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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos8選択の刻~Resolve~

 
前書き
あけましておめでとうございます。新年一発目です。今年もよろしくお願いします! 

 

次元世界の秩序を管理する司法機関、時空管理局。次元空間内に浮かぶ、その時空管理局の本部である巨大な艦・本局のとある部屋。そこは光源の無い真っ暗な部屋だった。

『それではこれより権威の円卓による、時空管理局評議会を開会いたします』

しかしそんな厳かな声と共に真っ暗な部屋に空間モニターとホログラムと言う光源が生まれる。部屋の内装がうっすらだが露わになる。部屋の中心には円卓が置かれ、周りに13の椅子が設けられている。
人のホログラムは椅子に座っている様で投影されており、そのホログラムの人数は13脚中8脚、つまり8人だ。そして別の3脚の椅子にはホログラムではなく3つのモニターが展開され、それには人の顔ではなく時空管理局のエンブレムと、ローマ数字のⅠ、Ⅱ、Ⅲが表示されていた。残り2脚には何も投影されていない。空席なのだろう。

時空管理局評議会。旧暦の時代に次元世界を平定し、時空管理局設立後にその一線から退いた3人が、その後も次元世界を見守るために作った組織・最高評議会と、彼らが掲げる理念の下に集った10人の管理局員や民間協力者から成る、管理局の運営とはまた違った事柄を決めるための組織で、通称、権威の円卓。
ちなみに最初に開会を告げたのは、最高評議会の世話をしている女性局員だがその姿はここにはなく、モニターにも表示されていない。だがその声をルシリオンが聴けば1発でその声の主の姿と名前を当てることが出来ただろう。

『サブナック一等空佐とガアプ特別技能捜査課長が本会議にて提示したい案件があるとのことだが』

僅か3人しかいない最高評議会、その評議員の立場にあるリョーガ評議員が、2人のホログラムを指名した。1人はロッキー・サブナック。時空管理局本局直属・航空武装隊の内、上層部のごく僅かしか知られていない暗部である第1111航空隊、通称オンリーワンの隊長。任務が無い時は戦技教導隊に就き、または他の航空隊に出向する。
もう1人はクー・ガアプ。22歳という若い女性だが、階級は一等陸佐を頂いている。特殊な固有スキルを使って捜査を行う特別技能捜査課の全部隊を纏める課長だ。

『すでに耳に入っている方もいると思いますが、ここ3ヵ月ほど次元世界で暴れている魔導師がいまして』

『魔導師と言うよりは騎士ですね、ベルカ式を使っているので。名はランサー。明らかにコードネームですが、その実力は圧倒的とも言えるものです』

ロッキーとクーがそう告げ、円卓の中央に球体型の空間モニターを出した。そこに映し出されているのはランサーことルシリオンだ。アースガルド同盟軍の軍服型の騎士甲冑を纏い、柄の上下に長い穂の有る槍・“エヴェストルム”を携え、デフォルメされたチーターで素顔を隠し、管理局に指名手配されている魔導犯罪者を問答無用で襲撃し、偶然遭遇した犯罪者もその場で潰し、その後は管理局施設に連行し、そして立ち去って行く。

『3ヵ月余りでこのランサーに捕縛された指名手配犯や犯罪者は202人。そのどれもが魔導犯罪者です。その者たちの魔導師ランクは、最低はCから最高はAAA-まで』

『武装隊隊長の平均ランクであるAAを超える相手すら軽く捻ってます』

偶然撮影されたルシリオンと高ランクの魔導犯罪者との差しでの勝負や対多数戦闘がモニターに映し出される。いやそれはもはや戦闘と呼べるものじゃなかった。それは一方的な蹂躙だった。映像が終わると、その戦力の高さにほぼ全員が、口が塞がらないと言った風に放心していた。
メンバーの中には腕に覚えのある魔導師も居た。が、その者ですらその圧倒的な戦力には呆れ返るしかなかった。しかしただ1人だけ放心せずに『面白い奴じゃないか。俺の実験素体にしたいくらいだ♪』と笑みを見せる者も居た。メンバーの中で唯一大人ではない12歳くらいの少年で、笑みを作ると八重歯が目立つ。

