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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
 【第6章】なのはとフェイト、結婚後の一連の流れ。
   【第3節】新暦83年の出来事。



 そして、新暦83年。(地球では、平成31年→令和元年・西暦2019年)
 4月の中旬に、なのはとフェイト(27歳)は、これまた仲良く同じ日に元気な女の子を出産しました。
(当然ながら、卵子融合では女の子しか生まれません。)
 フェイトが『名前なんて全く思いつかない』と言うので、なのはは『どこまでも遠く、はるか彼方まで自分自身の翼で飛んでゆけるように』との願いを込めて、二人の女児をそれぞれ、カナタ、ツバサ、と命名しました。
 戸籍上の本名は「カナタ・ハラオウン・高町」と「ツバサ・ハラオウン・高町」ですが、普段はヴィヴィオと同様、「高町カナタ」や「高町ツバサ」と呼ぶことにします。
 そして、この二人は以後、仲の良い「双子」として育てられたのでした。
(実際には、「同じ腹から産まれた姉妹」ですらなく、『オットーとディードが双子である』というのと同じような意味での「双子」でしかなかったのですが。)

 しかし、なのはもフェイトも、今は魔法が使えないので、自分では「即時移動」ができません。そこで、ちょうど時間の()いていたエリオとキャロが、代理で地球の高町家へ出産の報告に行きました。
【現地で見知らぬオバチャンから「父娘(おやこ)か」と勘違いされたりして、ちょっとした珍道中になりましたが、それはまた別のお話です。】

 この双子の「姉」となるヴィヴィオは、この時点で14歳。中等科の3年生です。同様に、アインハルトは、この時点で16歳。高等科の2年生です。
 そして、カナタとツバサは、旧六課メンバーやナカジマジムの面々や今では「コロナの親友」となったジャニスが、また時には、八神家の面々や聖王教会のシスターたちが、さらには、時おり、ユーノ司書長やアルフまでもが、毎日のように入れ替わり立ち替わり様子を見に来てくれるので、すっかり人見知りをしない赤子に育っていきました。

 アインハルトはそんな可愛い双子を見て、ふと思ってしまいます。
(……い、いつかは私もヴィヴィオさんと……。)(ドキドキ)
 そんなアインハルトの夢が(かな)うのは、まだ随分と先のことでした。(笑)


 ちなみに、6月の上旬、ゲンヤ・ナカジマ三佐(54歳)は(ゆえ)あって、上の姉サチエ(62歳)の孫娘メグミ(13歳)を「七人目の養女」に迎えました。
 トーマが正式にゲンヤの養子になってから一年半後。男女の(べつ)無く数えれば、メグミはゲンヤの「八人目の養子」ということになります。

【なお、この作品では『ゲンヤは新暦29年の生まれで、StrikerSの時点で46歳。彼には兄が一人、姉が二人、弟が一人いて、この五人兄妹はそれぞれ4歳差である』という設定で行きます。
また、以下の裏設定は、本編とはほとんど関係の無い話なのですが……。
 ゲンヤは新暦46年の春、高等科を卒業すると同時に、親族の反対を押し切って17歳で管理局に就職しました。それ以来、ナカジマ家とは断絶していたのですが、当時すでにカワハラ家へ嫁いでいた上の姉のサチエとだけは時おり連絡を取り合っていました。
 メグミは、そのサチエの「駆け落ちした長女(第二子)ナオミ」の遺児です。
 ナオミ・カワハラとラゼルザウロ・ディグリスとの結婚は、当初はどちらの実家からも祝福されておらず、何年かして追認された後も、まともな親戚づきあいは一切ありませんでした。
 そのため、新暦83年の6月、メグミ(13歳)が事故で父母と弟妹を一度に失い、満身創痍(まんしんそうい)の体で一人だけ生き残ってしまった時には、カワハラ家の人々もディグリス家の人々もなかなか彼女を引き取ろうとはしなかったのです。

