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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第2章 反逆の少女たち
  第28話 絶望の中の光


~カスタム周辺の森~


 志津香は目を閉じ魔力の残り香をおっていた。

 あの指輪の魔力は強大だ。
 いくら、それを隠そうとしても隠し切れるものじゃない。高位の魔法使い(ハイレベル・ソーサラー)相手であれば尚更だった。

「こっちよ。間違いない……アイツはこの森にいる」
「……わかった。よし、ここで一先ず役割を確認しておこう」

 ユーリが皆の方を向いてそう言っていた。
 こちらの人数は6人。

 志津香、ラン、ミル、マリア、ミリ、そして、ユーリだ。

「前衛、接近戦はオレとミリ、そしてランだな。深追いは禁物だ相手の出方を見極める事。決して無理はするなよ」
「ああ、任せろ」
「はい。頑張ります」

 ミリとランは強く頷いた。
 ユーリは、その2人を確認すると、次に志津香たちを見る。

「後衛は、志津香とミル、そしてマリ……ん? 何をしてるんだ?」

 視線をマリアに向けてみると……、一体何処から出したのか、砲台を乗せた台車を押していた。どうやら、町から急遽持ってきたとの事だ。

「おお! 気づきましたか、ユーリさん」
「誰でも気づくでしょ……そんな大きい物体持ってれば」
「なにそれ? マリアのオモチャ?」
「なんでオモチャなのよ! ミル!」

 マリアは時折はツッコミを入れつつその砲台を皆の前に見せるように持っていき胸を張った。

「これこそ、私の最終兵器! その名もチューリップ2号・マレスケ試作型!」
「最終兵器で試作型って……大丈夫か? 肝心な所でポカミスとかしたら洒落にならんぞ?」
「ああ、もう! 茶々入れないでよランスみたいに!」

 マリアはユーリのツッコミに頬を膨らませていたが、直ぐに調子を取り戻して説明を始める。

「整備はばっちりだし、撃てる事も確認済みよ! これは長距離用の兵器なの。私の場合は皆より遥かに魔力を吸われちゃって、魔力的な戦力は出せないから、離れた場所からこれで、皆を援護するわ。上手く誘導をお願いね? 洞窟とかにいたら厄介だから、その場合は外に連れ出してきて」

 喜々爛々と言った感じでそう言っていた。それ程までに自信があるのだろう。
 
 確かに、マリアの兵器はポカミスさえなければ十分に驚異的だ。……チューリップ1号の時は、初めはこんぼうだったのだが後半では強力な武器となっていたのだから。

「撃てる事を確認したって事は、エネルギーが無いとかは言わないって事だな。それを直接武器にするのは無理があるしな? あの1号みたいに」
「ゔ……それは私の黒歴史なんだから、掘り起こさないでよ!」
「ん? そうなのか、マリア。黒歴史だって想ってるのは、てっきり鏡の間でのオレとの一戦の方が、って思ってたんだが?」
「うきゃああああっっ!! それはもっと思い出させないでっっ!!」

 ミリの言葉にマリアは、両耳を塞ぎながら絶叫をしていた。本当に思いだしたくないようだ。
 あの鏡の要求をした事を……。

「それは兎も角置いといて」
「置くどころか削除して! 記憶の底から削除しといてユーリさんっっ!!!」

 ユーリは話を戻す為にそう言ったのだが、マリアにとっては置いとくと言う比喩も嫌だったようでそう思わず言ってしまっていた。
 それを聞いていた志津香はと言うと。

「(……後で問い詰めよう)」

 何か無性に気になったようで、この件が全部終わったら、マリアに聞いてみようと決めたようだ。

 その結果次第では……と、力を込めていた。つまり、再びユーリの足が悲鳴を上げるのが決定したのである。いや、マリアが話さなければ……。いやいや、ミリが面白がって話をするだろうから、志津香が知るのは既に決定だろう。……ユーリの足の運命も。

「ああ もう、話が進まないじゃないか。戦闘前でリラックス出来ているのは良い事だが、話を進めるぞ?」
「あーうー……わかりました……」

 マリアは項垂れつつも、しっかりと頷いていた。
 今は、ユーリの言うとおり戦いの前。こんな平和なやり取りは、アイツを倒した後に取っておく、と。

「次にミルだが、幻獣でのサポートを頼む。あの時程は出せないと思うから、ミルも決して無理はするなよ?」
「うんっ! 幻獣さんは強いですから安心して! しっかりと助けてあげるから!」

 ミルは胸を張りつつ、右拳で胸を叩いた。

「志津香は、この中で一番魔力が高い。ラギシスの魔法を防いだり、封じる事は可能か?」
「ええ、大丈夫。長い時間は多分持たないけど、アイツを倒しきるまでは封じて見せるわ」

 志津香は腕を組んで強く頷いた。
 この中ではユーリが言うように、指輪の恩恵を受けている状態とさほど変わらないのだ。だから、魔には魔をもって防ぐ事が可能となったのだろう。

