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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第2章 反逆の少女たち
  第12話 アイテム屋で大ダメージ



 とまぁ、前回はかなり他人のふりをしたかったユーリだったのだが、今は知らない間柄でもなく、同じギルド所属と言う事で、そうはいかなかった。

 とりあえず、2人と合流し カスタムの酒場へと3人で移動をした。

 この時……ガイゼルの血圧が異常に上がったのは言うまでも無いだろう。あの後も、ずっとチサを狙っていたからだ。

「同じギルドだし、同じ冒険者だ。この辺りを拠点にしていればまた会うだろうとは思ってたが、……ここまで早いとは思ってなかった」
「ふん! このオレ様が 男に再会するなど嬉しくもなんとも無いわ」
「ユーリさん、以前はお世話になりました」
「いやいや、オレの方も助かってたよ。お互い様だ」

 ランスはふんぞり返っているのだが、シィルは すっと頭を下げていた。例によって、ランスは金欠だからこの場はユーリの奢りである。
 ……この時の金銭額の差は、かなり離れているようだ。
 そして、これも恒例だと思われるが ユーリと話しているシィルを見てすかさずランスは拳骨。『ひんひん……』と泣いてしまっているシィルと、苦笑いをしているユーリだった。

 そして、話はランスの金銭事情に。

「……あの依頼額の6割以上を、オレはお前さんに渡した筈だがな」
「あの程度のはした金など、即効で使い果たしたわ。金などは、一気にぱっ! っと 使うのも、男の甲斐性と言うものだ! がはは! 天下の回りものだ!」
「別に、自慢にならんって、それ……」
「すみません……。以前も奢っていただいたのに、また、奢っていただいて……」
「礼などいいぞ、シィル。コイツは下僕1号なのだからな!」
「だから、誰が下僕だ! ……まぁ、たかが酒場の食事だ。気にする事は無いよ。シィルちゃんもしっかりと食べてくれ。……今回の相手も一筋縄では行かなさそうだ」
「はい。いただきます」
「がははは! たんまりと喰って溜めておけシィル! 他人の金で食う飯は上手いんだぞ!?」

 頭を下げつつ、シィルは箸を手に取り ランスは笑いながら、ガツガツっと食べていた。やっぱり、ランスはへんでろぱは、シィルが作るのが美味いみたいだ。
 しきりに、箸を伸ばすが、酷評を続けていた。

「はは……、オレもシィルちゃんのへんでろぱ、食べてみたくなったな」
「あ、はい。私が作るのでよろしければ……」
「む! 何を言うか! 馬鹿者。シィルが作る物は全部オレ様のだ!」
「はいはい……。解ってるよ」

 ユーリは軽くランスを見て、ニヤリと笑いながら酒を口へと運んでいた。ランスは、言わされたのだと、若干気づきすぐさま口を噤む。そして、意味も無くシィルの頭をぐりぐり~っと拳ではさんでいた。

「ひんひん……痛いです。ランス様……」
「うるさい!」
「やれやれ……」

 正直な所……、色々と無茶苦茶で 『はぁ!?』って思うところも多々あるが、2人を見ていて全然飽きないのだ。それにランスには不思議な魅力があるのも事実だと感じていた。

 だからこそ、この男がする事は大体が良い方向へと行くのだと。

 ……その分フォローをしないと、簡単に死んでしまいそうになると思うのは気のせいだと思いたい。……以前のリーザスでの仕事でも、ちょっと危なかったから。

「それにしても、今回の依頼料も50,000GOLDにしたんだな……。まぁ 難易度を考えても あの指定金額は少ないとは思うが、前の仕事はちょっと異常だったからだぞ? 味をしめないほうがいいんじゃないか?」
「馬鹿者! ちゃんと交渉して、同意の上 釣り上げてやったのだ。これで、仕事を成功させたら、また暫くは仕事をせずに済むな!」
「……ガイゼルさん可哀想に」

 ユーリはそう思わずにはいられなかった。
 確かに、以前までの提示額は少なすぎると言えるだろう。……が、それでも当初の2,5倍はヤリスギだ。娘を守る為に決断したのだと言う事は、目に浮かぶようだった。
 別に普通に話をしているだけで、次の一言が『娘はやらん』だから。あんな、ドストレートにいった日には、怒りで燃え尽きてしまいそうだ。
 ……身体が悪いのに、あんなに血圧を上げたら、更に悪化してしまいそうな気もする。

