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勇者番長ダイバンチョウ

作者:sibugaki
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第16話 熱血ボルテージ100%!これが怒りの熱血モードだ!!

 広大な宇宙の何処かに浮かんでいる小惑星帯。見られる物全てが石の塊で出来た物ばかりが重力の無い漆黒の宇宙の中で浮かんでいる。
 そんな小惑星帯のとある石の上にて、それは一人静かに鎮座していた。まるで戦国時代の武将を思わせる朱色の甲冑を着こなし、兜の外へと飛び出している銀色の髪が星の光に照らされて輝いている。
 右手には鞘に収められた一本の細身の刀が握られていた。顔立ちからして若武者の様にも見られるが実際のこの者が我々地球人と同じ年齢なのかは甚だ疑問だったりする。
 男はひたすらに待っていた。その場から一歩も動かずに、静かに精神を研ぎ澄ませながら。突然辺りを強い光が照らし出した。
 後方から迫ってくるのは巨大な彗星だった。青白い光を放ちながら広大な宇宙を高速で飛んでいる。その彗星が男の居る小惑星帯を通過した刹那、男は微かに動いた。
 その動作は一瞬の内に終了した。何時の間にか男は両手に刀を持っており、刀身を僅かに抜いていた。僅かに外界に照らされた刃が鋭い光を放っている。
 音を立てて男は刀身を鞘の中へと納めた。それとほぼ同時に男の居た小惑星帯を通過していた巨大な彗星が縦一文字に亀裂が走り、ものの数分もしない内に真っ二つに両断されてしまった。
 二つに分かれた彗星はそのまま互いに別々の方向へと進んで行き、やがて見えなくなってしまった。あの彗星の行き先になど興味はない。今、この男にとって大事なのは巨大な彗星を切る事が出来たこの愛刀なのだから、

「流石は名刀と誉れ高き我が愛刀よ。彗星如き一太刀で両断するとは、作ったこの私自身でさえ驚かされる」

 再び鞘から刃を抜き放ち、その刀身を繁々と眺めながら男は呟いていた。彗星を切ったであろうその刀には埃一つついていない。とても満足気な表情で男はその刀を見つめていた。

「誰だ、其処に居るのは?」

 ふと、さっきまで刃に注いでいた目線を後ろへと向ける。其処から現れたのは物腰の低そうなとても弱弱しい二人組の異星人であった。

「いやぁ、流石は宇宙にその人ありと言われたケンゴウ星人様ですねぇ。今の一太刀、惚れ惚れしました」
「御託は良い。この私に何か用事でもあるのか?」
「へへっ! 実はそうなんですよ。あんたに是非斬って欲しい案畜生がおりましてねぇ」
「断る。私は好き好んで人斬りはせん主義だ」

 異星人達の頼みすら聞かずに、ケンゴウ星人はその場から立ち去ろうとしだす。そんなケンゴウ星人の両足に異星人たちは食らいついた。

「ままま、待って下さい旦那ぁぁ! あっしらの話を聞いて下さいよぉ」
「むぅ……よかろう、話して見ろ」

 余りにも必至な形相で食らいついてきたものだからか、さしものケンゴウ星人もその手を払いのける事はせずに二人の話を聞く事にした。話を聞く態度になった途端に二人はささっと起き上がり何食わぬ顔で語り始め出した。

「へぇ、あっしらはこの宇宙でほそぼそと商いをしておるしがない運送屋なんですがねぇ、以前仕事の為に立ち寄った星で、それはそれは極悪な宇宙人がいたんですよ」
「極悪な宇宙人?」

 その返しを待ってましたとばかりに片割れの異星人がポンと手を叩いてこれまた弁舌に話を進めだした。本当に舌の回る異星人である。

「そう、その名も『ダイバンチョウ』って言いましてねぇ、此処からすぐそこの地球って星で散々好き勝手な悪さをしてるんですよ。弱い奴らからカツアゲするのはほんの序の口。他星から来た弱小異星人達を見つけてはそれはそれは言うだけでも身の毛のよだつ酷い仕打ちをする極悪な奴なんです」
「何だと! そんな卑劣な輩がいたと言うのか!」

 話を聞き、ケンゴウ星人の胸の内にワナワナと湧き上がる怒りの感情。彼は誠実な宇宙人であった。ただ己の腕を磨きあげる事だけを心情とし、常に正々堂々とした戦いを好む武人であった。だからこそ、この宇宙人達の話す極悪非道な宇宙人を許せなかったのだ。

