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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§52 小ネタ集part4

 
前書き
更新再び遅れました。二ヶ月とか……


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《失われた物、戻ってくる物》

「あ゛ーっ!!」

「うぎゃっ!!」

 突如黎斗の叫びが響きわたる。至近距離で被害を受けた恵那がジト目で見てくるが、ジト目も可愛いな、などと雑念を発揮している余裕は無い。

「どうしよう!? 腕吹き飛んじゃったよ!!」

「腕?」

「何言ってんですか。腕ならちゃんとついてますよ。吹き飛んじゃったのは今朝やってらしたゲームの敵キャラでは?」

 恵那とエルは「とうとう二次元と三次元を混同し始めたか」と言わんばかりの呆れを表情に滲ませる。

「違う違う!! よーかの腕!!」

「「え?」」

 陸鷹化の腕は、黎斗が切断していた筈だ。

「彼の腕はマスターが切っちゃったじゃないですか。それを冷蔵庫に……!?」

 ここで二人も思い出す。彼の腕は冷蔵庫に保管することになった。何処の冷蔵庫に? それは黎斗のアパートだ。もはや原型を残していない、猪と仁王の殴り合いで廃墟と化した(と黎斗は推測していり)更地だ。

「「「……」」」

 痛いほどの沈黙が、場を支配する。

「返してあげようと思ったのに……」

「お義兄様に教えを直接授けて頂いて、まこと我が弟子は果報者です」

「いや、そーゆー問題じゃ……」

 どこかズレた返答の羅濠教主にツッコミたくてしょうがない。

「倉庫に突っ込んでおくべきでしたね……」

 全くだ。アンドレアに預けたあの乗客のように、倉庫に放り込んでおけばよかった。後悔しかない。

「お詫びどーすんべ……」

「お義兄様に教えを受けた我が弟子が感謝こそすれ、お義兄様が謝る筋などどこにもありません」

「え、えぇー……」

 天上天下唯一黎斗独尊、とでもいうのだろうかこの態度は。ヤバいこの子どうしよう。黎斗の脳裏に浮かぶのはこんな変人師匠を持った陸鷹化への哀悼の念であった。


《偽りの黄金Ⅰ》

「まてー!!」

「待てっわれて待つ馬鹿がいるわきゃねーだろドアホ!!」

金の髪を翻し、一人の男が路地裏を走る。後ろには、いきり立った大勢の男たち。

「っと、マズくね?」

 彼の前に立ちふさがるは、馬鹿みたいに大きな壁。行き止まりに来てしまったらしい。

「とうとう追い詰めたぞ!!」

「……ハメられたか?」

 ヤツらはどうやら、行き止まり(ココ)に誘導させるように追い立てていたらしい。まったく――花嫁泥棒一人に対し、ご苦労な事だ。

「……別に手をつけないで返すんだからいいじゃんかなぁ」

 全く、連中にはユーモアの心が無いらしい。そんなんだから郊外のミステリーサークルもただの「獣の通った後」扱いされるのだ。あれを一夜で作るのにこちらがどれだけ苦労したことか。

「強行突破しか、ねぇか」

――みしっ

「!?」

 覚悟を決めようとして踏み出した足が、何かを踏んだ。しかも限りなくイヤな効果音付きで。

「うお!?」

 人が、倒れている。この辺りではそこそこ珍しい黒髪の少年だ。動かない辺り死体だろうか? まだ温かいし死んですぐなのだろう。

「って、それどころじゃねぇ!! おい、お前悪いが借りるぞ!!」

 彼は死体を壁に立てかける。壁にもたれかかるように。そしておもむろに距離をとる。

「よっ……!!」

 助走をつけて、跳躍。死体の頭を踏み台に、更に跳躍。壁に手が届いた。死体が倒れ落ちすごい音がした気がするが、構いやしない。どうせ死人に口なし、だ。

「手が届けば……ッ!!」

 その勢いのまま、躰を持ち上げて――彼は壁の奥へと姿を消した。

「何処行った!?」

「確かに追い込んだ筈なのに……」

「畜生、またあのペテン師にしてやられた!!」

「まだこの辺に居る筈だ!! 手分けして探すぞ!!」

 壁の向こうで物騒な声がいくつも聞こえる。本当に、危機一髪だった。

「っぶねー……」

 とりあえず危機は去った。このまま帰っても良いが、その前にあの死体に一言礼を言っておかねばなるまい。

「なぁ、死体さんよ。あんたのおかげで無事に逃げられたぜ、あんがとよ」

 どうせ死体なのだ。返事は期待していない。

「まぁよ、次来るときはとりあえず供養してやるから……あー、テキトーに花でも添えてやる。だから祟らんでくれや」

 さて帰るか、と足を踏み出した時、ふと視線が足元へ行った。それは本当に偶然だった。壁の上に人影があることに気付いたのは。

「すげぇ軽いノリだなオイ」

「!?」

 まさか、まだ残ってる追手が居たのか、油断した!!

