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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第2章 反逆の少女たち
  第11話 カスタムの魔女



 時は、現代より少し遡る。



GI1009



~自由都市地帯・カスタム~


 カスタムは、ルドラサウム大陸南東部に位置する独立都市国家・自由都市地帯の中心に位置する町である。
 その町の一角に一際大きく目立つ館が建っていた。1人の男、容姿的にはもう中年だろう男が門の前に立っていた。汗を拭うと、再び作業に取り掛かる。どうやら、外装を整えているようだった。

「ラギシスさん。今日も、ご精が出ますね?」
「ラギシスさん! 我々にも手伝える事があれば、何なりと言ってくださいよっ!」

 カスタムの町の住民もニコやかに彼を見ていた。その風景から見て判る。ラギシスと言う名の彼は町の住人にも信頼されている人物なのだという事が。

「いえ……大丈夫ですよ。後はこの看板を手掛けるだけですから」

 そう言いながら持ち上げるラギシス。その看板には≪魔道塾≫と書かれていた。
 
「しかしまぁ……以前に話していた塾の事、本当にやるとは思ってもいなかったですよ」
「はは。私は稀代の大魔女の生徒ですから。彼女の様に知識を後世へと伝え残したいだけなのですよ。……この町に私が出来る最善の事だとも思っています」

 今は平和とは言え、直ぐ傍には北部には大国《リーザス》があり、西部には《ゼス》。そして鎖国とは言え、東部には戦国時代と呼ばれている《JAPAN》もある。今のこの時代。どうしても力が無ければ生き残るのは難しいのだ。だからこそ、前途ある若者に自身の魔法を受け継がせ、将来的にはこの町の守護者として育んで欲しいと言うのが彼の理想だった。

「……詭弁、ですね。私に集ってくれているのは幼き少女達。……結果的には彼女達を戦わせようとしているのですから。戦争が起きたときの道具として……そんな気がしてならないです。まるで、生贄のように」
「……そんな事はありません。我々も心を痛めています。勿論ラギシスさんだって。ですから、我々も協力を惜しみません。それに魔の才能が有る無しは本当にどうしようもないんですから」
「そうです。……貴方は決して1人じゃありません。それに、あのコ達だってわかってる筈です。まだ、幼いですがきっと」

 町長である男がそう言い強くラギシスの手を握りこんだ。彼の理想を、全面的に支持する意志である。それは、勿論町全体がそうなのである。町長に続いて声を掛け続ける者たちもいた。

「ありがとうございます」

 ラギシスは一礼をした。確かに、働きすぎだと言われているが、休んではいられない。
 知識を広めるのにはとてつもない時間と根気も必要だからだ。開塾したって、やるべきことはまだまだ多いから。


 そして、カスタムの町では1つの事項を決定した。それは、ラギシスの塾生の中でも特に才能に溢れている者を選出し、本格的に鍛える。即ち、ラギシスの弟子となり、町の守護者となるべく教育をして行こうと言うものだ。

 だが、ラギシスは迷いもあった。

 それは先ほどの会話から判る様に、少女達を戦いの道具とするかのようなこの決定に心を痛めていたのだ。だが、それを支えたのが町の住人。ラギシスがそんな男じゃないのは知っていると、常に世話をしてくれる皆の存在だった。

 そして、何よりも町の皆を、ラギシス自身を笑顔にさせたのが、弟子の娘達の存在だった。

 戦いの道具?生贄?

 今の彼らを見てそう思える者など誰もいないと確信が出来る。


――……ラギシスに集まる少女達は皆、笑顔なのだから。


 まるで、師匠弟子関係じゃなく……親子そのものだと思えた。

 弟子は3人、そしてまた、1人増えて 4人となった。例外なくラギシスは愛情を注ぎ、そして、4人も全員ラギシスを慕っていた。

「さぁ、今日は天気もいいし。草原で授業を行おう。皆? 行くぞ」
『はーーいっ!』

 魔導を習うのは、屋内に篭り 延々と講義をする事が確かに最速だ。だが、部屋に篭りっぱなしでは、身体にも毒だと言うのも事実だった。授業の名目で外へ連れてゆくラギシス。
傍で見れば良くわかる。
 まだ幼い少女達。……遊びたい盛りの少女達なのだから。

「うん。……まるで本当の親子だ」
「……何言ってるんだよ。今更。……もう、それに負けないくらい強い絆で結ばれてるよ。ラギシスさんとあの子達は」

 皆で手を繋ぎ、草原の方へと歩いていく姿。その姿を見たら、誰もが同じ思いを持つだろう。そして仲睦まじい声も聞こえてくる。

「ねー、今日はどんな魔法を教えてくれるの??」
「あっ、私は可愛いのが良い!」
「私は、断然 攻撃魔法!」
「ふふ、焦らない焦らない。……今日はこれだ」

 そのやり取りは、師匠と弟子のものではなく。真に彼らを信頼しているからこそ、出来る言葉使い。心を開いているからこそ、そう接する事が出来るのだ。

「わあああっ!! すごーい!きれーーっ!」

 ラギシスが草原で軽く指先を振るうと、あっという間に、色とりどりの花びらが宙に舞った。幻想的な空間を生み出し、思わず夢中になってしまう。

「本当に綺麗ね……。私も使えるかしら……?」
「ああ、直ぐに出来るようになるさ。」
「私はそんなのより、攻撃魔法がいい。そっちを教えて欲しいわ」
「もぅ……こっちの方がきれいだよ? しづかっ!」

 綺麗な魔法を中心に、きゃいきゃいとはしゃぐ少女達。

 1人は、攻撃の魔法を好む緑色の髪の少女。
 1人は、うっとりとした目で花びらを見ている赤い髪の少女。
 1人は、攻撃魔法ばかりの少女に苦言を呈する青い髪の少女。
 1人は、塾に入って日も浅く、見るもの聞くもの、その全てが新鮮で、楽しくて仕方ないと笑う紫色の髪の少女。

