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勇者番長ダイバンチョウ

作者:sibugaki
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第15話 特攻上等!ご先祖様が遺した新たな力

 今日で何日目だろうか? 番はそう思いながら避難場所である体育館の天井をひたすらに眺めていた。
 現在番町全域に渡り大型台風警報が発令されており、番町市民全員が避難場所にて避難生活を余儀なくされていた。
 無論、それは轟家も例外ではなく、住み慣れた家を離れ、近くの学校にある体育館にてご近所の方々と一緒に寝泊りする生活を送っていた。
 三食は町内で支給されるおにぎりや味噌汁に漬物と言った極最低限の物しか支給されず、風呂も入れない為湿らした布などで体を拭くと言う日々が続いていた。

「今年の台風はすげぇなぁ、兄ちゃん」
「あぁ、季節はずれだってのにすげぇ半端ねぇや」

 今は桜散る春真っ盛りな時期。だと言うのに此処までスケールのでかい大竜巻が番町を直撃したのは過去に例がない。
 その為町内は大騒ぎとなり近くのコンビニからは非常食が軒並み買い荒らされ、今ではコンビニの品物を置く棚が綺麗になっている店舗が多くなっている。
 数日に渡り吹き荒ぶ台風の為に物資の運搬がままならず、僅かな物資にて切り詰めた生活をしなくてはならない厳しい状況に追い込まれていた。

「あ~あ、早く晴れてくんないかなぁ? これじゃ外で野球も出来やしないや」
「ちげぇねぇ。このままじゃ退屈で体が鈍っちまうぜ」

 ぶつくさ愚痴りながらもやる事がない為この兄弟は床に寝転がりこうして体育館の天井をひたすら眺めるだけ眺める時間を過ごしていた。
 そんな番や真の回りでは何もする事がない為かやはり同じように暇を持て余している者達が殆どだったりする。
 避難していた人々の中にはご老体や年端も行かないお子様も居る為余り動き回る訳にはいかなかったのだ。
 それは遊びたい盛りな真にとっても、まして喧嘩大好きな番にとっても苦痛でしかない。

「二人共、暇なんだったら炊き出し手伝ってちょうだい。今日の当番は私達なんだからね」
「あいよぅ、今行くよ」

 遠くから番達を呼ぶ母の声。母の頼みとあれば無碍にする訳には行かず、二人は即座に本日の炊き出しを手伝う事となった。
 


     ***


 番町を襲った大型台風は翌朝には嘘の様に過ぎ去っており、そのお陰で番達は久しぶりの青空と朝日を拝む事が出来た。
 だが台風が過ぎ去った後の番町の町並みはそれはそれは酷い有様であり、あちこちで屋根は吹き飛んでるわ窓ガラスは割れてるわ瓦は落ちてるわ生ゴミはひっくり返ってるわ看板は落っこちてるわで、とにかくしっちゃかめっちゃかな状態になってしまっていた。
 まぁ、散らかってしまった物は後で町内で一致団結して片せば済む話だ。どうせ次回辺りには全て元通りになっているのだから。
 しかし、世の中にはそれで済まない話もあるのであって―――

「な、なんじゃぁこりゃぁ!」

 朝一番から番の怒号が響き渡った。目の前に見えるのは本来自分達の家が立っていたであろう場所。しかし、其処にある筈の家は影も形もなくなっており、有るのは家の残骸と思わしき木材や鉄材、それにガラスの破片とその他諸々と言った惨状しか其処に残っていなかった。

「家が、俺達の家が……」

 流石に真もこの現状には驚きを隠せなかった。かつて其処には自分達が生活していた家があった筈なのに今では影も形もなくなってしまったのだから。

「これから、俺達どうしたら良いんだろう?」
「困ったわねぇ、家を建て直すお金なんて無いし……借家生活をするにも月々のお支払いを駒木さんに頼む訳にもいかないし……」

