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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos28夜天に願いを・祝福の風を継ぐ者へ~From Me to You~

†††Sideはやて†††

「――メリークリスマ~~ス!」

すずかちゃんのお姉さん、忍さんがワイングラスを掲げて挨拶したのに続いてわたしらも「メリークリスマ~ス♪」ジュースが注がれたコップを掲げた。
わたしら八神家は今、すずかちゃんの家で開催されてるクリスマスパーティに出席中や。忍さんの挨拶が終わると同時に「はやて、はやて。なんか料理持ってこようか?」八神家の末っ子ってゆう位置づけのヴィータが、わたしの分の取り皿を手にそう訊いてきた。わたしはこのホールって言うてもおかしない広い部屋に点在してる丸テーブルの幾つかを見回す。

(う~ん、どれも高級なホテルや旅館レベルの料理ばかりや。全部食べたいしレシピも知りたい。食べればある程度は判るけど、全部を食べれるほどわたしは大食いやないし、女の子としてお腹パンパンにしたないし・・・)

うんうん悩みながらキョロキョロしてると、「どうしました、主はやて?」って訊いてきたんはわたしの車椅子を押す係を買って出たリインフォース。リインフォースもまた料理が出来るし、たぶんわたしと同じ思いを抱いてるはず。
そしてもう1人、シャマルやけど・・・「うわぁ、うわぁ、どれも美味しそうですね❤」わたし以上にキョロキョロしてて。すでに自分が食べたいものをロックオンしてそうや。でも、そうやんな、やっぱり自分が食べたいものを優先したいもんなぁ。

(最後は・・・)

チラッと見るんは、ここに来るまでにちょう悲しい目に遭ってしもうたルシル君。遡ること数時間前。すずかちゃん達が管理局に務めることへの許可を家族の人たちから貰うために、これまでの魔法関係で起きたことを話すって聴いたとき、わたしも石田先生に話すことを決意した。そやからルシル君が帰ってくるまで待とうとしたんやけど、クロノ君から、ルシル君が帰れへんって連絡を貰った。

(そん時のわたしの狼狽えっぷりは思い返すと恥ずかしくなるレベルやったなぁ・・・)

ちょう話が逸れるけど・・・。わたしは石田先生を自宅に招いて、魔法やルシル君、リインフォース達のこと、わたしの下半身麻痺の原因が魔法の所為であったこと(リインフォースら闇の書が原因とは伝えへんかった)、その麻痺の原因も家族や友達のおかげで取り除けて、時間が経てば全快すること、そんで・・・魔法使いとして目覚めたわたしは、わたしの命を脅かし、でも救ってくれた魔法で、同じように困ってる人を助けたいってことを伝えた。

(最初はやっぱり反対されてしもうたなぁ)

――はやてちゃんの意志は尊重したいと思います。でも、やっぱり危険なことをしてほしくないって思うの。私たちは主治医と患者っていう関係だけど、それでも・・・それ以上にはやてちゃんのことを大切に思っているから――

そこまで想ってくれてたことはホンマに嬉しかった。そやけどわたしは、リインフォースらも一緒に石田先生を説得した、この魔法の力を無駄にしたないから。結構な時間平行線やったけど、わたしが全っ然折れへんかったからか石田先生が先に折れた。わたしらがちょう悪いことしてもうた償いで働くことになった、って言えばすぐに済みそうやったけど。

(やっぱルシル君やリインフォース達のことを石田先生に悪く思われるんも嫌やし)

石田先生をなんとか説得することに成功したその直後、ルシル君から連絡があった。

◦―◦―◦回想や♪◦―◦―◦

『はやて、ただいま。いま帰ってきたよ』

昨夜、クロノ君やリンディさんに訊いてもちゃんとした理由が返ってきいひんかったルシル君の拘束。もしかして今晩のクリスマスパーティだけやなくて、もうこの家に帰って来れへんかも、って思うてた。
そやけど、ルシル君が約束通りちゃんと帰って来てくれた、それだけで胸いっぱいに広がる安堵感。堪らず泣いてしもうたけど、ルシル君が優しく声を掛け続けてくれたおかげで泣き止むことが出来た。

『大丈夫だよ。俺は大丈夫だ。今は家路の途中だから。あと少しで帰るから。待っていてくれ』

ハッとする。石田先生はルシル君のことを女の子って思ってるから、男の子状態のルシル君を見て驚くかもしれへん。とゆうか、さっきわたし、ルシル君、って思いっきり君付けしてもうた。連絡が来るまではちゃん付けしてたんやけど。怪しまれてへんかな・・・?