「マズったな……!?」

 こっちはもうヘトヘトだ。応援を呼ばれたらもう逃げられない。まして単独であの壁を登ってくる猛者など相手に出来る訳が無い。そう判断し、降参のポーズとともに振り向いて――硬直した。

「し、死体のガキ……!?」

「いや、死んでないから」

 魔術師としての彼の勘が、この少年は危険だと警告する。護身用の儀礼用の剣に懐でそっと触れるがすぐに離す。彼に勝てる気が、しなかった。

「うん。正しい判断だ。その剣如き(・・)で、僕を殺す事なんか出来ないよ」

「――!!」

 震えた。恐怖が止まらない。ダボダボの服を着ているから、剣の存在などわからない筈なのに、奴はその存在を察知した。その上で「殺せない」と断定した。おそらく奴とは立っている土俵が違い過ぎる。畜生なんてこった、こんなヤツと会うなら今日花嫁泥棒なんてするんじゃなかった。相手がイヤミな御曹司だからってこんなに派手にやらなければ良かった。後悔がぐるぐる頭の中を駆け巡る。

「よっと」

 怪物は、音も無く着地した。こちらへ一歩一歩歩いてくる。彼は音を発してこそいないが、確かに彼は「死神」の足音を聞いた。

「とりあえず慰謝料を請求します」

「……は?」

「適当になんか美味しい物。お兄さんのオゴリで」

 彼に拒否権は、無かった。

「あ、あぁ……わかった」

「それと。お兄さんの名前は?」

 偽名を言うか、否殺される。眼前の少年はただの少年ではない。人の皮を被った――

「――そうだね」

 少年が、ニヤリと笑った。胆が冷える。心を読んでいるとでもいうのか――?

「ファウスト。ゲオルク・ファウストだ」

 これは。悪魔の契約が交わされる前日譚。







《闇夜の惨殺者》

「ようこそ。異国の同胞」

「あ、貴女は…?」

 豪奢な宮殿の中で、彼は眼前の美女に誰何する。足下に隙間なく敷き詰められた絨毯は軽やかで美しく、壁際に飾ってある調度品は素人目にも高価なことがわかる。この時代(・・・・)でこれだけの代物を作れる、ということに遙か過去(みらい)の記憶が蘇った。

「呼んでしまってごめんなさいね、驚いたでしょう。身内に会うのは久しぶりだから驚いてしまって」

「い、いえ……」

 からからと、笑う彼女は妖艶で美しい。初な少年は顔を赤く染め視線を逸らす。――それが命取りになるとも知らずに。

「貴方の名前は?」

「えっと、その。水羽黎斗、です」

「ミズバレトー?」

「いえ、みずはねれいと、です」

「あらそう。ありがとう」

 彼女の目が、細くなる。まるで獲物を捕らえる狩人のように。

「えっ…?」

 次の瞬間、少年の眼前に彼女は居た。少年の直感が警鐘を鳴らす。なんだかわからないけど不味い不味い不味いー!!

「貴方が初心者(・・・)で良かったわ」

「――!!」

 美女の顔が、少年のすぐ前にあった。その美貌は警鐘を鳴らしていた直感すらも虜にし。一瞬、鳴らすことを忘れさせた。

「これはささやかな、ご褒美」

 二人の唇が、重なる。

「汝、水羽黎斗の主が命ずる――」

 少年の精神が深淵の奥底へ沈んでいく。四肢は押さえつけられ、抗う術は既に無く。意識が奈落へ落ちていく――

「これから宜しくね。私の可愛いお人形」

 少年は意識を失い倒れ込む。明日まで目を覚ますことはないだろう。そして明日からは、美女の忠実な駒として働くことになるのだ。神殺しを駒として用いれる、己が幸運を彼女は一人、喜んだ。

