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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第2.5章 出会いと再会は唐突に
  第31話 マルグリッド迷宮へ行こう


 ここはヘルマン領、東部に位置する直径2kmにも及ぶ巨大な穴。

 古代の遺跡とも呼ばれている。
 その歴史は数百年にもわたり探索研究をされてもなお、その全体像は未だ判らず、最深部までの到達者がいたかも不明である。そして、その逸話から現在においても、冒険者の名所として数多くの冒険者を呼び寄せている場所でも有る。特殊なアイテム、修行、世界の秘密を求めてこの迷宮に挑むものは多い。

「……ま、血生臭い感じな場所だが、今は観光遺跡でもあるんだよな」

 ユーリはその古代の遺跡、《マルグリッド迷宮》の前へと来ていた。依頼の内容はこうだ。

『迷宮観光へと来ていたら、落下トラップにかかってしまい迷宮の地下まで行ってしまった。命からがら脱出出来たが、思い出の品を落としてしまったらしい。どうか探してくれ!慌てて脱出したから、あの場所の階層がわからない。どうか頼む。追伸……思い出の品は音楽カセット。中身はどうか聞かないで……――DJ.youSK』

 と言うものだった。

「この場所がどう言う場所かわかってたのかねぇ……」

 ユーリは、依頼書を読み、ため息を1つしながら呟く。
 この場所は数多くの冒険者が挑んできている。確かに、観光地のひとつになっているのは間違いないが、それは遺跡の入口付近までが主であり、この巨大な穴を見ていこうと言う者達がいるからそう言う風習になったのだ。……間違っても、準備無しで下へと降りるのは愚の骨頂と言うべきものだ。

「まぁ、いいか。仕事は仕事だ。久しぶりにこの場所に来たかったのは事実だ」

 この場所は修練の場所としてユーリは極たまに利用する層なのだ。冒険で役に立つアイテムも良くあったりするが。

「レンジャーがいないからな。宝箱は気をつけてあけないと」

 ユーリはそう呟いていた。

 宝箱では苦い思い出が多くあるのだ

――……まぁ、簡単に言えば

 開ければ『どーーん!』 こっちを開けたら『どーーーん!』 更に開けようとして『ちゅどーーーーんっ!!!』

「………」

 ユーリは頭を只管掻いていた。これは、記憶の奥底に置いときたい思い出のひとつだから。

「あんの馬鹿のせいで無茶苦茶になったんだよな。確か……」

 あまり思い出したくない規格外の馬鹿の顔が何故か頭の中に鮮明に浮かぶのだ。
『次は大丈夫ですよー』とか言いながらどんどん宝箱を開けていく彼女。何が一体大丈夫なのか、何発も爆発を受けておいてピンピンしているのも凄い。どうやら 魔法で防御出来ているから大丈夫みたいだが迷惑も考えてもらいたいものだ。

「さて、思い出したくも無い回想はこの辺にしといて……」

 ユーリはマルグリッド迷宮≪下層へと続く道≫への扉を開けた。道、とはいっているが……実の所現代的だったりする。

「毎度思う事だが遺跡になぜエレベーターが付いてるんだ、って事だよな? ……雰囲気をぶち壊してる気がする」
「おや? お客様ですかん?」
「久しぶりだな。管理人さん」
「おー、ユーリさんですかん。随分と久しぶりですねん。この場所には観光にん?」
「違う違う、なんでオレ見て観光って言葉が出るんだよ。ここに観光目的できたこと無いだろうに」
「はは、そうでしたかねん。」

 ケラケラと笑っている彼、エレベーターの管理人事《栃ノ木 一馬》

 ヘルマンの古代遺跡にいるが、実は名前から判るとおりJapan出身。随分と昔にここ、ヘルマンで就職したらしいゆえに、面影はなくなっているとの事。最近は、語尾に《ん》を付けるのに嵌っているらしく、頻繁にそう利用している。
 因みに初めて合った時は語尾に《アル》だったような気がするが、はっきり言ってどうでも良い。本人曰く、学生時代は他人への気配りを忘れないムードメーカーだったとか。

「そんなん知らん」
「へ? どうかしましたかん?」
「いや……何でもない。ほら、通行料金」
「入場料金ですよん。私のところを通るだけの金額じゃ有りません。はい100G受け取りましたん。もう、ユーリさんには説明不要かと思われますが、一応言っておきますねん。非常に危険なので命の保障は出来かねますん。ユーリさんは何層からスタートなされますかん?」
「ん、探し物の依頼だからな。とりあえず第1から行くつもりだ」

 階層を指名するスイッチを押すユーリ。
 これで、このエレベーターは第1層までしか進まないし、そして一度降りれば戻る事も無い。降り立ったその場所が 後戻り不能地点(ポイント・オブ・ノー・リターン)となる。文字通り命がけの冒険に等しいのだ。帰り木を持っていれば……と思うが奥へと進めば進むほど、何故か帰られない事が出てくるのだ。何故そうなるのか……そう言う空間なのかは今現在でも不明である。