『古代ベルカ式の戦い方だが、使ってる魔法はベルカ式と言うよりミッドチルダ式に近いな。ハハ、見てみろ。数の差なんて無いようなものだ。お前たちもそう思うだろ?』

拍手をしながらルシリオンと魔導犯罪者数人の戦闘を観戦する少年。

『・・・・俺たち1111航空隊は、このランサーを管理局にスカウトしたいと思っているわけで』

『おい、無視するなよ』

『スカウトだと!? 馬鹿を言うな! 犯罪者だぞ、これは!』

『お前も無視して話を進めるな、レジアス・ゲイズ少将・・・ではなかった、最近中将になったんだったな?』

ぼやく少年にレジアスと呼ばれた厳つい顔の男性が、ロッキーが提案したルシリオンのスカウト推薦に対し猛烈な反対意見を示した。

『フンッ。犯罪者風情が私に話しかけるな』

『イエス・サー、ルテナント・ジェネラル・ゲイズ』

小さくお手上げしてそう返した少年にレジアスはまたも『フンッ』不快そうに鼻を鳴らした。

『確かに手放しで褒めることが出来るわけではないと思いますが、少なくとも彼のおかげで逮捕に苦労する魔導犯罪者が捕まっているわけですし』

『それに。これほどの実力者を管理局に迎え入れることが出来れば、犯罪件数も減るかと思いますが?』

『どうせまた、お前たち海の連中が持っていくのだろう!? いつもそうだ。優秀な魔導師や戦力はみんな、本局が持っていく!』

『それは・・・』

第1世界ミッドチルダの地上本部を預かってそう間もないレジアス。彼は地上事件における人員・戦力不足に悩んでいた。しかしそれも仕方の無いことだった。地上と次元の海では犯罪の規模が違うのだから。とは言え地上を蔑ろにしているわけではないのだが。
ただ、戦力足り得る魔導師の数が少ないのだ。確かにレジアスもルシリオンの圧倒的な戦力に魅力を感じていたが、犯罪者とは言え襲撃しているルシリオンのやり方にはどうしても自らの正義感から反感を覚えてしまうのだった。

『ま、とりあえず。このランサーっていう奴と話さないとダメだな。この男の目的なども判ってないのだから』

『その目的ですが、ランサーに襲撃された魔導犯罪者は全員、リンカーコアに深刻なダメージを受けており、戦闘魔導師としては再起不能と診断されています』

クーのその話に、『どこかで聞いたことのある話だな』と反応する少年。

『実に面白い奴だ、ランサー。俺も賛成しよう。ランサーの管理局に組み込む(スカウト)に。なぁに。ランサーに何らかの脅しをかけて強制的に俺たち、権威の円卓に引き込めばいいさ。ちょうど席が空いているしな』

少年はそれだけを告げて、本評議会が閉会する前に退場した。少年が映し出されていたモニターは消え、空席である2脚と同様に寂しいものとなった。しかし評議会は続行される。ロッキーとクーの案件に対する賛否の確認だ。過半数の賛成を得、なおかつ最高評議会の代表・デュランゴ議長の最終決定が下ると、猶予付き可決としてデュランゴ議長の終了宣言までその案件は続けられる。

『サブナック一等空佐、ガアプ特別技能捜査課長の案件、魔導犯罪者狩りの騎士、ランサーを管理局へスカウト。賛成の者は、賛成の意を述べよ』

リョーガ評議員がそう告げると、デュランゴ議長とレジアス以外のメンバーがそれぞれ『賛成』と述べていく。が、デュランゴ議長は無言で、レジアスだけが『私は反対だ』と反対意見。1人でも反対意見が出た場合、徹底的に話し合って反対者の意見を変えさせる。もしくはデュランゴ議長の鶴の一言で反対者の意見を切り捨てる、となる。
ここからはレジアスを納得させて賛成意見に変えさせるか、彼の意見を問答無用で切り捨てるか、だ。しかしメンバーはレジアスを納得させることにし、話し合った。結果、レジアスも『スカウトに賛成する』と意見を変えた。

