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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos14幼き勇者たちの決意~Unbeugsam Wille~

 
前書き
Unbeugsam Wille/ウンボイクザーム・ヴィレ/不屈の意志

クロノ、ユーノ。ごめん、ごめんな・・・。

 

 
†††Sideルシリオン†††

俺は今日までどうやって無理なくなのは達に襲撃を仕掛けられるかと数通りのパターンを思案していたが、それは思わぬところからキッカケを得ることが出来た。追っていたロウダウナーが海鳴市に降り立ったのだ。
ロウダウナーには色々と思うところはあったが、デスペラードパーティで連中を潰さないで良かったとは思った。まぁ悪道から離れて正道を進んでほしかったと言うのも本心だったが。

(ああ、ツイている、ツイているぞ俺は!)

ロウダウナーに遅れて海鳴市に戻ったその時、偶然なのは達がフェイトとアルフ、そして信じがたいことにアリシアと再会を喜び合っていた場面だった。アリシアが生きていることについては目が飛び出しかねない程に驚いたが、それを表面に出ないように努めた。プレシアが死に、アリシアが蘇った。理解できない事態だが、すでに済んだことだ、気にはすまい。・・・本当はすごく気になるが。

(この機会、逃すわけにはいかない。すまないな、みんな)

フェイトが管理局員で、なのは達が一般人であることをシグナムとヴィータに知られないようにするためにシャルの無音結界を展開。おかげで真実を知らないままシグナムはアリサとすずかを撃墜し、ヴィータはなのはを撃墜、俺はアルフを凍結捕縛した。と、親友を墜とされた怒りや悔しさで半ば暴走しているフェイトが俺に仕掛けてきた。

(イリスやクロノに相当鍛えられたようだな。暴走気味でも鋭い斬撃だ)

柄が半分になっている“バルディッシュ”であるにも拘らずフェイトの斬撃の鋭さを残している。が、それでは俺に届かない。なのは達のリンカーコアを呼び出した“夜天の書”に蒐集させつつ、片手間で済む防衛に意識を割く。フェイトの流す涙の量が次第に増えていく。
止めたいところだがそうはいかない。フェイトの攻撃のクセは憶えている。だからこそ見ずとも相殺することが出来る。蒐集があと僅かで終わると言う時、フェイトは焦りからか大振りの一撃を繰り出してきた。

(レイジングハートはいい具合に破損しているな。なら、あとは俺がバルディッシュを・・・)

大きく破損させる。その破損が後にベルカ式カートリッジを取り込むことになる修復に繋がる。アリサとすずかのデバイスはどうなるか予測不能だが、多少の強化は施されるだろう。俺は“エヴェストルム”を振るい、“バルディッシュ”を大きく破損(だがコアが完全破壊しないよう)させ、フェイトの手から弾き飛ばす。涙を溢れさせている目を大きく見開くフェイトに穂先を向ける。

「しつこいぞ」

――煌き示せ(コード)汝の閃輝(アダメル)――

「おい、ランサー!」「待て、ランサー!」

シグナムとヴィータに制止を受けるが、問答無用でフェイトに閃光系砲撃アダメルを放つ。フェイトは成す術なく直撃を受け、大きく吹き飛んだ。それと同時になのは達のリンカーコアの蒐集を終え、いよいよフェイトの蒐集を始めようとしたところでアリシアが俺の前に立ち塞がった。デバイスを持たず、変身もしないところからアリシアは魔導師としては二流もいいとこ三流なんだろう。生前での彼女はEランクだったはずだ。

「・・・!」

アリシアの脚は震えていて目には涙を湛えている。明らかに俺を恐れている。それでも妹を守ろうと必死に俺の前に立ち塞がった。仲が良いようで何よりだよ。でも、すまないな。今の俺ははやての騎士なんだ。

「ランサー。まさかその娘のリンカーコアをも蒐集するのか? 防護服にすら変身していないのだぞ」

「さすがにそりゃ騎士として間違ってるだろ。犯罪者とは言え、武器も持ってねぇ奴から蒐集すんのはどうだよ」

シグナムには右肩を掴まれ、ヴィータには“エヴェストルム”を持つ左手首を掴まれた。まぁ、アリシアの魔力を蒐集してもすずめの涙程度だろう。俺は“エヴェストルム”を待機形態の指環に戻してからアリシアへと歩み寄って行く。アリシアは涙を拭うことなく俺を睨み付け、一歩も引こうとせずにフェイトを庇い続ける。

