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勇者番長ダイバンチョウ

作者:sibugaki
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第12話 恋するスケ番。乙女のハートは超合金!

 日本近海に位置する孤島。場所は遭えて明かせないが、その孤島こそ、地球防衛軍番長組の拠点でもある。
 此処バンチョーベース内に置いて、一つのサプライズが起こっていた。それは、激闘を終えた番が新しい仲間を連れてきた事だった。
「紹介するぜ。こいつの名はレスキュー番長ってんだ」
「はははっ、始めまして! ぼぼ、僕はレスキー……レスキューばばば、番長って言います」
 番に紹介されて自己紹介を行うレスキュー番長であったが、かなり緊張しているらしいくかなり言葉使いと言うか呂律が滅茶苦茶になっていた。
 その為、それを聞いていたドリルとレッドの両者はどんな反応をすれば良いのか戸惑いを見せてしまっていた。
 やがて、その戸惑いがなくなった後に、真っ先に異を唱えてきたのはドリル番長であった。
【おいおい番よぉ~、こんな奴を連れて来てどうするんだ? 役に立つのかよこいつ?】
 何時になくドリルが厳しく食って掛かってきた。彼が突っかかってくるのも無理はないだろう。目の前に居るレスキュー番長と聞こえは良い名前かも知れないが明らかに場違いな雰囲気をかもしだしている。
 こんな奴は絶対実戦では役に立たない。そうドリルには見えたのだ。
「おいおい、確かにこいつは上がり性かもしんねぇが度胸は大したもんだぜ。俺が保障するんだ」
【番、俺達は命懸けの喧嘩をしてんだぜ? 子供の飯事とは違うんだ】
「いんや! 俺はこいつの男気を信じる。こいつは絶対俺達に何時か必要な存在になる筈だ!」
【本当に必要になるのかよ? こんな奴が】
 そう言って、再度ドリルはレスキュー番長を見た。方やレスキュー番長はと言えば、ドリルの視線を感じるや否や即座に視線を逸らしてしまった。とても度胸がある様には見えない。寧ろチキン番長の方が似合ってるんじゃないのか?
 そうさえ思えてしまった。
【まぁ、そう食って掛かる事もなかろう。そいつがどんな奴かはこれから先々でわしらが見極めりゃ良ぇんじゃしのぉ】
【レッドがそう言うんだったら……ちっ、分かったよ】
 納得の出来てないドリルをレッドが宥めてくれた。流石は年長者なだけあり貫禄がある。そんなレッドに宥められたら流石のドリルも引き下がらざるを得なかった。
 しかし、未だに納得が出来ていないらしく少し不機嫌そうになっていた。
【あのぉ、やっぱり僕此処に来るべきじゃなかったんじゃないでしょうか?】
「良いんだよ、気にすんな」
 ドリルが不機嫌になってしまったのを見て申し訳なさそうな声を出すレスキューをそっと番が励ました。他の皆は知らないだろうが番だけは知っていた。レスキュー番長は男気と度胸を持った列記とした番長なのだ。
 だからこそ番は此処に彼を連れてきたのだろう。でなければそうそう此処に案内などする筈がない。
「そうだ、おい茜! お前もレスキューと話しろよ」
 残りは木戸茜と会わせるだけだった。その為番は早速この部屋内に居るであろう茜の名を呼んだ。しかし、番の呼び声に茜は反応しなかった。
 部屋に居ないのか?
 回りを見回してみたが、茜はすぐに見つかった。窓辺を眺めながら一人たそがれている姿を見る事が出来た。その背中は、何所となく彼女にしては微妙に違って見えた。
 何と言うか、普段は突っ張ってる印象が見える彼女が、何所となく丸みを帯びたと言うべきか、少しおしとやかに見える気がした。
 しかし、そんな変化に番が気付く筈もなく、づかづかと歩み寄り茜の肩に手を乗せた。
「おい、茜!」
「ふぇっ! な、なんだい?」
 何時もの茜らしからぬ反応だった。普段だったらドリルと並んでレスキューにいちゃもんつけるか、もしくはレッドと共にそれを宥めてる筈だった。その茜が完全に上の空になっている。
 明らかに変だ。そんな茜を見て番は片眉を吊り上げた。
「茜、一体どうしたんだ? 普段のお前らしくねぇぞ」
「ん? そ、そうかい……あたぃは何時も通りのつもりだけどねぇ」
 普段を装っているつもりだろうが、明らかに変だ。それは彼女と喧嘩をし、共に幾多の激闘を潜り抜けてきた番だからこそ理解出来た。
 今の茜は何所か違う。何と言うか、普段の茜とは違い余計に女性らしさが伺えるような気がした。
 何時もの茜は姉御肌で強気でいて、それでいて常に負けん気が強いと言う印象があった。そんな印象が今の茜からは感じ取れない。
 一体どうしたと言うのだろうか?
「茜、お前一体―――」
「悪いね番。心配かけちまったみたいでさ」
 一言謝罪を述べた後、そそくさとその場を後にしようと歩き始めた。そんな茜の肩を番は掴み彼女を押しとめた。
「待てよ、悩みがあんなら相談しろよ! 俺達は仲間だろ?」
「御免、今は一人にしておいてくれないか」
「……分かった」
 そっと番の手を退けた際の茜の手からは細くて可愛らしい年頃の女性の手の感触が感じられた。普段の強くて力強い木戸茜の印象とはまるで違う。
 やはり何か変だった。上手くは言えないが、とにかく今の茜は変だったのだ。
 もしかして、あいつ腹でも下してるのではないだろうか?
 必死に番は自分の中で彼女の心境の変化について考えてみた。
 生憎、番は腹を下した経験がない。轟家は番が8歳の頃から貧困との戦いだった為に結果として母恵を除いて番も真も体の方はかなり頑強になっていた。故にちょっとやそっとの事で病気になどならない。
 薬代だって馬鹿にならないのだから。
 では、テストなどでやばい点を取ったとかだろうか?
 それも考えられなかった。以前見せてもらったのだが、木戸茜は実はかなりの才女なのだ。只腕っ節が強いだけでなく教養もあり、それでいて下の者達の面倒も良い。
 あの性格を除けば茜は自校でもかなりもてる部類に入っている。
 そんな茜が赤点を取る事はまず考えられなかった。
 だとすると一体……
 考えるだけ無駄だった。今の番の脳内ではどう考えたって茜の変化に対する答えを導き出す事は困難を極めていたのだ。
「帰るか……」
 幾ら考えても時間の無駄だ。それに、これ以上此処で時間を潰すのは家族に心配を掛ける事になる。それは番には辛い事だった。
 時刻を見たが既に夕方の4時頃を差している。今から帰路につけば6時前には帰宅できるだろう。早く帰って家族を安心させねばならない。
 天下の喧嘩番長も家族はとても大事なのであった。