「と言っても奥に行けば上層へと戻るエレベーターもあるから、大した事無いがな」
「ふふふ、ユーリさんくらいですよん?ここを大した事無い。と言ってのけるのは」
「そうか? だが、第1層くらいなら大した事ないだろ」
「私はなんとも言えませんねん。あ、あと1層ならおやつは600Gまででお願いしますん。尚、2層では、バナナはおやつに含まれません。バナナの皮が捨てられると迷惑となりますのでん」
「毎度意味の判らない謳い文句だな。そもそも、観光に来たわけじゃないって。それに、1層ならバナナ良いのか? 逆に」
「1層なら簡単に整理・整頓・清潔・清掃・躾、出来ますからん」
「……工事現場の5Sか? まぁ 別にいいが、ってか、捨てた相手を躾しにいくのかよ」
「そうですねん」
「……頑張れ、オレはもう行く」
「は~い! 1名様ご案内」
「どっかの店のノリで言うなって」

 ユーリはそのままエレベーターを降りていった。その姿を手を振って見送った後。

「あー……そういえば、ユーリさんの前に来た人たち、まだ 帰ってきてないよねん~。ま、お偉いさんだって言ってたから大丈夫だと思うけどん」

 ポリポリと頭を掻きながら管理人室へと戻っていく。大量に散らばっているお菓子袋の山から一つを抜き出した。

「ん~ やっぱ ポテチの味はヘルマン・辛味が一番だよねん~。寒い場所では辛いの一番!」

 袋を破いて皿の上に。
 サイズは、LLLだから、皿から毀れてしまったがお構い無しだ。

「さぁ~ ナタデTV♪ TV♪ ありすちゃーん♪」
 
 最新型の極薄てれびのリモコンを取ると、大音量でアイドルTV番組をうっとりとさせながら見ている一馬。こんな場所で管理人か……と、思ってしまう人も多いだろうが、ところがどっこい!
彼は満喫しているのだった。
 時折、5Sをする際に手に入れる《お宝》 冒険者達の《忘れ物》等を売って生活費にしているので、収入はバラバラだが、高収入である。

「あ~~幸せだなぁ~……」

 もう、この時の彼は、仕事の事などな~~んにも考えず、TVの中で歌っている彼女に集中していたのだった。







~マルグリッド迷宮1層 カブトムシ回廊1~


 エレベーターを降りた先は、遺跡の風景。石の壁に灯籠が灯っている。
 地下の割には全体的には明るい方だが、モンスターの気配も色濃く、どう考えても観光場所とは思えないし、そう定着している今は危ないのでは無いか?とも思える。

「む。……明るい方と言えばそうだが、探し物をするにはこれ以上無い程面倒くさい場所だな。ここに来るついでに、と思ったのはちょっと失敗だったな。こういう時、シィルちゃんの有り難さがよく判るってもの、なんだが……」

 ユーリは後悔後に立たずと思っていた。そして、優秀な魔法使いであるシィルが居ればこの迷宮の暗さなど、何ら問題ないだろう。だけど、それはほんの一瞬だけ。冒険者である以上、依頼を受けた以上。完遂するのが勤めだ。少し不本意だが、キースギルドの評判を落とすわけにもいかないのだから。
 そして、暫く歩いている時。

「ハニーホー♪ ハニーホー♪」
「きゃー人間、人間が来た~!!」
「迎撃準備よ~しっ♪」

 3匹のハニーたちが現れた。
 ダンジョンに置いては在り来たりなモンスターだが。

「いやに好戦的だな? まあ良いが」
「いけー!!」
「えいえいっ!!」
「ハニーーフラーーッシュ!!」

 ユーリに向かって3匹のハニーが攻撃をしてくるが、攻撃を十分に見切った後。最小限の動きで攻撃を返す。それは最短で、最速の刃。
ユーリの鞘から抜いた刃をハニーの陶器に叩き込む。

「あ、あいやーー!!」
「きゃーーーっ!!」
「いやーー!!」

 割れる音と共に、ハニーたちは絶命していった。

「まぁ、第1層だからこんなものだが……少し気になるな」

 ユーリは先ほどのハニーを見て違和感を感じていたのだ。好戦的なハニーもいないことは無い。

 だが、比較的に普通ハニーは臆病な所が多い。
 そして、悪巧みをしたり、罠にかけたり、そう、前に戦った人間に善戦したり勝てたりすると、一気に好戦的にはなってくるが。

「誰かがさっきの連中にやられている可能性もある、か」

 ユーリは妃円の剣を鞘へと収めた。
 そして、暫く進んでいくと何やら何処かの兵? 達が座り込んでいるのを見つけた。

「どうした、大丈夫か?」

 ユーリは後ろから声を掛ける。すると、驚いたように振り向いたが、モンスターじゃないと判るとほっとなでおろしていた。

「冒険者の方でしたか……、また モンスター共が現れたらどうしようかと思ってました」
「ああ、だが ここで座り込んでたら結果は同じだぞ? ここで何をしてるんだ?」
「あ、いえ 我が国の四天王のお方をお迎えにです」
「………」

 ユーリは顔を引き攣らせた。
 これは脱出した方がよいのでは無いか?とも思える。……が、まだ名前を聞いていない。まだ判断をするには早すぎるとユーリは思い。

「ゼスの軍の……。だが、何故ここに四天王の方が来てるんだ? 話しを聞けば四天王は、王都を守る為に塔を管理と守護するのが仕事だと聞いているが」
「あ、はい。そうなんですが……、ここマルグリッド迷宮で魔法に関するアイテムが発見されたと言う通達をいただきまして……、丁度、将軍達も別件で外してて……」
「っておい! 何そんなに国の機密について話してるんだ! 馬鹿者!!」

