| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Epos27虚無の自由という名の鎖~The Round table of Authority~

†††Sideルシリオン†††

「はじめまして、パラディース・ヴェヒターのランサーもといルシリオン・セインテスト君。特別技能捜査課・課長、クー・ガアプ一等陸佐です」

「本局運用部・総部長、リアンシェルト・キオン・ヴァスィリーサ准将です」

八神家で唯一俺だけが本局へと呼ばれ、クロノと共に本局へと赴いた俺は、そこで捜索している“堕天使エグリゴリ”の1機、氷浪の鏡リアンシェルト・ブリュンヒルデ・ヴァルキュリアと再会してしまった。

(ある種の予感はしていたんだ。キオン・ヴァスィリーサ。発音が少々違うが、ニヴルヘイム語で雪の女王という意味だ・・・)

ガアプ一佐に続いてリアンシェルトが1歩寄ってきたことで、「っ!」俺は思わず後ずさってしまう。クロノが「どうした?」と怪訝そうに訊ねて来たため、「いいや、なんでもない」と深呼吸1つ。クロノと同じような目を向けて来ているガアプ一佐に「はじめまして」とまずは挨拶して、頭を下げる。

「ルシリオン・セインテストです。俺に何か用があるとのことですが、なんでしょうか?」

「とりあえずは場所を変えましょう。セインテスト君。あぁそれとハラオウン執務官。あなたは近くの休憩所にでも残ってちょうだい」

勧められるままに廊下を歩こうとした途端、ガアプ一佐がクロノに居残りを命じた。上官命令だからと言って「出来ません。彼の身柄はまだアースラ預かりです」クロノは引き下がることは無かったが。クロノとガアプ一佐の視線がぶつかり合う中、「下がりなさい」とリアンシェルトが告げた。

「っ・・・。納得のいく理由を教えて頂けないでしょうか、キオン・ヴァスィリーサ准将」

リアンシェルトの桃色の瞳に見詰められたクロノは一瞬たじろいだが、それでもなお懸命に立ち向かう姿勢を崩さない。リアンシェルトは「伝えるのが遅くなりましたが」とクロノの面前に1枚のモニターを展開。表示されている何かを読んだらしいクロノの目が見開かれた。

「なぜ八神家の身柄が運用部預かりに変更されているのですか・・・!?」

「判りましたか? すでにパラディース・ヴェヒター・・・八神家の身柄は運用部預かりとなっています。今はまだ解決直後ということもあってアースラスタッフであるあなた達に八神家を預けていますが、セインテスト君だけは少々特別な立ち位置ですので、先に来てもらいました」

「そんな勝手が通るとでも――」

「通るでしょう。手続きは済み、承認も済んでいるのですから。では改めて命じましょう。ハラオウン執務官、あなたは残りなさい」

「くっ・・・! 了解しました。ルシリオン、すまないが僕はここまでのようだ」

悔しげに両手を強く握り拳にしたクロノ。確かに連中のやった事は横暴だな。しかし「ま、上官命令なら仕方ないだろ。ちょっと待っていてくれ、すぐに戻る」すでに承認されている以上はもう拒否権はない。
こうしてクロノと別れた俺は、ガアプ一佐とリアンシェルトの案内である一室へと招かれた。明かりの無い室内。今は廊下からの明かりが入っているおかげでなんとか室内設備が判る。部屋の中央に円卓が置かれ、その周りに椅子が13脚設けられている。ただそれだけの部屋。

「ようこそ、時空管理局本局・権威の円卓へ」

ガアプ一佐が俺の両肩に手を置き、ここで待て、と言外に告げてからある椅子へと腰掛けた。それと同時、廊下とこの部屋を隔てるスライドドアが閉じた。完全な暗闇に包まれていた室内だったが、「これより権威の円卓による、時空管理局評議会を開会いたします」リアンシェルトのその厳かな挨拶で闇が払われた。
椅子3脚に管理局のエンブレムが浮かび上がり、他8脚には人間のホログラムが投影された。見覚えのあるツラが居るのに気付いた。はレジアス・ゲイズ中将(制服の階級章を見ればこの時点で中将のようだ)だ。