     ***




 番が無事に自宅に帰ってきた頃には既に日は落ちて、辺りは暗くなってきていた。時刻は午後の5時50分頃。どうにか真夜中になる前に帰って来れたようだ。
 番長を車庫内に収め、入り口を開き中へと入った番であったが、ふと靴脱ぎ場にて靴が増えてるのに気付いた。
 母の靴と弟の靴、それに並んで普段は見ない皮製の靴が置かれていた。
 それなりに高い靴だったのだろうがところどころ擦り傷などが目立ち、相当年季の入った代物だと言うのが伺えた。
 その靴を見て、番はその持ち主が誰なのかすぐに連想できた。
 ゲタをその場に脱ぎ、居間へと進む。障子を開き、居間へ入ると、其処にはちゃぶ台を囲んで座っている母恵と弟真、そしてもう一人大人の男性が座っていた。
「おう、やっと帰って来たか」
「駒木のおっちゃん!」
 番がそう呼んだ。男性は黄土色のコートを羽織っており、その下には紺色の皺だらけになり古臭く感じられるコートを身につけている。
 ボサボサな黒髪には所々白髪が目立ち顔にも幾つか皺がついていた。
 しかし彼の目は決して衰えを感じさせない、ギラギラと輝きに満ちておりまだまだ若さを感じさせてくれた。
 駒木慎太郎の横に番は腰を下ろした。彼は番の両親と古くからの付き合いであり、番の父が行方不明になってから随分と轟家の世話をしてくれた。番や真にとっては頼り甲斐のある叔父であると同時に本当の父親同然の存在とも言えた。
「久しぶりだなぁおっちゃん。急にどうしたんだよ?」
「請け負ってた山がようやく片付いてな。久々にお前等の顔を見に来たんだよ」
 駒木は此処番町でもそれなりに名の通った刑事だ。その名と言うのも半分は良い方でもあり、半分は悪い方にでもある。
 彼は少年課に所属しており少年犯罪や青少年の心情問題などを一手に引き受けている腕利きでもあった。
 しかし仕事に実直な上にかなり血の気が多いと言う事なので上の面々からの評判は悪い。少年課にあるにも関わらず殺人事件などに首を突っ込む事もあるし、とにかく事件と言う事件には必ず彼が現れるのだ。
 無論、彼が来たお陰で事件は早期解決出来るのだが、他の部署からして見たら相当面白くない。故に彼に対する味方も多いが敵も多かったりする。
 が、そんな事彼には何処吹く風と言えた。そんな大らかでいて、真っ直ぐな駒木を番も真も好いていた。
「兄ちゃん、駒木のおっちゃんすげぇんだよ! 今日なんて拳銃持ってた銀行強盗相手に素手でやっつけちまったんだしさぁ!」
「へぇ、流石は駒木のおっちゃんだなぁ」
「へん、脅しにしか使ってないようなヒヨッコ相手に一々ビクビクしてられっかってんだよ!」
 番と真の尊敬の眼差しを受けて駒木も鼻高々になっていた。しかし、母恵は余り嬉しそうではなかった。
「余り無茶しないで下さいね。貴方が怪我すると夫が悲しみますから」
「いやぁ、相変わらず恵さんは優しいなぁ。くそぉ、こんな良い嫁が居るってのに心の野郎は何してんだか!」
 駒木がふと呟いた名前。心―――
 それは紛れも無く番達の父の名であった。
 轟心。番と真の父であり恵の夫でもあり、そして駒木の学生時代からの親友でもあった。
 だが、その心も番が8歳の頃に突然行方を眩ませてしまったのだ。一切の理由も告げられていない。番にとっては、その時まで幸せだった家庭が音を立てて崩れてた瞬間でもあった。
 父が居なくなってからと言うもの、母と祖父は毎日働き詰めの毎日だった。元々裕福な家庭とは程遠かった轟家にとって、大黒柱の不在は大きな痛手でもあった。
 それでも、母も祖父も愚痴の一つもこぼさずに一生懸命にその日を生きた。しかし、番にとってその全ての元凶でもある父が許せなかったのだ。
「なぁ兄ちゃん、父ちゃんってどんな人だったんだ?」
「あ? 何でそんな事聞くんだよ」
 番は毎回こうだ。父親の話を振られるとてき面不機嫌になる。今まで何度も真が尋ねたのだが、その度に番は応えずに黙り込んでしまった。
 過去の写真も全て番が処分してしまった。父親との思い出を全て捨て去る為だ。
「何言ってんだ真。俺達の親父は此処に居る駒木のおっちゃん以外に居ないだろうが?」
「おいおい番。確かに嬉しいが流石に面と向って言われると少し恥ずかしいぞ」
 顔では笑っているが目では笑ってない。駒木の目は番に対する哀れみの気持ちで一杯だった。一体どれだけの苦労を重ねればそんな悲しい背中になるんだ、番?
 駒木は喉から出かかった質問を強引に飲み込んだ後に、立ち上がる。
「よし、真。久しぶりに一緒に風呂入るか? 今日の事件の事詳しく教えてやるよ」
「やったぁい! 俺入る入るぅ!」
 すっかり先の質問の事など忘れてしまい、真は駒木に連れられて風呂場へと向った。残ったのは母恵と番だけだ。
「番―――」
 ふと、恵が口を開く。それに対し、番は目元だけを恵の方に向けて聞いていた。
「貴方、まだ心君の事を恨んでるの?」
「お袋、俺達がこんな苦しい生活を送ってるのも、全てあのろくでなしのせいなんだぜ。何も言わずに勝手に家を出て行って。その上お袋や真に散々苦労を掛けて、挙句の果てに爺ちゃんまで殺しやがって―――」
「それは違うわ、番!」
 ちゃぶ台の上に身を乗り上げる形で恵は番を睨んだ。その目線を見ても、番は一向に動じなかった。例え母の叱咤であろうと、この感情だけは捨てられない。番にとって父に対する憎しみだけは忘れようと思っても忘れられないのだ。
「俺は、絶対に親父を許さない。例えお袋がどう思おうとな―――」
「番、貴方は―――」
「此処までにしようぜ。これ以上はお袋の体に障るぜ。後片付けは俺がやっとくから先に寝とけよ」
「うん、そうするね」
 寂しそうに頷くと、恵は立ち上がり静かに寝室へと去って行った。それを見送ると、番はちゃぶ台に残っていた食器を片して小さな流し台へと置く。腕をまくり水道の蛇口を開き皿を洗っていく。
 ふと、番は駒木が使っていた食器を見る。その食器はかつて父が使っていた食器だった。
「クソ親父が!」
 一言そう言った後、番はその食器だけはぞんざいに洗い、そのまま無造作に水切り籠に押し入れた。