 後ろに倒れるように座っていた男がのそりと起き上がると頭にゲンコツを落としていた。どうやら、この人は新兵らしい。

「あ、安心してくれ。口外はしない」
「むぅ……っ、いたた……」

 男はダメージを思い出したようで、腰を落としていた。よく見てみると重症とはいかないが、それなりの傷を負っているようだ。

「成程、魔法使いの天敵のハニー達にやられたのか?」
「あ……はい。恥ずかしながらそうです。魔法と剣士を使う人もいたんですが……」
「……納得」

 ユーリは倒れている男を見て理解した。どうやら、迷宮に仕掛けられているトラップにかかってしまっているようだ。
 恐らくは《無気力キノコ》
 これに引っかかってしまえば、戦う気をごっそりと削られてしまってもうどうしようもない。

「その上、警報装置も沢山踏んでしまって……」
「ってお前ら本当に軍のメンバーか? 第1層でそこまでになんでなるだよ」
「あー……返す言葉もないが」
「す、すみません……」

 どうやら、この新米兵士の不注意だと思える。だが、それをふまえてでも。

「それをフォローするのが、先輩の務めだと思うんだがな」
「ぐ……」
「こんな所で居合わせたのも何かの縁だ。ほら」

 ユーリは持ち合わせの《世色癌2》を渡した。後、《元気の薬》を合わせて渡す。一先ずは、これで大丈夫だろう。

「す、すまない。本当に感謝する」

 ユーリに言われて黙り込んでしまっていた男だったが、回復アイテムを渡した事で、目の色を変えて礼を言っていた。どうやら、本当に危なかったようだ。
 第1層で、ここまでやられる軍って……とまた思ってしまったがとりあえず、置いとく。

「帰り木だ。まずは体勢を立て直せ。この辺りなら、まだ使えるだろう」
「な、何から何まで……」
「構わない。……が、その代わりと言ったら何だが、教えてもらいたい事があるんだが良いか?」
「なんでしょう?」
「……ここにいる四天王と言うのは誰の事、なんだ?」

 がんばって平静を装ってそう聞くけれど……、やっぱり顔が引き攣ってしまう。その名前次第では、気を引き締め直さなければならないのだ。……巻き込まれたくないから。

「え、ああ。《山田千鶴子》様です」
「ほっ……」
「??」
「いや、何でもない」

 何処か心底安心した様子を出しているユーリに気になったようだが、首を振っていた為、別に何も聞かなかった。

「名前だけは知ってるが、面識はないな。……アイツじゃなくて本当に良かった」
「アイツ……とは?」
「いや、こちらの話しだ。忘れてくれ。それより話しを戻そう。四天王程の力の持ち主なら、なんで迎えに行く必要が? それ程のものならば問題ないだろう?」
「い、いえ……それがそうも言ってられないのです。最近になって入った情報なのですが、ここで、ゴブリンが出ると言う話を聞いたものですから」
「ゴブリン……魔法禁止エリアを作るモンスターか。確かにそれは厄介だな」

 魔法を使う者にとって、ゴブリンは天敵と言っていいだろう。

《ゴブリン》は、特殊な空間を作り出す。エリアそのものを変えるわけではなく、その指定した場所で魔法が使えなくなると言う若干理不尽な力を発動させる事が出来るのだ。そして、対を成す存在が《トロール》こちらは物理攻撃を無効化すると言う物理攻撃を使う者にとっての脅威となるのだ。

「まだ依頼の途中だが……、オレがここにいる間、その山田さんに出会ったら、言っておくよ。仮に危険があったら助太刀も。……と言うより、山田さんは、帰り木やお帰り盆栽は持っていないのか? なら 大丈夫だと思うんだが」
「あ~……そうなんですが、ある事があって慌てて出て行かれたので……」
「?? まぁいいか」

 ユーリはそう言うと、奥へと進んでいく。

「申し訳ない。見ず知らずの冒険者にここまで施しをしてもらった上、手伝っていただけるとは……」
「こう言う場所で軍も冒険者もないだろ。危険があったらある程度は手助けをする。一応信条にしてるんでな。勿論、相手は選ぶが」
「本当にありがとうございます。名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「ああ、そうだったな。オレの名前はユーリだ じゃあ先を急ぐんで」

 ユーリはそう応えると、迷宮の奥へと進んで言った。……ユーリはこの時、早く去らないと、少し、本当にもう少し彼らと話をしておけば良かったのだ。であれば、心構えや先の不幸な目に合わないですんだと言うのに……。




「……ユーリ? ユーリと言えば、アニス様が頻繁にいっている名前の一つだからな。確か、ローランドと言うのだが、彼……か?」
「さぁ……どうでしょう。私には……」
「千鶴子様も仕切りにゼスに囲いたいと言っておられた方だと聞いている。あのアニス様のコントロールを出来る人だと聞いてるから」
「な、なんだと!!」

