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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico27-A竜の脅威~The 1st task force : Dragon Head

†††Sideなのは†††

ミッドチルダに現れたリンドヴルム、その複数の実行部隊を逮捕するために、私たち機動一課・臨時特殊作戦班は3チームに分かれて対処に動いた。私とヴィータちゃん、そして対神秘戦闘の基点になるルミナちゃんとベッキーちゃん(敬称は何でもいいって言うことでさん付けにしたら、ちゃん付けの方が新鮮で良いってことだったから)の4人は、ミッド東部のラッセン地方へ向けて移動中。

「このリンドヴルムの方たちもオールドー・デ・ソルを持っていますね」

ベッキーちゃんがそう指摘する。私たちがいま居る輸送ヘリの貨物室にはモニターが1枚と展開されていて、これから私たちが相手をするリンドヴルム兵6人と、機動一課・アース分隊の人たちが映ってる。そしてリンドヴルム兵の1人が、あの太陽の杖を持ってた。シャルちゃんとシャルロッテさんが言うには、あの杖をどうにかさえすれば、私たち普通の魔導師でも戦えるっていうことだけど・・・。

「私とベッキーで、まずは杖持ちを――」

「ルミナさん。杖持ちは私と供だけでどうにかします。なのはさん、ヴィータさんと共に他の兵の対処を」

ベッキーちゃんが十数個の鈴が付いてるデバイス(巫女さんが舞とかによく使うアレ、えっと・・・神楽鈴?)“ドゥーフヴィーゾヴ”を揺らしてシャラァン♪と音を鳴らすと、貨物室の空気が変わった気がした。ヴィータちゃんが「喚んだんか?」って訊ねる。

「はい。私の供――五精霊です」

ベッキーちゃんの固有スキル・五行契約は、ベッキーちゃんの出身世界の精霊を使役するっていうもので、対神秘戦には絶大なアドバンテージを誇る、ってシャルロッテさんは言ってた。精霊。神秘の塊。私たちのチームの最高戦力だ。この1ヵ月、海鳴市でベッキーちゃんの精霊さんと何度か戦ったけど、確かに傷1つ付けられなかった。

「・・・判った。杖持ちはベッキーにお願いしてもらう。ベッキーが杖持ちを潰した後、私、なのは、ヴィータの3人で残りの兵を片付ける。それでいい?」

「うん」「おう」

ルミナちゃんに頷き返す。そして・・・

「――さぁ、いよいよ現着だ。お嬢さん達、戦闘準備は整ってるかい?」

アース分隊専属輸送ヘリのパイロット・ヴェノム二等陸士の問いに「はいっ!」私たちは力強く応じた。ヴェノム二士が「良い返事だ。今からハッチを開ける。強風が入り込むから気を付けてな」そう忠告を入れてくれた後、ヘリの後部がゆっくりと開いた。

「よーし、行って来い!」

「じゃ、私から先に降下するから。みんな付いて来て!」

ルミナちゃんがまず飛び降りた。続いて「先行くぜ!」ヴィータちゃんが飛び降りた。ベッキーちゃんを見ると視線が合った。

「えっと・・・」

「それでは、私から先に行かせていただきますね。ヴェーチル、お願いします」

――ヴェーチル・クルィロー――

“ドゥーフヴィーゾヴ”を鳴らすベッキーちゃん。すると貨物室に入り込んで来る風がベッキーちゃんの背中に集まって翼のようなモノを形作った。ヴェーチル。確か風の精霊さんだったっけ。精霊としての姿はスズメだった。

「お先に失礼します」

ベッキーちゃんもヘリから飛び降りた。最後は私だ。私は「ありがとうございました!」ヴェノム二士にお礼を言ってから飛び降りた。

「レイジングハート!」

≪Accel Fin≫

初めは重力のままに落下して、地面までもうすぐと言うところで飛行魔法を発動、トンッと着地した。軍服のようなバリアジャケット?で統一されてるリンドヴルム兵の人たちが私たちを見て「子供・・・?」怪訝そうな表情を浮かべた。けど、「気を付けろ。報告にあったチーム海鳴の2人が居る」って、リーダーらしきおじさんが身構えた。