     ***




 テニスコートでは若いテニスプレイヤー達が額に汗を流しながらラケットを片手に白熱のラリーを演じていた。もうじき大会が近い為か練習にも気合が入っている。その中には若い男女達がそれぞれ青春の汗を流して練習を行っているのであった。
 そのテニスコートの外れにある小さな茂み。其処に隠れるようにしてテニスコートを眺めている数人の人影。
「おい、本当に此処にあいつが来んのか?」
「はい、間違い有りませんよ轟の兄貴。家の妹達の何人かが姉御が此処に来てたのを何度か目撃してましたし」
 其処に居たのは番と茜の率いているスケ番グループ達であった。
 因みに此処は茜の母校である輔番高校内にあるテニス部のテニスコートである。
 何でも、茜の異変を察知していた配下のスケ番達が心配になり辺りを嗅ぎまわっていた所、茜が此処最近このテニスコートに来ているとの情報をキャッチしたのである。
 その情報が確かであれば由々しき事態である。まさか、あの茜がテニス部にかちこみを掛けるつもりなのでは?
 となれば大惨事になる前に止めなければならない。それこそがダチの勤めだったりする。
「兄貴! 来ましたよ」
 咄嗟にであった。見ると、テニスコートにフラフラと近づいていく茜の姿が見られる。しかも、普段の裾の長いスカートの黒いセーラー服じゃなく、最近の女子高生が着ていそうなミニスカートに白のセーラー服と言った清楚な格好に身を包んでいた。
 長い髪は束ねて綺麗に整えられている。そして、両手には風呂敷で包まれた四角い箱が持たれていた。
 明らかに普段の茜じゃない。
「ななな、何だありゃぁ! あれが本当に茜なのか!? 人違いじゃないのか?」
「いいえ、断じて違います兄貴! あたぃ達が姉御を見間違える筈がありません! あれは絶対に茜の姉御です」
「じゃ、じゃぁ……何で茜の奴あんな格好してんだ?」
「それが分かったら苦労しやせんって」
 番もそうだが回りのスケ番達も相当パニックに陥っていた。普段の茜なら絶対にしない格好をしているのだ。しかも、気のせいか茜の頬が赤く染まっていたのをチラリと目撃してしまった。
 妙に乙女チックな顔をしていた。まるで少女マンガの主人公に出てきそうなキャラそのものだった。
 初めて彼女を見る男子なら思わずキュンとなってしまうだろう。しかし、普段の茜を知っている面々はどう接したら良いのか内心ドギマギしまくりだった。
「どどど、どうする? どうすりゃ良いんだ俺!? ダチのあんな場面目撃しちまってよぉ」
「お願いですよ兄貴! 姉御を元に戻して下せぃ」
 かなりの無茶振りだった。番でさえ、あの格好の茜を見た為に結構てんぱっていると言うのに其処へ来てこの無理難題である。
 だが、番とて男。女の頼みを無碍には出来ない。それこそ番長の肩書きを下ろさなければならなくなる。それだけは出来なかった。
「任せておけ! 俺も男だ。こうなりゃ腕付くで茜を元に戻してやらぁ!」
 番の背中にメラメラと紅い炎が燃え上がっていく。今、番の中で真っ赤な闘志が火を噴いたのであった。
 

