| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Epico27-B竜の脅威~The 8th task force : Dragon Blood

†††Sideフェイト†††

リンドヴルムがミッドチルダに現れた。しかも魔法が通じない相手も居るという。そういうわけで神秘に詳しいシャル――正確にはイリスの内に宿る騎士シャルロッテの提案によって設立された私たち、機動一課・臨時特殊作戦班が逮捕に動くことになった。
そして今、私、アルフ、アリサ、ザフィーラ、それと特戦班のリーダー(階級が一番上だから)のセレスは、新たに出現したリンドヴルムを逮捕するために、ミッド西部エルセアへ輸送ヘリを使って移動中。

「やっぱり連中の狙いはロストロギアかしら」

「だと思うよ。ロストロギア専門のコレクターが率いる組織だからね」

輸送ヘリの貨物室の両側に備え付けられている長椅子に座って、現場に着くまで話し合う。私たちの間には2枚のモニターが展開されていて、それには機動一課・フレア分隊の追跡から逃れようと、車1台や2人乗りの小型飛空艇1機を使って逃亡しているリンドヴルムが映し出されている。

「小型飛空艇かぁ。また面倒なモノを用意して来たね。しかも武装付き」

私たち西部担当チームの対神秘戦の要、セレスが腕を組んで唸った。飛空艇に乗るリンドヴルムを捕まえるためには、飛空艇を止めたうえで、引き摺り出さないといけない。かなり手間が必要だ。しかも飛行速度もかなり出ているから、こちらも相応の速度が無いと止められない。

「車の方は対処が簡単じゃないかい? あたしとザフィーラ、あとアリサでなんとかして、フェイトとセレスで飛行艇をどうにか出来ないかい?」

アルフがもう片方のモニターに移る車を指差した。街中を暴走している車。追跡するのは一課の車両とバイク。一般車が巻き込まれないように路肩に移動していく。早く止めないと大事故になりそう。

「そうとも限らぬだろう。向こうは神秘を保有している可能性が高い。そしてこちらに対神秘の戦闘が出来るのはセレスのみ。万が一にも車に、最悪両方に神秘を扱うリンドヴルムが居るとなれば・・・」

「見事に返り討ち、だね」

ザフィーラの話を継ぐ。神秘や神器と言った特殊な力が関わってきている今回の一件。神秘に挑むにはこちらも神秘を有していないといけない。そうでないとシャルやシグナムのようにデバイスを粉砕されるし、魔法も通用しない。

「とりあえず車を先にどうにかした方が良いんじゃない? 飛空艇ならそうそう大きな事故は起きないと思うし」

アリサがそう提案した。空は広いし、リンドヴルムも自ら建物に突っ込むような真似はしないはす。確かにいつ大事故が起きるか判らない車の方をどうにかするのが一番だ。だからアリサの提案を採用して、詳しい作戦を立てる。

「――じゃあ、私とフェイトとアリサの3人で車を停止させる」

「アルフとザフィーラは、このままフレア分隊と一緒に飛空艇を追跡」

「というわけですから、プロフィア曹長、よろしくお願いします!」

アリサがフレア分隊専属のヘリパイロット、ヒノ・プロフィア陸曹長に声を掛けた。プロフィア曹長は女性のパイロットで、操縦中のその姿はすごく格好いい。

「了解! それじゃあハッチを開くよ! 強風には気を付けて!」

ヘリの後部ハッチがゆっくりと開いていって、貨物室に強風が入り込んできた。眼下に広がる街並。街上空の飛行許可はもう取ってあるということで、「よーし。行っておいで!」私とアリサとセレスは「行って来ます!」そう応じて、セレスが真っ先に飛び降りた。次いでアリサが飛び降りた。

「・・・アルフ、ザフィーラ」

「あたし達は大丈夫だよ。フェイト達が戻って来るまで仕掛けはしないからさ」

「お前たちも気を付けるのだぞ」

「うん!・・・行って来るね」

遅れて私もヘリから飛び降りた。ヘリはそのまま飛空艇の追跡を再開して、私たちから離れて行く。飛行魔法を発動して、先に飛び降りたセレスとアリサを追う。まずはアリサに追いつく。