 1人の男が驚きながら声を上げた。

「おぉ……それは、その御方は神か? 神なのか??」
「聞いてなかったんですか? 先輩」

 涙ぐむようにそう言っているゼスの軍人(先輩)。
 アニスとはゼスの軍の中では《歩く災厄》《味方殺し》《最強最凶へっぽこ魔法使い》2つなは数知れない魔法使い。

 その技能は驚くなかれ、伝説級の力 魔法Lv3を誇る。

 そんな力を持つ魔法使いなのだが……、取る行動の全てが危険であり、千鶴子が制御しないと、制御したとしでも、大変目にあうのはいつも味方の皆なのだ。

「うぅ……そんな御方がいらっしゃるとは!! この世にいらっしゃるとは!!」
「お、落ち着いてください! 先輩、そこまで言うほどなのですか?」
「馬鹿っ! まだ軍に入って日も浅いお前にはわからんのだ。あの人に付き合ったばかりに……大変な事があうと言うことを!! そう、バスケをしようと誘われて、ボールが無いからって《破裂玉》を使ったり……野球をするからって、《V6爆弾》をボールの代用にしたり……思い出すだけで震える。しまいには あの《mボム》を使いかねない……」
「………」
「全面的に同意ダ……軍人ならば、戦いの中で殉職するのは寧ろ誇りだ。国の為に命を使えるのだから。だが、味方に潰されるのは……嫌だ。何も残らん」
「………」

 この軍人は、新米な為、よく知らないのが 災いをしたようだ。今後、その凶悪な魔法使いと付き合っていかなければならない事は多々ある筈だから。

「よーーーし!! 体勢を整えたらもう一度編成し彼を探すぞ!! そして、フルネームを聞き出し、かの御人ならば ぜひとも我が国へ!! 千鶴子様も必ず同意してくださる!」
「「おおおっしゃあああ!!!」」
「は、はいっっ!!」

 ここに軍人達は一致団結をしていた。
 今は流石に満身創痍の為 出発は出来ないが体制を整えたら直ぐにでも。メンバーが少ないのは心もとないが、ここはヘルマン領。そんなにおおっぴらに軍が動いては不味いのだから。今のメンバーで何とか……。

「でも、あの人がユーリ・ローランドじゃなかったら、残念ですよね?」
「「それを口にするな!!!!」」
「は、はいぃぃぃ!!」

 一喝されて黙り込んでしまう新兵。
 もう彼らの中では彼がその人物だと決定しているようだ。……それは、ユーリにとっては災難だが、当たりなのである。









~マルグリッド迷宮1層・カブトムシ回廊2~


 ユーリは先へと進み、るろんた、ローバー、ハニー等をなぎ倒しながら突き進んでいった。時折悪寒が感じているが……気のせいだと言い聞かせて。

「(無い無い。あいつがここにいるなんて無いって。だって、四天王は山田千鶴子なんだろう? 詳しくは知らないな。確か情報魔法のエキスパート、……と言う話しは聞いてるが)」

 頭の中で考えながら剣を振るう。

「(ならなーんで オレはこんなに考えてるんだろ? ……アイツ(・・・)の事)」
「はにほー、はにほーー!!」
「(……なんでだろうなー。やな予感がするんだこれが。こう言う時の勘って、結構……)」
「きゃーー!!」

 モンスター達はまるで眼中に無いと言わんばかりに殲滅されていく。ここまでくれば、可哀想な仔たち……とも思えるがそれは、それ。これは、これ。なのである。

「(………)」
「イカイカイカ!!」
「だぁぁぁ!! 考えれば考えるほど、嫌な感じが止まらん! もう考えるのは止めだ止め!!」
「イカーー!!」
「うるさぁぁい!! 煉獄・居合!!」
「ぎゃあああっ!!!」

 哀れ、現れたばかりのイカまんはあっという間に二枚に卸されてしまった。墨を吐きながら絶命していく……。何か考えながら、明らかに隙だらけに見えるのに、全く寄せ付けず、無双を続けていくユーリを見たモンスター達は……、次第に襲い掛からなくなっていった。
 出会っても、こそこそと話しながら去っていく。技能にある≪威圧≫は持っていない筈だが。

「ん? なんだかモンスター達が減った気がする……気のせいか?」

 これは気のせいなんかでは無いのである。丁度その時だった。

「………」

 少し離れた先の広めのフロアに誰かがいた。
 小柄な体型で帽子を被っている。ぱっと見ただけでは男か女かは、遠目からは良く判らないが、確かにいた。

「囲まれてるな。あれは危険そうだ」

 ユーリは、そう思うと素早く。あの人物のまわりに集まっているのはモンスター。1匹や2匹どころ騒ぎじゃない。まるで大繁殖したのか? と思えるくらいひしめいていたのだ。

 帽子を被り、髪で右目部分を覆っている。容姿から考えたら女の子だろうか?大ピンチにも関わらず全く感心が無いような感じのコが冷静にモンスター達を見据えていた。その傍には白い何かが引っ付いているようだ。……おばけ?

「おい、これって何気にピンチじゃないか?」
「はい。そうですね」
「って、そんな落ち着いてられる場合か!!」
「?? 落ち着いてませんよ? 本当にピンチです。とてもピンチです」
「なら、もっと慌てろっっ!! に、逃げるぞ!!」
「はい。……ですが、四方を囲まれてます」

 無表情にそう答える。一通りの武の心得はあるようで、器用にメイスを使いハニーを何体か打ち倒してはいるが。

「うろろ~んっ! ぱーんち!」
「っ……」

 るろんたの一撃を無防備な背後から食らい、バランスを崩してしまった。

「クルックーっ!!」
「大丈夫です」

 体勢を整えると、後ろにいたるろんたを打ち倒した。
 だが、まだ、《イカまん》や《ミートボール》《ハニー》……etc。種類的には3~5種類だが、数がやはり多いのだ。