「機動一課・臨時特殊作戦班です。リンドヴルム兵に告ぎます。武装を捨て、大人しく――」

――ショットガンバレット――

ショットガン型のミッド式デバイスを持ってる女の人が問答無用で魔力弾を撃ってきた。咄嗟にシールドを張ろうとしたけど「っ、ダメだ・・・!」すぐに空に上がった。みんなも防御じゃなくて回避行動を取った。神秘の加護を受けた魔法は魔術と化す。防御に回ったら確実に墜とされちゃう。

「公務執行妨害! ベッキー、ヴィータ、なのは!」

「「はいっ!」」「おうよ!」

まずは杖持ちをどうにかしないといけない。そういうわけだから「ベッキー・ペイロード、推して参ります! ジムリャー!」対杖持ちを担当するベッキーちゃんが“ドゥーフヴィーゾヴ”を揺らして鈴を鳴らした。すると地面からひょこっとある動物が顔を出した。

「「「もぐら・・・?」」」

愛らしいモグラの精霊・ジムリャーに小首を傾げるリンドヴルムの人たち。けど見た目に反してジムリャーはとんでもない存在。

「ジムリャー! ゼムリャトリャセェーニエ!」

ベッキーちゃんが精霊魔法の術式名を唱えると、「なんだ!?」地震が発生した。私はすぐに「アクセルシューター・・・」射撃魔法をスタンバイ。ヴィータちゃんもシュワルベフリーゲンの発射態勢だし、ルミナちゃんも中空でクラウチングスタート体勢。

「ジムリャー、ピーカ!」

杖持ちの人は地震の中でも杖の先を地面から離さないように必死だ。そこにベッキーちゃんの精霊ジムリャーが新しい魔法を発動すると、杖持ちの人が立つ地面の至るところが隆起して、「なに!?」土の槍となって襲いかかった。決まった、そう思ったけど・・・

「させん!」

おじさんが携えてた大鎌を振るって、土の槍をバラバラに斬り裂いた。あの人、強い。一目で判っちゃうほどの空気を発してる。

「気を付けろ。この娘たち、オールドー・デ・ソルの能力を知っている。第1小隊ドラゴンヘッド各員・・・ヘッド6を護りつつ退却。俺たちの役目は局員と戦うことに非ず!」

「「「「「はいっ!」」」」」

「退却だぁ? させっかよ、んな事! リンドヴルムは1人残らずとっ捕まえる。二度と悪さが出来ねぇようにな!」

「それに、その杖――神器を抜いた瞬間、あなた達は神秘の加護を失うのでは?」

ヴィータちゃんとベッキーちゃんが身構える。太陽の杖は地面に突き立ててないと効果は発揮されない。杖を抜いた瞬間、私たちとドラゴンヘッドは同格の存在になる。そこを攻めればいい。

「神器の事も知っているか。シュヴァリエルさんの言っていたリンドヴルムへの脅威とは、お前たちだったか」

おじさんが1歩2歩と歩み寄って来る。携えているのは大鎌。武器型は基本的にベルカ式だけど、カートリッジシステムは見当たらない。ううん、それどころかデバイスにも見えない。まさか・・・

「全員、気付いたようだな。俺の持つこの鎌も、神器だ。・・・各員、任務続行。娘たちとのお遊戯は俺、ヘッド1に任せておけ」

おじさん――ヘッド1が他の人を逃がすために立ち塞がると、ドラゴンヘッドが撤退を開始。ルミナちゃんが「ベッキー、ヴィータ、なのは、行って!」ヘッド1に向かって突進した。ヘッド1は「神器持ちを相手に1人で挑むか?」大鎌を振るってルミナちゃんを迎撃。

「判りました。ヴィータさん、なのはさん、逃げた方たちを追いましょう」

ベッキーちゃんがそう言った。でも「ルミナちゃん1人残していくなんて・・・!」私は頷けなかった。相手は神器を持ってるうえにかなり強い人だ。純粋な戦闘能力ならルミナちゃんの方が上だろうけど、向こうには神器のアドバンテージがある。