「さて、そろそそ真剣な話をしよう。粗方喰い終わったようだしな」
「なんだ? 何か話があったのか?」
「ああ。その通りだ。今回の仕事ブッキングしたようだが、手を組まないか? 成功報酬の分け前については、要相談で構わない」
「む……」
「まぁ、元々のオレの金額は30,000だったが、2でいい。ああ、勿論 手を組むのが嫌だったら、断ってくれても構わない。そうなれば 山分けの件も無しで 早い者勝ち。10:0の《ALL or NOTHING》だ」

 ユーリがそう言うと同時に、ランスは少しだけ表情を歪ませていた。以前の仕事の際に 大体の力量を把握している(つもり)であり、そこら辺の雑魚冒険者じゃないという事は判っているのだ。
 事実、リーザスのトップを下したのはユーリである。ランスもリーザスコロシアムの英雄を打倒しているから、その点においてはイーブンと言えなくもないが。

「(……このガキはやはり、オレ様がしっかりと手綱を引いてやったほうが無難だな。がははは。パシらせると言う手もある) ふむふむ。寛大なオレ様に感謝しろ。下僕として、再び使ってやる」
「下僕下僕うるさいわ!」
「す、すみません……」

 パーティが決まり、と言う事だった。

「そして、金だが オレ様は3.5だ! これ以上はびた一文も譲らん! こちら側にはシィルもいるのだ」
「しっかりしてる事で、(ほんとにシィルちゃんにあげるとも思えないけど)まぁそれで良い。……交渉成立だな。オレが15,000に対してランス達が35,000だ。」
「まぁ、良いだろう! オレ様の為にしっかりと働けよ? がはははは!!」
「……。(今回も、ユーリさんと……。あ、私魔法を教えてもらおうかな。)」

 シィルは、ランスの決定にやっぱり違和感があるようで、かなり気になっていた。

 一度ならず二度までも男性の方と仕事をする事にだ。もう、これなら3度目と言わず、今後何度も起こりそうな気がする。10回ほどは……。ランスがこの交渉で応じた理由は3つ程ある。

 1つ目に、ユーリがそこそこ実力を持っていると言う事、足手まといにはならないという事。
 2つ目に、美女を助ける男だと言う事、何より口うるさく言うが、決して自分の和姦(?)を、それなりには 邪魔しない所。……格好良い、自分に嫉妬しないと言う勝手な想像。

 そして、ランスの中で最も重要なのが最後の点。

「がははは! さっさと事件を解決して4人の魔女とヤらなければならないからな! 魔女に少女だ。単なる魔女だけでは、シワシワのババアの可能性があるが、少女ならば大丈夫だろう。魔女で少女……可愛いに決まっている。ぐふふ……」

 と言うことだった。
 まだ、幼いころの写真しか、同封されていないとは言え、あの容姿で大人になって激変するのはあまり考えにくい。魔女と呼ばれる程、魔法を極めていると言う事は怠けている、サボっていたりはしないだろう。
 つまりは、引き締められているボンキュッボン!と言う事。……これがランスの妄想内での姿。

「まぁ……それは良いんだが、なんだ? この量の食料は。」

 ユーリ達の席に大量に運ばれてくる食料。……こんなに食べれるのか?と一瞬思ったくらいだ。

「がはは! 腹いっぱい食べて良いと言ったのは貴様ではないか!」
「限度があるだろう? なんで、イカカレーやうしカレーも頼んでんだよ。 一個でいいだろ」
「がはは! 凡人の胃袋と一緒にしてもらっては困るな! オレ様に掛かればこの位朝・昼飯前と言うものだ!」
「……その上、うはぁんまで」
「おおっ。幻の桃りんごを使ったデザートじゃないか! 貴様がオレ様の為に頼んだのだな? 褒めてやろう!」
「誰が頼むか!! 仕事中に動けなくなってもしらんからな!」

