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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§51 あとしまつのあとしまつ

 
前書き
9月の方が何故か8月よりも忙しかったという(苦笑

10月になったら余裕出来ました、ということで。
やー遅れてすみません……


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「……」

 痛いほどの沈黙が、今この屋敷を支配していた。盆を囲むのは、一柱の神と二人の神殺し。覗いているのは、一人の神殺しが敵を蹂躙する様子。

「消え去れ」

 水盆の中の黎斗が呟く。直後、失明するレベルの閃光。そして水盆が、割れた。

「―――――覗き見の術まで一緒に粉砕されたか」

 須佐之男命の言葉が、静かな空間に溶けていく。護堂は語る術を持っていない。街を易々と破壊する自分たちの力なぞ、なんと傍迷惑なのだと思っていた。だが、これは何だ? 街の破壊? 都市の破壊? そんなものとは次元の違う一撃ではないか。いくらなんでもデタラメだ。

「……」

「何処へ行く? 異国の神殺し」

 無言だったヴォバンが立ち上がり、外へ出る直前に呼び止められる。振り向く顔は非常に狂暴な笑み。

「――――感謝するぞ。あぁ、感謝するぞ極東の神よ」

 彼の侯爵の髪を怪しい風が撫でる。

「過ぎ去る日々に厭いたのは、いつの日だったか。同族との殺し合い(たたかい)だけが生きがいとなったのはいつの日だったか」

 ヴォバンの眼が突如、厳しくなる。

「今、私は非常に腹立たしい。日々を怠惰に、惰性で過ごしていたことに。同胞たる存在が、あのような領域(ばしょ)に足を踏み込んでいるというに。私はどうだ。星の破壊どころか大陸の破壊すら出来はしない」

 いや、しなくて良いだろ。護堂はその言葉を呑み込んだ。他の神殺しと違い自分は空気が読めるのだ。ここで自分の世界に入っているヴォバンの気分を害したところで得することなど何もない。そんなこんなで空気を読んで黙っていれば、ヴォバン侯爵の語りは続く。

「認めよう。水羽黎斗は、私の遥か上に居る。」

 声が、震えている。それは恐怖などでは決してない。歓喜はもはや隠せていない。

「雑魚を消すのはつまらん。雑魚が群れれば余興としては愉しめよう。同胞と凌ぎを削るのは心が躍る。だが――」

 外で、稲妻が落ちた。暴風が強くなっている。雨が強く屋根を叩く。ヴォバンの内なる昂揚が、屋敷の近辺まで嵐と雷を引き寄せる。

「格上のものに挑む、というのは実に久しぶりだ。これは私が神殺しになった時以来ではないか。この感情を、忘れていた」

 それだけ言うと、踵を返す。もうこちらへ振り向くことは無い。

「いずれまた、私はヤツに挑む。万全のヤツを、叩き潰そう」

 その言葉と共に、老侯爵の前に門が出現する。傍に死人が居る所をみると死せる従僕に転移術を使わせたようだ。

「我が厭いた日々はこの時をもって終わりだ。いくつもの死線を乗り越え、高みにたどりついた日にこそ、再び私はヤツに挑もう」

 不吉な宣告を遺し、魔王(ヴォバン)は幽世から消え去った。

「……良いのか?」

 直感で分かった。アレはヤバい。まず間違いなく、黎斗にとって厄介な存在になるだろう。そんな存在に黎斗の情報を流したうえで生還させて良いのか。そう目で問いかければ。

「良いんだよ」

 老神はそう言って、笑う。

「だいたいここでドンパチやってみろ。媛さん達を庇いながら戦うのは、無理だ」

 ここで交戦すれば、須佐之男命や護堂は無事でも、黒衣の僧や玻璃の媛は無事では済まないだろう。ヴォバンを葬る頃には十中八九、二人の命は無い。とすれば、ここは黙って見送るしか選択肢は無く。