 所々では、ケンカっぽいことをしているが、それは仲が良い証拠と言うものだと、ラギシスは笑っていた。

「攻撃魔法、か……、そうだな。志津香はそっちの方が好きだったな。ならこれならどうだ?」

 ラギシスは、反対側の手を宙に舞う花びらに向けた。すると、その花びらはまるで意思を持っているかのように踊り続け……花びらの一枚、一枚が細かく解れ、光を放ちながら四方八方に舞った。少女達が一斉に空を見上げた。
 手を伸ばしてその花びらを掴む様な仕草を見せる。

 それはこの世界の何処にも無い美しい光る花だと思えた。

 攻撃魔法を好む彼女だったが、それを見てしまったらもう、微笑むしかない。それほど綺麗だったのだから。でも、素直じゃない少女でもある。

「……それ、攻撃魔法じゃないじゃない」
「そうでもないさ。目の前で急にされたらビックリしないか?」
「ん……、どんな魔法でも使い方次第って事ね。……なら使えそうだわ。今日はこれを続けたい」
「もう、しづかは、本当に素直じゃないんだから……。」
「あはははーー!」
「ふふふ……」
「ちょっと皆っ! ……ふふ、あははは!」

 笑い声と共に、風に煽られた本物の花びらが宙に舞う。魔法で作った花と実際に現存する花。それは、……どちらも綺麗だった。
 自然と皆ラギシスに寄り添い、空を見上げていた。


――……こんな平和な世界がずっと続けばいい。いつまでも皆で。



 そして、……月日は流れる……。



LP0001 10月

~自由都市地帯・カスタム~


 そこはあの時と何も変わらない同じ場所。
 あの時から、美しく成長した少女達。そして、年老いたラギシスの5人がその場にいた。

 ただ……絶対的に、違うものがそこにはあった。

「ッ! おいつめたわよ! ラギシス!!」

 それは異常なまでの殺気だった。4人からそれは向けられており、その矛先がラギシス、育ての親だったのだ。

「お前達。どうしても、私とやるのか……」

 明確な殺意を向けられた自身。だが……それでも、迷っているのはラギシスだった。それはまるで、あの時と同じ様に。彼女達を鍛える事で、町の生贄として捧げてしまっているのではないか? と悩んだあの時の様に。

 だが……。 

「許さない!」
「ッ!!」

 そのラギシスに返ってきた返答が、殺気と自身が教えた魔法だった。それも相手を攻撃する為の魔法。……この町を守護する為に教えたはずの魔法だった。

「そうか、これがお前達の答えか……」
「行くわよ! みんな!」

 開幕の合図。

 それがラギシスの言葉と、リーダー格へと成長を遂げた緑色の髪の少女の魔法。5人の魔法が辺りに飛び散り、空はまるで割れたかのように悲鳴を上げ、大地も裂けて叫びを上げていた。ラギシス自身も、稀代の大魔女の教え子であり、全盛期は過ぎたとは言え、一流と言っていい魔法使いだ。だが、自身が育て上げた魔の刃は自分を遥かに凌駕している。
特にリーダー格の娘は、魔法の天才だった。
 長年共にすごした彼女達のコンビネーションも一国の軍隊のそれに十分匹敵しかねない程のものだった。


 水の魔法を放つ青い髪の娘。その威力は上級クラスのもの。直撃すれば人間を吹き飛ばし、致命傷を与えかねない威力を誇る。

 そして、魔法自体は其れほど才覚は見られなかったが、剣術と応用し、強大な力、魔法剣士として昇華させた赤い髪の少女。一撃で命を穿つ太刀を振るう。

 そして、紫色の髪の少女が、一瞬で無数の幻獣を放つ。どんな戦いでも、物量の差が勝敗を分けるといっていい程の重要なもの。その少女が呼び出す幻獣は、無限を思わせた。……即ち、無限の軍隊。

 ラギシスは防戦一方になってしまっていた。否、4対1で ここまでもつだけでも驚嘆に値する。だが、そんなものに敬意を払う相手じゃなかった。

「ぐ……く……、こ、これは……」

 ラギシスは、肩で息をし 所々に傷ができて出血しているのを抑えつつ回復を図ろうとしていたが、その時周囲の異様さに気がついていた。周囲にはもう、逃げ場が無いのだ。
 
 幻獣、そして水の魔法、剣術。

 近接戦闘、遠隔戦闘を巧みに使われ、そして最後は身を隠す場所も無く、その直線状には魔法の天才が既に術式を唱えており、いつでも放てる体勢となっていた。

「……ここまで、か」

 ラギシスは悟った。もう、これ以上逃げるのは不可能だ。

 広範囲極大魔法がもう数秒で襲ってくるだろう。

 結界を張る時間は最早無い。否……、あの威力の力を止める術など……、自分には持ち得ない。

「死ねえええぇぇぇ!!!」

 殺意と共にその薄黒い夜の闇に瞬く光。だが、それは慈悲無き光の裁き。白の波動が、ラギシス自身の身体を覆った。それは、自身の身体を細胞レベルで破壊していく様な力。この白光が過ぎ去れば自分自身も消え去るだろう、と思える力。その最後の時は嫌に長く感じていた。

(わ、わが……ゆび……わ……)

 その波動が消え去ったその瞬間に、もうラギシスの姿は何処にも無かった。影も形も無く消滅したようだ。だが、脅威はそれだけでは済まされなかった。

 次の瞬間に、町全体を覆う魔法陣が空高くに浮かび上がり、そして町そのものを沈めていったのだ。恐ろしいほど、町は震え、地鳴りが鳴り響く。


 住人達はただ怯えるしかなかった。
 町ひとつを沈めてしまう、陥没させる力など聞いた事も見た事もない。ただ、それを自分たちが味わうのは、恐怖以外の何でもなかった。恐ろしい程の魔力だった。

 だが、その恐怖の根源は理解していた。

「あ、あの娘たちは……悪魔だ」
「なぜ、なぜこんなことが、できるんだ……? 親を殺すなんて……」

 住人達は恐怖を語る。娘達が悪魔となった。狂気に囚われてしまったと。あの時、10年前のココ、同じ場所で。楽しそうに笑っていたあの親子はもう、何処にもいない。血も凍るような冷酷な瞳のまま、住人達を避けるように、自らが作り出した迷宮へと姿を消す4人の娘達。