 案外駒木なら二つ返事でOKしてくれそうな気もするが、遭えて其処は口出ししないで置く事にした番だった。
 とにもかくにもこのままでは日々の生活すら危うい事になる。
 何とかしなければならない。

「とにかく、この残骸の中で使えそうな物がないか探そうぜ。鍋とか包丁位ならまだ残ってるだろうしよ」
「分かったよ」

 頷き、轟家一家全員で廃屋と貸した元自宅の捜索が開始された。
 回りでは早速台風の後片付けが行われている中、番達は残骸の回収と併合して使える家具の捜索をしている状況だった。
 しかし、相当酷い台風だったのだろう。使える家具も殆どが飛ばされてない状態が続いていた。
 このままでは本当に野宿生活を余儀なくされてしまう気がしたその時だった。

「ん、なんだこりゃ?」

 番は何かを見つけた。それは地面にあった余りにも不可思議な物体。四角い形をしており大きさは約1メートル四方と結構大きい。
 手前には取っ手がついてある辺り何かの扉かと思われる。
 だが、何故その扉が地面にあるのだろうか?
 それを調べるべく番は取ってを持ち扉を開いた。扉の奥にあったのは下に続いている長い階段であり、その先は真っ暗で何も見えない状態であった。

「家に地下室なんてあったのか?」
 
 疑問に思いながらも番は階段を降りてみる。カランコロンと一段一段降りる度に番の履いている下駄が音を鳴らす。ひたすら目の前の見えない階段を手探りで降りていく番。一体どれ程降りただろうか?
 ふと、上を見上げてみると入り口の扉がもうかなり小さくなってる程地下に潜っていた。

(何処まで続いてるんだよ)

 疑問と不安が交差しあう中、番はようやく階段を降り切った。しかし、相変わらず辺りは真っ暗で何も見えない。近くに明かりをつける機械はないかと手探りで探し始める。ふと、壁際に突起上の何かを発見し、それに触れてみると、あちこちで機械の稼動する音が響き始め、やがて真っ暗な部屋に明かりが灯っていく。
 部屋全体に明かりが灯って行った事により、この空間の全貌が明らかになった。其処は巨大な地下施設だった。それも、番達が集合しているバンチョーベースよりも遥かに性能もスペースも大きい。こんな代物が何故地下にあったのか?
 そもそも、一体誰が何の目的で建造したのだろうか。

「こ、こんな凄ぇ地下施設が、家の地下にあったってのか?」
「そうよ、番」
「お袋!」

 振り返ると、其処には恵と真の二人が居た。続いて降りていたようだ。

「お袋、これは一体どう言う事だよ?」
「これはね、貴方の遠いご先祖様が残した遺産なのよ。近い将来、貴方が命懸けで戦うと言う事を予測してね」
「俺の……ご先祖様が……」
 
 ただひたすら、番は驚かされるばかりであった。まさか自分のご先祖様がこんな凄い代物を残していたとは、夢にも思っていなかったからだ。

「すっげぇ! なぁ母ちゃん。俺にも何か残ってないの?」
「う~ん、私もこの地下施設しかお爺ちゃんに教わってないから、全部は分からないのよ」
「なぁんだ」

 少し残念がっている真。そんな真はさておき、この地下施設は中々な仕上がりであった。番やダイバンチョウの完全バックアップは勿論の事、普段の生活に支障のない生活スペース等も完備されている。これならば家を吹き飛ばされた後でも生活に問題はなかった。
 しかも、さっきまで見ないと思っていたら、既にバンチョウはこの地下施設に収容され、整備されている真っ最中だったようだ。

