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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第2章 反逆の少女たち
  第29話 戦いの終焉と指輪の解放

 
 その先の戦いはただの消耗戦だった。

 何度も立ち上がってくるラギシスを攻撃するユーリ。攻撃の初速は圧倒的にユーリが勝っている為、魔法を唱える隙も与えない。だが、相手は ラギシスは 何度吹き飛ばしても 何度致命傷といえる攻撃を放っても、立ち上がってくる。まさに不死身の化物だった。

「ぐぬ!! は、ははっ!! いつまで続けるつもりだ! 貴様らの力は所詮有限。無限の前では無に等しいと言う事が何故わからない!」

 何度吹き飛ばされても、高笑いは止めないラギシスだ。だが、ユーリの目には滑稽に映る。

「……はは、苦しみの声を上げながら言っても説得力が無いな。 相当の老体だったろ? どうやら、ボケが始まってるみたいだな?」
「なんだと!? 貴様ぁぁ!!」

 ラギシスは絶叫を上げながら魔法を唱える。今回は即効性のある魔法だ。

「ファイヤーレーz「遅い!」ぬぐ!!」

 唱える瞬間、魔法が撃ち放たれる瞬間にユーリの一撃がラギシスの身体を襲った。爆発し、四散するその身体。だが……再び集まり再生する。

 もう、何度目かわからない。

 一体何度……殺したのかがわからない。

「ぐふ……か、かはははは!! 不毛だよ、ユーリ! 幾ら攻撃しても無意味だ!」
「何度でも殺せるから、これはストレス解消には持ってこいだな。今のお前はただのサンドバックって事だ。オレの技の練習台になってくれ」
「き……貴様ぁぁぁ!!」

 ラギシスの短気さは、決して治らないようで、学習する気もないらしい。

 この手を使えば悪戯に指輪の魔力を消耗し続けるだろう。如何に40人の魔力とは言え、決して無限では無いのだ。

「(が、この煉獄を使うのが早すぎた……)」

 ユーリは敵に気づかれないように歯軋りをしていた。

 右腕の感覚がもう無くなりつつある。煉獄とは、闘気と形容しているが、厳密には殺意と言った方が正しいかもしれない。怒れば怒るほどにその威力は増して行くのだから。これまでは武器に纏わせながら戦っていた。
 武器に纏わせるれば、回数制限があるものの、通常の剣技を織り交ぜ、長い時間戦っていられる。

 ……だが、これは《羅刹》

 戦いの鬼とも呼ばれる状態。それは、煉獄を、闘気を 殺意を、……その全てを身に宿らせた業。常に煉獄を纏って攻撃をする狂気の技とも言える。

 つまり、極論すれば立っているだけでも体力が、気力が消耗していくのだ。勿論腕を振るえば、爆発と共に力も四散していく。そして、一度纏えば体力が、殺気が続く限りは解除出来ない。強大な力を得るが、脆くもなる。短期戦に好まれる力。……諸刃の剣ともいえるだろう。

「……成る程、な。……短気はオレも同じか」
「死ねええ!!」

 猛然と単調な攻撃を繰り返すラギシスを見て苦笑いをするユーリだった。


 戦況は……この上なく悪い。


「おねえちゃん、ユーリさん……凄いね! 勝てる、勝てるよ!」
「ああ……そうだな」
「私達、いらなかったんじゃないかな? こんなに強いなんて思って無かったよ!」

 ミルはダメージはまだあるものの、ユーリが戦う姿を、圧倒する姿を見て興奮したように話していた。
 あのラギシスの巨体を何度も何度も吹き飛ばしているのだから。まるで、ミルがよく読んでいる漫画に出てくるヒーローの様だったから。

 そして、攻撃も早いから魔法を使う隙も無ければ、触手で攻撃する隙も無い。指輪の力が切れた時、ラギシスが死ぬのは明らかだと思えていた。

「……明らかに、アイツの動きが鈍ってきている」

 だが、ミリはそう楽観的には見れなくなっている。
 最初の頃のユーリの速度を考えれば、間違いなくその動きに鈍さが出てきているのがよくわかるのだ。大体、あれ程の力をノーリスクで使えるなんて到底思えないのだから。
 何のリスクも無く、使えるのであれば 最初から使っている筈だから。
 
 ランもミリと同じ気持ちのようで、心配そうにユーリの方を見ていた。志津香の言葉を疑うわけではない。だけど……嫌な予感が拭えないのも事実だった。

「くっ……早く、早くっ!」

 志津香は必至に魔力を溜めていた。
 残り少ない魔力を溜めて、自分の持ちえる最強の魔法で仕留める為に。だけど……その時間が永久に感じる程長い。その間、苦痛に顔を時折ゆがめているユーリの顔を見るのがこれ以上無く辛く、志津香にとって、自分の苦痛よりも地獄の苦しみだった。

「誰か……誰か……ゆーを助けてッ……」

 自分の頬に伝って流れる涙。その目に映し出されるのは 血に染まりながらも 猛攻を受け、攻撃をし続けているユーリの姿。
 折角また会えたのに、また失ってしまうかも知れないという恐怖が彼女に迫っていたのだった。



「死ね!!死ねぇぇ!!」
「ぐっ……!」

 徐々に攻撃が当たるようになり、それを見たラギシスは笑みを浮かべていた。

「く、くくくく! 死期が近づいてきたようだな!! 精々神に祈れ! 小者が!」

 初めこそ、ユーリには攻撃は殆ど当たらなかった。その触手を何本伸ばしても、即座に爆散させられていた。……だが、今は違う。無数の触手はユーリを捉えだしたのだ。
 だからこそ、ラギシスはそう判断したのだった。

