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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§46 圧倒する力

 
前書き
お久しぶりです。亀です。すみません(死

すっかりアレなカンジになりましたが投稿させていただきますです(汗


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「な……」

 突如現れた数多の神に、百戦錬磨の神々もまた動揺する。

「小賢しいわ!!」

 牛魔王が鼻息荒く、三昧真火を解き放つ。紅蓮の海が、大地を舐めあげ焼き尽くす。そんな森羅万象、あらゆる事物を焼却する地獄の業火を一筋の蒼焔が焼き払う。

「定義、三昧真火。定義、生。分かち、絶て」

 遅れて聞こえる王の声。原初の母神すら燃やし尽くす、神殺しの焔の前では地獄の業火すら生温い。蒼い焔が、紅い焔を切り裂いて、切り裂かれた焔は瞬時に消える。

「小僧がぁああ!!」

 激怒する白牛の身体の震えは、大気を揺らし暴風を巻き起こす。

「大兄落ち着け!」

 敵味方構わず吹き飛ばす強風と地震に斉天大聖も声を張り上げざるを得ない。そんな状況下、焔の中で起きる違和感。

「汝の命運ここで断つ」

 蒼焔に囲まれた黎斗が、薄く笑った。

「来たれ。天より墜ちる輝く御柱」

 今までと違う、正真正銘、本気の一撃。

「調子に乗るな餓鬼が!」

 巨大な白牛がその顎を開く。三昧真火が駄目なら、更に強大な力を。強大無比な神通力を誇る彼の雄牛。その怪物は口を開いて。放たれるのは空間をも容易く爆砕する不可視の衝撃。不可視だが、空間をも抉り取るその一撃は通過するだけで景色を歪め、軌道がまるで丸わかり。--尤も、軌道がわかってもその速度故に回避は出来ず、その威力故に防御も無意味。

「森羅一切灰燼に帰さん」

 それに対し、黎斗は竜が五匹、絡みついた腕を持ち上げた。口遊む言葉は、破壊の予言。

「――!!」

 拮抗は一瞬。魔牛は灼熱の光に飲み込まれて。存在全てを否定されて焼き尽くされる。

「……な」

 沈黙が、辺りを包み込む。高層ビル群ですら歯牙にかけない途方もない全身が根こそぎ光に包まれ消滅した。この現実に、皆が一様に顔を引きつらせる。

「ふむ。二本まで耐えたか」

 白髪を掻き揚げながら意外そうに黎斗は言う。破壊光線六連続の内、不可視の衝撃と二本は相殺された。牛魔王に直撃したのは四本だけだ。もっとも、それでもやりすぎ(オーバーキル)に変わりはないのだけれど。

「あ、貴方……」

 その光景に一瞬硬直した羅刹女が、

「あああ……!!」

 発狂する。血走った瞳で芭蕉扇を高く掲げる。一振りで大嵐を巻き起こすその団扇を振ろうとするも、その四肢はいつの間にやら硬直し、挙動がぎこちないものに変わっていた。まるで、操り人形を見ているかのような。

「くそっ、くそっ!」

「復讐など美しいお前に似合わない。下らぬ事など忘れて俺に跪け。俺に仕える巫女となれ」

 背中まで伸ばした髪を揺らし、美青年が謡うように言葉を紡ぐ。その瞳は髪と同じ、見るものを陶酔させる葡萄酒色。敬愛する義姉以外全ては己の巫女である、という持論を持つ狂乱の貴公子はなれなれしく、自然な動作で羅刹女の肩を抱く。

「汚らわしい、触るな!!」

 罵倒する羅刹女だが、ディオニュソスは全く意に介する気配を見せない。

「俺に仕える女は皆そういう。が、それは最初だけだ。何、女は生意気な位が丁度良い」

 気障ったらしく嘯いて、瞳が更に妖しく輝く。眼前の女の思考を犯さんと。

――――――この男に従え。それは最高の栄誉だ。其れは甘美な美酒だ。其れは究極の贅沢だ。

「違う!! コイツらは、あの人の仇!!」

 思考が塗りつぶされるなか、それでも頑強に抵抗する。だが、目の前の男はそれを踏みにじり蹂躪する。

「ふふふ。いつまで持つかな」

 本来神の洗脳は不可能に等しい。だが、ディオニュソスの権能は基本的に女性限定だ。対象を限定することで性能を上昇させている。更に、こちらは黎斗からの莫大な呪力のバックアップが存在する。大してあちらは召喚の依代になった牛魔王が消滅。バックアップは望めない。