「……無力、って悔しいな」

 脱力して、床に転がりながら言葉が零れ落ちていく。友に助けてもらったことは数あれど、その逆は無し。そんな事実が護堂の心に重くのしかかる。最強の魔王と呼ばれ畏れられても、実際蓋を開けてみればただの無力な学生でしかない自分。

「そう悲観するな。お前と黎斗が戦って黎斗が全勝する、なんて展開はねぇよ。九割九分九厘ヤツが勝つかもしれんが、お前の勝ち目はゼロじゃあない。んで、天文単位の彼方に勝ち目が転がっていようとも、僅かでもあるなら拾いに行けるのが魔王(おまえら)だろう」

 それは事実だろう。黎斗のあのぶっ飛んだ権能を見てもなお、護堂は必敗とは思わない。限りなく難しいとは思うが、勝負はやってみなければわからない。そう思う。だが、これは別だ。

「黎斗より強い、とか黎斗に勝てる、とかじゃないんだよ」

 黎斗は義姉(きょうしゅ)を下し、好敵手(ドニ)を倒し。まつろわぬ神(てき)達を倒した。だが、自分はどうだ。今回、一体何をした?

「やったことは義姉さんの暴走を止めて、ここで茶飲んだ位だ」

 羅濠教主と戦って、判定勝ち。羅濠教主の名代として、義弟となりヴォバン侯爵と戦う羽目になり須佐之男命と組んで引き分け。しかも引き分けとは名ばかりで実際は対峙しただけだ。

「くっそ……」

 自分が何をなすべきか、何が出来るのか。それが、護堂の中を駆け巡る。



●●●



「姉弟ぉ!?」

 黎斗は吃驚して言葉が出ない。教主の弟が護堂って何だ。とりあえず、三馬鹿の意識を刈り取って、最初から今回の事態を把握しようとしたら、コレか。

「此度の件、元々は私が猿侯を誅罰するつもりでおりました」

 羅濠教主が黎斗の存在を認識、それに伴い彼女は標的を大聖から黎斗に変更。

「んで、翠蓮の代わりにヴォバン侯爵が大聖を復活させようとする。事情を知った護堂が止めに行こうとする。翠蓮は自分が蚊帳の外で事態が進むことに納得できない。護堂の代わりに行きたいけど行けないジレンマ。名代で護堂を行かせることにして護堂を義弟にする、と」

「おおむね」

 頷く教主に問いただしたい。なんだこれは、と。義弟ってなんだ、とか行きたいけど行けないってなんでだ、とかなんで復活させたいんだ、とか。ツッコミ所が多すぎる。

「教主様。だいぶややこしい事情ですので私がまとめてお話します。補足、追加等ありましたらお願いします」

 甘粕達からもらった資料全てひとまとめにして読んでいたらしく、キツネの周りには資料がこんもり積もっている。その上に必死に這い上がるもふもふの姿はなんだか微笑ましい。そんな光景を見て、教主も若干頬が緩む。

「ふふ。それで良いでしょう。私も認知していない事情があるかもしれませんし」

 「では僭越ながら先程の教主様の補足から。……陸鷹化から教主様はマスターの存在を認識しました。ここで教主がマスターの捜索に方針転換してしまわれます。ここでグィネヴィアが代わりに目をつけたのがヴォバン侯爵です。でも、他国のカンピオーネに自国の神を斃されるのが我慢ならない教主がヴォバン侯爵を斃しに行こうとなされまして」