 テニスコートの扉を開き、茜は中に入った。ほのかに紅く染まった頬が何とも可愛らしい。顔つきも普段の血気盛んな感じとは裏腹に、何処となく大人しく女性らしい柔らかい物腰になっている。
 そして、練習の邪魔にならないようにコートの端を歩きながら、練習を腕組みで眺めている一人の男子の下へと歩み寄って行った。
「こ、こんにちは」
「ん? あぁ、木戸さん。またいらしてくれたんですね」
 男性は爽やかな好青年だった。短く切り整えられた髪にスラリとした体つき。整えられた眉と輝いている瞳が印象的な好青年だった。
 そんな男性に茜はどうやらいちころだったらしい。両手に持っていた風呂敷を恐る恐る持ち上げて男性の前に見せ付けた。
「えと……お弁当作ってきました。良かったら、食べて下さい」
「え、僕に? 有り難う木戸さん。嬉しいよ」
 そう言ってニッコリと笑う青年。その時の彼の白い前歯がキラリと輝く。その光景を見た茜は、最早立っているだけで精一杯な状態だった。
 そんな茜の気持ちを他所に男性は茜の風呂敷を受け取ろうとした正にその時だった。
「ちょっと待ったぁぁ!」
「うん!?」
 突如、明後日の方向から声がした。見ると、コートの上に誰かが立っている。
 ズタボロの長ランにボンタン、そして同じ位にボロボロな学帽を粋に被った時代遅れの姿をした学生。文字通り番だった。
 その番が、何故かテニスラケットを片手にコートに立っていたのだ。
 当然、真下の生徒達は口々に番の噂をし始める。
 何、あの時代遅れな格好。ダサッ、マジでダサいよ。恥ずかしくないのかなぁ、あんな格好してて。家の生徒かなぁ? 絶対にあんなのとは関わり合いたくないよなぁ。
 とまぁ、かなり酷いひんしゅくを買っていた。しかし、当の本人は全く気にする様子も見せず、そのままコート内へと降りてきた。
「き、君! 部外者が勝手に入ってこられると困るんだよ!」
 今は大事な練習中だ。そんな時に部外者に練習の邪魔をされるのは心底困る。その為に男性が止めに駆け寄ってきた。
 だが、番はその男を片手であしらうとそのままの足取りで茜の元へと歩み寄ってきた。
「ば、番―――」
「何やってんだよ茜? お前らしくねぇぞ」
「わ、私らしくないって何よ?」
「普段のお前だったら、そんなにやけ面して弁当持って行く真似なんてする訳ねぇだろうが!」
 指差して番は豪語した。その言葉に茜の心は野太い釘で打ち貫かれるような痛みを覚えた。思わず胸を抑える茜。そんな茜に対し容赦なく番は続けた。
「お前を心配してスケ番達が回りを嗅ぎまわってくれたんだぞ! それなのにお前は一体何やってんだ!」
「べ、別に良いじゃない! 私が何しようと、私の勝手でしょ?」
「バッキャロウ! それでもてめぇはこの輔番高校のスケ番かよ?」
 更に茜の胸に痛みが走る。胸を抑えながら、茜は顔を俯かせてしまった。相当ダメージが大きかったのだろう。だが、それに対しても番は続けた。
「スケ番だったら、どんな時でもドッシリと構えて下のもんをビシッと従えるもんだろうが! 今のてめぇはそこ等辺に居る普通の女と同じじゃねぇか! そんなんでどうするんだ―――」
「……さいよ」
 ボソリとだが、茜の口から言葉が発せられた。それを聞いた番は黙り込み、耳を傾けたが、その後番の元に飛んできたのは茜が持っていた風呂敷だった。
 中は重箱の弁当だったらしくかなりの衝撃が番の鼻っ柱に響いた。
 ズシンと響く痛みと重み。思い切り茜が持っていた重箱を投げつけてきたのだ。
 その際に風呂敷の紐が緩み、中のおかずが周囲に散らばって行く。
 中は綺麗な形に整えられたおにぎりや手づかみで食べられるおかず類だった。その弁当の山々がコートの上に落ちる。
 一瞬の静寂。
 それがコートを支配していた。その時、番が見たのは重箱でもなければ中身のおかずでもない。投げつけた際に目から涙を流している茜自身であった。
「あんたに私の何が分かるって言うんだい!」
「茜……」
「私だって……私だって本当なら普通の女子高生ってのをやりたかったんだよ! 普通に勉強して、普通に部活して、普通に先輩とかに恋して、弁当を差し入れしたりとか、普通にやりたかったんだよ! でも、出来なかったんだよ! それが、それがやっと出来そうだったのに……それなのに……なのに……」
 途中は言葉にならなかった。何時しか、茜は顔をくしゃくしゃにして涙を流し続けていた。番はどうする事も出来なかった。
 茜の心情を理解出来なかった自分。そして、そんな茜を無碍にも傷つけてしまった自分。そんな罪悪感が番の心を支配していたのだ。
「茜、何て言うかその―――」
「君、もう止したまえ!」
 茜に向い伸ばした番の手を先ほどの男性が叩き落とした。そのままの動作で涙を流している茜をそっと自分の胸元に抱き寄せて匿った。
「て、てめぇ!」
「君は自分が何をしたのか分かっているのか? 女の子を泣かすなんて、男として最低だぞ!」
「うっ!!!」
 男のその言葉は番の胸に深く突き刺さった。かつて、祖父に言われた事を番は破ってしまったのだ。
 男は女を泣かしてはいけない。
 その約束を事も見事に破ってしまった事に番は愕然となってしまっていた。
「お、俺はただ……」
「言い訳は見苦しいだけだ! 早々に消え給え! それとも、まだ彼女を悲しませるつもりなのか!?」
「……」
 番はすっかり意気消沈し、肩を落としてそのままコートを後にしてしまった。先ほどの気合は何処へ行ったのやら。背中から漂う情けなさが余りにも哀れに見えた。
 そんな番の事など放っておき、男性は自分の胸元で静かに泣いている茜に視線を移した。
「すまない、木戸さん。僕がもっと強ければ君を守れたのに」
「いえ、良いんです。これも全部私が悪いんです。私がこんな事をしたせいで、先輩や皆にまで……」
「君が気にする事はない。君は何も悪くないんだ。だから、もう泣くのは止めてくれ。君の泣き顔は見たくないよ」
 まるで小鳥のさえずりのような柔らかく清楚で、それでいて何処か引き付けられそうになる甘い言葉だった。その言葉を聞き、茜は男性を見上げ、涙を拭った。
「あ、有り難う御座います。先輩」
「やっぱり、君は笑顔が似合うよ。もう彼等みたいな危ない連中とつるむのは止めてくれ。君のその綺麗な顔が喧嘩なんかで傷つくのは僕にはとても辛いんだ」
「は、はい!」
 褒められたからだろうか。茜の顔はとても活き活きし始めた。その先輩から離れ、床に散らばった弁当の残骸を拾い集めると、そそくさとテニスコートから離れていく。
「それじゃ、またお弁当作ってきますね!」
「あぁ、楽しみに待っているよ」
 互いに手を振り合い、茜はそのままコートを後にした。そのまま去って行く茜の姿を男性は見守っていた。
 先ほどの甘いマスクから一変して、何処となく尖りを見せた目線で―――




