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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Myth25-B圧倒的暴力と超絶的暴力~Adversa Virtute RepellO~

†††Sideオーディン†††

どうして気付かなかったんだ。エリーゼと、無事に目を覚ましたアンナに言われるまで、ある手段が思い浮かばなかった。魔力供給。その連続。そして魔力吸収の魔道・女神の救済(コード・イドゥン)。この3つのキーワードが、エテメンアンキ攻略の鍵となる。
“界律の守護神テスタメント”としての干渉能力を扱えず、魔術に頼り切るしかなかったこれまでの数ある契約のうち、今回ほど恵まれた事はない。そう、これまでとは違って使用できる複製術式や物品の制限が緩い。魔力制限の問題さえクリアできれば、

(かつての魔術師ルシリオンとしての強さを取り戻せる)

面前の前に持ってきた左手を強く握り拳にする。そして軽く魔力を放出。魔力は蒼い光となって私の周囲を照らし出す。そんな中「お綺麗ですね」そう声を掛けられ放出を止める。振り向いてみると、やはり「オリヴィエ王女殿下。それに・・・」オリヴィエとその側近である1人の少女が居た。

「騎士リサ。もう起きてきて平気なのか?」

「はいっ。オーディンさんの魔導のおかげでもう全快ですっ♪」

ゼフォンに殺されかけたリサが笑顔を振りまく。本当に良かった。もし“堕天使エグリゴリ”関係で死者が出たとなると、もう自分を許せなくなる。リサは元気を証明するように小躍り。シャルとは違って上手いな。音痴や踊り下手はフライハイト家の遺伝ではないらしい。

「そうか。・・・オリヴィエ王女殿下。先の会議でお話しした件ですが」

「っ・・・・申し訳ありません。騎士シグナムや皆さんからお聞きしました。オーディンさんがご立案なされた今回の計画、オーディンさんの記憶が犠牲になると」

「それ、本当なんですかっ!? エグリゴリの問題じゃないのに、どうしてそこまで――」

「ベルカが好きだからだよ。イリュリアとエグリゴリとの戦いが決着すれば、私はベルカを去る事になる。それまではベルカの為に力になろうと思う。途中で投げ出すようでクラウスやオリヴィエ王女殿下ら皆さんには申し訳ない気持ちでいっぱいだが。しかし――」

「いいえ。本来であればオーディン先生はエグリゴリだけに専念できていたはずです。ですけど貴方はそうはせず、記憶を犠牲にしてまでベルカの為に御力を使ってくれました。途中で投げ出す? いいえ、それは違います。それがオーディン先生にとっての決着なんです。ですから後の事は御気になさらず、心置きなく旅立ってくだされば、こちらとしても嬉しいです」

オリヴィエがそう微笑み、しかし「ですが本心を言えば、エリーゼ卿と御結婚していただければよかったのになぁ~なんて思っていました」最後に本音を漏らした。リサも「これからも一緒に戦っていきたかったです」と心底残念そうに俯く。それにはただ「申し訳ありません」と謝る事しかできない。そんな暗い空気を払しょくするためとは言わないが、

「それでですね、先ほどの計画についてなんですが・・・。少しばかり変更があるのですが・・・」

「オーディン先生の立案した計画です。お好きなようになさってください。ダールグリュン帝とイクスヴェリア陛下も、オーディン先生にお任せするとの事です。それで変更との事ですが、何を変更なさるのでしょうか。あ、兵力増員に関しては時間がかかりますが可能ですよ」

「聖王家に忠誠を誓いし近衛騎士団、中でもオリヴィエ様に身命を捧げた我らズィルバーン・ローゼ隊も参戦します。もちろん将の私もです。ゼフォンには後れを取りましたけど、イリュリア騎士には絶対負けませんッ!」

「それは心強いな。戦力が増えるのはとても嬉しい。けどそれとはまた別なんだ騎士リサ。オリヴィエ王女殿下。詳細は他の代表の方々の前でお話ししたいと思います。よろしいでしょうか?」

「もちろんです」

というわけで、8ヵ国の代表が集い話し合う議会場へ。思念通話でアギト達を呼び出し、アウストラシアの騎士たちは代表らを呼びに行く。先に到着した私たちは席に着き、そして遅れて来た代表らに計画の変更の詳細を伝える。内容が内容だけにかなり論戦になるかもしれないと覚悟していたが、