 そして、ユーリはその言葉を訊いたその時。

「バカが……オレは一生……」

 薄ら笑みを浮かべていた。

 その笑みを見たラギシスは、悪寒を感じていた。それ程凶悪な笑みだったのだ。

 『神』

 それは、ユーリに取って 最も嫌いな単語の1つであり、赦せない存在だった。
 
「神には祈らねぇ!!」
「ッ!!!」

 ユーリが吼えたと同時に姿を消した。いつの間にか密着するほどまでに接近を許していたようだ。

「がああああっ!!!」

 その瞬間、ラギシスの身体が弾き飛んだ。
 渾身の一撃を込めた爆砕をラギシスに叩き込んだ。だが、その代償に……

「ちっ………」

 ユーリは膝をついてしまっていた。腕は……暫く使い物にならないだろう。

「クソがッ オレの後ろには……! あいつがいる、あいつ等がいるんだ」

 負けるわけにはいかない。倒れる訳にはいかない。

 今倒れたら……、命運が尽きるのは彼女達も同じなのだから。

「く、ははははははははは!! 遂に貴様も終わりだな!? 私はまだまだいけるぞ?」

 そして、数十秒後、ダメージから回復してきたあの化物が爆炎の中から再び現れた。
 高笑いをしているのだが、明らかにラギシスも消耗はしているのは間違いないのだ。だが、まだ一手足りない。
 
「く……!! あれは!」

 ユーリは、忌々しそうにラギシスを睨みつけたその時だ。

 ラギシスの背後にある洞窟の入口の上。岩の上に男が立っているのに気がついた。

 そう、そいつはいつも良い所を取っていこうとする男で目立ちたがり。

 そして、今回の殆ど、自分以外が女であるこの状況。

 考えれば判る。……アイツが、あの男が 来ないわけがないのだ。

「………ふ、ふふふ」
「何を笑ってやがる! 気でもふれたのか?」
「お前の負けだ。ラギシス」
「何!?」

 ラギシスがユーリのその言葉に返したその時だ。

「がははは!! 隙だらけだ馬鹿者が! ランスアタァァァァックッ!!!」
「ぐあああああああああ!!!」

 突如天より降りてきたのはランスだった。

 ラギシスの背後より、撃ち放つ渾身のランスアタックはその身体を縦に真っ二つ切り裂き、更にその後の衝撃波で粉々に吹き飛ばす。斬られたラギシスの身体からは人間のものではない体液が気味の悪い音を立てながら流れ出していた。

「ぐが……、ら、ランスか!! 貴様ぁぁぁ!!」
「げげ、気持ち悪っ!! エンガチョー! オレ様の剣が汚れてしまったじゃないか。この化物が!」

 完全に隙を突いた自分の攻撃を食らってもまだ再生をしているラギシスを見てさすがのランスも驚きを隠せていないようだった。だが、それでも自分を出しているのはさすがだろう。距離を取りつつ、ユーリの横へとランスがよってくる。

「何だらしない格好しているのだユーリ! 情けないな、それでもオレ様の下僕か!」
「はっ……、下僕になった覚えはないがな。一先ず礼を言おう。それに……お前なら来てくれると思ったぞ」

 ユーリはそう言うと、笑みを見せていた。
 これは、共に冒険をしてきた者同士の美しき絆か……と思われるが、そんな類じゃない。だからこそ、ユーリは笑いながら更に言う。

「ここには、美人の女が沢山いるからな?」

 ランスの行動理念を考えての一言だった。

「その通りだ! 誰が貴様なんぞ、助けに来るか。 ……ま、恩を売って更に金をせしめてやろうとは思っていたがな。むざむざラギシスのバカにオレ様の女達を殺させる事もありえない」
「誰がアンタの女よ !馬鹿ッ!」

 志津香はランスの言葉にそう奮起していたが、内心では心底安堵をしていた。
 理由はなんであれ、ユーリが助かったのは事実なんだから。その表情を見たランスは更に笑う。

「がははは! ついに志津香も惚れたか!」
「誰が惚れるか!! 皆が大変な時に、遅れてくるようなやつに!」
「判ってないな! 志津香は、英雄とは遅れてくるものだ、それにその方が格好良いと言うものだ!」
「はは、お前らしい」
「皆さん、怪我を治します!」

 遅れてやってきたシィルが、皆を治すために魔法を使う。

「みんなのいたいの、とんでけーっ!」

 シィルが使うのは複数、回復する事が出来る神魔法≪回復の雨≫
 その治癒能力はヒーリングには劣るが、それを補って余りあるのが全体回復効果だ。だが、何度もラギシスの猛攻を受け続けてきたユーリは勿論、直撃こそは避けられたとはいえ、最強の攻撃魔法である黒色破壊光線を受けた他のメンバー達の体力を回復させるのは、心許ない。

「ダメダメ、そんなんじゃ間に合わないでしょ?」
「なっ!? なんであんたがここに!?」

 その時だ。志津香は目を見開いた。その場にいた人物に驚きを隠せない。ランスが現れた時よりも、驚いていた。

「まさか……お前まで来てくれるとは思ってなかった。てっきり逃げたとばかり思ってたよ」

 あの町長屋敷の場にはいなかったが、このラギシスの事実を知れば、フィールの指輪を奪って逃げたと言う事実を知れば 逃げ出すだろうと、思っていた筈の女が立っていたのだ。

「あはははっ! ま、ユーリがいなかったら確かに逃げてたわね? でも私は勝ち馬にはのる性質なの。ランスと一緒で、アンタに恩を売るのも悪くないじゃない?」

 ニヤリと笑ってそう言うのは、カスタムのシスター・ロゼだ。

 彼女は決して戦闘が出来るわけではないが、神魔法を使える為、ヒーラーとしても重要な役目を果してくれるのだから。事実、町の住民の傷を治していたのは彼女なのだから。……料金はしっかりと受け取っていたようだが。

「そして~、皆の頼りになる清楚なシスター・ロゼさんが持ってきたのはコレっ! 全治全納の神! 弾けて光りなさい」

 ロゼが掲げたその神を象った像が砕けた瞬間。まわりに温かな光りが降り注いだ。倒れていたメンバーにも満遍なく降り注ぎ、傷口を塞いでいく。

「こ……これは、凄い貴重な回復アイテムですっ! は、初めて見ました!」
「そ、こんな事もあろうかと思ってカイズの町のAL教本部からくすねて来たのよっ」

 驚いているシィルに、ロゼはニヤリと笑ってそう言う。
 皆の体力を回復させるアイテムとしては最上級のものであり、その効果は世色癌とは比べ物にならないのだ。

「おいコラ、淫乱シスター。オレ様より目立ってるんじゃない!」
「なーに言ってんのよ。アンタが目立つのはここからじゃない? 私はこれ以上の事はもうできないんだし、お役御免って訳よ。後は後ろで逃げる機会をうかがいながらチマチマ回復してあげるわ。ご利用は計画的によろしく」