 サチエは、孫娘のそうした窮状にひどく心を痛めましたが、彼女もまたカワハラ家の中では、夫や息子たちに対してあまり強いことを言える立場ではなかったため、彼女はやむなく弟のゲンヤに助けを求めました。
 そこで、ゲンヤは大急ぎで独り現地に向かい、皆々が葬儀場から帰って来たところに遅ればせながら駆けつけると、その場で双方の親族に対して『自分はメグミの母方の大叔父だ。誰もこの子を引き取らないのならば、自分がこの子を引き取る』と宣言しました。
 ゲンヤの兄コウタ(66歳)は、『親の葬儀にすら顔を出さなかった男が、今さら何をしに来たんだ!』などと不満顔でしたが、ゲンヤがメグミを引き取ること自体に関しては、彼をも含めて誰からも異論は出ませんでした。
 こうして、メグミは晴れてゲンヤの七人目の養女となりました。
 その後、彼女はナカジマ家でトーマの傷ついた心を癒やしつつ、ゲンヤとトーマと六人の姉たちから大変に可愛がられて育ち、中等科と高等科を普通に卒業した後、87年の7月には、17歳でそのまま「トーマお兄ちゃん」のお嫁さんになり……95年の今では、もう1男1女の母(25歳)となって、幸せに暮らしているのでした。】


 そして、同じ頃、エイミィはまたもや男女の双子、ゼメクとベルネを出産しました。
 今回、彼女はミッドのソルダミス地方にある実家、リミエッタ家の方で産休を取っていたのですが、翌84年には、子供に恵まれない弟夫婦の許へ、この双子を養子に出すことになります。

 また、同じく6月の上旬に、ヴィヴィオとコロナとリオは中等科の修学旅行で、〈管7モザヴァディーメ〉へ行きました。
『表面重力が普通の世界よりも六分の一ほど大きいので、ただ地上に立っただけでも、自分の体重がいきなり16%も増えたかのように感じる』という世界です。体の虚弱な子には、ちょっと厳しい世界かも知れません。
 主な滞在地は、第九大陸ソドゥフィナージェの北部州都ゼパルーネでした。昔、この地域で使用されていたハヴィヌーザ語が、現在の「モザヴァディーメ連邦標準語」の原型となったのです。
 音感も語順も文法も、ミッド語やベルカ語とは全く異質な言語で、生徒らの中には、わざと自動翻訳機を(はず)して「異国情緒」を楽しむ猛者(もさ)もいました。
 特に、旧市街の『二階建てで(かわら)()きの木造建築が、整然と続いている』という古風な街並みは、ミッドでは、もうどこにも見られない種類のモノです。
 数日後、生徒たちもみな大いに満足して、ミッドに帰りました。


 そして、翌7月の下旬。今年もまたIMCSの地区予選が始まりました。
 男子の部では、地区予選13組の準決勝でバラム・ブロムディス選手(14歳)の「あからさまな反則行為」(ダウンしている相手への攻撃)などもあって、随分と荒れたようですが、女子の部では、これといった「(ばん)狂わせ」も無く、おおむね順当な結果となりました。
 ナカジマジムの「初期メンバー五名」は昨年と同様に揃って地区予選で優勝し、都市本戦に進みました。アンナだけは予選準決勝で惜しくも敗退しましたが、その試合内容は充分なもので、実のところ、その判定もやや微妙なものでした。
 また、ナカジマジム以外では、ジャニスも今年は都市本戦に進出しました。


 一方、8月になると、地球では、恭也(37歳)と忍(36歳)が長らく住み続けていたドイツを離れ、子供たち(1男2女)とともに日本に帰国しました。
 移民の問題で現地の治安が悪化し、雪人(ゆきと)(しずく)(かよ)う初等科学校でも一つ二つ問題が起きて以来、ずっと帰国のタイミングを(うかが)ってはいたのですが、最終的な判断としては「すずかの妊娠」が決め手となりました。
 恭也は「婿入り」した身なので、一家五人は以後、すずかたちとともに「月村家」のお屋敷で生活をすることになります。
 姉の忍が帰って来てくれて、すずかは本当にいろいろと助かりました。