 やいやい言い合っている2人。……横で見ていると良く解る。


 2人はとても仲良しだという事が……。

「はぁ……、シィルちゃん。無理して食べる、なんて事 だけはしなくていいからな」
「あ、いえ……大丈夫です」

 シィルは、少し苦笑いをしていた。
 自分のお皿にのせた食料は途端にランスの口へと運ばれる為、あまり食べれてないのだ。だが、今回はそうはいかない。

 これだけの量を食べるのだから。

 ……動けなくなっても厄介だと感じたユーリは、セーブしつつ 道具として、食べきれないのは少しずつ残し始めていた。
 幸いにも、保存がきく料理も何品かあるのだから。

「お兄さん達冒険者だね? もしかしてこの町を救いに来てくれたの?」

 そんな時、豪快に食べている姿を見たのか、その風貌を見たからなのか解らないが、冒険者だという事を知って赤い髪のウェイトレスが話しかけてきたのだ。

「ああ。そうだよ。でも、あまり広めないでおいてくれると助かるな。騒ぎになっても面倒だ」
「あ……、多分心配しなくても大丈夫だと思うよ。だって、お兄さん達が、初めてじゃないからね」

 ユーリがそう言うと、彼女はそう返していた。

「ふむ……。そう言えば、青年団も潜ったと聞いているが、他の冒険者もいたとはな。……と言う事は、あまり期待はされてないと言う事だな」
「なんだとっ! この英雄であるオレ様に期待しないとはどういうことだ!」
「『どういうことだ!』って、オレに言われても困るな。状況が状況だ。自分で考えてくれ」
「ああっと……、ごめんなさい。気を悪くさせちゃって……、何もお兄さん達の事を見縊ってるわけじゃないの。ただ、さっき、そちらのお兄さんが言ったとおり、青年団の皆や、他の冒険者達も迷宮に潜ったんだけど……、誰も帰ってこなくて。最初こそは町の皆も期待してたけれど、段々と疲れちゃったみたいでね」

 その声は笑っている。だが……、決して表情は笑っていない。それに何処か乾いた笑みだった。この状況のせいで、町全体が暗い。人々は心を閉ざしつつあるのか、と思っていたが、どうやら違ったようだ。

 期待を奪われたときに変わる絶望は期待の比ではない。大きければ大きいほど……一気に持っていかれるのだから。

「つい3日前です。4人組の冒険者たちが迷宮に挑戦したんだけど……、戻ってないんだ。確か、バード冒険団って言ってたかな? 知ってます?」
「初耳だな」
「全く知らん」

 ランスは素で興味ないようだが、ユーリはそれなりには同業者については知っている。頭の中で、嘗て会った事のあるメンバーも含めて考えても……、他の国のメンバーを頭の中で検索しても……。

 何度やっても≪0件≫だ。

 忘れているとかそう言う違和感もないから、間違いないだろう。

「あ……、そうなんだ。割と有名な冒険団だって話だったのに。……大口だったようだね」

 2人の反応をみて、頭を掻く少女。
 昨日迷宮に潜ったという冒険団の事を思い返しているようだ。……だが、酷な話だが青年団と同じように、まだ生きている可能性は低いだろう。青年団たちと比べたらまだ日も浅いが、迷宮と言う場所をあまり侮ってはいけないからだ。どんな、場所でもその名を冠する場所はどこも危険なのだから。

「……そんなに沢山の人が犠牲になってるなんて。そこにいると言う魔女は恐ろしい人たちなんですね」

 シィルは、少し表情を曇らせつつそう言っていた。……何人が犠牲になっているのか、わからないからだ。もしも、ランス様やユーリさんが、この依頼を受けていなかったら……、ドンドン増えていく可能性だってあるんだから。

「がはは! 悪い悪い魔女達のようだ。これはオレ様がきっちりと、お仕置きをしてやらんとな!」

 ランスは、いつも通りの様子で笑っていた。
 自分に危険があるなど、1mgも考えていないようだった。……こう言う輩は大体は失敗するのが相場なのだが、ランスだけは違っているのはわかるから、逆に頼もしいんだ。