 ロゼはそう言って手を振っていた。その手の指、親指と人差し指をくっつけて○を作っている。
 どうやら、有料のようだった……。だが、ランスは気にせずにそれを聞くと、やる気が出たのか。

「がはは、ならばここからはオレ様の見せ場だ! オレ様の女達は下がっていろ!」
「だから、誰がアンタの女よ!」
「オレも回復したし、また助太刀する!庇われるのばかりは御免だからな」
「私もっ!!」
「まだ……私だって役に立てる」

 完全回復とまでは行かないが、立つ事が出来なかった彼女達を再び戦えるまでにしたアイテム。ユーリはロゼの方を見た。その視線に気づいたようで、ロゼはニヤリと笑って親指を突き立てていた。

「後々が、怖いな」

 ユーリはそう考えながら、笑う。
 あれ程の貴重なアイテムだ。今後……金以外にも一体何を要求されるのかと。だが。

「感謝する。ロゼ!」

 ユーリはそう言っていた。今は、感謝しか浮かばない。それに、命あっての物種でもあるのだ。

「アンタが出来なきゃ誰も勝てないんだから。しっかりやりなさいよ?」

 ロゼはそう呟くと、距離を置き見守っていた。
 彼女は戦う力は皆無であるから、戦闘には参加できないのだ。悪魔を呼び出す事は出来るが生憎今の時間帯は都合が悪いとダ・ゲイルに言われており、呼ぶ事も出来ない。契約者には従わなければならないが、これまで願いを聞いてくれている為、無碍には出来ないのだ。その理由が、悪魔としての力が弱ってしまう等であれば尚更である。


 一行は再び動き出そうとしているラギシスに向き直る。


「おい、コイツを格好よく殺すのがオレ様の役目だ」
「ああ、別に狙ってないから好きにしていいが……それは早い者勝ちだな」
「ふん! 足をひっぱるなよ!」

 ラギシスは、ランスから受けた傷を完全に回復させるとその巨体を震わせた。

「雑魚が何匹集まろうが関係無い! また吹き飛ばしてくれるわ!!」
「がはは、雑魚程よく吼えるのだ! よくもオレ様の女を虐めてくれたな! 貴様は極刑だ!」

 ランスは跳びかかって斬りつけるが……、やはり 大技じゃなければラギシスをとめる事は出来ない。
 
「うげっ! また、体液が付いた!! ばっちぃ、えんがちょー!」
「貴様ぁぁ! どこまでも私をコケにしやがっ「隙だらけだ馬鹿が!」ぬぐ!!」

 ふざけているとしか思えないランスを見ていたラギシス。その間にユーリが接近し、ラギシスの身体を吹き飛ばしたのだ。

「おいコラ! ユーリ! 貴様オレ様より目立つんじゃない」
「なら、しっかりと戦え。目立ちたいんならな!」
「おのれぇえぇ!!」

 ユーリの一撃に憤怒したラギシスは広範囲にわたって触手を伸ばした。標的はランスとユーリじゃない。

「なっ!」
「貴様、オレ様の女に何をする!」
「くくく、精々守って見せろ!!」

 さっきまでとは比べ物にならない程の量の触手を飛ばすラギシス。それを必至にラン達が防いでいるが、数が多すぎるのだ。その時だった。

 突如、ラギシスの頭部が吹き飛んだのだ。

「皆に手出しはさせないわ!! もう1発! いけーー、チューリップっ!!」
「ぐぎゃああああ!!!」

 飛び散った頭から、別の目が生えてきてラギシスは視認した。その攻撃が誰のものなのかを。

「貴様ぁぁッ!!! マリアかっ!!」
「これで総力戦よ!! 皆でアンタを殺す! マレスケも壊されたし、アンタには怨みしか残ってないんだから!! いけー チューリップ!!あなたが最強よ!!」

 叫びを上げながらマリアはチューリップの砲撃を浴びせる。その一撃はラギシスの目があった部分に命中し、再び吹き飛ばした。

「マリア!? どうしてここに?? 後方で待機してる筈じゃ」
「あいつにマレスケ試作型を壊されちゃって、だったら もうこのチューリップ1号しかないでしょ? もう、すっごく心配したんだからね?」

 マリアは、志津香をそっと抱きしめた。
 あの暗黒の波動が迫った時、マレスケを壊された時、皆の事が何度も頭の中を過ぎっていたのだから。

「馬鹿ね……私達がそう簡単にやられるわけないでしょ」
「がははは、心配してたと言ってるが、マリアはついさっきまでのびていたんだぞ? 半べそかきながらな」
「ちょっ! もう、そんなの仕方ないじゃない! 思いっきり背中うちつけたんだからっ! ああ、思い出しただけでも痛い」

 マリアは背中を思わず摩っていた。
 実を言うと、ランスとシィルがここに駆けつけてくる前に気絶したマリアを見つけていたのだ。背中に打撲を負っているが、大した傷ではない。シィルの回復によってこの場に駆けつけることが出来ていたのだった。

「ぐ、がぁ!!」

 流石のラギシスも、頭部を吹き飛ばされてしまった為、暫く動く事が出来なかった。更に、回復をしても、次々と止む事なく攻撃を浴びせられ回復が追いつかないのだ。

「馬鹿な……!! こんな事がっ!!」
「いくら強大な力があっても、再生能力があっても、それを上回る力で攻撃すれば滅びる。これは必然だ。お前の驕りが生んだな!」
「そんな筈はない! わ、私は無限の力を得た最強の……」
「ぐだぐだうるさいわ!! とっとと死ね!! ランスアタック!!」

 ランスの一撃が再びラギシスの身体に当たる。弾けて飛び散る肉片。
 それに、ラン達が念入りに攻撃を与え、肉片同士が集まる隙を作らないし、新たに再生もさせない。
その部分が消滅すれば、全てラギシスの細胞、一部である為、死ぬんだ。この規模の相手には最適の戦闘法である。