「あっしらも何とかしたかったんですがねぇ。何せあっしらはしがない商い。てんで話にもなりゃぁしません。これがもう悔しくて悔しくて―――」
「もう良い。話は分かった。お前たちの無念……この私の胸に深く届いたぞ」

 自身の胸を叩き、異星人達を見下ろすケンゴウ星人。彼の覚悟は決まった。非道な輩に涙する弱き者を救う為、今此処でケンゴウ星人は一人の鬼になる。その覚悟を胸に決めたのだ。

「そ、それじゃ……やってくれるんですか?」
「任せろ! その悪辣非道なダイバンチョウとやら、我が刀の錆にしてやる! 吉報を待っているが良い」

 言い残し、ケンゴウ星人は一路地球へと向かって行った。脇目も振らず、一心不乱になり地球へと向かうケンゴウ星人。
 だが、そんな彼の後ろで、物腰の低い異星人達が不気味な笑みを浮かべていた事など、知る由もなかった。





     ***




 時刻は昼過ぎ、番長高校に置いて生徒達にとって唯一の安らぎの時間であった。
 昼休み、それは育ち盛りな生徒達が己の食欲を存分に満たす憩の時間でもある。ある者は教室で、ある者は食堂で、ある者は廊下などでそれぞれ一人で食べる者も居れば仲の良い者達とつるんで食べる者も居た。
 無論、それは番にとっても同じ事と言えた。ただし、彼の場合は少し違っているのだが。

「お待たせ、長瀬美智ちゃんの今日のお弁当で~っす!」
「うほっ! これまた美味そうな飯じゃねぇか!」

 屋上のど真ん中にて、番と美智は昼食にありついていた。が、知っての通り貧乏街道まっしぐらな番にとって弁当を作る余裕もなければ学食でアンパンを買うお金すらない。
 その為、幼馴染である長瀬美智が番の為に多めにお弁当を作ってきてくれるのである。

「今日は番の大好物の、玉ねぎずくしだよぉ!」
「か~っ! 今日は最高の日だぜ! 玉ねぎなんて何時振りだぁ?」

 天に向かい番は涙をぬぐった。知らないと思われがちだが、番は玉ねぎが大好きなのだ。とにかく玉ねぎには目がなく、最悪生でもバリバリ行けてしまう程玉ねぎ好きなのである。
 そして、美智が作った弁当のラインナップはそれこそ玉ねぎ一色と言えた。
 玉ねぎごはんに玉ねぎの天ぷら、玉ねぎサラダに玉ねぎの漬物。正に玉ねぎだらけである。

「んめぇ! 俺の大好きな玉ねぎってのもあるがやっぱ美智の作る飯はうめぇや!」
「当然じゃない。番の為だけに作ったんだからねぇ」
「あんがとうよ美智。何時もおめぇにゃ世話んなりっぱなしだなぁ」
「良いって良いって、何時も暴走しがちな番を止められるのは私だけなんだしね」

 などと側から見たらラブラブ全開な二人。ただし、それを本人の前で言う事はあってはならない。言った本人は三途の川を渡る羽目になる事間違いなしだったりする。




     ***




 多くの人達が昼食を楽しむ正午。それは此処番町内でも例外ではなく、大勢の人達が昼食を楽しんでいる真っ最中と言う平和な昼下がりであった。
 ある者は自作の弁当を食べていたり、またある者はレストランのランチメニューを頼んでいたり、更にある者はコンビニで簡単な物を買ってそれで済ます者も居たりと過ごし方は人それぞれであった。
 当然その時間帯の交差点近辺は俗に言う歩行者天国と化しており、大勢の通行人達が目まぐるしく右往左往している姿が見受けられている。

