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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§45 魔神来臨

 
前書き
な、長かった……
ようやっと終盤です。
いやはや、一年近くここやってた気がしますえぇ(苦笑 

 
 ロンギヌスと如意禁錮棒、三尖刀が舞踏を繰り広げる。闘神ですらも容易に手を出せない、もし介入すれば即返り討ちに遭いそうな、そんな極められた武芸の数々。時折斬撃が襲来し矢が放たれるものの、彼らは其れを見ずに躱し、弾き、対処する。三柱の存在は今まで見てきた常識に喧嘩を撃っているとしか思えない。

「……なんとこれはまぁ。末恐ろしいな」

 冥王は河童の神と対峙しながら地上の争いに瞠目する。彼が深沙神、羅濠教主が猪吾能とドニ、ペルセウスが時折黎斗にかけるちょっかいを引き受けて。アレクは白龍と、アテナはランスロットを受け持っている。全員が均等に分担しているように見える中で斉天大聖と二郎真君を相手に立ち回っているのだから黎斗の力量は尋常なものではない。教主との話から彼がカンピオーネである可能性は高かったのだがこれは確定だろう、などと考えていると目前に迫る敵の顔。咄嗟に後退。眼前を横切る得物を見て内心ヒヤリとする。

「闘いの最中に考え事とは、余裕というわけか」

「これはこれは失礼。私としたことが少々不作法だったようだ」

 次は無い。今は運が良かっただけ。気を引き締めて冥王は更に高く舞い上がる。





●●●●●





「あー、しんど」

 手が痺れてきた、などと泣き言を言える状況ではないのだが流石に限界と言うものがある。ポケットの中に生じる闇を倉庫と接続、リポDを引っ張り出して一気飲み。呪力強化をしている今ならキャップなど素手で破壊出来るしガラス片を飲んだところで胃腸などは損傷しない。

「飲んでるヒマなど与えるかッ!!」

 駆けてくる真君に対し投擲しながら後退。超音速で飛んでいくナイフをなんなく回避する真君だが。最初から、黎斗は当たるとは思っていない。

「スリザス」

 黎斗の声に呼応するように、ナイフに刻まれたルーンが輝く。

「これは!」

 茨がナイフがら噴出し、二郎真君と斉天大聖を絡め取る。少名毘古那神の影響を受けた茨の蔦は非常に頑丈で容易に引きちぎれない。更に切っても切っても驚異の再生力で復活を遂げる。そして、茨が、斉天大聖に傷をつける。

「何!?」

 鋼の肉体を植物が傷つけた。この事実に、斉天大聖のみならず二郎真君も目を見開く。

「馬鹿な!」

 金剋木、という言葉がある。金属は木を切り倒す、という五行思想の考え方。五行思想の本場は中国だ。元々中華の神であるが故に、二柱ともにこの光景は予想外。現実への対処が一瞬、遅れる。

「終わりだ!!」

 猛威を奮う茨から抜け出そうともがいて、斉天大聖はようやくカラクリを悟る。植物が鋼を無力化した理由を。

「これは……貴様、儂を腐らせるとは(・・・・・・)良い度胸だのう!!」

 藤蔓で鉄を無力化した神様(しりあい)を黎斗は持っている。尤も、彼は数十年前に消滅したが。鉄を操る洩矢神に挑んだ建御名方神は、藤蔓で錆びつかせ無力化した。これを茨で行っただけだ。予想外の攻撃であるがゆえの心理的動揺、防御の甘さなどが重なって無視出来ない攻撃となる。起点となっている茨のルーンは既に茨の海の中で見つけ出すのは至難の業だ。

「こ、れ、でっ、終わりだ!!」

 空気を勢いよく吸い込んで、吐き出す。三昧真火。神をも焼き殺す地獄の焔は茨を媒介に、斉天大聖と二郎真君の全身をあまねく焼き尽くさんと凶悪な力を発揮する。

「ぐおおおおおおおおおおお!!!」

 絶叫する斉天大聖の声が、確実にダメージを与えていることを示している。だが、沈黙する二郎真君の存在が、黎斗に警戒を解かせない。油断して殺されるわけにはいかないのだ。