「そういうわけだ。しかしこのまま見逃すわけにもいかないんだ」

「っ!!」

右手の平をアリシアの顔へと持っていき「我が手に携えしは確かなる幻想」と詠唱。と、「い゛っ!?」アリシアが手に噛み付いてきた。必死の反撃。アリシアは俺が振り解かないと判るやさらに力を籠め始めた。子供の顎で人の手に噛み付くなんて、それだけで尋常じゃない力が要ると言うのに。

(そこまで俺が憎いんだな)

さらにアリシアは両拳をポカポカと俺の腹に何度も振り下ろしてくる。魔力付加もされていない単なる物理攻撃。痛くも痒くもない。逆にアリシアの拳の方が痛いだろうに。それでも彼女はやめようとしない。徐々に赤くなってくるその手を見、「待て」と空いている左手で止める。が、アリシアは掴まれていない左拳でなおも殴ってくる。

「それ以上は君の手が使い物にならなくなる。もうやめるんだ」

つい演技ではなく素面でそう言ってしまうと、アリシアは僅かに困惑の色は瞳に宿し攻撃をやめた。今がチャンスだ。アリシアの右手首を掴んでいる左手の平を改めて彼女の顔に翳す。

「おやすみ、アリシア・テスタロッサ」

――ヒュプノスの誘い――

「っ!?・・・・zzz」

相手を強制的に眠らせる複製術式を発動。アリシアは即座に夢の世界へと旅立った。倒れていく彼女を抱き止める。

「みんな」

「「「管制騎士(マスター)」」」

管制騎士マスターと名乗らせているシュリエルが“夜天の書”の側に転移してきた。ちなみに頭の方はデフォルメされたホッキョクグマ。

「もう蒐集を終え――ん? 待て、何だ、この状況は。夜天の主はやて(オーナー)と同じくらいの子供たちではないか・・・!」

シュリエルが俺たちの周りに倒れ伏しているなのは達を見、俺たちに非難の目を向けて来た。ここで俺はシュリエルにもジュエルシードやPT事件のことを伝えた。

「・・・ランサーの情報と言え信じ難い話だな。改めて情報の正否を確認するべきだ」

「私もマスターの意見に賛成だ。最悪我らは大きな失敗を犯したのやもしれんぞ」

「おいおいおい。場合によっちゃあたしらは勘違いでコイツらを潰したってことになるのかよ」

非難の視線が一斉に俺へ。さて、それじゃあ予定通りに怒声や罵声を浴びることにしようか。PT事件の情報を空間モニター2つに表示。PT事件は既に終わり、プレシアは死亡、フェイトは裁判にて無実判決を受けた、という最新の情報をみんなで見る。

「ランサー・・・・こんの・・・馬鹿ッッ!!!!」

「何故最新の情報を確認しなかった!?」

「ランサー・・・、お前はなんてことを・・・」

それを知るや否やヴィータの飛び蹴りが俺の腹を捉えた。シグナムには怒鳴られ、シュリエルからは冷たい視線をプレゼントされた。
その後、俺はなのは達を上級治癒術式のエイルで回復させて休憩所のベンチに座らせ、はやての待つ家へと帰った。必要なことだったとは言え、はやてにも怒られ、いや悲しませてしまうと思うと胃に穴が開いてしまいそうだ。が、「俺はもう、立ち止まるわけにはいかない」最後まで描いたシナリオ通りに事を進めなければ。それが俺の選んだ道の責任だ。

†††Sideルシリオン⇒イリス†††

ロウダウナーを追ってわたしとクロノはフェイト達が降りる予定地点の海鳴市は臨海公園へとやって来た。そこはかつてなのは達と別れの挨拶、再会の約束を交わした場所。懐かしい海鳴市の潮の香り、そして「さむっ!」冷たい海風がわたし達を歓迎してくれた。
もう少し懐かしみたいところだけど、今はとにかくなのは達の安否確認、そしてロウダウナーの居場所だ。まずはわたしにとって一番重要ななのは達の安否。でもわたし達は労することなくみんなを見つけることが出来た。近くの休憩所のベンチに寄り添うように仲良く並んで座ってるじゃない。