(大丈夫そうやな・・・、ほっ)

でも・・・魔法のことは伝えたし、ザフィーラの狼形態から人形態への変身ですでに悲鳴を上げるほど驚いてたから大丈夫かもしれへん、なんて思いも過ぎる。それにもう、男の子のルシル君と女の子のわたしの二人暮らしは、リインフォースらが一緒に生活し始めたことで終わったから、ホンマは男の子や、ってことを今なら伝えてもええとも思う。

「(それについてはルシル君と要相談やな)あ、今な、石田先生が家に来てるんよ・・・、ん? ルシルく――ちゃん・・・ルシルちゃん?」

いきなりプツンと切れた電話。掛け直すと、お客さまがお掛けになった――、ってゆうのが流れた。わたしやなくてルシル君側になんかの問題が起きてしまったようや。そやけど石田先生が来てるってゆうことは伝わったはず。
それから石田先生と今後の生活について相談し合ってると、ピンポーンって呼び鈴が鳴らされた。ルシル君は鳴らさへんからお客さまやな。わたしが応対するために動こうとした時、「あ、私が出ますから」シャマルがそう言うて、「はーい、どちら様ですかー?」って玄関に向かった。

「あら、すずかちゃん達、いらっしゃい♪」

「「「「「「おじゃましまーす!」」」」」」

お客さまはどうやらすずかちゃん達のようや。シャマルが「さ、どうぞ、上がって」ってすずかちゃん達を招き入れようとしたところで「ただいまー!」いま聞こえたらアカン声が玄関から聞こえてしもうた。
廊下とここリビングダイニングの敷居に居るシャマルと、ソファに座ってるわたしら八神家はカチーンと硬直。石田先生だけは状況が読み込めんくて小首を傾げてる。ルシル君、女装することがあんまり好きやないのに、それをすずかちゃん達に見られたとなると、とんでもない精神ダメージなはず。

「ルシル君・・・?」

「え、うそ、ルシルなの?」

「だって、銀髪にオッドアイだし」

「でも声が完全に――え、念話・・・!?」

聞き耳を立ててるとルシル君がすずかちゃん達に念話を通したらしいことが判った。そんで、そのすぐあとに「可愛いーーー!」黄色い歓声が聞こえた。シャマルの微妙な表情から今のルシル君の状況が目に浮かぶ。

「た、ただいま・・・、みんな・・・。い、いらっしゃい、石田先生・・・」

わたしらの前に現れたゲッソリしてるルシル君。アリサちゃんとシャルちゃんに頭を撫でられ、すずかちゃんとなのはちゃんに「髪きれー♪」って触れられてて、アリシアちゃんに至っては「中はどうなってんの?」ってスカートを捲ろうとしたから、「ダメだよ、アリシア!」フェイトちゃんに窘められてた。酷いカオス状態やった。
それからすずかちゃん達を交えて石田先生と話をして、結局わたしとルシル君は石田先生に、ルシル君が男の子、ってゆうのを隠しておくことになった。ちなみにわたしらの保護者役ゼフィさんのことは全部話した。子供の2人暮らしを認めてもらうためにルシル君が変身した姿やって。ちょう怒られたけど、なんとか許してもらえた。

◦―◦―◦終わりや◦―◦―◦

石田先生が夜勤とゆうことで病院に帰までの間ずっとルシル君は女の子してた。そう、すずかちゃん達の目の前でずっと。そやから今も・・・。

「ルシルちゃーん」

「ねえねえ、ルシルちゃん」

「ルーちゃんってホント~~~に女の子っぽいよね? というか実は女の子?」

「・・・・くっ」

「も、もうやめなよ、アリサちゃん」

「シャルちゃんもだよ。確かに可愛いけど、ルシル君は男の子なんだよ」

「アリシアも、メッ、だよ。たとえ本当のことでも言っちゃいけないって時もあるんだから。ごめんね、ルシル」

「なぁ、フェイト。それフォローじゃ・・・」

アリサちゃんやシャルちゃん、アリシアちゃんからは未だに女の子扱い・・・とゆうかいじられてる始末。それを窘めるのがすずかちゃんとなのはちゃんとフェイトちゃん。それとなフェイトちゃん。アルフさん(途中で合流したんよ)の言う通り今のはフォローとしては不十分やよ?