「大丈夫だ、なのは。ルミナの強さは、たとえ相手が神器持ちだろうと掠れるようなもんじゃねぇ!」

「ルミナさん。お1人でも大丈夫ですか?」

「まったく問題なし! なのは、今は私を信じて」

ルミナちゃんはヘッド1の斬撃を余裕で避けつつ拳や蹴りを繰り出し続けて、ヘッド1もルミナちゃんの攻撃を避けては大鎌の刃の腹や柄で防御。手数も、余裕っぽさも、ルミナちゃんが勝ってる。
それにルミナちゃんにも固有スキルっていう切り札が有る。神器や神秘には少し届かないらしいけど、それでも一方的に負けるようなことはないっていうのはシャルロッテさんの言。太陽の杖による神秘の加護も無くなれば、ルミナちゃんは絶対に勝つ。私はそう信じて・・・

「お願い、ルミナちゃん!」

「ん!」

ルミナちゃんの笑顔を見て、私とヴィータちゃんとベッキーちゃんは、退却した他のドラゴンヘッドを追うために空を翔ける。

†††Sideなのは⇒????†††

「本当にお前ひとりが残ったか。無益な戦闘は好まない。大人しく退いてくれるのなら、俺としては嬉しいんだが?」

ロストロギアを専門に蒐集するコレクター、ミスター・リンドヴルムを筆頭とする組織リンドヴルム。その組織が時空管理局のお膝元、ミッドチルダに現れた。しかも、古代遺失物ロストロギアと呼ばれる物の年代よりずっと古く、そして強大な力を有する物品――神器を装備して。
ミッドに現れた目的は不明。機動一課の報告には、何かを捜索しているらしい、っていうのがあった。何か。決まってる。ロストロギアだ。ミッドチルダに、リンドヴルムが狙うロストロギアが在る。

「リンドヴルムを見逃す? 馬鹿を言わないで。管理局員として、聖王教会騎士団員として、ここで捕縛する!」

リンドヴルム・第1小隊ドラゴンヘッドのリーダー、ヘッド1と名乗った40代前半ほどの男へとそう言い放つ。教会もリンドヴルムには何度も苦汁を舐めさせられている。良い機会だし、今回の事件でリンドヴルムを壊滅させてみせる。

「聖王教会の騎士でもあるのか。通りで局の騎士とは練度が違うわけだ!」

ヘッド1の持つ武装は深紅の大鎌。コレもまた神器と呼ばれる物らしい。確かにデバイスやただの質量兵器には無い妙な気配を放っている。その大鎌による薙ぎ払いを限界までしゃがみ込むことで回避。
神器には、神秘っていう特殊な力が宿っていて、同等かそれ以上の神秘を有していないと防御も迎撃も出来ないって聴いている。だから私は迎撃じゃなくて回避に専念。下手に打ち合って真っ二つにはされたくないからね。

(厄介過ぎる。でも、運が良い事に対処できる魔導師・騎士が局に居た。それが不幸中の幸い!)

その内の1人が・・・

「時空管理局本局捜査部・特殊技能捜査課、古代遺失物管理部・機動一課・臨時特殊作戦班、そして聖王教会騎士団・銀薔薇騎士隊ズィルバーン・ローゼ、アルテルミナス・マルスヴァローグ空曹長。いざ参ります!」

私だ。神秘は無い。無いけど、それに近い固有スキルを持っている。終極の支配者エクスィステンツ・ツェアレーゲン。触れた物質を自由に分解できる、反則級だって言われているスキルだ。でもそんな都合の良いスキルじゃない。
分解する“力”は私自身の肉体をも壊す。対象を分解する際、魔力で拳や脚などをコーティングする。そうしないとスキル効果が自身にも及ぶから。どういう原理なのか、私も騎士団や局の有識者でも解明できていない。ただ、魔力で体を護ってさえいれば、スキル効果は対象にだけ生じる。それだけ判っていれば何も問題ない。

(まぁそこまでキツイ制限じゃない。ほとんどはBランクの魔力で事足りるし)