「何だあれは!?」

 そんな歩行者天国の中で誰かが叫んだ。叫んだ者は空を見上げて指を指している。
 付近を歩いていた歩行者達もそれに釣られるかのように視線を空へと向ける。
 空からは真っ赤に燃えながら巨大な何かが落ちて来るのが見えた。
 遥か上空にあった為にその大きさは小さく見えるが実際にはかなりでかい。
 まさか隕石の類なのでは?
 忽ち歩行者天国はパニックと化した。巨大な隕石が此処に目がけて一直線に落下してくる。
 その隕石から少しでも遠くに逃げようと大勢の人々があれよあれよとばかりに逃げまどい始める。
 しかし、パニック状態と化していたが為にまともな思考など出来る筈もなく、その為に逃げる事すら困難となってしまっており、ある者は盛大に地面に倒れ込み、またある者はビルに顔をぶつけて転倒してしまったり、しまいには人同士でぶつかり合う等と言う始末にまでなっていた。
 そんな人々の事など俄然無視で巨大なそれはぐんぐんと地表へ向けて高度を下げていた。
 それに従って、その巨大な物体の全貌が明らかになった。巨大な異星人だったのだ。
 風貌は何処となく一昔前の侍を彷彿とさせる恰好をしており、背中には巨大な刀を背負っている。完全に時代錯誤をしたような侍の姿をした異星人であった。
 突如として、異星人が空中で身を翻した。空中で体制を整え、付近にあるビルの屋上にその足の先を降ろし、その場に静止した。
 先ほどまでパニックになっていた人々は隕石でなかった事に安堵しつつも、この異星人が何者なのか分からずどうすれば良いのか困惑している。

「此処が地球と言う星か。それなりに文明が発達しているようだが……」

 ぶつぶつと何かを呟きながらその異星人は町を見回していた。余程地球の建築物が珍しいのか。はたまたただのお上りさんなのか?
 とにかくしつこいくらいに辺りを見回しながらぶつぶつと何かを呟いているだけであった。
 決して暴れ回る訳でもなければ、自分達に危害を加える訳でもない。しかし大きさが大きさだけに油断は出来ない。何しろビルと同じくらいの巨大な異星人なのだ。人間などたちどころに踏みつぶされてしまうだろう。

「市民の皆さん、直ちに避難して下さい! 此処は危険です! 直ちに安全な場所まで避難して下さい!」

 巨大な異星人がぶつぶつと呟いている間に、下では自衛隊の戦車隊が道路を突っ切り市民達を掻き分けて異星人目掛けて前進してきていた。
 巨大な戦車砲塔が持ち上がり、昇順を巨大異星人へと向ける。
 
「相手は異星人だ! 遠慮はするな。撃ち方始め!」

 隊長らしき人物の掛け声に応じ、幾代の戦車の砲塔から砲撃が行われた。
 辺り一面硝煙の匂いでむせ返りそうになる。砲塔から放たれた弾頭は真っすぐに巨大な異星人目掛けて飛んでいく。夥しい数の弾頭が弧を描き、風を切り裂く音を辺りに響かせながら一直線に突き進んでいた。
 爆発は起こらなかった。
 見れば、弾頭は異星人にぶつかる前にその目の前で綺麗に真っ二つに切り裂かれてしまっていたのだ。
 すべては、巨大な異星人が背中に背負っていた刀で一刀の元にすべての弾頭を斬ってしまっていたのだ。
 斬られた弾頭は巨大な異星人の遥か後方で爆発していた。余りにも一瞬の光景だった為か自衛隊の誰もが呆気にとられた顔をしてそれを眺めていた。

「な、何て奴だ。全ての弾を一瞬で真っ二つに……」
「我が愛刀は星の海を流れる彗星すら両断出来る。その程度の弾を斬る事など造作もない事」

 呆気にとられた自衛隊達に向かい、さも自慢げに異星人は背負っていた刀を抜き放ちその刀身を見せながら豪語した。それがどれほどの切れ味なのかは予測は出来そうにないのだが、彗星を両断すると言う事は相当な業物だと言えるだろう。

「突然の来訪失礼仕る。私は広大な宇宙の海で武者修行を続けているケンゴウ星人と申す者。貴殿らに危害を加えるつもりは毛頭ない」
「な、何だと?」
「本来ならば言伝をした後に降り立つが礼儀であるのだが、何分急ぎの用事故ご無礼を許してほしい」

 何とも時代を感じさせる喋り方をしている。だが、敵意はなさそうだ。とは言え油断は出来ない。隊員たちは誰もが即座に戦闘に入れるように構えながら事の行く末を見届けていた。

「そ、それで……急ぎの用事ってのは何だ?」
「うむ、風の噂によるとこの星にはダイバンチョウなる極悪非道な輩が貴殿らを苦しめていると報せを受けた。よって、この私がその不埒者を成敗しようと馳せ参じた次第なのだ」
「だ、ダイバンチョウ? ダイバンチョウって確か……」
「彼奴を知っているのであればこれは好都合。その不埒者が何処に居るのか是非教えて欲しい。この手でそやつを倒してご覧にいれよう」