『これほどの戦力を野放しにしておくのは勿体ない。この案件を、可決する』

そして最後にデュランゴ議長の可決宣言。この瞬間、ルシリオンは時空管理局評議会・権威の円卓のターゲットとなった。

†††Sideルシリオン†††

「はぁ。疲れた」

さすがにこの3ヵ月間、毎夜次元転移を繰り返し馬鹿どもの相手をしていると疲れが溜まってしまう。それで動きや思考に支障が出てミスするといけないと思い、いつもは4時半に帰ってくるところを今日は犯罪者狩りを早々に切り上げて2時半に帰ってきた。
玄関のドアを開け、音を立てないように中に入り自室へ向かおうとしたとき、「ルシル君?」リビングの入り口からパジャマ姿のシャマルが姿を現した。

「どうしたの、こんな時間に? それにその格好・・・、どこか出掛けていたの?」

「少し野暮用があってね。シャマルはどうした?」

「ちょっと星空を見ていたの。とても綺麗だったから。でもちょっぴり昔を思い出しちゃって」

シャマルは語った。オーディンと死に別れたその日もまた、今日のように星空が綺麗だったのだと。俺もそれを聴いて思い出す。エリーゼを横抱きして夜天を空翔けたあの日のことを。

「そっか。でも体が冷えるかもしれないから、そろそろ休んだ方が良い」

「ええ。これから寝るところよ。おやすみなさい、ルシル君」

「おやすみ、シャマル」

心が休まる微笑みを見せてくれたシャマルは自室の在る2階へと上がって行った。彼女を見送って俺はダイニングへと入り、水を一杯飲んでから自室へ戻った。私服のTシャツとズボンを脱いでフリースのパジャマに着替えてベッドに腰掛ける。そして「AAランクが3人、か。まずまずだな」今日の収穫であるリンカーコアの持ち主である魔導犯罪者との戦闘を思い返す。
ランサーの名とその行いが次元世界に亘り、俺のターゲットにされたと知った魔導犯罪者は降伏してきた。だが・・・俺は問答無用で潰してやった。もっと畏怖してもらわないと、な。犯罪者には徹底抗戦を行う騎士。罪のレベルが高ければ高い程、連中の被害者や一般人からの支持が高くなる。今のうちに民衆からの印象を少しでも良くしておかないといけない。

「――っと。今日もまたリーゼから情報が来たな」

通信端末に、リーゼアリアから暗号化されたレベル4以上の捜査資料データが届いた。俺はリーゼ、正確にはグレアム提督と協力関係を結んでいる。それは3ヵ月前。彼女たちが俺の前に現れ、そしてアリスの転生体であるセラティナと邂逅したあの日。俺は取引を持ちかけた。

◦―◦―◦回想だ◦―◦―◦

セラティナの発動させた結界魔法、一方通行(サンダルフォン)の聖域を破壊し、それに驚くリーゼ達に向けて取引を持ちかけた。真っ先に反応するのはやはり「取引?」アリアだった。ロッテはショックで放心しているセラティナを慰めるかのように肩をポンポンと叩いている。

「そう、取引。あなた達が狙っているのは闇の書。第一級捜索指定のロストロギア。無限転生を繰り返し、完成前では破壊も封印も困難で、完成後もまた完全破壊・封印不可とされている物」

「「っ!!」」

“夜天の書”の特性を知っていることに驚いているリーゼと、話について行けずに呆けているセラティナを尻目に「取引というのは、闇の書の終焉を約束する、というものだ。だから、これから俺たちが行うことを全力で見逃してほしい」そう言い放ってやる。

「んなっ!? 一体何を根拠にそんなことを――」

「あなた達は完成後、暴走直前の僅かな停滞期に氷結封印する、とか考えているんじゃないか?」

口をパクパクさせて何かを言おうとしているリーゼ。しかし驚き過ぎて舌が回らないようだ。だが何を言いたいかは判る。どうして知っているのか、だ。

「でもそれは叶わない。何故ならその程度で封印されるほど弱くないからだ。それに、封印後に氷結世界に隠したとしても、誰かがいつか見つけるかもしれない。となれば、封印解除は難しくない。ただの強力な氷結封印だから」

さらに続ける。リーゼが狙っているタイミングでの氷結封印は、はやては封印されるだけの罪じゃなく、封印を決行すれば逆に違法となる。それはリーゼが守るべき管理局法で、それを破るわけにはいかないだろう、と。