「ほっ。良かった。・・・なのはー、アリサー、すずかー、久しぶりぃ~~❤」

やっほーい、なのは達と逢うことが出来る。なのは達に向かって駆ける。クロノはわたしの背に向かって「しょうがないな。ロウダウナーの行方は僕の方で調べる」そう言ってくれたから、「ダンケ❤」振り向きざまに投げキッスをプレゼント。するとクロノは目に見えて顔を赤らめて、「さっさと再会を喜び合って来い馬鹿!」なんて怒鳴ってきた。照れちゃって可愛い♪

「シャルだよ~! ねえねえ、なのは、アリサ、すずか!」

背を向けてるなのは達にもう一度声を掛ける。でも誰もリアクションしてくれない。聞こえてない、ってことはありえない。もしかしてわたしを驚かそうとしてる? だったらどんな風に驚かせてくれるんだろう。ちょっと期待。

「な~の~は~、ア~リ~サ~、す~ず~か~♪」

手を伸ばせばもう届く距離だって言うのに、やっぱりなんのリアクションを起こさない。ここでようやくわたしはおかしいって思い始めた。

「ねえ、みんな・・・?」

真ん中に座って子供たちの体重を一手に引き受けてるアルフの肩に手を置く。だけど返事はない。眠っている・・・と言うよりこれは「ちょっと待ってよ、ねえ、どういうこと?」慌ててみんなの前に回り込んで意識を失ってるのを確認した。

「っ! うそ・・・。なんでよ! なんでこんなことになってるの! クロノ! なのは達みんな、意識を失ってる! リンディ艦長、ティファに連絡を!」

身体ダメージの有無を確認しながら、局に連絡を取ってるクロノに向かって叫ぶ。ハッとしてわたしに向いたクロノは「なんだと!?・・・っ、判った!」って強く頷いてすぐ本局の医務局への搬送申請をし始めた。

「一体何が、ううん、一体誰が・・・みんなをこんな目に遭わせた・・・?」

頭痛がする程に歯を噛みしめる。怒りでどうにかなりそう。ええ、許さない、絶対に。ああ、もしかしてロウダウナーの仕業? だとしたら・・・「ぶちのめす。局員とか教会騎士とか、どうでもいい」わたしの大切な友達を傷つけたその罪、償わせてやる。

「イリス! 近くにフェリスが航行中だそうだ。まずはそこにフェイト達を搬送する!」

フェリス。アースラと同じ巡航L級の1番艦。艦船には必ず医務官が乗艦することが義務付けられてる。時間を掛けて本局に搬送するより、まずは医務官に診てもらった方が良い。クロノに頷き返す。すぐになのは達の転送が始まった。順々に転送が続いて、最後にアリシアが転送された。

「イリス。僕たちも回収してくれるそうだ、いくぞ」

「・・・うん」

目の前のクロノが転送されて消えた。最後にわたしが転送される。こんな形で海鳴市に戻って来て、そして戻ることになるなんて。「はぁ」溜息を吐いて、海鳴市に小さく手を振った。
視界が白に染まって、次に晴れた時にはフェリスのエントランス。近くにはクロノ、そしてフェリスに乗艦しているわたしの幼馴染、「ルミナ・・・」が佇んでいた。
ルミナ――アルテルミナス・マルスヴァローグ。わたしと同じ聖王教会と管理局の両方に籍を置いてる、ある一芸に特化した騎士。ローズピンクの長い髪に、綺麗な翡翠の瞳。歳は13。階級は空曹長。
ルミナと初めて会った時、感情の揺らぎがあった。まぁリンディ艦長たちやなのは達と違って泣いたんじゃなくて、僅かな恐れと大きな悲しみを抱いた。けど今では超仲良し。メールの着信音、メールで~す♪ メールだよ~♪ メールだっつってんだろ~♪の最後を担当してる。

