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或る皇国将校の回想録

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第四部五将家の戦争
  第七十四話 虎城防衛線会議

 
前書き
駒城保胤  駒州公子 陸軍中将 稀代の軍政家

守原英康 護州公弟 当主代行 陸軍大将 駒城の政敵筆頭

宮野木清麿 背州公子 三十半ば過ぎの歳若い中将 政争から距離をとっている

西原信英 西州公 陸軍大将 10年以上実質隠居状態の老政治家 西州軍司令官

西原信置 西州公子 陸軍大佐 40過ぎて未だ大佐 軍務を嫌うが政治屋として裏で暗躍している。 

 

皇紀五百六十八年 九月十三日 縦川 背州軍仮司令部庁舎内 第一会議室
軍監本部戦務課長 窪岡少将

この会議室に集められたのは、虎城防衛線に集結した軍司令官達である。
 護州軍司令官の守原英康大将と駒州軍司令官の駒城保胤中将が静かに相対し、最年長と最年少の軍司令官である西州軍司令官の西原信英大将と背州軍司令官である宮野木和麿中将が共に不愉快そうに皺を刻んでいる光景は国軍の会議というよりも講和会議のようだ、と軍監本部の代表者を押し付けられた窪岡戦務課長は思った。
また一方で、龍州軍司令官の須ヶ川大将は憔悴しきった様子で黒茶を啜っており、近衛総軍司令官の神沢中将も東州の護りについている安東家の分家筋であるが、この会議には無関心な様子である。
彼らにとってはこの会議は最終的な決定事項を聞き取るだけのようなものでしかないという事が分かる。
戦務課・兵站課などといった部署から派遣された参謀達を束ね、この会議の結果をどうにか取り纏めねばならない。五将家だけではなく兵部大臣官房にいる馬堂。更に近衛総監部、内務省に水軍主流派に皇室魔導院、後備動員予算を握る衆民院の各政党も裏で暗躍している。
敵軍の主力が合流を後れさせた事で虎城は雨季の訪れが間もない、軍監本部のまっとうな参謀達はこの時点で<帝国>軍が大規模でなおかつ長期的な軍事行動を行う事はほぼ不可能であると結論付けていた。
「軍監本部としましては、今回の大きな議題となりうるものはほぼ一つであると考えています」

「ほう?」守原大将が眉を上げ、宮野木中将は無関心そうに茶菓子を手にとった。

「導術観測によると辺境領軍の本隊が合流するまであと半月ほどだと予想しております。雨季の前に連中はうごかなければなりません。
これで六芒郭周辺に展開している<帝国>軍は総計二十五万に達するものと思われます。
六芒郭の防衛にあたる新城支隊は任務を全うしようとしております。我々はそ支援にどれほどの戦力を投ずるべきか、です」
「二十五万……」西原大将が瞑目し、繰り返した。

「ふむ」守原英康は茶菓子を口にしながら頷いた。
「六芒郭……駒州の育預殿が奮戦しておると聞くが。ここまで本領軍を食い止めておられたのだ。その功績はあまりまるものであろうな」 
宮野木の若殿が周囲を伺いながら言う
「しかし、だ。彼らは要塞を利用し敵を食い止めてきた。二十五万をも超えた軍勢となると六芒郭の包囲を続けるにせよ、数個師団は動かせるだろう、皇龍道を衝く可能性も否定できぬのでは?」

「兵站状況を考えるのならばその可能性は低いだろうと軍監本部としては考えています」
 兵站課の参謀が答える。
「要塞攻略というものは、大量の歩兵はもとより、砲兵による支援が無ければ不可能です、つまりは非常に弾薬を浪費します。これを輸送し続けるとなると大量の輓馬が必要です、そしてその大量の輓馬を養うには大量の飼葉と水が必要です。
つまるところ、兵站と言うものは動く部隊が強大であればあるほど手におえない物となります」

「――つまり六芒郭を本気で陥落させるつもりなのであれば並行して皇龍道の突破は不可能である、と軍監本部は判断しているわけだね」
宮野木清磨中将は注意深い口調で尋ねる。
「流石にそこまでは断言できませんが、あらゆる面で非常に投機的な行動である、とは申し上げます」