「――よかろう。エテメンアンキの攻略の起点はお主だ。必要なモノがあるなら揃えるまで。お主らもそうだろう? 魔神の力で、今日、我らはイリュリアを相手に勝利を手にする事になるのだ。その魔神が必要なモノがあるというのであれば、用意してやるのは我らの責務だろう」

ダールグリュン帝の言葉は正に鶴の一声。シュヴァーベン第三王女ドルテ、ヴィンランド第四王女コルネリエ、ヘルウェティア第六王子アルフォンスも、私の計画変更に乗ってくれた。イクスヴェリアとヴィンツェンツも「構いません」と承諾。
もちろんクラウスも「オーディンさんの頼みとあれば、シュトゥラは全面協力です」と承諾。しかし、オリヴィエと兄殿下リナルドは少々苦い表情を見せている。ガレアの王子ヴィンツェンツが「どうかなさいましたか?」と尋ねる。

「・・・聖王家直下の生命すべて、父・聖王シャルルマーニュ陛下と第一王子ロランお兄様のモノ。王族とは言え、王位継承権第十四位の私オリヴィエ、第三位リナルドお兄様ですらも自由に出来ないのです」

「そういうわけですので、騎士オーディンの提案には応じる事が出来ません」

「いえ。元より無茶なお願いでしたので、こちらこそ申しわけありません」

アウストラシアはダメだったが他の国からは承諾を得た。これで問題はクリアだろう。で、次の問題だが「どの国、どの地域で魔神の力を発動させるかだが」ダールグリュン帝が代表らに語りかける。これには誰もが渋る。下手をすればカレドヴルフの集中砲火を受けるかもしれないという恐怖の所為だ。これには時間が掛かるかと思ったが、「シュトゥラはノイヴィート丘陵で行っていただきます」クラウスが名乗り出てくれた。

「一都市が入るほどの広大さですし、周辺に街はありません。行うなら、そこが一番でしょう」

「・・・決まりだな。では皆よ、高魔力を持つ生物をシュトゥラはノイヴィート丘陵へ移送するよう手筈を整えるぞ」

こうして対エテメンアンキ戦の準備が着々と進んでいく。8ヵ国+オリヴィエ&リナルド議会はこれにて閉会。各々、正午の開戦の準備をするために国へと戻っていく。アウストラシアより飛び立って行く各国の戦船を、アギト達やクラウス、オリヴィエらと一緒に見送る。

「アギト、シグナム、ヴィータ、アイリ。今日は忙しい1日となる。本日、ベルカ一の大国イリュリアを打倒する。心して掛かってくれ」

「「「「ヤヴォール!」」」」

アギト達は声を張って応じてくれた。それからエリーゼ達の居るヴレデンに向かわせた野鳥に精神を繋ぐ。野鳥を介してエリーゼと会話をするためにだ。私の魔道に耐えられる脳を持っていたのが、魔力核を持つあの野鳥だけだった。もしかしてかなり貴重な種かもしれないな。訴えられたら確実に負けるな。

「・・・っと、そうだ。騎士リサ。あとで2人きりでの話があるんだ、時間をくれ」

「2人きりで、ですか? えっと・・・」

その前にやっておく事があったんだった。リサに時間を作ってもらえるよう頼む。リサは指示を仰ぐようにオリヴィエを見る。オリヴィエは「行ってらっしゃい、リサ。オーディン先生は信頼できますから」と微笑んだ。
するとリサも「はいっ」と力強く頷いて、今すぐにでも時間を作ってくれるそうだ。誰も居ない廊下で待ち合わせをし、先に待たせていたリサの元へ遅れていく。フライハイト家のリサに、渡しておきたいモノを用意してから・・・・。

†††Sideオーディン⇒エリーゼ†††

アンナの復調をモニカとルファ、シャマルさん達と一緒に喜んでいるところに『エリーゼ?』ザフィーラさんの頭の上に乗っている小鳥からオーディンさんの声が。すぐに「はいっ。あなたのエリーゼですっ」元気いっぱいに返事をすると、『待たせてすまない。早速だが――』オーディンさんがノイヴェート丘陵で事を行うと教えてくれた(あなたの、が流されたよぉ(涙))。わたしの隣では「無視された」「無視されたね」「無視されたわ」ルファとモニカとアンナが苦笑いして、肩をポンと叩いてくるから余計落ち込む。