     ***




 それから、茜は毎日の様にテニス部へと訪れ、先輩に弁当の差し入れをしていた。茜の差し入れた弁当をその先輩は美味しそうに食べ、その度に二人は楽しそうに語り合っていた。更にそれから数日後、遂には茜はテニス部へと入部し、先輩と楽しくラリーをするまでの仲になってしまっていた。
 当然、その間、茜がスケ番グループと会う事も、地球防衛軍番長組の元へ行く事もなかった。その間、スケ番グループは茜抜きで活動を行う事を余儀なくされてしまい、かなりのメンバーが抜けてしまったのは言うまでもなかった訳であり。
 同時に地球防衛軍番長組でもかなりの戦力低下を余儀なくされていた。茜とクレナイ番長を欠いたメンバーでゴクアク組の構成員との激戦は苦戦の連続であった。
 と、言うのも茜を欠いた状態のメンバーだとてき面空中戦に弱いと言う弱点があるのだ。故に殆どの敵が空中戦を得意とする構成で攻めて来た為に番達は毎回苦戦を強いられている次第であった。


「何とかならねぇもんかなぁ?」
 そんな事を呟きながら、今日もまたテニスコートの外れにある茂みに隠れるようにしてスケ番グループは茜の動向を探っていた。相変わらず茜は楽しそうに例の先輩とラリーを楽しんでいる。
 その時の茜の顔はとても活き活きしていて、何処となく可愛いとさえ思えた。確かに、あのままであれば茜は普通の女子高生を送れるだろう。
 だが、茜は列記としたスケ番グループのリーダー格であると同時に地球防衛軍番長組のナンバー2なのだ。彼女の損失は双方に置いてもかなりの痛手となる。
「でもよぉ、あたぃらじゃどうにもなんねぇだろう? それに、兄貴だってこの様だし」
 そう言ってグループのメンバー全員が後ろを振り返る。其処には足を折り畳んで抱えるようにして座り、俯いたまますっかり意気消沈している番の姿があった。何時ものやる気が全く感じられず、彼の背中からはダークオーラすら漂っているようにも感じ取れた。
 あの一件以来、番はすっかり沈み込んでしまい使い物にならなくなってしまったのだ。かと言ってスケ番グループが行った所で意味がない。番の時と同じく追い返されてしまうのが目に見えている。
 さてどうした物か。それぞれが案を出すがその度に却下される。その繰り返しであった。
 そんな事をしていた正にその時だった。突如町の方で激しい爆発音が響く。
「な、何だ!?」
「あ、あれは何だぃ!」
 見ると、其処にはまたしてもゴクアク組の構成員が番町を襲撃している光景であった。右手にテニスラケット状のそれがあり、左手からは球状の物体を高速で飛ばし、ビルを貫通している。全体的に無骨で野太い感じの宇宙人であった。
「野郎、何時までも調子に乗らせて溜まるか!」
 番は立ち上がり、例の宇宙人目掛けて走る。その際に懐から携帯に似た通信端末を取り出し耳元へ押し当てる。
「白鳥のおっちゃん! ゴクアク星人だ! 急いで番町にメンバーを送ってくれ!」
【任せろ! 1分で着いてみせるさ】
 通信をしてそれから本当に一分した後に上空にスカイ番長が到達する。そして、その機内から続々とメンバーが降りてくる。その中にはバンチョウの姿も当然見られた。
【番、待たせたな!】
「おう、ゴクアク組めぇ……毎回俺達がやられっぱなしだと思うなよ!」
 拳を握り締め、番はバンチョウと合体し、巨大ロボットバンチョウへとなった。ドリル番長とレッド番長もまた人型形態へとチェンジする。だが、レスキュー番長だけは変形せずに、救急車のまま周囲を走り回っていた。
【おい、何やってんだ? さっさと変形しろ!】
【で、でも! まだ避難が終わってないんです。彼等を助けないと】
【ちっ、勝手にしろ!】
 吐き捨てるように言い、ドリルは目の前の敵に視線を合わせた。其処へ合体したバンチョウが駆けつける。こうして、普段の三体が勢揃いしたのであった。
【どうした番長組? クレナイ番長は居ないのか?】
【るせぇっ! てめぇ如き俺達だけで充分なんだよ】
【そうかい、だったらこの俺様の剛球サーブを特と味わえ!】
 そう言うや否やゴクアク組構成員の左手から剛速球で弾が発射された。その弾の速度は音速を超えている。あたれば相当痛い。
【かわせ!】
 レッドの掛け声と共に三人が左右に散って弾を回避する。だが、弾が三人の脇を通り過ぎた直後、弾は爆発し、無数の小さな弾が炸裂して辺りに散らばった。その弾に当たると爆発が起こった。一個一個なら大した爆発力ではなにのだが、それが何百発ともなるとかなりの威力になる。
【ちっ、味な真似をしやがって!】
 諸にそれを食らった三人だったが、すぐに立ち上がる。この程度で参るほど柔じゃない。まだまだ勝負はこれからなのだ。