「あんた本当に何者だい? 絶対に見た目通りの奴じゃないね?」

敵意と警戒心を剥き出しにして背中を丸めるようにしてロッテが身構えた。猫の姿だったら毛を逆立てているところだろう。

「まずは知ることから始めるものだよ、戦いは。その事からこうして取引を持ちかけた。闇の書の終焉を約束する。その代わり犯罪者狩りを見逃してほしい、って」

「だから何を根拠にそんな取引を持ちかけてきたわけ? 氷結封印以外に闇の書を停止することは出来ないわ。今までは艦載砲で蒸発させてきたけど、それもその場凌ぎにしかならない。もう・・・氷結封印しか手は無いのよ!」

苛立ちを見せていたアリアがついに怒鳴り声を上げた。ビクッと肩を跳ねさせるセラティナが可哀そうに思えるが、いつかこの経験が成長を促すだろう。恐い事も悲しい事もじかに感じて、一人前になるんだから。

「封印以外の手があると言うのなら言いなさい! その方法を知る権利ぐらいあたし達にもあるはずよ!」

「簡単なことだよ。まずは闇の書を完成させる。だから俺は今こうして魔導犯罪者からリンカーコアを回収している」

今回の一件で奪ってきた9個のリンカーコアを“神々の宝庫ブレイザブリク”から取り出して見せつける。と、「ひどい・・・」セラティナが身震いした。これがかなりショックで、堪らず肩を落としてしまった。だってアリスの顔と声をしたセラティナから非難を受けたんだ。ショックを受けても仕方ないじゃないか。

「あ、ご、ごめんなさい。悪い人たちだったんですよね。きっとこれが報いを受けた、ってことですよね? うん、罰を受けたんだ。自業自得なんだ」

さらりと恐いことを言うセラティナ。リーゼもそんな彼女の言葉に怒りを忘れて呆けた。

「こ、こほん。で? さっきの続き。あなたはどうやって闇の書を停止させるつもり?」

「暴走している管制システムを掌握するんだよ。もちろん俺じゃなくて、最後の主であるはやてが」

「ハッ、馬鹿言うんじゃないよ。そんなことできるもんかっ。闇の書は、主であってもコントロール出来ない、ぶっ壊れた欠陥品なんだよっ!」

「そう。アレは主ですら害する毒よ。それをあんな子供が管理下に置けるわけがない。君の案は破綻するわ。そんな成功率が限りなくゼロに近い案を呑むわけにはいかないわ」

「あなた達ははやての何を見ていたのか。彼女は今までの力に溺れただけの連中とは違う。騎士たちを家族として見ている。闇の書に対してもそう。ただの道具とは見ていない。心構えが違う。はやては闇に呑まれない。それに俺が、俺たち騎士が、はやての心を支えるのだから」

「かっこいい・・・」

「そんな簡単なことで・・・呪われた闇の書を停止できるわけが――」

「出来る」

「そんな自信、どこか――」

「確信だよ、リーゼロッテ。闇の書は、はやてを最後の主として終焉を迎える。絶対だ」

「「・・・・」」

リーゼと真っ向から目を合わせ逸らさないようにする。こちらが本気であり、嫌でも取引に応じさせるために。リーゼも目を逸らそうとしない。そんな不毛な時間が少し続き、そして・・・アリアがようやく口を開いた。

「本当に出来るわけ? 管制システムを掌握することが?」

「アリア!? ちょっ、アイツの取引に応じるつもり!? あんな確率的にも上手く行かない話を信じて!?」

「あの目。父さまと同じ。何を犠牲にしても、他人にどう思われても、必ず目的を果たそうとする、あの強い意志が宿った目」

「・・・・っ」

リーゼがついに折れた。彼女たちの主であるギル・グレアム提督にこの件を話し、その結果如何によって協力関係を結んでくれると約束してくれた。

◦―◦―◦回想終わりだ◦―◦―◦

あれからグレアム提督と通信で話し、協力関係を結んだ。必ず“夜天の書”を、周囲に修復不可能な被害を出すことなく停止させることを条件として。
他に俺の手助けとして、“夜天の書”を完成させるために必要な魔力の持ち主である高ランク魔導犯罪者の資料も流す、とも。それはまだ回収していないレベル4以上の重要案件で、魔導犯罪者の強さもまた一線を画す。ま、端から潰しにかかると決めている以上は後れを取らない雑魚に過ぎないが。

