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僕は 彼女の彼氏だったはずなんだ

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2-⑽

 昇二と光瑠に話した。新しい「ナカミチ」が見つかったこと、美鈴のお父さんを見たこと。

「行くんだろう 店に」と、昇二が聞いてきた。

「ああ 行くよ 当然」と、二人を前にして、答えたが・・。

「でも 本当は、怖いんだ あんなに、美鈴のことを探していたのに、いざ、会うとなるとな あの時、姿を消したのは、相当な覚悟があったのだろう そして、今でも、連絡してこないのは その覚悟を僕が、無視してもいいのかなってな」と、言うと、光瑠は僕の手を取ってきて

「蒼 美鈴だって、会えれば、嬉しいに決まっているじゃぁ無い あの時と違って、もう時間がたっているわ 今でも、思ってくれているんだと 蒼の想いだけでも伝えるべきよ」

「しかし、もう 僕のことなんか忘れて居るかも」

「何言ってんの 自信持ってよ あの絵馬を見たでしょ まだ あの娘は蒼のことを想っているわ 私達、応援しているから、ぶつかっていけー 今の君には、それしか武器が無い」

 - - - - - ☆ ☆ ☆ - - - - -

 その日、電話が鳴った。知らない番号だったが、肉の卸会社のこともあったので、出ると、松永さんだった。話をしたいので、店の方に来れないかという内容だった。

 次の日、3時過ぎに「ナカミチ」に行ったのだ。玄関は開いていて、店には、おそらく松永さんであろう人だけのようだった。

「三倉さんですか 初めまして、松永です 暑いのに、遠くまですまない ゆっくり、話を出来る所が思いつかなかったもんで」

「いいんです 僕も、お伺いしたかったから」

「だと思うよ そうなる前に、一度、会っておきたかったんだ」

「君の目的は、美鈴お嬢さんを探していたのか?」

「そうです 僕は、ずーと想っていた 突然、居なくなってからも、美鈴を忘れたことはありませんでした だから、会いたい」

「そうか 仕入先から若者が探しているようだと聞いて、この前も店まで来たようだったしな ピンときた お嬢さんから聞いたことがある若者だって だけど、今日は、僕から、お願いがあって、来てもらったんだ」

「じゃぁ 美鈴は近くに居るんですか」

「居る 元気だよ だけど、聞いてください 出来れば、今は、会って欲しくないのです」

「どうしてですか? 僕は、ずーと美鈴を想ってきた はっきり、愛しているんだと」

「わかる 君の手のミサンガを見た時に お嬢さんも、同じものを大切にして、離さない だから、この人もお嬢さんのことをずーと想ってくれているんだと」

「美鈴もまだ、持っていてくれてるんですか」

「ああ あの人は、もう、私のことなんか忘れてしまって居るかも知れないけど、私は蒼君のものと約束した絆だと言っていた 唯一、繋ぎ留めるものだからとな」

「だったら 余計に会いたい」

「待ってください 君には、話しておくべきだと思うから 成り行きを話す ゆっくり、聞いておいてくれ」

「お願いします 聞いておきたいです」

「社長が倒れてから、店は大変だったんだ 殆ど、独りで突っ走ってきたからな そして、奥さんが店にかかわってきてから、経理の高井を追い出して、ますます、資金繰りもめちゃめちゃになって、そのうち、総務の上野が策略で、ホールとか厨房の人間を引き抜きにかかって、おまけに、社長の奥さんを抱き込んで、店の資金を持ち逃げしたんだ。それで、奥さんは、離婚を進めていたんだけど、美鈴お嬢さんは、まだ、入院している社長のことを残していけないと、世話をし続けた。だけど、社長は、もう、店のことなんか記憶から消えていたんだ。退院した後も、左手がマヒしていて、お嬢さんが面倒見ていた。そして、会社が倒産して、店を閉めるにあたって、従業員の給料補償とか、店の跡地の保証とか、仕入先への債務もあった。まだ、中学卒業するかという年で、お嬢さんはあちこちに頭を下げてまわったんだ。僕も、社長には恩義があったから、手伝ったんだけども、所詮、雇い人だったから・・。結局、返済金だけが残った。やむを得ず、社長の持ち家を売りに出したんだ。僕も、子供居なかったし、お嬢さんを自分の子供のように思っていたから、小さいマンションを売りに出した。それで、こっちに越してきたんだ」