「(……やれやれ、今回もお色気シーンが多そうだ。……この町じゃ危険だと思うんだが)」

 ユーリは、頬を指で掻きながらそう思う。何せ、この町には≪あの神官≫がいるからだ。
ユーリとは言えど、男だ。……顔は兎も角。

「(……何か、失礼な事言われた気がする)」

 それは大正解である。

 ……が、とりあえず置いといて ユーリも若い男だから、ムラムラ来るときだって、きっとあるのだろう。……そんな機微を見逃すような神官じゃない。

『私で解消させて上げましょう!!』

 とか何とか言われそうだ。……仕事以外で疲れるのは嫌だから却下の方向で。

「何を呆けておるのだ? ……貴様、さては4人の魔女の事を考えておるのだな!? オレ様のだぞ!」
「……いつの間に、お前の物になったのかは知らんが、とりあえず違うとだけ言っとく」

 ユーリは苦笑いをしながらそう言っていた。
 この時、ランスは本当に想像力豊かだな、と思わずにはいられなかった。

「ラギシスさん、可哀想に……、あんなに立派な人だったのに……」
「そうだ……そうだ! 全部あいつらが悪いんだ!」

 酒場にいた酔っ払い達が、話を聞きつけたのか、悪口や、死んだラギシスの事ををいいはじめた。連鎖していくその憎悪。……町の人たちがどれだけ、憎んでいるのかが良く解る。……解るが、聞いていて気持ちの良いものじゃないのは確かだ。
ユ ーリは、自分の目で見て、自分で感じたものを信じるようにしているからだ。先入観を捨てているからこそ、柔軟な行動が取れると思っている。

 そんな中、ただ1人だけ口を噤んでいる人がいた。ウェイトレスの少女だった。皆に聞こえないように小声でユーリ達に話しかける。

「私には……、彼女達がこんなことをするなんてどうしても信じられなくて」
「何をいきなり。現にそいつらに町を沈められたのだろう? それが証拠じゃないか」
「うん。……でもね、本当に良い子なんだよ。本当に……。良い子たちなんだ」
「………」

 ランスの言葉に上手く反論する事が出来ない。だからこそ、俯くこそしかできないんだ。

 どうやら、彼女はその4人とはそれなりに親交があったようだ。……だからこそ、違和感を強く感じるのだろう。逆にその情報は重要なものだとユーリは思う。彼女達をよく知っているのは、もうこの世にはいないラギシス氏しかいないのだから。
 
 それ以外の皆は反逆をしたと、思っている。……こんな目に合えば仕方が無いと思えるが……。

「あの迷宮に潜る前に、戦いが始まったという場所、屋敷を調べた方が良いかもしれないな。……何が彼女達を駆り立てたのかがわかるかもしれない」
「うむ。よし! シィル!」

 ランスは勢い良く!シィルの名を呼ぶ。……大体解る。次の言葉。

「金目の物があったらしっかりと盗っておけよ!」
「あ、はい……! ランス様」

 シィル自身も思っていたようで、あまり表情に出さなかった。本当にいつもの通りと言う事だ。

「ははは、楽しい人たちだね。そりゃ泥棒じゃないか。ま、冒険者なら、冒険した場所で見つけた宝は冒険者達の物、だしね。でも……、わざとそんな事言って場の空気、変えてくれたんだよね? ……ありがとう」

 そう言って微笑む。
 だけど、それは間違いである。……大間違いである。

「がははは! 女の子には優しいのだ。オレ様は!」
「(大マジだランスは)」
「(ランス様は本気なんです……)」

 ランスは大笑い。そして、気の落ちていた自分を励ます為に、ランスがわざと空気を変えてくれたと捉えたようだ。だが……、そんな殊勲な考えを持っているわけ無いと解ってる2人はただただ、苦笑いをしていた。

「町の人も、今は酔っ払っているからあんな風に言ってるけどね、彼女達を信じてる人も中にはいるんだよ。……彼女達を、最後の最後まで。……それだけは覚えておいてね」
「ああ。覚えておこう。だが、もしも彼女達が噂に違わない人物だったら……」
「……うん。その時は私の口出しする話じゃないよね。お兄さん達に任せるよ。……よし! ウジウジ考えても始まらないし! 気分を変えなきゃね!? 何か奢るよ! 私が空気を悪くしちゃったんだし!」

