めといた方がいいと思うぜ?」
「体調管理くらい出来るさ。それに、ガキじゃないんだガキじゃ」
「……(また 依頼先で言われたな?)」

 キースはユーリの言葉に何処か棘があると感じたようで、ため息を吐いていた。だが、それ以上に感じるのはどこか明るくなっている所もある事だ。

「うふふ、ユーリさん。今回の依頼で良い事、あったんですか?」
「え?」
「なんだか、とても明るい感じがしましてね」

 ハイニもよく判っていたようだ。何処かいつもと違う感じを。

「まぁ、な……」
「写真関係か?」
「そんな所だ」

 ユーリはそう応えると、一枚の依頼書をキースに差し出した。内容は、探し物の依頼書のようだ。

「ほぅ、今回は割りとイージーなのを選んだな?」
「そうでもない。場所が場所だろ?」
「ん~……あ、そうだな。場所を見てなかった」
「しっかりしろよ。ギルドマスターなんだから」

 ユーリはやれやれと頭を掻いていた。
 たまに抜けているところがあるのがこのキースと言う男だ。そこをカバーするのがハイニなわけだ。本当にバランスが取れた2人だと思える。

「さっ、行ってくる」
「おう、判った。気をつけてな?」
「ああ。問題ない。っと、そうだランスはどうした? 依頼料金はとりに来たのか? あの後アイツ、結構酔っていたからな」
「ああ、頭痛そうにしてたが、シィルちゃんも一緒なんだ。問題なかったよ」
「ん。それもそうか。判った」

 ユーリはそう言うと、扉を開けた。そんなユーリの後ろ姿を見てキースは声を掛けた。

「ユーリよ! オレをちゃんと招待しろよ?」
「は? 何のことだ?」
「写真のコだよ写真の。式挙げるときは頼んだぜ? いつ挙げんだ?」
「ぶっっ!」

 ユーリは思わず吹いてしまっていた。丁度、カスタムの事を考えていた時にそういわれてしまったからだ。

「え? え? どういう事ですか? ユーリさんにひょっとして想い人が出来たのですか?」
「違う違う! 何を言い出すんだ、ハゲ馬鹿」
「ハゲ馬鹿とはひでぇな。友人代表でしっかりスピーチしてやるからよ! 無え無えって言ってたが、ありそうじゃねえか?」
「……さ、長くなりそうだ。行ってくる」
「っておい! コラッ!」

 ユーリはそれ以上付き合わずにそのまま、止まらずに出て行った。こうなったら、ネチネチと長い事を知っているからだ。
 
 そして、残った2人は分析を始めた。

「ん~……今回の ユーリさんの反応はどうでしょう?」
「そうだな……、全く脈なしの様には見えなかったな。だが、照れ隠しって訳でもなさそうだ」
「ふふ、まだまだお預けって事ですかね? ユーリさんにしろランスさんにしろ」
「ははっ、まぁ楽しみは先にって事か」

 キースはそう言うと、葉巻に火をつけてふかした。仕事をしてくれる自体は十分好ましいのだ。からかうのも恒例行事みたいなものだ。

「ユーリさんは、次は何処へ行くと?」
「ああ、ヘルマンの方だ。今回大分熱かったんだろう。色々とな。だから熱を冷ましにいったんだろうさ」

 キースは口の中に溜め込んだ煙を吐き出しながらそう答える。


 先の事なんか、誰にだって判らない。だからこそ、楽しいんじゃないか。人生は楽しまなきゃ損だ。

 その楽しみの一つにユーリとの絡みや頭が痛い部分がかなり多いがランスの事もある。今後も楽しくなりそうだと、キースはニヤリと笑みを浮かべて、ギルドの外を見た。




――どうやら、今日は少し風が強い。嵐が近づいているんだろうか?




 キースは、不意にそう思い窓を閉めた。


 そう、彼の勘は当たっている。《嵐》は、着実に近づいている。

 直ぐ近くにまで……。


 
 

 
後書き
〜人物紹介〜


□ ペペ・ウィジーマ

Lv1/2
技能:特になし

名前だけ一瞬出てきた少女。向けると笑顔でついピースをしてしまう不思議なカメラを持っている。そのカメラと自身のカメラ技術があったからこそ、様々な写真を撮る事が出来た。
その技術で金儲けを企んでいるがめつい子でもある。
 
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