「………」
「何考えてる?」
「今までの人生、ですかね? 振り返ってます」
「走馬灯を感じてるんじゃねえって!!」
「しかし、本当に弱りました。トローチ先生」
「だから、1人でマルグリッドなんかに来るのは危ねぇって言ったのに……」
「はい。浅はかでした」
「だから、もうちょっと慌てろっての!!」

 本当に絶体絶命のピンチなのだが……、なんだろう? この緊張感の無さは。明らかに囲まれている状況で。モンスターにそんなのが伝わるわけは無いから、容赦はしない。その感じは、見えてきた所で十分伝わってきた。

「うーむ……肝の据わったコだな。まぁ危ないのは間違いないな……」

 ユーリは妃円の剣の柄に手をかけると、刀身を抜き出した。完全に後ろを取っている為、居合で先手を取る必要も無い。今は、広範囲に攻撃できる手段が必要だろう。

「煉獄・朧」

 闘気を込めた剣を水平上に薙いだ。真一文字の太刀だがその性質は攻撃の範囲を広げる所にある。綺麗にモンスター達を2つに斬った所で、半分程度の数が減った。

「おや……?」
「ぷーびー! ぷーびー!!」
「ふぅ……大分緊張感のないやり取りだったが、本当に大丈夫か? お前ら」
「はい。大丈夫です」
「………」
「ああ、喋れるのもう見てたから、他言するつもりも、何か言うつもりも特にない」
「そうして頂けるとありがたいです」

 初対面だが、スムーズに会話が進んでいく。いろんな意味で凄いコだと言う事がわかる。

「さて、とりあえずこいつら片付けるか」
「はい。判りました」

 暫定的だが、パーティを組む事になった。どうやら、ヒーラーの様で神魔法を操る事が出来るみたいだ。そのおかげで命があったと言っても良いだろう。だが、回復は出来るが、攻撃に移れないから結局は魔力が尽きたてしまったら同じ事だろう。

 暫くして……。

「粗方片付いたな」
「はい。ありがとうございます」
「いや、良いさ。偶々傍を通りかかっただけし。通行の邪魔にもなってたしな」

 ユーリは剣を仕舞うとそう言って手を挙げた。そして、その後何やらあの白いのと相談をしているようだ。白いのが耳打ちしている。

「申し訳有りませんが、貴方はユーリさんですか?」
「ああ、そうだが」
「1つ質問をさせてください」
「ん。問題ない」

 片目しか見えていないが、その左目が一瞬だけ細くなった。表情が殆ど変わらないコだけに、それだけの変化でもよく判る。

「―――人類を皆殺しにしますか?」
「……皆殺しにするつもりなら君を助けたりしないだろう」

 まさかの質問だったが、何処か変なコだから何が来ても不思議じゃないとどこかで判っていたようで、割とスムーズにユーリは返答を出来ていた。

「そうですか、なら問題ないですね」
「……ふむ、察するにAL教の神官。と言った所か?」
「!!」

 この目の前のコじゃなく、白い何かが驚いたような仕草を見せていた。別に喋っても構わないのだが、白い何かは沈黙を貫いている。

「はい。司教見習いをしています」

 クルックーは偽っても無意味だと直感したようで、普通にそう応えていた。さっきから、慌てているのは白いのだけである。

「成程。相当な地位の持ち主って事だな、4人の幹部見習いか」
「はい。地位には全く興味はありませんが、神から指名されましたので」
「……そうか、神とね」

 ユーリの表情は若干だが、暗くなり、瞳も心なしかいつもよりも黒く闇に染まっていた。だが、それも一瞬だけだった。瞬きをし、目を再び開けた時には元の表情、瞳へと戻っていた。

「はい。何か気になりますか?」
「いいや。君が悪いヤツじゃなさそうなのはわかったから良い」

 ユーリはそう応える。そして、自身の名前を知っているのに、相手の名を知らない事を思い出した。

「そういえば、君の名は聞いてなかったな」
「はい。私はクルックー・モフスと言います。こちらはトローチ先生です」
「ぷーびーぷーび!」

 クルックーはゆっくりと頭を下げた。何やらその時、白い何か……トローチと話しをしているようだ。……ここまで判り易くするくらいなら堂々と話せばいいと思える。

「ああ、こちらこそ宜しく。じゃあ 気をつけろよ? あの数のモンスターがここに出るのは極稀だ。腕は立ちそうだが十分に気をつける事だ」
「はい。あの その事ですが ここを抜けるまでご一緒させて頂けませんか?」
「ん? オレはどの層まで降りるか判らないぞ。構わないのか?」
「はい。私は第1層に用が有りますので、最奥の地点までで構いません。私は神魔法を少々使えますので、サポートも出来ると思います」
「そうか。別に良いよ。判った」

 ユーリはクルックーの誘いにそう返した。頭を掻きつつトローチの方を見る。

「このコ、……クルックーのブレーンはお前みたいだが、耳打ちで話すくらいなら堂々と話せばどうだ?オレはとやかく言うつもりはないぞ?」
「………ぶるぶるぶる」

 トローチは何やら震えだした。演技に見えるのだけれど……とりあえず話すのは嫌だと言う事がわかったから首を左右に振った。

「OK。それでいい。ならここを抜けるまで、暫定だが宜しく頼む」
「はい。わかりました」

 こう言うわけで、この場所限定だがAL教司教見習いでヒーラーのクルックーとパーティを組んだのだった。







~マルグリッド迷宮1層・紅茶センター~


 さらに奥へと脚を踏み入れる2人+白いの。
 ユーリは以前来た時よりも遥かにモンスターの数が多い事に若干だが戸惑いを見せていた。

「第1層でここまでのモンスターがいるのか……いよいよ普通じゃなくなってきたな。一体何がそんなにモンスターを呼び寄せる?」

 腕を組み考え込むユーリ。
 以前に来た時は、モンスターは勿論いたが、一度に現れるのは精々2,3匹程度。1つのフロアを闊歩する時にに3,4セットで出てくる割合だった。だが、今は優に倍は超えているだろう。そしてモンスターの強度も上がっている。