「イジメか、こんちくしょぉぉぉーーーー! 見ろ、今の俺の格好を! パーティらしくスラックスにシャツ、あとネクタイ! 君たちと同じように月村家に用意された礼服だ!」

うがーっと吼えたルシル君の言う通り今のわたしら全員礼服姿や。すずかちゃん家に着いてすぐ、メイドのノエルさんとファリンがわたしら女の子にはドレスを見繕ってくれた。リインフォースもシグナムもシャマルも綺麗やし、ヴィータは可愛ええし、ザフィーラは窮屈そうやけどルシル君と同じで格好ええ。

「ヴィータと同じやつでええよ。その代わり、ちゃんと野菜も取って来てほしいな。みんなも自分が食べたいものを食べておいで。リインフォースもわたしのことはええから行ってきて。少しの間散開や」

「あ、うん。善処する。ザフィーラ、ちょっと手を貸せ」

「はい。では、いってきます」

「いってきま~す♪」

「それでは行ってまいります」

それぞれ自分が食べたいもののあるテーブルへと向かうみんなを見送った後、「シャルちゃん、ちょーっとええか?」不機嫌指数がちょう危ないレベルに達しそう(もう超えた?)なルシル君たちの元へ。
ルシル君やなくてシャルちゃんの名前を呼んだのは、この中で真っ先にルシル君をイジるんがシャルちゃんで、そんで個人的にお願いしたいことがあるからや。アリサちゃんとアリシアちゃんがルシル君の後ろ髪を解いて遊び始めた中、「どったの?」って答えてくれたシャルちゃん。

「ちょう暗くなりそうな話やから、出来ればシャルちゃんにだけ話したいんやけど」

「ちょい待ち。わたしならこの幸せいっぱい空間から暗い空気に落とされてもいいってこと?」

「ん? そうなるな~」

「良い度胸じゃない、はやて?」

「そうでもあらへんよ♪」

シャルちゃんは初めて会った時からルシル君に色々としてるからな。ちょっとした仕返し(イジワル)を込めてるんよ。わたしの笑顔からしてそれに気付いたらしいシャルちゃんは「へーい。その暗さを晴らしてあげるよ、わたしがね♪」ってジト目から笑顔になった。

「待って。はやてちゃん、私たちもご一緒して良いかな?」

「本当に聴かれたくない話だったら離れるけど・・・」

なのはちゃんとすずかちゃんが遠慮がちにそう言うてきた。いつかは必ず知られることやけど、それを今、この楽しい時に話していいんかどうかとなると悩む。そやから「ホンマに落ち込むかもしれへんよ?」って確認。

「はやて。友達はね、色んなことを分かち合うんだよ。嬉しいことや楽しいことを分かち合うことで何倍にもして、悲しいことや辛いことは半分に、さらに半分になるんだよ」

「フェイトちゃん・・・、ええこと言うなぁ」

「えへへ。なのは達の受け売りなんだよ。この言葉は私に友達の素晴らしさを教えてくれたんだ」

フェイトちゃんがすずかちゃん達に笑顔を向けると、すずかちゃん達も照れくさそうに笑顔を浮かべた。

「だからね。暗い話、落ち込む話っていうことは、それははやてにとってもそうだと思うんだ。なら、それを私たちにも分けて」

わたしの手を取ったフェイトちゃん。するとすずかちゃん、なのはちゃん、アリサちゃん、アリシアちゃん、「わたしも友達~」最後にシャルちゃんがわたしらの手の甲に手を乗せた。みんながわたしに笑顔を向けてくれる。