「権威の円卓とは?」

『権威の円卓と言うのは、局の真っ当な運営とは別のアプローチで局を取り仕切る組織だ。最高評議会、本局の将校、俺やそこの男のような民間人からなっていてな』

円卓に座する1人、10代半ばと思われる少年が俺の問いに答えくれたんだが、さっきから俺に向かって不躾な、まるで実験動物を見ているような視線を送ってくる。殺気を叩きつけてやめさせようにも相手はホログラム、無駄な行為だからと諦める。
最高評議会とやらは確か・・・ジェイル・スカリエッティを生み出した、JS事件のある種の元凶だったな。コイツらがこの権威の円卓を率いているという時点で、この組織の終わりは見えた。
他のメンバーだが、制服の階級章を見る限り全員が一佐以上の階級持ちだ。ガアプ一佐の他に一佐がもう1人、大将が1人、レジアス・ゲイズと同じ中将がもう1人、少将が2人。あとは少年と同じ民間人と言う20代前半ほどの青年を見る。

「それで・・・俺をここに招いた理由はなんでしょうか? ま、ある程度の予想は付きましたが」

1脚の空席。管理局の裏とも言えるようなこの組織へ連れて来たこと。導き出される答えはただ1つ。円卓中央のエンブレムが球状モニターへと変化し、ランサーとして活動している俺の映像が流れ始めた。

『・・・ルシリオン・セインテスト。君のプロフィールを見て愕然とした。わずか8歳でこれほどの魔法を扱え、さらに頭も良い。普通の人間の成長度合いでは考えられない程のものだ』

「回りくどいのは好みません。申し訳ないのですが、早く本題に入っていただけませんか?」

『・・・我々は君をこの権威の円卓に迎え入れたいと考えている。とは言え、君はまだ幼い。まずは円卓メンバーとして相応しい役職と階級になってもらわなければならない』

予想通りの展開過ぎてつまらないな。とりあえず「拒否権はありますか?」と返す。

『拒否権? 君や闇の書の犯してきた犯罪歴を鑑みれば、数十年の有期懲役、守護騎士に至っては無期禁固という判決が下ってもおかしくはない』

エンブレムの1つにそう言われ、だったら俺を招き入れようとするな、そうツッコみを入れたいのを耐える。ま、そうまでして俺を支配下に置きたいんだろうが。

「艦船アースラのリンディ・ハラオウン提督、そしてクロノ・ハラオウン執務官の話では、犯罪者狩りの件については大目に見てもらえるという話でしたが?」

『彼女らの判断は我々も受け入れるつもりだ。君らの蒐集行為で次元世界の犯罪件数が減ったことに対しては最大限の礼を言いたい。しかし、これとそれは別だ』

俺の映像が切れ、“闇の書”の守護騎士として活動するフルアーマー姿のシグナム達が映し出された。素顔の見えない彼女たちは問答無用で魔力持ちの局員や魔導師を襲撃していた。彼女たちの過去の所業か。

『管理局設立以前であるなら罪に問えないが、法が整備され、管理局が機能しているこの65年の間に行われた蒐集および殺害・傷害の一件については立件することも可能なのだぞ』

代わる代わる俺の逃げ道を封じていく(ことば)を言っていくメンバー。あー、今の発言は良い。確かに過去の守護騎士が行ってきた罪は許されざるものが多い。償うべきものだろう、それは理解しているが・・・。それを命じた主たちはさっさと死んで罪から逃れていると言うのにな。理不尽さを感じるよ。

『そして君の・・・プレシア・テスタロッサ事件での罪。死亡届が提出されている被疑者テスタメントが君であること、管理外世界への不法入界、不法滞在、戦闘行為、管理局員と民間人への傷害、ロストロギア・ジュエルシードの不法所持などなど。数え出したらキリがない』

