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冥王来訪

作者:雄渾
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異界に臨む
  服務 その3

 
前書き
日本編原作人物登場回 

 
次官会議から、閣議に上がった時点で、ほぼ決定が慣例ではある
即座に斯衛軍F-5新規調達と、試験部隊の欧州派遣が了承された
篁祐唯問題では、異例の事態が起きた
総理と官房長官が、慣例に反して、否定し、会議は紛糾
同問題に関して、城内省の立場を否定する構えを取ったのだ
洋行中の技術将校の単なる《自由恋愛》では、済まなくなっていた
一個人の問題から、日米関係の重要課題に発展する様子さえ見えた
閣議の紛糾を余所に、情報省や城内省で、二人を別れさせる方向で話が進んでいた時、事態が動く
予想外の場所から《裁可》が出され、解決に至った
だが、裁可を出した場所が問題視された。
《城内》ではなく、《竹の園》
詰り、通常のルートを通り越し、首脳の頭越しで決まったのだ
だが、その様な解決策に、腹の虫が治まらない人々がいた
情報省と、五摂家縁者の一部、譜代武家、烈士を自称する帝国陸海軍内のはみ出し者達
彼等は、「《御所》を軽んじた」として、政府への遠回しな嫌がらせを行った
米国内の雑誌や地方紙に、情報を持ち込む暴挙に出る
持ち込んだ話の内容は、以下のような物であった
『総理が《はしゃぎ過ぎた》為、殿下から《ご下問》がなされた』
『日本政府は、ホワイトハウスに謝罪文を書く専門家を呼び寄せた』
『《曙計画》の計画段階で、日本国内から米国内に変更される様、工作を働いた』


一方の米政府は、日本政府の対応に困惑した
最初は否定的な態度であったが、一転してミラ・ブリッジスとの関係を認める回答を寄越したのだ
何かしらの高度な政治的判断があったのは間違いない
FBIに対して、引き続き調略を続ける様、ホワイトハウスは指示を出した
ほぼ同時期に、篁の使者と在ヒューストン総領事が、《私的》にブリッジス家を訪問した事実を、ラングレー(CIA本部所在地)が掴んだ
彼らの弁によると、「新春早々に日本国内で婚儀を上げる」という
この話を持ち込んだ時、副大統領は、CIA長官を慰めた
「日本人の思考回路は、奇想天外である」
ワシントン官衙では、噂として、その日の内に広まった