「フフフ、強引というのは良いものだな」

 熱を帯びた表情で語る彼の神に、抵抗できない。何も考えられなくなっていく。

「ああああああああああああああああああああああ!!!」

 絶叫を最期に、羅刹女の意識は途絶えた。

「さて、俺の巫女よ。その団扇を煽げ。屑どもを吹き飛ばせ。汚れた虫けら共を生かして返すな」

「畏まりました」

 ディオニュソスの命に従い、羅刹女が芭蕉扇を振るおうとして――飛来した斬撃に芭蕉扇を破壊された。

「ん?」

「やぁ、久しぶりだねディオニュソス。君、前はそんな性格じゃなかったと思うんだけど」

 一撃で羅刹女の主力を破壊した剣の王、かつて対峙した神に語りかける。

「なんだ。いつぞやの剣馬鹿か。俺の性格なんか知らねぇよ。記憶はともかく性格は黎斗が対峙した時のモノが再生してるんだからよぉ」

 理解できるものは存在しないであろう言葉で回答し。

「てめぇ、俺の女に手ぇ出しやがって。お前は俺が、と言いたいところだが」

 残念そうに、ディオニュソスは勝ち誇る。

「お前、俺んトコ来たら駄目だわ。黎斗(アイツ)を止めないと、どうしようもないぜ?」

 その言葉にハッとするドニだが、もう遅い。彼の視線の遥か先、複数の神々に囲まれた黎斗の手には、不吉に煌めく神殺しの槍。





●●●





「ロンギヌス、汝が力を我に示せ」

 黎斗の言葉を引き金として、ロンギヌスが淡く輝き始める。

「修復完了」

 愛槍の一言は、戦場に響いた。傍にいないと気づかない程の音量だが、聞き漏らした者は誰もいない。それには理由が二つある。
 一つ目の理由は単純だ。この場に集った存在は皆聴覚が鋭い。本気なら首都圏程度の広さ、どこかで小石が落ちても聞き取れるだろう程に。
 二つ目の理由は更に明快だ。「この場でもっとも危険な存在」が()だと悟ったからだ。無数の神々を率いる少年。彼から警戒を外すくらいなら、火薬庫の中で火遊びをした方がまだ安全だと。

「上々。――汝に我が意志を委ねる。よきに計らえ。託すは我が歴史(じんせい)