セラティナ・ロードスター、か。そう言えばリーゼ姉妹との初邂逅時に色々と話してしまったからな。モニター越しで聴いていたとしてもおかしくはない。彼女からガアプ一佐、そして円卓メンバーに伝わったんだろう。

「いい歳をした大人たちが10歳にも満たない子供を相手に脅迫ですか」

『あはは! 面白いことを言う! 確かに第三者的に見れば、大人が寄って集って子供を脅しているようにも見える!』

少年が手を打ちながら大笑いする。他のメンバーが口を閉ざす中、レジアス中将だけが『やかましい。その鼻につく笑い声を止めろ』心底少年の事が嫌いだと言っている目を向けていた。少年は笑うのをやめ、『だが、お前は本当に純粋な人間か?』とそう問い質してきた。

「どういう意味だ? プロフィールを見てもらえれば判るはずだ」

『リョーガ評議員がお前のプロフィール云々と言っていただろう? お前のその口調、魔法、魔力、知能。どれをとっても8歳で出せるものじゃない』

「(当然の疑問か・・・)そういう8歳が居てもおかしくないと思うが? 生活環境や遺伝、才能でいくらでも変わってくる。違うか?」

『魔法に至っては才能や遺伝で片付けられるものじゃないだろ』

「それはお互い様だ。あなたこそ外見通りの少年か?」

少年と睨み合っていると、「はい、ストップ。セインテスト君の出生はこの際、置いておいて」ガアプ一佐が手を叩いて制止してきた。少年は『そこが一番大事だろうが』と不満そうに言いつつも先に目を逸らしたことで、俺も溜息一つ吐いて少年から目を逸らした。

『ルシリオン・セインテスト君。脅迫めいたことを言った件については申し訳ない。だが、悪くはない取引ではないか?』

『正直に言うと、喉から手が出るほどに君の才が欲しいのだ。数多くの魔導犯罪者を手玉に取る魔法の腕、計画立案能力。是非とも嘱託ではなく正式な局員として入局してもらい、将来は重要なポストに就いて我々の手助けとなり、共に管理局を導いてもらいたい』

「君が執拗に魔導犯罪者を狙ったのは、魔法を使って罪を犯す連中を許せなかったのですよね? なら、その考えをこれまで通り胸に刻み、次元世界の為にその魔法を使いませんか?」

大将と男少将、ガアプ一佐からの熱烈なスカウト。俺は一度リアンシェルトへと目をやり、小さくお手上げポーズをして、「俺が何をすれば、俺や騎士たちの罪を軽くしてもらえるんですか?」と訊ねる。

『ただ、次元世界の平和の為、秩序の為、管理局の正義・正道・正善の為、その力を奮ってもらいたいだけだ』

こうして脅しをかけて来ておいてどの口が言う。雰囲気からしてガアプ一佐ともう1人の、おそらく会ったことのある男の一佐は純粋に俺をスカウトしたいと思っている。下に就くならあの2人のどちらか――出来ればガアプ一佐だな。
少年は俺を実験動物扱い、レジアス中将は反対っぽいな、視線が物語っている。さすが正義の塊。犯罪者は受け付けないか。そしてこの世界でも行き過ぎた正義感で自滅か?
最高評議会の3人は顔の見えないエンブレムであるため感情は目に見えないが、声色から伝わって来る。俺を支配下に置いて便利屋としてこき使いたい。大将や男少将は最高評議会寄り、女少将と女中将はガアプ一佐寄り。どうやらリアンシェルトを除く女性陣は味方として見ていいようだ。