『それで、だ。シャマル、ザフィーラ、シュリエルはそこに居る――』

「はい。もちろん居ますよオーディンさん」

「何かご用でしょうかオーディン!」

シャマルさんとシュリエルさん(は特に必死っぽい)が、オーディンさんが言いきる前に応じて、ザフィーラさんだけは冷静沈着に「ここに」と応じた。オーディンさんに『エリーゼ。3人に、私の計画については?』そう訊かれ、わたしは「勝手ながらにお話ししました」と答えた。
オーディンさんからの連絡が小鳥を介して来ました、なんて話をしたら、一体どういった内容だったの?となるわけで。シュリエルさんの威圧感が半端じゃなかったために、オーディンさんの計画を教えちゃいました。

『そうか。ありがとうエリーゼ。手間が省けて助かる。シャマル、ザフィーラ、シュリエル。エリーゼと共にノイヴェート丘陵へ来てくれ。そこから本格的にイリュリアとの決戦となる。心して掛かるように』

「「「ヤヴォール!」」」

ザフィーラさんはいつもそうだけどカッコよくて、ほわほわ温かいお母さん的(この前、そう言ったら泣かれた)なシャマルさんは凛として、シュリエルさんもさっきまでとは違ってビシッと決めてくれた。

『待っているよ。・・・アンナ、モニカ、ルファ。またな』

「はいっ」「うんっ」「はいっ」

小鳥が「チュンチュン」って鳴いて、ザフィーラさんの頭の上から空高く飛び去って行く。さてと、それじゃあ「行きましょうか。オーディンさん達の待つノイヴェート丘陵に」シャマルさん達を順繰りに見る。みんな頷いて応えてくれた。最後に「アンナ、モニカ、ルファ。いってきます」言っておかないとね。

「「「いってらっしゃい!」」」

これから戦場になるかもしれない場所に向かうわたしを、精一杯の笑顔と大手で送り出してくれる。

(わたしは大丈夫。怖くなんてない。当然死ぬつもりもない。だから笑って行ける!)

シャマルさんとザフィーラさんとシュリエルさんと一緒に、ノイヴェート丘陵へ向かう戦船に乗艦する。ヴレデンから戦船で30分のところに、ノイヴェート丘陵が在る。そこはイリュリアとシュヴァーベンの二国と隣接する国境域。

「「オーディンさん!」」「オーディン!」

ノイヴェート丘陵のほぼ中央に、オーディンさんとアギト、シグナムさん達が居た。戦船から降りてすぐに駆け寄るんだけど、「シュリエルさん、空飛ぶの反則!」シュリエルさんは飛んで行くから速いのなんの。追いついた時にはもうシュリエルさんはオーディンさんの傍で嬉しそうに微笑んでいた。遅れてわたしとシャマルさんも到着。深呼吸で息を整え終えると、

「よく来てくれた、エリーゼ。シャマル、ザフィーラ、シュリエル」

オーディンさんはそう言って、わたしとシャマルさんとシュリエルさんの頭を撫でて、ザフィーラさんとは頷き合った。撫でられるとホント気持ち良くてふにゃあ~ってなる。シャマルさんとシュリエルさんだって顔を綻ばせてるしね。頭の上から手が離れるのが寂しいけど、もうそんな気楽な事を言っていられないほどにオーディンさんの放つ空気が変わった。それが判ったからこそ、みんなも横一列に整列した。

「では改めてグラオベン・オルデンの将オーディンとして全騎に命令を下す。まずはシグナム、アギト」

「「はいっ」」

「2人にはアウストラシアの騎士隊ズィルバーン・ローザと同行、最前線で戦ってもらう」

「「ヤヴォール!」」

「次。ヴィータ、アイリ」

「おう!」「うん!」

「2人はシュトゥラの騎士団の戦力として参加、これもまた最前線での戦闘だ」

「ヤヴォール!」

ヴィータだけはやる気満々で応えたけど、アイリだけは「マイスター、ちょっと待って」と反論。オーディンさんが「どうした?」って訊き返すと、アイリはオーディンさんの目の前まで飛んで行って、「アイリ、融合騎だから単独戦力は低いんだけど・・・」って言った。言われてみればそうだ。融合騎としての能力は、騎士と融合することで発揮される。アイリはオーディンさんの融合騎。それをヴィータと組ませる・・・・ってまさか。