「だから、しっかりと私を守ってね。前衛さん」
「ああ、任せろ」
「ふふ、2人の世界創ってるんじゃねぇぞ?」
「……私も前衛よ、志津香……」
「っ!! そ、そんなんじゃない! ただの言葉の綾よ」

 志津香は思わずミリにそうツッコミを入れていた。
 ミリ、そしてロゼは、天敵であるとこの時改めて意識をしなおす彼女だった。

「……はは、ミル」
「ん? なーに? お姉ちゃん」
「ユーリも言ってたが、絶対に無理はするなよ?危なくなったらオレの後ろに隠れるんだ。絶対に守ってやるから」
「うん。でも 私だってラギシスは絶対に許せないから、最後まで頑張る」

 一番最年少であるミルに今回の戦いは酷だと思わずにはいられない。だが、彼女も強い思いをもってこの戦場に来ているんだ。その思いを無碍に出来るものじゃないし、何より今の時代 年齢は関係無い。戦える力をもつものなら尚更なのだ。
 その分、大人であるほかのメンバーがフォローに回れば良い。

――………

 軽口を時折いれ、笑い声も出ていた場だったのだが。やはり会話が途切れると沈黙となってしまっている。ランスも言っていた事だが、この先にいる敵は強大なのだ。
 40人の魔力、そして 自分達の魔力も吸って強大になったラギシス。前回は、指輪の力を借りて、倒す事が出来たが今回は……と、不安感が拭えない様子だった。

「……大丈夫だ。誰も死なせない、勝ってカスタムで宴をやり直そう」

 その中でユーリが、そう言って笑った。そして、付けていたフードを外して放った。

「はは、素顔出して良いのか?」
「茶化すなよ。……今回はしょっぱなから本気って事だ」

 ミリにそう言うユーリ。

 ミリはこの時少し寒気が走っていた。
 極端に狭まっている視界の中でユーリは正確無比に敵を討ち取っていた。それが、今の状態なら極端に言えば視野倍以上に広がるだろう。判断力が以前以上に増すと言う事もわかるし、尚且つ本気だと口に出している。回避能力も向上しそうで、魔法すらかわしそうだ。

「(今は童顔童顔って言えないね。良い男だよ。最大限に信頼出来る)」

 ミリはニヤリと笑っていた。
 背中を預けるのに、ここまで頼りになる者を知らないのだから。

「……ふふ」

 志津香も笑っていた。
 いつの間にか、ユーリがリーダーの様に振舞っているが、別に違和感があるわけでもないし、信頼も出来る。それは他の皆も同様のようだ。

 あの日の少年はこんなにも強くなって自分達の町を守ってくれようとしている。確かに自分達も戦うのだが、なんだかとても嬉しいんだと志津香は感じていた。

「皆、いくぞ」
「ええ」
「よし、妹を誑かせた礼はたっぷりしてやる」
「サポートは任せて! ラギシスなんか吹き飛ばしてやるんだから!」
「うんっ! 頑張る!」
「責任は重大。町のためにも、必ず」

 6人はそう掛け合うと、森の奥へと視線を向けた。
 前衛であるユーリとミリが先頭に立ち、志津香、ラン、ミルが後に続いた。



――……決戦はもう、間近に迫っている。



 森の中に歩を進めて数分後だった。
 洞窟が見えてきたのだ。どうやら、あそこにいる可能性が高いだろうと思っていた矢先。

「………」

 ユーリは右手を横に伸ばし、前進をとめるように促した。何かを察したようだ。

「来るわっ!!」

 志津香もそれと殆ど同時に叫んでいた。
 その瞬間、突如洞窟の前の空間が捻じれて歪んだ。時間移動をしたあの時の感覚に少し似ている。どうやら、転移してくるようだった。捻じれ、そして裂けた時空の狭間から指輪を妖しく光らせた右手が出てきた。
 輝きを更に増している四つの指輪が強く輝いたと同時に、ラギシスの全身が露になった。

「ラギシス……」
「ふむ、誰かが近づいてきているとは思っておったが、貴様らだったのか」

 全身を漆黒のマントで覆い隠しているラギシス。
 まるでその風貌は人間のそれではなく、魔王を彷彿させるかのような姿だった。

「貴様らの役目はもう終わった。魔力の供給ご苦労と労いたいものだが、何故私の前に立つ?」

 前に立ったラギシスは全員を満遍なく見ていた。まるで、ゴミを見るかのような目である。

「息の根を止める為よ!」
「危険物を放っておいたら大変だろ? それを処理するのも冒険者の勤めだ。まあ、まだ依頼は着てないが、時間の問題だ」
「そうさ。オレが許せねえのは妹を弄んだ所にあるんだよ!!」
「貴方は決して許さない。町のためにもここで終わりにしてあげる!」
「私もっ!!」