「まぁいいでしょう。どうぞ俺の力を管理局と次元世界の為に役立てて下さい。その代わり条件があります」

『条件だと? 犯罪者であるお前にそんな権利があるわけがないだろう・・・!』

『待て、レジアス。・・・聴こうではないか。君の望む条件とはなんだ?』

「1つ。夜天の主・八神はやてと守護騎士ら八神家を罪に問わない事。
2つ。八神家が闇の書の関係者であったという事実を時空管理局・次元世界全てに公表しない事。
3つ。管理局に入った彼女たちを犯罪者扱いせずに、管理局に務める同士として接する事。
4つ。今回の一件で協力してくれた少女たちをあなた方の都合がいいように操らない事。
5つ。俺がテスタメントだという事実を時空管理局・次元世界・俺の関係者全てに漏らさない事。
6つ。テスタメントとして手に入れたロストロギア・ジュエルシードの所持を認める事。
以上です。これらを確約していただければあなた方の駒とも・・・犬ともなりましょう。武装隊や捜査部・執務部・古代遺失物管理部での荒事はもちろん、習得できる可能性は低いですが局員への魔法提供、なんでも受けましょう。あー、あと暗殺などでもいいですよ? 相手が法で裁けず、金や権力で逃れるクズどもなら喜んで」

男の一佐の正体がなんだったのか思い至ったことで、その一佐に視線を向けつつ最後にそう付け加える。するとその一佐が『俺がどうかしたかい?』俺の視線に気付いてそう訊いてきた。

「時空管理局本局・第1111航空隊の隊長、コードネームはオヴェロン、階級は一等空佐。デスペラードパーティの閉会式にて蒐集行為を邪魔されたことは憶えています。もちろん・・・あなたの声も」

あのフルフェイスヘルメットにライダースーツのようなバリアジャケットで統一された怪しすぎる部隊。その隊長の声と、あの男の一佐の声が同一であることに気付いた。

『・・・正解だ。久しぶりだな。ロッキー・サブナック一等空佐だ。しかし、俺と暗殺がどう結び付くんだ?』

「管理局がデスペラードパーティに参加した犯罪者を検挙。しかしその直前に参加者の大半が争って死亡者が多数出た、と。死亡者の大半は殺されても自業自得で済むような後ろ暗い連中ばかり。アレ、あなたとその部隊が暗殺したんでしょう?」

パーティからの帰宅後に犯罪者たちのその後が気になって調べて判明した事実。そんなことが出来るのは怪しげな共通バリアジャケットを着込んでいた第1111部隊だけだ。サブナック一佐がお手上げと言うように肩を竦める。
そして最高評議会の1人から『その通りだ。法では裁けない悪を、サブナック一佐の率いる第1111航空隊が裁いたのだ』という言質を取ることが出来た。暗殺を行う部隊というくらいだ。非公式な部隊だろう。それを先ほど提示した条件を呑ませるカードの1つとしよう。

「正義の管理局が暗殺部隊を有している。結構なスキャンダルですよね? お互いに知られて欲しくない話を持っています」

『本当にこのような犯罪者を招き入れるのか? すでに反逆の意思を有している。危険だ。やはり懲役刑に処した方がいいのでは?』

「それは、こちらが約束を違えた場合じゃないですかゲイズ中将。そうよね? セインテスト君」

「もちろんですよ、ガアプ一佐。約束は大切なものです。そちらが約束を守り続けてくれる限り、従いましょう。尻尾の代わりにこの後ろ髪を振りましょうか?」

俺のこの言葉で決着したということが空気で判った。リアンシェルトが「では、ルシリオン・セインテストを権威の円卓付の管理局員として入局させるということでよろしいですか?」と告げると、最高評議会の1人を除く全員が、異議なし、と一斉に応じた。

「デュランゴ議長」

唯一黙っていた1人、デュランゴ議長がリアンシェルトに名を呼ばれ、『ふむ。・・・各々、未来の同志に敬礼を』と命じると、エンブレムである最高評議会を除く全員が俺へと向かって敬礼をした。