「よし! ゆーっ! 詠唱は終わった! いつでも撃てるわ!」
「っ! 判った!」

 ユーリは志津香の合図を聞き、ラギシスの方を再び向いた。ランスが再び攻撃を仕掛けている最中だった。

「ぐ、ぐおおおっ!! おのれぇぇ!! こう……なったら最後の手段だ!!」
「がはは、死にぞこないが何か言ってるぞ? それを死亡フラグと言うのだ」

 ランスは剣を肩で担ぎ、不用意に近づく。

「いかん!! ランス下がれっ!!」

 ユーリは何かに気がついたのか、ランスの襟をつかんで下がらせた。

「ぐげっ! 何をしやが、む!!」
「指輪の全てを解放する! 我が元にこいっ!!」

 ラギシスはこれまで、部分ずつを集約させていたのだが、今度はその魔力を全て身に集中させたのだ。


「ぐぬぬぬぬぬぬ!! があああああ!!!」

 
 苦痛にのたうち回るような叫びをラギシスが上げたその数秒後。ラギシスの身体が更に変貌をしていった。丁度、ランスが飛びかかろうとした場所もあっと言うまに、変貌したラギシスの肉片で埋め尽くされてしまう。
 あの場にいたら、ランスの身体事、飲み込まれていただろう。

「……はは、はははははははは!!! 強大すぎる魔力、無限の魔力を全て身に纏える程までになった!! これで、私は無敵!! 最強だ」

 高らかに笑いを上げていた。
 身体が壊れてもおかしくない程の魔力の集中。だが、今のラギシスは変貌に次ぐ変貌を遂げていた為、それを飲み込むだけの事が出来たのだ。

「ちぃ!! ただでさえ、デカい図体が 更にでかくなりやがって!」

 魔力でぶくぶくにでかくなった身体を見上げるランス。
 その身体の部分部分からは、もうお馴染み、いつも通りと言っていい触手がうねりながら出てきていた。

「く、くくく!! さぁ! のんびりと黒色破壊光線を唱えさせてもらおうか!」
「させるか!! いっけーーチューリップ!!」

 マリアが、頭部の部分を狙って撃ち放つが……。

「無駄だ!!」
「くうっ!! なんなのよ! あの触手は!!」

 無数の触手が束となり、ラギシスの頭部を庇ったのだ。故に詠唱を阻止する事が出来ない。あの触手は、攻撃でも有り防御でも有ると言う事だろう。

「ええぃ! 気色悪い! 何とかしろ、ユーリ!!」
「お前もするんだよ。アレを飛ばせるのはオレ達だけだ」
「ふん!」

 ランスとユーリが同時に構えた。ユーリが狙っているのはただ一点のみ。ランスは、ラギシスの中心部を狙う!

「ランスアタック!!」
「煉獄・爆砕!!」

 2人の一撃は、爆発を呼びラギシスの身体を吹き飛ばす。だが……

「ぐが……!! は、はははは!! 今の私にその程度が聞くかぁぁ!!」

 確かに、ラギシスの身体の一部は吹き飛んだ。……だが、肥大化した身体の一部を吹き飛ばしただけにすぎないのだ。指輪の全ての魔力を飲み込んでいるだけの事があり、回復力も先ほどの比じゃない。

「ランスっっ!!!」

 巨大な身体の一部を吹き飛ばした所で、ラギシス自身に深手を負わせる事がもう出来なくなってしまっていた。
 攻撃に怯むことなく迫るのは異形な形の巨大な手。ユーリはランスを蹴飛ばして、その手から庇った。

「ぐぉっ、何をする!! っ! おい、ユーリ!!」

 ユーリは、ランスを蹴り飛ばした後、その迫る巨大な手を躱す事が出来ず、そのまま、ラギシスの巨大な手に掴まれてしまったのだ。

「く、くくく!! こうしてしまえば貴様はもう何も出来まい!! その爆発を生む厄介な腕を封じ、武器も弾き飛ばしたんだからな!」
「ゆ、ゆぅーッ!!!」

 志津香は思わず叫んでいた。
 今にも飲み込まれてしまうあの姿を見てしまったのだから。

「ぐ……、く、くく、はははは………!!」

 とてつもない圧力を受け苦痛に歪んでいたユーリだったが、突如笑い出していた。


「はははっ! ここでも貴様は笑えるのか!? 大した玉だな? だが、もう手詰まりだろう! 女共は我が触手の餌食になるのも時間の問題だ。そして、あの男の攻撃も今の私には最早効かん!」

 絶対の実力差が出来たとラギシスは思っていた。ここからは何があってももう逆転は無いと。


「まだ……まだお前は気がつかないのか?」


 だが、ユーリは笑いを止めなかった。その笑みは自棄になったとかじゃない。何かが違う。
そう、勝利を確信した笑み。

「何を……、なっ!!!」

 ラギシスは、巨大な目をユーリに向けていた。

 ユーリの手の中にある≪物≫を見て目を見開く。

「そ、それは!!! き、貴様!! いつの間にっ!!」
「馬鹿が……、何度も指輪の力に頼るからだ。何処に指輪があるのか、一目瞭然だったぞ? 後は、そこに目掛けて攻撃すれば良い。汚い貴様の体に隠れた指輪を掘り出すのにな? この指輪は返して貰おうか」
「あれはその為の攻撃だったと言うのか!! おのれえええ!!」

 ユーリが握っていたのは、4つのフィールの指輪。
 指輪を身体から離してしまったラギシスの身体は暴走を始めていた。この身体はあの指輪があってこそのものであり、その巨大な身体を制御する為のものでもあったのだ。