【おぉ、番! いやぁ、此処は中々快適じゃねぇか。気に入ったぜ】
「あったりまえじゃねぇか。何せ此処は俺のご先祖様が残してくれたんだからよぉ」

 鼻高々に番は言う。自分の行った事ではないにしても自分の血縁がこれだけの偉業を成したのだ。鼻が高くなるのも無理はないだろう。

「兄ちゃん兄ちゃん! あっちにすっげぇのがあるぜ!」
「なんだなんだ?」

 真がはしゃぎながら番を導く。あのはしゃぎようからすると相当凄い代物なのだろう。期待を胸に番がやってくると、其処は巨大な格納庫だった。そして、其処には一台のバイクが収められていたのだ。
 が、大きさは普通のバイクよりも凄まじく大きい。恐らく10倍近くの大きさはある。とても番では跨がれない。

「すっげぇなぁ。こんなのダイバンチョウじゃなきゃ乗れないんじゃねぇの?」
「あぁ、しかし凄い乗り物だなぁこれ……一体誰が作ったんだ?」

 目を輝かせながらそのバイクを眺める番。隣の真もまた同じように目を輝かせていた。

「それを作ったのは、貴方のお父さんよ。番」
「何!?」
「え? 父ちゃんがこれを作ったの? 父ちゃんってすっげぇなぁ」

 母恵の言葉だった。それを聞き、真は更に目を輝かせたが、番は即座にバイクから目をそらした。

「このバイクはねぇ、貴方のお父さんが貴方の為に残してくれた力なの。だから、これは貴方の物よ」
「要らねぇよ。あんな奴の作った奴なんざネジ一本に至るまで要らねぇ!」
「番!」

 バイクから遠ざかろうとする番を恵は厳しい声で呼び止めた。普段の優しい母からは聞く事のない声に真も少し驚いていた。

「何時までそんな子供じみた事を言ってるの?」
「あいつは俺達を捨てた男なんだ! そんな奴の残した奴なんて使ってたらお天道様に笑われちまわぁ!」
「今はそんな事を言ってる場合じゃないって、貴方が一番良く分かってるでしょう? 今は目先の事よりも未来の事に目を向けなさい」
「悪いが、幾らお袋の頼みでもこればっかりは使いたくねぇ! あんな男の力を借りるなんて、俺は嫌なんだよ!」

 番にとって、父は最早尊敬の値する存在ではなかった。嫌、そもそもあの男を父とは思ってすらいないだろう。それ程までに番は実の父を憎んでいたのだ。
 そんな時だった。突如、番の腕に供えられた腕時計型通信機がアラームを発した。
 緊急信号の合図だ。

「どうした?」
【番、急いで来てくれ! 敵の新手がきやがった!】
「分かった、すぐ行く!」

 通信を切り、バンチョウに向い走る番。

「番!」
「何だよ、今度は?」
「使いたくなったら、何時でも連絡を入れてちょうだい。私は此処で待ってるからね」
「その必要はないぜ。何せ、一生使うつもりなんてないんだからよぉ」

 そう言い切り、番とバンチョウは外へと走り出した。急ぎ外で戦っている仲間達の元へ向う為だ。
 その背中を心配そうに恵は見つめていた。いつか、番とあの人との間に出来た溝が埋まる日を夢見て。




     ***




 戦闘が起こっていたのは番町内であった。既に台風の影響で付近の建物が粗方吹き飛んでしまっていると言うのに、其処へ来て更に襲撃が行われているのだ。

【げぇっへっへっへ! 噂のダイバンチョウ達を倒せば俺達も極悪組の幹部入り間違いなしだぜ! 徹底的に叩き潰してスクラップにしてやらぁ!】
【兄者! 俺の事も忘れるなよぉ!】

 毎度御馴染みのゴクアク組の雑魚構成委員のようだ。余りにお馴染みなので紹介する事すら面倒になる。幸い襲撃して来た場所には殆ど人が集まっていなかったので人的被害はないものの、これ以上被害を拡大されては溜まったものじゃない。