 明るい顔をしながら軽く背伸びをする。自身の中にずっと秘めていた思いを打ち明けた為、多少は気が晴れたようだ。

 そして、それが現実であれば……、きっと彼女は本当の意味で明るくなれるだろう。

「すいません。ごちそうさまです」

 シィルは頭を下げた。
 すると、そのモコモコのピンクヘヤーを目の前にした少女。……初めはただ何となく、お礼を言ってくれたから頭を撫でて『良いよ』といいたかっただけなのだが。

「わ、わわ!!ななな、なに、この頭……」

 少し触っただけで、それの奥深さが知れた。どんどんと引きずりこまれる。

「あったかくて……優しくて、それでいて心が引きずり込まれてく!? 髪の神? まさに、ゴッドオブヘアー……?」

 一心不乱に、シィルの頭をわしゃわしゃと撫でる撫でる。

「ひゃ、あ、あの……あまり、中で動かさないで……」
「おいコラ! 何を人の奴隷に勝手なことをしているのだ! さっさと離れろ!」

 ランスに半ば無理矢理引き離されてしまった。そんなに凄いのかと、多少は興味は持ったものの……。

「元気になって何よりだ。これが代金だと思えばどうだ? シィルちゃん。」
「あ、はい。それなら……」
「えぇい! オレ様がゆるさん! ってまて! ならば、貴様にもシィルを好き勝手されるという事ではないか!」
「別に何もしないって」

 ユーリは、再びランスとシィルを見つつ笑っていた。本当に、大事に思っているのだろう。それが、もっと行動に伴えばよいのだがと思ってしまっていた。

「本当に、愉快な人だな。キミはなんと言う名なんだ?」
「え? 私ですか?」
「えぇい! 貴様! オレ様の目の前でナンパなど許さんぞ!」
「名を聞いただけだろうが……」

 ランスの前では、確かにこういわれるだろうと思っていたから、これは失策だとユーリは思っていたが……、彼女が名乗ったとき、空気が固まった気がした。

「私は、《エレナ》 《エレナ・エルアール》です。ここの看板娘なんですよー」

 胸を張ってそう言うエレナ。ウケ狙いだったのだが……。

「………」
「あ、あれ? 滑っちゃいましたかね?」

 その名前を訊き、固まっているユーリ。
 その表情は、まるで信じられないものを見ているかのようだった。

「あ、あれ? ユーリさん……?」
「貴様……! 何を見惚れているのだ! ?全世界の美少女はオレ様のものだt「そうか……≪エルアール≫そうだよな……」む?」

 肩で息をしたユーリを見て、不振に思うランス。だが、ユーリは頭を振った。そして、頬を手で叩く。

「悪い。……ちょっと、酒が回ってきたようだ。……エレナさん。お冷を1ついただけないか?」
「あ、はい。解りました」

 不審に思ったのは、ランス達だけではなくエレナも同じだったが……、表情が元に戻ったことから、そこまで深く考える事はせず、ユーリにお冷を渡した。
 ユーリは、一気にそれを飲み干すと。

「さて……、そろそろ行こう」
「貴様が仕切るな! よし、行くぞ!! シィル!下僕1号!」
「は、はい! ランス様、ユーリさん」

 そう言うと、ユーリ達は酒場の裏口から出て行った。勿論、代金は支払ってだ。……食い逃げなんて情けない事はしたくは無い。
 エレナに奢る、とは言われていたが 流石にあれだけの食料を全て奢ってもらうのは酷だろう。


 そしてその数分後の事。


「なーに? この騒動」

 酒場に姿を現した女性。……飲みにきたのに、異常なまでに中が騒がしい酒場を見て頭を掻いていた。

「あははは。話の内容は褒められたものじゃないけど……。沈んだままよりはマシかな。いろんな意味でも」

 エレナはため息を吐きつつも笑っていた。
 この酒場を説明すると……、まずエレナたちの話しから酔っ払い達が騒ぎ出し、そして、シィルの頭、髪の毛をゴッドオブへヤーだと、騒いでいて……。話に話が盛り上がって、今の喧騒に至る。
 新たな、注文がある訳でもなく、ただただ暴れているかのように騒いでいるのだ。