「――成程、六芒郭をそのまま放置して動くのであれば兵站の動きが読める、という事か」
 若き中将はありがとう、と手を振ると静かに考えこみ始めた。
守原と協調関係にあるが、駒州公が後ろ盾としてあれこれと面倒を見てくれた事を彼は忘れていない、家門の取り纏めの必要上、彼も守原に協調しているが、政治的な謀略に手を伸ばす事は殆どない、有力な駒城家との決定的な衝突を避ける為か、或いはそうした態度により、己の立場を表明しているのか。
 問題は彼の父親がいまだに宮野木家当主であることだ。専横的な謀略家であり西原信置と駒城篤胤を恨み続けている。だからこそ政局に身を置かぬようにしているのだともいわれている。
黙りこくっていた近衛総軍司令官である神沢中将はふと思い立ち、尋ねた。
「そういえば虎城が雨季に入る見通しはどうなのだね?具体的な日取りが決まれば作戦地に各軍が投入できる兵力も具体化できるだろう」
とはいえ、主力銃兵部隊が六芒郭にこもっている以上、彼の率いる近衛総軍に現在はさしてできることはない。衆兵隊の新編部隊を前線で再訓練しながら防衛線にはりつけるしかない。

「天象院の報告によるとおおむね十月中旬・十五日頃がら長雨になるとの予報です」
 窪岡は頷き、答える。要するに早く話を進めろ、と促しているのだ。

「……」
黙り込んだまま神沢中将は守原大将へ視線を飛ばす。その視線を受け止めた守原はやや表情を動かした。
「……で、あるならば六芒郭の救援に護州が動くのは吝かではない、背州殿が後詰めを担って下さるならばな。しかしながら我らの第一義は皇達道の防衛だ、皇龍道の防衛は皇都の防衛である」

「守原殿のおっしゃることはごもっともよ、されど六芒郭を見捨てるわけにもゆくまい。確かに虎城が雨期に入れば連中も動くに動けぬよ、厄介な龍爆も雨中を飛ぶのであれば脅威度が薄れるだろう。動くのであれば大規模な手を打つべきだろうな、ここで戦果を挙げれば兵の士気も上がる」
 西原大将の言葉にゆっくりと英康大将が頷いた。
「西原殿。おっしゃることは私も同意する、だがな、我々は既に六芒郭に十二分に物資を提供している。皇龍道に回す筈だった玉薬を、だ。これ以上、六芒郭の為に戦力を割く事もあるまい。救援活動の為に兵を動かす事は吝かではないが、むしろ彼らが稼いだ時間をもって皇龍道防衛の強化に重点を置くべきだ」
 守原大将の言葉に西州公も和やかな顔つきを崩さず頷いた。
「守原殿の御言葉も御尤も。だが、彼らも十分に時間を稼いだ。
それに万に近い将兵を救う事は現状では十二分に価値があるのではないか?ここで何も行動を起こさないのならば兵の士気にも関わろうぞ」
 
「……」
西州閥の長が向ける無感情な瞳を護州公弟が堂々と受け止める
「おや、西州殿、なにかあるかね?」
「いや、あるいは貴公、なにやらもう少し事情があるのではないかとな……そんな気がしたのだ」
西州の老公爵は無表情に返事をした。宮野木の若い公爵は無関心を装いながらもピクリ、と茶を持った手が震えた
「ハ!ハ!ハ!何を言うのやら」
守原大将は一見朗らかそうに笑うがその目は表情と対極の冷徹なものが覗いていた。
 静寂の中、我関せずと一切議論に参加していない須ヶ川大将が茶菓子を齧る音が響く。
  駒城中将は内心を読ませぬ柔らかな表情を崩さずに口を開く。
「本体の到着時期と雨季が近いのであれば尚更です、<帝国>軍は大軍を集結させていますが、それをまとめて動かす兵站機構はさほどではありません。雨季の泥沼にはまりそのまま冬季戦にもつれこむよりも、より確実な春季攻勢を選ぶはずです。ならば雨季に入る直前に六芒郭に籠る支隊を支援し、そのままこちらの防衛線に引き釣り込む覚悟で臨めば敵も退くでしょう」
「そうよな」西原大将は頷き、そして黒茶を飲んだ。守原英康は目を細める。
「然り。新城支隊が担っていた役目が重大なものであった事は理解しているとも」と守原はまくし立てる。「だが、六芒郭は堅固なる事はこれまでの戦いぶりからも明白と言えよう。助ける価値もあるだろう、だが我々の護る皇龍道を蔑ろにしてよい道理はあるまい!連中が複数個の師団を投入するとすればここだ!!ましてや、いたずらに軍を動かし、<帝国>軍につけいられるとならば……本末転倒ではないか!我が軍がまもる皇龍道こそが皇都までの最後の壁であるのだぞ!」

