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冥王来訪

作者:雄渾
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ミンスクへ
  首府ハバロフスク その3

 昼下がりのハバロフスク、カール・マルクス通り
嘗てこの周辺は、アムール開拓を進めたニコライ・ムラヴィヨフ伯爵を讃えて、ムラビヨフ・アムールスキー通りと呼ばれた
1917年のボリシェビキの暴力革命によって、同伯爵の銅像は破壊撤去
レーニン像が並び、名称もカール・マルクス通りに変更となった
そのカール・マルクス通り7番地に聳え立つ、ホテル『ルーシ』
 この建物は1910年に、日本人によってウスペンスキー教会保有土地を借り受けられ、「大日本帝国極東貿易会社」により、建設された。
設計はロシア人技師、建設は支那人と朝鮮人労働者によって実施
建物の最も目立つ部分は正面玄関上部のロシア風丸屋根
嘗ての所有者の家紋があしらわれている
シベリア出兵に際し、帝国陸軍将校指定ホテルとして徴用された場所でもあった

 そこで、数人の男達が密議をしていた
「木原を我が陣営に招き入れるだと……」
KGB長官は、立ったまま、右手を振り上げる
勢い良く手を下げると、机の上に有るガラス製のコップを弾き飛ばす
床に勢い良くぶつかり、粉々に砕け散る
足元には、割れたグラスと共に中の液体が広がる
室内にいる男達は恐縮した
「何を考えているのだ」
彼は先の木原マサキ誘拐事件の失敗を悔やんでいた
科学アカデミーの企てに参加した形とはいえ、名うてのKGB工作員を失ったのは手痛い損失
その上、シュミットをはじめとした東ドイツ国内のKGB諜報網はほぼ壊滅状態
原因はすべて木原マサキではないかとの結論に居たり、この様な言動になった
「その様な事は許されない。
議長、貴方はソビエト連邦社会主義国の最高指導者。
赤軍参謀総長の考えなど一蹴したら良いではないか」

「木原マサキは消し去る、抹殺で良いではないか」
常日頃より、議長を庇い続ける姿勢を示していた第二書記は、反論する
「しかし……」
「何だね」
興奮した様子で、長官は彼の方を向く
「危ない橋を渡ることに成る……。
私は長い間、ソ連共産党中央委員会書記長の右腕をやってきた」
両手を広げる
「議長は党益を優先された人物、皆も良く知っている。
その益を捨てて、自分の盟友の願いを優先させる……、大変な問題だ」
じろりと、KGB長官の顔を見つめる
「個人的名誉よりも党益を優先させるのが、ソ連共産党の大原則……」
KGB長官は、室内を歩き始める
男の対応に苛立ちを隠せない様子であった
「何が何でも木原を抹殺するんだ。
そうしなければ、我等は御終いだ」
護衛のように寄り添う首相が、口を開く
「ミンスクハイヴの攻略を完了させてから、木原を殺せば……」
男の右頬に鉄拳が舞い、弾き飛ばされる
倒れ込んだ男を眺めるKGB長官
周囲を睥睨する様に、顔を動かす
「木原をソ連邦に招いてみろ……」
青筋の滲みあがってきた顔で、語り続ける
「奴と接触した中共や東ドイツの首脳部がどうなったか忘れたか。
社会主義を捨て、修正主義に走り、ブルジョア経済に簡単に翻意したではないか」
彼は、ソ連経済圏からの東欧諸国の離脱を恐れた
社会主義経済の誤謬という事実を、認めたくはなかった……
「それ程の男なのだよ……」
その逃げ口として、木原マサキの言動を原因とする発言を行う
しかし、それはまたマサキという男を過剰に畏れたという事実の裏返しでもあった 
 周囲の人間がたじろぐ中、こう言い放つ
「奴の行動を思い起こしてみよ……、全てを破壊する為に生まれて来た様な男……」
立ち上がると、右の食指で壁を指差す
「世界に比肩(ひけん)する者のない超大型戦術機、ゼオライマー。
それを自在に扱う木原マサキ……」
振り返ると、周囲の混乱を余所に窓外の景色を眺める
二階より市街を俯瞰(ふかん)しながら、男は深く悩んだ

 夕刻、レーニン広場に面したハバロフスクの臨時庁舎
ソ連政権では、嘗ての地方政府庁舎を改装して、クレムリン宮殿の代わりに使用
そこでは、ソ連首脳の秘密会合が始まっていた
議題は「ゼオライマーの対応」で、喧々諤々の議論がなされる

「お言葉を返すようですが、議長。
どうして木原マサキ抹殺をそんなに急ぐのですか」
赤軍参謀総長が、上座の議長に問いかける
「ミンスクハイヴの攻略を完了させて、十分な褒賞を与える。
それから工作員を用いて殺せばよいではないでしょうか……」
 議長と呼ばれた老人は、目の前の軍人にこう返す
「それが非道だと言っているのだ。参謀総長、良く聞いてくれ」
諭すように答える
「木原にそれだけの仕事を任せれば、我々が利益を受ける。
彼は我が党の為に、貢献したわけだ……。
その彼を今度は殺すとなると、それ相応の理由が必要であろう」
両手を掌を上にして広げる
「私の信任厚いKGB長官の名誉のために殺すとなると聞こえが悪い。
ソ連共産党は、KGBに(そそのか)されると党組織に貢献した者まで殺すのかと……」
太いへの字型の眉を動かし、黒色の瞳で参謀総長を睨む
「党員達に(きし)みを与えかねん」
左側の外相の方を振り向く
「なあ、そうは思わんかね」
言葉を振られた外相は、正面を向いて話し始める
スターリン時代の粛清を生き延びた数少ない人物として、党内での地位も高い男
長らく外相の地位にあり、若かりし頃は駐米大使を務めあげた
「議長、貴方はチェコスロバキアの首相を『修正主義者』として非難して、拘束してるじゃろう」
彼は、困惑する老人の顔を覘く
「そんな貴方がいまさら何を惜しむのかね」
「し、しかし……」
すっと、国家計画委員会(ゴスプラン)委員長が立ち上がる
国家計画委員会と言えば、50年近くソ連の国家戦略を牽引(けんいん)してきた機関
ここの経験者は後に首相の地位に就いたものも少なくはない
その様な人物が立ち上がって発言する
周囲の目線が、件の男に集中した
「議長、この失政続きにろくな活躍も出来ずにいる党員たちにとっては、名よりも実です」
第一副首相が、その場を纏める
「木原は共産党の人間ではない。
使い捨てても十分ではないかな……、ここは一先ず党益を優先させよう」
彼はその言葉を皮切りに挙手をする
一斉に、閣僚たちが同意を示す
彼の提灯持ちのとの評判がある第二書記は、その様に唖然とする
参謀総長が、立ち上がる
「直ぐに、特殊部隊と、ポーランドの大使館に連絡だ」
老人の顔を真正面から見る
「木原暗殺計画は中止とする」
 
 

 
後書き
一時間ほど前、操作を間違って、未完成の状態の草稿を挙げてしまいました。
謝罪として、翌週公開予定の続きを本日公開いたします。
ご迷惑をおかけいたしました。
(2022年4月17日18時30分 追記)

ご意見、ご感想、よろしくお願いいたします
 
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