 今やラギシスの形見となっている彼女達の指に嵌っている指輪。それすらも、彼女達に彩られたのか、妖しく光輝いていた。

「この町は……おしまいなのか……?」
「だれか……だれか、町を救ってくれ……悪魔から」

 こうして、カスタムの町は姿を消してしまったのだ。悲しみを、恐怖だけを残して……。






~アイスの町 キースギルド~


 そして、更に数日後 キースギルドにて。

 掲示板には大量の依頼が張り出されており、それだけでは納まりきらないらしく、キースの机にも大量に依頼書が置かれていた。

「ふ……ん、……入った最初に比べたら随分と量が増えたもんだな」
「かかかっ! これもお前さんのおかげってもんだぜ?これからも どんどん頼むぜユーリ!」
「……それは、お前の心構え次第だな。キース」
「あー……、悪かったって。もう、使わねえよ。お前さんの事は」

 もう何度、やったかわからない、このやり取り。
 信用できないにも程が有ると言うものだが、キースと言う男は、ユーリにとって一応恩人の1人である事には変わり無い為、ユーリはまだこのギルドに席を置いていたのだ。

 そして、つい先日も仕事を終えたばかりで、休みを入れたほうが良いのでは? と言われたがあまりにも手応えが無かった為、連続で行っている。

 基本的に、ユーリの場合はこれがスタンダードだった。

 先の大仕事。リーザスの誘拐事件の時も同じく連続仕事の後の大仕事となっていて、それも無事解決に導いているから、その実力の底が見えないと、有名となっていたのだ。

 その恩恵に肖れるのがキースギルド。
 おまけにユーリの事も、取材させてくれだの、写真を取らせてくれだのがそこらへんからくるのだ。……その件に関しては拒否する事、と言っていたのだが、キース曰く『うっかりしてた』との事が多々ある。

 その度に逃げたりしてる現状。流石に、戦って追い出すわけにはいかないから。

「ったく……マジで自重しろって」

 ユーリはそう呟きながら依頼書を眺めた。次のページ、次のページ。一枚一枚、概要だけを眺める。そして、暫くしてページを捲る手が止まる。

「カスタムの……魔女?」

 目に入ったのは、懐かしい名前の町だ。確か、真知子やロゼがあの町にいる事を思い出していた。

「なんだ? その仕事にするのか? あ~……いくら疲れてないとは言え、連チャンでするような仕事じゃねぇぞ? 報酬もあんまり高く無ぇし。内容も内容だ。正直、割りに合わねぇ仕事の見本だ。……何より魔法使い4人も相手。簡単な仕事じゃないぞ?」
「……割に合う仕事があるのか? と聞きたい所だな。今までの仕事で」
「まっ そーかもしれねーが今回のは結構マジだぜ? 判ってるだけの情報で魔法使いが4人だからな」

 今までの仕事でも、料金に見合った仕事内容か? と言われれば首を横に振る事が多いが、確かにキースの言い分も最もだ。仕事先でアクシデント、もしくはイレギュラーで難易度が上がり報酬に比べて割に合わない様な状況など何度もこれまでに合ったことだ。

 だが、今回は出だしから難易度が高い。

 魔法と言うものは発動してしまえば、基本的には防ぐ事が叶わないものなのだから。……だが、相手が好都合な面もあるが。それは置いておく。

「……ま、確かにそうだが、それよりも気になってな。カスタムの事が」
「あんだ? ひょっとして……4人の魔女の事か? おおっ お前さんも見惚れてしまったか? 所帯を持つつもりになったってのか?」
「アホか。何でこの流れでそんな風になるんだよ」

 相変わらず下世話なキースを尻目に 依頼書に目を通しだしたユーリ。

 詳しい依頼内容。そして相手の事。

 その一番奥に顔写真も同封されていた。ただ、これは6年前のもの。明らかに今とは違うだろうと思える。

「……ッ!!」

 ユーリは1つの写真を目にして、驚きの表情を見せていた。

「……どうかしたのか? ん? その女は、魔女の1人か」
「いや……何でもない」

 ユーリはそう呟くと、無意識に懐から一枚の写真を取り出した。それは、もう色褪せてしまっている程古い写真。写真の端をぎゅっと握り締めるユーリ。

「……似てるな」
「ッ……。ああ。そうだな」

 ユーリはキースの声に気づいて慌てて写真を仕舞う。人前で見せるようなことはこれまで一度もしなかった事だが、それ程動転していたという事だろう。冒険者たる者、如何なるときでも冷静(クール)に行動する事を心がけてはいるが……、まだまだだと言うことだろう。

「……オレからは、これ以上は何も言わねぇし、訊かねぇ。……お前さんが話をしてくれるまではな」
「ああ。……悪いな」

 いつもなら、ここぞとばかりに絡んでくる男だが、いい加減付き合いも長い。真に話したい事、話したくない事。それくらいは判るつもりなんだ。

「なぁ、この依頼、受けさせてもらうよ」
「わかった、受理しとく。……だが、気をつけろよ? ユーリ」
「ああ」

 依頼書を手に持ちユーリはそう言った。冷静さを欠いて仕事が出来る程、この世界は甘くは無い。だが、ユーリにとっては、愚問だという事はキースは良くわかっている。

「さて……、ん?」

 ユーリは、ギルドから出て行こうとした時。丁度誰かがギルドに入ってきていた。

「……お? ユーリじゃないか。これから仕事なのか?」

 こちらに気がつき、手を挙げたのは顔見知りの男だ。このギルドでは有名な男の1人だ。

「お疲れさん。ラーク。ん? ノアは一緒じゃないのか?」

 ユーリも受け答えするが、いつも2人組であるノアがいない事に気がついてそう聞いていた。
 《ラーク&ノア》はこのギルドのエースと言っていい存在だ。常にパーティを組んでいる2人組だから気になったのだろう。