 強い意志を持ってこの場に下りたった戦士達だ。
 気迫は確かに伝わってくる。だが、ラギシスはただただ笑いっていた。状況が理解できないのは哀れだと言わんばかりに。

「ふふふふ! 指輪の力で無限の魔力、そして生命力を持つこの私相手にか? その私相手に勝てるはずもあるまいに……よほど命がいらんと見えるな」

 ラギシスは顔に手を当て、笑いを上げていた。
 それは敵から目を離す行為であり、戦いにおいては愚の骨頂だ。

「煉獄・居合」
「ぬぐぁっ!!!」

 ユーリの一閃がラギシスの胴部分を真一文字に切り裂いた。
 どうやら、今は幽体ではなく指輪の力で身体を作ったようで、血も流れている。だが、傷は浅いようだ。1歩、いや半歩 後方に回避をした為だ。

「ほう……、突然強大な力を得たものは それにかまけるものだがな? 認識を誤ったか。中々やるじゃないか。小者」
「き、貴様ぁぁぁ!!!」

 ラギシスは、ユーリを睨みつける。

 それが、決戦の合図だった。

「いけえ!! 幻獣さんっ!!」
「おらああああ!!!」

 ミルとミリの攻撃がラギシスに迫る。
 だが、完全に戦闘態勢に入っているラギシスはそれを問題なく魔力で弾き飛ばす。

「ぐっ!」
「幻獣さん、負けないでっ!」
「ふん、その程度の攻撃。私にかすり傷一つつけられん!」
「の割には、ばっさり斬られたじゃないか。あまり口を開かない事だ。小者ぶりが露呈するだけだ」
「こ、小者だとぉぉ!!! き、貴様ぁぁ!!! 指輪よ! 私に力を!!」

 ラギシスは指輪の光を集中させ、両方の手に迸らせた。

「消し飛べ!! 黒色破壊ッ……!! ぬっっ!!」
「させないわ!!」

 志津香の魔力で、ラギシス最大の攻撃魔法を阻止した。

「志津香め、私の魔法を封じていると言うのか!? だが、魔法は防げても私のパワーは防ぐ事は出来まい!」
「そこをフォローするのが、オレ達だ!」

 ラギシスの身体から、うねうねと現れた触手が槍の様に襲ってくるが、それをユーリとミリ、そしてランが一気に両断する。1つ、また1つと、触手は地面に落ち、気持ち悪い音と煙を発しながら消滅していく。

「ラン! 志津香を守れ、1発も通すんじゃないぞ!」
「任せて!」

 ランが志津香の前に立ち、迫る触手を剣で斬り、そして魔法で撃ち払って志津香の援護に回った。その甲斐も有り志津香はラギシスの魔力を封じる事に全身全霊を賭ける事が出来たのだ。

「ちっ……! ちょこざいな!!」
「首ががら空きだ!」

 側面に回りこんだユーリが正確に首筋に剣で切れ込みを入れた。ぱっくりと開いたその傷跡から、血が吹き出る。致命傷に思えた傷だったが……。

「ふんっ!! 炎の嵐!」
「くっ!」

 ラギシスの炎の嵐がユーリの身体を吹き飛ばした。
 だが、既に後方へと飛んでいた為、直撃は受けていない。それよりもアイツの身体に驚きを隠せないようだった。

「傷が再生してるか。力欲しさに人間をやめたんだな、貴様は」
「ふははは! 人間ではたどり着けぬ境地がこの私。無限の生命力を持つ究極の存在なのだ!」
「ユーリさん!! 火爆破!!」
「幻獣さん! 一斉にやっちゃええ!! 幻獣アタック!」
「おらああああ!!」

 ランの火爆破でラギシスの全身が燃え上がり、そしてミルの幻獣の牙がラギシスの身体を捉えた。そのトドメにミリの一撃が脳天を叩き割る。だが、それでもラギシスは倒れない。

 燃えた部分は剥がれ落ち新たな皮膚が生まれ、幻獣とミリに斬られた部分は、まるでアメーバの様にくっつき再び戻っていく。それは、人間の急所と言うべき頭も例外ではなかった。

「ちっ、このバケモノが!」

 ミルはそう叫んでいた。
 頭を割った一撃は確かに手応えがあったのだ。並のモンスターであれば、クリティカルヒットとなり一撃で屠れる筈なのだが、コイツにはまるで効いていない。

 ……ミリの頭に響いてくるのはアイツが言っていた≪無限の生命力≫と言う言葉だった。

「ミリ!!」

 戦闘中のあからさまな考えはコンマ数秒だが動きを止める。一瞬の隙が命取りになる状況なのだ。
 ユーリは動きを止めたミリの方に向かって迫る触手を斬り捨てた。

「手を止めるな! いくら再生しようが、アイツの指輪の力が尽きれば全てが終わる! どの攻撃も無駄じゃない」
「フン! 無限の前では全てが無駄だ!」

 ラギシスは、触手の数を数本更に増やし、ミリに向けて撃ち放った。

「オレを舐めるな!!」

 ミリに当たる寸前で、その触手は切り裂かれ地に落ちる。

「む? ふふふ、なるほどな、少しは出来るようだ」

 ラギシスは、ミリの反応のよさを見て認識を改めていた。
 この中で、魔法を使えない事も含めて一番下だと思っていたのがミリだったのだ。

「はっ、≪少しは出来るようだ≫か? それは、小者ほど好んで使う言葉だな」
「貴様ぁ!! 1度ならず2度までも!! くたばれ!!」

 ラギシスは、血走らせた目でユーリに迫ってきた。
 この数合の打ち合いで、ラギシスと言う人間性を理解したユーリ。間違いなく激情家であり、小さな挑発にものって来る。
 確かに、規模は比べるべくも無いが ユーリの冒険でこれまでにもあった小心者が力を持った典型的なものだった。