『本局・戦技教導隊長官、ヴァーカー・ホドリゲス大将だ』

『本局・情報部長官、イレアナ・コスンツァーナ少将です』

『本局・捜査部長官、ビディ・アーリー中将よ』

『本局・武装隊長官、リチャード・フォーカス少将だ』

『改めて、本局・第1111航空隊隊長、ロッキー・サブナック一等空佐だ』

「私も改めて。本局・捜査部:特別技能捜査課課長、クー・ガアプ一等陸佐です」

『・・・ミッドチルダ地上本部司令、レジアス・ゲイズ中将だ』

「正確には円卓の一員ではないですが一応。本局・運用部総部長、リアンシェルト・キオン・ヴァスィリーサ准将」

階級もそうだがその役職もまたとんでもない。戦技教導隊・情報部・捜査部・武装隊・運用部・暗部・固有スキルや一芸魔法を扱う集団、それらのトップ、そして最高評議会か。で、一般人らしい少年と青年は、いったいどちら様なんだ?

『俺は・・・そうだな、トリックスターと呼べ。俺の名前は有名だからな。知って腰を抜かしてもらっても迷惑だ』

どうでもいいわ、お前のことなんぞ。直感が告げて来る。自称トリックスターとは永遠に気が合うことはない、と。次に青年が『エーアストです』と静かに名乗った。ベルカ語で最初(エーアスト)、か。真名ならいいんだが。コードネームだとすれば・・・、少し引っ掛かりを覚える。

『では、ルシリオン・セインテストと八神家の今後についてはリアンシェルト、運用部総部長のお前に任せる』

「了解です、デュランゴ議長。そういうわけでしばらくお付き合いすることになります。よろしく、ルシリオン・セインテスト君」

「っ、・・・あ、ああ、よろしく頼む」

こうして俺や八神家の命運は、“堕天使エグリゴリ”のリアンシェルトに委ねられることになった。権威の円卓が閉会され、俺はガアプ一佐やリアンシェルトと共に部屋を出る。

「・・・ごめんなさいね、セインテスト君。こんな形で・・・」

正直、今さらなガアプ一佐からの謝罪だが、「構いません。はやて達を守れるのなら」と気にしないように言っておく。ガアプ一佐は優しいな。目を見れば判る。本当に俺を案じている。が、権威の円卓の一部のメンバーを除いた数人は俺を利用するつもりだ。
だが、一方的に利用されてやるつもりはない。そう、俺が管理局を利用してやる。先の条件提示において八神家やなのはたち協力者云々を真っ先に出したのは、俺の目的が自分を守ることではなく、あくまで八神家やなのは達――他者を守ることである、と印象付けの為。そうすることで、俺への脅しは効力を発揮し、俺からの条件を守ることで俺をいつまででも支配できると連中に思わせる。

(しかし残念。手の平で踊るのはお前たちだ、円卓の一部のメンバーども)

俺の掲げる目的は2つ。1つははやて達を守ること。俺が従うフリをしている限りははやて達の安全は保障されるはずだ。本来はここまでするつもりはなかったが、本局の将校で管理局の運営の大半を司る運用部のトップがリアンシェルトということが判明した以上は手は抜けない。
2つ目は管理局に入って、労せず“エグリゴリ”の情報を手に入れること。対電子戦用術式ステガノグラフィアで一々クラックして情報を得るなどという罪を重ね続けて逃亡生活をするより、局に勤めた方が何かと便利だ。

(今回の一件で管理局従事処分になるのは判っていたしな。それを利用すればそう怪しまれずに入局できるというわけだ)

8歳で入局志望などしたら怪しまれるだろうからな。権威の円卓からの強引なスカウトは少々予定外だったが、幸運なことだと思う。複数の部署のトップ達とのコネが出来たと思えばな。さらに暗部にも通じている連中だ。表側だけでなく次元世界の裏の情報も手に入れやすくなるはず。
まぁ、多少は無茶な指示を出されて不自由するかもしれないが、とにかく“エグリゴリ”の情報を得るには我慢するしかない。それに円卓はどうせJS事件によって崩壊するだろう。それまではやて達を守りきれれば俺の独り勝ちだ。

(その頃にははやて達も観察処分を終えていて、自由の身だ。俺が局から消えても大丈夫だろう)