「これ以上俺の町をぶっ壊されて溜まるか! 速攻で片付けるぞ」

 番の言い分どおりだった。待ってましたとばかりに襲い掛かってくる構成員達を次々に蹴散らしていく。この程度の敵ならばバンチョウ一人で充分過ぎる程だった。
 余りに呆気ない。呆気なさ過ぎて拍子抜けしてしまう程に感じられた。
 しかし同時に妙な感覚を覚えた。今まで散々煮え湯を飲まされ続けてきた奴等が何故今更になってこんな程度の雑魚を送り込んで来るのだろうか?
 敵も馬鹿でなければこちらの戦闘力を既に把握している筈。それなのに何故―――

「変だと思わないか?」
【あぁ、今度の奴等は大した事ないチンピラだった。何時もの奴等ならもっと腕利きを寄越す筈だってのに、拍子抜けだぜ】

 バンチョウが鼻で笑って見せている。それを聞いて番もその通りだと頷いた。だが、その反面番の中にある長年の喧嘩で培ってきた戦いの勘が告げているのだ。
 まだこの程度で終わる筈がないと。

【流石は噂のダイバンチョウ。この程度の戦力では戦いにすらならんようだな】
「誰だ!」

 何処からか声がした。あたりを見回すが声の主はいない。見えるのは既にスクラップにされた構成員の亡骸と台風の影響で破壊された町しかない。
 一体何処から声がしていると言うのか?

【何処を見ている。私は此処だ、此処!】
「上か!」

 咄嗟に上を向いた。其処には確かに声の主であろう輩が見下ろしていた。
 コウモリの様な大きな翼を両手に持つ不気味な姿をした奴だった。
 頭部にはこれまたコウモリを模したような巨大な耳が生えており、両足には鋭い鉤爪が生え揃っている。

「てめぇ、人の事見下ろすたぁ舐めた真似しやがって!」
【ほほほっ、気付かない貴様が悪いのだ。私の存在に気付かない貴様が一番悪いのだ】

 ゲラゲラと高らかにそいつは笑った。まるで番やバンチョウをあざ笑うかの様に神経を逆撫でされるような笑い声を放っていた。
 その笑い方が番には気に入らなかった。余りに下品で人を舐め腐っているような笑い方が気に入らなかったのだ。

「さっきから人の事馬鹿にしやがって! 喧嘩を売るってんなら買ってやるぜ!」
「ふん、姿も下品なら言葉遣いも下品その物だな。貴様の様な下品な奴を倒した所で私の気品が汚れると言うもの、だが依頼とあれば仕方ない。貴様の命、この誇り高きバット星人が貰い受ける」
「抜かしやがれ!」

 怒号を張り上げ、猛然とバット星人目掛けて拳を突き出した。唸りを上げて突き出された拳は空しく空を切る。拳を出した先にバット星人は居なかった。その姿を見失ったバンチョウは辺りを見回す。
 突如として、背中に痛みが走った。何時の間にか背後に回ったバット星人が鋭利な爪でバンチョウの背中を引っかいたのだ。

「どうかな? 私の爪の味は?」
「くそっ、速い……だが、威力は大したことねぇな」
「ほほほ、これだから低脳の相手は疲れる。私の戦いは相手を甚振り尽くす事。満足に攻撃する事の出来ない相手に対し私が華麗に美しく、その身を醜い肉塊へと変える。これぞ私が作り出す最高の芸術よ」
「けっ、自惚れも其処まで来ると呆れてものが言えなくなるってもんだぜ!」
「何時までもほざいてなさい!」

 言葉を区切ると同時に再度バット星人が猛然と右足を斜めに蹴り上げてきた。だが、今度はそれを背後に下ってやり過ごした。蹴りの一撃をかわし、体勢を整えて反撃に移ろうとしたとき、またしても背後から痛みが走った。
 
「ほほほ、遅い遅い。そんな動きでは一生この私を捉える事など出来ませんよ」
 
 其処には既にバット星人が立っていた。ついさっきまで目の前に居たと言うのに気がつけばバンチョウの背後に立っていたのだ。
 恐ろしいスピードだった。

「野郎……」
「どうしましたか? さっきまでの威勢がまるで感じられませんよ?」
「舐めるんじゃねぇ! こんな程度の引っかき傷つけた位で俺をのせると思ってんじゃねぇぞ!」
「貴方の頑強さは既に承知済み。ではそろそろ仕上げと参りましょうか」