「ちょっと、ルシルも手を乗せないよ」

「え、俺もか?」

「もちろんだよ。ほら、ルシル君も」

アリサちゃんとなのはちゃんにそう言われたルシル君もわたしらの手の甲の上に手を添えた。

「(友達なら、か)・・・じ、じゃあ話すな・・。あんな――」

そこまで想ってくれたことに報いるために話すことにした。リインフォースの寿命があと半年しかないことを。わたしやシグナム達を守るために自分の命を削ったこと、直すことも出来ひんからもう死を覆すことも出来ひんことも。すずかちゃん達が驚きで絶句してる中、「そうなのだ。だからお前に頼みがある」黒いドレスを纏ったリインフォースが戻って来た。みんなが悲しそうな、辛そうな表情を浮かべる。

「そのような顔をしないでくれ。これで良かったのだ。愛する主と騎士たちの未来を救える。私は居なくてなってしまうが、後悔はない。それでだ、シャルロッテ。先ほどの頼みという話になってくる」

リインフォースから引き継ぐように「リインフォースの後継を生みたいって思うんよ」わたしがシャルちゃんにそう言うと、「・・・あ、あー、うん、なるほど」わたしの言いたいことを察してくれたみたい。

「夜天の書の起源はベルカ。そして融合騎もベルカの技術が使われてる。だからベルカ人のわたしを頼ったってことよね?」

「ああ。主はやてのデバイスである私が居なくなれば、主はやての魔導師としての力は半減するだろう。それまでに私の後継騎が必要なのだ」

うんうんって頷く。リインフォースらの生まれ故郷ベルカ。シャルちゃんがわたしの家で教えてくれた話によると、シャルちゃんの実家はベルカの数ある王家の中でも特にすごいゼーゲブレヒトに仕えてた家柄とのこと。そのゼーゲブレヒトの王さま――聖王を祀る聖王教会設立に携わった一族の1つで、その権力は絶大。そんで、ベルカ人の大半を管理下に置いてるって話や。

「融合騎に詳しい技術者かぁ。う~ん、さすがにタダとはいかないかもよ?」

心当たりはあるみたいやけど、そう簡単にはいかなさそうや。それでもわたしは「お金は無いけど、必ず払うから・・・出世払いで!」このチャンスを逃したないから、その人を紹介してもらえるようシャルちゃんに懇願する。

「ううん。友達(はやて)の頼みだもん。紹介料は格安にするよ♪」

「「「「ん?」」」」

「紹介料?」

「技術者への依頼料じゃなくて・・・?」

シャルちゃんの口から聴き間違いであってほしい単語で出て来た気がする。シャルちゃんはピョンっと小さくジャンプしてルシル君の側に寄った。そんで「ルシルを一週間レンタルさせてくれたら紹介してあげるよ♪」ルシル君の右腕に抱きついた。わたしとリインフォースは顔を見合わせてから「はぁぁぁ・・・」溜息を吐く。

「主はやて。仕様がありません」

「そうやな。別の人に頼もか。ルシル君、行こ」

リインフォースが持ってる取り皿をわたしが受け取ると、リインフォースが「シャルロッテ。今の話は無かったことにしてもらう。ゆえにルシルを離してもらおう」って言うて髪型が三つ編みになったルシル君とシャルちゃんを引き放した。

「うえっ!?」

「シャル、あんたの今のは冗談だとしても・・・」

「最低発言だよ、シャル」

断られるとは思ってへんかったらしいシャルちゃんが驚きを見せてると、さらに追い打ちを掛けるようにアリサちゃんとフェイトちゃんから非難の声が。そんな2人に同意するようにすずかちゃん達も頷いてる。この瞬間、「調子に乗ってごめんなさーーい!」シャルちゃんの心がへし折れてしもうた。

「――じゃあ、僕が紹介してあげようか?」

本気で泣いてしもうてるシャルちゃんをどうあやそうかとあたふたしてる時に聞こえてきた声。声の出所へと振り向くと、ルシル君とザフィーラみたく礼服姿の「ユーノ君!」が居った。その隣にはノエルさんが居って、「恭也様とユーノ・スクライア様がご到着しました」って知らせた。
恭也さんは一度こちらに向かって笑顔で会釈してくれた後、恋人やってゆう忍さんの元へ。そんでユーノ君は「ごめん、遅くなった」ノエルさんから取り皿を受け取ったユーノ君がわたしらの元へやって来た。

「ユーノ君。その、大丈夫だった? お仕事のこと」

「あ、うん。セレネとエオスがちょっとごねてたけどね」

ユーノ君はミッドチルダにある学校で非常勤講師をしてるらしくて、そやけど管理局に本格的に務めるために辞めることをお願いしに行ったんや。もしかしたらこのパーティに出られへんかもってアースラで言うてたけど、よかった、間に合って。