「ラギシスの身体が……!!」
「指輪外して、暴走してるんだ!!」
「あの馬鹿、またオレ様より目立りやがって!」
「ユーリ!!」
「ユーリさんっ!!」

 指輪を失ったラギシスの身体と共に、人間としての理性も削れていった。

「ぐ、ぐあああああ!!!! か、からだがぁぁぁ!!!!!」

 身体をうねらせながら、絶叫するラギシス。だが、最後の足掻き、なのだろうか? 人としての意識も理性も失いつつあるのに、ユーリを決して離しはしなかった。

「今だ!! 志津香っ! 撃つんだ!!!」
「なっ……!! 何をっ!!」

 志津香はその言葉に戸惑いを隠せなかった。確かにもう何時でも撃つ事が出来る状態だ。

 でも……今使えばラギシスだけでなく……。

「そ、そんなの! 出来るわけ……!!」
「オレは大丈夫だ。信じろ、志津香!! 最後はお前の手で……お前の手でやるんだ!!」

 ユーリは、志津香の目を見ながらそう言っていた。
 確かに距離はある。だが、志津香はユーリの目を見れていた。決して嘘を言っている目じゃない。そんな嘘、ユーリは付かない事を志津香は判っていたんだ。

「何をしているのだ! さっさと撃たんか」
「何をっ!」
「あいつが大丈夫だと言っているのだ! なら大丈夫に決まっているだろう! さっさとアイツに引導を渡してやれ!」

 ランスの声も志津香の後押しをしていた。決して、ランスは認めないだろう。……ランスもまた、ユーリの事を信頼している。ユーリが出来る、と言えば 何1つ疑う事なく、任せられる。そう 頭の何処かで想っているのだ。

「……約束よ。破ったら承知しないから!!」
「勿論だ」

 ユーリは頷いた。
 志津香も頷き返し、そして目元の涙を拭う。もう、覚悟は、出来たようだ。

「ぐががあああ!! き、キサマモ、ミチズレ……ダ!」

 もう殆ど意識がなくなっているであろうラギシス。だが、執念だけでユーリを掴み続ける。デカイ手で掴まれているユーリの身体。今、自由に動かせるのは左腕だけだ。だが、それだけで十分。

「白色破壊光線!!!」

 志津香の手から撃ち放たれた光り輝く強力な光線。凄まじい程の魔力を帯びたその光線はラギシスの身体へと一直線に向かっていく。

「此処で死ぬのはお前だけだ。……これは、これからの攻撃は惣造さんとアスマーゼさんの分だ!!」

 左手で取り出したのは一振りの短刀。かなみから譲り受けた短刀だった。その短刀で掴んでいる部分切り落とした。

「かなみ。助かったよ」

 短刀で腕から脱出するその瞬間、この短刀を授けてくれたかなみに礼を言っていた。彼女の刀が無ければ、もしかしたら 無理だったかもしれないのだから。

 そしてその直後に白色破壊光線がラギシスを包み込む。

「バカ……ナ、コノ、ワタシ……ガ……マタ……」

 叫ぶ間もなく、志津香の光線はラギシスの身体そのものを吹き飛ばしていた。

 そして、光線によって生まれた煙が当たりを覆っていたが……、風と共にそれは晴れた。

 着弾点にはあのラギシスの巨大な身体は跡形もなく消し飛んでいたのだった。







 全てが、ラギシスの全てが消え去った後。その光景を見た後、志津香はすぐさま 駆け寄った。

 大丈夫だといっていた筈なんだから。あの場所に無事でいる筈なんだから。

「ゆぅっ!! ゆうぅぅぅッ!!!」

 ロゼのアイテムで回復したとは言っても疲労感がかなり残っていたが、それも構わず彼の名を呼び、叫びながら探し続けた。

「そんな……ユーリさんが……!」
「なんで、なんで!! おねえちゃん!なんで、ユーリさん、あの時に撃てって言うのっ! あんなの……あんなの受けちゃったら……」
「あいつ……最後の最後までオレ達を庇ったんだ。暴走した状態だったらどうなるか判らないから。……万が一でも、暴走したアイツがオレ達の方へと来ないようにって。だから、志津香の魔法で吹きとばせって………! それでお前が死んだら意味ねえじゃねえか!!」

 ミリも志津香に続いて駆け出した。

「そんな……うそ、嘘よっ!」
「ユーリさんっ!!」

 ランも、マリアも武器を捨てて駆け出す。

 ラギシスが消滅したその場所。……ユーリも一緒にいた筈の場所。……そこには、彼の姿が無かった。影も形も無かった。

「そ、そんな……」
「………」
「………」

 マリアは呆然と立ち尽くし、ランスも何も言わなかった。それは、遅れてこの場に戻ってきたロゼも同じ。

 ただ、口を噤んでいるだけだ。

「ゆーが……ゆーが約束を破る分けない!!」

 志津香が悲鳴に似た叫びを上げていた。承知しないと言い、そして約束をしたのだから。



 その時だった。



「……勿論、さ」
「ッッ!!」



 声が、訊えてきた。その声に、誰よりも早く反応し、振り返ったのは志津香だった。

 そこは、洞窟の前。
 
 ユーリは初めにランスが立っていた場所にいたのだった。所々、怪我はしている様だが、ちゃんと立っている。……無事、だった。

「はは……凄い威力だな? 志津香。アイツの腕から飛んだら、反動で此処まで飛ばされてしまったよ。……鳥になった気分だった」
「………」

 志津香は信じられないものを見るように目を見開いた。
 そして、帽子を深く被りなおし、ユーリに軽く蹴りを一つ入れた。

「……バカっ。心配、心配をかけ過ぎよ」
「……ああ、すまなかった」
「「ゆーりさぁぁんっ!!」」
「ユーリ!!」
「うわぁぁんっ!!」
「なんだ、生きてたのか」
「ランス様……良かったです。ユーリさんが……」

 皆がユーリの元へと集っていた。

「はは、アイツがあの程度でくたばる訳無いってね」

 ロゼもにやりと笑っていた。
 それでも、流石のロゼも少しは心配していたようでほっとため息を吐いていた。ランスは憎まれ口を言っているようだが、何処か安堵したようにも見えていた。たくさんの女達が寄っていると言うのに、文句も言っていないのが、その証拠だろう。

