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冥王来訪

作者:雄渾
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ミンスクへ
  崩れ落ちる赤色宮殿  その2

 場所はワシントン郊外ラングレー・米中央情報局(CIA)本部。そこで密議が行なわれた。


「長官、今回のゼオライマーの件は……」
じろりと、長官の目に強い一瞥(いちべつ)を投げかけた。
「実はな……現在調査中なのだよ。大統領直々に御剣(みつるぎ)雷電(らいでん)公に密使を派遣したばかりだ」
「御剣公……、たしか将軍の親族でしたよね。煌武院(こうぶいん)の分家筋の……」
長官は、重苦しく頷く。
「そうだ。ゼオライマーの行動次第によっては、今後に東アジア情勢に変化を与えるのは必須。
岩国から京都まで密書を送り届けたばかりだよ……」
「何故準備も不十分なうちに……」
長官は紫煙を燻らせながら、室内を何度か往復する。
そしてこう答えた。
「時間が経てば経つほど、KGBの潜入工作員(イリーガルエージェント)がこの情報を掴む蓋然性が高くなる」

「中ソ関係には影響は与えるでしょうか……」
再び、男の方を振り返る。
「20年前に熱戦を繰り広げた間柄だ。
中ソ関係は、対日、対米、対BETAで一応同じ立場を取っているが……、例えば対印や対越では立場が分かれる。
なので、第二次大戦時の時の連合国のようにはならない可能性が高い」
そう言って、灰皿を引き寄せる。
「一例を挙げれば、軍事分野でも中国は対空兵器はソ連に依存している。
それ故に技術移転を度々打診しているのだが、ソ連の反応は決して芳しい物ではない。
それくらい微妙な関係なのだよ。あの二国関係は……」
静かにタバコを灰皿に押し付けた。
「確実なのはBETAによってもたらされた米ソ間の偽りの平和……。
その様な時代は終わりつつあることだよ」
 
 ふと男は、下卑た笑いを唇に浮かべる。
「今一度、アムール川あたりで衝突が起こって、中ソ対立して欲しいものですなぁ……」
ニタニタと笑う男の顔を、長官はまじまじと見た。
「なに笑っているのだね」
「中ソ双方の弱体化は、決して我が国にとって悪い事ばかりではありますまい」
男は長官の愁眉(しゅうび)を開かせようとして、その様な事を口走ったのだ。


 放心したかのようにぐったりしている長官に、男は再び声を掛けた。
「中断しつつあるパレオロゴス作戦の件はどうなりましたか……」
長官は気を取り直して、答えた。
「実はな……ルイジアナのバークスデール空軍基地から50機ほどのB52を飛ばして焼き消すつもりだ」


 長官が口にした「成層圏要塞(ストラトフォートレス)」の異名を持つ、戦略爆撃機B52。
翼幅56メートル、8基のターボファンエンジンを搭載した5人乗りの大型機。
同機は31トン超の爆弾やミサイルを搭載可能。最大航続距離は14,000キロメートルを超える。
空中給油を受ければ、即座に全世界に展開可能だ。
米国の核戦力の中核を担うとされている。
 初の実戦配備はベトナム戦争で、1965年から開始された、「北爆」で絨毯爆撃を行い、様々な戦果を挙げた。
 BETA戦争では航空機を一撃で消滅させる光線級の影響も大きく、時代遅れと思われていた機体。
ゼオライマーの活躍によってBETAの攻勢が落ち着きを見せてきたことによってふたたび日の目を浴びたのだ。

「明朝……、7月4日の6時には、ミンスク上空から爆弾の雨を降らせるつもりだ」
「202回目の独立記念日に合わせた花火大会ですか……」
タバコを取り出すと、火を点けた。
ゆっくりと紫煙を燻らせると、再び語り始める。
「国際世論の反対を懸念して、核弾頭ではなく、新開発のS-11爆弾を使う。
無益な殺生によって、ポーランドやバルト諸国の青年たちの命が失われるよりは良かろうよ……」

 超高性能指向性爆薬・S11。
戦術核に匹敵する破壊力を持つ高性能爆弾で、ハイヴ破壊を名目として開発された。
一部では戦術機に搭載して『特別攻撃』をするプランもあったが、米軍では却下された。
多大な費用をかけ、育成した戦術機パイロットを自爆攻撃で失わせる……
費用対効果からしてもあまりにも馬鹿々々しい作戦故、否定された。
 放射能汚染の危険性がない核にも匹敵する威力の新型爆弾。
一見魅力的に見えるが、あまりにも高価なために実戦配備が進んでいなかった。

「グレイ博士が作っている新型爆弾は実現するのでしょうかね……」
男はそう告げた後、椅子から立ち上がる。
「何もそんなものがなくても心配はするまいよ……。我等には無敵の機体ゼオライマーがあるのだから」
ドアの前まで行くと、ドアノブを掴みながら尋ねた。
「木原と言う男が信用できますか……」
「ミンスクの件が終わったら、私の所に呼ぶつもりだよ」
そう言うと、部屋を去る男をそのまま見送った。
 
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