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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§50 斉天大聖動乱。あとしまつ

 
前書き
どうしてこうなった、ってカンジの有り様に。まぁ今更ですよね☆

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 空と宇宙の境目。スペースデブリが雲霞の如く蠢くそこに、巨大な物体が漂っていた。鈍色に輝くそれは、細長い流線型の胴体に二対の翼をつけている。その形は飛行機、と呼ぶのが一番しっくりくるのかもしれない。もっとも、その内に宿す莫大な呪力と神気がただの飛行機でないことを雄弁に物語っているが。そんな飛行機を、虚空に浮かぶ大きな大きな宇宙ゴミ、これらが囲んでいる。宇宙ゴミに隠れているが、外部から見ると死角になるような部分――当然そこにはただの空間で何もない――から突如生えた(・・・)鎖が飛行機に絡み付いていた。それも一つや二つではない。様々な角度から、大量に。飛行機は動くことを許されず、鎖に拘束されている。まるで、蜘蛛の巣に囚われた獲物のよう。

「小癪な!!」

 獲物は叫び、鎖を引き千切ろう出力を上げる。しかしその程度ではこの呪鎖を破壊すること叶わない。飛行機は推進力を限界まで解き放つ。動力源は容易く限界を凌駕し異常な轟音と共に凄まじい馬力を機体に与える。鎖が音をたてはじめるのも時間の問題だと誰もが思うだろう。

「無駄だよ」

 その光景を見、作業をしながらも蜘蛛の巣の主は苦笑する。これはあらゆるものを縛る戒めだ。たとえ出力が無限になっても、この鎖を突破することは叶わない。現に今だって鎖はそよ風の囁きにも劣る音すら出していない。

「悪いけどここ(・・)で暴れられる訳にはいかないんだ」

 その一声と共に、作業が終わる。異界の扉が開く。友人(スサノオ)の力で開いた扉で、飛行機は現世から幽世まで強制的に転移を余儀なくされる。

「おまえはまだなにもやってないのに、悪いね」

 本当に申し訳なさそうに、彼は謝罪の言葉を口にする。

「大体僕がおまえを呼び出した様なものだし。勝手に呼び出して勝手に殺すとか傲慢だな、とか自分でも思うよ」

 色々言い訳が口から勝手に溢れ出す。それは相手に立場をわかってほしいから、自分も辛いのだとアピールしたいから、かと思い苦笑する。まったくもって、傲慢な事だ。

「だけど、まつろわぬ神を野放しにするわけにはいかないから」

 飛行機の上に乗った少年は、鎖をあっさりと解除する。刹那――

「終わりだ」

 天より飛来する光の柱が、飛行機を灰燼に帰した。乗っている神の安否など、確認するまでもない。

「こいつだけだと良いのだけど……」

 彼の切札、魔神来臨(エターナルメモリー)。超絶無比な力の代償の一つは、まつろわぬ神の出現を誘発することだった。




●●●





「しっかしニギハヤヒがねぇ。飛行機の神様、か」

 邇藝速日命は天磐船で天下ったという。ここから航空の神として崇めらることになる。だが、だがしかし。

「こーゆー神様の能力で機械を扱う、ってのはアリなのか……?」

 神の乗り物は大抵生物だ。この場合呼び出すとしたら神獣だろう。一方こちらは正真正銘、機械だ。こういうのはなんと呼べばよいのだろうか? 神機、とでも呼べばよいのだろうか。というか、機械はルール違反ではないだろうか、色んな意味で。

「そのうちロボットの神とか出てくるんじゃなかろうか……」

 機械と動物ではたいていの場合、機械の方が強いだろう。神獣ですら馬鹿みたいに強いのに神ロボットが出たらどうなるのだろうか。

「……機械神が遠い将来、出るのかな」

 今回のケースは出現する”まつろわぬ神”が信仰を下敷きにしている、ということをはっきり示した形となった。飛行機の神が新しく誕生したとして、神話として君臨するにはおそらく年月が足りない。だから、まつろわぬ神にはならない。だが旧来の神に加える形ならば、生まれても不思議ではない。