JS事件解決後までに“エグリゴリ”の所在を掴みさえすれば局に用はない。はやて達もその頃はもう大人だ。俺が見守ることもないだろう。そうこれからの俺の未来設計を想像していると、「ふふふ♪」ガアプ一佐は何が可笑しいのか笑みを浮かべた。

「さすが男の子ね♪ 大切な女の子、家族の為に頑張って・・・」

そして頭を撫でられた。完全に子ども扱い・・・、見た目が子供だから仕方がないが。そんなガアプ一佐も「私はこれで失礼するわね。ではまた。リアンシェルト総部長」そう言って俺たちと別れた。

「・・・さて。リアンシェルト。ようやく2人きりになれたな」

「・・・そうですね、神器王」

階下へ降りるためにエレベーターホールを目指す中、俺は意を決し声を掛けた。前を歩くリアンシェルトは振り返ることなく俺を二つ名で呼んだ。プツリと途切れる会話。俺は続けて「何が目的だ?」と問う。しかし返って来るのは無言。さらに「なぜ管理局に、しかも准将になるまで居るんだ?」と問いかけるものの、返って来るのはやはり無言。

「フェヨルツェンとレーゼフェアはどこに居る?」

次に救う目標としている2機の名前を言う。まずはこの2機を救い、そしてシュヴァリエル、次に目の前のリアンシェルト、最後にガーデンベルグ。これがセオリーだろう。リアンシェルトは「さぁ。どこでしょう?」返事はくれたが答えではなかった。

「お前たちエグリゴリは何を企んでいる。俺を、現代に必要なき異物(アンスール)である俺を殺したいのだろ? なら今すぐにでも殺せるじゃないか。何故そうしない?」

「・・・・」

「っ・・・。聴いているのか、リアンシェ――」

「怖いのですか?」

「なに・・・?」

「私がそんなに怖いのですか? 私の記録では、神器王、あなたはそのように敵対者に対して息巻くような人間ではないようでしたが」

「俺・・・この私が、お前を怖れているだと?・・・そんな馬鹿なことが・・・!」

早鐘を打つ心臓。脂汗で背中に引っ付くシャツが気持ち悪い。そんな中で「図星ですか」心臓が止まるかと思ってしまうほどに冷めた声が俺の耳朶に響いた。違う。そう反論しようにも、実際に図星だったために声を出すことが出来なかった。今の俺では天地がひっくり返っても勝てない。その事実が俺を委縮させる。

「実に哀れで、惨めで、呆れ果てるザマです。・・・先程の質問に答えましょう。なぜ私が今あなたを討たないか。単純明快です。私には、弱い者いじめをする趣味はない、というだけです」

「あ?」

今、聞き捨てならないことを言われた気がした。

「バンヘルド、グランフェリア程度の機体に辛勝するような実力である現在のあなたなど、手を振るうだけで勝てます。全盛期の半分にすら至っていない最弱状態のあなたと戦うとなれば、それは正しく弱い者いじめ。ですから私は戦いません。私と戦いたければ、レーゼフェア、フィヨルツェン、シュヴァリエルを討ってください。ガーデンベルグの居場所は、万が一にも私に敗北を認めさせた際に教えましょう」

ここまでコケにされて黙っていられるほど・・・俺は・・・!

「リアンシェルトぉぉぉーーーーッッ!!」

一足飛びでリアンシェルトへと突進。魔力炉(システム)の稼働率を上げて魔力に神秘を付加、魔術師化する。勝てないのは百も承知だ。だが、こんな生き恥を晒している俺にもちっぽけながらプライドというものがあるんだ。リアンシェルトがゆっくりと俺へと振り返った・・・。

「???・・・なんなんだ、お前のその――・・・・顔は!?・・・ん?」

伸ばした手が空を切る。目の前に居るはずのリアンシェルトは居らず、そもそも今の俺はベッドの横になっている状態。体を起こし辺りを見回す。判ったのは造りからして本局の寮の一室で、誰かのプライベートルームであるということ。
体を起こしどうしてこんな状態になってしまったのかを考えるも、「ダメだ、判らない・・・」リアンシェルトに飛び掛かった時点からいきなりこの状態に変わったということしか判らない。とにかく現状を知らなければ。ベッドから降りようとしたその時。