 さも自信満々にケンゴウ星人は言う。自衛隊員達は心底困り果ててしまった。
 自衛隊にも面子はある。幾ら相手が異星人だからと言って何もせずにダイバンチョウ達に任せる訳にはいかない。彼らも必死なのだ。
 しかし、そのダイバンチョウを出さなければこの異星人は何をするか分からない。最悪あの長い刀を振り回されれば高層ビルなど豆腐でも切るかの様に切られてしまうだろう。
 それだけは避けたかった。

「俺に喧嘩を売ってるのはてめぇか?」

 そんな矢先であった。自衛隊の後ろの方から怒声が響き渡った。
 声がした方を皆が一斉に振り返ると、其処にはいつの間に到着していたのか、番とバンチョウの姿があった。

「貴様がダイバンチョウとやらか?」
「あぁ、俺をご指名してるようだからな。こっちから来てやったぜ。人が昼飯を食ってるって時に来やがって。時間を考えろってんだ!」
「急の来訪は詫びよう。だが、貴様の様な悪党に下げる頭は私にはない!」
「なにぃ! 言うに事欠いて人の事を悪党だぁ!? てめぇだって侵略目的で来たんだろうが!」
「何を言う! 私の目的は宇宙最強の剣豪になる事。その様な下劣な考えなど毛頭ないわ!」
「口でならなんとでも言えるぜ! 見え透いた嘘で塗り固めたって俺の目は誤魔化せねぇんだよ!」
「貴様……私を嘘つき呼ばわりするか……最早勘弁ならん! 今日この日を貴様の命日にしてくれるわ!」
「上等だ! その喧嘩買ってやるぜ!」

 互いに啖呵を切り終えた両者。お互い戦闘意欲が高まりいつでも戦えると言った感じになっている。
 直ちにバンはバンチョウと合体し、更にバントラを呼びダイバンチョウへと合体を終えた。
 熱血ボルテージはいい塩梅に溜まっている。怒りの炎で今、番の心の闘志は真っ赤に燃え滾っているのだ。

「此処じゃ狭くてやりづれぇ! 場所を変えてやるぞ」
「良かろう。ただし、逃げるつもりならば後ろからでも切るぞ!」
「けっ、折角買った喧嘩なのに後ろ向いて逃げるかよ!」

 お互いにそう言い合い、その場から退散した、次に両者が姿を現したのは番町から少し離れた海岸だった。
 今の時期だと海水浴に来ている人はほとんど居らず、喧嘩をするには正に絶交の場所と言えた。

「此処なら思う存分戦えるだろう。さて、やるか!」
「応! ゆくぞ、ダイバンチョウ!」
「久々の喧嘩だ、大暴れさせて貰うぜぇ!」

 即座にダイバンチョウは背中から木刀ブレードを取り出し、ケンゴウ星人の持つ刀とぶつかり合った。刀と刀がぶつかり合い激しい火花を撒き散らす。
 両者とも一歩も引かず、前へ前へと進もうと全身に力を入れて腕を押し込む。
 力同士が激しくのたうち回り、両者の腕は小刻みに震えていた。それに応じるかの様に刃から火花が零れ落ちる。
 即座に両者は後方へと下がった。力比べでは互角と判断した上での行動であった。
 しかし、ダイバンチョウが距離を置いた刹那、ケンゴウ星人が刀を持ち構え出した。

「何!?」
「受けてみろ! 秘剣【真空斬】」

 技の名を大声で叫びながら、ケンゴウ星人の刀が下から上へと袈裟掛けに振り上げられた。その振った風圧が鋭い刃となってダイバンチョウへと襲い掛かって来たのだ。

「おわっ!」

 とっさに身を翻してこれをかわした。装甲表面が掠れた感じはしたが直撃はしていない。しかし、もしあれが当たっていたらどうなっていたか。
 それ以上に、離れた距離から斬撃をしてきた事に番は戦慄を覚えていた。

「見たか! これぞ私が長年の修行の末に編み出した秘剣、真空斬だ。我が剣技は風圧すら斬撃に変えて敵を斬る事が出来るのだ!」
「離れてても攻撃は出来るって事か。だが、離れての攻撃手段だったら俺にだってあるぜ!」

 ダイバンチョウの両目が光った。目から熱血エネルギーを収束して放つメンチビームだ。
 放たれたメンチビームはケンゴウ星人の体には当たらず、彼の持っていた刀に弾かれて海面に落下してしまった。

