| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Saga17-D侵撃のT.C.~4th wave~

†††Sideシグナム†††

“T.C.”のメンバーの1人とされる召喚者による召喚獣の襲撃。これまでの地上本部はすべてその被害に遇い、保管されていたロストロギアなどが奪われてしまった。そしてとうとうミッド地上本部にまで手を伸ばしてきた。

「猫は魔力を食うぞ! 射砲撃は使うな!」

「氷結魔法が使える者は、地面を凍らせるんだ!」

「猫以外は初遭遇だ! 様子を見つつ攻撃続行!」

各首都防衛隊の隊長たちが部下に指示を飛ばし、巨大なクワガタと交戦を開始。私の部下たちも非戦闘員や民間人の避難誘導を行いつつも攻撃を行っている。小隊5人で巨大アナコンダと交戦中で、残り5人の小隊はアリサの小隊と共に避難誘導を行っている。

「紫電一閃!」

“レヴァンティン”の刀身に纏わせた炎は、ルシルのカートリッジによって蒼が混じっている。それが私の魔力に神秘が付加され、魔術化していることを示しているわけだ。そんな私の一撃を受けるのは巨大ゴリラ。普通のゴリラの3倍はあろう巨体で、その太い腕で私の一撃を受けた。

「む・・・!」

刃は肌を裂き、炎も体毛や皮膚を焼いているのは確かなのだが、筋肉で止められているようだ。腕が振るわれたことで私は後方に投げ飛ばされたが、地面に着地するより前に空中に魔法陣の足場を展開して足を付き、“レヴァンティン”を鞘に納める。そしてカートリッジを1発ロードし、居合の構えのまま足場を蹴って再突撃。

「紫電・・・」

鞘内の魔力を爆発させ・・・

「清霜!」

その衝撃によって超高速の抜刀を行う一撃を放った。先は筋肉によって拒まれたが、この一撃は筋肉すらも容易く寸断し、ゴリラの左腕を斬り飛ばすことに成功した。しかし「本当に攻撃してよかったのか?」と疑わざるを得ないほどに、斬られた箇所より多量の出血をし、大きく鳴くゴリラの様子は痛々しかった。

「斬り飛ばされた腕は・・・消失するのだな」

地面に転がっていた腕の先が魔力となって霧散したのを確認。ルシル達から受けた報告通り純粋な生物でないのは確かのようだ。腕の消失を確認していた私にゴリラは怒りの咆哮を上げ、轟音と共に突進してきた。普通のゴリラでさえ容易く人を殺めるほどの力を持っているという。その3倍はある召喚されたゴリラに捕まれば、さすがの私も無事では済むまい。“レヴァンティン”をもう一度鞘に納め、「カートリッジロード!」を行った。

「レヴァンティン!」

≪Schlange form !≫

迫りながら無事な右腕を伸ばしてきたゴリラの懐に一足飛びで入り込み、さらに股下をスライディングで潜り背後へ回り込む。

「煌竜!」

ゴリラの背後を取った私は連結刃形態となった“レヴァンティン”を抜き放ち、炎を纏う連結刃でゴリラを拘束。斬撃と火炎の二重攻撃でゴリラの全身を斬り、そして焼いた。連結刃の拘束から逃れるだけの力も失ったようで、仰向けに倒れこんだかと思えばゴリラは魔力となって霧散した。過度のダメージを負っての強制召喚解除だったようだな。

「最後の避難者グループです!」

私やアリサの隊とは別の隊の5人が、局員や民間人合わせて8名を護衛してやって来た。彼らに召喚獣が向わないように次の相手、誰とも戦っていない巨大なサイと対峙しようとしたのだが、ふっと違和感を覚えたことで通り過ぎようとしていた避難者グループを二度見した。民間人ではなくとある局員を注視し、そして「待て!」と呼び止めた。