「アイリ。一時的にロードを私ではなくヴィータに変更。ヴィータの融合騎として戦ってもらう」

「ええええ? ヴィータとぉ?」

「んだよ、なんか文句あんのかよアイリ」

不満そうなアイリとヴィータ。アイリは「だってヴィータってマイスターと違って面白みに欠けるんだよね」なんて言い放っちゃった。面白みって何の話だろ? ヴィータも「あたしの何がつまらないって?」って半眼で睨んだ。うわぁ、ロードと融合騎って相性が一番大事なのに、これはちょっとまずいかも。

「マイスターの魔導、複雑すぎて意味が解らない時もあるけど、それでも補助が出来た時はすごく気持ちいいんだよね♪ でもヴィータはベルカの騎士としての魔導と強さだから、なんかつまらないんだよね」

「まぁ確かにあたしはオーディンと違って正真正銘のベルカ騎士だ。だから魔導の方もオーディンの――異世界の魔導に比べればつまらんだろうけどさぁ」

つまらないだとかつまるとかの問題じゃないよ、今は。融合騎プロトタイプの姉としてアギトが「アイリ。お前、わがまま言っちゃダメだろ」って窘めると、オーディンさんも「アイリ」少し語調を強めて名前を呼んだ。

「・・・ヤヴォール。マイスターのお願いだからしょうがないよね」

「なんか上手くいく気がしねぇ・・・。なぁオーディン」

縋るような上目使いでオーディンさんに不満をぶつけるヴィータ。

「正午まであと3時間。それまで融合の練習をしていてくれ」

ヴィータの頭を撫でつつ体をアイリの方へ向けさせた。ヴィータは「へ~い」、アイリは「は~い」ってお互いやる気の見えない返事をしながら離れて行った。

「・・・それでは次。ザフィーラ、シュリエル」

「「はい」」

「ザフィーラは私の護衛に就いてもらう。そしてシュリエル。エリーゼをヴレデンへと送り届けた後、私の護衛としてザフィーラと交代」

「「ヤヴォール!」」

「そして最後に、シャマル」

「はい。オーディンさん」

「シャマルは、戦場医師として後衛に回ってもらいたい。もちろん後衛部隊の護衛としても働いてもらう事になる」

「ヤヴォールです。お任せてください」

グラオベン・オルデンみんなの、イリュリア決戦時の役目が決定した。オーディンさんは最後に「ありきたりだが最後の命令だ。死ぬな、いいな?」と告げると、離れて融合の練習をしてるヴィータとアイリも含めたみんなが「ヤヴォール!」今までで一番声を張って応じた。

「それじゃあ各騎、しばらく待機だ。エリーゼ、こっちへ来てくれ」

「あ、はいっ」

歩き出したオーディンさんの後をついていく。小高い丘の先、「魔法陣・・?」のような巨大な図形が描かれていた。それぞれ数字と文字が記された10の円と、それらを繋ぐ道のような線・・と思ったけど、1~6の円の中央にもう1つ円が在るから、全部で11の円だ。
オーディンさんは「セフィロトの樹という名前なんだ」と教えてくれて、1つの円へと歩いていく。このセフィロトの樹というのが、オーディンさんが孤人戦争としての“力”を発揮するのに必要な祭壇だという事だ。目を凝らしてみて見ると、図形はすべて文字みたいなもので形作られている。「ルーン文字と言ってね、私の故郷の魔道のオリジナルなんだ。文字1つ1つに意味と力があるんだ」

「そうなんですか・・・」

オーディンさんの故郷の事が少しだけ判って嬉しくなる。それから少しの間、オーディンさんはわたしや集まってきたみんなに出身世界の事を話してくれた。支柱塔“ユグドラシル”っていう、エテメンアンキのような塔(兵器じゃないよ)が世界の中心に在って、その途中に4つの大陸が浮いてるんだって。その内の1つ、グラズヘイムがオーディンさんの故郷で、王として納めていた国。いつか行ってみたいなぁとは思ったけど、オーディンさんの世界は滅んだって聞いてる。

