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冥王来訪

作者:雄渾
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ミンスクへ
  下命 その3

 マサキ達一行が西ドイツに到着して約3週間後、ゼオライマーを積んだ運搬船がハンブルク港に入港した
当初、ゼオライマーの総トン数から、オーバー・パナマックスの貨物船が計画された
だが、予定日数の超過と陸揚げ港が限定される為、変更
全長53メートルの機体は、横倒しの状態で、帝国陸軍が徴用した重量物運搬船で移送
全体を覆う防水布が掛けられ、紐で周囲を固定した状態だった
その様を見た彼は、まるで小人の国に迷い込んだガリバーが運ばれる様を連想させる
本隊である戦術機部隊は、改造された油槽(ゆそう)船に縦に並べ、輸送
日本より直送されたF-4Jと、米国で委託受注されたF-5が、ほぼ同日に到着
米国・東海岸と、日本からの距離を考えれば、十分に早い
人員は、既にドイツ国内に呼び寄せ済みだ
後は、訓練開始を待つばかり
作戦まで4か月程とは言え、時間は無いのだ

 彼は、初めて見るF-5戦術機の姿を注視する
F-4とは違い、角ばってはいるが、その細身の作りに、ある種の不安を覚えた
恐らく軽装甲で、被弾面積の大きさから脆弱(ぜいじゃく)さが増す事
F-4との重量換算から比して、電子装備や通信機能が削減され、出力低下の可能性も否めない
一度は、帝国陸軍の方で納品拒否された機体と聞く
この様な機体が主力になる様では、戦術機パイロットの生還率も今以上に下がるであろうことを危惧した
戦車の様に、爆発反応装甲や補助兵装を付けねばなるまい……
その機体を見て、暫し夢想したのであった

 重量物運搬船から陸揚げされる際、彼は美久と共に早速改修後の試運転に出掛けた
見たところ、外装上の変化はなかったが、関節の潤滑油や電子部品の一部が改められた事が報告書にあった
この世界は、電子部品の発達が元の世界より進んでいる
だが、民生品に関してはその水準は劣っているように思う
喫茶店にすらアーケードゲームが無く、パチンコやスロットマシンも手回しの筐体
「正村ゲージ」が、最新機種として持て(はや)されている
就学期の児童は、あやとりやメンコ等をして遊び、青少年の娯楽は花札やビリヤード等々
まるで、1950年代の水準である事を見て、いかに軍事最優先で世界経済を回してきた事に、唖然とした
その様な事を思いつつ、彼は港を出て、洋上から高度を5000メートルまで上昇させる
一応、付いてきた連中に、「光線に落とされる可能性」を注意されたが、無視
帰還場所と時刻を告げると、無線を切り、暫し《フライト》に出かけた
バルト海へ北上するかに見せかけて、更に高度を上昇させる
ポーランド上空を高度1万5千メートルで通過
途中から迎撃(げいげき)機でも来るかと構えていたが、ほぼ来なかったので安堵した
白ロシアに向かう途中、光線の照射を受ける
全面に張り巡らされたバリア体の御蔭で防いだが、それでも煩わしい
再射撃の時差を利用して、敵の位置を計算
高高度よりメイオウ攻撃を打ち込む
着弾すると同時に、周囲に強烈な衝撃波と閃光が広がる
巨大な虫のような化け物の群れも、一網打尽で吹き飛ぶ
更に攻撃しようと考えたが、帰還時間が迫っていることを考え、当初のハンブルク港へ転移した

 同時刻、ミンスクから西方30キロ地点で、BETA集団を観測していたソ連軍は、大爆発に驚愕(きょうがく)した
レーダーから大型爆撃機、或いは高速偵察機と思しきものが侵入した事を認知
光線級に撃ち落されることを想定し、迎撃しなかった
正確に言えば、迎撃出来なかったのだ
迎撃用のミサイルも航空機も、ほぼBETAとの戦いで失われ、貴重な戦術機も、出し惜しんだ
それに現場を確認しに行くにも、ミンスクハイヴの目と鼻の先で危険
決死の覚悟で偵察に出ていた戦車部隊の写真と報告書から大まかな事しか判らなかった
人工衛星による確認で、原子爆弾に相当する様な衝撃波と閃光と類推した
写真資料による類推(るいすい)ではあったが、ミンスク周辺のBETA群のおよそ7割強が一撃で消し飛んだのだ
総数は、航空写真から確認すると3万から6万強の間であった
 GRUは持ち込まれた資料から、支那で実験が行われた新型機が欧州に搬入(はんにゅう)されたと、認識
あのノボシビルスクの研究施設を壊滅させた機体が、目の前に来たのだ
 其の事実は、GRUばかりではなく、KGBも動かさせた
時間を空けずに、西ドイツ在住の潜入工作員から秘密電報が入る
日本の戦術機部隊が、ハンブルク港に揚陸(ようりく)した事を入手
ルビヤンカは、早速シュミットに直接連絡を入れた
駐独ソ連大使館やKGBの現地事務所を通さず、異例の事態であった
KGB本部は慎重さより、時間短縮を選んだのだ
命令は、以下のような物である
「大型戦術機のパイロットを捕縛して、尋問せよ」
「戦術機を持ち出し、ドイツで分解し、その性能と技術的ノウハウを取得せよ」

 深夜、アスクマン少佐は、ゾーネ少尉の運転する自動車でベルリン市内を急いだ
副官同様の扱いを受けている彼は、後部座席に深く座り、目を瞑っている上司を垣間見る
今日は、普段と様子が違った
ここ最近、立て続けに保安省本部に呼ばれている
寝食を共にし、日頃からの疲労が溜まっているのも知っている
電話を受けた際の狼狽ぶりには、驚いた
何時も冷静で非情な男が、大童(おおわらわ)で支度をし、車を飛ばすよう命じたのだ
何かが、起こる前兆だ
軍や党中央の大粛清(だいしゅくせい)が近いと、少佐との睦言(むつごと)で聞いたが、矢張りそうであろうか……
 少佐は、目を開けると運転をする彼に声を掛けた
「なあ、何があっても私に付いて来てくれるか」
彼は、ハンドルを握りながら答える
「どうか、なされましたか。少佐」
「ソ連が動いた。
奴等の事さ、保安省にも手を入れて来るであろう」
彼は、静かにハンドルを切る
大通りを抜けて、本部への道へ車を進める
「自分の力の限り、お供させて頂きます」
車外を見ていた少佐は、正面に顔を向ける
彼の方に向かっていった
「行ける所まで行こうと思う。
君も私と来ると言う事ならば、それなりの覚悟はしてほしい」
そう言うと、彼に向かって不敵な笑みを浮かべ、天を仰いだ

 
 

 
後書き
アスクマン少佐とゾーネ少尉の間柄は、完全に二次創作です
本編では明示されておりません

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