「シグナム一尉・・・?」

「トミー三佐は残っていただけますか?」

避難する局員の中に居た初老の男性、トミー三等陸佐が違和感の原因だ。名指しで呼び止められたことで困惑していらっしゃる彼には「少しお時間を頂きたく」と伝え、他の避難者には「他の皆さんはお早く」と促した。他の避難者が本部に駆け込むのを横目で確認しつつ、意識は彼に集中する。

「八神一尉。どういうつもりだね? こんな戦場の中で魔導師ではない私を呼び止めるなど正気かね?」

「申し訳なくは思っております。しかしトミー三佐は一昨日から明後日まで、ザンクト・オルフェンにて甥御さん、アレックスさんの結婚式にご列席なさっているはずと思った次第でして」

「あ、ああ。魔法を使えず戦えなくとも三佐の階級を頂く身。アレックスには申し訳なかったが栄えあるミッドチルダ地上本部の危機である。ザンクト・オルフェンでの休暇を切り上げて参上したのだが、危険だからと避難者の仲間入りに――」

最後まで言い切らせるより先に“レヴァンティン”の峰で斬りかかると、目の前の奴は咄嗟に掲げた左前腕部で受けることで私の一撃を防いだ。騎士にあるまじき不意打ちだったのだが、こうも容易く反応されるとはな。しかも手応えからして骨を折るどころか肌にすらも傷付けていないだろう。

(ああ、間違いない。神秘の有る魔力で防がれた際の手応えだ)

「何をする!? 上官である私への攻撃など馬鹿げている!!」

「馬鹿なのは貴様だ。私はトミー三佐とは呼ばん。ファミリーネームのブラック三佐と呼ぶ。そしてブラック三佐は、私のことをシグナム一尉と呼ぶ。八神という姓持ちは我ら八神家のみだが、八神と呼ばれるのは我らが主、八神はやてのみ。さらに言えば! ブラック三佐の休暇は4日前からであり、行き先はザンクト・オルフェンではなく第13管理世界リムヴァユニオン! 甥御さんの結婚式ではなく姪御さんの結婚式だ!」

――紫電一閃――

先ほどの峰打ちには大して魔力を込めていなかったが、今度は本気で討ちにいく。半身になることで私の一撃を躱した奴の姿が揺らぎ、管理外世界などでよく見かけた軍服に身を包んだ、指名手配犯アーサー(仮)となった。

『こちらシグナム。指名手配犯、T.C.構成員を視認! 交戦に入ります!』

『こちら本部。了解しましたシグナム一尉。ご武運を』

本部との通信が切れる。召喚者アーサー(仮)は「なるほど。少しばかり調査が足りなかったようだ」と嘆息し、整えられた金色の髪を掻きながら周囲をチラリと見回した。我々の周囲では召喚獣を相手に善戦する首都防衛隊員や騎士の姿。アーサー(仮)は魔術師らしいが、召喚獣には神秘の無い魔法でも通用するようだ。

「召喚獣の召喚を解除し、大人しく縛に就け」

「断る。貴様とて投降を促したところで俺が素直に聞くとは思っていないだろうに」

――震天弓――

稲光、轟音と共に奴の左手に創り出されたのは雷光の大弓。奴が弓を構える前に再度「カートリッジロード!」をし、“レヴァンティン”の刀身に蒼炎の混じる炎を纏わせる。すかさず「紫電一閃!」と一足飛びで接近しつつ振り払う。

「面白い。来るがいい!」

奴が私との間の渦を発生させたため地面を蹴って跳躍。背後に降り立つ前に空中で“レヴァンティン”を振るった。奴は雷弓を盾にすることで刃を防いだが、炎はしっかりと当たっている。右肩を燃やす炎をはたいて消そうとしている奴の背後に立ち、「二連!」もう二撃目を振るうのだが、奴は渦の中へと飛び降りることで回避した。