守原の視線がある種の殺気を帯びた。なにかしらの道理が整ったのだろうか?
「……駒城殿。特に貴公も親王殿下も、彼の辣腕を買っておられる」

「その通りですな」
保胤はその視線を慎重に受け止めた。

「いやはや、あれ程の兵法家がおられるのも羨ましい限り。とはいえ貴公の手腕も実に素晴らしく、そのうえ、駒州は虎城に接しておる。駒州軍は各軍の中でも随一よ。
雨季が訪れ、貴公の軍勢が動けるようにならば、義理とはいえ兄弟、必ずや力を合わせ、困難を切り抜けよう……?」
保胤は苦々しい表情を浮かべて頷く。守原英康の言葉も兵理に適ったものである。<帝国>軍が大軍をもって皇都へ進軍するのならば三つの大街道のうち、皇龍道を通るしかない。
 西州軍が守る東沿道は水軍の支援を受ければ地の利をもって守る事は比較的容易である、
駒州軍と龍州軍の護る内王道も山岳地帯の隘路を利用し、重厚な複線陣地を構築しつつある。
皇龍道は非常に交通の便がよく隘路などもない、防御陣地を構築しても他の二道のように戦力を集中できるわけではないのだ。そしてなにより六芒郭の籠城を立案し、十分な物資の備蓄まで手回ししたのは守原家なのだ。ここで更に手助けを引き出したら危険である。
無論、理想を言えば各軍が総力をもって動けば開囲の為の兵力誘因としては望ましいのだがそれは不可能であった。
「問題無いでしょう」保胤は言った。確かに万単位で動く救援作戦は雨季でないと厳しい、とりわけ駒州軍が単独で動かねばならないのならば。

「一度、期限を定めれば持ち堪えてくれるでしょう、もし敗れるのなら……」
守原は粘っこい視線で保胤を凝視している。保胤は続けた。
「……敗れるのなら、それは致し方ない事かと」

「左様、左様!」守原は大きく頷いた。
「各々方が六芒郭で奮闘する将らを案ずるお気持ち察するに余りある、作戦には各軍ともに参加をする。だが各軍の状況を見極めたうえでそれぞれが計画を立案し、実行する。という事でよいのではないか?」

「………………」

 宮野木中将は鳥のように首をかしげながら言った。
「我々はまず拡充しないと話になりませんな、第二軍に派兵した部隊の補充に人員を割かねばならず、どうも後備の動員が遅れているようで。積極的な行動に出られるとは言えません」

「龍州軍も同じく、どの道我らは過度な期待をしないでいただきたい。冬営向けた大規模演習を行える程度に考えてもらった方がありがたい」
 須ヶ川大将は肩をすくめて同調した。
「西州軍も同意する、“各軍、状況ニ合ワセ臨機ニ対応スベシ”でいいだろう。各軍司令官が”作戦の重要性”を認識していることは確認できたのであれば――方針を共有できたという事でよいのではないか?」
西原大将は穏やかな表情で窪岡の方を向き、言った
「――結論が出たようですな。六芒郭の救援作戦は十月十五日を目途に決行。駒州軍は総力をもって前進し敵兵力を誘引。
各軍ともに軍の拡充と防衛線の構築と並行してそれぞれ誘因行動を行う、それでよろしいでしょうか?」
 窪岡少将の言葉に皆がそれぞれ独自の感情をにじませながら頷く。