「アリサ。かなり速くなったね、飛行速度」

「そりゃあね。毎日、あんた達が特訓に付き合ってくれてるんだし、これくらいは出来なきゃ大問題でしょ」

アリサも飛行魔法を無事に修得して、今のように高速で飛べるようになった。だけど空戦は未だに出来ない。というより諦めている。だから取得している魔導師ランクの種類も陸戦だし。そんなに難しいのかなぁ。

「フェイト、アリサ。お喋りは後で。陸士108部隊や地域警邏隊のみなさんの協力もあって、交通誘導が成され始めた。リンドヴルムの車を郊外へ誘導していってくれる」

速度を落として私たちを待っていてくれたセレスに追いつくとそう教えてくれた。セレスの側にはモニターが2枚。映っているのは機動一課の課長とフレア分隊の隊長。2人が西部管轄の両部隊に許可を取ってくれたみたい。

『すまないね。私たちに出来ることはこれくらいだ』

『だからサポートだけはしっかりと務めさせてもらうよ』

「「「ありがとうございます!」」」

通信が切れる。ここまでしてくれたんだ。私たちもしっかりと役目を全うしないといけない。私たちは顔を見合せて強く頷き合う。そして目は街中を高速で走り続けるリンドヴルムの車へ。道路の至る所にバリケードが立てられていって、車は徐々に街から離れて郊外へ追いやられていく。

「そろそろ平地に入るから、そこで叩く!」

「判った!」「オーケー!」

私とアリサで頷き返す。そして車は人の姿がまったくない平地に入った。私たちは一気に高度を落として車へ最接近。セレスが運転席の窓をコンコンとノック。そして「止まれ、リンドヴルム!」って怒鳴った。それでも車は止まることなく、さらにスピードを上げて引き放しにかかった。

「フェイト、アリサ。あれって停車勧告無視ってことでいいんだよね?」

「だね」「まあね」

「そうだよね。じゃあ力づくで、止まってもらおうか」

「それくらいされても仕方ないくらいの危険運転だったものね」

セレスとアリサがニヤリって笑う。いくら相手が犯罪者でも、あんまり無茶な事をしないでね。セレスがアームドデバイス・“シュリュッセル”を脇に構えて、カートリッジを2発ロードした。

「せいりゃぁぁぁぁっ!!」

横薙ぎに振るわれる“シュリュッセル”。そして刃から放たれるのは、アイスブルーの魔力光に輝く純粋な魔力斬撃。それが車の行く手へと打ち込まれて、地面を大きく穿った。物理破壊設定だ。そうなると当然、車は隆起した地面を乗り上げて横転、逆さまになった。ダメだ、どう見てもやり過ぎだ。アリサすら「ちょっと、あれいいの?」って困惑気味だし。

「リンドヴルム自体もそれなりの魔導師の集まりだし、あの程度の事故なら無傷で乗り越えられるはず」

“シュリュッセル”の剣身の腹で自分の肩を叩くセレス。その余裕は確かなものだった。4ドアの内、3ドアが吹き飛んだ。そして「普通ここまでやるか、公僕がぁ・・・!」助手席から出て来たスキンヘッドにサングラスっていう顔立ちの男の人が出て来た。さらに運転席と後部座席から男の人が2人。

「まるで暴走族ね。髪型もスキンヘッドにドレッドヘアにモヒカン。さらにサングラスに特攻服とか」

アリサが呆れ口調でそう言った。日本に来て初めて知った暴走族って言う人たちの格好と丸被り。うーん、次元世界は不思議だ。

「おいコラ、嬢ちゃん達。いきなり車潰すとかどういう了見だぁ? あ゛あ゛!?」

「どうすんだよ、これ! 本部に戻ったらシュヴァリエルさんに怒られんだろうがよ!」

「この車は超レア物で、云千万クレジットってする代物なんだぞ、おいコラ!」

すごくガラが悪い。けど、良い情報を貰った。シュヴァリエルは近くには居ない、ということを。私たちは頷き合って、「あなた達を逮捕します!」リンドヴルムにデバイスを突き出した。