『アギト、来てくれ。ユニゾンで一気に決めたい』

『おう! 指揮を引き継がせてから行くぜ!』

アギトには私の代わりに隊の指揮を任せていたからな。アギトも頼もしくなったものだ。そう感動していると、「新手の召喚獣が召喚され始めました!」と至る所からそんな声が上がる。召喚魔法陣ではなく、奴が飛び込んだ渦と同じようなものが地面に複数出現し、そこから漏れなく巨大な狼、バッファロー、白熊、象、それに何十羽というペンギンが飛び出してきた。

「なんだ・・・!?」

急速に渦が50mほどにまで拡がった。渦に呑まれないように飛行魔法で体を浮かしたところで、「さぁ行くぞ!」と渦の中より奴の声がした。渦から翠色の魔力が噴き出すと共に巨大なハサミが現れ、さらにその全体も這い出てきた。

「サソリ・・・!」

見た目は45mほどの巨大なサソリだが生物とは違うというのは判る。サソリの形をした鎧とでも言うのか、明らかに金属質。いやそれよりも「私はコイツを知っている・・・?」と既視感を覚えたことに胸がざわつく。見たことはないはずなのだが、このサソリが何をするのかがなんとなく判る。

「黒鎧の毒精フォヴニス。そこらで暴れている下等な召喚獣とはわけが違うぞ?」

「ああ。そうだろうな」

フォヴニスという名のサソリから放たれている本能的な恐怖感は、ただの召喚獣と両断するには異質過ぎた。“レヴァンティン”の柄をギュッと力強く握りしめ、深呼吸を二度。神秘カートリッジの効果が切れるより前に「討つ!」と、2つのハサミをパカパカと開閉しているフォヴニスに接近を試みる。

「フォヴニス!」

頭部の上に立つ奴が高らかに名を叫ぶと、フォヴニスは両ハサミを伸ばしてきた。あれほど大きなハサミを受けるわけにはいかん。ジグザグに躱しながら接近を続け、フォヴニスの腹の下に潜り込む。隙だらけの腹を裂いてしまえば・・・。と考えたところで頭の中で、ダメだ、という強烈な直感が働いたため、立ち止まることなくそのまま通り抜けようとした。

――卑怯者への断罪の雨――

金属音を立ててフォヴニスの腹の装甲が観音開きで開いていく。装甲の中は空洞で、詰まっているのは翠色の膨大な魔力のみ。炎のように揺らめくその魔力から地面に向かって放たれるのは無数の魔力の針――いや槍だ。槍の雨が、私を貫こうと降り注いできた。

(直感に従って通り抜けて正解だったな。足を止めていれば無事では済まなかっただろう)

胴体だけでおよそ45m、尾を含めればその倍以上の全長を誇るフォヴニス。通り抜けるまでに数発が至近弾として地面に着弾したが、無傷で通り抜けることが出来た。そんな私に頭上から「ほう。大した幸運だな。どんなまじないをしたんだ?」と声を掛けられた。

「まじない? 違うのだろう? お前は私に当てようとしなかった」

「・・・」

潜り抜ける際、直撃を受ける、と覚悟した射線のものあったのだが結局は外れた。殺すなと連中のリーダー(王と呼んでいるそうだが)から指示を受けている以上、魔術の直撃は狙わないのだろう。だからと言って回避行動を取らずに1発も掠ることなく済むというのもおかしな話だ。まぁ私の速度ゆえに狙いが定まらなかったというのなら仕方がないが。

『シグナムお待たせ!』

本来の小さな姿となっているアギトが私の元へと飛んできた。押し黙ったままの奴はフォヴニスへの指示も出さず、私とアギトの「ユニゾン・イン!」の妨害をしなかった。さらに「シグナム一尉! 私たちも手伝います!」と、トリシュとアンジェリエが合流してくれた。