 故に誘導しやすい。

「おのれぇ!!」
「鈍いな。これじゃあ何年かかっても俺は捕まえられんぞ?」
「炎の嵐!! 炎の嵐!!!」

 攻撃魔法を撃ち放ちつつ、前進してくるラギシス。
 ミルやミリ、ランの攻撃も勿論当たっているが、小規模な攻撃、ダメージは直ぐに回復する為、ラギシスは最早ユーリしか見えていなかった。

 そして、暫くひきつけた後だ。

「貴様だけは惨たらしく殺してやる!」
「小者呼ばわりされるのが相当お嫌いみたいだな? ご所望であれば何度でも言ってやるが?」
「死ねえええ!!」

 ラギシスの返答は、無数の触手を一つに纏めた極太の触手による一撃だった。

 まるで、攻城兵器(バリスタ)の槍だ。

「跡形も残らず消してくれるわ!!」
「煉獄……!」

 ユーリは低く構えた。
 コレまでの様に避ける事はせずに限界まで引き付ける為だ。そこまで考えが及んでなかったのか、ラギシスはチャンスと思い込み攻撃をやめなかった。

「ははは!! 死ねええ!!!」

 ラギシスの一撃が大地を抉り、大量の砂埃上げる。
 砂埃を上げる事、それは姿を覆い隠す行為にも等しい為、悪手となるのだ。攻撃を寸前でかわしたユーリは力を込めた一撃をラギシスの胴部分に一気に切り込んだ。

「ぬぐ!! おのれ! だが、その程度の切傷など私には何の意味ももたんわ!」
「ああ、わかってるさ。……切傷ならな」

 ユーリはニヤリと笑った。

「皆、ラギシスから離れろ!」
「ああ!」
「了解です!」
「うんっ!」
「わかったわ!」

 ユーリの言葉を聞いて、皆はラギシスから距離を取った。その行動を見たラギシスは再び薄ら嗤いを浮かべると。

「ふははは! 今更逃がすものか!!」
「これを逃げと取るか……お前はもうどうしようもないな」
「なにぃ!!」

 ユーリはそう言う。
 さっき言ったばかりだ。口を開かない方が良いと。話せば話すほどに、小物さが露呈すると。そして、それは突然来た。ラギシスの身体が光ったのだ。ユーリが斬りつけた場所から。

「なんだ……? 身体がひかっ!!うぎゃああああ!!!!!」
「煉獄・爆砕だ」

 ユーリが剣を収めると殆ど同時。
 ラギシスの身体にある切り込みが光り輝き、そして爆発を引き起こしたのだ。この技は決して対人の技ではない。硬質属性を持っているものに使うべき技なのだが。

「切傷じゃ物足りなさそうなんでな!」
「流石だな!」
「すごーい!」
「凄い……」
「ッ……」

 ユーリの戦いをある程度は知っているミリは称える言葉を言い肩を叩いた。そしてミルも同様だ。

 だが、ユーリと直接戦ったことの無い志津香は驚きを隠せない。まるで、魔法の様な爆発を剣で引き起こしているのだから。いや、詠唱時間が無い事を考慮すると、魔法よりも遥かに強力かもしれない。

「志津香! 今だ、マリアの砲撃させるんだ!」
「ッ…わかったわ!!」

 志津香の魔法で照準を合わせる。
 それが事前の打ち合わせだった。ラギシスの魔法を封じながらでも、出来ない事は無いが精度は落ちる。だから、今は封じる魔法を解き、照準を合わせる魔法を使ったのだ。
 精度を上げる為に。

「マリア!! 今よ!!」

 志津香はそう叫んだ。
 マリアはかなり離れた所にいる為声が届くとは思えない。……だが、まるで傍で聞いていたように≪それ≫はやってきた。まだ、空は明るいと言うのに、光り輝く。
 まるで太陽の様な弾がラギシスに降り注ぎ、爆散した身体に直撃した。

「ぐぎゃあああああ!!!!」

 断末魔の叫びを上げるラギシス。

「すげえ! まだくるぞ!」

 ミリが空を見上げると、再び砲撃が来てラギシスを襲った。

「は……はは。ここまでのものだったとは、ね」
「バカにしてたのに、すごいやっ!」
「確かに凄いですね、コレほどなんて」
「凄まじいな。圧巻と言う言葉しか見当たらない」

 皆は、マリアの砲撃チェックを見たわけではない。
 マリアのチューリップ1号を見ている者たちはあの威力より多少は強いくらいか、と思っていた程度だったが、認識を変える必要がありそうなのだ。
 それは、兵器と言って良い威力であり、着弾点にクレーターが出き、且つ業火で辺りを焼き尽くしている。生身の人間がこれを食らえば、ひとたまりも無いだろう。