 突然、バット星人が上空へと舞い上がった。青い空をバックに縦横無尽に飛び回る。グングンと速度を上げ、徐々にその姿を目で捉えるのが困難になりだしてきた時、遂にコウモリは牙を剥いた。
 猛烈な速度で跳びまわりながら、そのままの勢いで突進してきたのだ。こちらに向って来た事を視認した時には既に手遅れで、次の瞬間にはバンチョウが宙に浮いていた。
 其処へ畳み掛けるかの如く迫るバット星人の猛烈な空中攻撃。

「私の本領は空中戦。誰も空を飛び回る私を倒す事など出来ないのですよ」
「がっ! く、くっそぉ!」

 悔しさに歯噛みする。だが、どうしようもない。バンチョウ、退いてはダイバンチョウの最大の弱点がそれなのだ。つまり、空を飛ぶ事が出来ない。これは茜の紅バンチョウ以外のメンバーにも言えた事だ。確実に、敵はこちらの弱点をついてきている。
 メンバーの少なさと個々の弱点を。

「まさか、さっきのチンピラも……」
「その通り! 全ては貴方方を連携させない為の策。幾ら貴方達が強くとも連携なしではその強さは半減してしまう。加えて、貴方達の戦力は未だ空を制してはいない。移動手段もあの不恰好な飛行機一機のみ。ならば、それを抑えてしまえば貴様等の連携は出来ないと言うもの、今まで数多くの猛者達が敗れて言ったと聞くが、その統べてが皆力押しのごり押しで戦ったが為。私は違う! 私は頭を使い、狡猾に効率よく貴様等を始末する。貴様を倒した後は残りの雑魚共をゆっくり掃除してやる。簡単な仕事だ。この程度の仕事で大金を貰えると言うのだからなぁ!」

 言いながらも攻撃のその手を緩める気配はない。気付けばバンチョウは上空でお手玉でもされてるかの如く飛び跳ねている。まるで玩具だった。
 バット星人はバンチョウを玩具の様に弄んでいるのだ。無論、これにも奴の策略があるのだろう。今、それを考える余裕は番にはなかったのだが。

「出来ればもう少し遊んでいたかったのですが、そろそろ切り上げるとしましょうか」

 一旦攻撃を中断する。自由になったバンチョウはそのまま重力に従い地面に落下する。全身がズタズタに切り傷だらけにされており、バンチョウ自身の消耗もかなりのものとなっていた。よろよろと立ち上がるその姿には痛々しさすら見受けられる。

「さぁ、私の手で永遠に眠りなさい。バンチョウ星人!」
「そうは問屋が卸さないよ!」

 横槍を入れるかの如く突然二人の間に真っ赤な影が横切ってきた。紅バンチョウだった。紅バンチョウが駆けつけてくれたのだ。

「あ、茜か?」
「まだくたばっちゃいないだろうね?」
「ったりめぇだ! こんなもんでくたばる轟番とバンチョウじゃねぇぜ!」

 粋がって見せるもその姿はとても戦える状態とは言いづらい姿だった。

「ほほぉ、てっきりむさい男ばかりかと思いましたが、居る所には居るみたいですねぇ。美しい花が」
「生憎、あたぃは扱い方を間違えるととんでもない目に遭う花だよ」
「結構結構。それでこそ価値があると言うもの。貴方達二人をこの場で屠れば更にボーナスが増える事でしょうし。この場で仲良く儚く散ってください」
「散らせられるもんなら散らしてみな!」