 やれやれ、と宮野木清磨はため息をついた。盛大な茶番ではあるがこの茶番の中で”何を言ったか”は重要な記録になるだろう。非公式な密室で話し合った内容とは重みが異なる。
未だに三十半ばを超えぬうちに一軍を率いる羽目になった自分の経験の軽さと自分の立場が与える言葉の重さ、その格差は未だに馴染まない。この地位について十年ほどだが重臣達は父を主と仰いでいる。いや、だからこそこの程度で済んでいるのかもしれない、とも思っている。

 保胤も英康も一通りの挨拶を終えたらそそくさと席を立っていった。彼らは常に精力的に動いている、どちらも当主代行という立場は同じなのにこうも違うものか、と陰鬱な気分を弄びながら腰を上げると西原の老公が自分に向けてちょいちょと手招きをしている。
「君には苦労を掛けたようだな、清磨君。志倉総長が来るものだと思っていたが」
 志倉総長は宮野木家の分家筋でよく言えば無難、悪く言えば押しの弱い人柄だからこそ軍監本部総長に任命された人間だった。総長としての威厳は皆無に等しい。そうでなければこの場に出て守原と宮野木の支持を受けながら議論を主導しているはずだ。
「はい、閣下。志倉総長閣下は兵部省で後備と衆兵隊の動員に関する会議のようで」
 龍州軍壊滅の影響は大きい、さらなる後備役動員やら火砲の増産やらの手当てに関する予算を大急ぎで進めている。背州後備も動員を進めているのだが父の和磨の腹心達が動いているらしい、まぁ後備に編入された退役将校達の年齢層を考えればその方が良いのだろう、と思っている。――いや、それは言い訳だ。元から宮野木の本貫の軍たる背州軍を率いる自分も志倉と大して変わらない、州の統治は父である宮野木和磨の下で官僚団がとり行っており、政治的な動きは全て父の下で行われている。将校たる重臣団も同じく父の下で政治屋気取りが動き回っている
 自分は官僚制度に必要な題目としてここにいるだけだ。
「軍監本部も冬に向けて大忙しだな。予算を動かすのも一苦労になってしまったか」「何しろ戦争でありますので」
 五将家が何もかも采配できた時代はとうに終わっている。西州公は何かをかみしめるように和磨に視線を注ぎながら顎を撫でている。
「国家間の、それもツァルラント大陸最強最大の〈帝国〉を相手にした戦争であるからな、御国の何もかもを戦争に回すことになるか」
「はっ」「御国もこの戦の前ですら少しづつだが確実に変わっていたものだ、ましてやこの冬は長い――」
 西原信英の口調は往年の将家の当主たるそれになっていた。
「――君も身の振り方を考えておいた方が良いだろう、君のやり方は間違ってはいなかったが――この先はわからぬよ。何かあれば私の息子に話してみるといい、あぁアレは不真面目だがアレなりに考えているでな」
「考えておきますが――」「父が怖いか」
「父は当主です。えぇ宮野木の者達にとっては父が主君なのです」
 貴方達にとってもそうだろう、と喉元まで出た言葉を飲み込む。
 ふぅ、と老いた公爵大将はため息をついた。
「忠告はした、君は陸軍中将でもある、その意味を忘れぬことだ――」



同日、午後第五刻 蝙関郊外 
駒州公子 駒城保胤


 会議を終えた保胤は縦川から南に下り、ちょっとした大店の若番頭風の服装に着替えて街を歩いていた。東州との交易の要衝である牙口湾の港町だけあり、人の出入りが激しく駒州には珍しい港町特有の都会的な距離感がある。故にこうすれば存外気づかれないものだ。
「やあセンパイ、どうですか茶でも」
  だらりとくたびれ、焦点のぼやけた印象を与える男が彼に声をかけた。西州公爵を継ぐ者、西原信置だ。
 年は五つほど保胤が上だが顔づくりの若々しさは保胤の方が優っている。外見で言えば西原の方が上に見えるだろう。
「つきあうよ、明日は東海艦隊との打ち合わせと視察だけだからね。もっと強いものでも」
 あの会議が終わった途端に西州軍幕僚の一人に押し付けられた手紙に従ったところで出てきたのが彼だ。
 それは良かった、と下びれた外套を羽織った中年男は笑った。