【あくまでも結果論ですが、翌年(西暦2020年)の欧州の「コロナ禍」による惨状を考えると、『ちょうど良いタイミングで日本へ逃げて来ることができた』ということになります。
 なお、月村家の三兄妹の名前は、何故か、「雨冠(あめかんむり)」の字で揃えられていました。
 雪人(ゆきと)(11歳)は、西暦2008年(新暦72年)11月の生まれで、カレルやリエラと同い年ですが、特に面識はありません。
(彼は、将来的に「御神(みかみ)真刀流」関連の話を全部、一人で引き受けることになりますが、その代わりに、魔法関連の話には一切、関与しません。)
 (しずく)(7歳)は、西暦2012年(新暦76年)7月の生まれで、高町家の美琴よりも一つ年上です。
 霧香(きりか)(3歳)は、西暦2016年(新暦80年)5月の生まれで、高町家の奏太と同い年です。
 ラブコメ的には、「(おさな)なじみのイトコ」という、非常に美味(おい)しい(?)ポジションなのですが、さてはて、どうなりますことやら。(笑)
(彼女も、将来的に、魔法関連の話には一切、関与しません。)】


 そして、8月になると、アルフがまた不意にミッドの高町家を訪れました。
 さんざん双子の面倒を見てから、「月村家の現状」を報告するとともに、「地球で起きた、ごく小さな事件」である「トモエ事件」についても二人に報告します。
 その後、なのはとフェイトの同意を得て、リンディは「現地駐在員」としての権限で、「トモエ事件」の報告を上へは上げないことにしました。(←重要)


 また、10月上旬、「ミッド中央」の都市本戦の決勝は、アインハルト対ミウラの組み合わせとなりました。
 公式戦では、実に三回目の対戦です。試合は、IMCSの歴史に残る名勝負で、最後までどちらが勝ってもおかしくはないほどの接戦でしたが、結果は、アインハルトが昨年に続く「連続優勝」を達成しました。
(なお、アインハルトとミウラ以外では、ヴィヴィオが一昨年と同じく、また6位になりました。他にも、コロナはジャニスと再び熱戦を繰り広げました。
 そして、コロナはリオとともに2回戦に進出しましたが、そこでの対戦相手との「相性の悪さ」もあって、残念ながらベスト8には残れませんでした。)

【また、都市本戦の最終日。観客席には、ディアルディア・ヨーゼル(9歳)の姿もありました。無邪気な少女は「アインハルトとミウラ」に(あこが)れて、12歳以降、中等科の3年間は、自身も格闘系の選手としてIMCSのリングに立つこととなります。】


 さて、11月になると、地球ではアリサが第一子「リンダ」を出産しました。
【なお、すずか(鈴香)が第一子「とよね(豊音)」を出産したのは、少し遅れて翌年の2月のことになりました。胎教や育児を姉の忍に手伝ってもらえて、すずかは随分と助かったようです。】


 同じく11月。IMCSでは、アインハルトが都市選抜を勝ち抜いて、再びミッドチルダ・チャンピオンとなった直後のことです。
 ミッドの高町家では、なのはが不意に育児疲れで(?)倒れてしまいました。
 スバルとティアナは、単にアインハルトへの「お祝い」について相談をするつもりで、高町家に連絡を入れたのですが、フェイトからそれを聞かされると、思わず『はあァ?』と変な声を上げてしまいます。
《ちょっと待って! 「あの」なのはさんが?》
《信じられないけど、フェイトさんは冗談を言う人じゃないし……。》
 スバルとティアナは、大慌てで高町家に急行し……フェイトから、いきなり「育児の手伝い」をさせられ、身をもってその大変さを思い知ることとなったのでした。(笑)

 数時間後、『なのはが倒れた理由も半分以上は「単なる睡眠不足」だった』と解って、スバルとティアナも安心しましたが、アインハルトへのお祝いの相談を終えた(あと)で、ティアナはフェイトから不意に別件で相談を持ちかけられます。
 ルキーテの名前を聞くと、ティアナもすぐに思い出しました。
「あ~。お二人の結婚式にも(おっと)同伴で来ていた、モザヴァディーメ人の執務官さんですよね」
「ええ。現住所はフォルスの第二首都……と言って、解るかしら?」
「はい。ガスプシャルスは、五年前、最初に〈マリアージュ事件〉が始まった場所ですから、おおよそのことは」
「そう言えば、そうだったわね。……実は、彼女も今、妊娠中で、『年が明ける頃には生まれる』と聞いたから、私も『お祝いは何にしようか?』とか考えていたところだったんだけど……彼女は先日、不意に夫とともに行方不明になってしまったのよ」
「執務官が妊娠中に行方不明と言うと……拉致(らち)ですか?」
 凶悪事件を担当することの多いティアナは、ついついその可能性から先に考えてしまいます。