「かくして、"毒婦(バビロン)"の異名をとる女帝は優秀な駒を手に入れた、と」

 降って湧いたような声は、気に入らない存在の秘密裏な暗殺及び神との戦いの駒、という目的を見透かしていて。

「!?」

 勝ち誇った笑みを浮かべる美女は、背後の声に身を強ばらせる。突如聞こえたその声の主は今倒れ伏したハズなのに。

「咥内摂取による呪詛で神殺しすらも従える、か。……いやいや、恐れ入ったよ」

 視線の先にいたのは、倒れ込んだ少年だった。あわてて少年が倒れた場所に目を戻すが、そこには横たわる少年の姿。なんだこれは。どうなっている。

「むぐっ!!」

 僅かな混乱。それは少年の接近を許してしまい。

「大人しくしてもらおうか」

 彼女の口に手を入れて、葡萄酒色の瞳が笑う。彼女の精神を牛耳らんと、呪詛が心の奥に響く。これは自分の権能と同種の――

「恨み骨髄ってカンジだけど手は出さないから、まぁ安心しな」

 最後に聞こえたのはそんな声。そして彼女は、意識と記憶を喪った。


●●●



「ん……」

 ひんやりとした硬い床の感触が、彼女の覚醒を促す。

「ここは……」

 己の部屋で寝ていたらしい。床で寝てしまうとは、よほど疲労がたまっていたのだろう。

「あら。この子は……」

 視線の先には、黒髪の少年が倒れている。自分の護衛兼、まつろわぬ神が現れた時に殺害させるための戦闘人間。

「誰か」

「ご主人様。お呼びでしょうか」

 使用人を呼べば、すぐ現れる。現れたのは栗色の髪が特徴的な美少年だ。どこで買い取ったのかは、忘れた。

「この者を部屋へ。目覚めたら徹底的に魔術と武術を教え込みなさい」

「仰せのままに」

 優雅に一礼し、倒れた少年を担ぎ上げて退室する。音は無い。

「これで、よし」

 なんだか大切な事を忘れている気がするが――彼女はそれを思い出すことは、生涯無かった。


●●●


「よし。第一の関門クリアー」

 双眼鏡でそんな光景を眺めながら、黎斗は首尾よく言った計画に安堵する。

「これで、修正一つ完了、かな」

 彼女にに洗脳させられ、長い間殺戮人形となってしまった過去の改変。これが今回の目的だ。なにせ洗脳されてた間の記憶が無い。誰を殺したのか全然わからない。

「ぶっちゃけこの時期得したのは魔術理論や戦闘技術を習得できた事くらいだよなぁ」

 そういった技術の学習の機会でもあったので、あまり大規模な歴史改変はするわけにはいかない。下手をすれば今の自分との間に矛盾が生じて消滅してしまうかもしれない。そこら辺の所はよくわからないから必要最低限だけすればよいだろう。

「あとは……っと」

 黎斗の左手にあるのは、黒い表紙の古書。開かれたページに書かれていたのは僅か一文。

「洗脳してきた神殺しを洗脳し、暗殺任務の発生を阻止せよ」

 下の方に年代と場所が記載してある。そして「優先度A」の文字。

「アイーシャ夫人の能力を拝借できるタイミングで渡してきてくれる、なんて。流石だよ全く」

 これを”冥王”から渡された時は驚いたものだ。まさか「彼」の知り合いだったとは。

『「”因果律の番人”から神を欺く者(プロメテウス)へ。依頼していた黒の預言書だ。といえばわかる」と言われたのだが』

 あの時の冥王の様子は見物だった。何せ全身で困惑を現していたのだから。因果律の番人、なんて仇名をまだ使っているとは思わなかった。仇名進呈の際はすごく渋っていたのに。

「まぁ。僕以外が見ても理解出来ないわなぁ。だからスミスに渡したんだろーけど」

 ページを捲りながら苦笑する。どのページも似たことしか書いていない。これでは中身を読まれたところで意味不明だろう。言付けされた単語も厨二すぎて理解できるとは思えないし。

「さて。現代に戻るかな」

 アイーシャ夫人の権能を拝借、八雷神で調整することでかなりの精度での時間移動が可能になった黎斗だからこそ言えるセリフ。アイーシャ夫人(オリジナル)より扱いやすくカスタマイズされているのは内緒だ。もっとも、借りる過程で劣化しているからトータルとしては一長一短だ。

「じゃあね、僕。あとは頑張れ」

 これからの苦難を”思い出して”エールを送り、黎斗は現代に帰還する。異界の風がふわりと吹いて、古書の末尾のページがはらりとめくれた。黎斗の字で書かれたそれは簡潔な文。



                             ――――伊邪那美命顕現まで、あと二か月 
 

 
後書き


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更新亀すぎてホントすみません。
ちなみに色んな意味で遅れた理由は……某最新刊の摺合せもあったり。
冥王様、アストラルとの往復だけってしょぼい(というか黎斗は権能でなく移動している=やりすぎ?)とか色々危惧していたんですが……そーゆーオチかよorz

あ、マンガ版良かったです!特にラストの巻末資料マジ便利!
とりあえず教主の特徴に吹いたww

他の小ネタ集もあったんですが、とりあえずこっちを先に
小ネタという割に本編に絡むネタをチラホラ入れてみたり

どーでも良いけど黎斗を縛っていた権能はイシスの女神様。真名を知ることで効果up。故に類似能力を警戒した黎斗は名前が芋づる式に増えていくことに……



以下超オマケです。
マンガ版のラストを黎斗でやってみた(何

水羽黎斗
【基本能力】
体 力 :鍛えたので、まぁそれなりに
運動能力:同学年女子に負ける程度の能力
知 力 :赤点常習犯(ただし言語を除く)ですが、何か?
感 覚 :危機に対しては化け物じみた直感
生命力 :殺しても殺しても蘇る程度の生命力

【人格的特徴】
●引き籠り。オタク歴1000年超の猛者
●テンションの差が激しい
●ことなかれ主義万歳。無駄に発揮される協調性
●厨二病罹患者


権能以降はカット(笑




2014/01/03
飛行機乗客云々のところ修正!! 
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