 そんなランスにシィルが抱きつく。彼女も、凄く心配していたんだから。

「ええぃ! 貴様ら!いつまでも、ユーリユーリ言ってるんじゃない! オレ様が助けてやったんだぞ!」

 ランスは、流石にユーリに群がっている状況に、もう我慢できなくなってしまったのか?マリアたちに飛び掛っていった。

「きゃあっ! ら、ランスっ!」
「あははっ! ランス~! 私もっ!!」
「おいおい……」
「あ、あうっ~~……」
「ランス様……」

 ランスは手当たり次第に彼女達の身体を弄んでいたのだった。

 それを1歩離れていた所で見ているのは志津香。

「全く、この男は……」
「ふふ、この男が来なかったら不味かった。……それは事実だ。 志津香。案外、ランスが口癖の様に言う英雄と言う言葉。……間違いないかもしれないな」
「正気なの? ゆー。性質が最悪過ぎるじゃない。……もう3回目になるけど仲間は選んだ方が良いわよ? 絶対に」
「ははは、でも良いのか? 志津香」
「……え??」

 志津香はユーリの言っている「良いのか?」の意味が判らず首を傾げていた。ユーリは笑いながら志津香を見ると。

「オレの呼び方。……昔の呼び方になっているぞ?」
「っっ!!!」

 志津香は、はっとして口を押さえた。一体いつから?違和感があまりにもなかった為、中々気づけなかったようだ。

「わ、忘れなさいっ!!」
「いてっ! お、おい、これでも怪我人だぞ! そんな何回も蹴るなっ!」
「うるさい!! 忘れる! 絶対にっ!!」

 志津香は、顔を赤らめつつユーリの胸に指を突き刺した。ユーリは苦笑いしつつ後ずさると。

「あの戦いだったんだ。それに、今はランスが喧しい。……誰も覚えてないし、訊いていないって」
「ぅ~~……」

 安心していいのか、どうか微妙な所だと志津香は思っていた。確かに今はランスが暴れている状態だから、訊いていないと思うが、ユーリは訊いていたのだから。
 だが……、それは外れなのである。

「(うふふ~!私は聞いてたもんね~)」
「(オレもな♪)」

 志津香の「ゆー」発言は、マリアとミリはばっちりと聞いていたようで、2人を見ながらニヤニヤと笑っていた。そんな中でも、堂々と言うのが やっぱり彼女だ。

「もう良いじゃない? 志津香。その『ゆー』って呼び方でも。 あ~ら、本当に可愛らしい関係で羨ましいわ~(棒)」
「っっ!! こ、このぉぉ!! ロゼっっ!!」
「きゃー志津香が怒ったーー(棒) ゆー、助けてー(棒)」
「今疲れてるんだ。あまり無茶をさせるなって」

 志津香はロゼを追いかけて、ロゼは巧みに躱していた。本当に終わったんだと改めて実感出来る光景だった。

「がははは!! ぱふぱふ~~! む? なんだあれは??」

 ランスは、不意に空を見上げた時に気がついた。

 光の粒が無数に浮遊しているのだ。この場の全体を覆いそして形を成していく。形を成した途端、辺りが光り輝いた。

「なんだ!?」

 その光に皆が驚き見ていた。光が止んだ後、現れたのは……。

「おおおおっ!! 裸の美女がいっぱいではないか!! ひーふーみー……じゅるりっ」
「ら、ランス様。涎が……」

 ランスの言うとおり、無数の女の子達が現れたのだ。

 それも裸で。明らかに普通じゃない状況。突然人間が現れるなんて。
 だからこそ、ユーリは女の子達の1人に訊く。

「君達はいったい何者だ?」
「私達はフィールの指輪に閉じ込められていた40人の女の子達の魔力です。今はこうして元の持ち主の姿で実体化しています。私達を解放していただき、本当にありがとうございました!」
「「「皆さん、ありがとうございました!!」」」

 フェールの指輪に吸われた魔力が 解放され形を、元の持ち主を形成する事は知らなかった。だからこそ 四魔女と呼ばれている彼女達も、沢山の女の子達が現れた時、驚いていたのだ。

「いえいえ、どういたしまして~……じゃなく、なんで裸なんですか!? 何か着てくださいよ!」

 マリアは思わずそうツッコミを入れてしまっていた。魔力で実体化をしているからこそ生身なのだろう。裸の理由はそこにある。

「志津香、どう思う?」
「間違いないわね。彼女達からは魔力が強く感じるから。魔力そのものなのだとしたら、納得出来るわ」

 志津香はそう頷いた。
 ユーリはそれを聞くと、女の子達の方を向く。

「そうか、なら自由になったんだ。元の持ち主の所へ還ると良い。その方が本人達のためにもなるだろう」
「いいえ、一度離された魔力は元に戻ることが出来ません。それにこの中には変えるべき肉体がもうこの世にない魔力も沢山います。ですから、私達はもう直ぐ消え去ることでしょう。その少しの時間を使って御礼を言いたかったんです」
「成程な……。残念だったな、マリア」

 ユーリはマリアにそう言う。この中で一番魔力を失ったのが彼女なのだから。

「う~ん、確かに残念だって思うけど、私にはチューリップがあるんだし。魔力にも負けないから! これから2号を改良して、そして3号! ドンドン、チューリップを作っていくわよ!」
「ポジティブだな。……良い事だ」

 無くなったものは、戻らなくなったものは仕様が無い。それを彼女は良くわかっているようだ。……単に、魔法よりも兵器開発の方が興味あるだけかもしれないが。

「私も別にね? 幻獣さんの数は減っちゃったけど、出せるんだし」
「私も不自由はしません。魔法よりもっと頑張らなきゃならない事が多いですから」

 ミルもランもそう言っていた。彼女達も特に気にしていないようだ。カスタムの女の子達はとても強いとユーリはこの時思っていた。

「そこで、私達が消え去る前に、最後の魔力を使って何か1つだけ、あなた達の願いをかなえてあげましょう」
「なんだと!? 本当か!」
「何でも……と言うのは?」
「私達は40人分の魔力なのですから、その力を使えばかなりの大規模な事が叶えられます。そう、王国を1つ手に入れる事でも、この世の王になる事でも、不老不死でも……なんでもおっしゃって下さい。ただし、最初に言ったとおり1つだけしか叶えられません。皆さんで1つだけになります」
「うっひゃ~~そりゃ凄いわね!」
「何でも……か」
「ん~~1つなら皆で相談しないとね」