「これが信仰に引きずられる、ってことなのかねぇ。奪える権能がいやに近代的で笑うしかないや」

 今回の権能なら上手くすれば戦闘機の類だけでなく宇宙船まで呼べるのではないか、などと考えながら地上に転移する。玻璃の媛の情報によれば、今回の魔神来臨の余波で出現したまつろわぬ神は一柱のみの筈だ。

「それに居た場所が場所なだけに(・・・・・・)焦ったが被害はほとんど無かったし。いやー良かった良かった」

 魔神来臨(エターナルメモリー)。発動後はしばらく全権能の内ランダムで半分ほどの権能が使えなくなる、というデメリットが存在する。それとは別に、もう一つの欠点。厳密には、欠点ではない。戦闘狂の神殺しにとっては最高とも言える副次作用。それがまつろわぬ神を出現させやすくする、ということだ。

「世界広げた時にヤな予感はしたんだよなぁ……」

 魔神来臨は世界を限りなく生と不死の境界に近づける。そこから再生するのが、全て黎斗の関与する範囲ではないのだ。呪力が莫大に渦巻いている場所で、信仰が存在していれば、そこから新たな神が生まれる可能性はゼロではない。境界に接続したその瞬間に、同時に生れ落ちるまつろわぬ神も稀にいるのだ。無論、狙ってできることではない。

「にしても。右腕使用不可の左目使用不可、オマケに権能の半分近くが使用不可ってきっついな。マジでドニが帰ってくれて助かった」

 ドニは、あの後矛を収めて帰ってくれた。「黎斗、君はラスボスじゃない、裏ボスだ!!」などと頭の痛くなる否、頭痛が痛くなるような事を供述していたが、あの分ならしばらくは大丈夫だろう。いきなり裏ボスに挑むことはないと信じたい。やつならやりそうで怖いけど。

「まぁ裏ボスさんはラスボス倒さないと戦えませんからねー。……よし、この作戦で行こう」

 ドニ対策を考えながら実家へ電話。東京が壊滅したので親が心配してくれているので安否の連絡をするのだ。一週間ぶりに聞く家族の声なので、郷愁感もへったくれもあったもんじゃない。

「あ、もしもしー」

「兄さん無事だった!? ……良かったー。ホント、心配したんだよ!!」

 久方ぶりに聞く義妹の声。その声音から心配云々は本当の事だったことがわかり申し訳なく思う。

「いやー、悪いね」

 この大惨事の渦中にいた、しかも中心的立場にいた人物だとバレたらどうなるだろう。それを考えると、少し怖い。

「ううん。無事ならそれで。お父さんもお母さんも、三軒先の藤見叔母さんまでみんな心配してたんだよ」

 そんな恐怖など杞憂だと信じさせてくれるような明るい声に、救われたような気持ちになる。ふと、本当の家族の事が浮かんだ。冥界を呼び出しても現れない、実の父や母。伊邪那美命の権能を使うといやがおうでも思い出す。これだから、あの権能は正直あまり使いたくない。

「……兄さん大丈夫?」

 こちらの様子が不審な事を受話器越しに感じ取ったのだろうか。義妹は殊更心配そうに様子をうかがってくる。

「ん。大丈夫だよ、ありがとう」

 心配かけさせるなんて、全くもって兄失格だ。

「とりあえず、高校の事もあるからまだ帰らないけど、よろしく言っといて」

 敷地がきれいさっぱり吹き飛んでいる以上、学校も休校になるか廃校になるかわからない。そこら辺の事情を把握するまでは帰らない方が事務手続きは楽だ。甘粕に頼む、という案もあるのだが、却下。正史編纂委員会は今回の件で過労死寸前だ。首都壊滅に神殺し大量襲来、黎斗の神殺し暴露にまつろわぬ神大量出現。これだけあれば職員が過労死していないだけでも驚嘆に値する。これ以上、私事で迷惑はかけられない。

