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至誠一貫
第一部
第六章 〜交州牧篇〜
八十八 〜波乱の始まり〜
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は思えないのですが」
「そうだな。このままでは州牧としての面目は丸つぶれであろう」
「はい。疾風(徐晃)も、その挙動には眼を光らせているようですが」
 劉表がどのような人物かは知らぬが、己の庶人を守る気概が皆無……という事はあるまい。
 私の行為はやむを得ぬとは申せ、越権行為として弾劾する事も可能な筈。
 ましてや、朝廷の実権を握る十常侍どもからすれば目の敵でしかない私を追い落とす事も出来よう。
 それ故、疾風や風らも神経を尖らせている。
「ところで歳三様。この城には何時まで残るおつもりですか?」
「うむ……。それは私も考えていたところだ」
「幸か不幸か、住民の多くは犠牲に遭っています。再建するにも、相当の期間を要しましょう」
「それに、その再建をお兄さんがする義務もありませんしねー」
 ぬっと、稟との間から顔を出す風。
 ……もう驚かぬ事にした、いちいち身が保たぬからな。
「いずれにせよ、長居は無用だな」
「はい。睡蓮殿が仰せの通り、兵の休養は必要ですが」
「ただですねー。お兄さん、稟ちゃん。ちょっとお耳を拝借しますよ」
 つまりは、私に屈めという事か。
 私だけでなく、稟も必然的にそうせざるを得ない。
「フーッ」
「ひゃっ!」
 いきなり息を吹きかけられた稟が、小さく悲鳴を上げる。
「な、何をするのですか風!」
「おやおやー、稟ちゃんは耳が弱いのですねー」
「風。戯れは後にせよ」
「むー。風はただ、場を和ませようとですねー」
「……風。本気で怒りますよ?」
 稟が眼鏡を直しながら言うと、風は肩を竦めた。
「最近の稟ちゃんはつれないのです」
「いい加減にせぬか。それで?」
「はいー。実はですね、生き残った方の中に挙動不審な方が混じっているようでして」
「ほう」
 他者の観察にかけては我が軍随一、と言っても過言ではない風だ。
 そもそも、思い込みだけでそのような報告を私にする筈がない。
「何か証拠でもあるのですか?」
「例えばですねー。兵士さん達の目を避けるように、数人で集まってコソコソ密談しているですとか。賊軍さんに痛めつけられた風なのに、突然走り出して城外に出るとか」
「……確かに怪しいな。疾風は気付いているのか?」
「多分まだだと思うのですよ。疾風ちゃん、城外の方で手一杯みたいですしねー」
「よし。ならば、私が参ろう」
「歳三様! お一人で無茶は駄目と、皆から言われているのをお忘れですか!」
「忘れる訳がなかろう。だが、邪な企みを持つ者は、周囲への警戒心も強い。風が勘づいたと知れば、逃す事にもなりかねぬ」
「しかし……」
 稟が私を案ずる気持ちも、わからぬではない。
 とは申せ、何か企みを持つ者がいて、何やら策動しているのだ。
 捕らえて目的を吐かせねばなるまい。

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