「はぁ……、折角飲みに来たのに。今日は教会で飲むことにしようっと。……なーんか、虫の知らせが合ったんだけどなぁ……、私の面白センサーがびんびんに。……気のせい?」

 頭に拳を当てつつ考え込む。
『神の前でてきとーに祈った所、今日お告げがあったんだけど』と呟きながら。

「ま、いっか。……飲みなおした後、ダ・ゲイルでも呼ぼうかしらね」

 酒場の酒を何本か買った後。この場を離れていった。彼女の名は……。

「あ、ロゼさん。いつもので良いです?」
「よろしくねー」

 エレナは、ロゼが来た事に気づくと彼女がキープしている酒を取りに奥へと向かっていった。

 随分と珍しい事だと思ったが、今日自体珍しい事が結構起こっていたから、特段驚きはしなかった。

 そう、酒場へとやってきた彼女。
 下着の上にローブを羽織っただけの過激なスタイルの自他共に認める淫乱シスターだ。……普通ならば、そんな女がいれば、酔っ払い共が放っておかないものだが……、ロゼは、人外に鍛えられている?から、そん所そこらの男が言ったところで逆に搾りとられてしまう事を皆が知ってるからこそ……、誰も手を出していないのだ。

 恐るべきAL教のシスターロゼである。








 そして、翌日。
(あの後だが、思ったより時間が経っていた為、また明日にしようとの事で、宿へと帰っていたのだ。)

 一行は、ラギシス邸に行く前に、通り道にあったアイテム屋へと寄り道をしていた。

「小さいな。こんな店なら品揃えなど、期待はできんか」
「仕方ないだろう。カスタムは比較的田舎。リーザスとかと一緒に考えるなよ?」

 ランスの言葉にそうツッコむユーリ。
 確かに、数ヶ月前まではリーザス王国を拠点としていた為、アイテム屋は勿論、武器屋等、何にも不満は無かったのだ。……あえて言うなら、ランスが言っていた へんでろぱ くらいだろう。

「いらっしゃいませですかねー? ようこそ、ここはアイテム屋さんですかねー?」
「……オレは、オレ達はどう答えたらいいんだ?」

 エプロンをかけた少女がたずねてくる。普通は逆だろ、とツッコみたかったが、朝早々は疲れる。だから、何も言わなかったのだ。
 それに……、この場の雰囲気もあった。

「ぴぎゃーー!」
「ギュ! ウギュ! ギュッ!」

 アイテム屋の天井にある物。モノだろうか?
 天井からぶら下げられていた鳥かごの様なものに、何故かモンスターのミミックが入れられているのだ。……それだけではなく、レジ前にも不審物がある。言葉を発する謎の植物が植えられているのだ。

「これは、ペットのミミちゃんですかねー? いいですかねー? それで、こっちの盆栽はですねー。……ですかね?」
「いや、説明はいらない。……説明も出来ない。観賞用モンスターは詳しくないし」
「……ここって、本当にアイテム屋さんなのでしょうか……。別の世界に来ちゃったみたいです」

 シィルがそう言ってしまうのは仕方が無い。

 ここは アイテム屋、と言うよりは まるで、小さな魔物界だ。流石に命の危機を!!っとまでは感じないが、見てくれは十分そう感じる。

「まぁ、店の雰囲気は別として、キミは中々グッドな容姿だ! 可愛いな、がはは! 名はなんだ?」
「私はトマトですかねー?」

 首を可愛く傾けているが、いい加減疲れる。いつまでたっても、きりは無いし、要領も得ない。さすがのランスも、痺れを切らせたようだ。

「自分の名前だろうが、あーまぁ良い。ここで一番の装備はなんだ?」
「えーーっと、……どれですかねー?」
「……ランス。先に行ってていいか?」

 やり取りを傍から見ていたユーリはそう言う。
 そもそも、軽く視渡したところ……顔をすっぽり隠してくれそうな、フードは置いてなかった。自身が持っている≪プレラン・ローブ≫もそろそろ痛んできた所だから、もう少し良いものを……と当てにしたのだが。