「追撃するか。……我が元に来たれ、勝利の為に。不死のたいよ――」

 いつもの如く護堂から”白馬”を拝借しようとして、有り得ない光景に硬直。黎斗の目の前に凄まじい高さの水の壁が出現していた。高層ビル群と同じくらいの高さではないだろうか。もっとも焦土と化したこの戦場では比較対象が存在しないためわからないのだが。

「なん……!?」

 重力に従って自由落下を始める水は、その圧倒的な質量が凶器となり。

「ちょ!!」

 瞬時に避水訣を唱えた黎斗の周囲を、水が押し潰し、押し流す。これでは三昧真火も消化されてしまっただろう。

「ひでー。せっかく人が頑張ったのに……」

 肩を落としている魔王を前にしても、二郎真君に油断は無い。己を封印した張本人を前に油断などする暇などどこにもない。

「やはり貴様は油断できない。全力で、潰す」

 宣言した二郎真君の纏う気配が恐ろしくなる。一気に膨れ上がる呪力の感覚は、斉天大聖が義兄弟を呼んだ時と同様の者で。

「おまえ!!」

 阻止しに黎斗が動こうとするも。

「ほう。貴様も眷属を呼ぶか。ならばこちらも呼ぶとしよう」

 斉天大聖が告げた言葉は衝撃的で。一瞬黎斗は反応出来なかった。

「……え」

「貴様も呼ぶか。愉しいのう。昔を思い出すようだ!! それに、これだけ神殺しがいるのに呼ばないのは義兄上に怒鳴られるわ」

 義理の兄。「孫悟空」に兄などいただろうか。「孫行者の方」には

「義兄……?」

 いやな予感が黎斗の脳裏を横切って。妨害しようとした瞬間。

「いくよー!!」

 銀に煌めく斬撃と。

「ゆくぞ!!」

 銀に瞬く矢の一撃が。

「お前らふざけんな!!」

 息の合ったコンビネーションに強襲される。更に、全てを切り裂く白銀の一撃は、とうとう冥界を破壊する。世界が切り裂かれゆっくりと、しかし確実に冥府が消滅していく。世界が、光を取り戻す。

「!!」

 死の気配が消えていく。夜色の闇が消え去り、頭上で太陽が煌めく。

「まぁ、まだいけるっけ消える時までは付き合ってやるよ!!」

「っーかもう今日だけで三桁くらい死んでるんですけど。あと何回死ぬんだオレは」

 最期を悟り気炎を上げる盟友達と。

「久しぶりの現世だな」

「全くだ」

 二郎真君に付き従う六柱の神々――梅山の六兄弟と。

「義弟よ、面白いところで呼んでくれた。礼を言う」

「アニキ。めんどくせぇよ」

 斉天大聖と契りを結んだ魔王七柱。

「……お帰りいただけないでしょうか」

 頼むから帰ってくれ。顕現するな。言っても無駄なのだろうどうせ。だが希望を捨てずに願ってみる。

「そういうな神殺し。私の家族も相伴にあずからせてもらうぞ!!」

 やはり、現実は非常だ。牛頭の魔人の宣言と同時、更に気配が増える。羅刹女と紅孩児が。これだけでも手一杯なのに、牛魔王が巨大化する。巨大な白牛。角ですら東京タワーより大きく見えるのは遠近法のせいだと信じたい。

「久々の現世だ。たっぷり暴れさせてもらうぞ!!」

 頭から尾まで三千丈以上、即ち三千メートル以上と記されるに相応しい巨大な身体は大猿や巨猿程度では相手にならない。蹄が大地に降ろされるたびに凄まじい地震が大地を揺らす。

「ハッスルしすぎだろコイ――!!」

 引き攣った顔のまま、迫りくる殺意に反応し飛び上がる。直後、芭蕉扇が起こした突風が黎斗を彼方へ吹き飛ばす。

「――!!」

 砂埃のように吹き飛ばされた黎斗を。

「こんなに楽しいのは久しぶりよ!!」

「雑魚から潰すのが鉄則。悪く思うな」

 如意棒と三尖刀がなまず切りにする。

「っ……!」

 敵は多い。だが、敵の核は斉天大聖。彼さえ倒せば、牛魔王達を始めとする義兄弟は消え、羅濠教主やスミスも自由になる。そのあとで二郎真君をなんとかすれば、勝利は目前だ。