「なんじゃそら」

 この時点で理由が可笑しい。我慢ならないとかそんな馬鹿な理由があってたまるか。

「しかし教主はグィネヴィアに「邪魔をしない」と言ってしまわれまして。妥協案が草薙様に名代として行ってもらう、ということ、らしいです」

 名代で義兄弟とか、結局約束破ってるじゃんそれとか、すごいツッコミ満載な事を聞いた気がするが黎斗はそこにつっこめない。更にヤバいものを聞いてしまったから。

「グィネ、ヴィア……!!」

 ランスロットが出てきた理由。金髪ロリの魔女王。

「最後の王、か」

「……知っているのかい?」

 沈黙を保っていた冥王が口を開く。仮面に隠された表情は見えないが、軽口を叩いてこない辺りかなり真剣なのだろう。

「名前だけ。僕がひきこもってぐーたら食っちゃ寝してる間に、スサノオや坊さんが終わらせた。酒呑の大将も出てたんだっけ? あれ?それは別の神だっけ?」

「「「…………」」」

 呆れた空気が、黎斗の全身に突き刺さる。

「そーいえば、あの頃のマスター、寝て起きて寝てを繰り返してましたね……時たま現世の人たちの夢を渡って遊んだり、降霊術やってる人に答えて電波飛ばしたり」

「もしかしなくても、れーとさんてダメ人間……?」

「もしかしなくてもニートですよ」

 恵那の呆れた呟きに、羅濠教主が過剰とも言える反応を返す。

「娘、お義兄様を愚弄しますか!! お義兄様は恐らく「にぃと」とやらを極めようとしていただけです!!」

「翠蓮、ありがたいけどそのフォローはいらない……」

 フォローしてくれているつもりなのだろうが、逆に精神に傷を負う言い方だ。

「まぁ、カミサマなんてそんなもんだよ。ねぇ?」

 アテナに話を振れば。

「妾にそんなことを聞かれても、な。第一妾は戦の神だ。闘争に明け暮れてきた妾に悠長にしている暇などない」

 その言葉で、恵那は思い出す。ここに集っている存在の大半が歩く天災だということを。

「れーとさんごめんなさい。れーとさん、ちゃんと被害出さないよーに、頑張ってたんだね?」

「……うん。その返しはなんとなくわかってた」

 わかっていても、災害達(コイツら)と一緒にされるのはなんか嫌だなぁ、などと思う。

「はぁ」

「これだけ慕う娘がいる状況下でため息、か。幸せが逃げるぞ?」

「えぇい、誰のせいだ誰の!!」

 アテナに怒鳴ってから、思い出す。首都圏をズタボロにしたのは誰だったのかを。

「……災害指定もやむなしだろう」

 思考を読んだのか、的確な指摘をしてくるアテナ。天災(かみさま)に災害指定されるのは屈辱だった。


●●●



「……あれは、一体」

 アレクサンドルは、カフェの片隅で思考する。黒髪黒目、凡庸な顔立ちの少年のことを。

「あの脳筋女の知り合いで、かつ引き籠り女とも知り合いだと」

 そういえば剣馬鹿(ドニ)も執着していたな、などと思い出す。だが女二人はドニとは訳が違う。双方ともに俗世と滅多に関わらないことで有名だ。そして、どちらともに動けば大事になる。あの二人と誼を結ぶなど、数年程度で極秘裏に出来るとは思えない。

「しかも、お義兄様、ときたか」

 その言葉が意味するのは、羅濠教主よりあの少年は年上である、ということ。古参のカンピオーネすら比較にならないキャリアを積んでいるのか。

「今まで見つからなかったカンピオーネだとでもいうのか? 何故、今になって姿を現した?」

 ランスロットの乱入。アテナとの共闘。両者ともに黎斗のことを知っているようで。

「…………やはり探るしかない、か」

 限りなく危険な事に変わりはないが、黎斗本人を調べるしかない。おもむろに、携帯電話を取り出す。

「アイスマン。悪いが古き王、という言葉とディスペルロード、という言葉を調べてくれ」

 自分でも調べるが、手は多い方が良い。探す対象は古今東西の歴史書だ。おそらくその中に類似単語がある筈。そして。

「今までに出現したカンピオーネの能力で、「神を操る」というものがあったか。これも頼む」

 光線や炎は今までのカンピオーネにいたかもしれない。だが、神を従えるものははたしていたのか。

「俺は魔術師名鑑をひっくり返して、探すことにする」

 そう言い残して、アレクは姿を消す。コーヒー代を机の上に残して。 
 

 
後書き

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なかなか終わらない後始末(苦笑 
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