「ああ。もうこれから仕事に行く所だからな。ノアは仕度を整えに一度、ホームに戻ってる。後で合流していくつもりさ」
「成程、そう言うことか、それは残念だ。……こっちの仕事 あれだったら手伝ってもらおうと思ったんだがな」
「あー悪いな。これから討伐依頼だから、場所もここから遠いし、結構時間がかかるぜ? 待ってててくれるか?」
「ん。待っている時間の間に、終わってしまうよ。次の機会にするか。ノアにもよろしくと伝えてくれ」

 ユーリは、そう言うと手を挙げた。それは決して虚勢でもなければ力の過信でもない。絶対的な自信を持っているから言える事だ。

「おう! ユーリも気をつけろよ」
「ああ。そっちもな」

 ユーリとラークが互いの拳を当てながら言う姿は絵になっている。ギルドのエース2人の絵だ。写真でもとっときゃ、ブロマイドとして……っとキースは思ったが直ぐにやめた。
……撮ってもどーせ、燃やされるからだ。

「はぁ、キースの旦那。また、カメラなんか手に持って。また、壊されちゃいますよ? そいつも安くないんだから」
「ははは……だから、事前に止めたじゃねーか。シャッターは切ってねぇって」

 キースは手を挙げながらそう言う。ハイニはラークにお茶を出していたが、ラークがここに寄ったのは忘れ物をとりに着ただけとの事で直ぐに出ていったのだ。

「……それにしても」

 ラークは今回の依頼。ユーリが受注した依頼内容に目を移した。その仕事の難易度がはっきりと判ったのだ。

「カスタムの町、そのものを封印した4人の魔女が相手なんて……、また、大変そうな依頼を受けて……」
「封印された町か。……まぁ ユーリなら大丈夫だろう。仮に、1人じゃ手に余ったとしても、その判断くらいは出来る男だ」
「……そうですね」

 ハイニが心配する事はいつもの事。それはユーリなら尚更であった。……なんであの腕で心配するのかは、ご想像にお任せする事にします。

 彼に対する……、ハイニの中にある母性本能と言うものがある、だとだけ。


「それにしても……、似てるな。あいつが持ってたあの写真の女と」

 キースは静かにそう呟いていた。
 キースが見たのは5人が写っているの写真。夫婦であろう男女と、もう1人女、そして女を挟むように手を握っている子共が2人。もう、写真自体が古いもので所々が傷み翳んでさえいる写真だが……それでも似ていたのだった。






 その後、ユーリは身支度を整えると、アイスの町から出発したのだった。






~自由都市地帯 荒野~


 ユーリは、以前に購入した地図を下に、依頼の場所であるカスタムの町を目指していた。そして、今いる場所は荒野地帯。風が吹く度に砂埃が巻き起こる所々雑草や潅木などが生い茂ってはいるが、まさに不利用地だった。だが、その先に町がある筈……なのだが、地平線に眼を凝らしても、全く見当たらない。

「む……、奇妙だな。この地図の更新日はごく最近。……町の間違いなどありえるのか?」

 町が見つけられず、頭を掻くユーリ。そもそも、ユーリは、カスタムの町には訪れた事が無い。≪筈≫だから、迷っているだけだろうと思っていた。
 仕事の依頼は、大概がリーザス、自由都市地帯であれば、ポルトガルを主としている。大きな町こそ色んな依頼が舞い込むものであり、比較的平和とされているカスタムからは依頼が無いのだ。特に、真知子さんからは、『是非、遊びに来てください』と言うことを聞いてはいるが、中々時間が合わず、行けてないのだ。

「む……、この分なら 真知子さんに 連絡を取って、案内してもらえば良かったな」

 それは、後悔後を絶たずである。だが、ユーリがそう考えてくれている、と言う面においては、真知子にとっては嬉しいニュースである。

 そしてユーリは、懐にある写真を再び取り出した。

「……だが、この場所が、カスタムだった。と言う可能性があるのか。それを検証するのは無理だろうが」

 少し微笑みを浮かべながら写真を眺めているユーリ。この世に現存する数少ない自身の昔の思い出の写真だ。……もう、全く覚えていないが、この表情は、とても穏やかで幸せそうなのが見ただけで判る。
 そして、今回の依頼内容にあった写真も、再び目を通した。

「……似ている。アスマーゼさんに。そして、このコに。……まさか彼女が?」

 ユーリは、そう呟く。
 
 写真にいる1人の名前を。ユーリが、その家族が世話になったと言う恩人。その恩人に依頼書にあった少女が似ているのに驚いたのだ。そして、傍らでしっかりと手を握っている幼い少女の姿とも。

 昔から、暇があれば眺めていた写真。……見間違える訳は無い。いつもは、自宅においてきているのだが、今回は思わず持ってきてしまっていた。

「……アイテムを預かってもらわないと、な。……写真(これ)をもってきたのは失敗だった」

 ユーリはそう言うと、懐に再び仕舞った。
 そして、捜索を開始する。暫く地図が示す町の方向へと歩いている時。不自然にせり上がった洞窟が見えてきたのだ。大きさから考えて、奥行きがかなり少ない洞窟。だが、大きな入り口もある為、人工物なのは解った。……が、地図に記載されていないのが解せない所だ。
 これはダンジョンですら記載されている比較的細かい作りなのだが。考えながら歩いていると、その入り口に少女が立っているのに気がついた。どうやら、向こうも自分に気づいていたようで、目が合ったその時に微笑を浮かべ近づいてきた。

「すみません。キースギルドのユーリ様ですか?」
「ああ。そうだが、キミは?」
 
 ウェーブの掛かった水色の髪、そして赤いカチューシャが似合う少女。丁寧な口調であった為、若いが町の代表者か?と思えていた。ユーリの返答を聞くと、歳相応の明るい笑顔を見せ深々と頭を下げお辞儀をしていた。

「ようこそおいで下さいました! 私は、カスタムの町の町長の娘、チサと言います」
「……成程、出迎えありがとう。こちらこそ宜しく頼むよ」
「はいっ!」

 ユーリは右手を差し出すと、チサは直ぐにその手を両手で包み込んだ。これまで、数多の依頼をこなして来たが、出会ったその瞬間から、ここまで歓迎された事はこれまではなかった。恐らくは、冒険者が来てくれるのを心待ちにしていたのだろう。
 それだけ切羽つまった状況と言う事なのだろう。