「え。最近そっち物騒じゃん。帰ってきなよ。私もうヤだよ。毎日みんなでヒヤヒヤしながらしながら兄さんの無事を祈るのは」

「……ははは、申し訳ないね」

 神殺しの安全を神に祈る、ことに乾いた笑いが生まれる。ま、祈った先が身内の神ならなんら問題は生じないか。

「ニュースで見たかもしれないけど。とりあえず東京崩壊につき主要機能は隣県やら大都市に移ってる。東京在住者の疎開モドキも始まってる。んで、僕はしばらく千葉に滞在することになったから。住所は忘れたから追ってメールするわ」

 東京、といいながら実際は埼玉及び神奈川の一部にも被害が出ていたりする。破壊光線をぶっ放す際に、被害を防ごうと海の方向へ放っていたのが原因だろうか。なんにしろ、そんな訳だから山梨や千葉に移動する人が多い。城南高校関係者は黎斗の把握する限り千葉に移動だ。これは単に地域で分けた結果なのか委員会の手が入っているのかは、流石にわからない。

「……りょーかい。じゃあ、みんなが帰ってきたら伝えておくね」

「お願い」

 そんな通話をしながら歩いていれば、新居となるべきアパートの前へ。外観は割と小奇麗だ。プレハブだけど。

「今日からここが我が家、か……」

 ラノベもカードも消失した今となっては荷物など皆無に等しい。引っ越しなんぞこの身一つで十分だ。

「まぁエルが先に来てる筈なんだけど」

 今回の住処はペット同居可の所を探したかった。が、政府に勝手に割り振られてしまったものはしょうがない。下見の時にペット不可とわかり、また隠すのかと軽く凹んだものだ。だが、幸運なことに管理人は女性だった。下見の帰りに葡萄酒の誘惑(マイナデス)をかけてしまえばこっちのものだ。ペット可に手続きを変更させてもらい、さらっと問題クリアである。

「ただいまー」

「おかえりなさーい」

「おかえりなさいませ、お義兄様」

「あ、れーとさんおかえりー」

「?」

 今、声が二つほど多かったような……?

「まぁ声で大体わかるけどさ」

 入ってみれば案の定、大きな鍋で何かを煮込む恵那と包丁でいろんなものを切り刻む羅濠教主の姿が視界に入ってきた。

「おかえりなさい。ご飯? お風呂? それとも恵那?」

「!? それは義妹たる私の役目です慎みなさい!!」

 じゃあ二人まとめて。そう口走ろうとした自分は絶対悪くないと思う。美少女二人に誘われて(しかも多分彼氏いない!)断る男がいるだろうかいや居ない。

「……とりあえず落ち着こうか」

 口走らなかったのは須佐之男命に後で何を言われるかわかったものではないからだ。須佐之男命と黒衣の僧上は鬼の首をとったかのごとく、茶化してくるに違いない。玻璃の媛や護堂に聞かれたら、死ねる。いや護堂はエリカに裕理にリリアナにいるし別によいのか?

「……自称モテない宣言した男の家とは思えないな。黎斗よ古き王の名が泣くぞ?」

「はっはっは。勝利の女神よ、そう目くじらを立てるものでもないだろう。男は口先だけの生き物なのだよ」

「まぁ。やっぱり殿方はいつの時代も一夫多妻を築き上げるのですね!!」

「!?」

 振り向けば、冷めた目で緑茶を啜る女神サマ(アテナ)冥王サマ(ジョン・プルートー・スミス)聖女サマ(アイーシャ)