たとえAMFを仕掛けられても、私のエクスィステンツ・ツェアレーゲンは封じられない。

「ズィルバーン・ローゼ・・・! かの有名な騎士団最強部隊・・・! ならばお前もパラディンなのか!?」

「ヤー。拳闘騎士最強の称号を頂く、ファオストパラディンよ。大人しく捕まってくれれば、私としては嬉しいんだけど?」

「相手に不足なし! リンドヴルム・第1小隊ドラゴンヘッドの将ではなく、1人の騎士として試合を申し込む!」

俄然やる気を見せてしまった。私は溜息ひとつ吐いて「犯罪者が騎士を語るな」ヘッド1に突進する。

――終極の支配者(エクスィステンツ・ツェアレーゲン)――

ヘッド1を殺さない程度のスキル効果を発揮したうえで、両拳と靴底以外の両脚(足裏にまでスキルを付加すると、足場の地面まで粉砕してしまうからね。それで一度、ガチで死にかけてしまったし)に魔力コーティング。
ヘッド1の武装は長柄の武装・大鎌。懐に入り込んでしまえば、あとは拳闘家の独壇場だ。私の左肩から右わき腹にかける袈裟斬りに振るわれる大鎌の一撃を、「よいしょ!」大きく跳躍することで回避。

「さらに!」

振り終えた直後の大鎌の石突を跳躍中に両手でキャッチ。そのまま背後に回ろうとしたけど、無理だった。ヘッド1の膂力はかなりのもので、奪い取れなかった。

「神器を狙うことは判っていた! これが俺とお前たちの差だからな!」

ヘッド1は大鎌を思いっきり振るって私を振り払おうとした。こちらから手を離すことで下手に隙を生むような真似は犯さないようにする。空中で体勢を整えているところに、「はぁぁぁっ!」ヘッド1がその場で大鎌を振るう。

「っ!?」

ゾワッと悪寒が走った。着地するより速く足元にベルカ魔法陣を展開、それを足場にしてもう一度空へと上がる。そこで飛行魔法を発動して宙に留まって、下を見てみる。けれど何も起こっていない。

(私とヘッド1の距離からして中遠距離の斬撃と思ったのに・・・)

不発・・・なわけないか。そうだ。ただの魔法とか、ロストロギアとか、そう言った先入観は捨てないと危ない。アレは神器。正しく超常的な存在で、何を引き起こすかも判らない危険な物。
ヘッド1はさらに大鎌を振るい続ける。振るわれる度に襲われる悪寒。だけど何も起きていない。でも何かを行っているのは確か。そうでないとあんな疲れるだけの行為になんの得があるっていうわけ。

「これで準備は整った・・・! さぁ来い、パラディン!」

そう言って大鎌の先端を私に向かって突き出した。来い、って言われても・・・、明らかに罠。だけど怯んでばかりはいられない。

「ツァラトゥストラ!」

漆黒に輝く六角形型で、6つの表面に十字架が彫られた腕環・“ツゥラトゥストラ”を両手首に装備。一応はデバイス登録しているけど、正直、コレがデバイスなのかも判らない。何せこの“ツァラトゥストラ”は物心つく前から私が持っていた物で、どこで作られたのか、どういう材質なのか、どういう機構なのか、そう言った正体すらも依然不明。

(魔力の集束量の上昇、出力・運用力の向上などなど。私の固有スキルを円滑に発動できるように作られた、謎の腕環・・・)

私は孤児だ。親の顔も知らない、本当の名前も知らない。聖王教会系列の孤児院前に捨てられていた私は5つまでそこで育てられ、そこの院長に“アルテルミナス”の名を貰った。そしてマルスヴァローグ家に養子として引き取られたことで、“マルスヴァローグ”の姓を貰った。その瞬間、私は1人の人間――アルテルミナス・マルスヴァローグとして完成された。

「はぁぁぁぁーーーーッ!」

思い出に浸るのもこれまでにして、私はヘッド1に向かって急降下。彼は身構えて、私の迎撃態勢に入った。致命傷になる刃に触れさえしなければ問題ない。それはこれまでの攻防で確認済み。狙いはヘッド1の両手。指の骨をへし折ってあげれば大鎌を持っていられないはず。

「運の良い奴め!」

「(運の良い・・・? まあいいや)せいっ!」

斜めに振るわれる大鎌の刃の腹を爪先で蹴って、軌道を無理やり逸らさせる。予定とは違うけどすかさず靴底にスキル効果を付加して、ヘッド1の顔面へ前蹴りを繰り出す。

(歯や鼻の1本や2本は覚悟してよね!)