「おうおう、上等だオラ!」

「ガキだからって遠慮はしねぇゼ!」

「俺たちリンドヴルム・第8小隊ドラゴンブラッド! 俺ブラッド1、そして2と3が、相手をしてやるぜ!」

「いいでしょう、お相手したします! アリサ、フェイト、下がって!」

この中で神秘や魔術と真っ向から戦えるセレスが先陣を切る。セレスの足元に展開されたベルカ魔法陣がグニャリと歪んで、別の魔法陣に変化していく。そして正四角形の中に雪の結晶、正四角形の四隅からひし形模様が伸びて、それらを六角形のラインが三重と囲う魔法陣となった。

「時空管理局・機動一課・臨時特殊作戦班班長、セレス・カローラ一等空士! 先陣を切らせてもらいます!」

セレスの全身から放出されている魔力から妙な感じを得る。ただの魔力から神秘を有した魔力へ変化したから・・・と思う。そしてセレスの周囲にいくつもの雪の結晶(そのどれもが1m近い大きさだけど)が発生。

――雪晶飛刃(ボラル・ニエベ)――

複数の雪の結晶が高速回転しながらリンドヴルム・ドラゴンブラッドの3人に向かって行く。神秘を有する魔力を使用して、作用を発生させる技法・魔術。魔術に対抗するには魔術しか無い。セレスの今の攻撃は魔術だ。
魔術を防ぐ術は2つ。魔術か神器(神秘の塊だっていう武装)だ。ドラゴンブラッドの3人にそのどちらも無かったら、神秘の扱えない私とアリサがここに残って戦闘し、セレスは飛空艇追跡に戻ってもらって、空を逃げる他のドラゴンブラッドを逮捕してもらう。

(この3人はどっちなんだろう・・・!)

そしてあと少しでセレスの魔術が到達しようというところで、スキンヘッドのブラッド1が特攻服の中から1本の剣を抜いて、雪の結晶をすべて斬り払った。デバイスには見えない両刃剣。魔法も魔術も使った形跡はない、と思う。つまり、あの剣は・・・

「「「神器・・・!」」」

「ブラッド1! コイツらひょっとして、シュヴァリエルさんが言っていた・・・!」

「俺たちリンドヴルムへの脅威か! 面白い! 俺と、このキャルタンクリ―ヴでどんだけのもんか確かめてやるぜ! テメェらは金髪2人をどうにかしな!」

「「押忍!!」」

部下に命じ終えたブラッド1がセレスに向かって突進して来た。戦場を移すために駆け出したセレスからの「あと2人はお願い、アリサ、フェイト!」指示に、私たちは「うん!」首肯して他のブラッド2とブラッド3に目をやる。すると2人は首に提げていた・・・鍵のような物を取り出した。神器、もしくはロストロギアかも知れないって警戒する。

「エクェス!」

「トリス!」

「「セットアップ!」」

杞憂だった。ブラッド2とブラッド3のデバイスは大型バイク。そして2人の手には拳銃と金棒。そのどちらもデバイスだと思われる機械で出来ている。武器とバイクの一体型かな。アリサが「日本の暴走族をさらに凶悪にしたような連中ね」ってポツリと呟いた。

「おらおらぁ! シュトルムファナティカーのお通りだ!」

「俺たちのロードを邪魔すんじゃねぇぞ!」

「「世露死苦ぅっ!」」

爆音を鳴らしながらバイクが走り出す。私とアリサは背中を向い合せて、「どっちをやる?」訊き合う。1人は拳銃型のミッド式魔導師。1人は金棒型で、カートリッジシステムがないことからストレージデバイスのミッド式魔導師。機動力はなかなか。大型バイクを自由自在に乗りこなしてる。