「ちょっと待ってキミ達なんでここにいるの!?」

 驚きの声は。

「疑問を言われても、な」

「君は借りのある相手を「情事の邪魔だから失せろ」と追い出すような無粋な男ではないと思っていたのだが」

 どこか根本的にズレた会話と化して返ってくる。

「それだと居座る妾達の方が無粋ではないか?」

「ふむ。それはそうか。邪魔して悪かったな最古の王よ。部外者は帰る故情事を」

「そうですね。私もまた数百年後位にお会いしに……」

 この一言に、今までくつろいでいた恵那と羅濠教主が反応する。

「え、恵那は初めてだから優しくしてほしいな……」

「お義兄様の相手は私です控えなさい小娘!!」

 恵那と羅濠教主の狂いっぷりが半端ない。こいつら何があった。

「……マスターモテモテデスネー」

 半端ない棒読みでエルが褒める。

「一体全体、なにがどうしてこうなった……」

 新居に足を踏み入れた黎斗を待っていたのは。

「裏切り者はこの世から消え去るべきだ。反論ある奴は?」

「無い」

「一人くらい分けてくれ我が魂の大親友(ソウルベストフレンズ)よ!!」

「あ、てめぇ反町汚ねぇぞ!! 黎斗大先生俺にも一人!!」

「高木、貴様もか!?」

「お前らもいるのかよ!?」

 六畳の部屋に所狭しと並ぶ大所帯だった。しかも半分近くのメンバーは神又は神殺しだ。なぜ家主の入居より彼らの寄生の方が早いのだろう? 

「……下種共(コイツら)はやはり殺っておくべきだったか」

 剣呑な視線で、物騒な台詞をボソッと言い放つ女神様。割と切実に勘弁してほしい。

「まぁまぁ。古き王の為に生かすと決めたのだろう? それに愉快な少年たちじゃないか。」

「そうですよ。ビバ★引き籠りさんの数少ない友達ですよ。」

「その名前まだ覚えてたの!?」

 数百年前にあった時に使った偽名(くろれきし)が、今になって黎斗を殺しに牙をむく。

「……」

「……」

「……」

「あ、あれ? 私変なこと言いました……? でもあの時「神様知り合いの方が人間の友達より多いんだ」って言ってましたし……」

 王とか神とか一般人のいる前で使ってよいのかなー、などと頭の片隅で思考しつつ。

「お義兄様。彼女との交際をお許しください」

「だから、離しなさい!! やっ、離せ汚らわしい!!」

 このカオスな有り様の解決法を考えて。

「――――ちょっと君達、黙ろうか」

 実力行使以外に思い浮かばない。色々と限界だし、そうしよう。権能は被害が大きくなるから使えないが、問題はきっと無い筈だ。

「え、あ、ちょ!!」

「うおおおお!! 縛り目が気持ち良……げふんげふん、離せ黎――ぐぁ!?」

「あーやっぱこうなるんだねー。久々に縛られるな……」

「あぶないじゃないか」

「物騒だな古い王よ」

「お前らが原因だろ……さて」

 とりあえず三馬鹿、恵那、羅濠教主、アイーシャ夫人は吊るしあげることに成功、これでだいぶラクになる。胡乱な事を口走った三馬鹿は意識も刈り取ったし大丈夫。

三馬鹿(コイツら)が覚醒する前にとりあえずヤバいヤツだけ話しておきますかね」 
 

 
後書き
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現状飛行機の神様ってこの方くらいなのではなかろうか、と思いつつ。
いやライトさんとかを除いてですが。
グレムリンとかはアリ……なんですかねぇ。年月的に厳しい気がしてたり。
そこらがありならグレムリンでハッキングとかザミエルで必中銃とか。
どーでも良い話ですが、日本でバハムート降臨したらまず間違いなく魚じゃなくて竜として登場しますよね(笑
クトゥルフはアウトな気がしますが某スパゲッティなモンスターとかはどうなんでしょうかねぇ(爆

まぁ飛行機ぶっぱしてミサイル弾幕ゲーやる権能ってなんじゃそらってカンジですが(苦笑
え? 全然あとしまつしてない? あはははは……


久々にあとがきですごいウダウダ言ってる気がしまする 
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