「それで、カスタムの町はどこにあるんだ? 地図上ではこのあたりの筈だが?」
「あ、すみません。依頼書の方に詳しく記載されてませんでしたね。道中で説明させていただきます。さぁ、こちらです。町長の父がお待ちしてます」

 右手を横へと広げる。だが、その先は洞窟の闇が見えるだけだ。……いや、そもそも何故洞窟の前に彼女が此処に立っているのか、初めはそれが不思議だった。つまり結論をすると。

「……まさかとは思うが、カスタムの町は洞窟の中にあるのか?」
「……はい。そうです。その辺りも、おって詳しく説明させていただきます。」

 そうユーリが聞いたとき、彼女の表情は暗く沈んでいた。その表情から察するユーリ。そして、洞窟の中にある町の異常性を含めて考察する。

 今回の件。一筋縄ではいかないと。





~カスタムの町~


 洞窟の中だから、暗く湿度が高い、つまりはジメジメしてるのだろう……と思っていたが、そうではなく、町全体も思ったよりは明るいし、空気も悪くない。それが第一印象だった。ゆっくりとした足取りで先へと進んでいく。……進む先は地下。相当深いようだった。すると、到着したその場所は恐らくは人口の明りが目に入る。
 その光の先に、カスタムの町があったのだ。

「……流石にこんな町があれば耳にするが、一切聞いた事が無いな。依頼書にはおろか、地図上にも書かれていないのはおかしい」

 おかしい、と感じていたのだが、周囲を注意深く確認すると、理解は出来てきた。恐らく……、町そのものが地面の下、地下へと引きずり込まれた。
 だが、単純に考えてありえない。魔法使いが敵である依頼は何度か体験した事があるし、何より魔法大国ゼスにも行った事があるが、これ程までのものは見た事は無い。……味方殺しの彼女ならわからないが、壊すのではなく、ここまで繊細な事は出来ないだろう。

 つまり、結論は、町1つ沈める事が出来る程の強大な魔力がこの町にはあると言うことだ。

「これは、予想以上に骨が折れそうだ」
「あっ……、察しられましたか。……その、ユーリさんから見てこの町は、どの様に見えますか?」

 チサの言葉を受けて、ユーリは町を見下ろした。
 全体的に、暗く思う。それは洞窟の中だから、だとかそんな単純な事じゃない。例え、人口の光りを灯したとしても、人々の心が暗ければ、連動していくものだから。それに、よくよく見れば、所々壊れている場所が見受けられる。完全に無傷と言うわけではなさそうだ。

「正直に言えば、そうだな。町全体が沈んでいる。……それは、見た通りだけじゃなく。人々其のものが、だ」
「そう……ですよね。全ては彼女たちが……」

 少女の目は、表情は悲しみに彩られていた。
 さっきまでの少女とは思えない程だ。スカートの端を握り締め、そして力が加わっている為か、腕が、全体が震えていた。町をそれほどまでに愛しているから。だからこそ悲しい。暗くなってしまったこの町を見るだけで悲しい。その想いが伝わってくるようだった。

「あ、ごめんなさい。……それでは家へ案内しますね」
「……宜しく頼むよ」

 一頻り町を見た所で、ユーリは町へと案内してもらった。だが、その道中、一切住人とはあわなかった。皆 自宅に閉じこもっているのだろう。ユーリが見て感じたのは間違っていなかったようだ。そして、数秒歩いた後、町長の家へと到着した。

「それでは、中へどうぞ。父がお待ちしてます」

 チサに入り口を開けてもらい、中へと入るユーリ。応接室ではなく、寝室へと案内されたようだ。そこで見たのは、ベッドで寝ている顔色の悪い中年の男性。ユーリとチサの2人を確認した後、ゆっくりと身体を起こした。

「これはこれは……よくぞカスタムへ来てくださいました。申し訳有りませんが、私は身体が悪いので、床に入ったままで失礼致します。私は、町長のガイゼル・ゴードと言います」
「いえ、問題ありません。キースギルドから派遣された冒険者のユーリ・ローランドです」

 ユーリはこの時、初めてフードを脱ぎ挨拶を交わした。その姿を見たガイゼルは、少し驚きの表情をするが、決して口には出さない。どうやら、ユーリの情報は既に聞いているようだった。……彼のコンプレックスも、ギルドマスターのキースから聞いていたようだ。
 だから、誰も口にせず、考えないようにしていた。

(わぁ……とても若い冒険者さん?)

 ……撤回。チサは聞いておらず、姿を見て口に手を当て、驚きの表情のままだった。

「ユーリさんは、キースギルドに所属する冒険者の中でも、特に優秀な方だと聞いております。どうか、どうかこの町をお救いください。お願いいたします……」

 ベッドの上から、ユーリの手を両手でぎゅっと握り包み込む。チサと同じ行動だ。さすがは親子と言ったようだ。だが、それよりも……。

「ったく、キースのヤツ……」

 キースの顔を思い浮かべながら、笑っているであろうキースの顔に頭の中で灰皿を投げつけるイメージをした。そもそも、あのギルドに所属する冒険者で優秀の言葉が当てはまるのは、ラークとノアのコンビだ。依頼とは基本的に、人数が多いほうが成功率も上がるし、それぞれが問題ない力を持っていれば、被害も少なくてすむ。ユーリは受けるときは連続でしたりするが、基本的に彼は仕事に少しだけムラがあるのだ。受ける時は、沢山受ける時はあるが、受けない時は受けない。ランス程極端では無いが……。こなしている数だけを考えたら、あの2人の方が優秀だ。

 ただ、気になる所はある。彼が受けていない期間に何処にいるのかは……それは誰も知らない事だ。

「任せて下さい。受けた以上は最善を尽くします」
「ありがとうございます。とても頼もしい。それでは町の状況について詳しく説明をさせていただきます。チサ。宜しく頼む」
「はい。お父様」