渦中の人、篁祐唯は、静かだった
世間の諠譟から離れ、いつも通り研究に入れ込んだ
様々な《説得》が来たが、気には留めなかった
唯、《鹵獲》された大型戦術機のメインエンジンに関して、何も記されていなかったことを除いて
通常は、その様な事があれば、報告書に記載されるはずである
無記載と言う事は、《何かしらの問題》があったと言う事だ
自分達が知らぬ間に、策謀が巡らされているのではないか
昨日、国連からオルタネイティブ3の失敗と、同計画の凍結が発表された
ソ連政府からも、米国に「《実験中の事故》で、多数の死傷者が出た」為、同計画の中止が伝えられたという
異例の事態だ
もし、事故でなく、何か人為的な物であったならば、大変だ
よもや、この件に日本政府が関係しているわけではあるまい
折角、日米合同の研究会が作られ、計画は進んでいる最中
一転して、ミラとの結婚を認めて、日本への帰国を急かす政府の方針が判らない
「何かが起きている」
あまりにも不気味だ
巌谷に話したところで、彼は本音で語ってくれるだろうか
多分、此方の事に気を使わせてしまうだけであろう
彼が思い悩んでいると、声を掛けてきた人物がいた
大使館付武官補佐官の彩峰萩閣陸軍大尉である
彼は、この男に良い印象を憶えなかった
大学教授や政治学者と、論争を挑み、政治的な発言も多い
正義感が強い男ではあるが、軍人としては疑問を感じる行動を行う時がある
ただ、語学の才があり、弁舌爽やかで、同行の青年将校達が彼の周囲に集まってると聞く
その様な男に目を付けられるのは、甚だ迷惑な感じがする
彩峰は、敬礼をすると、軍帽を脱ぎ、椅子に腰かける
ステンレスの灰皿を引き寄せる
内ポケットより、オイルライターとタバコを取り出し、火を点ける
タバコはソフトパックで、銘柄はラッキーストライク(LUCKYSTRIKE)
国粋主義者と噂される彼が、米国タバコを吸うとは……
物珍しさに凝視してしまった
「なあ、篁君、君の話は聞いているよ。
日米親善の為の結婚、悪くはない。
中々、良いお嬢さんじゃないか。
都の年寄り共が、騒ぐかもしれないが、何かあったら俺が手助けしてやるよ」
悠々と紫煙を吐き出しながら、彼は語った
「君の立場は斯衛の派遣技術将校、謂わば陸軍技術本部駐在官に準ずる立場だ。
一挙手一投足が注目の的だ。
それなのに、あの様な美女を本気で愛するとは、中々出来る事ではないよ」
手持無沙汰になった篁は、彼のタバコを拝借した
2本ほど抜き取ると、火を点ける
目を瞑り、深く吸い込んだ後、静かに紫煙を吐き出す
目を見開くと、狐につままれたような彩峰が居た
「タバコを吸うのか。やらないと思ってたんだが」
しばしの沈黙の後、語った
「こういう時には煙草の一つでも吸いたくなりますよ。
フィルター付きは癖が無いですね」
下を向きながら、答える
「まあ、色々あって、タバコを止めてたんですよ」
「大方、あのお嬢さんにでも言われたのか」
「技術職で、火器や燃料を扱うことが多いので。
基本的に火気厳禁で、喫煙所が遠く、足を運ぶのが億劫になってしまいました。
休憩する時間が惜しくて、其の侭……」
そこにマグカップを二つ持った巌谷が来る
彼の方を向いて彩峰が言う
「敬礼は良い。俺の分も用意して呉れ。
コーヒーは嫌だから、コーラか、オレンジジュースにしてくれ」
彼は静かにマグカップを置くと、PX(購買所)の方に向かった様であった
「無口な同輩君の事、どう思うかね。
俺は、俺なりに彼のことを評価しているよ。
見どころのある男だ。陸軍に転属するなら世話してやっても良いぞ」
篁は、やんわり断った
「アイツは、そんな事をされるのを嫌がる男です。
お気遣いは、有難いですが」
彼は、右手で頬杖を突き、左手にタバコを握ったまま、答えた
「君も、顔に似合わず、はっきり物を言う男だな。
これは、モテるわけだよ」
彼は、大声を出して笑った
篁は、困惑しながら愛想笑いを浮かべるしかなかった
一頻り笑った後、彼は真顔になり、タバコをもみ消す
「例の作戦の話は聞いているかね」
首を横に振る
「F-4と、斯衛軍に納入される新型機F-5の訓練部隊を欧州に派遣することになってる。
早速だが君達も帰国した後、直ぐに欧州行きだ。
新婚早々、済まないがね」
彼は居住まいを直すと、深々と頭を下げた
「頭をお上げください。
大尉の謝る事ではありません。
それに例の大型機の実験をするという話でしょうか」
彼は、腕を組みながら、背もたれに倒れこんだ
「そうだ。
私が部隊長で、君が戦闘隊長を務める計画になっている。
何とか、乗って飛ばせるぐらいだがね……」
新しいタバコに火を点けた
深々と吸い込むと、静かに吐き出す
「もっとも、育成中の下士官や志願兵が主力になるとは思う」
巌谷が、数本の瓶を抱えて戻って来た
よく見るとコーラと炭酸飲料、オレンジジュース
彼は、静かに瓶を並べた
「好みは分かりませんでした。お好きな物を……」
彩峰は、胸元より栓抜きを出す
「ああ、頂くよ」
彼は、コーラの瓶を手に取り、栓を開ける
そして、胸から袋を取り出し、テーブルに置く
袋から出したのは、ステンレス製カップ
コーラを並々と注ぐと、勢い良く呷る
「ペプシも捨てたもんじゃないな。生き返るようだ」
其の侭、数度カップに注ぎながらコーラを飲み干す
彼は、再び語り始めた
「まあ、詳しい話は、後日、文書で出される。
覚えておいてくれればよい」
腕時計を眺めると、こう呟いた
「とりあえず、飯にでもするか。
やる事もあるまい。
君とお嬢さんとの馴初めでも話してくれよ」
彼は、周囲に散らばた小物を内ポケットに仕舞いながら、答える
巌谷と篁は、驚いた顔をしている
「俺は、世間で言われているような過激な右翼じゃない。
貴様等と、同じ宮仕えの身分。
ただ、帝国陸軍か、斯衛軍か、の違いでしかない。
情報省の辺りに居る連中の方が、過激度数は高い」
そう言って彼は立ち上がり、軍帽を被る
「お前たち、刀は?」
「流石に、持って着てませんよ」
「俺も、だよ」
彼等は談笑しながら、その場を後にした
 
 

 
後書き
彩峰 萩閣の年齢ですが、年齢に関する資料は恥ずかしながら自分のわかる範囲ではありませんでした
集英社刊行の公式小説、『マブラヴ オルタネイティヴ』公式メカ設定資料集や、Muv-Luv Alternative Memorial Art Book、Muv-Luv Memorial Art Bookにはありませんでした。
『オルタネイティブ』本編開始前の1998年に陸軍中将なので、類推することにしました
現実の世界を反映し、陸軍中将昇進時の年齢が50代後半が多いと言う事で考えて、1970年代後半を題材にする今作品に登場させました

『オルタネイティブ』の20年以上前になりますので、だいぶ若い年齢だとは思いますが、遜色はないと思います

ご意見、ご感想、ご批判、よろしくお願いします 
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