「おっと。少し考え事をしていたら気付かないうちに増えているじゃないか」

「見たところ我々3人を相手に、お前とフォヴニスで勝てると思うか?」

私はルシルの神秘と魔力が装填されたカートリッジを使用している。借り物とはいえ神秘を使っているからこそ判る奴らの神秘の濃度。奴とフォヴニスよりこちらの方が上だと判る。それは奴も同じのようで「確かに。残り1人にも合流されると厄介だな」とアリサの方を見た。アリサもルシルのカートリッジを使っているからな、気にはなるだろう。

――ゼクンデアングリフ――

奴の視線が我々から逸れたその瞬間、アンジェリエが高速移動魔法で奴の元へと跳び、私も続いて宙を蹴って突っ込む。アンジェリエと奴を飛び越え、アンジェリエが「グリッツェンフェッセルン!」と伸長させた“ジークファーネ”の魔力幕で奴を簀巻きように拘束したのを確認。

「紫電一閃!」

そこに私の一撃をお見舞いする。奴は防御も回避もしようとせずに受け入れ、フォヴニスの頭部の上に叩き付けられた。私とアンジェリエもフォヴニスの反撃を警戒しながら頭部に降り立ち、私は“レヴァンティン”の刃先を、アンジェリエは新たに生成した魔力幕をピンッと張って刃化させたハルトファーネを突き付けた。

「はっはっはっは! 面白い、面白いぞ! 久しぶりの戦闘だ! 陽動ばかりでいつも退屈していたんだ! 今日もつまらん陽動役だったんだが、やはり俺・・・私は前線で戦うのが好きだ! 何せ軍人だからな! フォヴニス!!」

奴に名を呼ばれたフォヴニスが金切声のような不快な音の咆哮を上げ、私とアンジェリエを振り落とすようにその巨体を振るい始めた。振るい落とされる前にアンジェリエと共に空へと上がり、ごろごろと転がり落ちていく奴を見送る中・・・

――天に矛向けし幽玄なる熾天翼――

トリシュの射た12発の砲撃がフォヴニスに着弾して爆発を起こす。落ちた奴の姿が煙で見えなくなったところで、フォヴニスが翠色の光となって霧散。霧散した光が煙の中へと流れていき、爆発したかのような強烈な発光が起こった。煙はそれで吹き飛び、宙に佇む奴の姿があらわになる。

「翡翠色の甲冑・・・?」

「フォヴニスが甲冑に変身したのか・・・!」

肩甲骨の辺りからはハサミの付いた腕が、腰の辺りからは毒針の尾が生えているという甲冑を着込んだ奴は「さぁもう少し付き合ってもらおうか!」と、開いたハサミを私とアンジェリエに、尾の先端をトリシュに向けた。何をするのかはこれまでの交戦で判っているため、すぐに回避行動に移る。

――穿たれし風雅なる翠砲――

案の定放たれたのは砲撃。すでに回避に移っていたため容易く躱せたのだが、それは空に居るからこその容易さ。地上のトリシュは防御を選択しており、シールドを張って砲撃に耐えていた。何故か。周囲への被害をもたらさない為だ。魔術には非殺傷設定などなく、直撃は致死の可能性もある。いくら周囲に防衛隊員が居ないにしても奴の攻撃は“T.C.”のルールに抵触しているだろう。久々の戦闘ということでルールを忘れたのか・・・。

「空牙!」

持続放射していた奴に攻撃をやめさせるため、私はすかさず“レヴァンティン”を振るって魔力刃を放った。奴は尾を振り上げることで魔力刃を迎撃、上空へ弾き飛ばして対処。だがそのおかげで砲撃を止めさせることは出来た。

「陸戦では地上への被害が増えてしまいますね。射線を地上ではなく空へ向けなければ」

防護服の両腕の袖が消し飛んでいるトリシュは地面に突き立てていた“イゾルデ”を手に取り、階段状の足場を展開して空へと駆け上がってきた。奴はそんなトリシュの動きを妨害するような真似をせず、「ハンデがある中での一対多数戦。フッ、燃える」と、笑ったのか肩を揺らした奴の周囲にさらに渦が2つと出現した。