「メンチビームを弾いた!?」
「我が剣にその様な脆弱な攻撃など無意味! その程度では我が愛刀【流れ星】の刃を零す事すら叶わん!」

 悔しいがケンゴウ星人の言う通りかもしれない。奴が持っている剣はそれこそ凄まじい切れ味を持っていそうだ。下手するとダイバンチョウの装甲すら容易に切り裂けるかも知れない。
 だが、優れた得物を相手が持っているからと言ってそれで尻込みする轟番ではない。

「おもしれぇ! それなら俺がその自慢の刀をへし折ってやるぜ!」
「無駄な事よ! 何故なら貴様は我が愛刀でその命運を終えるのだからなぁ!」

 再度、両者は互いに距離を縮め、其処で激しい斬り合いを始めた。互いに雄叫びを挙げ、渾身の力を込めて剣を振り、その剣同士がぶつかり合い火花を散らし金属音を辺りに響かせる。
 巨大な剣同士がぶつかり合うが為にその時に起こる衝撃は海を荒立たせ、風を切る。
 互いに一歩も引かず両者ともその場に陣取ったまま剣を振り続けていた。

「むぅ……思った以上にやる! ただの極悪異星人と言う訳ではないようだな」
「てめぇこそ、結構やるじゃねぇか。久々に楽しい喧嘩だぜ」

 何時しか、互いに互いを認めていた。だが、これは勝負の世界。勝つか負けるかしかない。その非情な世界に今両者は足を踏み入れているのだ。情けを掛ける余裕など二人にはなかった。

「このままじゃ拉致があかねぇ。一気にケリつけてやる!」
「望むところだ! 私の最大奥義にて貴様を倒す!」
「勝負だ、ケンゴウ星人!」
「覚悟! ダイバンチョウ!」

 互いにこの一撃を最期とするべく、両者とも全身に力を込めて刀を振り上げた。お互いがお互いを強敵と認めたからこそ己の手でこの戦いを勝利で飾りたい。
 今、二人の間に善悪や戦いの後の事など一切頭になかった。ただ、この一瞬の勝負に勝つ事。それだけしかなかったのだ。

「超必殺、男の修正脳天叩き割りぃぃ!」
「奥義、彗星斬り!」

 両者がそれぞれの渾身の必殺技を放つ。方や数多の異星人を屠って来た必殺技を。方や広大な宇宙を突き進む彗星を切り裂いた奥義を。
 技と技がぶつかり合い、その衝撃に海は荒れ、風は突風を巻き上げた。天空には両者の持っていた得物がくるくると回りながら漂っている。
 その下では、得物を失ったダイバンチョウとケンゴウ星人の二体が立ち尽くしていた。
 お互いに渾身の一撃を放ったが為にすぐには動けなかったのだ。
 上空を飛んでいた木刀ブレードと流れ星は二人から少し離れた砂浜に突き刺さり、その場で静止した。
 今、両者は武器を持たない丸腰の状態となっていたのだ。

「ってて、まさか俺の超必殺技を返す奴が居るたぁなぁ。腕が痺れてやがるぜ」
「それは私も同じこと。まさか、私の奥義を跳ね返す強者が居たとは……」

 互いが互いを認め合う。そして、二人の膝が折れ、海面に片膝をついた。
 既に二人にこれ以上戦うだけのエネルギーは残っていない。時間からしてほんの僅かな時間ではあるが、その間二人は死にもの狂いでの死闘を演じたのだ。
 エネルギーの消耗も相当なものとなっている。だが、それでも二人は尚も立ち上がろうと折れた膝に力を込めて立ち上がる。
 今にも倒れてしまいそうなその状態にも関わらず、瞳からは激しい闘志が見て取れた。
 まだ戦いは終わっていないのだ。そう、この戦いの決着をつける為には相手を倒す他ないのだ。

「へっへっへっ、ご苦労さんだったなぁ。ケンゴウ星人」
「む!?」

 何処かで聞き覚えのある声がした。そう、その声は先ほどケンゴウ星人にダイバンチョウ討伐を依頼した二人組の異星人達であったのだ。
 しかも、その異星人達はダイバンチョウの木刀ブレードとケンゴウ星人の流れ星を手に持っていたのだ。

「てめぇ、人の得物を勝手に持ってんじゃねぇ!」
「貴様ら、一体何の真似だ!」

 折角の喧嘩に水を差された事に心底腹立たしいと言うのに、自分の大事な得物を勝手に触られた事に更に怒りを露わにしていた。だが、そんな二人の怒りすら二人組の異星人達は気に留めていない。寧ろ清々しい顔をしていた。