「あの子たちは医務室に搬送したよ、イリス。とりあえず落ち着いているって事だけど・・・」

「そう、ありがと。世話になるよ」

「クスクス。いいよ、気にしないで」

ルミナは特徴的な笑い声を漏らして笑顔を浮かべた。わたしも笑顔で応えようとするけど、なのは達があんなことになってるから笑みを作れない。すると、「ほら、私の部屋に案内するから休んで」ルミナに優しく肩を叩かれた。
そしてわたしはルミナの部屋に、クロノはフェリスの艦長、メサイア・エルシオン提督に挨拶するために、ルミナと一緒にブリッジに向かった。それから少し。ルミナの部屋で、フェイト達と一緒に海鳴市に向かわなかった自分に対してイラついていると、『イリス。あの子たちが目を覚ましたの。医務室に場所、判るよね?』ルミナからそう通信が入った。

「いま行く!」

部屋を飛び出して医務室へ向かう。途中、「クロノ!」と合流して、医務室へ向かって走る。そんな中、「悪い知らせがある」ってクロノが話しかけてきた。

「それ、今聴かないとダメ?」

「・・・これからなのは達から真実を聞かされるか、今すぐ僕から推測を聞かされるか、まぁ聞かずともいい話かもな」

クロノはかなり困惑しているよう。そんな表情を見せられたら「・・・・聴かせて」と言うしかない。

「先ほど、マルスヴァローグ空曹長に聴いたんだが、ロウダウナーが捕まったそうだ。・・・捕まえたのはパラディース・ヴェヒター。捕縛場所は第97管理外世界・極東地区、現地惑星名称・地球は陸上国家・日本、関東地区海鳴市、海鳴臨海公園。予測時刻は、日本における時刻で午前8時30分から9時00分までの間」

「・・・・は? なのは達が再会を喜び合っていた時刻に、あの公園でパラディース・ヴェヒターとロウダウナーが衝突していた、っていうこと?」

「おそらくだが。ここからが僕の推測だ。もしパラディース・ヴェヒターとロウダウナーが衝突しているのを、なのは達が目撃してしまったら・・・」

「たぶんフェイトが管理局員として戦闘停止を呼びかける・・・」

そこまでは容易に想像が出来た。正義感に目覚めたフェイトなら確実にそうする。でも「どうして全滅しちゃってるわけ?」パラディース・ヴェヒターが居たなら、なのは達があんな目に遭うわけがないはず。仮にも悪――犯罪者狩りをし、弱き者を助ける騎士集団だ。となればなのは達をロウダウナーとの戦闘に巻き込まないようにするはず。それなのになのは達が意識を失うような事態になるなんて・・・。

「パラディース・ヴェヒターは魔導犯罪者を許さない。もしなのは達が戦闘に介入し、ロウダウナーを少しでも庇うような真似をしたら・・・」

「間違ってなのは達を撃墜した・・・!? ・・・待って、ちょっと待って。ありえないよ、クロノ。フェイトならまず名乗るはずだよ」

局員なら当たり前の行動だ。わたしだって介入時にはわざわざ告げる、名前を、管理局員であることを、どこの所属でなんの役職・階級に就いているかを。もしフェイトが名乗ったうえで、ロウダウナーとの戦闘に巻き込まれたんだとしたら。パラディース・ヴェヒターは管理局に敵対行動を取ったっていうことになる。であれば、騎士たちが逮捕の標的になっちゃう。

「その推測が正しいものか、これから聞けるだろう」

「・・・・うん」

医務室に辿り着いて、スライドした扉を潜って室内に入る。と、「あ、シャルちゃん、クロノ君!」ベッドの上に座ってるなのはが満面の笑顔で大手を振っていた。

「何よ、シャル。ひっどい顔してるじゃないの」

「大丈夫シャルちゃん?」

「・・・馬鹿。わたしのことなんかより自分たちのことを考えてよ・・・!」

なのはとは違ってソファに座ってるアリサとすずかも笑顔を浮かべてる。でも「フェイト・・・?」だけは俯いていて、傍に居るアルフとアリシアがフェイトの手にそっと手を添えている。翳りのあるフェイトの表情は見ていて辛い。なのは達とは違ってフェイトにだけは何かあったのかもしれない。