「いたいのいたいのとんでけー」
「ん? ああ、ありがとうクルックー」
「いえ、私を庇っての怪我ですので。感謝するのは私の方です」

 ユーリは腕に切傷を負っていた。
 それはグリーンハニーが持っていた三叉の槍で飛び掛ってきたときにクルックーが気づいていなかったようで、庇って出来た傷だった。

「いや、パーティを組んだ以上は当然の事だよ」
「はい。では私も当然の様に回復致しますので」
「ん」

 クルックーとのやり取りは何処か変に感じるものはあるが、慣れてみるとこれが中々に面白い。これまでに無かったキャラだと思える。それに……。

「ふぅ」
「フードでいつも覆っているのですか?」
「それを言うならクルックーも表情を半分くらい隠しているじゃないか」
「ああ、私は過去に事故がありまして。それを隠すためです。もう慣れましたので不便はありません」
「成程……嫌な事を聞いたな。すまない」
「……?? 何がでしょう。事実を応えただけなのですが」
「いや、そうだったな。ああ、オレはいつもコレを付けてるよ。外している方が色々と合ってね」
「そうですか」

 クルックーはユーリの表情を見たというのに、別に何も反応が無いのだ。そんな人物はこれまでにあまりない出来事だ。不覚にもユーリは感激してしまったのだ。


――……この時ユーリの中でのクルックーの信頼度が10上がっていた。


 そして、暫くしての事

「……少し待っててもらえますか」
「ん? ああ、構わない。だがあまり遠くに行くのは辞めといた方が良いぞ。この辺りのモンスターは嫌に凶暴だからな」
「はい。大丈夫です。このエリアからはでませんので」
「なら安心だ。粗方狩っているからな。オレは少し休憩をしてるよ。何かあれば呼んでくれ」
「はい」

 クルックーはそう言うと、離れていった。
 エリアからはでないとは言うが、曲がりくねった道もあり、ちょっとした穴もあり、小さめの広場もあるから、視認で確認し続けることは出来ない。



「……AL教での指令か、何か、……かね」

 ユーリはクルックーの行動をそう考えていた。
 これまでに、AL教とは接触は何度かある。……その殆どはロゼ関係だが、極稀にぶつかる事はある。その1つがロゼと初めて会った時の事だ。

「アイツがオレに質問をする前に名前を知っていたようだが……お尋ね者になってる可能性は高いな。容姿は隠していた筈だが」

 思い出しながらそう呟いていた。
 はっきり言えば、AL教に好ましい印象は殆どない。下部組織に当たるメンバーは別として、教団の内部に入れば入るほど、キナ臭く醜い争いがあり、そして、神の名の下と言う名目で様々な非人道な行為をしているのも事実だからだ。

「まぁ……オレも事を荒立てるのは得策じゃないからな。ある程度は隠して行動はしていたが」

 自分の行動を思い出しながら呟いていた。
 AL教団の信者は人類の7~8割と言われている。

 そして構成は法王ムーンララルーを頂点とし、その下に司教、司祭、神父、神官、神官見習いと続く。

 つまりは、大っぴらに敵と認識されたら全世界の人間の7~8割を敵に回すと言う事なのだ。

「……そう言うのを好みそうな気がするがね」

 誰がか、とは言わない。だが間違いなく……混沌と混乱を望んでいるのがこの世界の頂点だ。

「まぁ、良いか。少なくとも今は」

 代々の《憎悪の炎》は決して絶やさない。
 だがそれでも、この世界に生を受けたい上は道中を楽しみたいとも思っている。たとえ苦難の道、茨の道であったとしても。それに勝る出会いや出来事だってきっと待っている筈だから。

「お待たせしました」
「ああ、……目的の物はあったかい?」
「はて、何のことでしょうか」
「いや、言いたくなければ良いよ。追求するつもりは無いから」

 ユーリはそう応えると立ち上がった。残すフロアはもう後1つだ。








~マルグリッド迷宮1層・カナブン倉庫2~


 このエリアが第1層の最奥。以前に攻略をしている為、大体の位置、マップは頭の中に入っている。

「さて、この先が所謂ゴール地点になるんだが」
「はい。判ってます。気配がしますね」
「ああ、モンスターだ。気をつけろよ? これまでとは違う敵だ」

 各層の奥には その層のボスがゴールポイント、更に奥へと進む為の紋を守っているのだ。……なんで、守っているのか?と聞かれれば正直判らない。そう言う仕様なんだ、と勝手に皆納得しているんだ。

「……グリーンハニー5匹にうっぴー4匹か。おっと、ボーン連中もいるみたいだな」

 ユーリは少し離れた角の影からモンスター達を確認した。数は間違いなく以前よりはるかに多い。……が、ユーリにとっては、雑魚の分類に入るため、大した問題ではない。

「準備は良いか?」
「はい。ボーンたちは私に任せて下さい。私の持っている武器は光の属性を持ってますし、浄化が使えますので」
「確かにそれならその方が良さそうだな。あいつらは任せた。だが気をつけろよ?」
「はい」