「あのー なんと言って良いのか 美鈴、大変だったんだ」

「うん 自分を捨てて お父さんのことも、会社の後始末も なりふりかまわずにな 偉いと思う それでも、自分達を捨てて出て行ったお母さんのことも、恨みごとも言わないで、逆に心配しているんだ だから、僕は、出来るだけ、お嬢さんの手助け出来ればなと思って、ここまで、やっと来た 小さいけど、店を出せるまでになった それまでの、社長の人徳もあって、仕入先にも協力してもらってたんだ」

「それで、今、美鈴はどこで働いているんでしょうか」

「あれから、色々な仕事をしててな それも、掛け持ちで、返済と生活を支えるために でも、18になった時には、お昼の時間はこの店の手伝いをして、それから、夜は、僕が勤めていたホテルのナイトラウンジで働いている。と言っても、健全な所だよ 接客と言っても、飲み物を運ぶだけだし、客層も上品な人ばかりだよ。それに、僕の後輩のコックとフロアーマネジャーにしっかりと頼んである。可愛いし愛想もいい、スタイルも良いから彼女のファンは多いんだ 日常会話程度はお相手するからね でね。ホテル側も人気があるから、彼女を大切にしていてくれているんだ 心配は要らないよ 帰りも、社長が駅まで迎えに行っている それにね、通信教育で、もうすぐ高校も卒業する」

「そんなに働いているんだ」と、僕には、衝撃だった。

「返済金を早く終わらせなきゃな でも、あと2年で全て終わる 社長も、回復して、今じゃぁ店の手伝いを出来るまでになったし、そうしたら、新しい店を出す予定だ」と、時計を気にしながら、松永さんは続けた

「お願いというのは、これからなんだ 今、順調になっているんだ お嬢さんは、あの時、自分の生活を全て切り離さなきゃって覚悟したんだと思う 少し、混乱していただろうが だから、突然、君達から離れたんだ 君達に余計な迷惑を掛けたくなかったんだよ 悩んだと思うよ 後で、後悔もしていたみたいだ でも自分で何とかしようと決心したんだ 今でも、君達のことは、それとなく気にしているよ でもな 僕の考えでは、おそらくだろうけど、返済金終わったら、お嬢さんから連絡すると思う だから、お嬢さんのその時の決意を尊重して、今は、そっとしておいてくれないだろうか 君なら、わかるだろう?」

「お話は、わかりました」

「それにな 言っちゃぁ悪いが、君は、まだ学生だ お嬢さんの面倒を見られないだろう 生活の基盤ができたら、迎えにきてもらえれば・・ その時まで、僕が、責任もって、お嬢さんを守る」

「おっしゃるとおりです 確かに、まだ、学生です 今は、我慢します でも、彼女への想いは変わりません」

「そのことは、それとなく、お嬢さんに伝わるようにするよ それと、姿だけでも見たいんだったら、4時05分の電車に乗るはずだ 急げば、間に合う ただし、遠くからな きれいになっているよ」

「有難うございます 感謝いたします これからも、よろしく 美鈴のこと」と、言って、僕は、駅に急いだ。

 走ったので、汗だくだった。遠くからって、隠れるとこも無いので、コンビニに入って、駅の方を見ていた。来た、美鈴だ。赤いTシャツにサスペンダーのストレートパンツ、黒くてツヤツヤした長い髪の毛の一部を編んで耳の前に持ってきている。あのころに比べるとずーと、大人びて見えた。目元もくっきりして、濃いめの化粧だが、きれいだ。輝いているように思えて、初めて見る美鈴だ。でも、確かに美鈴だった。編み上げのバックから、定期のようなものを出して、改札に消えて行った。でも、左手には、リストバンドをしているのが確かに見えて、僕も、手首のミサンガを握っていた。

  



 
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