 茜の目の前で、バンチョウ達とゴクアク組構成員との激しい抗争が行われていた。それを見た茜は焦りの表情を見せる。
「木戸君、大丈夫かい?」
「先輩、すぐに皆を連れて此処から離れましょう! 此処に居たら危ないですよ!」
 何とか部員達を逃がそうとする茜。だが、その茜の手を先輩が咄嗟に掴んだ。茜の心臓の音が高鳴る。見れば、その男性は真剣な眼差しでこちらを見ていたのだ。
「せ、先輩……」
「手が震えているね。大丈夫だよ木戸君。君の事は、僕が守ってあげるからね」
 そう言ってくれた男性の目を茜は何時しか直視していた。まるで吸い込まれそうな瞳を見て居る内に、茜の意識が徐々に溶けて行く錯覚に陥った。だが、それに気づいた頃には、既に手遅れであった。
 気がついた頃には、茜は自分の体を先輩に委ねる形となっていた。そして、その時の男の顔には邪悪な笑みが浮かんでいた。
「ふっ、番長組と言えども所詮は女。案外脆かったな」
 男がそう言って周囲を見ると、部員達もまた邪悪な笑みを浮かべていた。そして、部員達の姿が変わって行く。彼等は皆ゴクアク星人であった。
 



 何度か飛んでくる弾を避けて行く内にバンチョウ達は敵の弾にすっかり慣れていた。その為か、最初は全く近づけなかったのに何時しか敵の懐に入り乱打戦を行うまでに至っていたのだ。
【へっ、懐に入りゃぁこっちのもんだぜ!】
【お、おのれぇ!】
 苦虫を噛み潰したような声を挙げる。どうやらこいつは中距離戦は強いようだが近距離戦には弱いようだ。そして、バンチョウ達にとって近距離は独壇場であった。
 これは今回の勝負は案外楽勝だろう。そう思えた。
「其処までだ、番長組の諸君!」
【何!?】
 突如、下から声が響いた。見下ろすと、其処は例のテニスコートだった。そして、其処には茜を脇に抱えている例の男性の姿と複数のゴクアク組の下っ端達の姿が見られた。
【茜!】
 茜の瞳は曇っていた。恐らく意識がないのだろう。グッタリとした状態の茜を脇に抱えた男性のもう片方の手には鋭く尖った鋭利な刃物が握られていた。
 そして、その刃物を茜の喉元に近づける。
「抵抗は止めて貰おうか。でないと、このコートを彼女の鮮血で染める事になるよ」
【て、てめぇ!】
「ふん、貴様等番長組の弱点など当にお見通しだ。貴様等の中で唯一空中戦を行えるのはこの女のみ。だから私が派遣された。この女を見も心も骨抜きにして戦えないようにすれば、残りの貴様等など空から攻撃すれば簡単に片付けられるからな」
 初めからゴクアク組の仕組んだ罠だった。そして、その罠に茜はまんまと陥れられてしまったと言うのだ。敵の罠に嵌った事を悟った番は苦い顔をした。
 だが、既に手遅れだった。今下手に動けば茜の命がない。
【く、くそぉ……】
「ふん、他愛もない。さっさと片付けろ! レシーブ星人」
【へっへっへっ、くたばれ番長組!】
 すっかり優勢になったレシーブ星人の左腕から夥しい量の弾丸が放たれた。それに対し避ける事も捌く事も防ぐ事も出来ない三人は諸にそれを食らう体制となってしまった。
 重さにして数トンはあるであろう巨大な鉄の弾を諸に食らい、地面に倒れ伏すバンチョウ達。その光景をさも嬉しそうにレシーブ星人は眺めていた。
【はっはっはっ、こうも呆気ないとはなぁ。噂程でもないわぁ!】
「全くだ。拍子抜けだなぁレシーブ星人! さて、俺はこの女を料理するとしようか」
 手に持っていた刃物を舌で舐める仕草をした後、刃をそっと茜に近づける。どの道この女も殺す予定だ。だがただ殺したのでは面白くない。せめて楽しませてから殺すとするか。
 突如、刃物の刃を掴まれた。それは茜の手だった。刃先を掴んだ茜の手から血が滲み出ている。その様を見た男の顔が青ざめていく。
 視線を茜の顔に移す。其処から見えたのは、憤怒の表情に染まった茜の鋭い目線だった。
「そう言う事だったのかい? このあたぃを陥れる為に随分手の込んだ芝居をしたもんだねぇ」
「き、木戸君……こ、これは……ほ、ほんのジョークなんだよ。ジョーク―――」