「はやて、リインフォース。僕が臨時で務めてた学校って聖王教会系列のミッションスクールなんだ。そこで、シャル、君と懇意にしているシスターと知り合いになったんだけど?」

ユーノ君がそこまで言うたらシャルちゃんがピタッて泣き止んで、「ど、どちら様かなぁ~、そのシスターさん?」冷や汗をダラダラ流し始めた。どうやらシャルちゃんにも苦手な人がおるみたいやな。

「シスターシャッハ――」

「なんだ、シャッハか・・・。ホッ」

「それと、シスターブラダマンテ」

「っ!! はやて、リインフォース! わたしが責任を以って紹介するから安心してね! さ、さ、早速連絡を・・・!」

焦りと恐怖で顔を歪ませたシャルちゃんがバタバタと慌ただしくテラスへと向かって行った。あまりの態度変化にわたしらは全員呆けてしまってた。そんな中で「シスターブラダマンテって恐い女性なのか?」ってルシル君が近くのテーブルに有ったジュースを注いだ未使用のコップをユーノ君に手渡しながらそう訊いた。

「ありがとう、ルシル。厳しくはあるけどそれは優しさからだと思うよ。あ、でも、実力は聖王教会の中でも指折りだって聞いてる。なんだっけ、なんとかパラディン・・・、シュベーアトパラディンって言ってたような・・・」

「パラディン・・・?」

「うん。聖王教会の戦力、教会騎士の中で、各分野で最強の騎士に与えられる称号らしい。剣で最強がシュベーアトパラディン、槍で最強がシュペーアパラディンだとか」

「あー、そう言えばシャルやフェイト達との戦いのときに横槍を入れてきたな。アルテルミナス・マルスヴァローグ。確か――」

「ファオストパラディンだよ」

ルシル君の話を遮るように言うたんは戻って来たシャルちゃん。リインフォースが「連絡はついたのか?」って訊いた。

「もちろん♪ 融合騎の知識に関しては一番じゃないかな。元イリュリア国の家系だし」

「イリュリアだと!?」

リインフォースが突然大声を上げたかと思えば、「一体何の話をしてた?」自分とわたしの取り皿を持ったヴィータがちょう怒りを灯した瞳をわたしら、正確にはシャルちゃんに向けてた。
見ればシグナムとシャマル、ヴィータの後ろに控えてるザフィーラも若干やけど心地の悪さを感じてる。イリュリア。その国の名前が出た途端に。リインフォース達にとってイリュリアって一体なんなんやろう。

†††Sideはやて⇒リインフォース†††

シャルロッテの口から出た、イリュリア、という私たちと因縁のある名前。それに反応したのは私だけではなくシグナム達もそれぞれ反応した。私たちに向けられる怪訝そうな視線。主はやても例に漏れず。

「魔神オーディンとグラオベン・オルデン」

「「「「「っ!!」」」」」

シャルロッテがポツリと漏らしたまた別の名前に反応してしまう。どうして知っている、と思う前に納得もしてしまう。フライハイト家の騎士リサとは懇意にしていたからな。それを証明するようにシャルロッテが私たちの前に1枚のモニターを展開した。

「それ・・・!」

「うそ・・・、その絵画・・・!」

「なんと・・懐かしいものを」

「オーディン、アギト、アイリ・・・」

モニターに表示されていたのは絵画。描かれているのは信念の騎士団グラオベン・オルデンと名乗っていた頃の私たち守護騎士と当時の主オーディン、そして融合騎のアギトとアイリだ。あまりの懐かしさに思わず涙が零れてしまう。

「知ってるよ、あなた達とイリュリアとの因縁のこと。ベルカ史であなた達のことが記されているから。ストラトス王家が治めていたシュトゥラに属していたグラオベン・オルデン。イリュリア戦争を終結に導いた英雄オーディンの騎士たち」