ヘッド1は即座に左手を柄から離して、ミリタリーグローブに包まれたその手で私の靴底をパンッとキャッチ。だけど・・・

「むぐぉ・・・!?」

ボキボキと、手首と5本の指の骨を折った音が聞こえた。やっぱり太陽の杖の加護が無ければ普通に攻撃が通る。ヘッド1は脂汗を流しながらも「ふんっ!」無事な右手だけで大鎌を振るってきた。

「仮にも騎士を名乗るなら犯罪なんて起こさないでほしいんだけど!」

「なに・・・!?」

「さっきの続き! 犯罪者のあなたが、1人の騎士として試合を申し込む、なんて・・・騎士を馬鹿にしないでほしいっていう話!」

ヘッド1と再度攻防を繰り返す。ヘッド1は片手ながらも上半身を使って器用に大鎌を振り回し、私の攻撃を上手く迎撃してくる。でもさっきよりは隙が大きい。それにしても動きづらい。得物がただのデバイスなら、回避なんて面倒な動作をせずに済んで、思うがままに粉砕できるのに。そうすれば好き勝手打撃を打ち込める。それが出来ないのが窮屈で仕方ない。

「騎士とは、武と勇を以って正を貫き、義を掲げ、忠を尽くし、礼節を重んじ、高潔に生きる者! あなたは・・・!!」

「ぅぐ・・・!」

「ただの犯罪者だ!」

大鎌の扱いが僅かに乱れた。その隙を見逃すわけにはいかない。神器というアドバンテージへの警戒の所為で本来の実力を発揮できなかったけど、大鎌さえ無くなれば私に敗北はない。大鎌の柄を取り落としそうになった右手へ向けて拳打を繰り出した。

――チェーンバインド――

「え・・・っ!?」

そこで私の左前腕部を拘束するのは赤いバインド。今この場に居るのは私とヘッド1。アース分隊は戦闘に参加しないし、味方の私にバインドを仕掛けるミスを犯さないはず。そして私とヘッド1はお互いにベルカ騎士のはず。

(ううん、まさか・・・それって私の早とちり・・・?)

ヘッド1と目が合うと、「俺は・・・」私たちの足元にミッド式魔法陣が展開された。

「すまないな。俺は・・・ミッドチルダ式の魔導師だ。騎士を名乗るようになったのは、この神器に選ばれてからだ」

「騙したのね!」

チェーンバインドによって空へと引っ張り上げられた私。空いてる右手でバインドを掴んで、スキル効果で粉砕する。体勢を整えて着地。距離を開けられたから、改めて接近するために駆け出した、その瞬間・・・

「っ!!?」

胸を袈裟切りに斬られた。ヘッド1から目を離していなかったから、大鎌を振るっていないのは確実なのに。それなのに・・・斬られた。斬られた個所を確認する。騎士甲冑は袈裟切りに裂かれていて、その間から見える素肌にも薄らと痕が付いていたけど、血は出ていない。

「それがこの神器・エスパース・ラムの能力だ」

「エスパース・ラム・・・?」

イリスの前世の人格だという騎士シャルロッテから神器の説明も伺っている。神器には最低でも1つ(最高で3つ)の能力が備わっていると。

(つまり鎌を振らずとも相手を斬ることが出来る能力・・・?)

ヘッド1は「パラディンを討つ日が来ようとはな」さっきまでは無かった余裕を見せる。自分が勝つ事に迷いのない表情。

「(まずは能力を確認しないと・・・!)すぅぅ・・・はぁぁ・・・」

始めからその手を使わなかったのかも気になるし。とにかく魔力出力を上げたうえで全身にスキル効果を付加。これで神秘による攻撃に対して少しばかり抵抗力が上がる、らしい。でも神器のランクによっては無効化される可能性もあるとも聴いた。そうなったら、私に待っている未来は・・・死。もしくは再起不能。

(だからって逃げるわけにはいかない!)