 遥か上空で紅バンチョウとバット星人がぶつかり会う。激しい空の対決であった。互いがそれぞれのマックスピードを出し合って激しくぶつかり合っている。互いがぶつかり会う度に鈍い音が当たりに響き渡った。
 金属同士が、拳と爪が、互いの風圧が激しくぶつかり合って音がなっているのだ。

「地球防衛軍番長組唯一の紅一点にして、空を制する者。その名は伊達ではないようですね」
「今更怖気づいたって手遅れだよ! この場でコウモリ鍋にでもしてやろうか?」
「余裕のつもりですか? 私の最大速度がこの程度だと?」

 意味深な発言をする。それに疑問を感じた時、それは核心に代わった。突如として、バット星人の飛行速度が数段上昇したのだ。その速度は紅バンチョウよりも一段階近く速い。

「なっ、あれが最大速度じゃない!」
「私の飛行速度は音速を超える。地球と言う狭い世界でした飛んだ事のない貴方では到底追いつけませんよ。この私の光の速さにはね」

 あざ笑う様に言いつつも、その速度は既に音の領域を超えていく。さっきよりも、もっと早く、もっと早く……気付けばバット星人の姿を捉える事すら出来なくなっていた。
 そして、そうなった状態のバット星人の猛攻を今の紅バンチョウがかわす事など不可能と言えた。
 
「茜!」

 地上で番が叫ぶ。番の目の前では、成す術もなくただひたすらにバット星人の光の速さに対抗出来ず、傷だらけになっていく紅バンチョウの姿が其処にあった。
 まさか、そんな事があるとは。空中戦であの紅バンチョウが遅れを取っている。こんな事は今までなかった筈だ。しかし、今それが現実となっている。
 
「くそっ、何時までも休んでられっか! バンチョウ、番トラを呼べ! 合体するぞ!」
「応ッ!」

 番とバンチョウの意見が一致し、二人の熱血ボルテージが上昇する。番の熱血ボルテージが50パーセントを超えた時、番トラは姿を現す。その番トラとバンチョウが互いに合体し、ダイバンチョウへと成り代わる。

「早く跳びまわれるからって調子に乗ってるんじゃねぇぞ! 地べたに叩き落してその羽毟り取ってやる!」

 豪語し、上空へとジャンプする。ただのジャンプなので飛行の様に自由自在に飛び回ると言うことは出来ない。だが、とにかく拳を振り回せば当たるだろ。そんな安直な考えで突っ込んで行った番の策が通用する筈もなく。ダイバンチョウの振るった拳は空しく空を切るに留まるだけであった。

「醜い、余りにも醜い! 貴方の様な醜い輩は早々に退場なさい!」

 バット星人の声が辺りに響き渡る。超高速で移動している為に声があちこちから聞こえているのだ。その瞬間。ダイバンチョウの全身にバット星人の蹴りが叩き込まれ、そのまま地べたに叩きつけられてしまった。

「ちっくしょう! 空を飛ぶ相手になるとダイバンチョウってのはこんなにも無力なのかよ!」

 悔しさにダイバンチョウは拳を地面に叩き付けた。自分自身の無力さに腹が立ったのだ。何故、こうも空を飛び回る相手にダイバンチョウは脆いのか?
 それが番には余りにも悔しかった。

「認めねぇ! この俺が、ダイバンチョウがあんな野郎なんざに負ける筈がねぇんだ!」

 諦める事なく再度ダイバンチョウはジャンプした。だが、今度は空しく拳を振るってなど居なかった。今度飛びあがったのは攻撃が目的ではなかった。ダイバンチョウが目指したのはバット星人の攻撃に曝されている紅バンチョウだった。身動き一つとれない紅バンチョウを力づくでその場から動かし、大地へと引き戻した。

「た、助かったよ……番」
「良いって事よ。だが、空中戦でお前が敵わないなんてな」

 弱弱しく礼を言う茜。彼女の操る紅バンチョウは既にあちこちがボロボロにされており、自慢の翼も傷だらけになっていた。これでは自由自在に飛び回ることなど出来はしないだろう。