「オレの一撃の後にコレじゃ、陰ってしまうな」
「いやいや、ユーリ。あれは兵器だろう? 生身の技と比べること自体が間違ってるだろ」

 ミリは、呼吸を整えつつ、剣を肩に抱えてそう笑ってツッコミを入れていた。そう出来る程の手応えを見たからだ。

「やった、やったよ!」
「ああ、当然さ。コレで死ななきゃ本物のバケモンだ」

 ラギシスの断末魔はもう聞こえてこない。炎と共に消滅したとも思える状況だった。

「志津香、大丈夫か?」
「はぁ……はぁ……、ええ。大丈夫。マリアに良い所、もって行かれちゃったわね? お互いに」
「良いさ。皆が無事ならな」

 ユーリはそう言って笑っていた。

 全員で無事に帰る。そう約束したのだから。


――だが……それが致命的な油断だった。


 この時、ユーリは敵の生死を確認したわけではない。
 ただ、あの威力ならと、間違いないだろうと勝手に決め付けてしまっただけだ。『~だろう』 それは決してやってはいけない行為。それを忘れてしまった自分の驕りだ。

 炎の中からそれは動き出した。

 もうそれは、人間の姿ではない。バラバラになったその姿はまるで軟体生物の様にグネグネと蠢くと、巨大化をしていく。一体全長はどれくらいになるだろうか、それはわからない。

 だが、それ以上にわかるのは……強大な魔力も共に迸っていると言う事。

「ラギシス!!」
「くっ!!」

 志津香の方を向いていたユーリは一歩遅れてしまい、志津香は即座に封印する魔法を放つが。

「ダメッ……! でか過ぎる!!」

 それは志津香でも抑えきれない程の魔法だった。さっきまでとはまるで違う。別人が放つ様な魔力。そして、凶悪な闇を孕んだ言葉と共に絶望が迫る。

「――……黒色破壊光線」
「全員伏せろ!!」

 数多の攻撃魔法の中にして、最強の呼び声が高い最上級の攻撃魔法。暗黒の波動が辺りに集まり滅する闇の光線。

 もうそれは1秒を切る刹那の時間だったが、皆は確かに見た。

 皆を庇うように両手を広げる彼の姿を。








~カスタム周辺の森~


 ラギシスへと見事砲撃を命中させたマリアは違和感を覚えていた。
 まだ暗くなく、太陽も見えているこの状況なのに、暗黒の波動があたりに広がっていたのだ。

「な、なに!? なんなのっ!?」

 そして、地震が起きたかのように大地を揺らせた直後に一筋の闇が貫く筋が見えた。

「い、今のはまさか……!」

 魔法使いであれば、誰でも知っている最強の攻撃魔法。
 あれを使えるのは仲間の中にはいない。つまり、あれを撃ち放ったのは……。

「し、志津香! みんなっ!! くっ……照準は合って無いけど! 手動でもう一度撃つしか!」

 マリアはその準備をしようとしたのだが……、再び強大な魔力が襲ってくる。それは、闇の波動ではなく、炎。それも巨大な炎が先ほどと同じように筋となって、マリアのチューリップ2号 マレスケ試作型に直撃し、爆音を上げながら破壊されたのだ。

「あぅっ!!」

 その爆風で吹き飛ばされるマリア。背後の木に背中を強打し、崩れ落ちる。

「(こ、これだけ、離れてるのに……そんな……)」

 痛みを堪えながらマレスケ試作型を見るマリア。

「そ、そん……な……」

 一目診ただけでわかる。もう直すのは無理だ。砲身が完全に歪んでいる。無理に撃てば絶対に暴発するだろう。

 自分の攻撃手段が完全に潰された。いや、それ以上に……。

「う、うそ……、みんな、みんなやられちゃったの……」

 その事だった。
 この攻撃は間違いなくラギシスのものだ。こっちに攻撃を出来る余裕があると言う事は……皆が……。そうマリアが連想しても仕方が無い状況だった。目に涙を浮かべて拳を握り締めるマリア。

 絶望の炎が自身の兵器を焼いていくのは、まるで仲間達も一緒に焼かれている事を更に連想させていた。

「た、たすけて……だれか……」

 背中の痛みの中、意識も薄れ始めていた。自分の傷は決して浅くは無いとわかる。だから……自分に出来るのは助けを乞うことだけだった。
 頭の中に浮かぶのは、この場にはいない男女の名前。

「たすけて……ランス……シィルちゃ……」

 マリアの握り締めた拳がゆっくりと開く。マリアは完全に意識を手放したのだった。







~カスタム周辺の森 洞窟前~


「ふははははは!! この私を小者呼ばわりした報いだ!! 思い知ったか? この≪小者≫が!」

 ラギシスがそう吐き捨てている相手は、今目の前で倒れている男に向けている。他の4人は、余波を受けただけだが、立つ事が出来ない程の傷だった。だが、ラギシスは初めからそいつらには目もくれていない。今向けているのは地に伏している男、ユーリの事。