「駄目だ!」

 ランスはぴしゃりと言う。どうやら、自分も段々イライラしているようだから、ただの嫌がらせのようだ。

「ええぃ! それより! お前がここの店主だろうが!?」
「えー……店主。店主? でしょうかねー?」
「うがーーーーっっ!! 一体なんなのだ! この店は! ええぃこうしてくれる!!」

 ランスは、トマトの両の胸を一気に揉みまくった。
 ボリュームも満点で、初めこそ、ランスは怒っていたのだが 胸をもむ事で段々、エロスの雰囲気に包まれてるようで、鼻の下を伸ばしていた。

「むふふ~どーだ!? オレ様のハイパーテクは!?」
「お前と言うヤツは……、いきなりか? 猥褻罪で捕まっても知らんぞ」
「ぁう……ランス様ぁ……」

 ユーリは苦言を呈し、シィルはいつもの事とは言え、やはり他の女の人にする姿はあまり見たくないのだろう。

「うるさい。こいつが悪いのだ! 要領を得ないこの娘が! だから、お仕置きをしてるだけなのだー! それも、気持ちいいお仕置きだから、感謝してもらいたいものだ! がはは、気持ちいいお仕置きだろう?」
「そうなんですかねー?」

 ランスは大笑いしながら、そう言うが 眉1つ、動かさないトマト。
 ランスはただ漠然と胸をもんでるのではなく、多少緩急をつけつつ胸の先端部も摘み、……説明するのもあれだが、一通りの攻めはしたのだが、トマトは自分を崩さない。

「ええぇい!! これでもか!!」

 ランスはどんどんと、していくが……、やっぱり変化は無い。

「気持ちいいんですかねー?」
「うがぁぁぁ!! ならば、下だ! あへあへ言わせてくれる!」
「あへあへ、ですかねー?」

 ランスは、下着を弄り………どーんどーん……ぱふ、ぱふ……、ぽにょんっ!

――……そして、暫くして。

 全く反応しない。

「もう終わりですかねー?」
「うがーーーっ!! なんなのだ、コイツは! 不感症なのではないのか!」

 ランスは頑張りに頑張りぬいたが……、まーーったく反応せずそのまま。流石のランスも、これ以上は何も出来ず、自身の下も出さなかった。萎えてしまったようだ。

「あー……、も、先行っていいか?」
「うるさぁぁい!」
「ら、ランス様、落ち着いて下さい!」

 ユーリは、座っていた所だったが、もう行っていいか?(二回目)を言っていた。自分のテクに絶対の自信を持っていたランスのショックは結構合ったらしく、まだ荒れており、シィルに悪戯したりと、暫く手がつけられなかった。

「ぁ、ぁぅ~~/// ら、ランス様……、か、彼女は、きっと語尾に≪?≫が付くキャラなんですよぅ……。そう言うキャラ付けをしてるだけなんですぅ」
「なんだ! その訳判らんキャラ付けは! それに、感じない理由じゃないではないか!アホな事言うんじゃない! と言うか、この娘がアホだ!」
「がががーーんっ! 私……アホじゃないですかねー……」

 ランスの会心の一言で、レジにへたり込んでしまうトマト。
 ランスに弄られながら、やぶれかぶれに言ったシィルだったが、どうやら的中していたようだ。何で、こんなキャラ付けなのかは本人のみぞ知るところなのである。
 真相は闇の中……。

「だぁぁ! 訳がわからん上に面倒だ! ……ん? そうだ。良い事を思いついたぞ。おい! この剣は幾らだ?」

 ランスが丁寧に飾ってあった高そうな剣を手に取る。明らかに売り物じゃない。それなりに斬れ味も良さそうだった。

「ああ! それは我がアイテム屋でも、随一の剣ですかね? スーパーソードⅡですかねー! それなら、2000GOLD以上はするですかね?」
「いーや、違うな、こんなもんは1GOLDで十分だ。金は置いてくぞ。がはははは! わーいとーくした!」
「……悪知恵は回るな。やはり。」