「そろそろ興が冷めましたな。名残惜しいですが、お二方は揃ってこの舞台からご退場願いましょうか!」
「何っ!」
「砕け散りなさい! 私のこの音色で!」

 バット星人の口から突然強烈な音波が発せられた。ビームでもなければミサイルでもない。純粋な音波攻撃だった。
 口から放たれたその音波は空気を揺らし、辺りを震わせ、ロボット達の装甲に着実にダメージを与え続けてきた。

「な、何だぁこりゃぁ!」
「超音波! あいつは音波を自在に操れるんだよ! ぐぅっ!」

 ダイバンチョウと紅バンチョウに向い容赦なく強烈な音波攻撃が浴びせられていく。その威力は凄まじく長時間浴び続ければいずれ番達の命すら危うい。
 だが、幸いにも音波を放っている間はバット星人自身身動きが出来ないようだ。
 それがバット星人唯一の弱点なのだろう。

「あいつ……動いてない! 今ならどうだ!」

 動かないバット星人に向いまずはメンチビームを放った。だが、バット星人の口から放たれる音波のせいでビームは掻き乱され、その姿を消してしまった。

「ビームじゃ駄目か、ならこれならどうだ!」

 次に放ったのはロケットゲタ。これも同じ様に強力な音波攻撃の前に推進力を失い、地面に落ちてしまい無駄に終わってしまった。

「無駄な努力ですな。その程度の力では私のこの音色を破る事は出来ませんよぉ!」
「く、くそぉ……これ以上は腕を動かすだけでもきつい……」

 攻撃し続けている間にもバット星人の音波は確実に番達の体力を奪い続けていく。それに、ダイバンチョウや紅バンチョウの体にも亀裂が走り出していく。いよいよ限界が近づいているのだ。

「そろそろお別れのようですね。さぁ、醜い瓦礫となりなさい! 番長組!」

 勝ち誇るバット星人。だが、その時だった。突然何かがバット星人を跳ね飛ばした。そのお陰でバット星人の音波は中断され、どうにか自由に動けるようになった。

「何だ? 攻撃が止んだ?」

 自由になった事でどうにか立ち上がるダイバンチョウ。そんなダイバンチョウの目の前に舞い降りて来たのは一台の大型バイクだった。
 それは、先ほど番が自宅の地下で見たバイクその者であった。

「こ、こいつは! 何でこれが此処に?」
【聞こえる? 番】
「お袋! これを飛ばしたのはお袋だってのか? 礼は言うけど何でこんな物を飛ばしたんだ?」
【聞きなさい、番。このバイクは貴方の弱点を補ってくれるわ!】
「俺の弱点?」
【そのバイクを使いなさい。そうすれば貴方とバンチョウ君は大空を制する事が出来るようになるのよ】
「空を、制する……けど、けどよぉ……」

 未だに番は渋っていた。このバイクを作ったのは他でもない。あの男なのだ。あの男の残した力になど頼りたくない。だが、これに頼らなければあいつには勝てないのも事実。

「俺は……あんな奴の力なんて、使いたくは……」
【何時までそんな駄々をこねてるの! 番、貴方も男なら覚悟を決めなさい!】
「お袋……分かった、あいつの力を借りるのは癪だけど、有り難く使わせて貰うぜ」

 観念し、番は決意する。父が残し、母が贈ったダイバンチョウの新たな力を使う決意を固めたのだ。
 大型バイクに跨り、ハンドルを握り締める。

【分かってくれたのね、番】
「あぁ、今此処で俺があいつを倒さなかったら町がぶっ壊されちまうからな」
【聞きなさい、番。このバイクの名前は『特攻番長』と言うの。これは貴方の思い通りに動いてくれるわ。それにこれを使えば貴方は空を飛ぶ事が出来る】
「知ってるよ。さっき聞いたからさ。そうと分かりゃ反撃開始と行くぜ!」