「目を覚ましましたか、神器王」

「リアンシェルト・・・!?」

制服の上着を脱いでブラウス姿のリアンシェルトが姿を現した。ということは、ここはお前の部屋か。慌ててベッドから降りて、「っ!?」足に力が入らずへたり込んでしまう。

「俺に何をした・・・!?」

「解らないのですか? それならやはりあなたはそれまでの強さということですね。さ、目を覚ましたのなら帰ってください」

「はあ!? お前が連れて来たのだろうが! というか、俺に何をした!?」

何とか両足に力を入れて立ち上る。リアンシェルトは溜息を吐いた後、俺の身に起きたことを語った。俺がリアンシェルトに飛び掛かったその時、コイツは俺を凍結封印したのだ。そして氷像となった俺を自分の部屋に運んで解凍作業、それもたった今終わったらしい。
俺の心のうちに渦巻いていた怒りが全て吹っ飛び、それ以上の絶望が生まれた。解ってはいたんだ。今の俺では勝てないと。だからと言ってここまでの差があるのか? 魔力放出・術式発動を察知できず、凍結封印されたことにも言われるまで気が付かなかった。

「(氷像だった時に砕けば俺を殺せた。何故そうしなかったのか。答えはすでに聴いていた)・・・弱い者イジメはしない主義だったか・・・」

「・・・ええ、そういうことです。もし凍結封印を防いだり躱したり出来、封印を自力で解けた場合は、と思っていましたが・・・失格です。私の手に掛かって死ぬ価値があなたにありません。私以下の三機の手に掛かって死んでください」

リアンシェルトが、どうぞお帰り下さい、というポーズをしたため、俺はフラフラと出入り口へと向かう。そんな中、「八神家の今後の処遇は部下の、円卓の息に掛かっていないレティ・ロウランに任せますのでご安心を」そう聞かされた。

「嬉しい配慮、ああ、心の底から感謝します、リアンシェルト准将・・・!」

俺はそう言い放ち、「ハラオウン執務官に連絡を入れておきました。トランスポーターホールで合流してください」と言うリアンシェルトの言葉を背に聴きながら彼女の私室を後にした。
寮区画の階からトランスポーターホールのある階へと向かうためにエレベーターへと乗ったところで「というか、いま何時だ?」ふとそう思った。本局は24時間稼働している。区画によっては時間を区別するために、地上と同じように夜を疑似再現する場所もあるが、いま居る場所では朝か夜か判別がつかない。だから携帯電話の時計を見て・・・愕然とした。

「25日の午後1時!?」

えっと、事件は終結したのは24日の午後8時。本局に着いたのは確か午後11時半。12時間以上滞在していたことになる。先程までの鬱が消し飛び、冷や汗が流れ始める。フラフラなのは変わりないが、それでも足に力を籠めて走る。
そしてトランスポーターホールに辿り着き、ホールと廊下を隔てるスライドドアの脇に佇む「クロノ!」の名を呼ぶ。クロノが「大丈夫だったか、ルシリオン!」駆け寄って来てくれた。

「心配したぞ。昨晩いきなりキオン・ヴァスィリーサ准将から君を預かる、と言われてな。牢に入れられたんじゃないかって」

「ある意味、牢だったよ」

リアンシェルトの私室然り凍結封印然り。ま、とにかく「問題ないよ。さぁ、帰ろう、クロノ。疲れたよ」クロノの背中をポンと叩いて先に促す。早くはやて達の顔を見、声を聴き、癒されたい。