「思った通りに事が運んだな。ケンゴウ星人とダイバンチョウをぶつければダイバンチョウは相当エネルギーを消耗する。後は俺達でも充分てめぇを倒せるって寸法よぉ。流石俺様頭良い~」
「てめぇ、まさかゴクアク組の奴らか!?」
「その通り! 俺様こそゴクアク組一悪知恵が働くって評判のワルダー星人様よ!」
「貴様、まさか……あの時の事はすべて嘘だったというのか?」
「当たり前だろうが! てめぇみてぇな堅物はこう言った嘘に簡単に引っ掛かってくれるから楽で良いぜ」
「おのれ!」

 ケンゴウ星人が怒りを肩を震わせた。こいつは元々悪い異星人ではなかったのだ。ただ、ワルダー星人に騙されて地球にやってきただけだったのだ。
 そして、今正に自分が道化にされた事に怒り狂っているのだ。

「許さん! 貴様らのその悪しき所業。断じて許してはおけん!」
「けっ、大人しくしてるんだったら命だけは助けてやろうと思ってたんだが、気が変わったぜ。そんなに死にたきゃダイバンチョウ諸共あの世に送ってやらぁ!」
「舐めんじゃねぇぞ! てめぇ如きにやられる俺じゃねぇ!」

 即座に反撃を試みようと歩き出す。だが、3歩も歩かない内に再度ダイバンチョウは膝をついてしまった。
 既に、先ほどのケンゴウ星人との闘いで殆どのエネルギーを使い果たしてしまっていたのだ。現状のエネルギーではダイバンチョウの姿を維持するだけでも大変な状態だ。そんな状態では歩く事すら困難な状態になってしまっている。

「ぎゃははっ! 無様だなぁダイバンチョウ! 散々俺達をコケにしてくれた礼にたっぷりと痛めつけてからあの世に送ってやらぁ! まずはこれでも食らいやがれ!」

 動けないダイバンチョウに向かい木刀ブレードの一撃が放たれた。今まで幾多の凶悪異星人を葬って来たダイバンチョウの武器が、今度はダイバンチョウ自身を痛めつける要因になってしまうとは食らった本人でさえ夢にも思わなかった事態である。
 その為に、身体的ダメージは勿論の事精神面でのダメージも相当くるのであった。

「ぐぅっ!!」
「どうだぁ、今まで散々俺達の仲間を痛めつけてきた武器で痛めつけられる感想はよぉ!」

 下卑た笑い方をしながら幾度も木刀ブレードをダイバンチョウに向けてたたきつけて来る。如何に虚弱な異星人であろうと扱っている得物の威力が底上げされてる為か相当な威力になっている。
 今更ながら、番自身木刀ブレードの強さをその身で実感していた。

「ダイバンチョウ! 貴様らぁぁ!」
「外野はすっこんでな!」

 後ろで片膝をついていたケンゴウ星人も目の前で行われている非道な光景に黙っていられず立ち上がる。
 だが、其処へもう一体のワルダー星人の口から熱線が発射された。
 威力からしてそれ程脅威ではないが、既にまともに立っていられるエネルギーのないケンゴウ星人を吹き飛ばす位には十分通用する威力であった。

「ぐはっ!」
「てめぇは後でじっくり料理してやる。だがまずはこいつを片付けてからだ!」

 倒れたケンゴウ星人には目も暮れず、もう一体のワルダー星人もダイバンチョウへと襲い掛かってくる。
 その手に持っていた名刀流れ星の鋭い刃がダイバンチョウの背中に向かい深々と突き刺さった。

「がぁぁっ!」
「死ね、死ねぃ! とっとと死んじまえぇ!」
「ぎゃはは! これで俺達はゴクアク組の幹部昇進間違いなしだぜぇ!」

 薄気味悪い笑い声が頭上で木霊するのが番の耳に聞こえて来る。胸糞悪い気分だった。
 こんな奴らの笑い声を耳元で聞くのは勿論の事だが、何よりも男と男の命懸けの喧嘩を薄汚いやり方で侮辱された事に腹立たしさを感じていたのだ。

「兄貴、遊んでないでとっととトドメを刺しちまおうぜ」
「そうだな、何時までも遊んでられねぇしな!」

 ダイバンチョウの体に突き刺していた流れ星を抜き出し、上段の構えを取る。振り下ろす先には動く事が出来なくなったダイバンチョウの頭部がある。
 振り下ろすこの一撃でダイバンチョウの首を跳ねようと言うのだ。