 フェイトは、いかにも(つら)そうな表情でした。
「家の中には争った形跡も無く、最後の目撃情報も、近所の人の『慌てた様子も無く、ごく普通に二人で車に乗って出かけた』というものだから、まだ断定はできないんだけど……現地で『執務官案件』に切り替わった、ということは……そういうことよね?」
 単なる事故の可能性が高いのであれば、現地の陸士隊が今までどおりに普通の捜査を続けているはずなのです。
 ティアナは全く不本意ながらも、小さくうなずきました。
「私は、現地の担当執務官とは面識が無くて……しかも、今は長期の休暇中という身の上だから、訊いても何も教えてもらえないのよ」
「フォルス人は、固い人が多いですからねえ。まあ、良く言えば、職務規定に忠実ということなんでしょうけど」
「だから、できたら……と言うか、できる範囲で……あなたもこの件について調べて、私にも少し捜査状況とかを教えてくれないかしら?」
「解りました。幸い、当面は急ぎの案件もありませんから、取りあえず、明日にでも、フォルスに行ってみますよ」
「ありがとう。(ほか)でもないあなたにそう言ってもらえると、本当に助かるわ」

 そうして高町家を()した後、スバルとティアナは「自動運転」の車の中で、こんな会話をしていました。
「フェイトさんも大変そうだったね。私、あんな弱々しいフェイトさん、初めて見たよ」
「育児疲れの上に、友人が安否不明ではね。憔悴(しょうすい)するのも、無理は無いわ」
 すると、そこへ不意に、ギンガからの通話(音声のみ)が入ります。
「ティアナ。今、時間、いいかしら?」
「ええ。今は、大丈夫ですよ。明日からは、またしばらくバタつきますけど」
「うん。そんなに急ぐ話じゃないんだ。実は、私の親友の妹が、本気で執務官を目指していてね。先日は取りあえず『第一種・甲類』の補佐官試験に合格したんだけど、問題は『来年の春から誰の(もと)で働くか』ということで……念のために訊くけど、あなた、二人目の補佐官を迎える余裕って、あるかしら?」
「私が担当するのは、もっぱら凶悪事件ばかりですけど、大丈夫ですか?」
「うん。ちょっとクセの強い魔法を使う子だから、並みの執務官では、むしろ彼女をあまり上手(じょうず)には扱えないんじゃないかと思うのよ」

(……ああ、そうか。これ、本来なら、フェイトさんに頼むはずの話なんだ。)
 ギンガは決してそういう言い方はしていませんでしたが、ティアナは、何となく察してしまいました。
(フェイトさんには、いろいろとお世話になって来たからなあ……。)
 ティアナは、たっぷり3秒ほど考えてから、『解りました』と(こた)えます。
「多分、本人も年内は研修とかで忙しいでしょうから……年末の『余り日』にでも、一度、会ってみましょう。具体的な話はそれから、ということで」
「ありがとう。(ほか)でもないあなたにそう言ってもらえると、本当に助かるわ」
 ギンガは()せずして、フェイトと全く同じセリフを言いました。
「ところで、その子、どういう名前でしたっけ?」
「ああ、ごめんなさい。メルドゥナ・シェンドリールよ。あなたに(きた)えてもらえれば、あの子もきっと良い執務官になるわ」
(まだ『私の補佐官にする』とは言ってないんですけど。……この人も、押しが強いなあ……。)