クラウチングスタートの姿勢を取る。大鎌を振るわずに相手を斬ることの出来る能力なら、斬られるより速く突っ込んでやればいい。お尻を上げて、「突貫!」地を蹴って突撃する。的にならないようにジグザグに駆ける。するとヘッド1は身動き1つ取っていないけれど、私の四肢や頬が浅く斬られていく。

(間違いない。振るうことなく相手を斬れるんだ!)

それでも私の突撃速度に付いて来られないのか斬撃は全て浅いもの。勝った。そう思った。でも「あぐぅ・・・っ!」あと少しと言うところで、腹と胸を斬られた。今度は皮膚まで裂かれて出血。久しぶりのダメージにビックリしてよろけた瞬間、「きゃぁぁぁ!」背中を斬られた。

(どうして背中を斬られて・・・!? 距離や範囲を無視して相手を斬られる、ということ・・・!?)

スキル効果のおかげか出血はしたけど致命傷には至っていない。その代わり、上半身はほぼ裸。男を相手にいろいろとポロリは恥ずかしすぎる。私は騎士である前に1人の乙女だ。両腕で乳房を隠して、ヘッド1を睨みつける。

「終わりだな。いくらパラディンであろうとも神器には敵わない。それが証明された」

「っ!(栄えあるパラディンが、神器なんていう意味の解らない武装1つで負ける?)・・・・は、は、恥ずかしくなんてない!」

私の裸くらい見たければ見ればいい。両手を腰に置いて仁王立ちして胸を張る。火が出そうなほど顔が、ううん全身が熱い。ぎょっと目を見開くヘッド1。おじさんなのが救い。若い男の人だったらたぶん無理だった・・・かも。

(というか、アース分隊の人に見られているんじゃ・・・)

「一度変身を解き、再度変身しろ! 魔力に余力があればそれで修復されるだろう!」

「あ、そうか!」

騎士甲冑を解除して局の制服に戻る。そしてすかさず騎士甲冑へと変身。肉体へのダメージは残っているけど、騎士甲冑は無事に元通り。私は「あ、ありがとう・・・、助かった」お礼を言うんだけど・・・なんなの、この状況。頭がおかしくなりそう。

「だが、それでもお前の負けは確定だ」

「言ってなさい。(あの大鎌の能力はかなり危険。距離も範囲も関係なく斬ってくる。しかも私のスキルを真っ向からスルーしてくる)」

全てが初めての感覚。これまでの14年間、私のスキルは全ての犯罪者をひれ伏させてきた。それがこんなにも簡単に潰されるなんて。

「最後通告だ、パラディン。退け。次は死ぬぞ」

ヘッド1が大鎌をまた振るった。また襲われる悪寒。

(あれ・・・? なんだろう・・・?)

さっきは気付かなかったけど、大鎌が振るわれるたびにヘッド1の周囲の空間が歪んでいくように見える。瞬きを何度かする。すると余計にヘッド1周辺の空間が歪んでいるのが見て取れるようになった。目を擦る。それは幻覚でもなく気の所為でもない。大鎌が振るわれる度、至る所に三日月状の歪みが生まれていた。

――クスクスクスクス――

(なに、今の笑い声・・・?)

歪みがハッキリと見えてきた時、私と同じ特徴的な笑い声が聞こえた気がして、周囲を見回す。でも私とヘッド1以外に姿はない。それと思念通話も通信も入っていないのを確認。

――人間という存在がどれだけ罪に塗れた愚かなものか――

また声がしたような気がした。しかも笑い声じゃなく、ハッキリとした言葉が・・・。

――いつまでたっても争いをやめない、やめようともしない存在。どれだけ根絶やしにして、更生させようと努力しても、やはり争いを始める愚者。抑えようと思えば抑えられる欲で同族たる人間を襲い、奪い、殺める――