「な、なあ、シャル! おまえ、ひょっとしてアギトやアイリの居場所とか知ってたりしないか!?」

シャルロッテに詰め寄ったヴィータのその問いは、私たち守護騎士にとって最も重要なものだった。シャルロッテの返答は「ご、ごめん。その融合騎については現在行方不明みたいで、わたしもシュテルンベルク家も判らないんだ」さらに驚きを私たちに与えるものだった。
アギトとアイリの居場所は不明。それについては残念なものだったが、「シュテルンベルク家が今もあるの!?」シャマルが私の考えを代弁してくれた。フライハイト家が残っているのだ、シュテルンベルク家も残っていると思ってもいい。

「エリーゼ卿が誰かと結婚して子を成した、ということになるのか・・・?」

「少し信じられないが・・・。オーディンが亡くなったとは言え、彼女なら一途にオーディンを想い続けると思ったが・・・」

シグナムに同意するものの、「シュテルンベルク家を存続させるためには、必要だったのだろう」すぐにそう思い至る。どれだけ愛していても想っていても、領主として時には捨てなければならないこともある。オーディンが亡くなったのであればなおさら。

「ん? 今のシュテルンベルク家って、当時のエリーゼ卿とそのオーディンの間に出来た子供の子孫なんだよ。エリーゼ卿の日記では、男の子と女の子の双子だったみたい」

「ぶはっ!?」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!?」

「ルシル君!?」「アリシア!?」

ルシルが突然飲んでいたジュースを吹き出し、ちょうど目の前に居たアリシアの頭上に掛かってしまった。気管に入ったのか咽続けるルシルの背中を「大丈夫、ルシル君?」擦るシャマル。

「ひどいよ、ルシルぅ! ジュースをわたしの頭に吹き掛けるなんて!」

髪に滴るジュース頭を振ることで払おうとするのを「飛んじゃうからダメだよ!」フェイトが止める。すずかが「ファリン、タオル!」女中の1人、ファリン嬢を呼んだ。彼女は慌てながらもタオルを持って来た。

「だ、大丈夫ですか!? わわっ!?」

ファリン嬢が盛大に転んだ、しかも料理の乗ったテーブルを巻き込んで・・・。テーブルを突き飛ばすように転んだことで乗っていた皿やボトル、コップなどの食器類が私たちに向かって宙を舞った。

(主はやて!)

食器類が主はやてに到達するまでの刹那、私は主はやてを護るべく動く。が、それよりも早く主はやての壁となったヴィータが「ほい、ほい、ほいっと」周囲に居た私たちに空のコップやボトルを弾き飛ばし、それらを私とシグナムでキャッチする。料理の乗った皿に関しては弾き飛ばすことが出来なかったヴィータは、両手で2枚の皿を手の平に乗せるようにキャッチに挑む。

「わたしはコレ!」「僕はこっちを!」

シャルロッテとユーノもそれぞれキャッチしている中、ヴィータが一度は手の平に乗せた2枚の皿を、「あ、やっぱ無理」とまた周囲に流した。幅がありそして重い皿は深さがあったのが幸いし中身は零れず、1枚はアルフが、もう1枚がシャマルへと飛び、アルフは難なくキャッチしたのだが、シャマルはキャッチすることなく「きゃっ?」と避けた。そしてその皿は「のわぁぁぁ!?」呼吸が整い始めたルシルの頭の上にベチャっと乗った。

「ルシル君がパスタ塗れに!」

「うおい、服の中に入って来た!」

「ちょっ、ルシル!? 女の子(あたしたち)の前で服、脱がないでよ!」

「うわわわ、ルシル、動かないで! わたしにもパスタが落ちてくるよ!?」

大混乱。パスタ塗れとなったルシルが大慌てでシャツを脱いで上半身裸となり、その勢いでパスタがアリシアへと掛かり、アリサやなのは、すずか、フェイトがルシルの姿に頬を赤らめて両手で顔を隠す。シャルロッテは目を爛々と輝かせて見つめている。
自分が避けた所為でこのような事態に陥ったことに対してシャマルが「ごめんね、ルシル君!」と謝っていると、「あわわわ、大丈夫ですかー!?」ファリン嬢がルシルの元へ駆け寄って来て、「あ」パスタを踏んで滑り、また盛大に転んだ。