 とりあえず、ひとつだけと言う事で皆は円を作って話し会う事にした。

「私はチューリップの研究費用を……」
「私はランスがデレデレするくらいの色っぽい姿になりたーいっ!」
「ん~~、私はダ・ゲイル以外の悪魔とヤってみたいのよね~。上位の階級の男悪魔紹介してもらおうかしら??」
「私は、ランス様とずっと一緒にいられるだけで………」
「いきなり、何でも叶えられると言われてもな、ちょっと前までならミルを取り返す事だったが、それは叶ったし」
「町の恩返しをしたいので……復興費用を頂けたら、いえ。町を発展させてくれたら……」
「ラガールの居場所を……、いえ もう一度過去に戻れたら」

 皆が様々な意見を出し合っている。そんな中、ユーリは志津香の頭を軽く叩いた。

「んっ! な、なにっ!」
「……それは、止めておけ。また 味わう可能性がある。……もう、オレは見たくない」
「っ……」

 志津香は、その言葉を聴いて、何も言えなくなった。過去に戻ったあの時、何も変えられず、絶望しか映らなかったのだ。ユーリが、見たくないと言っているのは、その絶望してしまっていた自分自身の姿だと言う事は直ぐに判った。
 だからこそ、志津香はゆっくりと頷いていた。

円になって話し合ったのは良いが一向に纏まらない。
当然だ。願い後とは十人十色。纏まるわけが無いんだから。

「ん~~……決まらないんだったら今回の立役者の願いを聞いてもらうで良いんじゃないか? それなら皆納得するだろ?」
「うん……、それもそうね。なら……「がーっはっはっは!!」って!!」

 ミリの提案に志津香が乗ろうとしたその時だ。ランスが大笑いを上げて立ち上がった。

「立役者とは英雄であるオレ様の事だな! つまり、オレ様の願いでいいわけだ! それなら……!!」
「なんでアンタなのよ!! どう考えても……むぐっ」
「良いさ。あいつが来てくれたから、勝てた。それは事実だ」

 止めようとする志津香の口を、ユーリは塞いだ。
 
 自分の事を言うんだろうと思ったユーリは志津香にそう言っていたのだ。だが、志津香は納得が出来ていない様子……。そうこうしている間に……。

「オレ様の願いは……」
「こらぁ! 皆まだ同意してないじゃない!」
「ミリのおかげで纏まりそうだったのにぃ!!」
「こんな美女に囲まれてるんだ!ハーレムだぁぁ!! 41Pだぁぁぁ!!」

 ランスが一際大きな声でそう言うと。

「承りました。ランス様」

 美女達が、一斉にランスに集まってきた。

「がはははは!! オレ様最強!」

 ランスは言葉の通りに40人とS○Xをするようだ。美少女達の波の中にダイブするランス。

「あ……ああぁぁ……こんな機会、もう二度とないわよ~」

 マリアは、願いが確定してしまったのを見て、がっくりと項垂れてしまっていた。当然だろう、何でも願いを叶うとか、40人分の魔力とか、早々にあるものじゃないから。

「わぁぁ、私もまぜて~ランス~~!!」

 ミルはと言うと、ランスの方へと駆け寄り一緒に楽しもうとするが。

「ガキはいらん」
「きゃん! ひっどーい!」

 ランスに、近づいた所で、一蹴されてしまい、お預け状態のわんわんみたいになってしまった。

「やれやれ……、ユーリ」
「ん?」
「良かったのか? その……願いで妹や母親を……」

 ミリは、声を小さくさせながら、ユーリにそう言う。何でも叶うのであれば、叶えたい事が絶対にあるのはユーリも同じ筈だ。そして、今回の立役者と言えば間違いなくユーリも候補の1人だから。
 それを訊いたユーリは軽く笑う。

「……構わないさ。自力で探すんだ。確かに惜しいと思っているのは事実だが……」

 一呼吸置いて続けた。

「それに、1つしか、叶わないんじゃ 2人は無理かもしれないだろう? どっちか片方なんて、オレには選べない」

 そう答えていた。複数頼めるか?と聞けば出来るかもしれないが、もう後の祭りだ。それに……。

「(所詮は人間の魔力。出来るとは思えないから……な)」

 ユーリはそうも思っていたのだ。
 願いが叶うと彼女達は言っているが、それは人間の魔力。人間以上の力は決して出来るとは思えないからだ。ミリはその答えを聞くと、愚問だったと笑う。

「自力で、か。お前らしい答えだよ。さて、オレも折角だし、ランスに混ざってくる。一緒にいかないか? 42Pなんて、そんなあるもんじゃないぜ?」
「……遠慮しとくよ。結構……いや、メチャ疲れてるし」

 ユーリは頭を掻きながらそう言っていた。

 ユーリの答えはこれは正解のである。
 なぜなら、足に魔力を溜めた≪魔力キック≫を準備している少女が直ぐ後ろで待機していたのだから。妙な事を言おうものなら、即座にその蹴りがユーリの金的にヒットしていただろうから。
 
 ユーリがそう言うと同時に魔力を解いていた。

「あう~……ランス様ぁぁ……」

 シィルは悲しそうに涙を流して見ていた。
 涙を流すと言っても なんだかギャグっぽい涙だった。皆が無事だった安堵感もあって、この状況だから上手く表現できなかったようだ。

「ははは……、ん? ロゼは行かないのか?」
「私はパス。レズには興味ないし~。ランスもいまいちテク無いしね? やっぱ相手は悪魔に限るわ」
「……も、お前シスター辞めたらどうだ?」
「じょーだん。こんな楽して儲けられる職業、他に無いんだから」