「資料データの受け取りを確認、グレアム提督によろしく、っと」

そう返信して資料を読み漁る。中にはS-ランクの魔導犯罪者もいる。これは大助かりな情報だ。一気にページを稼げる。

(グレアム提督とリーゼ達の為にも頑張らないとな)

かつてのグレアム提督は、はやてを犠牲にすることに胸を痛めていた。だがそれでも“夜天の書”封印を成さないといけないとして、仮面の男――リーゼを使って暗躍を続けた。俺の取引に応じてくれた理由として、はやても犠牲にしない、ことが含まれていたこともあると思っている。誰だって嫌さ。如何なる大義があろうとも、罪のない心優しい子供を犠牲にするなんて。

(ま、失敗と判断されたら即氷結封印になってしまうが)

そこだけは承諾するしかなかった。失敗などしないが、それは未来を知っている俺だからこそ言える結末だ。未来のことを知らない者からすれば不安で仕方ないだろう。とにかく、だ。“夜天の書”の終焉を迎えるための基盤は固まった。リーゼの妨害が無くなった以上、安心して魔力集めが出来る。
あとは・・・「フェイト達だな」彼女たちや、そしてはやてとシグナム達にも悪いが俺の手の平の上で踊ってもらおう。そう、全てが終わった後、俺は彼女たちにどう思われてもいい。しかし彼女たちが知り合うためだ。やってやる。今後の展開への決意を固め、俺は就寝することにした。まずは魔力集めを徹底して行うために必要な体を休めなければ。

そうして翌日。10月27日。先の次元世界と同じなら今日、はやての下半身麻痺の正体をシグナム達が知ることになるはずだ。それを証明するかのように今日は病院での診察日だ。

「また見ていたんだ、アルバム」

「あ、ルシル君。なんや止まらんくてな」

今日の授業を始めようとはやての部屋に行くと、はやてはアルバムを楽しそうに眺めていた。シグナム達が来てからというもの一気に写真が増えたからな。海水浴へ行ったり、山へキャンプに行って天体観測をしたり、海鳴温泉へ旅行したり、梨狩りに出かけたり、ヴィータのゲートボール大会の応援やシグナムの仕事の見学などをした。そう、色々と遊びに行ったよな。そのたびに写真を撮って、こうしてアルバムに収めていった。

「よしっ。家族パワーも貰ったし、今日も勉強頑張ろかっ♪」

やる気に満ちたはやてに今日も授業を行う。はやての学習能力には本当に舌を巻く。そして正午までの2時間、数学と国語(6年生レベル)の授業をし、終われば家族みんなで昼食を頂く。その後は予定通りはやてとシグナムとシャマルは病院へ。洗濯物を取り込んで畳んだり掃除をしたり、残った家事を行うために俺とヴィータとザフィーラは留守番となる。家事が終わると、はやて達が帰ってくるまで思い思いに時間を過ごす。

「ただいま~♪」

5時を過ぎ、はやて達が帰ってきた。はやて、彼女の車椅子を押すシャマル、夕食に使う材料の入ったエコバッグを持つシグナム。俺やヴィータ、ザフィーラがそんな3人におかえり、と挨拶をして迎える。しかしやはりシグナムとシャマルには元気がない。気付き難いがシャマルの目は僅かに赤く腫れていて、泣いたことが判る。おそらくザフィーラも気付いているだろうが、そのことには触れそうにないため俺も触れないでおく。

「今日はみんな大好き、肉じゃがやよ♪」

「おお、やった♪ はやて、はやて、お肉いっぱい入れて!」

「ちゃんとお野菜も食べなアカンよ、ヴィータ」

シャマルははやてと一緒に夕食つくりに入り、シグナムはソファに座って新聞を読み始めた。ヴィータはダイニングテーブルに座ってはやてを眺め、ザフィーラはソファの側に伏せた。はやてとヴィータの楽しそうなお喋りをBGMに夕食を終えて片付けをしていると、シグナムとシャマルから大事な話がある、と告げられた。
そうしてはやてが眠った後、俺たちは自宅より少し離れた臨海公園へとやって来た。思念通話でも構わなかったが、この話を聴いてヴィータが暴走し、それからはやてに問い詰められるような状況に陥らないためにわざわざ自宅から離れた。