「きゃっ・・・!?」

「ちょっ、まっ、げふっ!?」

ファリン嬢はシャマルを巻き込んでルシルへと倒れ込んでしまい、ルシルはその2人の下敷きになってしまった。

「お、重い~」

「おもっ!? ルシル君、私はそんなに重くはないはずよ!」

「ファリンさんも一緒だからだよ・・・! というか、早く退いてくれ・・・!」

「ご、ごめんね、ルシル君!」

「あぅぅ、ごめんなさーい、ルシル君・・・!」

3分と掛からずに起きた大惨事。クリームソース塗れになったルシル、ソースに加えてルシルに吹き掛けられたジュースに濡れたアリシアは、同じように汚れたシャマルやファリン嬢と一緒に着替えに向かった。

「コホン。えっと、なんだっけ?・・・あ、融合騎の話だっけ?・・・?」

彼らを見送り、もう1人の女中、ノエル嬢が掃除を済ませた後(手伝いを買って出たが客人だからと断られた)、シャルロッテが咳払いひとつ吐いて話を戻した。正確にはオーディンとエリーゼの子供云々だったのだが、それは後にでも聞こうと思えば出来るため、「ああ。その技術者とはどこで会える?」とシャルロッテに訊ねる。

「すぐにでも。明日、はやてたち八神家を本局に連れて行くことになったから、本局での用事を終えてから行こう。わたしの実家、第一世界ミッドチルダはベルカ自治区サンクト=オルフェンの聖王教会へ」

「うんっ、よろしくお願いします!」

はやてに続いて私たち騎士も「よろしく頼む」と頭を下げた。こうして私たちは明日、ミッドチルダへと向かうことになった。それから食事を再開して、なのは達と管理局に入るのならどの部署か、という話をしていると「いやだぁぁぁーーーー!」そんな悲鳴が聞こえてきた。

「今の・・・ルシル君の声・・・?」

主はやての言う通り間違いなくルシルのものだった。悲鳴はそれだけでなく、「俺は帰る!」だとか「男だぞ!」だとか「アリシア、許すまじ!」だとか「こんな償いとかありえん!」という悲鳴は連続で聞こえた。

「なんか・・・今のルシルがどうなってんのか想像つくんだけど・・・」

アリサがそう言うとなのは達も「私も」とそう同意した。私もそうだ。主はやてが「ルシル君、可哀想やけどしゃあないよなぁ」って苦笑を漏らした。

「レディース・エ~ンド・ジェントルメ~~ン♪」

勢いよく開かれた扉から新しい水色のドレスに着替えたアリシアが現れ、扉の奥――廊下からは「鬼ぃー! ロリぃー!」ルシルの罵倒らしき声が響いてくる。アリシアはニコッと私たちに笑顔向けた後、廊下へと戻る。少しの沈黙の後、「わぁ☆」主はやてを含めた子供たちが小さく歓声を上げた。

「ちくしょう・・・、強制的に女装させられる事だけはもうないと思っていたのに・・・」

アリシアに手を引かれて姿を見せたのは、黒を基調としたドレスを身に纏ったルシルだった。長い銀の後ろ髪もリボンで結われている。どこからどう見ても少女にしか見えない。見惚れていたなのは達が「可愛い!」や「綺麗!」や「本当は女の子でしょ?」などと言いながらルシルへと詰め寄る中、私はルシルのドレス姿に見惚れている主はやてへと歩み寄る。

「主はやて。少し席を外してもよろしいでしょうか?」

「あ、うん、ええよ。今日は自由行動や、好きにして構わへんよ」

「ありがとうございます」

主はやてに許可を取り、私はわいわいと騒いでる少女たちより離れ、私の身長を超すほどのガラス扉を開けてテラスへと出る。空気が澄んでいて雲の隙間から見える月や星の海を見上げながら思うのは、私の後継となる者のこと。

私の名(リインフォース)を継ぐ、新たな祝福の風に託したい。私は・・・とても幸福な魔導書だ。最後の最後で素晴らしい主に巡り合え、主や騎士たち、多くの友と共に呪われた旅路に幕を降ろすことが出来たのだから」

主はやては仰った。リインフォース(わたし)が消えても祝福の風(リインフォース)は無くさない、と。それはつまり祝福の風リインフォースという名を新たな魔導の器に受け継がせるということだ。
そこまで想ってくれてことがとても嬉しかった。手の平に具現するのは、“夜天の魔導書(わたし)”から切り離した剣十字。コレが主はやての新たな魔導の器となるだろう。剣十字を両手で持って胸に抱き、改めて夜空を見上げる。