「あたしに金棒の奴を任せてくれない?」

「それじゃあ私が拳銃の人だね」

“バルディッシュ”を通常の戦斧アサルトから大鎌ハーケンへと変形させる。アリサも“フレイムアイズ”を通常の片刃剣ファルシオンから銃剣バヨネットへ変形させた。さぁ準備は整った。

「機動一課・臨時特殊作戦班、アリサ・バニングス!」

「同じくフェイト・テスタロッサ・ハラオウン!」

「「いきます!」」

――ソニックムーブ――

――ブレイズロード――

私たちを包囲するように周囲を走るブラッド2とブラッド3に向かって突撃した。

†††Sideフェイト⇒????†††

初めての他部隊への出向。しかも私の大好きなお姉ちゃん、フィレスが所属している機動一課へ。これほど嬉しい事なんて他にはない。だから神器とか神秘とか魔術とか、命の危険がいつも以上に高まる任務だとしても、何も怖くない。それに・・・

(魔術。それに騎士シャルロッテから聴いた、私たちカローラ家の真名の事実)

私のフルネームは、ファビオラ・プレリュード・セレス・カローラ・デ・ヨツンヘイム。歴代の当主より口外無用と厳命されている名前。それをイリスの前世である騎士シャルロッテ様から聴いた時はドキッとした。どうして知っているの?って。聴けば騎士シャルロッテが存命だった頃にヨツンヘイムという世界も王族もいたそうだ。
そして、名前と一緒に受け継がれてきた特別な魔法。威力が普通の魔法とは違うと思っていたけど、まさかそれこそが数千年以上も前に滅んだ技術・魔術だったなんて。でもだからこそ私はこの特戦班のメンバーに、さらにはリーダーに選ばれた。

「(騎士シャルロッテ、そして何よりお姉ちゃんの期待に応えるためにも・・・)あなたを逮捕します!」

リンドヴルム・ドラゴンブラッド小隊のリーダー・ブラッド1。その人が私の打破すべき神器持ちの男。携えているのは両刃剣一振り。確かにデバイスやロストロギアには無い、妙な威圧感がある。

――神秘を打倒するにはそれ以上の神秘を以ってあたるべし――

私の魔術が有する神秘が上か、それとも神器の神秘の方が上か。それが勝敗を分ける。

氷閃刃(イエロ・コラソン)・・・!」

ヨツンヘイム式魔術を発動。私のデバイス・“シュリュッセル”で彼の持つ神器・“キャルタンクリーヴ”で打ち合えば簡単に破壊されるから。剣身を魔術による冷気で覆って神秘を纏わせ、そのうえ攻撃力を増加させる。

「おらぁぁぁぁッ!!」

ブラッド1の接近を目視。“シュリュッセル”の柄を両手持ちして脇に構え直す。そしてお互いが攻撃範囲に入ったその瞬間、ブラッド1は大振りな振り下ろし。そんな一撃、目を瞑っていても避けられる。私は1歩、ブラッド1の右手側へ進みながら“シュリュッセル”を横薙ぎに払った。

「っ・・・!?」

「なるほど。神器持ちイコール強者・・・というわけではない、ですか」

背後に佇むブラッド1へと言い捨てる。防護服のみを破壊するつもりで斬った。神器によるダメージに注意さえすれば、お粗末な剣の腕前であるブラッド1なんて私の敵じゃない。投降を促すために振り向いている最中・・・

「ケンカに手加減してんじゃねぇぞ、ゴラ゛ぁッ!!」

ブラッド1が振り向きざまに“キャルタンクリーヴ”を横払い。慌てることなく“シュリュッセル”を直立に構えて、刃を受ける。そして衝撃をまともに受けることなく、流すために振るわれる速度と同じ速度で水平に傾ける。

「あ゛・・・!?」

シャァン!と金属がすれ合う音が盛大に響いた。そして大振りだった事もあって大きく懐を開けるブラッド1。私は彼の喉仏に“シュリュッセル”の剣先を突き付ける。終わった。ブラッド1も自身の喉仏に僅かに触れる“シュリュッセル”によって身動きを取ろうとしない。

「終わりです。武装を解除し、大人しく投降をし――えっ!?」

ブラッド1が空いている左手で“シュリュッセル”の剣身を握って、自ら自身の胸に突き刺した。その光景に思考が止まる。自害した。させてしまった。

(呆けている場合じゃない!)

