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冥王来訪

作者:雄渾
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ミンスクへ
  燃える極東 その3

 
前書き
 今回より通常小説の技法に則って地の文に句点を着けるようにいたしました。
フューチャーフォンの画面で読む際、句点があると鬱陶しいと思い、今までは携帯小説の技法で排除してきました。
フリガナや句読点で読みづらいな、違和感があるなと言う場合は、ご意見いただければ幸いです。 

 
「かかれぇ!日本野郎(ヤポーシカ)の横腹を突くのだ。
如何に堅牢な機体とは言えども、横入れされては踏みとどまることも出来まい」
号令をかけた指揮官機が右腕を背面に回して、77式近接戦用長刀を背中の兵装担架から抜き出す。
指揮官自ら長刀を振るい戦う姿勢を見せれば、円居(まどい)は奮い立つ。
推進装置を全開にした30機余りの軍勢が、怒涛の如く突進してきた。
 突撃砲に装弾数2000発の弾倉が差し込められると、隙間無くゼオライマーに向けられる。
仁王像の如く起立する、天のゼオライマー。
全長50メートルの機体は、前面投影面積の高さゆえに狙いやすく、格好の標的。
 如何に強固な次元連結システムがあっても、パイロットは生身の人間……。
人海戦術でマサキの体力や気力を奪い、ゼオライマーの鹵獲や殲滅を狙う。
 
「自走砲と戦車隊は前へ、日本野郎(ヤポーシカ)を撃ち竦め、其の間に奴が首を取るのだ」
戦術機部隊が動くより早く、攻撃ヘリの一群がゼオライマーに奇襲をかける。
 羽虫の呻る様な音を立てて近づく攻撃ヘリコプターMi-24「ハインド」
ある時は低く、ある時は高く、獲物を狙う(たか)其の物……。
機銃が呻り、ミサイルが轟音と共に飛び交う。
後より続くは100台以上のT-54/55、T-64戦車と、2S1グヴォズジーカ 122mm自走榴弾砲。
落雷の様な轟音が段々と近づいて来る。
 薄く全面に張り付けたバリア体によって、そのすべてを凌いでいる事に美久は疑問を持った。
一思いにメイオウ攻撃で灰燼に帰せばよいのに……
やはり秋津マサトの肉体を乗っ取った際、精神が幾分か取り込まれた為か……
あの心優しい青年の気持ちが忍人(にんじん)・木原マサキに変化を与えたのであろうか。
コックピットの中で、椅子に深く座り込む男の事をモニター越しに眺めていた。

 犠牲をいとわぬソ連軍の挺身攻撃……、狙いはパイロットの戦意喪失か。
マサキは、既にソ連軍参謀本部潜入の時以来の疲労が出始めていた。
数時間に及ぶ逃避行は、彼の肉体から体力を削り取るには十分であった。
 操縦席に項垂れていた彼は、段々と気怠くなる肉体を奮い立たせるべく、興奮剤を飲む。
僅かに残った水筒の水を飲み干すと、布製の入れ物ごと空の容器を放り投げた。
「この俺としたことが……、奴等の計略に乗せられるとはな」



 
「全機射撃許可、 撃て!」
指揮官の号令の下、一斉射撃が開始された。
30機余りの戦術機はゼオライマーを囲むや否や、雨霰と矢玉を浴びせかける。
微動だにせず佇む白亜の巨人に向け、火を噴く20ミリ突撃砲。