 青白い焔に囲まれた少年が謳う。彼の髪は白く長い。まるで枯れ果てたかのように。彼の身体は青白く細い。まるで生気を喪ったかのように。

「目には目を。歯には歯を。――裁きの日、皆は平等とならん」

 黎斗の言葉を引き継いで、シャマシュが語る。彼の神の後ろで車輪が回る。空空空空音を立てて。

「いかん!」

 危機を察して斉天大聖の分身が無数、太陽神を襲いにかかる。だが、それは致命的に遅かった。

「小童共が。失せろ」

 巨大な鉄棒が、空間を凪いだ。神速の猿候達がまともな反応を出来ずに被弾、爆散していく。煙に紛れ顕現を果たしたのは、巨大な鬼王。

「京の鬼神か!!」

 吐き捨てる真君の一撃は、彼に届かない。彼の身体に触れた瞬間、三尖刀は熔解し、ただの棒きれと成り果てる。

「久しぶりだな、若造」

 赤ら顔にして巨躯なる鬼王は凶暴な笑みをその顔に浮かべ、高らかに叫ぶ。

「儂、と死合えやぁ!!」

「くっ…!!」

 豪快な一撃は、真君を彼方先へ吹き飛ばす。当たれば神ですら間違いなく即死の一撃。そんなものを乱発するのは異常の一言だが、それを受けて即座に立ち上がる真君も異常だ。

「ふむ。流石は中華の英雄神よ」

 満足そうな赤い鬼に、白い男が不満げに呟く。

「真面目にやれ、酒呑童子」

 斉天大聖とカイムが打ち合う中で、黎斗から冷たい声の叱責がとぶ。

「儂は真面目よ。……しっかしお主、相変わらずコレ(・・)使うと人格が変わるのぅ」

 呆れた様子の酒呑童子に、黎斗は薄く笑い返答する。

「何を。変わらぬよ、何も。(ぬし)を意思ごと復元した(・・・・)のも(ぬし)の想いを遂げるため」

「あー、まぁのぅ。儂を丸ごと帰還させてくれたのは有り難い。だが、なればこそ。儂の本領を」

 真っ向勝負をしたいと主張する鬼に対し、黎斗の言葉はそっけない。

「だから、許す。だが闘争を愉しむな。そのような余裕は、もう無い」

 黎斗の言葉に追従し。

「むぅ、まぁそんなワケだから適度に死合おうぞ!」

 酒呑童子がその得物を振るい、背後のフェニックスが高く飛び立つ。

「天罰の時、来たれり」

 不死鳥が、高く飛ぶ。巨大になりながら。一分立たない内に牛魔王並の大きさに、変わる。そして、帯電する。遥か上空で羽ばたく不死鳥。彼の鳥の翼から、無数の焔と稲妻が地上めがけて落下する。

「貴様!」

 義兄、義姉の消滅に斉天大聖が激昂する。フェニックスの無差別爆撃による傷も馬鹿にならない。しかもシュアマシュの権能の影響下だからか、相手がダメージを負っても、こちらがダメージを負っても、こちらに同じ傷がつくられる。故に彼は特攻を選ぶ。光にも迫る速度で黎斗の死角へ、如意棒を力一杯叩きつける。だが、その程度で水羽黎斗は落とせない。

「汝程度に負けぬよ」

 三本の如意棒を、一本の神槍(ロンギヌス)で凌ぎ続ける。シャマシュの権能が再び発動した今、持久戦は斉天大聖達に不利だ。再生し無傷の黎斗に対し、斉天大聖は着々とその傷を増やしていく。たとえそれがかすり傷と呼べないようなチンケな傷でも、塵が積もればなんとやら、だ。

「……見境なし、だな」

 アテナは引きつった顔でただそれだけを絞り出す。見上げた先には、巨大化した不死鳥が所狭しと災厄を撒き散らす姿。

「スクナビコナで巨大化、八雷神で落雷。マモンで鉄塊隕石、といったところか。鉄塊が熔解しているのは酒呑童子か?」

 味方に当たることを一切合財考えていない戦法だ。ある程度範囲は絞っているのだろうが、狙いは非常に大味だ。黎斗の喚びだした神々にも直撃するが、直後に再生してしまう。結果、シャマシュの力たるインチキ裁判で相手に傷を負わせるだけだ。

「しかも死の領域が相手の命を蝕み続ける、か」

 アテナは知らない。冥府顕現を喚びだした神々の力も使って発動させている、という事実を。これによって冥府の範囲と強度が激増していることを。

「流石お義兄様」

 教主は知らない。喚びだした神々の冥府顕現により出現した亡者の合計数は地球の全人口にも匹敵する、ということを。

「やつの呪力は無尽蔵なのか?」

 アレクは知らない。アーリマンの力で"山羊"を拝借し、それを共有する彼らにとってもはや呪力の量など気にする必要が無い、ということを。

「聞け、天よ、地よ、神を従える冥府の魔王よ!!」

 正攻法では厳しい、と感じた斉天大聖は距離を取って倶利伽羅剣を取り出す。

「伊邪那美神は……」

 かの猿神が言葉を紡ぎ、それに応じて剣の輝きが危険なものに変わっていく。だが。

「定義、剣。定義、剣。切断せよ」

 黎斗の一声で焔が飛ぶ。

「な……」

「伊邪那美用の剣で迦具土は切れぬよ」

 真っ二つに両断された剣と驚愕に包まれた斉天大聖が。

「汝の全てを否定してやる」

 嗤う黎斗と、対峙する。 
 

 
後書き
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最新刊、読みました。
テュールお前鋼かよ、とかディオニュソス、とか色々ありました(苦笑
多分最大の誤算はこの辺。特にディオニュソス(爆

あとは剃刀封印とかなんじゃそらとか武器召喚は時代変わっても有効なのねとかありましたが、まぁ(何

とりあえず、これでこの章の裏タイトル、カンピ全員集合は果たせる、のだろうか……? 
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