『ハラオウン執務官。イリス。彼女たちの診察結果なんだけど、悪い知らせがある』

ルミナが思念通話でそう言ってきた。無言で先を促すわたしとクロノ。

『彼女たち、リンカーコアに僅かばかりのダメージを負ってた。今までに似たような症例があるって、エコさんが言ってた。その患者と言うのが――』

『『魔導犯罪者・・・!』』

医務室のデスクでカルテを見てるフェリス付の医務官、エコさんに目をやる。エコ医務官は頷きで応えてくれた。

『うん。高町なのは、アリサ・バニングス・月村すずか、フェイト・テスタロッサ、アルフ。どうしてかアリシア・テスタロッサを除く彼女たちは、パラディース・ヴェヒターにリンカーコアを吸収された』

「うそ・・・」

「「シャルちゃん!?」」「シャル!?」

その場にへたり込む。リンカーコアを引き抜かれた対象は魔導師として再起不能にされる。なのは達はもう、魔導師じゃないの? その絶望がわたしの全身から力を奪い去って行く。ベッド・ソファから降りてわたしに駆け寄って来たなのは達に、両肩を支えられた。

「最後まで聴いてイリス。不思議なことにこの子たちの体やリンカーコアには治癒系魔法で回復された形跡があったって。ロウダウナーのように局施設に連行もされてないし。イレギュラーが起きている」

ルミナにそう言われ、なのは達に目をやると、「にゃはは。ちょっと辛いけど、魔力を使えるよ」なのははそう微笑んだ。アリサやすずかも「うん」って頷いて見せてくれた。

「みんな。申し訳ないが、何があったのか話してくれ」

クロノがなのは達を順繰りに見てそう言った。なのは達は一度フェイトに目をやった後、海鳴臨海公園で何が起きてのかを教えてくれた。まず3人のロウダウナーが現れて、次にパラディース・ヴェヒターのランサー、セイバー、バスターが現れた。直後に一方的な形でロウダウナーを撃墜、そしてリンカーコアの奪取。
それを見たアリサが真っ先に怒りだして騎士たちの前へ。アリサがフェイトの名前を出して、ランサーが反応。PT事件のことを挙げてフェイトを魔導犯罪者として認定、それに連なるなのは達もまた仲間として認定されて・・・撃墜された。ランサー、フェイトの名乗りを聴かずに名前だけで犯罪者認定したんだ。最後まで聴け、まったく。

「なんでだい・・・! あの事件も、フェイトの裁判も、全部終わってるのに・・・! どうして犯罪者呼ばわりされなきゃダメなんだよぉぉーーーー!!」

アルフが牙を剥いて怒りを露わにした。それを聴いたなのは達がフェイトの側に寄って行く。フェイトが落ち込んでいる理由はソレだ。自分の所為でなのは達が巻き込まれた、きっとそう思ってるんだ。

「それで何故アリシアだけは見逃されたんだ?」

どうしてアリシアだけが無事だったのかって話になる。アリシアはポツポツ話し始めた。ランサーにリンカーコアを回収されそうになったところで、セイバーとバスターに助けられたって。そのおかげでアリシアは助かって、魔法によって強制的に眠らされた、と。