「マイスター、戦船が来たよ」

空を見れば、シュトゥラ、アウストラシア、シュヴァーベン、ヴィンランド、ヘルウェティア、ガレア、バルトはウラル・リヴォニア・リトヴァ各国の戦船が。

「ああ。グラオベン・オルデン全騎、現時刻を以って待機を解く。シグナムとアギトとシャマルはアウストラシアの戦船に乗り、その後はオリヴィエ王女殿下と騎士リサの指示に。ヴィータとアイリはシュトゥラの戦船に乗り、その後はクラウスの指示に従ってくれ」

オーディンさんの指示に従って、アギト達はシュトゥラとアウストラシアの戦船に向かって行ってしまった。その背中にわたしは「また逢おうね」ってひとり約束して見送る。そして「騎士オーディン。対イリュリア同盟8ヵ国よりお届けモノです」と8ヵ国の騎士がそれぞれやって来た。

「感謝します」

「しかしよろしいのですか? 我々が運んできたのは、どれも高い魔力を有する各国で恐れられる怪物どもです。それを解き放つのは危険では?」

シュトゥラの女性騎士が尋ねると、オーディンさんは8人の騎士たちを見回して「構いません。お願いします」と頭を下げた。騎士たちは「判りました」と戦船に戻って行って、戦船は浮上を開始、ある程度高度を上げた後に、船体下部から巨大な動物を投下した。とんでもない魔力を内包していて、簡単な魔導を使って平和を乱す魔物と恐れられる動物たちだ。

「すまないな。お前たちの魔力、頂くぞ」

――闇を誘え(コード)汝の宵手(カムエル)――

無数の黒くて平べったい手が地面から出てきて、全部で13頭の魔物をぐるぐる巻きにして捕獲した。そしてオーディンさんの足元と頭上に大きな蒼く光り輝く十字架の魔法陣が展開。そこに魔物たちを載せた。オーディンさんはセフィロトの樹の、ダアトと記された円の中へと入り「準備完了」と両手の平を胸の前で一度パンッと突き合わせてから大きく腕を広げた。

「エリーゼ。私の傍に居てくれ」

「ふえっ!?」

そんな告白みたいなことを言われたら照れますぅ~。嬉しくもあり照れくさくもあり。ドキドキしてると「近くに居た方が魔力供給がし易いはずだ」って言われて、「ですよね~」わたしはガックリ肩を落とした。トボトボ歩み寄って、オーディンさんの傍に控える。

「・・・さぁ始めようか」

わたしは知る。オーディンさんの本当の“力”を。

†††Sideエリーゼ⇒オーディン†††

140m²の大きさで描いたセフィロトの樹、ナンバーを持たない隠れたセフィラ・知識のダアトに立つ。私をセフィロトの樹の一部品として組み込み、オートで儀式魔術を発動するために。

「第四級審判執行権限、解凍」

魔力炉(システム)の活動を制限するリミッターの第一段階を解除、25%の魔力を解放。放出された魔力は、地面にルーンで描いた枝を伝って、すべてのセフィラへと行き届いていく。

「第三級断罪執行権限、解凍」

魔力を50%まで解放。今の時点で魔道を発動すると記憶を失ってしまうが、それを防ぐために前もってセフィロトの樹という、魔力を肩代わりしてくれる儀式魔術の祭壇を用意していた。魔道は私の意思で、魔力はセフィロトの樹が。これなら記憶は失わない。

「第二級粛清執行権限、解凍」

75%を解放。ここまで派手にやれば確実にテウタはもちろん、“堕天使エグリゴリ”は気づいているだろう。8ヵ国は降伏勧告には従わず、あくまで徹底抗戦の構えを採ると。それでも動かないのは、エテメンアンキの能力に自信があるからだな。

「第一級神罰執行権限、解凍」

100%の魔力を解放。「ふにゃぁぁあああ!」と魔力放出の衝撃で飛ばされそうになっているエリーゼが見え、彼女の肩を抱いて胸に抱き寄せる。記憶が消失するもう1つの条件、AAランク以下まで消費しないように注意しながら、魔力放出を続行。10のセフィラ上に私が放出した魔力の塊が現れる。あと少しでAAまで行くと言うところで放出を中断。