出血量が増えると思い“シュリュッセル”を抜かず、柄から両手を離して傷口を押さえようとした。その時・・・

「なんつってな!」

「っ!?」

ギラリと目を輝かせ、口角をギリギリまで上げたブラッド1。振るわれる“キャルタンクリーヴ”。考える間もなく体が動くままにしゃがみ込んで、そのまま一足飛びで後退。そして目はブラッド1へ。

「へっへっへ。残念だったなぁ、管理局員ちゃんよぉ! 俺は、傷つかねぇのよ、死なねぇのよ!」

ブラッド1が私の“シュリュッセル”で自身の体を切り刻み始めた。確かに斬っている。それでも血が出ないし傷も付いていない。そう言えばさっき胸に刺した際にも出血していなかった気が・・・。

「あひゃひゃひゃひゃ!! すげぇぜ、このキャルタンクリーヴって剣はよぉ!」

「とりあえず私の剣、返していただきます!」

――制圧せし氷狼(インバシオン・ローボ)――

ブラッド1へ突進。さらにはヨツン術式を発動。氷で出来た狼の群れ――総数15頭を創造して解き放つ。私より先にブラッド1へと到達する氷狼たち。ブラッド1は“キャルタンクリーヴ”を大雑把に降り続けて氷狼を真っ二つにしていく。その中でも氷狼は腕や太腿、脇腹など噛み付いて行く。

「効かねぇっつってんだろうがよぉ!」

ちょうど氷狼を寸断していたブラッド1の懐に入り込んで、“シュリュッセル”を持つ左手に「せいっ!」魔力を付加した正拳突きを打ち込む。効きはしないだろうけど、それでも拳打の衝撃だけはちゃんと通じるようで、「チッ!」“シュリュッセル”を落とした。地面へ突き刺さるより早くキャッチ。

――氷閃刃(イエロ・コラソン)――

再度、魔術による冷気を剣身に付加。上半身を捻りながらの振り上げ。ブラッド1は躱すことなく私の斬撃を受け入れた。斬った感触はそのまま。だけどやっぱり傷は付かない。普通の魔導師には無理な芸当。レアスキルや固有スキルならあり得るかも知れない。でも今に限れば・・・

(神器の能力・・・!)

その確率の方がずっと高い。そうなると、ブラッド1の体にいくら攻撃を入れてもきっと徒労に終わる。ならば神器を潰すのみ。狙いをブラッド1の肉体から神器へと変更。

「はぁぁぁぁぁぁーーーーッ!!」

「うお・・・!?」

神器・“キャルタンクリーヴ”に連撃を叩き込む。魔術の効果が切れそうになったら「イエロ・コラソン!」を再発動して、カウンターを受けないように最大注意。一応、魔力を使って氷の剣を創り出す術式・エスパーダ・デ・ラグリマというものもあるけど、魔力消費が大きいからあまり使いたくない。

「剣で戦う気であるなら、まずは扱い方を学びなさい、ブラッド1!!」

「クソガキャァァァァーーーーッ!!」

私は“シュリュッセル”を振るい続け、ブラッド1の反撃を許さない。“キャルタンクリーヴ”だけでなく、柄を持つ両手や胴体にも斬撃を打ち込んでいく。だけどやはり男性。“キャルタンクリーヴ”をしっかりと握りしめていて、弾き飛ばすことが出来ない。腕も斬っても柄を離さない。実に面倒な腕力。