「これで終わりだ! ダイバンチョウ!!」
「そうはさせぬ!」
「なに!?」

 突如、海面から声が響く。青い海が渦を巻き、その中心から水しぶきをあげながらケンゴウ星人が突っ込んできたのだ。
 突撃した先に居たのは流れ星を持っていたワルダー星人であった。

「ぐぇっ!」
「兄貴!」

 流石のワルダー星人もケンゴウ星人の捨て身の突撃を受け体をくの字に曲げる。しかし、倒すまでには至らなかった。やはりダイバンチョウとの闘いが未だに相当響いている。

「よくもやりやがったな、この死にぞこないがぁ!」

 逆にワルダー星人の怒りを買う事となってしまった。
 そのケンゴウ星人はと言えば先の突撃で残っていたエネルギーを使い果たしており動く事が出来なくなっていた。
 何とか立っているだけでもやっとの正に当てやすい的の状態であった。

「け、ケンゴウ星人……」
「すまなかった、ダイバンチョウ。全てはこいつらのたわごとを信じた私の責任だ。すまなかった」

 動けないダイバンチョウに向かい、ケンゴウ星人が謝罪の言葉を言った。その直後、ケンゴウ星人の胴体にワルダー星人の流れ星が突き刺さる。

「ケンゴウ星人!!」
「とっとと死んじまえ! このくたばり損ない!」

 怒り狂うワルダー星人の無情の一撃を受け、砂浜に倒れるケンゴウ星人。熱き魂を持った正に侍と呼べる星人だった。
 そんな侍が、今倒れた。卑怯で劣悪なワルダー星人達の手によって。
 その光景がまるでスローモーションの様にゆっくりと番の目に映った。番の胸の中から火山の噴火の如く激しいまでの感情が噴き出す。
 それは、激しいまでの【怒り】であった。男と男の勝負を侮辱し、男の命とも呼べる刀を汚く汚したワルダー星人達に対する、止めようのない激しいまでの怒りが番の体の中を血液の流れのように流れて行く。

「許さねぇ……お前ら、お前らだけは……絶対に許さねぇぇ!」
「ん? な、何だ!?」

 再度ワルダー星人達は驚愕する。さっきまで立ち上がる事すらできなかったダイバンチョウが立ち上がっていたのだ。
 それだけじゃない。ダイバンチョウの体から激しい音を立てて水蒸気が上がるのが見える。ダイバンチョウの機体温度が急速に上昇しているからだ。
 番の激しい怒りがそのままダイバンチョウに影響し、ダイバンチョウの中に秘められた新たな力がその牙を剥いたのだ。

【熱血ボルテージ100%突破しました。これより熱血モードを発動します。防御プロテクター強制排除します】

 機械的なアナウンスと共にダイバンチョウの上半身を守っていた長ラン姿の防御プロテクターが外され、地面に落ちる。更に、顔を守っていたフェイスカバーが取り外され、バンチョウの素顔が露わとなる。
 
「ぬぅぅおぉぉぉぉぉ―――――!」

 雄叫びが辺りに木霊する。ダイバンチョウの機体温度は更に上昇し、体の色がみるみる真っ赤に染まって行く。まるで激しい怒りに燃える番の心情を現すかの様な色であった。

「な、何だ? 一体どうしちまったんだ!?」
「な何ビビッてやがる! どうせこいつは死にかけだ! 一斉に掛かれ!」

 号令をし、ワルダー兄弟が一斉に攻撃を仕掛ける。木刀ブレードの一閃が、流れ星の一撃が、同時にダイバンチョウの体にたたきつけられた。
 衝撃がワルダー星人達の体を突き抜けた。攻撃した筈なのに攻撃したワルダー星人達自身が凄まじい程の衝撃を受けていた。
 
「どどど、どうなっちまってんだよぉ? 何でこいつこんなに硬くなってんだよぉ?」
「畜生、何でくたばらねぇんだよ! 何で死なねぇんだよぉ!」
「教えてやるよ。このクズ野郎共」

 静かに、だが激しい憤りが感じ取れる声で番は言う。ゆっくりとダイバンチョウの両手が持ち上がり、自分の体に当っていた木刀ブレードと流れ星をそれぞれ掴む。
 そして、ダイバンチョウの両手が強く握りしめられた瞬間、二本の業物は粉々に砕け散ってしまった。
 砕け散り、砂浜へと舞い落ちる木刀ブレードと流れ星を前にしてワルダー星人達はすっかり戦闘意欲を失い、二、三歩後ろに下がった後膝が震えあがり出した。
 そんなワルダー星人達に向かい、ゆっくりとダイバンチョウが歩み寄ってくる。
 まるで死刑宣告その物であった。少なくとも、ワルダー星人達にはそう見えていた。