「???・・・や・・・いや、いや・・・!」

胸の内で何か・・・何か嫌な感情が渦巻き始めた。体が震えだして、思わず自分の肩を抱きしめる。

――その理由が、ただ誰でもいいから殺したかった? 世の中つまらない? ムカついたから? 相手にされなかったから? 金銭が欲しかったから?――

「なに、これ・・・、なんなの・・・!?」

「パラディン・・・?」

――何て罪深いことなの。その果てには赤の他人を殺すどころか、血の繋がった実の親を、子をも殺めるなんてことも増えてきた――

どす黒い感情が次々と生まれてくる。歯がガチガチと鳴り始めた。こんな感情を生み出す自分自身が恐ろしくなってきた。

――何たる身勝手か!! 愚か愚か愚か愚か愚かッ! その頭脳はそんなくだらないことのため用意されたものじゃない! 世界をより良い形に持っていく権利を与えられておきながら、自らを生かす自然を破壊し、終には世界を滅ぼすまでに至る――

「うあああああああああああああああああッ!!」

この場から、自分自身から逃げだしたい。その思いに駆られてあてもなく走り出す。目の前には三日月状の空間の歪み。邪魔だ、って左手で払い除けようとしたら「っ!?」斬られた。手の甲がバッサリ斬られて血が噴き出す。

「はぁはぁはぁはぁ・・・!」

足が止まる。指を伝う赤い血と空間の歪みを交互に見ていると、さっきまでの恐怖が薄らいでいく。神器攻略の鍵を見つけたかもしれない、そう思うと、意味不明な言葉も感情も邪魔なだけのノイズとして追いやることが出来た。私は足元にあった小石を手に取り、別の歪みへと放り投げる。すると小石が真っ二つにされた。

(もしかして・・・大鎌の本当の能力は・・・!)

ヘッド1へと目をやる。どこか私を心配している目。その目から大鎌へと目を移す。見える。今ならハッキリと大鎌が纏う神秘なる力が見える。大鎌全体を覆う靄のようなもの。アレが神秘・・・。

――だから護る価値なんて無いッ――

うるさい、黙ってて。そんなわけの解らない感情に振り回れている状況じゃない。今はただ、局員として、教会騎士として、目の前の敵を討つ。深呼吸を数回した後、頬を両手で勢いよく叩く。するとヘッド1は「また良い目に戻ったな」って口角を吊り上げた。
そして大鎌を振るう。刃に纏わりつく靄が至る所に放たれていくと、それらは三日月状の歪みとなってそこらじゅうに留まり続けた。それでようやく確信した。ヘッド1の持つ大鎌――神器“エスパース・ラム”の能力がなんなのか。

「見切った!」

ヘッド1へ向かって突撃する。もちろん空間の歪みを躱しながら。ヘッド1がさらに大鎌を振ると、靄がすべて私に向かって来た。そしてそれらは高さも長さも違う歪みと化した。私は触れないように躱す。

「お前、まさか・・・見えているのか・・・!?」

「ええ! エスパース・ラムの能力。それは、斬撃を自由自在に空間に留めておく、というもの!」

神秘による不可視の刃を任意の場所に留める。空間が歪んで見えていたその正体こそが、その場に留まっていた神秘の刃そのものだったわけだ。不可視ゆえに回避不可。さっきヘッド1が私に言った、運が良い、というのは・・・私が刃を運よく躱したからだ。

「っく・・・!」

悔しげに呻くヘッド1。そして私は全ての刃を躱し、ヘッド1を攻撃可能範囲に入れた。スキル効果を付加した右拳で拳打を繰り出す。ヘッド1は右手だけで大鎌を操り、防ごうとした。でも私は殴ることなく指を大きく開いたうえで大鎌の柄を鷲掴んだ。

「なに・・・!」

「せいやっ!!」

上げた右足の靴底にスキル効果を付加して、地面を思いっきり踏みつけた。スキル効果・分解によって私たちを中心とした地面に直径5m・深さ3m程度のクレーターが出来る。これをやると上の人にすごい怒られるけど、緊急時だし仕方ない、うん。きっと許してもらえる。
一瞬の浮遊感。突然宙に投げ出されたヘッド1は対処に数瞬だけど遅れる。それが最大の隙。スキル効果を全て解除して、単純な魔力付加した拳打を・・・・