「主はやてとルシル、騎士たちと、これからの時間を共に過ごせないことに対して悲しみが、寂しさがないとは言えば嘘になる。だから半年という残りの命、私は精いっぱい生きるよ。私だけでなくみんなが笑っていられる穏やかな中で逝けるように」

空から白い・・・雪がチラホラと降って来た。

「ただ、その先からは、私は主はやてを守って差し上げることが出来ない。ゆえに祝福の風を受け継ぐお前に願う。主はやてを守り、騎士たちと共に戦い、あの優しく温かな家庭から誰一人として欠けさせることなく、幸せに生きていってほしい」

剣十字を持つ両手を空へと掲げ、最後に伝えたい事を夜天に向かって話す。

「私の名を受け継いだとしても、お前は私の代わりなどではなくお前というただひとり存在だ。だからどうか変に気負うことなく胸を張って、強く生きていってほしい」

それが伝えたいこと。新たなリインフォースが生まれるのが私の消滅より後であれば、今の想いをこの欠片に留めて、いつか新たなリインフォースに届けたい、と思う。

「冷えてきたな。戻ろう」

剣十字の具現を解いて頭に付いた雪をサッと払った時、「なんでこんなことに・・・!」息を切らしたルシルがやって来た。散々玩ばれたのか髪が乱れ、疲労に満ちた顔をしていた。そんなルシルは扉に結界を張り、そして「こうなったら」と指を鳴らす。一瞬の発光の後、ルシルは大人の姿へと変身していた。服装はもちろんドレスではなくシャツにジャケット、スラックス、ネクタイという礼服だ。

「リインフォース? どうしたんだ、こんなところで」

「いや、なんでも」

やはりどう見てもオーディンだな、と思っていると「冷えるぞ」とルシルは言って、着ていたジャケットを私の肩に掛けた。冷えた体が温もりに包まれてポカポカとしてくる。オーディンの側に居た時に感じたものと同じ良い心地だ。先ほどシャルロッテに絵画の写真を見せてもらったことも相まってかオーディンと過ごした日々が脳裏を一気に過ぎる。

「リインフォース!? なんで泣いて・・・!?」

「??・・・私は、泣いているのか・・・?」

頬に触れると判る涙。後悔なんてしていない。それは確かだ。それなのに、まだ生きていたいと思ってしまう。オーディン達と過ごして手に入れた最初の幸せ、主はやて達と過ごして手に入れた最後の幸せ。数多くの思い出が胸のうちを温かくさせる。

「ルシル・・・!」

「っと?」

ルシルの胸へともたれ掛る。驚きつつも受け止めたルシルに「少しの間だけ、このままで」と頼み、トクントクンと静かに鳴る彼の心臓の音を聴く。ルシルは「俺ので良ければいつでも」と言って右手を私の背に回し、左手は私の頭をそっと撫でてくれた。

 
 

 
後書き
ラーバス・リータス。ラバ・ディアナ。ラーバス・ヴァーカラス。
強制女装、第二弾を受けたルシルに合掌という今話。ま、それは置いておいて。本当に今さらですが、エピソードⅡのタイトルの意味をお話しします。

Vixi Et Quem Dederat Cursum Fortuna Peregi
ウィークシー・エト・クェム・デデラット・クルスム・フォルトゥーナ・ペレーギーと読みます。
意味は、私は生きた。そして運命が与えた道程を最後まで進んだ、となります。
これを始めに話しておくと、勘のいい読者さま方は、

「あぁ、リインフォース、やっぱり居なくなるんだ」

そう思い至ってしまうと思ったため、リインフォースの消滅が確実だと判明するまで黙っていました。とは言え、自力で調べた方々もいるかもしれませんが。もしそう言う方がいらした場合、エグリゴリの誰かの事なのかなぁ、なんてミスリードに引っかかってくれていればなぁと思います。

えー、次回ですが、本編で出た通り・・・八神家、ミッドへ行く、をお送りする予定です。そこである意味ルシルのライバルが登場する・・・予定です。
そして再来週から、PSPストーリー第一弾『Battle of Ace』をやっていくつもりです。どうぞご期待しやがらないで下さい。


 
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