「あ、ああっ……!!」

 志津香は、目を見開いた。
 あの光景が目に焼きついて離れない。自分を庇うように前に立つユーリの姿を。

「ら、ラギシスぅぅっ!!!!!!」

 怒りに身を任せ、魔法を飛ばそうとするが、

「ぐ、く………」
「くくく、先ほどのお返しだ志津香。貴様の魔力を封じるなど私には訳は無いのだよ」

 ラギシスは、志津香の頭を押さえつけるが如く力で魔法共々に押さえつけた。

「ゆー……り……ぐ、」
「あ、あ……」
「そ、そん……な……」

 4人はそれを見る事しか出来ない。
 自分の身体なのに、動かすことが叶わない。ただただ、自分の無力さを呪うことしか出来なかった。

「なるほどなぁ……、志津香。この男はお前の想い人だった、ということか? かっははは! これは滑稽、傑作だ。親子共々似たような最後を遂げるんだからな!」

 ラギシスは勝者の愉悦に完全に浸っているようだった。
 志津香はそんなラギシスを睨みつける。呪いで人が殺せるのならと今日だけで2度も思ったのは初めてだ。

「か、勝手なことを……! ラギシス……!!」
「ほう、まだその目が出来るか? 無駄死にじゃなかったようだな? 貴様の男は。……いや、結局は同じ事か! 同じあの世へ行くんだからなぁ」

 最早人間の面影さえない異形の姿。その異形の口から巨大な舌が出て舌なめずりをしていた。

 志津香はまだ意識ははっきりしている。当然だ。ユーリが……、身を挺して守ってくれたのだから。

 それなのに、自分が動けない事への苛立ちを隠せられない。その姿を見れて興奮したようにラギシスは話し出した。

「くくく、そうだ。冥土の土産だ。良い事を教えてやろう」
「な、何を……!」
「志津香が長年追っていた敵、ラガールの事だ」
「な……、ラガールを知ってるって言うの……?」
「ああ、知ってるとも。あいつと私は同期なのだからな? そう……貴様の父 惣造、そしてアスマーゼも同じ魔導塾出なのだ」
「あ、アンタも、あの塾に……」

 志津香は目を見開いた。
 自分が両親の敵を知れた場所こそが、そのミステリア魔導塾でだった。ラガールもその塾出身であり、両親も同じだった。だが……この男がいる事は知らなかったのだ。

「くっくっく。当時のあのラガールのアスマーゼへの入れ込みはそれは凄かったなぁ。恐れをなした惣造はアスマーゼを連れて逃げる程にな」

 笑みを浮かべ思い返しながら話すラガール。

「魔導塾では、アイツ、惣造は私よりも遥かに優秀だと言われ続けていた。魔力では私の方が上だと言うのに、何故かまわりもヤツばかりを見ていた。よわっちいアイツをだ。自分の女も守れんあのクズをな!」

 それは完全な逆恨みだった。邪悪で醜い嫉妬が紡いだ結果がすべてに繋がる。

「くくく、次第に惣造は独断で行っていた私の研究にもケチをつけだしたんだよ。『人々の事を考えろ』『争いを助長するだけだ』とな? 目障りだったんだよ。殺してやりたいと思う程にな? そう、私もお前の父親を殺そうと思っていた。……これ以上言えばわかるだろう?」
「……ら、ラガールと結託していた?」
「はははは!! そうだ、共通の目的があったからなぁ! アイツが欲していたのはアスマーゼ。私は興味は無いが惣造をより苦しむ死に方に追いやれるのならなんだって良かった。自分の計画を進め、且つ惣造も死ぬ。最高じゃないか!」

 聞くに堪えない独白を聞いていた他の3人は無理矢理立ち上がろうともがいていた。

「そ、そんなの! アンタの勝手な逆恨み……じゃない!」
「外道が……!! てめえは生きてちゃいけねえ存在だ!!!」
「ぜ……ったいにゆるさない。ゆるさいないんだから!」

 立ち上がろうと懸命にもがく3人。
 それを見たラギシスは再び笑い声を上げたいた。志津香も、ラギシスを睨み続ける。

「殺す……絶対に殺す。殺してやる!!」
「ふははは、成程、あの男が救ったのは貴様らもだったようだなぁ? だが、この状況でどうやってこの私を殺すと言うのだ? 志津香よ。ははは、だが正に滑稽だな? 貴様の両親を殺したと言っていいこの私の元で魔法を学ぶお前の姿。あの草原で笑いながら、魔法を覚えようと、教えてとせがむお前の姿。笑いを堪えるのが大変だったぞ!」

 ラギシスは、一頻り笑うと……その笑みをとめた。

「私の憎悪は当然、惣造の娘である貴様にも向いている。あいつには死すら生温い。最愛の娘もとな。……お前も、より苦しむタイミングで殺してやろうと思っていたんだ。父親の敵を教えた後の絶望する顔を見ながら楽しむ予定だったのさ。だが、まさか私が殺されるとは思ってもいなかった。そこだけが唯一の誤算だった。知っているか? 志津香よ。細胞のひとつひとつがすりつぶされていくような痛みを、身体が崩れていく痛みを……お前にも味あわせてやろう」