「今更遅い!」
 茜の怒号と共に男性の鳩尾に凄まじい一撃が決まった。茜の肘鉄だった。諸にそれを食らった男は刃物を手放し数歩後ろに下がった。体をくの字に曲げて顔を強張らせて倒れそうになるのを必死に耐えている。そのままの姿勢で目の前に立つ茜を見た。
 其処に居た茜は持っていた刃物を片手でへし折り、先ほどの乙女チックな顔は消え去り、鬼の形相になって男を見下ろしていた。
「よくも、よくもあたぃの心を踏み躙ってくれたね……落とし前はキッチリつけて貰うよ」
「た、助け……助けて……たすけ―――」
 言い終わる前に男の顎が持ち上がった。茜の右足が男のだらしなく下がった下顎を蹴り上げたのだ。そして、海老反りに持ち上がった男の顔面目掛けて怒涛の茜の蹴りが襲い掛かった。
 それも、一発やニ発じゃなく、百発の単位でだ。無数の茜の足が男の顔をグチャグチャにしていく。そのままフィニッシュとばかりに男の横面を回転の勢いのついた回し蹴りで蹴り飛ばす。地面に叩きつけられた際の男の顔は以前の美形など微塵もなく、全身がボコボコになった直視するのも躊躇われる程の酷い形相となっていた。
 動かなくなった男を見下ろす茜。そのまま、後ろを振り返ると、ゴクアク組の下っ端達が手に武器を持ったまま茜を見ていた。しかし、先ほどの怒涛の攻撃と茜の怒りにすっかり気落ちしてしまったのか、一向に襲ってくる気配が見られなかった。
 そんな情けない下っ端達に向い茜は睨みを利かせる。
「覚悟しなてめぇら! あたぃを殺したいんだったら命を掛けな! 半端な覚悟で来るような奴ぁ、このあたぃが蹴り砕いてやる!」
「な、舐めやがって! 相手は女一人だ! やっちまえ!」
 下っ端の中の一人の合図で一斉に襲い掛かってくる。その光景を目の当たりにした茜の中で、怒りの炎は烈火の勢いで業火へと変貌を遂げた。
 身につけていたテニスウェアを破り捨て、下着姿となった茜がまず最初に目の前に居た下っ端の顔面に強烈な踵落としを決める。グシャリと音がし、下っ端その一がその場に崩れ落ちた。
 恐らく鼻の骨が砕けたのだろう。踵落としをした足を軸にしてその場で回転し回し蹴りを放つ。周囲に居た下っ端達の顎を見事に捉えて叩き付ける。この連続攻撃で周囲に居た下っ端達の殆どが倒れ伏す結果となった。
 一瞬、正に一瞬の光景だった。テニスコート内には先の男とゴクアク組下っ端達の流した血で赤く染まっていた。
「姉御ぉぉ!」
 そんなコートの中に、スケ番グループが雪崩れ込んでくる。どれも茜が普段から連れ添っているメンバー達だった。皆、顔をくしゃくしゃにして茜の復帰を喜んでいた。
「お前等、心配掛けたね。ったく、スケ番のあたぃが色恋沙汰なんざガラじゃねぇってのによぉ」
「姉御、お帰りなさいです! あたぃら、ずっと姉御を待ってましたよぉ」
「有り難うよ。お前達」
 かくして、輔番高校スケ番グループリーダー、木戸茜の復活であった。その復活祝いとして、メンバーが茜にそっと何かを差し出した。
 それは、茜が普段から着慣れている黒のセーラー服だった。
「やっぱ、姉御はこの服が一番似合いますよ」
「そうだね、あたぃとしても、こっちの方が着慣れてて良いからね」
 仲間からセーラー服を受け取り、それを身につける。其処には何時ものスケ番の威厳を持った茜が立っていた。乙女チックな顔は見られないが、スケ番時の彼女の顔もまた一段と輝いて見えた。
「お前達、此処で伸びてる奴らをふん縛っておきな。後でたっぷりと落とし前つけて貰うからねぇ」
「分かりました!」
「あたぃはちょいと後始末をつけてくる。それまでこいつらの処理は任せるよ。死なない程度でなら煮るなり焼くなり好きにして良い」
「お気をつけて!」
 仲間達の激励の言葉を背中に受け、茜は仲間達の元へと向う。背後で例の男と下っ端達の断末魔が聞こえたが気になどしない。今の茜にあるのは、自分がやってしまった不始末のけじめをつける事と、自分の心を踏み躙ったゴクアク組への報復であった。