「く、来るな、来るな来るな来るなぁぁぁ――――!!」

 すっかり理性を失い、恐怖一色に染まってしまったワルダー星人達は残っていた熱線をありったけ浴びせて来る。だが、エネルギーが尽き果てた状態ならいざ知らず、今のダイバンチョウにその程度の攻撃など効く筈もなく、その歩みを止める要因にはなりえなかった。
 尚もダイバンチョウの歩みは止まらない。一歩、また一歩とワルダー星人達に近づいてくる。
 そして、ダイバンチョウがワルダー星人達の目の前にたどり着いた時、ダイバンチョウの巨大な剛腕が唸りを挙げた。

「てめぇらみてぇな卑怯者なんぞにやられる程、俺は……男ってのは弱くねぇんだよぉぉぉ!!!」

 怒号と共にダイバンチョウの右こぶしがワルダー星人の胴体を貫通する。たった一撃でワルダー星人の片割れを倒してしまったのだ。残っていたワルダー星人は我さきにと逃げ出そうとするが、そんなワルダー星人の体は足取りとは裏腹に地面へと倒れ込んだ。
 倒れたワルダー星人は、今自分が何をされたのか恐らくは永遠に分からないだろう。
 背後からダイバンチョウの右回し蹴りがワルダー星人の腹部に叩きつけられ、そのままワルダー星人を真っ二つにしてしまったのだ。
 一瞬、時間からしてそれは一瞬と呼べるほどの時間であった。だが、その一瞬の内にワルダー星人達は激怒の元に復活したダイバンチョウの手により完全に破壊されてしまったのだ。




     ***




 激闘は終わり、海岸には西へと沈みゆく夕日が海を茜色に染め上げて行く。そんな海岸沿いには、激闘を終えたダイバンチョウとケンゴウ星人の両名が立っていた。

「悪かったな、お前の刀……砕いちまってよ」
「気にはしていない。刀はまた作れば良い、それよりも……見せて貰ったぞダイバンチョウ。お前の内に眠る熱い闘志の力を」
「あぁ、さっきのあれか……正直俺自身も何であれになったのかさっぱり分からねぇんだ」

 先のワルダー星人達を倒したあのダイバンチョウの超変化。あれは一体何だったのか?
 アナウンスによるとそれは【熱血モード】だと言われていたのだが、正直さっぱり分からない。
 しかも、戦闘が終わると途端に熱血モードは解除されてしまい、元のダイバンチョウへと戻ってしまったのだ。
 まだまだ、番自身の知らない強さの秘密がダイバンチョウには宿っているのかも知れない。

「轟番、ダイバンチョウよ。お主こそが、この宇宙を守る為にこの星で生まれた戦士なのかも知れないな。そう、お前こそ【勇者番長】の名に相応しいのやもしれないな」
「止せよ。勇者なんて御大層な人間じゃねぇよ。俺はただ売られた喧嘩を買うだけの不良さ。ただの不器用な人間でしかねぇよ」

 否定はしてみたものの、内心番の中にはその言葉が根付いていた。【勇者番長】。宇宙の平和を守る為に辺境の星で生まれた戦士。だが、今はまだ番自身はその言葉の意味を余り深くはとらえてはいなかった。
 ただ、売られた喧嘩は買う。自分の家に土足で入り込んで来た無法者を叩きのめす。その程度の事しか頭にないのだから。
 しかし、近いうちに番自身も理解するやも知れない。その【勇者番長】と言う名の意味と重みを。
 その日は果たして何時の日なのか。明日か、明後日か、それとも1年後なのか?
 それは此処にいる番にもケンゴウ星人にも分からない答えであった。




     つづく 
 

 
後書き
次回予告


「やべぇ、勢い余って木刀ブレードを折っちまった! 何か新しい必殺技を考えねぇといけねぇ。って、こんな時にまた異星人がやってきたってのか? えぇい、こうなりゃやぶれかぶれだ。この俺のすべてを拳に込めてぶつけてやる!」

次回、勇者番長ダイバンチョウ

【超必殺! これが俺の番超拳だ!】

次回も、宜しくぅ! 
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