 ユーリはそう言うと、ゆっくりと前に出た。モンスター達は勿論その存在に気がつく。本来ならモンスターを先に見つけた場合は気づかれずに接近するのがセオリーだが、こう待ち構えられているモンスターに対してはそれは狙えない。

「……おいおい、アイツ1人で大丈夫なのか? あいつら、さっきまでとは明らかにレベルが違うぜ?」
「はい。彼なら大丈夫です」
「……会って間もないって言うのに、もうそんなに信じられるんだな」
「はい」
「即答かよ……。アイツに惚れたんじゃないだろうな?」
「はい?」
「いや、聞いたオレが馬鹿だった忘れてくれ」
「はい」

 クルックーもユーリの後についていき、臨戦態勢に入ったモンスター達は距離を詰めて一気に襲い掛かってくるが、ユーリの居合は先制攻撃。速度自体を彼より上回っていない限り、戦っている相手は絶対に先手を取る事が出来ないのだ。だから、襲い掛かってくるハニー達は……。

「居合」
「きゃーー!!」
「うきゃーー!!」

 割れる音を響かせながら絶命した。

「骨を斬らせて骨を断つ!!」
「浄化」
「ぎゃあああ!!! ま、まぶしいっっ~~!!」

 ボーン達もクルックーに襲い掛かかるが、難なくそれを防ぎ、その隙に浄化を叩き込む。闇の属性のモンスターや霊体には効果絶大のヒーラーの攻撃魔法のひとつ。クルックーはその後もボーン達に容赦なく浄化をしていき、強制成仏をさせていた。


「よし、これなら問題は……っ!」

 ユーリはグリーンハニー達を片付けるとクルックーの方に手を貸そうとしたその時。

 その奥に、《ボーン・M》の後ろに隠れていた《ボスボーン》が姿を現しているのを見た。そして、詠唱をしているのも。

「いかん! クルックー下がれ!! 死爆だ!」
「!!」
「かかか、遅いわ! くらぇい! 骨髄炎!!」

 闇の波動が辺りに広がる。
 それはまるで炎の様に広がり、クルックーを覆いつくそうとしていた。

「くッ……!!」

 ユーリはクルックーの方へと駆け寄る。
 ボスボーンとの距離があった為、クルックーの前にユーリが立つ事が出来たのだ。両手を前に掲げて構えるユーリ。

「ダメージを負ったら、回復は任せたぞ?」
「っ……はい。任せて下さい」

 クルックーは庇われる事に戸惑いを覚えつつも、いつも通りの口調でそう答えていた。

「はーっはっはっは!! 我が闇の魔法の元、消え去れい!!」

 ボスボーンは、勝利を確信しながら笑っていた。
 ボスボーンの最強の魔法である闇魔法《死爆》が発動し、男と女を飲み込んだのだからそう思っても不思議では無いだろう。だが……。

「ぬるい」
「……は!?」
「以前、もっとやばい闇魔法を経験、≪見た≫からな。あれを超えるものじゃないと、≪今≫のオレには通じない」

 闇の波動を物ともせず、姿を現したのは、ユーリ。そして クルックーもユーリの後ろにいて無事だった。

「ぐおおっ!! ならばもう一度……!!」
「させません。浄化」
「ぐぎゃあああ!!!!」

 ユーリが無傷で断っていた事。その事に動揺を隠せなかったボスボーンに一気に距離を詰めたクルックーがカウンター気味に浄化の魔法を当てた。見る見る内に、その姿、頭蓋骨はボロボロに壊れて消滅していった。

「ナイスだ、クルックー」
「ありがとうございます」

 ユーリは手を挙げると、クルックーは頭を下げた。それを見たユーリは軽く笑うと。

「こう言うときはハイタッチをするものだ」
「ハイタッチ……ですか」
「ああ、こうやって手を挙げて……」

 ユーリの様にクルックーは手を頭より上に挙げる。それを見たユーリはそのまま 近づいて、パチンっとタッチをした。

「わかったか?」
「はい。勉強になりました」
「そうか。そりゃ良かった」

 冗談の類ではなく、本気でそう思っているであろう、クルックーを見てユーリは微笑んだ。クルックーは若くして、AL教のトップクラスになったからか、しっかりしているように見える……だが、所々抜けているらしく、常識も欠落してる部分もある様だ。だが、それはクルックーが悪いと言う訳ではない。周囲の環境と言うものは、その者の人格を作り出してしまうのだから。

 ユーリは、まるで世話のやける妹が出来たような感覚になっていた。

「……妹、か」
「どうかしましたか? ユーリ」
「いや、何でもない。……ん。そう言えば名前、自己紹介の時以来だな?」
「そうでしたか……そうですね。次からはちゃんと名前を言って御礼をします」
「そこまで畏まらなくてもいいって」

 ユーリはやれやれと頭を掻きながら、最奥にあるゲートの前に立った。ここでスタンプを押す。その印をもっていれば、次に入口から入るときに、更に深い層にまで降りる事が出来るのだ。無論、このまま下へ降りる事は出来る。
 この場所には脱出装置も備え付けてあり、先に進むか 引き返すかを選ぶ事が出来るのだ。