「エリーゼ頼む!」

「あ・・・はいっ!」

――乙女の祝福(クス・デア・ヒルフェ)――

左手の甲に口づけをしてくれたエリーゼ。AAギリギリまで消費した魔力が全快。中断していた魔力放出を再開。各セフィラに生まれ出た魔力塊がまた大きくなっていく。またAAまで消費。二度目のクス・デア・ヒルフェの恩恵を受け、さらに放出。今度はSランクまで消費したところで中断。

「シュリエル。エリーゼを頼む」

「はい。エリーゼ卿、参りましょう」

空で周囲警戒をしていたシュリエルが降りて来た。エリーゼが私をジーッと見詰め、おもむろに「約束、もちろん覚えてますよね?」と訊ねてきた。もちろん「ああ。必ず帰るよ。待っていてくれ」覚えているため、そう答えておく。するとエリーゼは「待ってます♪」満足そうに笑顔になり、シュリエルに抱えられて、ヴレデンへと飛び去って行った。

「(すまない、エリーゼ・・・)我が手に携えしは確かなる幻想」

複製術式を“英知の書庫アルヴィト”より発動させる。術式名は、集束砲ムーンライトブレイカー。ルーテシアの妹となったレヴィヤタン――レヴィ・アルピーノの魔導だ。その術式を応用させてもらう。魔物たちを載せている魔法陣が輝きを増し、魔物たちの魔力(ついでに生命力を魔力に変換するか)を強制的に収集。その魔力をセフィロトの樹に流し込み、各セフィラの魔力塊をさらに大きくする。

「よし。これだけあれば十分だろう」

息絶えた魔物たちの死体を蒼炎で焼滅させ、灰に還す。仕上げに移る。魔力塊を固定させるために結晶化。4m級のサファイアと化している10の魔力が、記憶消失を免れながらも大魔術の複数同時発動するための鍵となる。残り魔力はS。戦闘に入れば、魔力吸収のイドゥンで回復できる。さぁ準備は万端だ。

「正午まで、あと僅かだな・・・」

ザフィーラを傍に控えさせ、時間が来るのをひたすら待つ。何度も作戦のイメージを繰り返し、最悪な事態が起きた時の対処法などをいくつも作っていく。ザフィーラが「我が主。正午まで残り5分となりました」と報告してくれた。それに礼を言い、「我が内より来たれ。貴き英雄よ」と詠唱する。アクセスする創生結界は、“異界英雄エインヘリヤル”の存在する“英雄の居館ヴァルハラ”。“エインヘリヤル”顕現に必要な魔力は、

「セフィロトの樹、数は1、意は王冠、色は白、宝石はダイアモンド、神名はエヘイエー、守護天使はメタトロン」

セフィロトの樹、第一のセフィラ・王冠ケテルが肩代わりしてくれる。ケテルの魔力20%を消費して、

「父なる神の御座の下に侍ることが許されし偉大なる七つの美徳を司りたる天使。汝らの主君ドミヌスの名において、我が召喚の呼び声に応じよ。来たれ。純潔カスティタス。節制テンパランチア。救恤リベラリタス。勤勉インダストリア。慈悲パティエンティア。忍耐フマニタス。謙譲フミリタス」

七美徳の天使アンゲルスを召喚。とは言っても私の傍には誰も居ない。当然。召喚場所はここじゃない。アンゲルスは、シュトゥラ以外の国の王都防衛に差し向けた。シュトゥラは、私が護る。「我が手に携えしは確かなる幻想」再び詠唱する。今度は武装や物品を貯蔵している“神々の宝庫ブレイザブリク”にアクセス。ケテルの魔力を40%消費して、

「アースガルド艦隊。出撃」

大戦時、ヨツンヘイム連合の連合国を焼き払った、アースガルド同盟軍の空中戦力である巨大帆船スキーズブラズニル5隻、そして旗艦であるフリングホルニ1隻を召喚。波打つ空間より出現する6隻の帆船を見て、あのザフィーラがポカンと大口を開けて呆けていた。そんな間抜けな表情が新鮮すぎて面白い。そして残りの40%を消費して、