「させん!」「「させない!」」

別の召喚獣を召喚するのだと判る。渦から漏れ出る魔力には神秘を感じるため、すぐに阻止に移る。私は“レヴァンティン”を振るい、奴ではなく渦に向けて「火竜爪!」と炎の斬撃を飛ばす。

「アンジェは召喚者を!」

――翔け抜けし勇猛なる光条――

「了解!」

――シュラーゲンファーネ――

トリシュはもう1つの渦へと砲撃を放った。アンジェリエはデバイス全体を魔力幕で覆った“ジークファーネ”で、召喚が終わるまで佇んだままでいるつもりなのか判らない奴へと殴り掛かった。奴は頭上に掲げた2つのハサミで“ジークファーネ”を受け止め、アンジェリエの腹を殴ろうと両腕を引いたがそれより早く、「でぇい!」と彼女の両足による踏み蹴りが奴の胸を打った。

「む?」

「グリッツェンフェッセルン!」

蹴り飛ばされた奴に向かって、アンジェリエは再び魔力幕を伸長させて相手を拘束するバインドを発動。だが魔力幕は振り回された尾によって粉砕された。私とトリシュの攻撃は渦に直撃し、渦を霧散させることに成功していた。召喚は阻止できた、そう考えていたのだが・・・。
  
「「「っ!?」」」

この近くではない、離れたところに出現した神秘の魔力を感じた。そちらへと目を向ければ馬の形をした放電する電撃の塊と、その雷馬に追従するように蛇のごとく空中を這う、フォヴニス以上に既視感を覚える黒い炎も向かって来ていた。

『な、なぁシグナム。気の所為かな? あたし、なんか、あの黒い炎知ってる気がするんだけど・・・』

『偶然だな。私もだ』

フォヴニス以上に見知った感を覚える黒い炎に、私とアギトは気持ちを同じにしていた。

「純雷の皇馬アルトワルドと業火の眷属ゼルファーダ。神秘を失って久しいこの下位次元で召喚できるギリギリのレベルだ。ま、貴様ら相手には十分だ。来い!」

雷馬アルトワルドの背に跨る奴の右手に黒炎ゼルファーダが纏わり付き、漆黒の炎が揺らめく大剣フランベルジュへと変化した。召喚獣を武装化させて装備する召喚魔導師、いや召喚魔術師など聞いたことがない。いやまぁ相手は魔術全盛時代の子孫なのだから、それより生まれの遅い私が聞いたことがないのは当たり前なのだが。

「〈ΠШз∑#>!」

アルトワルドが生物とは思えない異質な鳴き声を発すると同時に駆け出した。狙いは魔法陣を足場として佇んでいるトリシュ。空戦の出来ないトリシュに向かわせるわけにはいかん。助けに入るために私とアンジェリエは宙を蹴り、トリシュと奴の間に割り込もうとする。

『アギト!』

『おう! 炎熱加速!!』

「この・・・!」

――天翔けし俊敏なる啄木鳥――

それより早くトリシュは“イゾルデ”を構え、高速魔力矢を射た。高速で奔る魔力矢とアルトワルドを駆る奴が真正面から激突。奴はフランベルジュの腹を盾とすることで矢を防ぎ、そして私とアンジェリエが立ち塞がるとアルトワルドの背から飛び立った。奴は我々の頭上を飛び越え、アルトワルドだけがそのまま突っ込んできた。