「で? こんなところにまで移動して何の話があるってんだよ? せっかく風呂に入ったのに湯冷めすんだろうが」

当初は不機嫌なヴィータだったが、「実は――」シグナムとシャマルから語られたはやての下半身麻痺の原因が自分たち“夜天の書”にあることが告げられたことで段々と顔を青褪めさせていった。はやての下半身麻痺の原因。それは病気なんかじゃない。生まれた頃より強大な魔力を有している“夜天の書”と繋がり過ごしてきたことによるものだ。
未成熟なリンカーコアで“夜天の書”の魔力に耐えられるわけもなく、必然はやての肉体機能に異常を起こし、さらに麻痺は上半身へと向かって生命活動にまでその侵食を伸ばそうとしていた。“夜天の書”の起動によって主となった第一覚醒、シグナムたち守護騎士の活動維持に魔力を使用していることもまた、麻痺進行の速度を上げた。

「・・なきゃ・・・」

俯いているヴィータがポツリと漏らす。ヴィータは「助けなきゃ! はやてを助けなきゃ!」勢いよく顔を上げて涙を湛えて叫んだ。そしてベンチに座っている俺、じゃなくて隣に居るシャマルに詰め寄った。

「シャマル! シャマルの魔法ではやてを助けろよ! お前、治癒が得意だろ!」

「ヴィータちゃん。私じゃダメだったの、見ていたでしょう? 私の魔法じゃ・・・何も出来ないの・・・! はやてちゃんを救えない・・・!」

シャマルもとうとう両手で顔を覆って泣き出してしまった。ヴィータは次に「そ、そうだ、ルシル! お前だ!」俺へと振り向いて詰め寄って来た。

「お前あれだろっ、オーディンとおんなじ魔法が使えるんだろっ!? だったらアレ、コード・エイルって魔法! 死人以外ならなんでも治せるっていう魔法で、はやてを治してよ!」

まぁこういう展開にはなるだろうなぁっとは思っていた。シグナム達も俺へと振り向いて期待の眼差しを向けて来た。しかしそれには「ごめん」と謝るしかない。

「確かにコード・エイルは死亡以外の異常を治すことが出来る。けどそれは根本を治すことで出来ることなんだ。はやての麻痺の原因は闇の書の存在。つまり闇の書が消えないことにははやては治せない。けどそれはみんなが消えることにもなる」

これは事実だ。いま治したところで“夜天の書”が存在し続ける限りはやての侵食は再開される。そのたびにエイルを掛けてもいいが、それでは“闇の書”事件という話が始まらない。だから俺は、はやてに魔法はかけない。

「そんな・・・、そんなのってねぇよ・・・。あたしらが消えねぇとダメなのかよ・・・?」

久しぶりに見るヴィータの絶望に満ちた表情。そこにシグナムが「それは最後の手だな」と、自分たちの消滅を視野に入れていることを思わせる一言を漏らした。しかしシグナムは「あくまで、だ」と言い、胸元から首から提げていた待機形態である“レヴァンティン”の首飾りを取り出した。そして意を決したかのようにヴィータ、シャマル、ザフィーラと順繰りに見た。

「私はかつて、守護騎士の将として主はやてとある誓いを交わした。我々の務めは主はやてと共に家族として過ごすこと、戦闘などの危険行為は禁止、と。だが私は・・・」

「主はやてがため、誓いを破らざるを得んか?」

言葉を途中で区切ったシグナムにザフィーラが問う。

「主はやての体を蝕んでいるのは真の覚醒を果たしていないことで起きている、言うなれば闇の書の呪いだ」

「ふむ。侵食を消失させるには、いや少なくとも止めるには真の主として覚醒すればよいのか」

「ああ。おそらく望みはそれだけだ」

「闇の書を完成させればはやてを助けられるんだな!? じゃあ今すぐ完成させに行こう!」

ヴィータも待機形態の“グラーフアイゼン”を手に取り、すぐにでも飛んで行きそうな勢いだ。シャマルも泣き止んで「完成させましょう、闇の書を」と凛とした面持ちで告げた。

「で、だ。ルシリオン。お前を呼んだのは他でもない。我々はこれより闇の書完成を遂行するため家を空けることが多くなるだろう。その間、主はやてのお傍から放れないようにしてもらいたいのだ」