「特攻あるのみ、か。皆、悪いけど玉砕して。僕が斉天大聖を潰すまでの、足止めを頼む」

 ロンギヌスを握る。天羽々斬を腰に下げる。

「来たれ天より煌めく色無き柱――!!」

 なけなしの呪力で放つのは死の熱線。周囲は瓦礫。遠慮する必要などどこにもない。放たれるのは必滅の光線。しかし。

「無駄」

 蛟魔王の操る、牛魔王をも呑み込む圧倒的な水のカーテンが。

「邪魔だ」

 獼猴王の操る、東京全土を覆う規模の竜巻が。空から降り注ぐ光と激突、大爆発が巻き起こる。

「煩わしいな」

 巨大な牛魔王の鼻息一つで大爆発は吹き飛ばされて。結果、破壊光線を以てしても神を撃ち滅ぼせないという現実が突きつけられる。それでも、目くらましという最低限の役割は果たされた。

「いくぞ斉天大聖!!」

 全員が破壊光線に気をとられた隙に、亡者たちは神々に、黎斗は斉天大聖に突撃する。





●●●●●





「くっ……!!」

 神速を遙かに凌駕する速度で天から斉天大聖が急降下する。直後、かの神のいた場所を、空間をも引き裂く極太の光が通り過ぎた。
「ぐわっ……!!」

 直撃こそは防げたものの、凄まじいばかりの破壊の余波が大聖を焦がし、彼方へ吹き飛ばす。

「舐めるなぁ!!」

 この光景に平天大聖が暴れ狂う。際限なく巨大化した牡牛の一撃は圧倒的で、足を振り下ろした衝撃が既に地殻変動を引き起こす威力。息吹は眼前の矮小な存在を容易く消し飛ばす衝撃波。

「やっぱコイツが問題か……!!」

 舌打ちする黎斗の頭上を翔る、億を上回る亡霊の集団は、化け物牛の鼻息一つで消滅する。軍勢が地を這い攻め寄せるが、足踏み一つで衝撃波が起こり、やはり近づく前に消し飛ばされる。

「たたっ斬ろうにもデカすぎる……!!」

 巨大化し続けた牛様は、もはや富士山が小さく見える。当然足も図太く、黎斗のワイヤーや槍、剣では決定打には成り得ない。

「――くっ!?」

 前方から飛来する巨大な柱。否、牛の足。速度・範囲ともに広大で回避は不可能。やむを得ず相棒を突き出し防御の構え。

「うえっ」

 重い一撃だと、想像していた。だが現実はなお重く、全身を砕くような衝撃と共に、天高く打ち上げられる。急激な浮遊感に一瞬気を取られ、前を見れば牛を頭上から見下ろす形に。