「あの、シャル、クロノ。パラディース・ヴェヒターが持ってた本なんだけど・・・」

「「本?」」

「うん。フェイト達のリンカーコア、と言うよりは魔力を吸収してるみたいだったから」

「魔力を吸収する本・・・、まさか!」

アリシアから聞かされた話にクロノは大きく目を見開いて顔を青褪めさせた。そして「特徴は憶えていたりするかアリシア?」って訊いた。

「特徴・・・、表紙に変わった十字架があった、と思う」

「っ!・・・イリス。これから忙しくなるぞ。確信じゃないが、パラディース・ヴェヒターの正体が割れた」

クロノから告げられた騎士たち、そしてアリシアの見た本、その正体。わたしもようやく思い出すことが出来た。リンカーコアを喰べてページを埋めていく魔導書のことを。

†††Sideイリス⇒なのは†††

「ごめん。私と一緒に居たから、私の所為で、なのは達が傷ついた・・・。本当にごめんなさい」

本局に着いてすぐ。私たちは待っていてくれたリンディさんとエイミィさんと挨拶を交わして(リンディさんにはこうなったことに対して思いっきり謝られちゃった)、一緒に居たティファさんに医療区画に案内されることに。
無傷なアリシアちゃんと完治してたアルフさんはリンディさんやクロノ君、シャルちゃん達と一緒に何かの確認をしに行くってことでアースラへ。エイミィさんは、私たちが預けたデバイスを持ってメンテナンスルームっていうデバイスを直すための施設へ向かった。そしてティファさんの指揮の下に始まった私たちの検査の最中、フェイトちゃんがいきなり涙を零しながらそう謝ってきた。

「そんな! 待って、違う、フェイトちゃんの所為じゃないよ!」

「そうだよ、あれは向こうの勘違いの所為なんだし」

「そうよ、フェイト。気にすることじゃないわ」

「でも・・・でも! あの人たちが私を狙ったから――っ!」

私たち3人でフェイトちゃんを抱きしめた。そう、フェイトちゃんは何も悪くない。そしてパラディース・ヴェヒターの人たちもきっと悪くない。本当に悪い人たちなら、犯罪者の人たちだけじゃなく、初めから私たちのような高魔力持ちの一般の人たちにも手を出すと思うし。そうはしなかったのは、単純にリンカーコアを集めるのを良しとしていないから、と思う。

「違うよ、フェイトちゃんの所為じゃない」

「でも・・・」

「でも、じゃないわよ。あたし達がこうなったのは、フェイトの所為じゃない」

「でもみんなも傷ついて、デバイスも壊されて・・・」

「それは私たち自身の問題だって思うんだ。私たちの力不足。たぶんそれだけ」

私たちが襲われたのはあの人たちの勘違い。体やデバイスが傷ついて、負けたのは私たちが弱かったから。ほら、フェイトちゃんの責任なんてどこにも見当たらない。運が悪かったんだ、きっと・・・。

「もう泣かないでフェイトちゃん」

「そうよ。せっかく再会したんだもの。笑わなきゃ損よ」

「フェイトちゃん。ほら、ニッ♪」

「「ニッ♪」」

「なのは、アリサ、すずか・・・。ごめ――ううん、ありがとう。えっと・・・ニッ♪」

みんなで笑顔を作る。そうして検査も終わって4人でお喋りしながら結果を待っていると、「検査結果が出たよ」ティファさんがやって来た。

「エコから受け取った検査結果と大して変わらなかった。身体ダメージは完治、リンカーコアは僅かなダメージを負ってた」

検査結果は、体には異常なし、でもリンカーコアがちょっと傷ついてる所為で少しの間魔法が使いづらいかもしれない、ということ。

「しばらくの間は大きな魔力を使わないようにね」

「「「「はい。ありがとうございました」」」」

検査結果を聴き終えてすぐ、「ティファ、終わった?」シャルちゃんがやって来た。ティファさんは「オールクリア。いつでも連れて行っていいよ」って私たちを送り出す。そして私たちはシャルちゃんに案内されてメンテナンスルームに来た。と、「いらっしゃい」白衣を着た女の人が私たちを出迎えてくれた。

「みんな。彼女はマリエル・アテンザ。デバイスマイスターっていう魔導師用デバイスの製作・管理を行う資格を持ってる技術官よ」

「マリエルです。よろしくね」

「「「よろしくお願いします」」」

「デバイス・・マイスター・・・かぁ。あ、よ、よろしくお願いします!」

私とアリサちゃん、フェイトちゃんはすぐに挨拶を返したけど、すずかちゃんだけが何かを呟いた後、遅れて挨拶を返した。何か気になるものでもあるのかなこの部屋、ってちょっと見回してみる。

「マリエル。なのは達のデバイス、どんな感じ?」

「えっと、レイジングハートとバルディッシュっていう子の破損はコアの方にまで及んでいてすぐには直せないかな。フレイムアイズとスノーホワイトっていう子は上手くコアを避けられて壊されているから、すぐに直るよ」