シグナムにそう言われ「なんだ、俺は仲間はずれなのか?」と不満そうに言う。と、「お前、なんでそんなに冷静なんだよ・・・!」ヴィータが俺の様子に今さら疑問を持った。俺は言葉で答えるより先に“ブレイザブリク”より今まで回収してきたリンカーコア、約200を見せる。シグナム達はそのリンカーコアの多さに目を大きく見開いて驚いた。

「お前は・・・知っていたのか? 主はやての麻痺の原因が、闇の書の呪いだということを・・・!?」

「・・・・知っていた」

シグナムにそう答えると、真っ先に「てめぇっ!」ヴィータが俺の胸倉を掴み上げてきた。

「知ってたんなら、なんで言わなかった!」

「ヴィータちゃん!」「ヴィータ!」

シャマルとシグナムによって引き剥がされたヴィータは「なんでだ!」と怒鳴るのみ。

「言ったら信じたのか? はやての麻痺は君たちが原因だと。いや、違う。俺は言えなかった。君たち、・・・闇の書が原因ではやては歩けないんだ、って。そんなこと言えるわけないじゃないか」

「「「「っ!」」」」

俺の作った悲痛な表情を見たことでヴィータは大人しくなってくれた。俺は続ける。いつかこの日が来るのを見越して、先にリンカーコアを回収していたことを。もちろん相手は選んだことも伝えた。標的は魔法を使って罪を犯している魔導犯罪者のみ、一般魔導師には手を出していない、そして当然だが殺しもしていない、と。俺の話を聴いたシグナム達は目に見えて安堵していた。

「そうか。ああ、いい判断だと私は思う」

「だな。悪くねぇ考えだ、ルシル。犯罪者からリンカーコアを奪うのか。それなら大して心も痛まねぇな」

「そうね。一般の人を襲ってはやてちゃんを助けられたとしても、ちょっと素直に喜べないもの」

「うむ。殺しも無いというのも評価できる。あの心優しき主の未来を血で汚したくはないからな」

リンカーコアを全て“ブレイザブリク”へと戻す。あとは「この事を事前報告するか、事後報告するか、だけど」と、シグナム達がおそらく考えていない事を言ってみた。

「待ってくれ。主はやてには伝えるのは――」

「黙ったまま始めるのか? 今まで黙っていた俺が言うのもなんだけどさ。騎士の誓いを破りたくないんだろ。だったら言うべきだ、と思う」

かつてのはやては、自分のことなのに蚊帳の外にいたことで少なからず傷ついていた。家族のしてきたことを何も知らずにいた、と。それにシュリエルリート、じゃなかった。今はまだ管制プログラムである名無しの彼女を起動させるためにもはやてには知っていてほしい。
管制プログラムである彼女の事も引き合いに出すと、「それはそうだが」とシグナムの心が揺らぎ始めた。ヴィータ達もそうで、はやてに話そう、という流れになった。

「で? 話すにしても事前か事後、どっちにするか、だ。事前であれば反対される可能性が大きい。はやては優しすぎるからな。自分より他人を優先する。事後の場合は怒られるかもしれないけど、もう引けない道を進んでる」

「話すとなればやはり事前だろう。たとえ反対されようとも何としても説得する」

シグナムがグッと拳を握った時、『なんで、みんな居らへんの!?』はやてから焦りと不安でいっぱいな念話が送られてきた。

『ごめん、ごめん。すぐに帰るから』

『ホンマに!? とゆうか、なんで誰も居らんの! 出掛けるんなら一言くらいほしいわ!』

『申し訳ありません、主はやて』

『ごめん、はやて』

『ごめんなさい、はやてちゃん』

『申し訳ありませんでした』

俺たちは無断で出掛けた事に対して謝る。けど、珍しいな。はやてが途中で起きるなんて。寝つきが良いはやては体内時計がしっかりしていることもあって朝6時半まではまず起きない。もしかすると、“夜天の書”を通して守護騎士とリンクしていることから、彼女たちの感情の揺らぎを感じ取ったのかもしれないな。理由はどうであれいい機会だ。俺は『はやて。帰ってから大切な話がある。待っていてくれないか?』とお願いする。

『大切な話? うん。判った』

俺の真剣な声色から本当に大切な話なんだと察してくれたようだ。そして今から帰ることを告げてから念話を切り、「さぁ、帰ろう。はやてを説得しないとな」俺たちは家路に着くために歩き出した。



 
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