「ここは」「値段は普通ですが親父が趣味人でしてね。面白い酒を置いています」
 てくてくとついていくこと数寸、苦労してちょっとした持ち家を購入できた人々が住まう郊外宅地地区と市街中心を結ぶ大通りの半ばほどにある小さな店の暖簾を信置は楽しそうにくぐった
 店はひどく狭かった。客は六人もは入れれば良い程度の広さである。
「西領と皇都の往復が多いだろうに、よくこんな店を知っているね」「仕事をさぼり続けたからですよ。貴方みたいに真面目にやるつもりはなかった」
 一番うまい酒とそれに合う旬のものを二人分お願いします、と信置が親父に頼むと二人は狭い椅子についた
 
 ことり、と出されたのは水晶盃に入った透き通った酒に――丁寧に剥かれた柿だ。
「これは?」「御宅の地元産ですよ、ここは甘党にはたまらないそうで」
 信置は酒をくぴり、と飲むと柿をかじり、目を細めた。

「‥‥へぇ」鋭い酒精が舌を刺す、蒸留米酒だ。それに甘い柿があう。保胤の好みからすれば熟れすぎていたが、それが酒精の強い辛口の酒に程よくあった。確かにこれは面白い。
「ちょっとした話のつまみには最適でしょう?‥‥今日の英サン、どうでした?」「‥‥焦っているようですね」

だろうなぁ、と気の抜けた声で呟き、盃を傾けた。
「故州さんの跡継ぎと接触したらしいですよ、甥御さん」「‥‥」
 
「昨日さ、お山の方に行ったでしょ彼。アレさ、知らなかったらしいですよ、ヒデさん」「‥‥」

「一応ね、例の案件は跡継ぎの彼に委任しているらしいからあまり大っぴらには癒えないようだけど。ま、そういう事だろうね」
「‥‥何故それを私に?」

「それ」「なに?」
「種の周りトロトロに熟れてる柿、好きなの。くれます?」
 ふぅ、とため息をついて信置に向けて皿を押す。
「どうぞ――それで例の山の方だとウチの店の奴もいたはずだけど――あちらの方は独立独歩だからな」

 五将家内だけではなく他省庁もおり、さらに天龍交渉が主要な仕事となるとどうしてもそうなってしまう。元々他省庁の官吏となると同じ家の重臣であっても国家予算枠を争う以上、ただの味方ではない。
「他にも”別の商い”をしている連中も腕っこきを送り込んでいますらかね。
葵君でしたっけ、あの故州の若い子。彼はそちらの伝手を親譲りでもっている、店をまたいだ仕事をやるにはああいう子が一人必要じゃないかな」

「彼らに接触したわけか、今度の大仕事の為に?」

「それだけならいいですけどね。彼の側近なんてあの秘書さんくらいじゃないですか。商売も、彼は英さんの付属物で会ってそれ以上のものではなかったのに
よりによってこの時期に動き出したんですよ」
「何故それを私に?」

「ん~情報代が欲しいという事でどうでしょ。御宅の懐刀、ウチの厳つい方の爺様が気に入ったみたいでね。くれません?」
「あげないよ」
 互いに苦笑を交わし合う。
「でしょうね――まぁそういう事なので諸々口外法度でお願いします。
報せておきたかったのはこれだけ。
西州も美味いものがたくさんありますが、駒州の飯も龍州の米酒も好きなんですよ――それでは」

払いはこちらで持つよ、と保胤が言う間もなく娑婆の人々に中年男の背は溶け込んでいった。
「――随分と安い情報料だな」本命の”情報料”は”知ってしまったこと”であることはわかっているが。
 こういう時に娑婆の人間は領収書をもらうのだったかな、と思いながら財布を取り出す。
中の銅貨が端数より二つ程足りなかったのが少し気恥ずかしかったことが妙に記憶に残った。

 
 

 
後書き
頑張りました。戦争ターンは移ります。
ようやく出番だよやったね直ちゃん! 
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