「あの、近寄ってもいいですか?」

「もちろん」

私たちはそれぞれ自分のデバイスの前に立って、「ごめんね」謝る。バスターちゃんの攻撃の苛烈さを思い出す。あと、謝りたいことがある。帽子を壊しちゃってごめんね、って。牽制のために撃ったディバインバスター。それがバスターちゃんの帽子を壊しちゃった。だからバスターちゃんはあんなに怒って。身を守るためでも、やっぱり大切なものを壊しちゃったのは悪い事だから。

「・・・ねえ、シャル。クロノやあんたの話だと、パラディース・ヴェヒターってヤバいロストロギアに関係してるんでしょ?」

「・・・アリシアに確認してもらったから間違いないと思う。楽園の番人パラディース・ヴェヒター。その正体は、第一級捜索指定ロストロギア闇の書、その守護騎士ヴォルケンリッター」

“闇の書”。ジュエルシードと同じロストロギアって呼ばれるもので、リンカーコアから魔力を蒐集して666ページを埋めていくっていう魔導書。守護騎士っていうのは、“闇の書”の主を護って、そしてページを埋めていく実行者、とのこと。

「でもおかしいんだよね。守護騎士は4人のはず。1人多い」

「その余分な人が、闇の書の主ということなのかなぁ・・・?」

「闇の書の主の可能性として一番高いのはランサーなの。剣の騎士、鉄槌の騎士、湖の騎士、盾の守護獣。それが守護騎士たちの通り名。外見や名前は不明だけど、この通り名だけは以前から記録されてるから」

シャルちゃんが私たちの前に空間モニターを5つと出した。表示されているのは女の人2人、男の人2人、女の子が1人。

「ランサー、セイバー、バスター。今回は別行動だったヒーラーとガーダー。この5人でパラディース・ヴェヒター。ランサーを主として見ると、剣騎士セイバーが剣の騎士、鉄槌騎士バスターが鉄槌の騎士、防護騎士ガーダーが名の通り盾の守護獣――見た目人だけど。そして治癒騎士ヒーラーが湖の騎士、と見ていいかな」

そう言ったシャルちゃんは少し沈黙した後、「みんなに伝えておくことがあるの」そう言って私たちを順繰りに見ていく。

「さっき上層部から正式にアースラに対してある任務が言い渡された。パラディース・ヴェヒター改め、闇の書の守護騎士ヴォルケンリッター、そして主の捜索・逮捕を。パラディース・ヴェヒターは確かに多くの魔導犯罪者を狩り、次元世界に僅かとは言え平和をもたらした。
その成果は上層部も認めてる。だけど、それ帳消しするだけの危険性を孕んでいるのが闇の書。何としても魔力蒐集を止めさせ闇の書の完成を阻止せよ、それがアースラに与えられた仕事なんだけど・・・」

シャルちゃんが私たち、というよりはフェイトちゃんを見て言い淀む。フェイトちゃんも自分に向けられた視線に気付いて、「どうしたのシャル?」って訊いた。

「・・・フェイト。リンディ艦長たちは、あなたやアリシア、アルフと一緒に海鳴市に引っ越すことなる」

「う、うん」

「そして今、アースラはフルメンテナンスの為にドック入りしてる。その中での闇の書捜索の担当となった」

「え、うん、知ってる・・・」

「回りくどいわよシャル。早く本題に入ったら?」

「判ってる。本局の観測部の情報によると、守護騎士たちの転移ルートや行動範囲から見て、連中の本拠地は地球で間違いないって事なの」

「「「えっ?」」」「んなっ?」

シャルちゃんのその話に私たちは驚いた。次元世界の有名人が、私たちの住む世界・地球を本拠地にしているなんて。

「複雑な多重転移、広範囲での活動で目晦ましされてるけど、観測部のエースがそう断言したから十中八九間違いない。で、ここからが本題。捜査本部を一時、海鳴市のマンションに移すことになったの。わたしもついて行けることになって超ハッピー♪」

「「「「・・・・え?」」」」

それが本題なの? 確かにシャルちゃんも一緒に海鳴市に引っ越してきてくれるならすごく嬉しいことだけど、ここまで引っ張るに値するかどうかはちょっと別かもだよ。

「ちなみに本題はまだ続いてるからね。んで、フェイトはなのは達と同じ学校に通う生徒になる」

「それも知ってる。なのは達にもビデオレターで教えてあるし」

「「「うん」」」

「あーもうっ、ホント羨ましい!・・・コホン。フェイト。あなたは嘱託とは言っても外部協力者の域を出ない魔導師なの。だからね・・・今回の闇の書捜索に、手を貸さなくてもいいんだよ」