「(まぁ騎士に対して、腕力や武装の差だけで勝とうという事がそもそもの間違い)はぁぁぁぁっ!」

「なんだ、このガキの力は!? こんな細腕のどこにこんな力が・・・!」

私の一撃にブラッド1が弾き飛ばされて後退。足腰がなってない。追撃するために距離を詰めようとしたら、「クソが!」ブラッド1が私に背中を向けて逃げだした。投降するなら追撃はしないけれど、逃走は問題外。追撃するために駆け出したその時、「プリンキペス!」ブラッド1が懐から何かを取り出したのが見えた。鍵だ。

「セットアップ!」

一瞬の発光の後、ブラッド1の側には大型バイクが1台。バイク型のデバイスにブラッド1が乗って、「オラオラァ! こっからが本番だぜ!」けたたましい爆音を轟かせて走らせ始めた。

「俺たちドラゴンブラッドは、カルナログ最速の爆走族チーム・シュトルムファナティカーだったんだぜ! 俺たちの本当の戦いは、相棒(バイク)に乗ってからなのさ!」

目測で時速90km近い速度で私の周囲を走り回るブラッド1。徐々に私へと距離を詰めて来ているのも判る。高速で動き続ければ私の攻撃は届かない、とか思っているのだろうけど・・・。

「私がなんの魔法を扱う騎士だったか、もう忘れたのですか?」

――愚かしき者に美しき粛清を(センテンシア・コンデナトリア)――

“シュリュッセル”を地面へと突き刺す動作をトリガーとして、対地凍結術式を発動。私を中心に周囲500mの地面を急速冷凍させる。するとどうなるか。

「グリップが効かねぇ!?」

ガッシャーン!と大きな音を立ててブラッド1のバイクが転倒。ブラッド1もバイクも凍結している地面を何十mと滑走。その途中、ブラッド1が“キャルタンクリーヴ”を手放したのをしっかりと見た。

「しまっ・・・!」

慌てて“キャルタンクリーヴ”を取ろうとするブラッド1。この最大のチャンスを見逃すほど私は優しくも間抜けでもない。

――悪魔の角(ディアブロ・クエルノ)――

氷で出来た螺旋状の杭による高速射撃術式を発動。射出するのは25本。足を滑らせながらも、凍る地面をなおも滑る“キャルタンクリーヴ”を手に取ろうとしていたブラッド1より早く「チェック」氷の杭で彼の防護服の裾や袖を貫いて、地面に縫い止める。

「あ、テメ、何しやがる! 離しやがれ!」

「聞く耳持ちません。それとも抵抗しますか? 今度は直接あなたに撃ち込みますよ?」

もう一度、ディアブロ・クエルノを発動して、ブラッド1の面前に配置する。先程までの彼だったなら余裕の表情で、やれよ、みたいなことを言ったんだろうけど、「っ・・・!」今は引きつらせているばかり。確定した。ブラッド1のダメージ無効は神器の能力だったんだ。

「チェックメイトです。大人しくそのまま伏していてください。それでもまだ抵抗を見せるのであれば・・・」

“キャルタンクリーヴ”の側まで歩み寄って、柄を握って拾い上げる。それだけで理解できる神器の強大さ。気分が高揚していくのが判る。自分は強くなったんだって思えてしまう。コレは危険だ、悪しき者が持っていてはいけない物だ。

――凍てつく氷葬棺(ハウラ・コンヘラル)――

いま放てる限りの冷気で“キャルタンクリーヴ”を凍結させる。私の神秘と神器の神秘が拮抗している、もしくは私の方が弱いのか、完全に凍結するまで数分と掛かってしまったけど、「神器の回収、完了です」無事に任務を果たせた。

「っ!・・・くっっそぉぉぉぉぉーーーーーーっっ!!」

†††Sideセレス⇒アリサ†††

「クソが! なんなんだ、なんでこんなガキが、こんなに強ぇんだ!!」

今、あたしが相手にしてるのはブラッド3とかいうモヒカン頭にサングラス、特攻服、それに金棒と大型バイク型のデバイスっていう暴走族のような男。魔力ランクはざっとA+ってところかしら。一般的な武装隊隊長よりは強い。けど・・・