「終わりッ!!」

「うごぉ・・・!!」

ヘッド1の顔面に打ち込んだ。殴られた衝撃でヘッド1はクレーター底に勢いよく叩きつけられて、そのまま動かなくなった。私は飛行魔法でゆっくりと降りて・・・

「神器エスパース・ラム、回収完了」

側に突き立っていた大鎌を手にした。

†††Sideアルテルミナス⇒ヴィータ†††

「――あたしらの出番、全然なかったな・・・」

「にゃはは、だね・・・」

あたし達の前に転がるリンドヴルム兵たち。全部ベッキーが従える精霊がやったことだ。リンドヴルム兵を倒したベッキーは、「みんな、お疲れ様でした」って精霊たちを労っていた。神器を相手にしても圧倒的な強さを見せたベッキーと五精霊。
太陽の杖を持ってた女の周囲の酸素を奪って酸欠にし、杖を自ら手放させた。そんで神秘の加護を失った瞬間に他の精霊で一斉攻勢に出て、一気にブッ潰した。

「ご苦労さまでした。リンドヴルム兵の捕縛は、僕たちに任せてください」

アース分隊の分隊長の敬礼に「お願いします!」敬礼で応える。魔力結合を封じる手錠を掛けられていくリンドヴルム兵。連中が持っていたデバイスはアース分隊員が封印して、太陽の杖――神器・“オールドー・デ・ソル”は、ベッキーの精霊の1体、金属を操る精霊によって作りだされた鋼鉄のケースにしまわれた。あとは・・・

「ルミナちゃん、大丈夫かな・・・」

なのはが漏らす。ルミナの奴が心配だ。あっちは武器型の神器だったし、ベッキーが居るこっちに比べるとその危険度はかなり高い。けど、アイツは仮にも拳闘最強の騎士ファオストパラディンだ。そう簡単に負けるはずがねぇ。それだけが、あたしがアイツの勝利を信じる要因だ。

「ヴィータさん、なのはさん。ルミナさんの元へ参りましょう。まだ戦闘が続いているようであれば加勢したほうがいいです」

「あ、うん。そうだね」

「おう。急ごうぜ」

まずはアース分隊に一言断りを入れる。許可が降りたことであたし達は空へと上がって、ルミナとヘッド1っていう奴らのリーダーが戦ってる場所へと向かって飛んだ。ルミナは割とすぐに見つかった。なのはがクレーターを見つけたからな。
すぐそばに降り立って、別のアース分隊員に付き添われていたルミナに「さすがだな」あたしは声をかけた。ルミナは手や上半身に包帯を巻いていた。それだけヘッド1って奴の神器がヤバかったんだ。

「ルミナちゃん、大丈夫!?」

「大丈夫。この程度の傷で騒ぐようなものじゃないよ」

ルミナは満面の笑顔を浮かべて、ピースサインをあたし達に向けた。なのははピースサインを返し、ベッキーは「信じていましたよ」と微笑んだ。あたしは「騎士だもんな」って返しながら、担架に乗せられて救急車両に乗せられるヘッド1を見た。顔面がものすげぇ腫れてた。どんな攻撃を喰らったんだよ、アイツ。

「まぁとにかく私たち東部担当チームの任務は完了。南部へ戻ろう」

「おう」「うん」「はい」

いくら魔術を扱えるフィレスが側に居るにしてもやっぱはやてとリインの事が気になるしな。つうわけで、あたしらは役目を全うして、輸送ヘリに乗り込んで集合場所の南部へ戻ることになった。

 
 

 
後書き
サルウス・シス。
神器持ちが居るリンドヴルムとの戦闘パート、その1をお送りしました。とは言ってもほぼアルテルミナスが主人公でしたが。しかも拳闘最強としているのに苦戦なんかさせて。いくら相手が神器持ちでも、苦戦させ過ぎか?と、ずっと悩んでいましたが、やっぱり神器の強大さを示したかったので結局は今の形に落ちつかせました。
そして、前世・終極テルミナスの記憶が一時的に蘇りました。しかも憎悪に塗れていた最終戦時の記憶。さぁアルテルミナスはどうなってしまうのでしょう。ともあれ、東部チームはこれにて終了。次話は、アリサたち西部パートです。
 
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