 気合と共にアクセルを全開に回す。大型バイク、特攻番長の排気筒から勢い良く煙が噴出し、後輪が高速で回転を始める。

「特攻上等! ぶっちぎれ、特攻番長!」

 番の言葉と同時にダイバンチョウを乗せた特攻番長は大空へと舞い上がった。全身に強烈な重圧が圧し掛かってきたが、その程度何するものぞ。この程度の事で弱音など上げるわけにはいかない。
 そうすれば今度こそあの男に負けた事を意味するからだ。

「負けて溜まるか! あの野郎が残したってんなら俺はこの力を使いこなしてやる! あの男に一歩でも上にのし上がってやる!」

 歯を食いしばり、全身に力を込めてハンドルを握り締める。その光景を目の当たりにしたバット星人は正に驚愕の一言につきた。

「ば、馬鹿な! あのダイバンチョウが空を飛んでいる!? だが、その程度の付け焼刃でこの私を倒せると思わない事ですよ!」

 そう言い、再度光の速さで飛び回りだす。先ほどと同じだ。これでは戦いにならない。だが、番の表情に諦めの色はなかった。

「特攻番長! 奴よりも早く走れ! 限界の壁なんざぶっ壊せ! お前の速さを俺に見せてみろ!」

 更にアクセルを回す。特攻番長のエンジンが唸りを上げ、ダイバンチョウを光の速さの領域へと誘っていく。それは正に別世界だった。
 全ての光景がまるでスローモーションの様に過ぎ去っていく。そして、その遥か前方には同じ速さで上空を飛んでいるバット星人の姿があった。

「何! まさか、光の速さについてこれる筈がない! こんな辺境の星の技術でそんな事が可能な筈がない!」
「てめぇの能書きは聞き飽きたぜ! 陰険野郎はとっとと失せやがれ!」

 背中から木刀ブレードを抜き放ち、片手でそれを持ちバット星人目掛けて突進する。バット星人との距離が徐々に縮まり、やがて拳が届く範囲にまで到達した時、木刀ブレードを振り上げ、そのまま一直線に振り下ろした。
 
「ゲェッ!」

 悲痛な声を張り上げ、バット星人は墜落した。キリキリと回転しながら地面に激突し、無様な姿を晒す。

「へっ、どっちが醜いんだか、地面に降りればこっちのもんだぜ!」

 倒れたバット星人に向い特攻番長から飛び降り真っ逆さまに落下する。
 そのダイバンチョウを待ってましたかの如く頭を起こしたバット星人の口から超音波が発せられた。空中分解を狙っての事だったようだ。

「二度も同じ手を食らうかよ! てめぇの喧しい騒音は聞き飽きたぜ!」

 雄叫びを上げ、超音波の波を掻い潜り、大地に降り立つ。それと同時に、バット星人に向い持っていた木刀ブレードを叩き付けた。バット星人の体はグシャグシャに潰れ、見るも無残な姿になり、その後盛大に爆発四散していった。

「男の強さは頭の良さじゃねぇ、魂の強さだ! もう一辺魂磨きなおして出直してきな!」

 残骸となったバット星人に吐き捨てるように言い放つダイバンチョウ。かくして、新しい力が加わった。
 その名も特攻番長。これを用いればダイバンチョウもまた大空を制する事が可能となるのだ。新たな力を使い、迫り来るゴクアク星人達から地球を守れ、ダイバンチョウよ。




     つづく 
 

 
後書き
次回予告


「大胆にもこの俺に決闘を申し込んで来た奴、その名もケンゴウ星人。売られた喧嘩は誰だろうと買ってやらぁ!
 だが、またゴクアク組の奴等が卑怯な手を使ってきやがった。今度と言う今度は本気でブチ切れたぜ!」

次回、勇者番長ダイバンチョウ

【熱血ボルテージ100%! これが怒りの熱血モードだ!】

 次回も、宜しくぅ! 
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