「奴の武装は両手に付けられたレーザー砲2門!接近して一刀のもと切り捨てれば勝算はある!」
連隊長がそう叫ぶと跳躍し、長刀を振るいあげ、切り掛かる。
脇から第一中隊長も同様に薙ぐようにして、ゼオライマーの左側から剣を打ち付ける。
 いくら自分達より優勢な敵とはいえ、指呼(しこ)の間に入られてはご自慢の光線銃も使えまい……。
連隊長はそう考えて、切り掛かかる。
一瞬射撃が止むと、二機のMiG-21 バラライカは飛び掛かった。 
 ゼオライマーは両手を上げると、手甲で長刀を押さえつける。
鈍い金属音と共に、一瞬火花が飛び散る。
次元連結砲の照準をを合わせ、射撃してきた。
敢て直撃させず、牽制するかのように光線を放つ。
 そこは精鋭・ヴォールク連隊の強兵……。
光線をするりと避けると、左手に持った突撃砲を至近距離でぶっ放した。
残弾表示が0になるまで打ち付けると、下部に備え付けられた105㎜滑腔砲が咆哮(ほうこう)を上げる。
殷々(いんいん)とした砲弾は、連続した轟音を響かせ胸部装甲に直撃。
白亜の機体は、漠々たる煙塵(えんじん)に包まれる。
あの業火と噴煙の中に在っては、操縦士は生きてはいぬだろうと想像した。
連隊の衛士誰も彼もが、血走った眼を火線に曝し、汗ばんだ手で操縦桿を握りしめる。
随伴歩兵たちは茶色の戎衣を纏った身体を震撼させていた。
日は登り気温は上昇しているのに……、まるで雹にあったかのように寒気を感じさせる存在。
 今にも50メートルもあろうかと言うの鉄の巨人が、推進装置を吹かして突っ込んで来やしないか……。
そんな怖れを抱かせたからだ。
 その恐怖は現実のものになった。
周りを取り囲んでいた噴煙が晴れると、白亜の機体を日光が照らす。
ゼオライマーの全体は塗装の禿げた所も無ければ、頭部の角飾りも欠けたところも見当たらない。
息をつく暇もないくらい激烈を極めた、突撃砲の斉射を受けたというのに……

「中々歯ごたえのある敵になりそうだな……」
マサキは不敵な笑みを浮かべると、推進装置の出力調整を行う。
通常の5分の一以下にメモリを合わせると、戦術機の方に突っ込む。
 右手の拳を繰り出し、次元連結砲を咆哮させる。
閃光が光ったかと思うと、周囲の物をなぎ倒す勢いで連隊長機に衝撃波が直進する。
一瞬にして連隊長機は吹き飛ばされる。
「連隊長!」
爆散こそ免れるも、跳躍ユニットは衝撃波の影響で使えなくなってしまった。

 その様を見ていたマサキは一瞬俯くや、くつくつと喉の奥で押し殺すように笑い声をあげる。
「この木原マサキを弄ぶとは、なかなかの者よ。面白い。
楽に死ねると思うなよ……」
横に90度振り向くと、左側から切りかかって来た第一中隊長機目掛けて次元連結砲を放つ。
長刀を持つ右前腕部を吹き飛ばした。

「火線に付け!」
号令と共に、突撃砲が轟音を上げながら再び火を噴いた。
 一列に並んだBM-21 グラートが、発射音を奏でながらロケット弾を次々に斉射する。
この発射装置は、世界最初の自走式多連装ロケット砲、82mm BM-8の系譜をひく。
最前線にあるドイツ国防軍兵士の心胆を(さむ)からしめた、オルガンに似た発射音。
『スターリンのオルガン』と恐れられた。
 機銃で払われても払われても突撃してくる、天のゼオライマー。
 恐怖に(おのの)いた衛士が叫んだ。
「こいつぁ、化け物だ!」
今まで戦って来たBETAは物量こそ赤軍を圧倒するも、最後には押しとどめることが出来た。
ミサイル飽和攻撃、光線級吶喊(レーザーヤークト)、戦略爆撃機による空爆……。
硬い殻を持つ突撃級など自走砲の榴弾で背面から打ち抜けたものだ。
 しかし、この日本野郎(ヤポーシキ)は違う。
砲火の嵐どころか、ミサイル飽和攻撃も物ともせず、全てを睥睨する様に(そばだ)つ。

 ここで退けば、ソ連赤軍全体の士気に影響を与えるのは必須……。
連隊長は、管制ユニットの中で深い溜息をついた。
我等が敗退すれば、18に満たない子供に銃を担がせて送り込むほかはない……。
中ソ国境に居る蒙古駐留軍を引き抜くにも限界がある……。
男は、女・子供までかき集めて衛士の訓練を始めているソ連赤軍の様を密かに憂れいていたのだ。