「息子だけと思うなよ。ハァ!!」

 視界が炎で朱く染まる。神仏すら焼き払う奈落の劫火、三昧真火。範囲は広大過ぎて、黎斗は回避を諦めざるを得ない。

「いっ!?」

 避火訣を唱え寸前で防ぐ。こちらが同じ術を使ったところで規模が違いすぎて競り負ける。だが防戦一方になるわけにはいかない。

「契約により我に――」

 呪力が、うねる。落下しながらも火中の黎斗が無傷であることを悟った斉天大聖の行動は早い。

「如意棒!」

「其は――ガッ!?」

 瞬時に伸びた猿の得物は、容易く黎斗の結界を破壊し、彼の五臓六腑を押しつぶす。直後、圧倒的な火力が黎斗の身体を消し炭に変えた。

「……めんどくせぇ。かったりィ。アニキ、こいつら全部押し流すわ」

 傍観していた覆海大聖が手を翳す。それだけで濁流の音が聞こえてくる。平天大聖をも上回る、山すら飲み込む津波の襲来。二郎真君が放ったものよりも、なお大きい。

「「……!!」」

 混天大聖と空中でぶつかり合う冥王も、移山大聖と格闘する羅濠教主も、その巨大さに息を飲む。

「飲み込め」

 覆海大聖の一言と共に、大海粛が襲い来る。それは全てを水底に沈めんとする破壊の権化。

「――」

 山すら余裕で飲み込む大洪水は、一瞬にして蒸発した。水蒸気が大量に生み出され行き場を無くして荒れ狂う。

「なんだよ。死んでねぇのか」

 覆海大聖が残念そうに呟く。視線の先には、再生している最中の黎斗。

「あっぶねー……」

 冷や汗を流しつつ黎斗は胸をなで下ろす。今の平天大聖が数キロ程度。かの神を飲み込む津波など直撃したら都市は壊滅だ。

「いくぞ甥っ子!!」

「だから、僕を、甥と呼ぶな!!」

 だが脅威は終わらない。亡霊を抜けて、紅劾児と斉天大聖が襲い来る。喧嘩腰の口調とは裏腹に、息のあった連続攻撃は、黎斗に反撃の手を与えない。

「二人がかりかよ!!」

 斉天大聖が三面六臂化していることを考慮すると実質四対一。闘神をこれだけ相手取るのは正直キツい。

「周りは!?」

 アテナはペルセウスとランスロット、アレクは羅刹女で手一杯だ。

「ドニの野郎は何処だ!?」

「うん? ここだよー?」

「ッ!?」

 背後からの声。気付いて回避に移るが、それは致命的に遅すぎた。完全に意識の外から振るわれた一撃は、黎斗の身体に綺麗に吸い込まれていく。

「――!!?」

 声にならない声が黎斗の口から漏れる。だが、ヤマの権能は倒れることを許さない。超再生が、瞬時に黎斗の傷を塞ぐ。

「……ふむ。破魔の主は流石に死なぬか。――ならば。死ぬまで殺すのみよ」

 斉天大聖の宣告と共に、如意棒が、火尖槍が、次々と黎斗の身体に突き刺さる。シャマシュの権能が斉天大聖に同じ傷を与えるも、首を切り落とされても生え替わるかの神には大して効いていない。

「くっ、この程度の傷で……!!」

 寧ろ中途半端な傷を与えたことで紅劾児が激昂、もはやその槍捌きは闘神達に劣らない。

「まだまだ行くぞ!!」

 斉天大聖は叫ぶと同時、己の毛を抜いて投げる。毛が、斉天大聖の姿に化ける。斉天大聖達は己の毛を抜き、投げる。――それは、終わらない増殖戦法。変化しないのが救いだ。おそらく変化しないのは、呪力の消費が激しいからだろう。邪眼の力を宿した領域で呪力を大量消費すれば、邪眼を防ぐための力すら失われる。

「冗談じゃねぇわ」

 空間跳躍により袋叩きから逃げた黎斗がぽつり、と呟く。事態は最悪だ。斉天大聖を捕縛し、大猿を解呪。民間人を記憶操作した後に斉天大聖を再封印。最善の終幕は潰えた。

「慢心してたつもりは無いんだけどな……」

 最初から即斉天大聖撃破に動いていれば。ここまで焦土にはならなかったかもしれない。大猿も増えなかったかもしれない。全てはただの予想でしかない。だが。

「今よりは被害は減った筈、か」

 周囲に犇めく斉天大聖。既に数は万を越えるのではないだろうか。教主もアテナも冥王も黒王子も生存しているだけで驚きだ。もっとも彼らとて、生き延びるだけで手一杯のようだが。

「壊せ壊せー!!」

 闘いを無視して破壊に勤しむ猿達も多く、それが結果として生存を許していることを考えると人を困らせる、という特性を維持している彼らの存在は不幸中の幸い、と見るべきなのだろうか。