 ラギシスは言い終えると再び触手を身体中から出した。
 それらは再び一つの巨大な触手へと変わり……やがて 無数の棘が付いた形へと変わる。その姿はまるで星球武器(モーニングスター)

「これで何度も撃ちつけてやろう。地獄の苦しみだが……いつかは解放されるさ。さぁ……絶望しろ!!」
「っ……!!」

 その異形の武器が志津香に迫ってくる。
 志津香は動きを縛られて避ける事も出来ない。だが、せめてもの抵抗にと決して命乞いや叫び声は上げまいと唇を強く噛み締めていた。ユーリも、そうだったから。最後の最後まで。

 ただ……それでも悔しさは残る。

 それは死の恐怖よりも遥かに強く残っていたのだった。
 走馬灯……それは死の瞬間最もスローに感じ、人生を振り返ることが出来る最後の光景。苦痛でならなかった。

 真の親の敵とも言える男の下で修行をしてきたなんて。一瞬でも自分が慕っていたなんて。悔しくてたまらなかったんだ。

「死ねぇぇ!!! ふはははは!!!」

 ラギシスの一撃が志津香を押し潰す!
 ……筈だったが、それは、人体ではなくまるで金属に強く打ち付けたような音がした。

「ぬ!!」
「………」

 そこに立っていたのは、さっきまで倒れていた男。

「ゆ……ゆーっ」

 志津香はその姿を見た瞬間、目に涙が溢れてきていた。
 絶望だった。闇の中に差し込んだ光を目の当たりにしたのだから。それは幼い頃、何度も追いかけた背中。長い年月が立っても変わらない笑顔で自分を見てくれた男の背中。

 ……人の温かさを思い出させてくれた男。

 あの黒色破壊光線を直撃して、誰よりもダメージがある、生きている事自体が不思議なほどのユーリが立っているのだ。

「ふははは! これは驚いたな? 貴様か!」

 ラギシスは驚いてはいるが、まだ笑える余裕はある。
 なぜなら男の目は虚ろであり、押せば倒れる様な姿だからだ。あの一撃をどうやって防いだかは判らないが、もう瀕死なのは判る。

「志津香共々潰してくれるわ!」

 再び武器と化した腕を振るおうとしたその時だ。

「煉獄・羅刹」
「……ぬ!!」

 ラギシスは、この時違和感を覚えた。瀕死のはずの男から迸る殺気。まるで殺気を具現化したかのような姿。今の自分より遥かに小さい身体の筈なのに荘厳たる気配を感じたのだ。

「……お前は最も言ってはいけない事を言った」
「あ?」
「……お前は最もしてはいけない事をした」
「何をブツブツ言ってやがる!」

 ユーリはゆっくりとした動作で、ラギシスの触手を真っ向から……殴り返した。それは、とてつもない爆発音を生み、そしてラギシス共に、その巨大な触手が吹き飛ばされた。

「あぐあああ!! な、なんだとぉぉぉ!!」

 触手と共に吹き飛ばされてしまう。
 確かにダメージはあるが、それ以上に精神的にあった。瀕死のはずの男からある筈のない力でダメージを受けた事だ。

「あの悲劇の元凶の1人が貴様なら」

 ユーリの腕が異様な靄に包まれる。

「貴様を滅殺する。……その魂すら粉々にしてやる!!」

 ユーリの目も赤く染まり……まるでその姿は鬼の様になっていた。
 右腕を振り上げ……力任せにラギシスを殴りつけるユーリ。その着弾点から爆発が起こり、ラギシスを吹き飛ばしていた。

「がああああ!! な、なんだこの力ぶっ!!」

 続いてユーリの剣がラギシスの口の部分に直撃する。
 最後まで言う事が叶わなくなったラギシスはユーリの返しの拳を受け、そのまま吹き飛んでいった。

「……志津香」
「ゆー!! し、しっかりしてっ!!」

 今にも倒れてしまいそうなユーリを支えようとした志津香。だが、異様な熱気のせいで支える事が出来ない。

「……今だ、今のうちに にげろ」
「ッ!!」

 ユーリの口から出たのは逃げろと言う言葉。
 その姿を見た志津香はあの時の父親の姿と被っていた。身を挺して、守ろうとしている父親の。

「ばかを言わないで! 逃げるわけない……逃げるわけ無いじゃない!」

 志津香はそう言い、自身も戦おうとするが、初戦で使った魔力も思うように回復していないのだ。満足に戦えないかもしれないが……それでも 逃げると言う選択肢は彼女には無い。最後まで一緒にいる。絶対に離れないよ強く思っていた。

 それは他のメンバーも同様だった。

「へ……情けねえが、オレは動けないんだ。つまり、逃げられねえ。……ユーリを助けられないまでも、最後の瞬間までここにいさせてもらうぜ? ユーリ。……無事でよかった」