     ***




【へっへっへっ、そろそろトドメを刺してやろうじゃねぇか!】
 レシーブ星人の目の前では既に蟲の息の状態となったバンチョウ達の姿があった。無防備な状態でレシーブ星人の剛球を一身に受けた為にダメージは相当な域に達していたのだ。
 必死に立ち上がろうとするが体が言う事を利かない。正に絶体絶命であった。
【待ちな、番長組にはまだあたぃが居る事を忘れてんじゃないよ!】
【何!?】
 声と共に上空からクレナイ番長が舞い降りる。バンチョウ達とレシーブ星人の間に割って入るように現れたクレナイ番長からは、何時も以上に激しい怒りのオーラが感じ取れた。
【茜、お前―――】
【すまなかったね番。この落とし前はあたぃ自身でつける】
【そうかい、それじゃ任せる……ぜ】
 そう言い残し、バンチョウは地に伏した。恐らく意識を手放したのだろう。そんなバンチョウ達を後ろに残し、レシーブ星人とクレナイ番長の一騎打ちが開始された。
【ふん、あのまま騙され続けてりゃ楽に死ねたのに、本当にてめぇは馬鹿な奴だぜ! そんなに俺様の手に掛かって死にたいか?】
【死ぬのはてめぇらの方だよ。ウダウダ言ってないでさっさと掛かって来な】
 指をクイクイと動かして敵を誘うクレナイ番長。その仕草に心底頭に来たのかレシーブ星人の額に大量の青筋が浮かび上がる。
【舐めやがって! そんなマッチ棒みたいなボディなんざこれで粉々にしてやらぁ!】
 怒号と共にレシーブ星人の左手から無数の弾が放たれた。それらが一斉にクレナイ番長に襲い掛かる。クレナイ番長が右足を軽く持ち上げる。
 そして、ひと呼吸置いた後、それを一閃の如き勢いで左上に蹴り上げて見せた。それから数秒した後、クレナイ番長の回りを弾が通り過ぎた後、全ての弾が綺麗に真ん中で真っ二つに割れてしまったのだ。
 その光景に思わずギョッとしたレシーブ星人。
【な、何だと! ただの蹴りで俺の弾を切り裂いただとぉ!】
【あたぃの右足はかみそり並に良く切れるのさ。そして、あたぃの左足はぁ―――】
 一瞬力を溜めた後、前に向い地面を蹴る。レシーブ星人との距離は100メートル近くあったにも関わらずその距離を一瞬で詰めてしまった。その一瞬に完全に出遅れてしまったレシーブ星人。そのボディに向いクレナイ番長の左足が突き刺さる。全身に電撃が走る感覚を覚える。
【あたぃの左足は稲妻の様に駆け巡るんだよぉ。こんな風にねぇ!】
 それから、怒涛の勢いでクレナイ番長の左足の連打が叩き込まれた。回し蹴りに踵落としに蹴り上げにニーキック。ありとあらゆる蹴りがレシーブ星人に向い叩きつけられていく。
 時間からして一分、いや三十秒程度だっただろうか。その頃にはレシーブ星人の全身はズタボロになり、立っているのすらやっとの状態となっていた。
【てめぇに掛けてやる慈悲の言葉なんてないよ。地獄の底で後悔しな!】
 啖呵を切った後、両足に紅蓮の炎を纏い、跳躍した。両足に纏った紅蓮の炎を連続して相手に叩き付ける。左右の連続した回し蹴り。それを一秒間に何十発もの勢いで叩き付ける。木戸茜の、クレナイ番長の決め技でもあるその技を食らったレシーブ星人の末路は既に決まっていた。
【くたばれ、紅蓮鳳凰脚!】
 トドメの一撃にと回転を加えた右足の踝でレシーブ星人の頭部を蹴り上げて上空へと跳ね飛ばしていく。遥か上空へと飛んで行った後、その場でレシーブ星人は爆発した。
 女は扱いやすい。そう思ったゴクアク星人達は、今日ある一つの格言を胸に刻む事となった。
 それは、【女は怒らせたら最も怖い】と―――。




     ***




 翌日、例のテニスコートは賑やかになっていた。と、言うのも其処を使っているのはテニス部ではなく茜の率いるスケ番グループ達なのだが。
 スケ番達全員がテニスラケットを片手に楽しそうにレシーブをしている。だが、彼女達がラケットで跳ね返しているのはテニスボールなどではなく、野球で使う硬くて痛い硬球であり、そして、彼女達の放つ先には逆さ吊りにされて全身血塗れとなっているゴクアク組の下っ端達の例の先輩であった。
「だ、だずげでぐでぇぇぇ!」
「的が喋るんじゃねぇよ!」
 少しでも口を開こうものなら顔面目掛けて硬球が飛んでいく。正に地獄絵図であった。そんな訳でテニスコートは彼等の鮮血でやっぱり真っ赤に染まっていた。
 そんな地獄絵図をコートの外で番と茜は眺めていた。
 茜はすっかり元通りになっており、元のスケ番になっていた。その横で番は座り込み、茜が作った弁当を食べていた。
「ったく、あたぃとした事が情けないったらないよ」
「ま、良いじゃねぇか。お前も元通りになって俺も安心したぜ」
「有り難うよ。全く、普通の女になろうなんて夢、持つんじゃなかったよ」
 溜息混じりに項垂れる茜。そのままの視線で茜は番が食べているおにぎりを見た。先輩に食べて貰いたい一心で作った弁当だったが、あんな奴にくれてやる気はない。だが、捨てるのも勿体無いと言うので番に挙げた次第である。だが、あの先輩の対応が全て演技だったとするならば、弁当の味ももしかしたら―――
「無理して食う必要はないよ。どうせ不味いんだろう? あたぃの弁当」
「そうでもねぇぞ」
「ん?」
「結構いけるぜ、お前の飯。意外と器用なんだなお前ってさ」
 おにぎりを食べながら茜に向い笑みを見せる番。そんな番を見て、茜はふっと笑みを浮かべながらその場を後にする様に歩いて行った。
「意外は余計だよ。意外は……ね」
 一言そう告げた茜の顔は、何処か満ち足りた表情を浮かべていた。だが、その時の茜の表情を見た人間はその場には誰も居なかった。
 只一人、彼女自身を除いて。




     つづく 
 

 
後書き
次回予告


「ゴクアク組の奴らがお袋を誘拐しやがった!
 俺と駒木のおっちゃんはお袋を助ける為に奴らのアジトに向ったがそれは奴らの仕組んだ罠だった!
 諦めてたまるか! 男は死ぬ寸前まで諦める訳にゃいかねぇんだ!」

 次回、勇者番長ダイバンチョウ

【死亡確立99.9%!? 男は最後まで諦めず走る生き物也】

次回も、宜しくぅ! 
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