「我が手に携えしは友が誇りし至高の幻想」

アンスール・メンバーの武装や能力や魔道を発動させるための専用呪文を詠唱。“ブレイザブリク”の最奥より一挺の大砲・“星填砲シュヴェルトラウテ”を顕現させる。殲滅姫と謳われる事になったカノンに贈った、私特製の2mほどの大砲型神器だ。

「私は本来、最前線で戦う者じゃないんだ」

「と言いますと?」

「私はな。後方からの援護射砲撃を得意とする者なんだ」

ザフィーラに答えつつ、“シュヴェルトラウテ”の薬室後部をスライドし、砲弾を装填するための床を出す。“ブレイザブリク”より、ベルカのカートリッジシステムと同じ効果の砲弾・“ガンド”を取り出して床に乗せ、装填する。砲門をエテメンアンキの最上部――砲撃カレドヴルフの砲門が在る柱の1つへ向ける。
さらに、機関銃マシンガン型神器、トンプソンM1A1、MG34、ZB vz.26、MAT M49 SMG、計40挺展開。
小銃ライフル型神器、レミントンM700、モーゼルM1918対戦車ライフル、SVDドラグノフ狙撃銃、H&K SL-9SD、ステアーSSG69、FN FNC、シモノフPTRS1941計80挺展開。
散弾銃ショットガン型神器、モスバーグM590、ミロクSP-120、FN-TPS、M3A2スーパー90、計45挺展開。

「これは・・・・銃、と呼ばれる物ですね」

「知っているのか?」

「はい。以前、闇の書の転生した先で見た事がありますが・・・。このような複雑な型の物は見たことはありません」

“夜天の書”の転生先の世界が、質量兵器を当たり前としている世界なら見た事くらいはあるか。

『約束の正午となりました』

「来たか・・・!」

エテメンアンキより流れるテウタの声。“シュヴェルトラウテ”の砲門の前面に、10枚のアースガルド魔法陣を連なるように展開、魔法陣の砲身を作る。

『シュトゥラ、アウストラシア、シュヴァーベン、ヴィンランド、ヘルウェティア、ガレア、バルトはウラル・リヴォニア・リトヴァの王たちよ。降伏勧告の返答をお願いします。降伏の意思を示すには、花火を上げてください。さすればカレドヴルフの標的から外しましょう。そして、エテメンアンキの加護の下、共にベルカを統一しましょう』

テウタの放送はそこで一度切れる。続きは、花火が上がってからだろうな。だが、「見ているんだろう?」ノイヴェート丘陵をどうせその高みから見下ろしているだろう、お前は。聖王のゆりかごクラスの巨体を持つスキーズブラズニルとフリングホルニが、イリュリアとの国境付近に在るのだから、すでに臨戦態勢に入っている事くらいは・・・

「判っているんだろう、テウタ!!」

――真技・時空穿つ断罪の煌めき(ヘルヴォルズ・カノン)――

“シュヴェルトラウテ”のトリガーを引き、カノンの最強の魔道・真技ヘルヴォルズ・カノンを放つ。サファイアブルーの巨大砲撃は真っ直ぐ天を衝き、「直撃だ」エテメンアンキの柱の1本を撃ち抜いた。雲一つない青空だからこそ、エテメンアンキの最上層部を視力強化した肉眼で見る事が出来る。たとえ曇っていたとしても撃ち抜ける自信はあったがな。火を噴きながら折れ始める柱を見て、満足する。

「ふん。さぁテウタ、これからどんな一手を打つか、見させてもらおうか」

アンスール・メンバーの複製はどれもふざけた魔力消費なため、すぐに“シュヴェルトラウテ”を魔力に還元して、“魔力炉(システム)”に取り込む。遠目ゆえにゆっくりと見えるが、実際は高速で王都へと落下している撃ち抜いたエテメンアンキの柱を眺めつつ、待機。反撃の狼煙の意味を持つヘルヴォルズ・カノン。クラウス達はイリュリアへ進軍しているはずだ。

――発見せよ(コード)汝の聖眼(イシュリエル)――

手の平サイズの魔力球を13基作り出し、クラウスら進撃軍のもとへ放つ。サーチャーであるイシュリエルを通してその場の様子を見る事が出来る。これで援護砲撃がし易くなる。防衛はアンゲルスとアースガルド艦隊、攻撃は進撃軍、援護は私。