「そうだな。僕はアースラに戻るが」

「あー、そうか。じゃあ途中までよろしく頼むよ」

クロノと2人して疲弊しきった顔でトランスポーターに入り、中継点を跨いで一度アースラへと戻り、そこで無事に戻ったことをリンディさんに報告をし、そこから海鳴の街へと1人で帰った。ちなみにシャルは地上に降りたままとのことだった。

「・・・リンディさんの話じゃ、なのは達の局入りはご家族に受け入れてもらえたようだし・・・」

海鳴臨海公園へと降り立ち、なのは達の局入りをひとり祝う。先の次元世界とは違ってアリサとすずかも居る。先以上に慌ただしい未来になるだろう。と、今さらになって緊張が解けたのかガクッと全身から力が抜けて倒れ込みそうになった。が、なんとか柵にもたれ掛ることで回避。

――ルシル君♪――

はやて・・・。

――ルシリオン――

シグナム・・・。

――ルシル――

ヴィータ・・・。

――ルシリオン――

ザフィーラ・・・。

――ルシル君――

シャマル・・・。

――ルシル――

リインフォース・・・。

「逢いたいなぁ、すぐにでも」

一刻も早くはやて達に逢いたいと強く思う。柵から体を離して歩き出す。最初はトボトボだった歩調も、テクテク、スタスタ、最後にはダッシュへと変わった。あの家に帰れる。そう思うだけで気力が湧いてくる。

「っと、そうだ。まずは帰って来たことを連絡しておかないと」

あと少しで家に着くというところで連絡し忘れていたことに気付き、はやての携帯電話に電話を掛ける。2コールで繋がり、『ルシル君!』耳鳴りを起こしそうな大声ではやてに名を呼ばれた。

「おおう・・・、はやて、ただいま。いま帰ってきたよ」

『うん、うん! おかえり、ルシル君! 今どこに居るん? クロノ君からルシル君が帰れへんくなったって連絡貰った時、わたし・・・ホンマに心配で、不安で・・・!』

涙声と嗚咽が混じり始めたことで、「大丈夫だよ。俺は大丈夫だ。今は家路の途中だから。あと少しで帰るから。待っていてくれ」とはやてを安心させたくてそう返す。少しの間、鼻を啜る音や嗚咽が漏れ聞こえていた。それが治まった頃、『あ、今な、石田先生が家に来――』というところでプツッと電話が切れた。

「はやて?・・・バッテリー切れか」

雷撃系魔力の電圧を調整して充電も出来るが、家はもうすぐだ。それに、「石田先生がいらしているんだな」着くまでに知っておかなければならない情報は手に入れたからやめておく。
人気のない路地に入り、石田先生用の俺――少女ルシルへと変身。なんと言うかもう恥とか麻痺してきたな。シャツにパンツ、ダッフルコートという格好から、黒のロングワンピース、ファーを襟や袖口にあしらった白のケープコート、甲にリボンをあしらった赤いローファー。髪型は適当にサイドアップでいいか。

「準備万端っと。危なかったな。男のままで帰ったら何を言われるか・・・」

声も魔術で少女のものへと変更。あとは口調だが、その辺りは素のままでもあまり問題ないため意識しなくてもいい。さて。八神宅へとようやく帰って来られた俺は、玄関扉のノブに手を掛け、「ただいまー!」元気よく挨拶しながら扉を開けた。

「「「「「「・・・・・・ん?」」」」」」

「・・・・Oh, my God」

なんと玄関には、なのは、アリサ、すずか、シャル、フェイト、アリシアが居ましたとさ。


 
 

 
後書き
ヒューヴェーフォメンタ。ヒューヴェーパィヴェ。ヒューヴェーイルテ。
今話は全編を通してルシルと権威の円卓にスポットを当てる事になりました。それもこれも後のSTRIKERS編であるエピソードⅣのため。これでルシルの今後を確定させることが出来ました。
それとリアンシェルトの実力を僅かばかり出しました。今のルシルではジュエルシードの恩恵が有ったとしても瞬殺されてしまうほどに強いです。頑張れ、お父さん。で、最後の最後で哀れな事に。頑張れ、男の子。


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