 ティアナが通話を終えると、隣の運転席でスバルが思わず苦笑を漏らします。
「ウチのギン(ねえ)が、ごめんね~」
「いや。まあ、それは別にいいんだけどさ。……なんだって、こういうことって、同じ日に重なるのかしらね?」
「幾つも重なっちゃう日とか、意外にあるよね~」
「これって、確率論的に、異常(おか)しいような気がするんだけど?」
「たまに、こういうことがあるから、昔の人たちは『星回り』とか、信じちゃったんだろうね~」
「私は、そんなオカルト、信じないわよ……」
 ティアナは自分に強く言い聞かせるかのような口調で、そうつぶやいたのでした。


 この年の12月、IMCSの第31回大会は最終的に、アインハルト(16歳)が連続五回目の出場で、念願の「世界代表戦・初優勝」を遂げました。
 決勝戦の相手は現地ドナリムの代表で、準決勝戦では「疑惑の判定」で勝ち上がって来た選手でしたが、アインハルトは「文句などつけようの無いKO勝利」でこれを(くだ)したのです。
 優勝旗を四年ぶりでミッドに持ち帰り、クラナガンでの「凱旋パレード」を終えると、それで、アインハルト自身の中では自分の人生に改めて「ひと区切り」がついたらしく、インタヴューではこんな爆弾発言(?)をやらかしてしまいます。

 インタヴュアー「それでは、チャンピオン。来年への抱負をひとつお願いします」
 アインハルト「いえ。申し訳ありませんが、私は今年を最後にIMCSの選手を引退します」
 インタヴュアー「えっ!? それは……勝ち逃げ、ということですか?」
 アインハルト「いえ。勝っても負けても今年で最後にすると、最初から決めていました」
 インタヴュアー「ええっと……まだ16歳なのに、それは何故でしょうか?」
 アインハルト「高等科を卒業したら、すぐに管理局に入る予定なんです」
 インタヴュアー「いや。その……お仕事と両立とかは、やっぱり、無理なんでしょうか?」
 アインハルト「すみません。執務官を目指して、勉強に専念したいので」
 インタヴュアー「ええっと……(気を取り直して)そう言えば、ヴィクトーリア・ダールグリュン元選手も、この春から、ラウ・ルガラート執務官の許で補佐官として働いておられるそうですが……チャンピオンは、どなたか具体的に目標にしている執務官とか、いらっしゃるんでしょうか?」
 アインハルト「そうですね。魔法のタイプなどは全く違うんですが、個人的には、フェイト・ハラオウン執務官を目標にしています。(同性婚的な意味で。キリッ)」

 その日、なのはとフェイトは自宅でその中継を観ていたのですが、フェイトはこの場面で思わず盛大に茶を()いてしまいました。

「すごいね、フェイトちゃん。休職中なのに全ミッドチルダ中継で名指しだよ。こういう時って、普通はラウさんの名前が()がるものなのにね」
「わ、私……彼女に何か、特別なコトしたかな?(オロオロ)」
「さあ。それは、私に訊かれても解らないけど。でも、やっぱり、彼女は元々、フェイトちゃんに似ているトコロがあったんだと思うよ。小さい頃から重たいモノを背負わされていたトコロとか。それなのに、どんなに苦しくても安易には他人(ひと)を頼らない性格だったトコロとか……。彼女も自分でそれに気づいているから、フェイトちゃんを目標だと思うんじゃないのかなあ?」
「ん~。まあ……それは、確かに、そうかも知れないけど……」
(でも、まさかと思うけど、『同性婚的な意味で』とかじゃないわよね?)
【フェイトさん、大当たりです!(笑)】


 さて、ここで、話は少しだけ(さかのぼ)って……。
 八神はやては〈エクリプス事件〉が終わり、所属を〈本局〉の「次元航行部隊」へと移された後も、八神家の一同や、時にはルーテシアやファビアらとともに、次元航行艦〈ヴォルフラム〉を駆り、そのまま「捜査司令」としての仕事をずっと続けていた訳ですが……この83年には、しばしば武装隊を〈ヴォルフラム〉に乗せて行動するようになっていました。
 それで、以下に述べる9月の一件に際しても、ガルバス・ドストーレス二等陸尉(26歳)が率いる「荒くれ部隊」を〈ヴォルフラム〉に乗せていたのです。