「カレドヴルフだろうがなんだろうが撃ってこい。全ての砲撃を防ぎきってくれる!!」

ま、その前に「全銃軍、目標エテメンアンキ」今度はエテメンアンキそのものをへし折ってやるけどな。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

――エテメンアンキ・玉座の間

「こんな馬鹿な事があって堪りますか!!」

テウタは、玉座の間を襲った震動の所為で玉座から転げ落ちていた。彼女の融合騎マラークもまたバランスを崩して転倒したが、すぐに立ち上がってテウタを立ち上らせようとする。玉座の前面に展開されている1枚のモニターには、オーディンの推測通りノイヴェート丘陵での彼の姿が映っていた。
テウタは確かにずっと見ていた。オーディンがセフィロトの樹を描いている姿も、エリーゼと協力して発動している姿も、アースガルド艦隊を召喚した姿も、“シュヴェルトラウテ”を構えた姿も、銃器軍を展開した姿も、特大砲撃ヘルヴォルズ・カノンを発射した姿も、だ。油断していたわけではなかった。ただ、エテメンアンキの障壁を信じていただけだ。マラークの手を借りて立ち上ったテウタは再び玉座に腰掛け直す

『エテメンアンキ第三砲塔が攻撃を受け破損、半ばより折れ、地上へと落下を始めました』

「王都に!? 今すぐカレドヴルフで破砕しなさい! あれほどの巨大なモノがこの高度から落ちれば、王都は壊滅します!」

エテメンアンキからの損害報告を受け、テウタは顔を真っ青にしそう命令を下す。その命令の下、エテメンアンキは自身の柱をカレドヴルフで消滅させた。モニター越しにそれを見て安堵。そして「これが、かつて世界に名を馳せた者の実力・・・!」オーディン――いや、ルシリオンの“力”に戦慄していた。

『警告。敵性存在周辺に強大な魔力反応が発生』

「彼の周りに浮いているあの変わった物体からですね・・・。障壁レベルを最大。防御後、カレドヴルフを8ヵ国王都へ向け発射しなさい。徹底抗戦というのであれば、こちらも手を抜きません」

テウタが怒りと嬉しさ、真逆の感情を表情に出しつつそう指示を出す。エテメンアンキは自らの王であるテウタに『了解』と応じたが、すぐに別の報告を入れた。

『警告。テウタ陛下の領地イリュリアへと進軍する敵性戦力を感知。総人数・約10万。戦船・22隻』

「騎士団には騎士団を。戦船には戦船をぶつけるまで。そして思い知ってもらいましょう。護るべきものを護るために戦いに挑み、ですがその護るべきものを先に失う絶望というものを。それでも立ち上ってもらいたいものですね。それでこそ新世界創造の敵として、私を楽しませ・・・っ」

テウタはハッとして口元を手で押さえる。だがそれでも彼女の口は笑みに歪む。戦争に、楽しむ、という感情を持ち出したくないと思っていながら、無意識にポロッと零してしまった本心。レーベンヴェルトの再建。
そのために天使と悪魔、2つの顔を持つ神になろうとしている人間テウタ。しかし彼女の心の内からはもう古くからのレーベンヴェルト王族の願いが霞み消えようとしていた。代わりに自身の持ち得た“力”に酔い、支配欲という怪物が新たに生まれ出していた。

「結果が同じであれば過程など・・・。さぁエテメンアンキ。創造の狼煙を上げましょう。楽しみましょう、このベルカを最期とする大戦を。カレドヴルフ・・・・撃ちなさい」

――カレドヴルフ――

残り7基の砲門より、大地を焼き払う神の火――深紅の魔力砲撃カレドヴルフが、8つの王都へ向け発射された。



 
 

 
後書き
ジェアグゥィチエルモジン、ジェアグゥィチトロノーナ、ジェアホナグゥィチ。
ここまでの内容を、先の前編に入れて1話と考えていたのですけどね。
私は、各話の文字数を平均1万文字以上1万5千文字未満、を信条にしていますが、場合によっては自滅の信条ですよねコレ。
妙なところで区切ることになったり、無駄に話数が増えたりと。今回はその自滅のいい例です。

さて。本格的にイリュリア戦争編の決戦に突入しました。
これが終われば、日常編を数話+α、そして・・・『なのは達』の出るエピソードへGo !
 
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