 ロゼはケロっとそう答えると、とりあえず 『視姦♪ 視姦♪』と言いながら行為を見て楽しんでいた。

「んで、アンタはいつまで見てるつもりよ!」
「痛ッ! なんで志津香はいつもそれくらいで怒ってるんだよ……、お前の蹴り、結構痛いんだ。カンベンしてくれ」

 魔力は解除してくれた様だが、結局蹴りは食らってしまうユーリだった。

「……超鈍感」
「うぅ……鈍感にも程が…… ああ、あの様子じゃ私の事も気づいてもらえないわよね……絶対に……」

 マリアとランは、2人のやり取りを見ていてそう呟いていた。
 あんな志津香見たこと無いから 見れて楽しい事は楽しいんだけれど、少し不憫にも思えるからだ。

 そんな時だった。

「さぁ! 貴方も一緒に!」
「んぇ?? し、志津香??」
「んなっっ!!」

 志津香がいつの間にか裸になってユーリの手を引いている。
 
 いつの間に裸に?っと思ったユーリだったが、彼女達の魔力も吸われている為、この場にいるのは当然だろう。

「……なんでオレも? 願いを言ったのは、ランスだぞ」
「ランス様は、《自分》のハーレム、41Pとは言いませんでした。だから、その願いはこの場の男性を対象に発動してますので!」

 志津香とは到底思えない笑顔でニコリと笑って手を引いた。多分このまま手をとったら、めくるめくるピンクの世界へと誘われるだろう。

 だけど、そんな事をさせる訳、ありません。 何故なら、それを、裸の自分自身と、その言動を見て訊いた志津香はワナワナと震えていたから。

「だだだ、駄目に決まってるでしょ!!! てゆーか、見るな!! ユーリ!!」
「ぐええっ!! き、決まってる! ろ、ロープロープ……!!」

 志津香から目隠しとヘッドロックを同時に食らい……、ユーリは ギブアップ、とタップをしていた。
 裸締をされてしまった以上は自分の命運は志津香にかかっていると言っても過言じゃないのだ。

 ……マジで冗談抜きで、抜け出せず 段々意識も遠くなっていく。

「なにーー!! ユーリ! これはオレ様の願いだぞ! 貴様にはヤらせん!! 志津香とヤる前の前哨としてその志津香はオレ様が抱く!」
「それも却下よ!!」
「ヤルと言ったらやるのだ! とーー」
「粘着地面っっ!」
「んげーっっ!!」

 志津香は、ランスの突撃を巧みに躱す、と言うか粘着地面で阻止していた。肩で息をしながら。

「………はぁ、はぁ し、死ぬかと思った。これまでで一番かも」

 漸く解放されたユーリは、吸えていなかった空気を、必至に肺にとり込んでいた。

「ふんっ……」

 志津香はユーリを解放しつつ、自分自身の魔力を抱きしめて行為に行く事を阻止していた。

 不思議と、彼女は抵抗する事はしなかった。願いを叶える為に存在していると思えるのに。

 志津香の魔力は、持ち主である志津香の方に首を向けてニコリと笑うと。

「自分の気持ちに正直に……ね? じゃないと彼、取られてしまいますよ?」

 誰にも聞かれない程の声の大きさでそう呟いた。志津香の魔力の為、彼女の性格はよくわかっているようなのだ。

「ッ……!! ち、ちが……」

 否定しようとしたが……自分の魔力だ。自分自身にそう言っても無駄なのは判っているから。

「……再開してからまだ間もないのよ。気持ちの整理もつけれて無いのに」
「ふふふ。貴女なら、そう言うと思ってましたよ。言え、私にとっては、マスターと言うべきですか。 確かに 願いはランス様、そしてユーリ様のものですが……。マスターの意向とあらば仕方ないですね。私自身の純血も守りますから」
「……判った。でも、私の姿でアイツを、ランスを様付けして呼ぶの止めて。……ユーリは兎も角」
「ふふ、それはご勘弁して下さい。こう言う仕様ですので」
「全くもう……」

 志津香はそう言うと自分自身の魔力を離した。

「同じ顔が並んでいるとやっぱり違和感があるな? 双子を見るとこんな感じかかな」
「って、見てるんじゃないわよ!!」

 志津香の渾身の蹴りが、ユーリに直撃。

「いっ……たーーっっ!!」

 正確に同じ位置に喰らった蹴り。ユーリは思わず悶絶して、脚を掴みながら、ぴょんぴょんと跳ねていた。

「ふふふ、マスターと彼、これからどうなるのかしらね。何だか、楽しみです。ずっと見ていたい……」

 志津香の魔力はただ、2人を見ながら微笑んでいた。こうして、ラギシスを討ち倒し、指輪の魔力の解放も出来た。



――……カスタムの事件の全てが終わった瞬間だったのである。



「こらーーーーーー!!!! 終わらすな!! まずはこれを解かんか!! 折角のハーレムがお預けでは無いか!!! あの時は多少とは言え、外すのに苦労したんだぞ!!!」



 最後の最後で、ランスの叫びが事件の幕を引いていたのだった。




「だから、終わるなーーーーっっ!!!これを解けーーーっっ!!」




 
 

 
後書き
〜人物紹介〜


□ フィールの指輪の少女達

四つの指輪の中に閉じ込められていた40人分の魔力が実体化したもの。その為勿論人数は40人である。ランスの願い通り41Pのハーレム行為をしていた彼女達だったが、唯一加わっていない少女もいた。その少女はある人物達見て微笑むと、他の子達とランスのハーレムが終わったと同時に一緒に消え去った。


〜魔法紹介〜


□ 回復の雨
使用者 シィル

周囲に雨を降らせ、傷を癒す魔法。ヒーリングより回復力は落ちるが全体効果がある為、かなり重宝されている魔法でもある。
神魔法:中級魔法に分類


□ 白色破壊光線

光り輝く光線を撃ち放つ魔法。その威力は同じ光線系の黒色破壊光線に次ぐが 威力は属性ダメージを外せば黒色破壊光線に比べたら劣ってしまう。
高位の魔法使いしか使いこなす事が出来ない最上級の魔法である。


〜アイテム紹介〜


□ 全治全納の神

神の姿を象った水色の彫刻。
天に掲げ、使用すると砕けて光の粒となり、全体に降り注ぐ。その効果は絶大であり、回復アイテムの中では最高クラスのものである。
かなりの稀少アイテムである為、滅多に手に入らない物でもある。
因みにお店には置いてません。
 
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