「――――」

 一瞬、天秤にかける。現状維持か広域破壊か。

「考え事とは余裕じゃのう!!」

 斉天大聖の一撃は、黎斗を透過し地面を抉る。

「――ぬっ!?」

 未来に転移することによる緊急回避。

「大聖、そろそろ終幕といこうか」

 黎斗の宣告に、大聖は笑う。

「何を!! 貴様の呪力では何も出来まい」

 連戦は、確実に黎斗の力を蝕んでいた。疲労は隠しきれず、呪力は雀の涙ほど。神殺しの魔王とは思えないほどの呪力しかない。

「そうだね。僕一人の(・・・・)力じゃあ、何も出来ない」

 影から、抜き出す質素な太刀。神すら殺めるその霊剣(つるぎ)の名前は――

「いくよ、天羽々斬。――倭は国のまほろば――たたなづく青垣山ごもれる、倭しうるわし」

 詠う。荘厳にその声音は響く。黎斗の内に呪力が膨れ上がっていく。

「馬鹿な!? 神懸りだと!!」

 驚愕に目を見開く斉天大聖を前に、汗を垂らしながらも大胆不敵に黎斗は笑う。

「呪力反発するかも、とか色々懸念はあったけどさ。死に物狂いでやれば意外とどうにかなるもんだよ。――さて、と」

 黎斗の顔から、表情が消えた。




「――開け。異界司る深淵の闇――」

 黎斗が唱う。今までとは違う、静寂な空気を身に纏って。

「我が想い。一夜の死闘(ユメ)を今ここに」

 詠う。声はそれ程大きいわけではないのだが、全員の耳に確かに届いた。

「それは決して、醒めない絶望(ユメ)

 黎斗の呪力がごそり、と削れる。須佐之男命の呪力もあっという間に底を尽いた。傍目にもわかる位に減少したそれは、一般人にも劣る程。

「絶望を以て現実と決別せん」

 これが、死と再生の女神。国土創世の女神。黎斗の切札。

「喪った存在(モノ)を、今一度……」

 両手を胸の前に。半透明の球が突如現れた。球を抱えて、黎斗は目を閉じ言霊を紡ぐ。

伊邪那美命(はじまり)サリエル(いち)ディオニュソス()ラファエル(さん)マモン(よん)カイム()テュール(ろく)アーリマン(なな)シャマシュ(はち)ヤマ(きゅう)スーリヤ(じゅう)少名毘古那神(じゅういち)月読(じゅうに)不死鳥(じゅうさん)八雷神(じゅうよん)火之迦具土(じゅうご)酒呑童子(じゅうろく)大国主命(おわり)。過去を……」

 詠う。一言事に、周囲の空気が重くなっていく。黎斗の髪から色素が抜け落ち白くなる。髪が伸びる。肌も青白くなり、華奢な身体も相まって、死人のようにしか見えなくなる。そして、それが言いようのない悪寒を感じさせ斉天大聖の背筋を襲う。

「大兄!!」

「応ッ、させぬわ!!」

 牛魔王の放つ灼熱の火焔が、大地を舐める様に焼き尽くす。溜め時間無し(ノータイム)で即発動するそれは、仁王もろとも黎斗を焼き尽くそうとして――

「何ィ!?」

 ――掻き消えた。そして、見る間に大猿達の石像が人へと戻っていく。餓鬼達が、子鬼達がそれを回収し、呆けている神々の合間を縫って、何処かへ揃って消えていく。

「終わりだ!!」

 異変の元凶たる黎斗を始末せんと、気配を断って背後に白龍が回り込む。丸飲みにしてやろうとしたのか口を大きく開けて、黎斗の影から噴き出る邪気に呑み込まれた。

「な、何が……?」

 呆然とする教主。呆然としない者など、この世の何処にも存在しない。黎斗の呪力が傍目にわかるほど周囲に漏れ出しているのだから。それも”神”の気配と共に。

「がああああああ!!!?」

 絶叫が聞こえること数秒、悲鳴は聞こえなくなり、黎斗の影は普通に戻る。普通と言っても邪気を拡散している(・・・・・・・・・)ということを除けば、だが。

「雑魚は消した。さて……」

 唖然とする斉天大聖の真横を、灼熱の熱線が通過する。絶大な熱量は、周囲を蒸発させつつ一瞬にして混天大聖を消滅させた。付近を巻き添えに根こそぎ吹き飛ばす光の柱は、一筋の光に集約されており周囲に影響を全く与えない。普段以上の精度だった。次いで放たれるもう一つの熱線。こちらは黎斗の背後の人型の額から。かつて黎斗を瞬殺したその熱線は法師を呑み込み――やはり消滅させた。余波で吹き飛ぶ斉天大聖を尻目に、黎斗は一人、宣告を下す。

「殲滅せよ」

 虐殺が、始まる。黎斗の周囲から生まれた”ナニカ”が、動き出す。 
 

 
後書き
能力に関しては割とバレバレっぽかった(饕餮で誤解を招いてしまった)のが個人的に痛恨ですへい。
数の暴力を真面目に考えるとこーゆー系の能力になっちゃいますよね(言い訳





……カンピ新刊いつなんでしょね
タイトルは某ゲームの神BGMより拝借しました(何 
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