 キースの売り方には、意義ありだが、2人に不安を与える事も無いだろうと口を噤んだ。ユーリは初めこそ訝しむ表情だったが……。悟られないように直ぐに戻した。ガイゼルがチサに説明を託すと、チサが一歩前へと出てきた。

「それでは説明させていただきます。ユーリ様もご存知の通りだと思われますが、この町は元々地上に存在してました。ですが……、今から少し前に魔法使い同士の争いが起こったのです」
「………」
「あれは、争い……と言うより戦争です。依頼書にも書いてある4人の魔女。そして彼女達に対抗したのは、この町で魔法塾を開いていたラギシスと言う魔法使いです。……ラギシス殿は、人間的にも良く出来た方で、その塾もこの町を守る人たちを育成する為に開いたものです。……魔女の彼女達も、その塾生、ラギシスの教え子でした」

 その言葉を聞いてユーリは、考え込む。依頼書によれば、その魔女達は師匠である人を、殺している。

「……反逆した。そう言うことだな?」
「はい。塾生でした彼女達が、突如 ラギシス殿に反逆して、彼に勝負を挑んだのです。町そのものを揺らす程のもの、天災に匹敵するような戦いでした。彼は……、町を守る為に必死に戦って、それで……」

 チサは、その言葉を口に出す事を躊躇ってしまった。だが、ぎゅっと手を握り締めると、再び口を開く。

「……彼は無念にも殺されてしまいました。そして、魔女達はラギシスの持っていた指輪を奪って、魔法でこの町を地下へと沈めて封印してしまったんです」
「町を沈める程の魔力……か。技能Lv2……下手をしたら、4人合わせて、Lv3に匹敵する可能性があるな。……そんな力を持つ少女達が魔法大国である《ゼス》にも知られていなかったと言うことか」

 俄かには信じがたいが、技能Lv3。即ち、伝説級の力を持つ者が複数集まれば出来ない事は無いと判断する。……現に知っているその【伝説級】の力を持つものは、破壊力に特化していて、全部吹き飛ばしてしまうからだ。その力を全部繊細なものにすれば……出来るだろう。だが、そうなると想像以上の強敵が4人もいると言う事になる。

「きっと、その力は彼女達のものでは有りません。……ラギシス殿が持っていた指輪の力で魔力を増幅しているんだと思われます」
「……成程、指輪か」

 魔力増幅の装備品は、確かに存在する。魔力増幅の装備品で代表的なのが、亜人・カラーのクリスタルの加工品だ。だが、ただの一魔法使いが、強大な力Lv3に匹敵しかねない力を有する程増幅させる事はクリスタルでも出来ない。……そして、聞いた事も無い。仮にそのような物があったとしても、それは危険と判断され、それこそ封印されているか、一国で厳重に管理されているかだろう。

 だが、……本当にそんな指輪があるのだろうか?

 ……この町で目撃者であるチサが見ている以上は、疑うより確かめた方が確実だと判断していた。

「町を封印した彼女達は、その後迷宮を築くと、私達の生活を脅かすようになりました。……数々のモンスターが町へと侵入してきたり、それに若い女性が誘拐されたり……」
「反逆したのは師であって、何故町にも……?何か動機の様なものがあるのか?」
「いえ……何もわかりません。嘗ては、彼女達、そしてラギシス殿を含めた5人で笑い合っていたそうです。……彼女達が悪魔になった。としか。それに青年団の4人が魔女を討伐しようと迷宮区に潜っていきましたが、まだ誰も帰ってきてないのです」
「……それは、いつの事だ?」
「もう……数日も前の事です」

 そう言うと、チサは肩を落とした。目にも薄っすらと涙を浮かべている。……青年団の人たちとは面識があるとの事だった。

「……可哀想だが、もう生きてはいないだろう。迷宮で数日も戻らないとなると」
「……ッ。そう、そうですよね……」

 ユーリの言葉でチサの最後まで失ってなかった希望の光が消えた感じがしていた。きっと、生きている。ずっと心の中で叫び続けていたんだから。

「……彼女達の目的は、一切わかりません。町に要求もないのです。……お願いします。私達を、町を救って下さい!」
「私からもお願いします。……彼女達を倒して、この町を、以前のような活気に溢れる平和な町に戻して下さい」

 親子の2人はユーリに対し懇願する。全身全霊を賭けて。町の他の住人には出会ってないが、恐らくは全員同じ思いなのだろう。ユーリは、剣の鞘を左手で強く握り締めると、一歩前へと出て口を開いた。

「……任せろ。必ず元の平和な町に戻す。オレの命を賭けて」
「っ……!あ、ありがとうございます! ユーリ様!」

 命をかけてでも救う。そんな言葉、今まで聞いた事無かった。これはあくまで依頼。仕事なのだ。命を失うくらいなら、逃げる選択を選ぶ事も勿論ある。でも、目の前の人は、決して逃げないといってくれている。勿論、口からのでまかせかもしれな。でも、不思議とそうは思えない。……彼の言葉、信じられるんだ。
 その……、もの凄く若い方だけど、どれほどの経験をしてきたのだろうか、とチサは思ってしまっていた。

「……安心してくれ。必ず」
「はい……」

 自然と顔を見合わせるユーリとチサ。その光景を快く思わない男がここに1名いる。こほんと、咳払いをするガイゼルだ。

「……娘はやらんぞ」
「っ/// お、お父さんったら……」
「安心して下さい。下心などありませんし、何より何処かの馬鹿と違って、節操無しでもないので」

 ユーリが思い描く馬鹿。とは、今から数ヶ月前に共に仕事をした男の顔。傍若無人であり、唯我独尊。そして、鬼畜と言う言葉が似合う、しっくりとくる戦士である男。だが、その実力は本物だという事は共に仕事をこなした自分も解っている。……9割9分9厘。否、10割でその男が成功報酬で要求するのはGOLD以外にチサちゃんとか言いそうだ。そして、この娘LOVE でありそうな父親ガイゼルと一悶着有りそうな光景が 簡単に目に浮かぶのだ。