「クルックーは、もう帰るのか?」
「はい。私には任務がありますので」
「そうか。道中は気をつけてな。今回見たいな場面、滅多には無いと思うが 気をつけることに越した事は無い。それに迷宮みたいなダンジョンに潜るならある程度のパーティを組んだほうが良いぞ?」
「……そうですね。お気遣い痛み入ります。本当にありがとうございました。……ユーリ」
「お? 少しだが、表情が柔らかくなったぞ」
「……そうでしょうか」

 クルックーは判っていないらしく、首を傾げていた。ユーリは笑って頷くと。

「オレとしてはそっちの方がいいな。自然な感じがする。教団内には色々あると思うが頑張れよ」
「……はい。では、また会いましょう」
「そうだな。また何処かで」

 ユーリはそう言うと第2層へと降りていき、クルックーは脱出装置を使ってこうして、クルックーとの短い時間のパーティは解散した。




―――クルックーたちの帰りの道中。



「おい。アイツを捕まえなくて良かったのか? 間違いなくバランスブレーカーの1人だぞ? 詳細は判ってないけど、後々、世界の驚異とかで、登録されていた筈だ」
「はい。大丈夫です。質問しても問題ありませんでしたので」
「ったく……誰かに先を越されても知らないからな」
「それにあの人を、ユーリを捕まえるなんて無理かと。私では、正直敵う気がしませんし……」
「し、なんだ?」
「いえ……」

 クルックーは、トローチの方を見ずに目を逸らせた。

「そういや、お前が他人の名前を覚えるのって珍しいな」
「そうでしょうか?」
「……数時間前に会ったヤツの名前、前すっかり忘れていたじゃないか」
「???」
「会ったその事自体忘れてるんだな」

 呆れるように下を向いたトローチ。
 クルックーの心情の変化には驚いたがそれ以上にあの男の強さにも驚いていた。明らかに本気は出していないのにもかかわらずに、何かを感じたのだ。

「今度会ったらどうするんだ?」
「?? 挨拶をします」
「そうか、そうじゃなくてだな」
「会う様な気はしますが、それ程まで関わるとはあまり思えません。今回の様に少し手伝っていただくくらいでしょう」
「ま、クルックーがそう言うならそうなんだろうがな」

 クルックーは大してこの出会いを重要視していなかった。だが、この出会いは後世に伝われてもおかしくない出会いなのである。



――LP0002 1月 英雄の1人と法王が出会った。と。

 
 

 
後書き
人物紹介〜


□ ユーリ・ローランド(2.5)

Lv46/222
技能 剣戦闘Lv2 抜刀術Lv2 冒険の知識Lv1 ???Lv3 ???Lv?

今回は前回、前々回と比べたら比較的に軽い仕事を選んだユーリ。
その目的はマルグリッドに行く為であり、仕事の方は実はついでだったりもしている。
依頼人のプライバシーは基本的に守る男の為、その思い出の品を覗いたりはしないだろう。
…あの男ならわからないが。


□ DJ.youSK (ゲスト)

今回キースギルドに探し物を依頼した男。
思い出の品は音楽を録音しているカセットテープであり、そこに吹き込まれているのはLovesongだったりしてるから……かなり出すのに躊躇したのは裏事情である。

名前はFLATソフト作品「-atled-everlasting song」より


□ 栃ノ木 一馬 (ゲスト)

マルグリッド迷宮の入口、エレベーターを管理している男。
因みに、整理整頓関係は皆業者に頼んでいる為自らは行っていない。
ユーリとは過去に何度か迷宮に潜りに来た際に顔見知りとなっている。
語尾に色々つけてみたい……と言う癖をだけを見ればトマトとは気が合いそうな男だ。
最近は、下っ腹が出てきたことを気にしているとか……、それは当然と言うか必然なのである。

名前はFLATソフト作品「うたてめぐり」より


□ ゼスの軍人の皆さん

上司の命令でマルグリッドへと駆けつけたメンバー。
実の所、別件で忙しい時だったため、大したメンバーを組めなかったから、山田千鶴子が同行したのだ。そして実を言うと、彼女が慌ててここへと駆けつけているのだ。
その誰かを早く確保する為に………


□ クルックー・モフス

Lv20/50
技能 神魔法Lv2

世界各地で悪霊退治やバランスブレイカーの収集をしているAL教徒の1人。
そしてその教団内でも地位が高く、司教の見習いである為 司教に次ぐ地位の持ち主。
だが、地位に関しては全くと言っていい程興味がない。
興味がないものには無関心であり、無感情であり、無感動、無表情である。
知る人は少ないが現法王・ムーンララルーの娘である。

後にユーリやランスと大きく関わっていくことになる。


□ トローチ先生

クルックーの世話役であり、古い付き合い。
無関心、無感情……が多いクルックーを見てもっと常識的に育って欲しかったとの事。
その正体は謎であり、ユーリは白い何か、白いヤツと色を呼ぶだけだった。
……幽霊?


〜技・魔法紹介〜


□ 煉獄・朧
使用者 ユーリ・ローランド

抜刀した状態で扇状に剣閃を伸ばして真一文字に斬る技。
広範囲(横一列が最も効果的)の技であり、前衛全体攻撃。
剣閃は伸びるが、斬光閃に比べたら圧倒的に短い為、遠距離の敵には向いていない。


□ 浄化
使用者 クルックー・モフス

闇を払う光。闇に属するモンスターを消滅させる魔法であり、ボスクラスの敵以外では即死級のダメージをかます、敵にとってはある意味反則の魔法。 
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