【ガルバス・ドストーレスは、「灰色熊」の異名を取る大男で、『新暦76年の8月、何かの拍子に三歳も年下のスバルに理不尽なケンカを売って、全員でコテンパンにされてからは心を入れ替えた』という「(もと)問題児」です。】

 新暦81年7月末日に、アギトがみずから「昏睡モード」に入って以来、はやてたち一同はずっと「純正古代ベルカ製のユニゾンデバイス」を探し続けていたのですが、それから二年以上の歳月が流れた83年の9月、はやてたちは、ついに「それらしきもの」の情報を手に入れました。
 とある管理外世界で、隠れて違法な魔導研究を続けていた非合法の研究所を、八神家は過剰戦力で一気に制圧しました。そして、期待していたとおりに、その研究所で(昔のアギトと同様の境遇に置かれていた)オリジナルの古代ベルカ製ユニゾンデバイスを一体、発見し、それをそのまま救出・保護します。
 そのデバイスの識別コードは〈沈黙の(たがね)〉と言いました。
 アギトと同様に昔の記憶はほとんど失っていましたが、健康的な小麦色の肌と癖のない漆黒の髪を持った可愛い子です。
 救出時の経緯(いきさつ)から、彼女はヴィータによく(なつ)きましたが、〈本局〉で詳しく調べてみると、ヴィータは実際に彼女のロードとして理想的な存在でした。
 その後、管理局の了承を得て、彼女は正式に八神家の一員となりました。
(ヴィータはさんざん悩んだ挙句に彼女を「八神ミカゲ」と命名し、ミカゲは以後、ヴィータ専用の融合騎となります。)

 ミカゲは、研究所であまりにも多くの記憶(メモリー)消去(デリート)されてしまっていたので、彼女は当初、何事に対しても反応が鈍く、幼稚と言うよりも、半ば痴呆のような状態でした。
 それでも、はやてたちは何とかして本人の同意を得ると、早速、彼女の中からユニゾンデバイスとしての「基礎プログラム」をコピーし、それをアギトの中に移植しました。
 すると、物理的な損傷もゆっくりと修復されてゆき、12月になると、アギトはついに「元どおりの記憶と人格を持ったまま」覚醒したのです。
 実に2年と4か月ぶりの目覚めで、アギトはまず、自分が覚醒できたのは「もう一体のユニゾンデバイス」のおかげだと聞かされると、まだ少し寝ぼけているかのような表情のミカゲを固く抱きしめて、熱烈に感謝の意を表現しました。
(ミカゲも嬉しそうにはしていましたが、この時点では、まだ『今ひとつ反応が鈍い』という状況でした。)

 また、アギトは家族とともにミッド地上に降りると、自分が昏睡している間に、いろいろなものがすっかり変わってしまったことに驚きました。
「いつの間にか」住居も変わっており、昔のナカジマジムの選手たちも、みな大きくなっており、中でも、ミウラは「変わり過ぎ」です。
 そして、アギトは何よりも、「いつの間にか」なのはとフェイトの間に子供が出来ていたことに驚いたのでした。

 また、ミカゲとの関係もあって、ヴィータはこの頃から、しばしば「大人の姿」に変身するようになり、次第次第に「大人の姿」でいる時間が増えて行くことになります。
(結果として、リインもこれ以降は完全に「はやて専用」になりました。)
【この「八神ミカゲ」についても、「キャラ設定6」を御参照ください。】


 なお、その研究所からは、古代ベルカ製の「違法プログラム」も幾つか押収されていました。
 どうやら、ここの研究者たちは、それを「ユニゾンデバイス用の強化プログラム」であるものと想定し、それをインストールするために、ミカゲの個人的な「保護された記憶(メモリー)」まで無理矢理に消去(デリート)するなど、彼女に対しては相当な虐待をしていたようです。

【しかし、その後、本局の技術部で押収品の分析を続けた結果、その「強化プログラム」は決してユニゾンデバイス用のものではなく、むしろ「守護騎士プログラム用」のものだということが判明しました。
 入念なシミュレーションによって、副作用などの無いことが確認された後、「翌84年の8月」には全く極秘裡に、シグナムたち四人に、各々に相応(ふさわ)しいと思われる「強化プログラム」がインストールされることになります。】


 
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