「成功報酬としては、一応20、000GOLDを用意させてもらいました。但し、依頼した冒険者は1人ではないので、成功した者だけが受け取る事が出来る早い者勝ち方式としてますが……」
「20,000ですか。………ふむ」

 額を改めて聞いたユーリは考える。確かキースも割に合わないと言っていたが、それは間違いでは無い。この規模を考えればだ。相手の力はまだまだ未知数。その上最低でも町を沈める事が出来る事が解った。その時点で十分に脅威だ。そんな魔法使いと戦わなければならない。前回の誘拐事件は別として(良家の娘だった為の金額。だが、蓋を開けてみたら結局は割に合わない。)も、安すぎると言うのが第一印象。この案件は、個人の依頼ではなく町名義での依頼だ。これだけ安い報酬を提示したと言う噂でも流れてしまえば、カスタムの評判は落ちてしまうだろう。それと同時にこの依頼をそんな安値で受けたとなれば……、所属ギルドにとってもマイナスになる。
 一時の判断ミスで、双方不易となってしまうのだ。

「状況から考えたら、少し安すぎますね。現在の町の事を考えれば、仕方ない。とも言えない事もないですが、安く見積もっても最低限ラインが+10,000GOLDが妥当でしょう。自分としては問題ありませんが、でなければ、うちのギルドとカスタムの双方の評価が落ちてしまう可能性があります」
「う……」

 ガイゼルの表情を見るに、本人も考えていた事なのだろう。だが、町の今後の復旧を最優先で考えてしまったゆえのものだった。だが、復旧させる為には、彼女達の排除が不可欠だ。それが出来なければ、復旧も何も出来ないのだから。

「冒険者にも色んな者がおりますが、大多数は生活を守る為に行動している者が殆どです。それを考えれば、受諾してくれる冒険者が極端に減ると考えられます。正義感のみで、請け負ってくれる者がいれば話は別ですが……、その手の冒険者は私は知りませんね。……結論から申し上げるに、少しでも早く解決させた方が結果的に最低限の出費で解決できると思いますね」
「はい。……申し訳有りません。町を優先するあまり、冒険者達の事を軽く見てしまっていたようです。成功の報酬は言い値どおりの30,000とさせて頂きます。ギルドの方へも訂正連絡をしておきます。それならば他の冒険者達も来ていただけるかと思いますので」
「了解しました。……正式に、ギルドメンバーの一員として、依頼を受けさせていただきます」

 ガイゼルは頭を下げた。どうやら、考えたことは間違いないだろう。
 そして、ユーリ自身が個人的に頼まれたものであればその額でも問題なく引き受けている。……が、ギルドに所属して仕事をする以上は考えて仕事をしなければならないだろう。

 そして、部屋を出て行く時、確認する事があった。それは、早い者勝ちのシステムにしていると言う事の件だ。

「ああ。先ほど、町長さんは冒険者達が次々と来てくれると言いましたが、その彼らは無駄足に終わります」
「えっ! な、何故でしょうか?」
「……この1件。オレが終わらせるので」

 決して自信過剰なのではないのは、何故か初めてあった自分達でも解る。……それは絶対的な自信の表れなのだと言う事も何故か解ったのだ。安心できるんだ。

「……何故でしょうか、ユーリさんなら、本当に解決してくれる。絶対に大丈夫だって、強く思いました。お父様」
「うむ……。私も同じだ。安心できる。……こんな気持ちになったのは、町が沈んでから初めてだ」

 親子共々、同じ意見だったようだ。
 だが、その後ガイゼルは眉を寄せた。まだ、何かあるように。

「だが、絶対に娘はやらん」

 ……真面目そうで、頭の回転も早く、町想いの町長だが……、その実態は、娘LOVEの親バカだった。チサは苦笑いしつつ、足早に部屋の扉の方へと向かった。

「お父様。もう直ぐ次の冒険者の方が到着するとの連絡を受けてますので、町の入り口にまで、迎えにいってきます。この惨状……知らないと思いますし」
「ああ、頼んだぞ。チサ」

 2人の話から、どうやらユーリと殆ど同時期に依頼を受けた者がいたようだ。チサは、その一覧を頭に叩き込んでいるが、念のために書類を確認しなおす。失礼が無いように、冒険者の名前、そして所属しているギルド名を間違えないようにする為に。

「次もユーリ様と同じ所属のギルドからです。……きっと、頼りになる方ですよ。お父様」

 チサは、笑顔で向かった。初めこそ、物凄く若い方だと思い、不安が過ぎらなかったか?と言われれば嘘になる。だが、その雰囲気を見て、そしてさっきの語りを聞いて……、もう最大限に信頼できる人になっていたから。……人間は顔じゃない。と言う言葉を聞いた事はあるけど、本当にそうだとこの時強く思っていた。


            

――……からかわれる事を嫌うユーリにとっては、これは正に僥倖とまで言える事である。





 カスタムの町を歩いていた時だった。
 とりあえず、冒険の必需品は持ってきているが、敵の強大さを聞いた今もう少し消耗品を充実させたほうが良いと判断したユーリ。だが、思いのほか町は入り組んでおり、尚且つ住人が見当たらない為、アイテム屋がまだ見つかってないのだ。それにもう1つ寄りたい場所もユーリにはある。が、先ほども言ったとおり、見つけられてないのだ。

「ふむ。……流石にもう少し持っていったほうが良いよな。誰かいれば聞き様があるが、一度町長の所へ戻ったほうが早いか?」

 あんな格好付けたのに、戻るのは聊か恥かしいが、これまでにも もっと、恥かしい思いはしてきてる。特に問題ないだろう。 

 そして、町長の屋敷へと向かう道中。チサに合う事が出来た。

「あれ? ユーリさん。どうかしましたか?」

 目が合うなり、表情が変わったため、何かあるのだろうとチサは思ったようだ。それに、この先は町長の屋敷しかないと言うのもある。

「ああ、すまないが、この町の地図があれば頂きたいのだが……、中々に入り組んでいるみたいでね」
「なるほど……確かにそうですね。こんな風景ですし……、皆さんも彼女達を恐れて外出を控えてますから。はい。大丈夫です。見取り図は家にありますのでついてきて下さい」
「ああ、すまない。だが、今は大丈夫なのか?」