「あんたなんかよりよっぽど強い連中に日々揉まれているからよ!」

――フレイムバレット――

銃口から火炎弾10発を連射。バイクの軌道を読んで、行く手に撃ち込んでいく。だけど「ああもう! また避けられた!」バイクの性能が良いのか、それともドライバーのブラッド3の運転技術が良いのか、どれもこれも紙一重で躱される。

「お返しだ、オラァッ!!」

バイクの前輪を挟みこんだ2本の金属棒(フロントフォークだっけ?)の狭間に備え付けられてるガトリングガン型のデバイスらしいものから魔力弾が無数に連射されてきた。

――ブレイズロード――

両脚から炎を噴射させての高速移動魔法を発動して、その場からダッシュ。魔力弾の壁を躱した後は、「今度はこっちの番よ!」って、フレイムバレット8発を撃ち返す。でもやっぱり避けられた。むぅ、どうしたものかしらね~。

「太陽の騎士モードでこの辺り一帯ふっ飛ばそうかしら」

≪馬鹿を言うなよ、アリサ。あんな小物にスリーズ・サンズレガリアを使うな≫

「言ってみただけよ」

ブラッド3程度の相手にそこまでしないと勝てないとなると、あたしは所詮そこまでのレベルだってことになる。ファルシオンとバヨネットフォームの“フレイムアイズ”で大半の敵に勝てるような魔導師にならないと。

「フレイムアイズ! フレイムウィップ!」

≪応っ!≫

銃身下にある剣身から炎の鞭を発生させて、大きく伸ばしてブラッド3のバイクの前方めがけて横薙ぎ。ブラッド3は迫り来る鞭の対処法として、バイクを転倒スレスレになるまで傾けた上でジャンプした。そうしてあたしの一撃は、バイクとブラッド3の間を空しく通過。で、落下するブラッド3は体勢を立て直し始めたバイクのシートに見事着地して座った。

「アンビリーバボー」

≪今のは本当にすごいな≫

まるで曲芸だったわ。でも驚いてばかりもいられない。ブラッド3があたしに向かって魔力弾を連射して来た。横にダッシュすることでまた躱す。さっきから大体こんな攻防を繰り広げてる。お互いの攻撃が入らず、撃っては避けての繰り返し。

(ああもう! 無傷で済まそうとするのがいけないわけね! やってやろうじゃない!)

綺麗に勝とうというのがそもそもの間違いなのかもしれない。そう思い至ったあたしは立ち止まって、“フレイムアイズ”の柄を両手持ち。

「とうとう諦めたか、おい!」

ブラッド3があたしの周囲を回り始めて、「恐怖に歪んだ顔を見せてくれよ!」あたしの真正面から突っ込んで来て、魔力弾を連射して来た。

「フレイムアイズ、カートリッジロード!」

マガジン内の残り4発を一斉ロード。“フレイムアイズ”を脇に構えて、前面にラウンドシールドを展開。そして、「ブレイズロード!!」両脚から炎を噴射させた上でブラッド3に向かって駆け出す。

「ハッ! チキンゲームってわけか! ガキのクセに面白いゲーム知ってんじゃねぇか!!」

シールドにガツンガツン当たり続ける魔力弾。カートリッジ無しでの発動だったら確実に砕かれてたわね。と、魔力弾に混じって何か飛んで来たのが微かに見えた。そしてソレは「っ!?」あたしのシールドにぶつかって、さらに砕いてきた。咄嗟に首を傾けて、ソレを避ける。頬を掠って行く何か。左頬に痛みが走る。

(金棒を投げて来た・・・!?)

