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冥王来訪

作者:雄渾
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異界に臨む
  服務 その4

 
前書き
第一部終了 

 
先の篁祐唯問題の際、様々な怪情報がホワイトハウスに持ち込まれた
物議を醸し、一際目立つ物
それは、カシュガルハイヴの内部映像であった
帝国陸軍と連携関係にある在日米軍の基地に持ち込まれた際、虚偽と言う事で一笑に付された
だが、後日CIAとNSAで情報解析をした所、本物であることを確認
その夜、再び秘密会合が持たれた
会議の顔ぶれは、前回とほぼ同じ
違う点は、NSA長官が新たに釈明の為に呼び出された事である

会議の冒頭、副大統領がNSA長官に問うた
彼は、珍しく南米産のシガリロ(細い葉巻)を吹かしながら、訪ねた
室内には濃い紫煙と共に、甘いヴァニラの香料が漂う
プロジェクターの掛かった室内は薄暗く、その機械の音だけが響いている
「君達は、多額の予算を掛け、膨大な人員を国内外に配置しながら、何一つまとまった成果が得られなかった。
これは、どういうつもりかね。
先ず、責任者の君から、説明し給え」
会議の参加者は、副大統領を見た
彼が、あのヴァニア味の葉巻を吸うと言う事を知っている者は恐れ戦いた
あの仕草は、極度の怒りを冷ます為に、行う《一連の儀式》
脇にあるコカ・コーラの数本の空き瓶は、見る者を圧倒させた
不快感を示すサイン
NSA長官は、身震いしながら答えた
「この数年来、黄海周辺にあって、電子探査船を派遣していましたが、先年の過失を恐れ、規模を縮小させた責任は、小官が負います。
ただ、支那における電信の傍受は、その成果は目まぐるし物が有り……」
右手の拳で机を叩く
机の上にある瓶が倒れ、灰皿の中身が宙を舞う
「その様な、官僚答弁を聞きたいわけではない。
秘密作戦すら確かめられぬ組織は、不要と言っているのだ」
その瞬間、副大統領は立ち上がり、頭上より彼に飲みかけのコーラを浴びせる
彼は、顔面からコーラを浴び、悲鳴を上げる

「もう良い。貴様は下がれ。
この穀潰しが……」
彼は座ると、再びシガリロを吸い始める
周囲の人間は、顔をティッシュで拭いて、退室していくNSA長官を見送った
再び副大統領が口を開く
「今回のデータだが、ソ連を出し抜く為に、米国から全世界に、ばら撒く。
それで宜しいですよね。閣下」
衆目が、その呼び掛けられた男に集まる
深い皴が刻まれた顔を上げ、周囲を見回す
その男こそ、米国大統領であった
男は、言葉を選びながら話し始めた
「諸君、迎える来年は中間選挙だ。
それ故、来年の11月までは大規模な軍事行動は控えたい。
今、この国にあって多数の市民の意見として、欧州戦線への出兵反対は無視しがたき情勢だ。
様々な手法で、議会工作が成されているのは、耳に入っている。
しかし、国際協調と言う事で、派兵せねばならぬもの事実だ。
私としては、ドイツ在住の合衆国市民保護の名目で海兵隊を出すつもりでいる」
その言葉を受け、国防長官が尋ねた
「では、大統領令を近々出されるのですか」
「追って詳細は、副大統領より発表させるが、現状の侭なら、6月頃を予定している」
周囲が喧しくなる
大統領は、喧騒を余所に、卓上のヒュミドールを開け、葉巻を取る
シガーカッターを出し、ヘッドを切り落とす
サイズは、ロンズデール(太巻きの葉巻)、銘柄は「パルタガス」(Partagas)
柄の長いマッチを擦り、炙る様にして火を点ける
静かに吸い込み、火が付いたのを確認すると一度消して、再度着火する
味わう様にして吹かし、静かに吐き出す
紫煙がほぼ出ぬ様な上品な吸い方で、タバコそのものを楽しんでいた
副大統領が、問うた
「閣下、ハバナ(キューバ)産の葉巻ですな……」
男は、したり顔で、続けた
「成程、共産圏の内訌を利用して、ソ連を弱めるというお考えですか。
では、最前線たる東ドイツで、工作を仕掛けましょう」
副大統領の脇に居るCIA長官が深く頷く
そして、彼の口から驚くようなことが伝えられた
「閣下。実は、わが方で先方の保安省職員に接触がなされ、其れなりの地位の男を引き込むことに成功しました。
上手くいけば、伏魔殿にある閻魔帳の一つや二つほど手に入るやもしれません」
大統領は静かに灰皿に葉巻を置き、彼の方を向く
「して、方策はあるのか」
彼は姿勢を変えず続けた
「その男は、市民権と、現金10万ドル(1977年段階で、1ドル225円)程を欲しています」
「安いな」
「そう思われます。
妻や愛人などを引き連れて来ましょうから、20から30万ドル要求するかもしれません
保安省秘蔵の個人情報とKGBの名簿を買うのですから、それでも十分元のとれる額です」
大統領は身を起こし、彼に向かって放った
「では、東ドイツに工作を仕掛け給え。
本工作の諸経費に関しては、事後に議会報告に回すように対応。
今回の件に関しては、議事録は作成するが、公開は50年後の特別指定とする」
副大統領が立ち上がる
「諸君、以上で本年の会議は終了だ。
次回はクリスマス休暇明けに会おう」
掛け声と共に室内に明かりが点く
プロジェクターは止まり、スクリーンは職員によって片づけられる
一連の作業が終わった事を確認すると、一同が立つ
椅子に腰かける大統領に深い立礼をすると、執務室から各々が去っていった



 
 

 
後書き
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