「逃がさん!」

――紫電一閃――

「止まりなさい!」

――シュテルケンシュラーク――

私は奴へ、アンジェリエはアルトワルドへとデバイスを振るった。私の一撃は奴の尾針で止められたが、力ずくで弾き飛ばすことで奴の体勢を崩すことには成功した。アルトワルドは馬の形を破棄して雷撃となることで、アンジェリエの攻撃を回避。さらに私の横を素通り。狙いはやはりトリシュのままだった。トリシュは自ら魔法陣から後ろ向きに飛び降り、雷撃となっているアルトワルドの突進を回避。通り過ぎたアルトワルドは奴の元に戻ってから再び馬の姿へと成った。

「私が空戦が出来ないと考えてのターゲットですか?」

地面に激突する前に新たな足場を展開して降り立ったトリシュが右手の指に4本の魔力矢を挟み込み、“イゾルデ”の魔力弦に番えながら奴に問う。アルトワルドに跨り直した奴は「カノンという魔術師を知っているか?」と聞いてきた。当然知らない我々は無言だ。

「魔術師にとって恐ろしいのは遠距離特化、固定砲台の魔術師なのだ。カノンという小娘は数㎞先、十数㎞先、果てには転移能力を使って砲撃を他世界にまで放ってくる悪魔のような魔術師だった。そこまでの恐ろしい砲台はなかなか居ないが厄介であることには変わりない。それゆえに狙えるのならば真っ先に墜とすのが常識だ」

――フォックスバット・ラン――

「そう。なら、今度はあたしも狙ってみなさい」

「・・・」

まばたきの間で奴の背後にまで跳んで来たアリサは、奇襲など無意味とでも言うように焦ることなくハサミで迎撃に入る奴へと“フレイムアイズ”を振るう。“フレイムアイズ”の現形態はヴァラーフォームで、長い銃身の両側に反りの無い直刀が2つと付く1m半ほどの大剣と、1mほどのソードブレイカーというもので、柄頭から伸びる魔力ケーブルが二剣を繋いでいる。

「バーニングスラッシュ!」

迎撃として迫る2つのハサミを受けて捌いたのは右手に持つ大剣で、左手の炎を纏うソードブレイカーで奴に斬りかかる。それを迎撃するのはアルトワルドの後ろ脚による蹴りだ。アリサは攻撃を中断し、ソードブレイカーを盾として使い防いだが、「っとと!」大きく蹴り飛ばされてしまった。

「いいだろう! 徹底的に戦おうではな――・・・なに?」

フランベルジュを振り上げ、今まさにアルトワルドを走らせようとしていた奴の様子が変わる。そう、まるで思念通話でも入ったかのような・・・。それが正しいことを示すかのように奴の戦意がみるみるうちに薄くなっていくのが判り、私は「逃がすな! 退くつもりだぞ!」と声を上げ、“レヴァンティン”を振り上げつつ突進する。

「やってくれたな騎士! 私たちが狙っていた標的が保管庫に無いと知らせが入ったぞ!」

「やっぱり別働隊が居たのね!」

「召喚獣だけでなく召喚者であるあなたも陽動に参加する、というのが証明されたわけですね!」

『へっ! ミッド地上本部をあんましなめんなよ!』

「首都防衛隊として、地上本部に混乱をもたらしたあんたを逮捕するわ!」

ミッドまでの地上本部すべてが奴の陽動に嵌り、ロストロギアなどの物品の奪取を許している。陽動の手段が一切変わらないのなら、対抗策も立てやすいというもの。我々の陽動に成功し、奪取を容易く行えると奴らは笑っていたのだろうが、それが失敗して今はどんな気持ちなのだろうな。

「対策を立てられ易いというのは判っていたとも。悔しくなんかないぞ。・・・さて、私の本心に従うのならまだ戦っていたいが、これで退散させてもらう!」

「逃がさないってば!」

――イジェクティブ・ファイア――

「せめて召喚者だけでも・・・!」

――翔け抜けし勇猛なる光条――

アリサとトリシュが砲撃を放ったが、アルトワルドの高機動には対応できずに掠ることもなかった。召喚者である奴が逃走したことで、周囲の召喚獣の姿も薄くなり、そして消滅した。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