 ランスはそのまま1GOLDだけをレジへと放り込むと店を後にしようとするランス。
 これなら、《?》で返す対応をする訳にはいかないだろう。

 ナイス返し技だ。相手には気の毒だと思うが、漸く解放されるのだ。ユーリは何も言わず立ち上がった。

 その時だ。トマトが出て行こうとするランスの腕を思い切りつかんだ。

「あうあうあう!!! ふるふるふるふるふるふる!!!」

 涙目になって、首を左右にぶんぶんと振る。ランスの腕を決して離しはしないだろう。なんだろう……、いぢめてみたくなる、衝動に駆られそうな感じだ。が、そんな事はいちいちしたりはしないが、助けたりもしない。
 だって、完全に自業自得なのだから。

 でも……、この状態が続いたら、中々店を出れないからユーリはランスの肩を叩いた。

「そろそろ、許してやれ。大分は反省してるだろ。中々の業物のようだ。《Ⅱ》と言う冠がついている所を見ると、非売品の気もする」
「ふん! 本当に反省したのだな?」
「すみません。反省しました。……ですかね?」
「ランスチョーーーップ!!」

 トマトの頭にチョップが炸裂した。更に涙目になり、頭を抑えるトマト。

「しくしく……いたいですかね……」

 頭を抑えつつ、見上げた時だった。
 ユーリの表情が、フードで隠れていた表情を目の当たりにしたのだから。

「わぁ、随分と可愛らしいお客さんですかねー? これなら、気合入れて接客しないといけないですかねー?」
「………」

 その時だ。
 ユーリの中で、ピシリ!っと何かの音がしたのを感じていた。

「(あ……)」
「(む、そういえば、オレ様、コイツに会ってから、ガキ扱いしてなかったな)」

 ランスとシィルが殆ど同時に思っていた。
 この町に来てからだから、判らないが、ユーリの表情が見られて、且つ何か言われた事は今の所無かったから。……突然言われて、ガツンと来たのだろう。

「可愛い顔、好みですかねー? どうですかねー? おねーさんとお話しないですかねー?」

 更に更に、会心の一言(クリティカルヒット)を連発させるトマト。
 熟練の冒険者? である筈のユーリもどんどんとダメージが溜まっていく。

 ユーリは、ふるふると、身体を震わせると、ギルドカードをゆっくりと差し出した。毎日、鏡を見て成長している!!(独断)と感じていたのに、頭から否定された気分だ。

「ん……、これはなん……ですか……ね?」
「ランス、この剣。やっぱ1GOLDで売ってくれるって。寧ろこの店、全品1GOLDセールだ。鷲掴みにして持ってけ」
「ぎにゃあああっ!!! か、カンベンしてくださいですかねーー!! み、店が潰れちゃうですかねーー!!」

 トマトは、そのギルドカードの生年月日、年齢を見て固まり……その後、剣の話しをされたから、ダブルアタックで衝撃を与えられたようだ。

「何やってんだか」
「……うるさい」
「ま、まーまーユーリさん……」

 なんとも珍しい。ランスがやや同情してくれてて、シィルも慰める仕草をしていた。


 こうして、仕事始める前、戦う前からダメージ?を負ってしまったのだった。
 
 随分と幸先の良いスタートである。

 
 

 
後書き

〜人物紹介〜

□ トマト・ピューレ

Lv1/37
技能 剣戦闘Lv0 宝箱幸運Lv2

カスタムの町アイテム屋店主。
普通に会話しても駄目です。要領得ません。根気も必要かと思われます。そして、嘘か真か、以前性的虐待を受けてしまったから、ランスに責められても何も感じなかったとか(だから、助かった)。宝箱とかミミックが大好き少女でもあり、子共の頃から冒険にも憧れを持っているとか。



□ エレナ・エルアール

カスタムの町の酒場看板娘。覆面社交パーティで抱かれた初恋の相手を探す為に500GOLDで身体を売っているらしい。ユーリが名を聞いて、一瞬我を失いそうになっていた事がやや、気になったようだが、直ぐに忘れた様子。
ただ……あの後が大変だったとか。


~武器紹介~


□ スーパーソードⅡ

 普通のスーパーソードよりも、威力上、切れ味も抜群な一品。
リーザス武器屋にもあるかどうか判らない。 因みに前回の依頼の時には置いてなかった模様。 
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