 現在ソ連赤軍の青年志願兵はほぼ尽きようとしており、300万人の兵力維持はとても厳しい状態
非スラブ人の中央アジアやカフカスに在っては、15歳まで徴兵年齢を下げていた。
 1918年のボルシェビキ革命以来、急激に識字率の向上を果たしたロシア社会。
僅か50年余りで、すさまじい勢いの少子化が進んでいた。
1945年に終えた大祖国戦争(第二次大戦のソ連側名称)によって、2000万人の成年人口を(うしな)ったのも大きかろう。
 女子教育の普及や婦人参政権を始めとする婦人の社会進出は、ロシア女性の価値観を変容させるに十分であった。
またスターリンの死後、1955年に堕胎罪の廃止も少子化を勧める遠因になった。
 その様な状況にあっても、ソ連政権は婦女子や年少者の徴兵を止めなかった。
理由は、実に単純である。 
思想的に未熟な少年兵は、思考操作や洗脳を施すのに労力がかからないからである。
そう言った理由からソ連赤軍は少年兵への依存度を高めていくことになった。

「第二中隊は、戦闘指揮所の要員と共にウラジオストックにまで下がれ……」
突如として第43師団の本部より指令が入る。
 第二中隊は確かグルジア人の政治局幹部の子息が居る部隊……
自分達は捨て駒になって幹部の息子を逃がせという指示か……
だが、我らが犠牲になってこのマシンを手に入れれば、ソ連の輝かしい栄光は再び全世界を照らすであろう。
そう考えなおすと、吶喊(とっかん)をかけた。


「なあフィカーツィアよ。俺の(せがれ)と一緒にウラジオくんだりまで行く話……。
了承してくれるであろう」
五十搦(ごじゅうがら)みの男が、壁際に直立する赤軍兵に向かって、声を掛ける。
鳥打帽(ハンチング)に灰色の背広服……、何処にでも居るロシアの百姓といった風采(ふうさい)
 声を掛けられたのは、小銃を担いで直立する白人の婦人兵。
年の頃は、二十歳(はたち)くらいであろうか……。
軍帽の下にある淡黄蘗(うすきはだ)色の髪を束ね、透き通る様な色白の肌に碧眼。
白樺迷彩(ベリョーズカ)の野戦服の上から弾薬納を付け、将校を示すマカロフ拳銃を帯びている。
「ですが……」
右肩に担ったAKM自動小銃の吊り紐を、きつく掴む。
 男は、カフカス訛りの強いロシア語で、滔々(とうとう)と語り始めた。
「野郎はクソ真面目だが、英語も上手いし弁も立つ。
贔屓目(ひいきめ)に見ても、グルジア人に生まれた事が惜しいくらいさ。
既に師団長には俺から話を通してある」
男は、混乱に乗じて密かに自分の子息と彼女を避難させること告げてきたのだ。
「俺は常々(つねづね)君に、あの男と所帯を持ってほしいと思ってたのよ。
最悪、太平洋艦隊でサハリン(樺太の露語名称)にまで落ち延びるってのも悪かねえなぁ」
懐中より、一枚の封書を取り出す
「こいつは、俺からウラジオの党関係者に当てた手紙だ。
政治局に出入りする人間が書いたものであれば、奴等も無下には扱うまい……」
手紙を両手で持ったまま固まる彼女を尻目に、男は話し続ける。
右の食指と中指に挟んでいた口付きたばこを口に近づけると、咥えた。
「なぜ、ここまでの事を……」
男は茶色の瞳で彼女を伺うと、頬を緩ませた。

 改まった口調で、こう告げる。
「同志ラトロワ。俺は君の気に入ってたのだよ。
君の様な、聡明で(うるわ)しいスラブ娘の事を気に入らぬ男は居まい。
そんな唐変木(とうへんぼく)が居たら、一度会って見たいものだ。
どうせ偏執な男色家(ホモセクシャル)か、気狂(きちが)いであろうよ」
そう言うと、懐中よりマッチを取り出し、煙草に火を点けた。
「お心遣い、有難う御座います」
そう言って深々と頭を下げると、戸外へ向かって駆けて行った。
走り去る彼女の背に向かって、こう告げた
小倅(こせがれ)の事は頼んだぞ!」




 
 

 
後書き
 ソ連軍関係者が名無しのモブばかりでは味気ないので、フィカーツィア・ラトロワを出しました。
年齢は「トータル・イクリプス」(以下TE)の中で言及されていません。
中佐である事、未亡人で一定の年齢になるであろう子息が居ることを勘案して、2001年ごろには40代ではなかろうかと推測しました。
(ロシア人は、現在も婚姻可能年齢が16歳以上で、平均結婚年齢が18から20代前半と言う早婚です。)
ネット上で出ている42歳説が正しければ、1959年生まれでベア様、アイリスと同い年です。

 
その他のご意見、ご感想、ご要望があれば、よろしくお願いします。 
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