 チサは家とは反対方向を向いていた為、どこかに行く用事があったのだろうと思いユーリはそう聞いていた。

「あ、はい。大丈夫ですよ。お客様に御出しする飲み物、お菓子が切れてしまったので、それえとそれの買出しだけですから。急ぎではありません」
「……? ひょっとして、オレ以外にも、もう来たのか。冒険者が」

 ユーリは頭を掻きながらそう聞く。さっき自分がいった言葉を思い出したようだ。

「ふふ。はい」

 チサも何故苦笑しているのかわかったようで、微笑んでいた。格好いいのと可愛い。その5対5のブレンド。ユーリの事はとても素敵だとこの時、強く認識していた。

「あ、ユーリ様と同じギルド所属の方がこられました」
「……キースギルドから?」

 思い浮かんだのはラークたち。だが、彼らは他の仕事が丁度入っていた。それに、まだ金額訂正内容は時間的に更新されてないと思われるし、あの依頼をあの金額で受けるような人物は……。

『がはははは!!』

 考えてる最中に答えが出てきた。
 真面目に考えていたのが馬鹿らしく思える程にだ。……真面目に実力でテストを受けていたのに、無理矢理 見たくも無い解答を見せ付けられた気分だ。あの特徴のある『がはは』と言う笑い方、そんなのは ユーリは1人しか知らない。

「何を言っているのだ!? 30,000GOLD? ありえん額だ! 器の小さな町なのだな、成る程、地下に沈むわけだ! 報酬は50,000GOLD !そして、チサちゃんの処女だ! でなければ、この超英雄であるオレ様は動かないぞ!?」
「な、な、な、なにぃぃ!! 娘の処女ぉぉ!?!?!? そんなのぜ~~~~ったいにゆるさんぞぉぉぉ!!!!!」

 一気に騒がしくなる屋敷。まるで町中に響いているかのようだった。この場所にだけ……まるで賑やかさが戻ってきたかのようだ。だが、その内容だけはいただけない。

「っ……!? わ、わたしの処女……?」

 町にも響き渡る程の声。
 聞こえてないわけも無く、チサは頬を染めていた。自分は勿論初めてであり、何故それを先ほどの冒険者が知っているのか?と思ってしまったようだ。……それにここまでストレートに言われた事など、一度たりともないし、父親からのガードも堅い為 男性経験もあまりないんだ。

「はぁ……、これも縁ってヤツなのかね。しかし」

 見なくても誰がいるのか解るのが何故かぬなしく感じ、哀愁漂わせているユーリだった。
                       

                
 
 そして、4人の魔女との死闘。


《カスタム四魔女事件》の幕が、ここに切って開かれる。


 新たな絆が生まれ……後の後世にまで語り継がれる物語の始まりであった。

 
 

 
後書き
〜人物紹介〜

□ ユーリ。ローランド(2)

Lv44/222
技能 剣戦闘Lv2 抜刀術Lv2 冒険の知識Lv1 ???Lv3 ???Lv?

先の大仕事、リーザスでの一件でランス程では無いが、それなりに大金を獲得したユーリ。数ヶ月は仕事をしなくても、問題ないがその後もきっちりと仕事はこなしているが、キースの策略で、色々大変だった模様。そして、キース自身も彼を宥めるのに大変だった模様。
それを踏まえたとしても、ユーリをからかうのは面白いと思ってしまってるから性質が悪い。
そろそろ随分と顔が成長しただろうと、鏡の前で毎日素顔を見ているのは 皆には秘密の日課である。


□ ランス・クリア(2)

Lv10/∞
技能 剣戦闘Lv2 盾防御Lv1 冒険の知識Lv1

リーザスで得た大金も無事元に戻り、ぐうだら生活を続けていたランス。実を言うと、リーザスの事件でレベルがそれなりに上がったのだが……、再び下がってしまっている。そろそろ仕事をしなければ金が尽きる為、早々に一番多い金額の依頼を受けたのがユーリと被ったようだ。

今回も、色々と面倒を持ってくるトラブルメーカー兼鬼畜戦士である。


□ シィル・プライン(2)

Lv10/40
技能 魔法Lv1 神魔法Lv1

勿論まだ、一緒にいます。ランスのパートナー。彼女も誘拐事件の際にはそれなりにレベルが上がったのだが、ランスと共に仲良くレベルダウン。
実は、ユーリの≪魔法≫を見て、今後もランスの役に立ちたい彼女は 彼に教えを請いたいと思っていたが……、ランスの手前そんな事言える筈も無く自身の胸の内に留めていた。


□ キース・ゴールド(2)

アイスの町のギルドマスター。ランスとユーリ、2人で足して2で割れば丁度良いんじゃないか?とハイニに言っているのは極最近の事。
最近(いつも?)のマイブームは、ユーリの顔を売ろう作戦をちょくちょく実行する事らしい。彼曰く、克服させてやろう!と言うらしいが、本心は不明。
……ただ、楽しんでるだけの様な気もする。


□ ガイゼル・ゴード

カスタムの町の町長。身体が弱く、病に苦しむ傍らでも、町の為にと奔走を続ける間違いなく町長の鏡といえる人物だが、親バカ。……娘を持つ親はこうなるのだろうか。


□ チサ・ゴード

カスタムの町、町長ガイゼルの娘。父親想いであり、町想いの心優しき少女。
ユーリと出会った時、これまた勿論 そのお顔に驚きを隠せなかったが、とりあえず ユーリと言う人物を知って何も言わずに魅かれていた。
父親想いである彼女からは、行ける事は無い為、恋に発展する事は非常に難しいといえるだろう。
……誰がとは言わないが、これは幸運なのである。


〜町紹介〜

□ カスタムの町

自由都市地帯の中心部に位置する町。
実は、今後、大陸一技術が発展したスーパー都市となる!らしいのだが、今は町ごと地面に沈没している為、見る影も無い。

今章の舞台である。
 
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