 ユーリの姿を見たその時から、優しい笑みを浮かべていたミリ。
 出来れば最後まで隣に立たって戦いたかったと悔いは残るものの、志津香と同様に逃げる選択なんかあるわけが無い。恩人を残して逃げ帰ってしまえば、自分を許せそうに無いからだ。

「お姉ちゃんが残るんだから、わたしも……ぜったいに逃げない、ちょっと休んだら、幻獣さんを出してみせるから」

 ミルもその小さな身体を懸命に震わせて、怖いはずなのに恐怖を押し殺して、ユーリを見定めていた。最後の瞬間まで姉と一緒なら怖くない。そして、帰られるのなら、みんなと一緒がいいとミルは強く思っていた。

「ごめんなさい。その事だけは私も聞けません。約束……したじゃないですか、皆で帰ってくるって。ユーリさんだけを残していくなんて……死んでも嫌です」

 剣を杖代わりに懸命に立とうとするラン。
 責任感の強さと心の優しさが人一倍ある彼女。そして、自身はこの目の前の男に救われた命。目の前の男のおかげで生きようと思えるようになった。そんな人を……見捨てて帰れるわけない。

 3人は強い決意と思いを胸に、はっきりとそう答えていた。

「これでも、ゆーは逃げろって言うわけ? ……1人で帰ったって、逃がされたって残るのは絶望だけじゃない。判ってるって思ってたんだけど?」

 軽くユーリにデコぴんをする志津香。
 ユーリは、軽く笑った。

「そう、だったな。誰も死なせない。そう言ったのはオレだった」
「そうよ。その≪誰も≫の中にゆーだって入ってるんだから」

 志津香はそう言うと微笑んだ。

「お、おのれぇ……!!」

 口の部分も再生し話せるようになったラギシスの呻き声が聞こえてくる。吹き飛ばされたアイツもどうやら、戻ってきたようだ。

「志津香、まだ戦えるか?」
「正直、立ってるのがやっと。でも後1発なら……いける。絶対に」
「……わかった」

 戦力としてはこちらが分が悪い。

 自身が使っている今の技はあまり長くは使えないのだ。そして、何よりもあの暗黒の波動を防いだ時、体力を大分削られたのだから。

「オレも長くは持たないだろう。短期戦だ。今使える最大の魔法が撃てるようになったら合図をくれ。隙をオレが作る」
「……わかったわ」

 志津香は強く頷くと、目を瞑り詠唱を始めた。持てる力を全部出し尽くす為に。

「ごめんなさい……、世色癌があったら、他の薬があったらユーリさんに渡したいのに。全部壊されてしまって」
「オレもだよ。薬屋失格だ」
「うぅ……」

 携帯していたアイテムの殆どがあの黒色破壊光線の波動を受けて壊れてしまったのだ。戦いの合間に使おうと直ぐに出せる所に下げていたのが仇となってしまったようだ。

「その気概だけで十分だ。貰ったよ。……お前らの分も必ずアイツに入れる」

 ユーリはそう強く言うと、ラギシスへと向かって言った。強大な敵に向かっていくユーリ。

「ぅ………くっ……」

 ランはこの時、強く思っていた。
 あの魔法の直撃さえ避けれてたら、自分達を庇いさえしなければもっと戦えただろう。


――……足手まといは嫌だったのに……


「……変な事考えない」
「ッ……」

 志津香は詠唱をしつつもランの表情が目に入ったようで、そう言っていた。

「アンタの無念も、私が背負う。私がランの分も戦う。ひとつひとつの積み重ねがアイツを討つ。信じて待ってなさい」
「うん……」

 その言葉を聞いたその時
 一筋の涙がランの頬を伝って流れ落ちていた。

 ユーリと志津香、そしてラギシス。

 第2ラウンドがまさに今始まったのだ。


 
 

 
後書き
〜魔法紹介〜


□ 炎の嵐
使用者 ラギシス

小規模の範囲だが、名の如く炎で敵を包み込む魔法。火爆破よりも範囲が狭いがその分連発する事が出来る為 接戦でも使い勝手は良い。
だが、火爆破を主に使用する者が多い為、この魔法を使用する者はあまりいないレアな魔法でもある。
炎属性:初級魔法に分類

□ 黒色破壊光線
使用者 ラギシス

暗黒の光線が襲い掛かってくる魔法。使用者によって≪貫通≫≪全体≫とスタイルを変えることも出来るらしい。数ある魔法の中でも最強と呼ばれる力であり、Lv2の魔法使いでも習得するのは難儀である。因みにラギシスは指輪の魔力が合った為使用する事が出来た。


〜技能紹介〜


□ 煉獄・羅刹
使用者 ユーリ

今までの武器に纏わせた使い方ではなく、身体に直接纏わせた力のようである。
爆散している所から、≪爆砕≫に似た力を腕に込めている様だが、撃つ度に表情が歪んでいる為、リスクはあるとも思われる。
その分威力はかなり有り、巨大化したラギシスも吹き飛ばす事が出来ていた。

こちらもユーリが怒って使う力の一つである。 
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