飛んで来たソレの正体は金棒だった。ううん、問題はそうじゃない。魔力弾を防ぐためのシールドを失った。魔力弾の壁に無防備な体を晒すことになってる。全てがスローモーションに見えてしまってる視界の中、ブラッド3の表情が、勝利を確信した、って笑みになったのが判った。
目の前には何十発っていう魔力弾。それにあたしを轢くのも辞さないって程の速度で突っ込んで来るバイク。恐怖に竦みそうになる・・・はずなんだけど、頭の中はどこかスッキリしてて、恐怖心なんてものが生まれて来ない。今はただ・・・

「(これがラストチャンス!!)はぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!」

――フレアブレード――

「くたばりやがれぇぇぇぇーーーーーッ!!」

勝ちたいって思いだけ。構わず突進を続け、ブラッド3のバイクと3秒としないで衝突するって距離になったところで、剣身を熱して切断力を上げる魔法を発動。全身を掠ってく魔力弾の中を突っ切って、一歩分だけ斜め前に軌道修正して・・・・“フレイムアイズ”を振るった。そしてブラッド3のバイクと高速ですれ違っていって・・・

「うごぉぉぉぉーーーーー!!」

ガッシャーンと派手な轟音を立てて転倒するバイクと、ブラッド3の悲鳴が背後から聞こえた。あたしは急停止して、振り向きながらマガジンを交換しつつ「フレイムアイズ!!」追撃の魔法を発動準備。

≪カートリッジロード! イジェクティブ・・・!≫

「ファイア!!」

銃口から火炎砲撃を発射。ブラッド3は転倒した所為かバイクから離れていて、あたしの砲撃は、錐揉みしながら地面を何度もバウンドして転がるバイクへと着弾。そして爆発。さらにカートリッジを2発ロード。

――フォックスバット・ラン――

陸戦、しかも直線限定の高速移動魔法を発動。これまでは太陽の騎士モードでしか発動できなかったけど、特訓のおかげで通常モードでも発動できるようになった。
そしてあたしは、痛みに悶えながらも立ち上がろうとしていたブラッド3へと最接近して、「フリーズ」“フレイムアイズ”を面前に突き立てる。

「っ・・・! くそっ!」

終わった。とりあえずバインドで拘束して、「こちらアリサ。リンドヴルムの1人を拘束しました」フレア分隊に通信を繋げる。

『お疲れ様です。セレスさんとフェイトさんも無事にリンドヴルムを拘束したと連絡がありました。それと飛空艇の追跡班からも、残りのリンドヴルム2人の拘束に成功したとの報告がありました。これにて西部チームは任務完了とし、南部へ帰還することになります。迎えを寄越しますから、しばらく待機をお願いします』

あたしが最後だったみたいね。さすがはフェイト、それにセレスと言ったところかしら。悔しい半面、もっと頑張ろうって思いが強くなった。

「・・・っふ、ふははは」

通信が切れたところでブラッド3が笑い声を上げ始めたから、「何がおかしいわけ?」って睨みつける。

「そりゃおかしいさ。だってそうだろ? 俺たちドラゴンブラッドが全滅だって? マジ有り得ねぇわ。笑いたくもなるっつうんだよ、くそっ」

「悪さをすればいつかはこうなんのよ」

「ハッ。でもま、これで終わりと思うなよ。どれだけ俺たちを潰そうが、リンドヴルムは死なない。ざまぁみろ! リンドヴルムは死なない、滅びない! 不滅なんだ、ふはははははは!!」

それからブラッド3をフレア分隊員に引き渡すまでの間、コイツはずっと笑ってた。

 
 

 
後書き
フジャムボ。
今話は第8小隊ドラゴンブラッドとの戦闘をお送りしました。実際に描いたのはアリサとセレスの戦闘のみですが。フェイトとブラッド2の戦闘は、フェイトの圧勝だということをここで付け加えておきます。高機動戦はフェイトの十八番。バイク程度では敵いません。
そして飛空艇のブラッド4とブラッド5については、アルフとザフィーラ、フレア分隊・航空戦闘班の協力で停止させた、としました。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