「・・・え?」

「フェイトもアルフもアリシアも、せっかく人並みの人生を歩めるようになったんだ。今回だけに限らず他の事件捜査時にアースラが動く時だって、フェイトはなのは達と日常を楽しんでいいと、わたしは思う」

「シャル・・・」

「ちなみにこれはリンディ艦長やクロノの考えも含まれているから。フェイト。素直に、自分の思うままにしていい。わたし達は、あなたの自由意思を尊重する」

シャルちゃんが言いたかったのはそれだった。“闇の書”捜索も、これから起きであろう事件捜査も、たとえアースラが動いていてもフェイトちゃんは自由にしていいって。シャルちゃんの提案にフェイトちゃんは何て答えるんだろう。フェイトちゃんの性格からしてきっと・・・。

「ごめん、ありがとう、シャル。気遣ってくれているんだよね、リンディ提督も、クロノも」

フェイトちゃんは自分への気遣いが嬉しいみたいで微笑んだ。でもすぐに真剣な、凛とした表情に代えて「でもそれは逃げの道だと思う」って言った。

「嫌なこととか危ない事をせずなのは達と一緒に過ごす、それはすごく楽しいだろうし幸せだと思う。でも、だからと言って魔導師としての道から背くのだけはしたくない。私は管理局の魔導師としてこれからも魔法を使いたい。何かを助けたり救えたりする力を持っているなら、それを困っている人たちの為に使う。それが私の選んだ道だから」

「フェイトちゃん・・・」

「フェイト、あんた・・・」

すずかちゃんとアリサちゃんがフェイトちゃんの言葉に感嘆してる。私もそう。同い年なのに、もうしっかりと自分の進みたい路を見通してる。すごい、そんな言葉しか出せないのがなんか悔しい。

「シャル。闇の書捜索、私にも手伝わせて。このまま、負けたままで終わるわけにはいかないんだ。あの騎士たちを止める手伝いを。・・・お願い」

「・・・言ったでしょ。わたし達はフェイトの自由意思を尊重する。手伝ってもらうよ、フェイト」

「うん!」

シャルちゃんとフェイトちゃんが握手を交わした。だったら・・・。

「シャルちゃん、私も!」

「あ、わたしも手伝う!」

「あたしもよ! 負けたまんまじゃ悔しすぎるわ!」

思いはそれぞれだけど、このままじゃ終われないっていう思いは一緒。シャルちゃんは少し困ったような表情を浮かべた後、「オーケー。一緒にリンディ艦長を説得しよう」笑顔を浮かべた。

「マリエル。なのは達のデバイス、修理が終わるのはいつ頃?」

「基礎構造の修復の後に再起動、そこから部品交換をしないといけないから・・・。人手にもよるけど1週間くらい、かな」

マリエルさんがシャルちゃんにそう答えて、「部品の発注しないと」って言ってどこかに連絡を取り始めたのを見ていると、シャルちゃんが「ほら、行くよ」メンテナンスルームから出て行こうとしたから追いかける。

「これからリンディ艦長に、なのは達の捜査参加の許可を取らないとダメでしょ」

「「「うん」」」

私とアリサちゃんとすずかちゃんも“闇の書”捜索を手伝わせてもらう許可を得るためにリンディさんの所へ向かう事にした。


 
 

 
後書き
タロファ。
前書きでも謝ったが、ユーノ、クロノ、ごめんな。出番をガリガリ削って。男の子より女の子が優先される作品なんだよ、『魔法少女リリカルなのは』シリーズは・・・。可愛く美しく、男に負けない程に強く、男より漢らしく、格好良く・・・なんなんだ、彼女たちはホント。男としての立つ瀬がないじゃないか。
とりあえずユーノ。お前の活躍はEpisodeⅥの予定だ、それまで待つべし! そしてクロノは・・・ちょくちょく出す・・・?
 
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